自慢話なんてするものじゃない、とユダは思った。
三浦半島の南端に海を望める別荘があると話したとたん、レイは瞳を輝かせて自分をそこに連れて行けと言い出した。
実業家であるユダの父は一年の大半を海外で暮らしていて、母は夏の避暑地である軽井沢に行ったきりだ。一緒に行きましょうよ、と母に誘われたが、ユダは首を振って断った。十六歳にもなって母親と夏休みを過ごすなんて嫌だ。あの人はいまだに息子を乳離れできない赤ちゃんだと思っている。
東京駅から新幹線に乗り込むとき、陽射し避けのつばの広い帽子をかぶりサマードレスを着た母は、見送りにきた息子の頬にキスすると言った。
「いい子にしているのよ、
しかし、押し掛け女房的に親友の座に納まってしまった同級生と泊まりがけで出かけるくらいなら、母親とともに軽井沢に行ったほうがマシだったかもしれない。
明日の夕方、お迎えに上がります、と言ってお抱え運転手の車が引き返していく。
広い庭を横切って玄関に向かいながら、ユダはいささか不機嫌に友人を盗み見る。
レイは濃紺のインナーに白いシャツ、ジーンズといった出で立ちで、肩にバッグを担いでいる。ラフな格好なのに貧相に見えないのは素地がいいからだろう。
中国拳法部の部長で主将も務めているレイは校内で一、二を争う人気者だ。
たしかに端麗な顔立ちをしていると思う。
切れ長の眼はときに魅惑的で、ときにひどく酷薄に見える。でもユダを見るときはいつも笑っていて、悪戯っぽい光をたたえていた。
「なんだよ。人の顔をじっと見て」
ユダの視線に気づいたレイがさっそく、からんできた。
「ははあ、さては惚れたな」
「ちがう!」
「チューしてみろよ、チュウ」
「いやだ」
「なんだよ。昔は何回もしたことあるじゃないか」
「子供の頃の話だろうが。思い出させるな!」
唇を尖らせて接吻を迫ってくるレイを押し退ける。
レイとは十年来のつき合いだ。腐れ縁だと思う。よくこんな風にちょっかいをかけてきてはユダを怒らせる。本気で怒っていることを示そうとしても、レイは上手くあしらい、巧みに矛先を逸らしてしまう。ついにはユダも馬鹿馬鹿しくなって腹を立てるのをやめる。
いいかげん、うんざりして距離を置こうとしても、レイはお構いなしにこちら側に踏み込んでくる。だから二人の距離はいつも同じで、それが十年も続いているのだ。
「お前が遊びに来たいっていうから招待してやったんだぞ。変なことするなら追い出すからな」
「はいはーい」
レイは生返事する。
管理人を置いているので、邸内は使用頻度が少ないわりに清掃が行き届いていた。
居間は広く、壁も床もミルク色の大理石が張られている。瑞々しい葉を茂らせた観葉植物が各所に配され、墨色の大理石をつかったテーブルを囲むように大人数がかけられるソファが置かれている。
南側の窓は天井から床まで大きな一枚ガラスになっていた。
「すごい。オーシャンビューだ」
レイはガラスに張りついて外を眺めた。ユダは崖の下にある砂浜を指差した。
「あそこの入り江もうちの所有だよ」
「プライベート・ビーチってやつ?」
「いまの時期はもう海水浴には向かないよ。波が高いし、クラゲも出るから」
「泳がなくてもいいよ。家の中でだって遊べるだろう」
大きなベッドのある客室はグレーを中心にしたモノトーンでまとめられている。内装が地味なのは泊まっていく客を気疲れさせないための配慮だ。浴室は各室に備え付けで、ガラスで仕切られ、黒御影石でできていた。
「金かかってるなあ」
湯を張っているユダの横で、浴室内を眺め回していたレイが感嘆した。床面と同じ高さに設置された浴槽はジェットバスになっていて、壁にはテレビモニターまでついているのだ。
厨房に入り、大型の冷蔵庫を覗いた。
ラップに包まれたさまざまな料理の皿が並べられ、タッパーにはお総菜が詰められていた。ジュースもデザートも果物も山のようにある。全部お手伝いさんが用意してくれたものだが、育ち盛りの少年二人でも三日がかりでなければ消費できないような量だった。当然ながらアルコールの類は一切ない。
「なにか食べる?」
「うん」
「じゃあ軽めにサンドウィッチだけにして、こっちのパエリアとサラダは夕食に取っておこう」
サーモンとローストビーフと茹でエビの三種類のサンドウィッチと紅茶で腹を満たしてしまうと、レイはくたりとなって、室内を見渡した。
「それにしても豪邸だな」
立食パーティーにも使われる居間は、ケータリングのスペースも取られているから、とても広いのだ。しかし、手入れが行き届きすぎた感のある室内はよけいな私物がないせいか、モデルルームのように生活感がなかった。
「あまり、使われていないんだよ。海で遊べる時期が過ぎると、ここは退屈なところなんだ」
ユダはソファに胸をもたれて窓の外を眺めている。
レイがぴたりと身を寄せてくる。同級生ともよくこうしてじゃれ合っているから、これが彼の癖なのだろうとユダは気にもしない。
長い夏の一日が終わろうとしていた。空と海が黄金色の輝きで満たされている。遠くに見える岬が夕映えの光に縁取られていた。ユダはソファの背もたれに頬を押し当てた。その拍子に、ユダの横顔をずっと見つめていたレイと目が合った。
「お前ってなんか、ちょっと色っぽいよな。コケティッシュっていうか」
「よく言われる。女みたいだって」
背が伸び、手足に筋肉がつくようになってからはなくなったが、ユダは小さい頃、女の子に間違われることが多かった。アルバムを見返しても、たしかに愛らしい顔立ちをしていると思う。猫の瞳にたとえられることもある双眸はエメラルドグリーン。ふっくらした頬はほんのり薔薇いろで唇は珊瑚のように紅かった。周囲がつねにその容貌を話題にするのだから、ユダが自意識の強い子供に育っていくのは当然だった。
しかし、ユダ自身は女に間違われることは嫌いだった。自分の理想は男らしい引き締まった容姿なのだ。女のようなか弱い美しさではない。
で、秘かに憧れる男性美の典型が目の前にいるレイで、それがプライドの高いユダには癪に障るのだ。
「お前のほっぺたマシュマロみたいだったもんな」
子供時代をよく知っているレイはそんなことを言い出した。
「いまもそうなのか触らせてよ」
「いやだ」
「いいじゃないか。減るもんじゃないし」
「やめろ」「えい、えい、えい」
「やめろったら。ああ、ムカつく。もう怒った」
「無駄、無駄」
捕まえようとするユダの手をすり抜け、レイは居間を逃げ回る。テーブルやソファを盾に、巧みにフェイントをかけては身をひるがえす。ようやくレイを捕まえて床にねじ伏せると、左腕をひねり上げて関節技をかけた。レイはじたばたもがいた。
「痛い痛い痛い。レイくん痛いですぅ」
このやり取りが楽しくてたまらないといったようにレイは笑っている。ユダはぶ然となった。とっちめてやるつもりが、まんまとレイのペースに乗せられてしまっている。
ユダは手を離し、起き上がった。
「なんかもう疲れた。部屋で休んでくる」
「じゃあ、おれも寝る」
なぜかレイはユダの寝室にまでついてきた。ユダは向かいの部屋を指した。
「お前の部屋はあっち! ここはおれの寝室」
「いいじゃないか。大きなベッドなんだから一緒に寝るくらい」
持っていた鞄をわきに放り投げると、レイはベッドにごろんと横になった。さも気持ちよさそうにベッドを占拠したレイは片目を開けてユダのほうをうかがった。「寝れば?」
別の部屋に行くのも腹立たしく、ユダはベッドの端に身を横たえる。レイが手足をからめてきた。
「なんだよ、もう。くっつくなよ」
文句を言うも、レイはよけいに肌を密着させた。
「ん~この部屋、ちょっと寒い」
クーラーが効きすぎなのかと思い、ユダはサイドテーブルにあったリモコンに手を伸ばす。レイはそれを取り上げると、手の届かない場所に投げた。
「おい!」
レイは大きなぬいぐるみを抱えるように後ろからユダを抱擁してくる。もともとスキンシップが好きなやつだったが、ここまでくると度が過ぎているような気がした。ユダは首を捻って、レイのほうを振り返った。
「なあ、レイ」
「おれには長い間、想いをかけている猫がいてな」
唐突にレイは話しはじめた。
「そいつは赤いきれいな巻き毛の猫でエメラルドグリーンの瞳をしているんだ。でも、柔らかい手の下に鋭い爪を隠していて、撫でようとするおれを引っ掻こうとする。別に引っ掻かれてもかまわないけど、どうせなら手なずけたいだろう。おれはどうすればいいと思う?」
真綿を喉に詰め込まれたような気分になった。頬が熱くなり、汗がじわりと滲み出た。
「さ……さあ。気長に待てばいいんじゃないか。猫もそのうち……気が変わるかもしれないし」
「でも、もう十年も待ったんだ。これ以上は待てない」
レイはユダを抱き込むと、自分の身体の下に押さえつけた。ユダは抵抗した。しかし抗えば抗うほどかえってレイは本気になるようだった。上着のボタンを外され、胸をはだけられてしまった。ユダは息を弾ませてレイを見上げた。
「冗談はやめてくれ」
「冗談なんかじゃないんだ」
「おれをからかっているだけなんだろう?」
「からかってるわけじゃない」
ユダの手を掴むと、下着の中の自分の性器を握らせた。レイのそこは猛り勃ち、脈動さえ感じられそうだった。他人の性器に触れたこともないユダは耳まで真っ赤になった。
「分かるだろう? お前が欲しいんだ」
レイの眼差しは真剣そのもので、嘘やごまかしが通じない雰囲気だった。
もっと上手くレイを受け流せばよかったのかもしれない。あるいは毅然とした態度で拒絶すべきだったかも。だが、ユダの曖昧な態度がレイを後戻りできないところまで追いつめてしまった。もう冗談の範疇では済まされなくなってしまった。
「どうしても?」
ユダの声は慄えていた。
「ああ、どうしても」
レイは両腕でユダの身体を胸にしっかり抱き締めた。
「ここに来る前から、お前をおれのものにしてやるって決めていたんだ」
南斗の格闘技で組んず解れつの肉弾戦なら経験がある。男同士の身体の接触にだって慣れている。こいつとだって何度も戦ったことがあるから、肌の感触も汗の匂いも知っている。でも、いまのレイはユダの記憶にあるレイとはまったくの別人だった。
ユダの両手首を押さえつけ、舌と唇を使って胸から腹にかけて愛撫を加えてくる。口唇愛撫が下半身に下りてきて性器にまで及ぼうとするのを感じ、当惑したユダは身を捩った。
「いや……ッ」
ちらりとユダを一瞥したレイは、信じられない力でユダの顎をつかんで唇を奪うと、それ以上の抵抗を封じるように舌を捻り込んできた。
「うう……んッ」
舌が口腔を
「んあッ……はあ、はあ……」
ようやくレイが口を離したときには、ユダは完全に息が上がってしまっていた。
欲望を十分に引き出したことを見て取ると、レイはベッドを下り、自分の荷物の中から小さなチューブを取り出して戻ってきた。
男の身体は女のように受け入れるようにはできていない。だが、レイは同性との性行為の知識をすでに仕入れているようだった。でなければユダは大きな苦痛を味わうことになっただろう。
その用意の良さにユダは身慄いする。別荘に遊びに行きたいと言い出したときからレイはここまで覚悟を決めてきたのに自分は何も気づかずにいたのだ。
レイはチューブの中身を指に取ると、ユダに膝を立てさせ、むき出しにした部分に突き入れてきた。何度も抽送を繰り返し、すみずみまで塗り込めようと指をぐるりと回転させた。
「やめてくれ!」
ユダは狼狽して腰を引きかけた。
「レイ、待って。待ってくれ」
レイは何も言わず指を抜くと、強引に下肢を引き寄せた。ユダの両脚を大きく開き、のしかかる。少しの躊躇いも感じられなかった。レイは躊躇うことをとっくの昔に止めてしまっているようだった。
あてがわれた物の大きさが分かり、ユダは恐怖を覚えた。無理だよ、という言葉が口をついて出そうになる。
体重をかけ、レイは自分自身を押し入らせてきた。
「――――ッ!」
ユダは声にならない叫びを上げた。
快感なんて感じるわけがなかった。内側から裂けていく感じだった。受け入れる場所じゃないんだから当然だ。最初にこんなやり方を思いついたヤツを呪ってやりたかった。
レイは容赦ない強さで責め立てながら、ユダの顔を両手で包み、表情を見つめつづけている。ユダは瞼をかたく閉ざした。レイの目は真剣すぎて、とても直視できなかった。
ジェルが十分に回って滑りがよくなったせいか、最初ほどの痛みはなくなった。痛みを感じなくなった代わりに今度は別の感覚がユダを支配しはじめた。レイは何かを探るように、ゆっくり腰を動かしている。
「あッ!」
突然、電流を流されたようにユダの脚が跳ね上がった。ありえないような快感が背筋を貫いた。レイも肉体を通してユダの変化を感じ取ったようだった。
「ここ?」
レイが訊いてくる。
「やッ」
「ここだろ」
より強い力で突き上げてくる。
「いやだッ」
逃れようと身を捩った。しかし、万力のような力で押さえつけられ、身動きできなかった。どう足掻いても、ただ淫らに腰を揺すり、体内に埋め込まれたもので自分自身を刺激するだけだった。
「いや……いやあッ」
女のような嬌声が上がるのを止めることができなかった。レイは動きを速め、狂おしい感覚をさらに深く味わわせようとしている。
「レイ……お願いッ……お願いだから」
レイにしがみつき、ユダは懇願の叫びを上げた。それが、もっと強くなのか、もう赦してなのか、ユダ自身にも、もう分からなくなった。
二人は汗まみれになり折り重なって、全身で息をしていた。
ようやく呼吸を整えたレイが肘をついて、うつ伏せた半身を起こした。ユダは四肢を投げ出したまま、動かずにいる。心配そうにレイが顔をのぞき込んできた。
「ユダ?」
「おれはショックだ」ユダは天井を見上げながら呟いた。「レイが
目を丸くしたレイはぷっと吹き出すと、肩を揺すって笑いはじめた。
「友だちだと思っていたのに」
「おれはお前とこうしたいと、ずっと思っていたんだ」
レイは微笑むと、覆いかぶさってきて優しい口づけをした。
「最初にキスしたときのこと覚えてるか?」
あれは南斗の武道館に入学したての頃だから、まだ六歳のときだ。
同年代の子供たちが数百人もいる大きな講堂にひときわ目立つ子がいた。聡明そうな顔立ちをしているのに、ちっともじっとしていない、きらきらと輝く目をした男の子だった。その子はユダを見るなり、瞳を大きく瞠った。
同じ教室にいるとき、その子はユダと手をつないだり、ぎゅっと抱き締めてくるようになった。それだけでない。ユダの頬を両手で挟み、唇まで押しつけてきた。ユダは目を見開き、立ち尽くした。男の子は弾けるような笑顔だった。
それ以来、その子はユダに会うたびにまとわりついてきて、キスをしたがった。しばらくすると何もしてこなくなったが、ちょっとの間だけ妙に恨めしげな表情でユダを見ていた。
最初のキスの相手が男の子だったことにショックを受けなかったわけではない。でも小さな子供同士なのだから体験の数には入らないと思った。そして忘れようと努めた。しかし、忘れようとしない人間がいた。そいつはしょっちゅう、ユダにからんできては、そのときのことを思い出させようとしていた。
「おれは初め、お前が女だと思っていたんだ」
レイは出会ったときと変わらない屈託のない笑みを見せた。
「男だと知って、三日くらい泣いたよ」
「そんなこと知るか。勝手に勘違いしたお前が悪いんだろう」
「ああ、そうですよ。地球が丸いのも、空が青いのも、STAP細胞の再現ができなかったのも、全部おれのせいですよ」
口を尖らせて起き上がると、レイはユダの腹の上に馬乗りになった。
「これまでの葛藤の十年間を取り返してやる」
ユダは抗議の声をあげた。
「他に言うことはないのか」
「ああ、そうか」
思い出したようにレイは両手を合わせ、一礼した。
「いただきます」
「ちがう!」
レイは真顔にもどると上半身を傾けてきた。唇を触れ合わせる。彼の表情はさっきと同じで、冗談めかしたところが全くなかった。食い入るような視線をまともに見返すことができず、ユダは頭をうつ伏せる。レイは追いかけるように顔を寄せてきて、耳もとでささやいた。
「お前が好きだ」
暗闇のなかで、ユダは友人の顔を見守っていた。
レイは静かに寝息を立てている。
さまざまな想いが去来して寝付けなかった。起き上がろうとして、ユダは顔をしかめる。身体じゅうが軋み、腰回りが万遍なく痛んだ。そっとベッドを下り、床に落ちていた服を身につけると、音を立てないようにして部屋を出た。
夜空が透明感を帯び、波頭が青く輝きはじめていた。もうすぐ夜が明ける。
風が首筋をくすぐった。その優しさはレイの愛撫を思い出させた。
ユダは自分のうなじに手をあてる。
おれはレイの何を見ていたのだろう。あいつが求めていたのは最初から友情などではなかったのに。
あいつは何気ない行動で自分の気持ちを伝えつづけていたのに。なのに今のいままで、そのことに気がつきもしなかったなんて。
「……ユダ!」
頭上から自分の名を呼ぶ声がした。崖の上でレイが捜している。横で眠っていたはずのユダがいなくなったことに気づいて起き出してきたのだろう。彼が見つけやすいように波打ち際まで後退った。ユダを見つけたレイは左右を見回している。ユダは崖の端を指差し、浜辺に下りる路があることを示した。
「黙って出ていかないでくれ」
息を切らして駆け寄ってくると、レイはユダの腕をつかんだ。
言葉もなくユダを見つめている。どうして一人で浜辺に行ってしまったのか理解できないのだろう。ユダは自分をつかんでいるレイの手がかすかに慄えていることに気がついた。
「もしかして後悔してるのか?」
レイは不安そうだった。彼のこんな表情は見たことがない。いつもなら自信満々、こちらを揶揄うような顔ばかりしているのに。関係を深めることで二人の仲は究極的に壊れてしまうかもしれない。レイはそれを怖れている。今回のことはレイにとっても、とても勇気が要ることだったのだ。
「そうじゃないよ」
ユダは歩み寄り、レイの背に腕を回した。
「朝の海が見たかっただけだ」
東の空は清澄さを増していた。
刻一刻と景色が変化を遂げている。
暁光が射し初め、空と陸にあらゆる色彩がよみがえる。海上に紅の炎が走り、太陽が昇った。
二人は言葉を発することなく、旭日と輝く海を見つめた。レイはユダを抱き、ユダはレイの腕の中で、温もりを分かち合っていた。
今日もいつもと同じ一日になるだろう。それでも昨日と違うように思えるのは二人の関係が変わったからだ。
「日の出なら部屋からでも見られたのに。オーシャンビューなんだし」
レイは腕の力を抜き、抱擁を解いた。ユダを誘って別荘のほうへと歩き出す。
「もう一日、泊まっていってもいいんだろう?」
「ああ」
「今度はずっとベッドの中にいよう。一緒に珈琲を飲みながら夜明けを待つんだ」
そう言ってレイはユダの頬にキスをする。ユダはくすりと笑った。
「お前って案外、ロマンチストなんだな」