※この作品はR-18です。

「『麻帆良学園から来ました烏丸イソラです!』『仲良くしてね!』」   作:おーり

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大体今後の展開も予想就くかと思われるけど書いてみた32話
地の文に烏丸視点では無い神の目的な三人称が入り混じります。ご注意を


「殺しのライセンスを持ってる美少年キラーが似たようなことをしてた」

 

 ――次の瞬間には彼、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは肉塊へと変貌していた。

 要するに、完全無欠に絶命していたことが、誰の目にも明らかになっていたのである。

 

 その行動を誰もが把握できていなかったわけでは無い。

 むしろ烏丸が(この場の者の中では、ベッドの上で女性としての性的な悦楽の行使を悉く尽くされ全裸で放心しているヴァレリーを除いて、誰もがこの時点では彼の名を把握していなかったが)初動として鉾のようなモノを突き出して突貫して来た行動は、生物としてのポテンシャルが人間よりも上位に位置すると自負する吸血鬼や悪魔やドラゴンなんかの認識にはしっかりと把握されていた。

 しかしそれでも、彼の起こした初動を認識させない攻撃――所謂【無拍子】とは、認識の外枠を捉えさせない技術の一端であり、結果として見えていても回避の選択を取る時間が無かったこともまた事実だった。

 だが、それでもその場の者たちに油断が無かった、というのは過言に当る。

 何故ならば、マリウスは【彼】のことを悪魔側の魔王に比例する者として認識していたし、件の彼・リゼヴィムには【神器(セイクリッドギア)無効化(キャンセラー)】というJoker(切り札)が伏せられていたことをそれ以外の者が知っていたためである。

 

 聖書の神が創造し人間種へと連綿と続くように設計されたはずなのに、神殺しとかいう超越機まで出現する始末の神器(セイクリッドギア)

 それを無効化する特性が『()神の子』であるルシファーのその子に受け継がれている事実は、血統が聖書の伝承通りならばアダムの最初の(つがい)である【リリス】からの遺伝と想定できる。

 何故ならば、神器に関する異能の発現は人間種のみに見出せる特徴であり、神の使いとその裏切り者である天使や悪魔や堕天使なんかには異能の発現は事例が無かった為だ。

 その特性の発現が、リリスが神を裏切った所為かはたまた神に見捨てられた所為かは、根源的な理屈は想像するしかないが、リゼヴィムはその特性が危険視されたが故に、冥界に置いてはサーゼクス・グレモリーやアジュカ・アスタロトと並ぶ3人の【超越者】の一角として名を残していた。

 

 ――原作と比べて実にフライングな情報で恐縮だが。

 

 時に、彼らが超越者として名を馳せた前提に、それぞれの特性に居並ぶ者が居なかった、という実に単純な理由がある。

 これはシンプルが故に覆すことが困難で、だからこそ冥界は『強さこそが第一』として社会を形成されてきた。

 此処には相応の弊害もまたあるのだがそこは今は置いておくとして(社会構造と共通理念が単純な【群れ】は強靭であるが、行動指針の矛先の変更が困難である、という弊害。要するにワンマン経営なんかはトップが頓挫すると一挙に崩れる)、強靭さを超越者としての前提に置く冥界では、種族資質の極致(サーゼクス)術式構成の多様性(アジュカ)神に対抗し得る武装類型特性(リゼヴィム)という3つの柱こそが覆せるものでは無い、と認識して定めた。

 しかしそれは、【それ以上】を発見し得なかったために決定付けられた【前提】であり、此処とは異なる世界より齎された法則に依る技術に置いては、一切の対抗策足り得なかったのである。

 

 当然、それは烏丸の行使した【無拍子】とはまた別の――――というか、ぶっちゃけ烏丸の使った【鉾】って『帝釈廻天』だから重力魔法の具現化術式であって神器じゃねーよ。神器キャンセラーで対抗できるか間抜けめ。ということである。

 

 

 「………………どういう、ことですか……」

 

 

 ――話を戻そう。

 眼前で起こった一方的で単純明快、そして一瞬で片が付いた虐殺劇に呆けていたのか銀髪の男性――ユーグリット・ルキフグスが呟く。

 彼もまた悪魔であり、リゼヴィムの『強さ』を誰よりも既知とする彼の部下である。

 そして旧魔王派閥のそれぞれの筆頭が喪失されてより、【禍の団】に置いては悪魔社会を初めとした数多ある神話群へと敵対する【(世界)の敵】の筆頭を掲げるべきはやはり【ルシファー(暁の子)】こそが相応しいと認めており、(ユーグリット)自身の実力があっても尚、リゼヴィムこそが【禍の団(カオスブリゲード)】の首魁と旗印に成り代わるべきだと認めていたのだ。

 それが、あっさりと死んだことが、やはり認められないのだろう。

 

 

 「何故、何故…………! っ、貴方から、姉さんの匂いがする……っ!?」

 

 

 ――あ、これ違うわ。なんか酷く低俗な理由で憤慨してるっぽいわ。推論並べた作者()の騙りに掛けた時間を返せ。この三人称視点もうやめていい?(呆れ)

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 さて。

 ヴァレリーの見ているモノがてっきりスタンド系列、要するにこの世界じゃすっかり見なくなっていた幽霊とか、そっちの部類のモノかと思っていたのだが推論はハズレ。

 神秘が完全に受肉してるから推測はついていたが、この世界に置いてのそういうオカルト関連は見事に空振りに終わる傾向にあるらしい。

 要するに、命というモノは基本死んだらそれまでで、死後の世界というモノが用意されているように見えて限定された人種専用の第二の人生が施される場合とそれ以外がある、という実に巫山蹴た仕様ということだろう。

 というか兵藤先輩やアーシアなんかの話を聞くに死んだ後で悪魔に転生させてもらったらしいのだが、当時のIFとして転生不可で終わっていたらその後の自我は一体どこへ消えていたのであろうかと、少し思うわけだ。

 神話関連ならば死後の世界もきっちり用意されているのだが、きちんと働いているのなら『悪魔とかのその後』というモノも用意されていて然るべきだろうと思うわけで。

 駒王に攻め込んで来た旧魔王派のお三方とか、きっちりぶっ殺してたよねぇ。

 その後、があるのならあそこまで煽った状態で死後再会したりするとこう、凄い、気まずくない?

 偉人とか社長さんとか、そういう人らが死んだ後々に評価されて、本当に一握りの『特別な人』のみが、実体を伴った第二の人生を用意されている。と見た方が理屈としてはしっくりくる。

 多分、其処には前世において抱えていた葛藤や思想なんかの心内は評価の対象では無く、むしろ『何が出来るか』の実力主義。そう捉えると、社長や政治家や思想家なんかよりは、剣士とか術師とか殺し屋とかが選別されそうだ。これむしろ北欧系じゃね? アイツらベオウルフ蒐集してるんじゃね? 悪魔側は目的としてレーティングなんちゃらっていう娯楽が主流の目標として収集してるっぽいけど、それに対抗して天使側だって実力者を転生させる準備始めているのもあり得るよね? 酷い選民思想だよなぁ。神々の黄昏(ラグナロク)オンライン(全神話領域)で始まっても可笑しくないレベル。

 

 長々と語ったが、そうするとヴァレリーの見ているものってなんじゃらほい? となるのだ。

 ――ぶっちゃけ、アレは単なる幻影だと俺は思う。

 現実を明確に認識できなくなっているのか、認識しすぎてしたくなくなっているのか。

 人って言うのは、基本的に見たいモノしか見ようとしない生き物だ。

 現実を直視しきれなくなるほど壊れたのか、それとも聖杯を使用することで得られた情報量の多さに本能的なズレを無意識に選択しているのかは不明だが、そんなことでは先々困るだろうに。

 何せ、神器という奴は本人から取り出すと死ぬと来てる。

 ならばわざわざ本人から取り出そうとせずに、きっちり本人に使わせるのが一番良い選択であろう。

 その辺の細かい理屈は俺には明確に出来る程サンプル得ているわけでも無いので推論しか述べられないが、推論で人を殺せるのもまた理屈屋(科学者)としての側面だ。

 そんな危ない橋を、人の命を天秤に掛けて渡るほど俺は人でなしでもない。

 なので、ヴァレリーには神器を正しく扱う為の論理の刷新を施す一環として、早々に現実を直視してもらうこととした。

 

 ――要するに、セックスだな。

 

 ……いや、真面目な話ですよ?

 

 人が浮世から離れる一番の原因は、生きているという実感を喪失することではないかと俺は思う。

 三大欲求という根本的な生物的本能は、自律化という集団生活が成立する過程において婉曲化するように進化の結果として促された。

 それを生の実感と捉えるわけではないが、肌で触れて愛でるという行為を幼少期に得られていない人間は、成長してからも人の愛し方を知ることが出来ないとも云われている。

 触れる、ということは人の生活に置いて大切なことであり、何より『見えないモノのいる世界』に傾倒しかけているヴァレリーを回帰させるには、此れは本当に必要な行為なのだ。

 要するに人助けだ。

 いやー大変だなー。

 俺ってばホント働き者だなー。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 ヴァレリーintheベッドの上へルパンダイブを噛ましてその翌日、我が家へ侵入者が入って来たのを見過ごすほど、俺の脳は茹だってはいなかった。

 というか、聖杯持ってる。なんで?

 

 想定するに、所持してる聖杯は恐らくだがヴァレリーから取り出した一部のようなモノで、それの共鳴を利用してこの場所を特定したっぽい。

 そもそもこの場所には特製の認識阻害結界が敷かれており、人の知覚では到達することが出来ない。

 だからこそ、聖杯の力で人としての認識力を外されて、生物的進化というよりは退化したっぽい魔改造ハーフらは到達できたわけだが。

 拠点の穴を突破するティンダロスの猟犬みたいな存在に換えられて、それを幸福とするかどうかは判別しづらい処だが、それを促したヴァレリーの兄が件の侵入者らに同行してる。

 記憶を覗いて把握できた事柄だけど、吸血鬼らってこの改造行為を、自信を持って国政と云えるのかねぇ。

 国民を犠牲にして、何を得るつもりなのか。

 国ってのは基本的に人の群れだから、群れの都合に沿わない方針を立てても支援されなくちゃ破綻も容易いのだけど。

 

 というか、覗える限り一番大物っぽい40くらいのくすんだ銀髪のおっさん。

 目を見て判るわ、アレは屑だ。

 人を踏みにじることに何の抵抗も持たない、殺しておかなくちゃいけないレベルの屑だ。

 つーか、うちの父に雰囲気が激似過ぎて普通にムカつく。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 神話伝承の類型的に、邪龍として分類される一角・クロウクルワッハは、その総てを睥睨していた。

 傍観していた、と言っても過言でないくらいに、彼らの行動の一挙手一投足を見、捨てていたのである。

 故に、油断していたリゼヴィムが目前で一撃の下に葬られたことも、其処へ突貫を掛けた烏丸がどういう意図で行動しているのかも、更にはその烏丸の移動によって漂った微かな体臭の中に見知った姉の匂いを感知してその理由も想定し激昂する変態もといユーグリットの選択も、全てを把握できていた。

 

 

 「……姉さん?」

 

 

 ユーグリットの台詞に誰の事かと首を傾げ、ベッドの上で放心しているヴァレリーへと視線を向ける烏丸。

 ヴァレリーの髪は砂色のブロンドで、ユーグリットは銀髪だ。

 見るからに血縁関係に足り得ない容姿だが、『匂い』という単語から他の選択肢など思いつくはずも無かった。

 

 

 「違う!!」

 

 

 当然、ユーグリットは否定する。

 力強い否定だった。

 当然である。

 

 

 「姉の名はグレイフィア、私はユーグリット・ルキフグスと云う、彼女の弟だ! 貴方から姉さんの残り香が漂っているのは、どういうことだ……!? 姉とはどのような関係だ!?」

 

 

 若干、彼も微妙に動揺しているらしい。

 口調が乱れないように心掛けているようだが、詰問したい内容があっても知りたくない事実をどうしても想定してしまい、言動は事実確認を明確に示唆しきれていない。

 対して、烏丸は「弟さん? やべ」とたった今一人殺したにも拘わらず、実に軽い様子でバツの悪そうな顔をしていた。

 

 

 「……ユーグリット」

 「なんですかクロウ、今は貴方に構っている時間は――」

 「俺は、この件からは手を引かせてもらう」

 

 

 事態が混迷を極めたところで、状況を見極めたクロウクルワッハの言がユーグリットへと向く。

 その一言は、混乱する彼の思考を停止させるに、充分すぎる一言だった。

 

 そもそも、【邪龍】と分類されてはいるが、クロウクルワッハは自らを『そう』だと定義しているわけではない。

 神話的に多くの被害を出す、若しくは言葉や理屈が通用しない、という特徴を持ってして、彼のような龍は【邪龍】と推定される。

 しかし、それで云えば聖書陣営の大戦ど真ん中で喧嘩を始めた二天龍なんかも邪龍扱いされて然るべきだろうし、時間軸上丁度今頃、冥界でイッセーを追い回しているタンニーンなんかは悪魔に転生したわけだから本質的に邪龍だろう。

 そしてそういう【邪龍】というカテゴリを形成するに至ったクロウクルワッハ自身も、伝承上ケルト神話が聖書の侵略に脅かされた結果衰退していったが、彼自身が件の聖書陣営と対峙したわけではない。

 何せ、彼が実際に戦ったとされるのはバロル神の召喚に相俟った事例のみであり、バロルそのものも孫のルーに討伐されているので、聖書陣営の侵略とは時期が完全に異なる彼らが対峙した筈も無いのである。

 

 そのクロウクルワッハが今回【禍の団】に協力した理由は、偏に強者との戦いと邂逅、此れに尽きた。

 

 

 「思うに、アレは俺にとって何の意義も見出せない。戦う意味が、余りにも見えなさすぎる」

 

 

 リゼヴィムを一撃の下に葬り去った少年に対して、クロウクルワッハの評価は実に低かった。

 彼はあの一撃で、烏丸の本質を一分ではあるが、ほぼ完全に把握していたのだ。

 

 

 「――っな、待ちなさい! 貴方の望みは強者との戦闘でしょう……っ!? 彼はリゼヴィム様を斃した男ですよ!? 貴方ほどのドラゴンが、怖気づいたわけでもないでしょうに……!」

 「言った筈だ、意義が無い。アレは、闘争を旨とする者の目では無い。むしろ、リゼヴィム寄りだ」

 

 

 さらりと、烏丸自身が屑と認定したリゼヴィムと、烏丸は同等の扱いを受けて居た。

 烏丸にとっては甚だ不本意且つ実に心外な評価だが、無理も無かった。

 

 格闘家が己の身体を鍛えることを日々の是とするのと同じように、烏丸イソラという人物にとっては理解しえない事象を明確にしようという姿勢(スタイル)は呼吸することであり、また社会の裏側へ暗躍を図るという行為は先の安寧を得るためにも必要な選択である。

 前者の根源こそ不明だが、後者に至っては二次元の世界(魔法先生ネギま)に転生を果たしたことで、自分だけでは無く依り周囲の顔見知り達が【物語の修正力(作者の思惑)】に晒されることを由としなかったために、必要に駆られて得た選択である。

 死ぬまで貫けば偽善も善に挿げ替えられることと同じように、それが脱げなくなった現実的思考の苗床になった経緯となる。

 状況を見極め、結果を想定し、前提を捉えて盤上を砕く。

 尤も、烏丸の場合は幾つか見通しが甘いこともあるので、全体的に見れば被害は小さいが幾つもの【負け】を享受していることが多い。

 その上やたらと頑強な精神的距離感を人間関係に構築する癖して、一度受け入れれば大抵の不利益も飲み乾せる度量が無駄にあるので、珍妙にアンバランスな人物像になるのだが。

 この辺り、幼少期をエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに師事したにも拘らず、構成と事象を改竄する魔改造気質に成長した点においては、どうにも碌なオリ主らしくはない。

 まあ凡百に埋もれるよりかは個性が憑いているので由としよう(諦め)。

 

 話を戻すが、そういう烏丸がリゼヴィムを討伐した行為を、クロウクルワッハは明白に見据えていた。

 格闘家が自己の鍛錬の結果として豪傑な勝利を捥ぎ取ったわけではなく、必要なのでその選択をしたのだと、羽虫を潰すこともまた命を奪うことだということすらも認識することも無いように、単純な行為の動作の結果として片を付けた。

 そのことから理解に及んだのが、強いか弱いかという関係性を競合しようという認識も覗えさせないという、クロウクルワッハが捉えた烏丸の本質の一部(人物像)である。

 彼は『強者を斃した』ということに、勝利の余韻も敗北する者へ掛ける憂慮も強者を攻略した達成感も弱者を貶めた愉悦も、何も感情の起伏を揺らすことは無い。

 勝ち負けも優劣も、彼にとってはまるで価値の無い結果でしかなかった。

 ――故に、クロウクルワッハにとってもまた、戦うべき価値すら見出せない相手として認識されていた。

 強者との戦いや自身の強さに対する探究、そして種族としての行く末を見届ける、という彼の本懐にとっては、烏丸は敵対すれば百害あって一利もない。味方にしたとしても現時点ではメリットが見当たらず、更に籠絡する方向性もまた不明瞭すぎる相手でしかない。

 

 それらの事実を正確に見据えていたクロウクルワッハがユーグリットに断りを入れ、去って往こうとするその背後では。

 グレイフィアさんの弟ってことは悪魔のお偉いさん?殺したあの屑もそっち寄りってこと?殺しちゃまずかったかなぁ。吸血鬼との何らかの交流の一環として此処に来ていたのかなぁ。でもあっちの男が口にした言い回しだと、どうにも正規の仕事に思えないのだけど。とりあえず、もう1人も報告されないように殺ってから考えるか。

 と思考を加速度的に検算し、帝釈廻天をユーグリットに向けて構え直した烏丸の姿が其処に遭ったのだが。

 

 ――どちらにせよ、油断が明白になっていた悪魔らにとっては、実に悲劇な結果が待っていたのだと云わざるを得ない。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 「――ぶはぁっ!」

 

 

 暗い、墓所のような雰囲気すら覗える、巨大なフラスコ(実験用水槽)が音を立てて割れ、中から培養液で濡れた銀髪の男性が這い出てくる。

 意識が戻り、初めての呼吸をし、盛大に酸素を取り込みつつ吐く息は荒い。

 身体を揺らし咳き込む彼に、フラスコの傍らに控えていた銀髪の少女が甲斐甲斐しくタオルを持ってきた。

 ――何処か、グレイフィア・ルキフグスに近しい外見に思えなくも、無い。

 

 

 「っ、くそ、くそぉっ! あ、あのガキ、私を殺しやがった(・・・・・・・・)!! それも、羽虫を叩くようにあっさりと……っ! こんな屈辱は初めてだ! 畜生ッ!!!」

 「あーひゃひゃひゃひゃっ! なんだよユーグリットくんもやられちまったのかよ!? おいおい、過激な奴が出て来たにゃー!」

 

 

 激昂する銀髪の男性、【ユーグリット・ルキフグスの複製素体(スワンプマン)】に耳障りな哄笑で声をかけたのは銀の髪を持つ【少年】。

 彼もまた、ユーグリットと同じ方法でこの場に存在し(助かっ)ていた。

 

 

 「~~~~っ、……ああ、リゼヴィム様。申し訳ございません、貴方の複製素体でも神器の力を無効化しますので、私のように成長促進までは促せませんでした……」

 「いーぜいーぜ、死んだ後があるだけでも儲けモノだしぃ? むしろ若返っちゃっておっちゃん久々にハッスルしたくなってきたわ♪ 魔力も足りねーから身体の成長も儘ならねーけど、むしろ弱いって感覚が久しぶりで新鮮だわなwww」

 

 

 それにしたって人の技術も馬鹿に出来ねーなー、と少年の身となったリゼヴィムは続けて嗤う。

 生命を0から生み出す能力こそないが、【幽世の聖杯】には烏丸が前述したとおり遺伝子を弄ることを可能とする能力が備わっている。

 云わば、人の科学で言う処の遺伝子工学。

 そしてそちらの、人側のテクノロジーを下地に模倣することに依り、聖杯をデメリットを無く使用できるようになっていたのが、ユーグリットの弾き出した聖杯研究の成果であった。

 

 ――そう、烏丸によって明白に明確に容赦も無く完全無欠に轢き潰された彼らが助かっているのも、聖杯の力を利用した『自身の複製』という技術に至ったお蔭である。

 

 自らのスペアを用意することも候補にはあったが、【(アートマン)】には同一性質という概念がそもそも宿ってない為に、『魂をも複製する』という行為自体が聖杯では不可能だったための断念。

 此れは未だ技術的にも解明されていない事柄だが、彼らが魂と認識する其れは意識と同等になっており、意識の移動もまた人の技術では理論程度しか追い付いていない。

 死後『どうなるのか』は検証が足りず未知数のままであったが、期せずして『複製素体(クローン)への意識の回帰』という実験結果が齎された。

 悪魔としての生物としての高ポテンシャルに伴った魂の波長と呼ぶべき代物が自らの幽体の移動、所謂【幽体離脱】を可能とすることが元より『意識の移動による復活』を予測付けていたわけだが、予め魔術コーティングで自身の召喚陣を秘密基地に敷いておいたこともまた功を奏したらしかった。

 が、それとこれとは別問題であり、ユーグリットは自らを容赦なく殺した烏丸に対しての憤慨を抑えられそうにも無い。

 

 

 「くそ、それにしても忌々しい……! 姉さんの身体を抱いたのかあのガキ、……只では殺さん、姉さんの具合がどうだったのかをしっかり聞いてからゆっくりと嬲り殺しにしてやる……!」

 「ユーグリットくんはホントおねーさん大好きっ子でちゅねー♪」

 「当然です。このような紛い物では、全然満たされませんからね」

 

 

 云いつつ、傍らにいた少女の腰を掴み、衣服を引き裂く。

 中学生くらいだろうか、為すがままな少女は未熟だが形のある乳房を晒し、未だ床から立ち上がらない胡坐を掻いたままのユーグリットの頭を抱え込み、機械人形がするかのように無表情のままに抱き締めていた。

 

 

 「……匂いが足りない。もっと肉を食べなさい、あのガキの漂わせた姉さんの残り香の方がずっと強かった。雌の匂いをさせなくては、いずれ廃棄にしますよ」

 「了解しました、ユーグリット様」

 「それと、私のことはいつものように呼び捨てにしなさい。少しでも姉さんのようにするのです」

 「了解しましたユーグリット」

 「――ああ、くそ、まだ全然だ……。やはり古いモノではクローニングの元にも成り得ないか……」

 

 

 彼女は、聖杯の力でユーグリットの私物である【グレイフィアの髪(4・5世紀ほど以前の盗品)】から復元に成功した実験体であった。

 名前はまだない。

 元々は現在の【禍の団】の頭目である無限の龍神ウロボロス・オーフィス、彼女の力を割いて別の素体へ押し込めて従えさせられないか、と始めた研究の成果だ。

 しかし、髪は腐敗しないとはいえ、ユーグリットが散々『使った』結果ほとんど原形を留めておらず、足りない遺伝子は自身のモノを組み合わせて作ったユーグリットとグレイフィアの遺伝子の相の子と呼べるモノになる。

 が、自身の童貞を実の姉に捧げ受け入れられることを目標としているユーグリットにとっては完全に未熟な模造品であり、出来上がってからコレが控えている基地内では毎晩のように自慰を奉仕させるも満たされることはない。

 オリジナルの肉体年齢と合わせて同系(タイプ)・熟女型・幼女型・JK型・赤ん坊型・老女型・男性型と各種取り揃えて見るもどれも失敗作であり、そもそも完全な自我が芽生えた試しがない。

 最低限メイドとして動ける同系・幼女・JK、そして眼前の少女型を除いて、大多数が既に廃棄済みであったが……やはり惜しむらくは、件の聖杯をマリウスへ返却したことが悔やまれる。

 しかし、元々【神滅具】とは他の神器を組み合わせたような性能を持つ13の極点だ。

 同じような力を持つ、謂わば廉価版分離型聖杯と呼んで然るべき神器は確実に何処かに存在するので、この解明した技術を使う機会だって必ずあるはずだった。

 

 

 「ま、おねーちゃんの偽物にくんかくんかする程度で治めとけよ? あの小僧がどんなんなのかは推測を重ねるしかねーけど、クロウクルワッハの奴があの場に居たんなら今頃(かた)も着いてるぜ」

 「……ああ、クロウなら()けましたよ。彼とは敵対する意義が無いそうです」

 「――は? マジか?」

 

 

 彼女の浅い谷間に顔を埋めてぐりぐりとすることで、幾分か冷静になれたユーグリットの情報にリゼヴィムは唖然とする。

 あの戦闘狂が戦わない、という選択をする件の小僧――烏丸に、更に警戒を重ねる評価を降しそうになる。

 ――寸前で、

 

 

 「なんでも、彼はどちらかと云えばリゼヴィム様寄りの人間だそうですよ。彼の弁では」

 「………………なんだってそんな奴がサーゼクスくんの嫁さん抱いてんだ? あ、いや、そう考えるとむしろ有りえるのか」

 

 

 少女の胸をぺろぺろしつつ続けて出された情報で、素のテンションに落ち着いたリゼヴィムが呆れた声を出していた。

 直ぐに納得もしたが、改めて考えると烏丸のやってることはホント酷かった。

 

 

 「……となると、傍観の方が面白くね? 嫁さん寝取られた魔王様が面白おかしく復讐代行してくれね?」

 「どうでしょうね、彼には他の女性の匂いもしましたし。……まあ、最低限仕込みを済ませて置くべきでしょうね」

 

 

 返却の前に先立って準備していた己らの複製素体に、聖杯のもう一つの性能である『魂に干渉する力』で製造――幽界が存在するという前提が現実ならば――復活(サルベージ)した、戦力となるべき【邪龍の魂】が一つ、此処に在る。

 今の【禍の団】の目標は全神話領域だ。

 全てから悪と定められた者たちや、その神話に馴染めない食み出し者たちを蒐集し、グレードレッドを斃すという目的を偽として挙げつつ、オーフィスの力を横から翳め取り自らの陣営の強化を施さんとするモノばかりのならず者集団。

 はっきり言えば、まとまりなどあってないようなモノばかり。

 故に、自陣営の戦力を纏めることは間違ってはいない。

 ユーグリットは、涎塗れにした少女の胸から顔を上げ、キリリと引き締まった顔で言った。

 

 

 「……英雄派に渡りをつけて見ましょう。神器所有者の中に、ひょっとすれば使えるモノがいるかもしれませんしね」

 

 

 平時とは飽く迄一時のモノであり、次に来るべき闘争へ備える準備期間であることを、忘れてはならないのである。

 

 

 




一部捏造が交じっていますがほぼ原作準拠です
ユーグリットさんはホントシスコンだなぁ(白目
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