「『麻帆良学園から来ました烏丸イソラです!』『仲良くしてね!』」 作:おーり
「え、ナニコレ、イジメ?」
会議とやらが翌日へと差し迫ったらしい、明けた次の日の放課後のことである。
校庭の隅っこでオカ研の先輩方の手に依り、バレーボールやバスケットボールを独りズンドコ投げつけられているヴラディの姿がそこにあった。
どうみても現行犯です、先生にユッテヤロー。
あ、でも昨今では教師も見て見ぬ振りするか。
……でも俺が見ぬ振りするのもメンドクセェナァ。
「ちげぇよ、特訓だ!」
「特訓? あ、あー」
無駄に熱い兵藤先輩の言に納得。
アレか。
「あの眼球の奴か。目的だけを止めるとか、そういう細かい調整が目標?」
「う、うん、そうです」
ヴラディが若干距離を感じる。
もう解剖とかしようとしないから、あんまり退かないでくれ下さい。
「その言い方はなんなんだ……、ま、まあそうだよ。そだ、烏丸も持ってるんだよな。コツとか教えて貰えねぇか?」
「……何を?」
「え、何って、
せいくりっどぎあ、って、何……あ、いやいや、待て待て、なんか聞いた覚えがある様な……?
「なんだっけ、何か何処かで誰かが話していたような記憶の隅に引っかかる……。何処かで小耳に挟んだような……!」
苦悩懊悩困惑し、もやもやが晴れない。
誰かー、もやっとボール持ってきてー! キバオウサンでも可。
小耳……、と絶句する先輩方が何か事情でも知って居そうなので、ちょっと話を摩り合わせることに。
互いの情報を取り交わすというのは、実はかなり有意義なことだそうです。
議論とは、共同作業の一環である!
▽ ▽ ▽
「へー、ほー、なるほどー、死んだ主神が遺した人間のみに宿る異能力を発現する特殊道具ね。取ったら死ぬ? マジで?」
「むしろなんでお前が知らないんだよ……」
そこはほら、俺って並行世界出身の異世界人だし。
涼宮ハ●ヒとかが居たら引っ張りダコなんだろうけどなぁ。
それにしても危うかった。
取ったら死ぬようなモノを無防備に晒すなよ、解剖諦めなかったらヴラディ死んでたじゃねーか。
「で、ヴラディの目が、なんていったっけ?」
「
「兵藤先輩のが、」
「
「木場先輩のが、」
「
「……で、アーシア先輩のが」
「
順繰りに本人たちが、ヴラディは大人しめに、兵藤先輩は誇らしげに、木場先輩は悠然と、アーシアはいないので塔城が代わりに答える。
一通りの説明をしてもらったわけだが、色々とツッコミどころが。
うん、なんていうか、さ……すっげぇ芳ばしいよね。
直接英訳したわけではなさそうなルビの振り方と言い、性能が名前を聞いただけでは予測でき無さそうな範囲を孕んでいそうな命名と言い、……何考えてるの聖書の神とやら、って言いたい。
むしろ件の聖書の神がこの世界の主軸の創造神、ってことになるのかな。
『向こう』じゃ唯一無二の神は偉大なり教って東方で派生した我が国の改造派生された個人教義と比べると古参で三大教義の一角で
神道だって実は紀元前から続いているモノをベースにしているそうだから、西暦で物事を図ると定規が合わないって言う。
他にも色々と疑問はある。
ヴラディのフォービトゥンなんちゃらの命名に入っているバロル神はケルトの魔神のはずだけど、まああっちは聖書勢力からの討伐や侵略が背景にある被迫害神話でもあるし、聖書の神が『元になった何某かを道具の形で封印した』という筋は通る。ただ、バロルって破壊神だったはずなんだけどな。なんで性能が時止めになるんだろうな。時間に関係するならクロノスじゃね?
逸話にはクロウクルワッハという、元の世界じゃなんか【もにもに】してたスライム状ドラゴンくんを扱っていた、とかいうモノもあるんだし、魔術神と云いたいのなら
……でも、根源的にアレは鍛冶の神としての特徴故に単眼とされているはずだったのだけど。ドラゴンを扱っていたとかいう逸話だって【
木場先輩の魔剣創造とやらにも、言いたい。
そもそも、魔剣の定義ってこの世界可笑しくね?
向こうじゃ魔剣と言えば単に『魔力が盛られた剣』なのではなくて、『世界という法則に対して敵対する必然性を備えた剣』なのが常識だったのだけど。若しくは、【魔】と定められるほどに振るうことに代償が必要とされる剣。
例えに出すならグラムまたはバルムンクなんかはその代表だ。ドラゴンって言う【古い世界法則】の主軸であり【人の上位種】に対応して討伐する武器だし、持ち主に対して物言わぬ代償も要求しているし。
まあそれらは基本神話の例だから遠いとしても、一番近いと言えば明日菜のハマノツルギか? 俺個人は見たことないけど。【魔法という法則】に対応する以上、アレも魔剣の一種になる。実際『姫御子』としての能力の延長線上だったしなぁ。
というか、この世界って剣に込められたオーラの質とやらで判断してるよね? 斬られたら怪我で、時には命を奪うモノは等しく武器だろ? 振るう奴が主軸なのであって所詮剣は剣だよ?
で、兵藤先輩のが……ルビの方を意訳すると、『
……そういう言葉の慣用句引用が何故『聖書の神』から出てきているのか。
これ、絶対名付けたのは最近だろ。
あと説明に附け加えたロンギヌスって、ナニ。
聖者殺し、ならわかるけど、説明上になんでか『神滅具』って言われたんだけど。
アレは槍を備えた処刑人の名前であって、武器そのものを指す言葉では無かったはずなんだが……。
以上のツッコミどころを言った処――、
「で、でも、烏丸だって持ってんだろ?
「もってねぇよ」
押し黙った木場先輩はさておき、口答えして来た兵藤先輩に敬語も忘れて思わずツッコミを入れ直した。
もう一度言うけど持ってねぇよ。
「あれ? アザゼルのおっさんは烏丸は恐らくそれの使い手だろう、って言ってたけど……」
「誰だそれ。……いや、ていうか、槍とか使った覚えないです」
言葉繋がりで【聖槍】?って思ったから答えた。
清掃でも精巣でも政争でも正装でも星霜でも凄愴でもないよな、多分。
「烏丸くん、コカビエルを圧倒したアレは……」
「アレはどっちかというと鉾だし、……三叉鉾ってわかる?」
塔城の言ってるのは【帝釈廻天】のことだろう。きっと。
ポセイドンのアレが根源だけど、ギリシャ神話が廃れた結果行き付いた果てが悪魔の所持武器代表になったアレだ。
――そうじゃん、悪魔の代表武器って言ったらアレじゃん!
こいつらの中にそれの使い手見た事ねぇぞ!?
……まあ、淫蕩の印とかって意味合いの所謂シンボルマークだから、持ってなくても基本は構わないけどさ。悪魔のナニが三本あって女性を満足させる誘惑の印、っていう暗喩が隠れてるんだってよ。キングギ●ラみたいだな。
「じゃあ、烏丸の神器って神滅具じゃなかったのか。それであの威力って、やっぱすげぇ鍛えてるんじゃん」
兵藤先輩がなんか明後日の方向に納得してた。
個人的に鍛えてはいますけど、そもそも俺のアレは神器とやらでは無いです。
この世界由来のモノだから異世界人の俺に当て嵌まる法則ではないだろうし、敵の
【打ち合い】に【ならないこと】を図るのが実は必要な【戦いの基本】であるし、実際に武力衝突で事を収めようというのは七割がた負けている証拠であるし、『鍛えるということ
……落ち着け、クールになるんだ烏丸そら。
此処で云って通じたとしても己の胎を晒すだけのみっともない醜聞でしかないし、態々晒してやる義理も無い。
判るように教えることは優しい証拠だって誰かが言っていた。
優しくしてやる義理も無い相手に、そんな甘い顔をすることもないだろ。
「まあとにかく、云わんとすることはわかりました。それでヴラディのバロなんとかを十全に扱えるだけの修行中である、と」
「うん、微妙に正解じゃないし、実は色々うろ覚えだよね烏丸くん」
気を立て直したらしき木場先輩に窘められてしまう。
そらショック。
▽ ▽ ▽
ボールを投げつけてそれを注目する、と同時に性能が発動するような集中を行えるショートカット。
要するに、感覚を一足飛びにイメージへ繋げて一律発動するための反復練習なのだろう。ペパーミントの魔術師がやったみたいな、そんな修行だ。ヴラディがモノを掴むためには米のアイスクリームを差し入れするのが適切かもしれない。
そんな練習風景をぼんやり眺めつつ、なんでこの人らこんな遠回りなことしてるんだろう、と疑問が浮かぶ。
「塔城、神器って反復練習で制御できるものなの?」
「自己と一体となっているモノですから、やはりそうなのではないですか?」
神器を備えていない塔城がいったん脇に退いて、ヴラディの修練に当っているのは兵藤先輩と木場先輩の2人組である。
朱乃先輩とグレモリー先輩は明日のことで席を外し、元修道女3人組は先日のミカエルさんに呼ばれていて不在。
此処の処擦れ違いが多分に重なるが、遭っていたとしても結果碌でもないだろうから気には掛けないこととする。
話を戻すが。
塔城は俺の疑問に応えてくれそうな気配は見せるものの、やはり自分が備えていないモノの話なので明確な答えは出ない。
しかし、扱っているモノに意思が宿るとかいう話もふわっと伺ったわけだが、そもそもは道具である前提は違えていない筈。
扱うならば先ずは――、
「取扱説明書を読めば良いと思うのは、俺だけなのかな……」
そんな疑問が口をついて出たところで、修練に当っていたお2人の動きがピタリと止まった。
「「……え?」」
息の合った先輩方が揃ってこちらへ顔を向ける。
ヴラディは元々引き籠りであった所為なのか、ぜひゅーぜひゅーと息も絶え絶えにへばっておるご様子。骨格こそ男子だが見た目は美少女。無駄にエロい有様は下手をすればむしろ塔城より上位に当たるのではなかろうか。
「怒りますよ。それより烏丸くん、取説とかあるんですか?」
「さあ? 1かい測ってみないとわからんけど。ていうか、制御だけならもっと遣り易い方法もあるし、そもそも俺が介入するのもお門違いだよな」
さらりと心を読んだ塔城はさて置き、彼らとの距離感を思い出す。
そうだよ、俺このあとバイトあるじゃん。
やや時間を無駄にしたような気分になりつつ、お疲れさまっしたー、と腰を上げた。
「ちょ、ちょっとまってくれ烏丸っ! 制御できるってマジでか!?」
「ぅお、なんすか先輩、俺この後バイトがあるんすけど」
「そっちより今はギャスパーを優先してくれ! アイツこのままじゃ引き籠りのままなんだよっ!!」
腰を上げたところで引っ掴まれた腕を振りほどきつつ、逃げないからとアッピール。
しかし、先輩の言い分は何気に後輩想いの真っ当なモノに当る。
てっきりこの先輩のことだから、時間停止した女生徒に何やかんやをヤル目的でヴラディの修行を付けているのかと思ってた。
立派な目的があるようで密かに感心しつつ、むしろ思いつかなかったのかと言いたい俺なりの制御法をサムズアップと共に教えることとした。
「目隠しして生活できるようにすれば万事解決」
「出来るかっ!?」
即座に否定された、げせぬ。
無理じゃねーよ、視覚情報遮断した美少女が高機動戦闘咬ました例だってあるんだし、可能可能。
まあアレは漫画知識だけど。
「烏丸くん、流石にそれは……」
「なんでっすか? 目視で発動するなら見なければいいじゃないっすか」
「何トワネットだいそれは」
ミセスマリーは良い事言ったよね。
結果は、悲しい、事件だったけどね……。
▽ ▽ ▽
そんな俺の提案に難を覚える御二方とは裏腹に、部内ではそれなりに役立ちそうだと解釈された目隠しアフター。
後日の三竦み陣営トップ会談では目隠しをしたヴラディがグレモリー先輩に手を引かれて連れられて、其の様はまるで電波少年のよう。
そっちこそ問題では無かったものの、悪魔陣営の政治的背景の問題点が浮き彫りとなる会談が巻き起こるのであった。
そんな中で、襲撃して来た真魔王を名乗る男女3名に対峙した堕天使総督と名高いアザゼルさんの名言がこちら。
「これは黄金龍君・ファーブニルを封じた、いわゆる人工神器って奴だ。差し詰め、『
……神器とかに命名したの、アンタだろ。
いい年して黒歴史大量製造してるおっさんとか、なんかもう目も当てられないよ……!
~唯一無二の神は偉大なり教
大元となる歴史は確かに古いのだろうけど、明確に現行の教義へとシフト完了したのがホント最近なので現状作中で云ったような認識の所謂『聖書勢力』
宗教の教義は時代背景でころころ変わるから、それを語ったところで時代の深さとかは今生きてる人間には正直関係ない事じゃね?という意見もある
飽く迄烏丸の中での認識ですので、実際どうなのかはそれぞれ調べてから語るように
~クロウクルワッハ(なんか【もにもに】してる)
烏丸の中では見知られている某探偵事務所所長机の引き出しの中の使い魔
其処と付き合いのある教会に出入りしている大柄ドレッドヘアがバロルの欠片とかいう情報を小耳に挟んだから自ら調べた結果、作中での無駄な解析力が発揮された
バロル神が破壊神であるというのは伝承通りだが、鍛冶の神が前身であるというのは烏丸の中での推測
~魔剣
注意:伝承上はグラムもバルムンクもノートゥングも同じモノ
ちなみに作中での例えは『明確に魔剣と呼べるモノが存在しなかったネギま世界』だからこそ介入させることが出来ていた個人解釈。あ、妖刀は別としてね
神または世界と同等となる上位法則に対抗するための人の手による代償有りきの敵性こそが『魔剣』の本質であると作者は提示します。ちなみに神を降した上で約定を交わす『契約剣』が【神剣】または【聖剣】と呼ばれるに足ると付け加えますが、ゲーム的に見るなら『とりあえず斬れればいい』が前提になりますので攻撃力が主流になるのも仕方がないのかと。本来なら時代背景背負った伝承剣が未だに現存していても耐久値はとっくに尽きてますよねぇ…
~ケルト神話
カラドボルグとかクラウソラスとかフラガラッハとか、最近よく聞く『なんかすごい武器』の元ネタが大体此処
紀元前30世紀から続いていたとかいう古参も古参の神話だけど、聖書勢力に侵略された過程も備わってるので『ノア以降の物語である』という前提が備え付けられていて時代が合わないという矛盾も含む
唯無二教はほんとあちこちに手を伸ばしてるからこういう矛盾がごろっと出て来てほんと困る。前話で語ったアスカロンだって唯無二教の伝承ではあるけど物語の本場は中東というアッラーの真っ只中。イイのかコレ
~目隠しして戦う高機動美少女
戦争抑止…三原則…3つの平和…うっ、頭が…!?
幕間回でした
あけましておめでとうございます