※この作品はR-18です。

「『麻帆良学園から来ました烏丸イソラです!』『仲良くしてね!』」   作:おーり

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英雄派が大活躍する40話!


「先ずはボコろう。話はそれからだ」

 

 

 只今時刻は深夜の四時。

 明け方頃という奇襲を仕掛けるには丁度良い、昼日中を生きる者にとっては【起き掛け】と云える時間帯だ。

 駒王町の一角にある某教会を雑木林より遠目に眺め、【英雄派】を名乗る数名の男女が日も照らさぬ闇の中に静かに犇めいていた。

 

 

 「――では、ゲオルクが【霧】で教会を支配し次第、ヘラクレスとジャンヌは中に居る者たちを人質に取れ。俺たちはその間、ゲオルクの警護を中心として臨機応変に対応する」

 「オーケーだ、曹操。だがなあ、俺としては件の烏丸とかいう奴と直に勝負してみたかったぜ」

 「ヘラクレス、何回も言うが、今回のこれは戦闘が目的なんじゃない。飽く迄も『話し合い』だ」

 

 

 『曹操』と呼ばれた漢服の青年は、不敵な笑みを浮かべつつ筋骨隆々の大男を諌める。

 諌められた大男、ヘラクレスと呼ばれた彼もまた、曹操の言い分を何処か軽く捉えた態度だ。

 その彼らに共通している意識は【余裕】そして【慢心】。

 『自分たちは特別な生まれを背景に持ち、特別な力を持っていて、この世界を変えるに足る目的を達成する為に集っている』。

 そうした意識が根底にあるのが、【英雄派】と名乗る神話系テロリスト・【禍の団(カオス・ブリゲード)】の一派である。

 

 彼らは主要メンバーが皆、神話に名を遺す【英雄】の直系の子孫または生まれ変わりであると自負しており、それぞれが人の血に発現する【神器(セイクリッド・ギア)】を所持しており、それ故に【驕り】も止むことは無い。

 この場に集ったのは、リーダーである曹操を初めとした、その主要メンバーである。

 その目的とは、『烏丸イソラの確保』。

 人の身でありながら悪魔に手を貸す一方で、その交流は決して共依存というわけでは無いリベラルな様相。

 ならば、他に【禍の団】に手を貸している【魔術師】のように、自分たちの陣営へと引き入れることも可能なのではないか。

 そうトチ狂った思考を発症してしまったことが、今回の発端であった。

 

 

 「再三云うが、彼は人間で、あの教会には他にも少女たちが居て、同居のような形で寝食を共にしている。そんな彼女らは要するに彼にとってのアキレス腱足り得るだろう、というのが俺たちの意見だ。そういう【弱点】を先に抑えてしまえば、ルキフグスの奴に提示された情報にあった『容赦がない』という部分を抑制できる。そうした上で話し合いに持ってゆくのが今回のベストな形、というわけだ。もっとも、ゲオルクの【霧】の前にはどんな頑強な守りでさえ意味を為さないからな。そのことを彼が知れれば、俺たちを意識せざるを得なくなるはずさ」

 

 

 作戦の要となる『ゲオルク・ファウスト』なる少年は魔術師だが、そうである以前に神器所持者である前提が備わっている。

 彼は神器の中でも特に強力な【神滅具(ロンギヌス)】と分類されるソレをその身に収めていた。

 名を【絶霧(ディメンション・ロスト)】と呼ぶ空間系最高峰の神器はあらゆる結界を透過し、望む場所へ自在に空間を繋げることが出来るという。

 故に奇襲にはもってこいであり、だからこそ彼らは慢心が抜けることが無かったのである。

 

 

 「無論、こちらがイニシアチブを確保するまでは多少の戦闘も有りえるだろうが……、なに、俺たちは英雄になるんだ。この程度の【交渉】を乗り切れないカリスマが、足りないわけがないさ」

 

 

 本来、Charismaという言葉には『神から賜った超状的な力』という意味合いしか含まれておらず、彼が口にした其れはしかし『人が人を惹きつけるのに必要な脚光性』とでも変換されているのかもしれない。

 しかし、だ。

 人が人を動かすためには確かに人目を惹きつけるモノは必要であるが、それを成功させるため第一に必要な部分とは『対象が要求を呑むくらい愚鈍』なことであり、第二が『従属に足る対価を示せるかどうか』である。

 決して違えていけない優先順位は【自身】より【相手】だ。

 自信に満ち溢れて失敗を想像もしていない彼らが、果たして件のカリスマとやらを魅せられるのか、という点についてはあらゆる条件の二の次でしかない。

 この時点で、心内より彼らを照らす光明は、錯覚としか言いようがないのは明白である。

 

 

 「しかし、知れば知るほどライトノベルの主人公みたいな奴だな、彼は」

 「なんだ? 曹操はそういうモノも読むのか?」

 「【表】の同級生から勧められていてね。ジークも読むと良い。ファンタジー系は特に、神器のイメージ修行には役に立つんだ」

 

 

 ジークと呼ばれた白髪の青年の揶揄するような言葉に、曹操は冗句のように応える。

 作戦前に軽口で緊張を解きほぐす意図があるのかもしれないが、彼らの態度はどう弁えても緊張なんて見当たらない。

 【人間】を相手に『どういう権利を行使するべきかも不明瞭』な女性を人質に取って云う事を聞かせよう、という倫理的に見てもアウトサイダーな作戦を、その冗句はまるで日常の一幕のように取り扱っている象徴のようだった。

 

 

 「よし、では行くぞ。ゲオルク、【霧】を頼む」

 

 

 作戦に加担する全員がリーダーの冗句に一頻り笑った後、曹操は学生服にローブ姿の少年へと指示を出す。

 云われるが速いか、ゲオルク・ファウストは集中し、辺りへ朝靄とはまた違う【霧】が不自然に発生し始める。

 雑木林と教会とを覆うように満たされたその霧の中で、漸く彼が口を開いた。

 

 

 「――良し、教会内の空間を繋げたよ。曹操、準備は…………………………」

 

 

 しかし、その続きが語られることは無く、沈黙だけが霧の中に響く。

 不審に思った曹操は眉を顰め、背後にいる彼へと振り返りそれを見た。

 

 

 「――? ゲオルク? どうし――……は?」

 

 

 ゲオルク・ファウストの胸から生えている、何か結晶のような光源を掴まえる()()の腕を。

 

 

 「――かふ」

 

 

 呼吸を漏らすような断末魔だった。

 一息だけ最期に漏れたそれだけで少年の瞳孔は開き切り、彼の身体からずるりと生えてくる其れを、全員が息を呑んで括目していた。

 

 

 「なるほど、お前らが襲撃犯か」

 

 

 浅黒い肌、白い髪、(ねめ)つけるような鋭い視線の主は、少年の身体を蛹から羽化する蝉のように抜き出て着地する。

 抜け殻のように力なく、ゲオルクは土の上へと放逐されていた。

 そして。

 

 

 「――っ! 全員警戒を、」

 

 

――ゴキャメキグリュブヂィ

 

 

 咄嗟に叫んだその瞬間、曹操には油断は無かった。

 唐突に現れたターゲットを囲むために、己の神器であり神滅具・【黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)】を掴み構えたほどだ。

 だが、――掴んだその腕は鈍く響く音と共に、肩口からごっそりと抉り取られていた。

 響いた音は、骨と肉が千切り削がれた衝撃音だ。

 

 不思議と痛みは感じず、疑問に思うその瞬間は、無駄にスローに感じた。

 そして本当の痛みは、彼の視界に正面から最後に収まった、烏丸イソラの膝から齎されたのである。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 開幕シャイニングウィザードで槍持った人を沈めて頭を踏みつけ、完全に気絶してることを確認しつつ周囲を睨む。

 とりあえず帝釈廻天で槍毎抉り取ったが、なんか丈夫だなこの人、よく死んでないよ。

 というか、この世界って大抵の人らが丈夫な気がする。

 漫画みたいだね!

 

 

 「そ、曹操!? テメェ! 其処を退きやがれッッッ!!」

 

 

 半裸で筋肉の大男が吠える。

 どことなーく第五次運命夜の狂戦士を連想してしまったが、なんでだろうか。

 というか、開幕で帝釈廻天を使えたのは兎も角、現在抜き取った神器の核を片手に持ってる状態だから両手が塞がっててヤバくね?

 もう片方はショートカットの為に【魔本】を開いた状態だし。

 あれだね、ダンチョーみたいな【盗賊の掟】発動中的状態。

 魔法の発動体である本が無いと戦闘態勢に移れない、っていう弱点が。

 グリードアイランドのようにバインダーを空中に維持できれば良かったのにぃ。

 

 

 「っ、待てヘラクレス! 不用意に動くな!」

 

 

 お、白髪仲間? 元気ー? 俺は頗る寝不足なんだが。

 というか、室内に霧が立ち込めるとかいう状況なら誰だって不審に気づくわ。

 変な魔力波長も感知出来たし、だから霧に逆探知掛けて状況の大元を掌握出来たのだけど。

 

 大男を諌める白髪の言葉に、なるほど警戒は正しかった、と納得の俺。

 無論、対処は済んでいる。

 ショートカットで帝釈廻天をとりあえず333本、切りのいい数字で大男という判り易い標的の周囲にいつでも顕現可能状態。

 あとは舌先三寸、『言い顕す』だけで良い。

 

 

 「『ざっくばらんに逝きましょう』」

 

 

 キーワードは何でも良いんだけど、ね。

 此処で『僕は悪くない』とか言っても説得力ないしぃ。

 まあ白髪の云う事にはヘラクレスとか呼ばれてたみたいだし、此れくらいやれば死ぬでしょ。

 十二の試練先輩お疲れさまっしたー!

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 嘲る様な台詞が烏丸の口から洩れたと同時に、巨漢の周辺に両端が歪な三叉鉾が多数出現した。

 それはヘラクレスを覆い見えなくするほどの武器の群れで、神器を発揮する間もなく彼をヤマアラシのように変える。

 此処で重要なのは飽く迄『ように』であって、本物のヤマアラシみたいにその『針の山』が『山の主』を守るために存在するわけでは無いという点だ。

 逆刀山剣樹みたいになった巨漢はその姿が幻であったかのように挽き擂り潰され、断末魔も上げることも無くこの世から姿を消した。

 元より、烏丸の使った【帝釈廻天】とは重力魔法の具現化術なので物理効果はどうしようもないほどに凶悪だが、数を発揮した時点でそんな副次作用なんて当然意味も無い。

 何も此処までしなくても、と其れを知るモノに取って実にオーバーキルな様相は、唯一正気で正面より目撃したジークフリートの眼前に妙にゆっくりと把握されていた。

 ある意味、走馬灯にも似た瞬間であったのかもしれない。

 

 

 「――……な……」

 

 

 仲間が呆気なく、何一つ行動を起こす前に(ちり)にされたことを唯一認識し、それでもジークフリートは絶句するしかない。

 未だ踏みつけられたままの曹操は生きてはいるようだが、片腕をも捥ぎ取られてしまっていては復帰も当然できやしない。

 と、其処でもう一人生き残りが居たことも思い出した彼は、咄嗟に件の少女へと視線を向けていた。

 

 

 「――っひ、い、いやぁぁぁぁああああああああ!!!!!?????」

 

 

 そんな少女は、仲間のその姿を目撃して悲鳴を上げ、――取るモノも取らずに恐慌に駆られて走り出していた。

 次は己が遣られるという恐怖に駆られた少女は、みっともなく泣きながら転ぶように必死の遁走を図る。

 その様は余りにも憐れで、仮にも英雄の末裔であると豪語していた姿は最早どこにもない。

 そんな様相に何かを思ったのか、はたまた何も思う処も無かったのか。

 烏丸は逃げ去るジャンヌ・ダルクと言った筈の少女の名を知ることも無く、彼女の逃走を見送っていた。

 

 

 「……あー、ちなみに此処に来てるのはお前らだけ?」

 「……まあ、な」

 

 

 なんとなく、気まずい空気を互いに感じ取った2人の口調は重い。

 先に口火を切った烏丸の方は、実はその時に漂った僅かな臭気から口取りが重かったわけだが、その点については少女の最後の名誉となるだろうから口にすることを憚っていた。

 

 

 「じゃあ敵前逃亡を俺が咎めるわけにもいかないな。で、お前ら何の用? つーか誰?」

 

 

 あっけらかんと、こんな状況を作り出してから口にすることじゃないだろうとジークは思ったが、そもそも襲撃を画策していたのはこちらであるので突っ込まれるわけには行かなかった。

 英雄と呼ばれることは望まれても、だからこそこんな場所で死ぬことを良しとするほど覚悟は決まってはいない。

 所詮其処が彼らの限界であるのだが、命を捨てるよりかはずっとマシな選択であることは間違いようが無かった。

 どちらにしろ、彼の命運は風前の灯火なのだが。

 

 

 「わ、我々は【禍の団(カオス・ブリゲード)】の【英雄派】、だ。リーダーは、その、其処の彼だ」

 

 

 未だ踏みつけられたままの曹操を指して、とりあえず自分の灯火を確保する。

 曹操は依り危険に晒されている状況だが、五体満足な自分こそ欠けることは許されない、と内心が自己肯定を促していた。

 

 

 「烏丸イソラ、今日はキミに協力を申し出に来た」

 「こんな朝っぱらからぁ?」

 

 

 其処を突っ込まれることは流石に嫌だが、せめて会話を成立させないと【先】どころか【今】も危うい。

 ジークはその点を間引いて、見目の良い【状況】から説得に掛かる。

 

 

 「わ、我々の目的は聖書陣営の悪魔らの横暴を許さないことに在る! 奴らが世界に何を犯しているのかを知れば、同じ人間として許せることでは無いはずだ! 我々の仲間となって、悪魔らの驚異より人の生活を守ろうじゃないか、烏丸、さん!」

 

 

 呼び捨てにするよりは、と悪魔以上の驚異に晒されているとしか思えないジークはプレッシャーの中、ほぼ無意識に近い心情のまま烏丸の呼び方に敬称を付けていた。

 割ともう負けている感じがしないでもない。

 

 

 「……ふーん」

 

 

 そしてとりあえず件の集団の目的を耳にした烏丸は、色々と予測を重ねる。

 今は特に云う事も無いので生返事だが、内心では色々とシミュレーションを重ねても居た。

 

 結論としては、どうでもよかった。

 

 悪魔の脅威に対抗することを目的として『英雄』を自ら名乗っている部分とか。

 因果関係は見出せそうだけど其処に横槍を入れるのも割と大きなお世話っぽい処とか。

 悪魔だけに対抗するつもりならテログループに混じる意味ってなんだろう、とか。

 『英雄』という割には此処にいた奴ら全員小物っぽいなぁ、と思った処とか。

 

 そんな色々をひっくるめて、どうでもよかった。

 

 しかし、件の【禍の団】に所属していると云う事は、当然横の繋がりも在る事を予測する。

 そして、自分の情報もまた其処から窺い知れたから、こうやって『三顧の礼』の如く会いに来たのだろう。

 そう連想し、寝起きを襲撃されたと実感して少々虫の居所も宜しくない烏丸は、生返事より一転、

 

 

 「手を貸すのはお断りだけど、命は助けてやろうか?」

 

 

 猛禽のような笑みを浮かべて、白髪の青年を見据えていた。

 既にイニシアチブは握っているのだ、という部分までも自覚していた彼に、死角はとっくに割と無い。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 曇天が日差しを遮り、午後からは雨が降ると予報では告げていた正午過ぎ。

 パァン!と、乾いた音が室内に響いた。

 肌を打ったその音源は紛うことなく兵藤一誠の頬で、その証拠に彼は呆気に取られたような貌で僅かに赤く腫れている。

 振るったのはリアス・グレモリーで、彼女は平手を振り抜いた姿勢のそのままにイッセーを睨みつけていた。

 

 手首のスナップが利いた小気味の良い鞭打(ビンタ)であったが、それを打った張本人の心中は窓から見える空模様のように決して晴れやかとは云い難い。

 軽度とはいえ害したのは彼女の方であるのに自分がずっと傷ついたような感情で、頬を叩いた少年を涙を堪えるような貌のままに睨みつけて震えている。

 むしろ、これは『これ以上の何か』を起こさないように必死で堪えている、というのが正解かもしれなかった。

 

 時間にすればほんの数秒だが、互いにとっては永遠にも思えそうな苦々しい時間を堪えきれなくなったのは少女の方が先であった。

 

 

 「……っ、頭を、冷やしてくるわ……」

 

 

 踵を返し上着を羽織り、ほぼ着の身着のまま外へと逃げるように進んでゆくリアス。

 それを止めようと手を伸ばすも、かける言葉も見つけられないイッセーが呆然としたまま見送る。

 その気配だけでも届いたのか、戸を開けて出でて閉める直前に、振り返ることなく言葉だけを残した。

 

 

 「……私が帰る前に、出て行ってちょうだい」

 

 

 バタン、と静かに閉められたはずの扉の音は、イッセーの耳には酷く冷たく重く響いていた。

 伸ばしたはずの手は、彼の気力が尽きるかのようにへたりと床へ落とされる。

 完全に見捨てられたことを把握した少年は、四つん這いになったような姿勢で愕然となった。

 

 

 「あらあら、フラれちゃいましたね」

 

 

 一部始終を見終えた共に室内に居た少女が、揶揄するようにふたりの様相を嘲る科白を吐いた。

 その顔は冷静沈着で実際の処は決してそういう感情で吐かれた言葉では無かったのだが、イッセーにとっては許せる言葉では無かった。

 気力を失った筈の少年が、火を点けたかのように顔を上げて彼女、――真羅椿姫へと掴みかかる。

 

 

 「っアンタがっ! アンタのせいでぇっ!!」

 「は。止めてくれませんか、私の所為にするなんて」

 

 

 しかしそれをひらりと躱し、少年の怒号を鼻で嗤う。

 その顔は終始静かで、イッセーをただ見据えたまま。

 芥を見るような視線のままに、椿姫はリアスにも見せた一枚の写真を再び手に取った。

 

 

 「私はただ、兵藤君が何故か女性化した木場君とホテルへ入っていたところを彼女へ尋ねただけです。生徒の性事情に乱れがあるとなれば、生徒会としても見過ごすわけには行きませんからね」

 

 

 最後の理由は如何にもとってつけたようなそれらしいものであったが、その行為は明らかにイッセーを貶める為に充てたことは有り有りと覗えていた。

 

 写真にはイッセーと女性となった木場の『まさにその瞬間』が捉えられており、よほどの()()()()でない限りはどんな者にでも『その先』が把握できる場面であることは明白だ。

 椿姫は、たまたまその写真を手に入れてしまったので事態の真相を把握するために来た、と言って先ほどこの部屋へと乗り込んで来たのである。

 写真の人物の片割れは女性であることが明瞭であるものの、見目からして完全に木場かまたは親戚かとしか思えぬ姿であるのだし、生徒会の面々は木場に親類縁者が居ないことを既に把握していたりもする。

 生徒会全員がこの写真の存在を知っているかどうかまではイッセーには判別できないが、それ以上に隠すべきは自分の主人であるのだと云う事に、この事態になるまでまったく予測しきれていなかったのだ。

 

 そして、そのことを知ったリアスはイッセーを赦すわけには行かなかった。

 何故ならば、ほんの半日前の深夜に、彼女がイッセーへと身体を赦していた為だ。

 

 『そういう関係』になっていればこそ、イッセーとしてもリアスの怒りのほどは判る。

 判るが故に、自分たち眷属の裏切りをどう言い繕えば良いのかが判別が利かなかった。

 その結果、夜露を凌がせて貰った一宿一飯の恩すら返上することも出来ず、彼は再び放逐されることとなった。

 リアスが戻ってくるのが何時になるのかも知ることも出来ず、イッセーはただ力なく、椿姫の宣告にぐうの音も吐けずに項垂れるのであった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 【杖】を持つ少年・クレオと【滴】を持つ少女・ネフレアは、【3番】と命じられた銀髪の少女に連れられて悪魔領の一角、首都ルシファードとかいう場所へと赴いていた。

 英雄派と名乗り(たか)る人の群れに、ちょっと教義が過剰な宗教施設より移籍したクレオにとっては悪魔に囲まれることはぞっとしない話であるのだが、『身の安全だけは銀髪の少女が守る』と彼女の親かと思しき男性に教えられたので、やや怯えつつも話に従っている。

 件の宗教施設在籍時代から顔見知りであったジークという青年が既に集団の顔利きとなっている事情も、彼の居心地を辛うじて肯定する前提であるかもしれない。

 しかし、元より自分は孤児の身だからこそ死ぬような事態になったら逃げるしかない、とは覚悟しているモノの、【集団】というモノにあまり良い思い出がないクレオ。

 囲われるのも追い立てられるのも共に御免である彼は、怯えの中にもげんなりとした感情を抱えていた。

 それは最早、すっかりお馴染みとなった但し彼独自の、精神状態のデフォルトでもあった。

 

 それに対してネフレアは、悪魔というモノに対して絶妙に高い興味を持っていた。

 元々国家規模の財政破綻によって都市ごと職を失った両親らに連れられていた彼女は、生まれつきある【変な力】を使うことに抵抗を持っていなかった。

 終始『何か』に追い立てられる生活に晒され続けた幼心は、頑強に洗練され彼女の価値観に容赦をしない(ノークォーター)という概念を植え付けるに至った。

 それゆえに彼女は『生きる為には他者を害してでも自分を保たなければならない状況はいくらでもある』という感情をフラットに芯に備えており、そんな場面に遭遇する度に此の【力】は上手く働いてくれた。

 そんな【力】を色々試した結果として、故郷である一つの街が()()()人の住める地域にならなくなってしまったが、そういう【結果】が出た頃には彼女は【生きる目的】を見出していたので、彼女はそれ(人生経験)に従ってこの『世界の裏側』へ足を踏み入れたわけである。

 因みに、彼女の持つ神器【托卵促す怪物の滴(エキドナ・ドロップ)】は『触れたモノを好きな生物へと変貌させる』性質を持つ物質を精製する神器である。

 この力は果たして悪魔にも効くのだろうか。

 興味を抱いた翡翠色の眼差しを、周囲を行き交う民衆へ無邪気に向ける。

 彼女の先行きへの指針は、その一点へとフルスロットルを噛ましていた。

 

 

 「やぁやぁ、おふたりさん。遠いところをわざわざご苦労さま」

 

 

 そんな中、んちゃ!とテンション高めの少年が、明確には『三人』の前へと姿を現した。

 云うまでも無いが、銀髪の少女とはユーグリットとグレイフィアの遺伝子を混ぜて造った失敗作のうちの一体である。

 自我が薄く、生物としても不完全なメイド服を着た中学生くらいの少女は、活動限界期間は精々が一年だと試算も出ている。

 ユーグリットの研究施設に納まっている残りの3体も含めて、限界を越えれば【自死】するのが決定付けられた使い捨てメイドである。

 そんなことも把握している少年は、名をリゼヴィムといった。

 

 

 「ユーグリット君から聞いてないかもしんないけど、此処でキミらの持ってる神器の【拡張】を施すから。もっと明確に力を発現できるように、っていう俺たちからのプレゼントだぜ」

 

 

 名乗った少年の正体を把握できないままに、ふたりは導かれるままにルシファードの路地裏へと縫うように進む。

 現在の冥界に置いて、【禍の団】の存在は詳細まで表沙汰とはなっていない。

 確かに聖書陣営の同盟締結の場へ乱入してきたことは事実として明かされているが、そのメンバーが【旧魔王】であったことなど明白にされるわけには行かない冥界最大のスキャンダルだ。

 現魔王派にとっては「古い」と政治の場より除け者とされていても、かつて冥界を興した旧家の血筋。

 また民にとっては自分たちの同胞であることに変わりは無く、それらが牙を剥いたなどという事実を現魔王としても公開するわけにもいかないのである。

 だからこそ、旧魔王筆頭である【リゼヴィム】に協力する表側の『悪魔』なら未だに存在する。

 それがよほどの問題行動でない限り、リゼヴィムは冥界の何処へでも隠遁可能な立場であるのだ。

 

 

 「此処は特にそっちの娘、ネフレアちゃんだっけ? キミの神器の拡張に手助けできるはずっしょ」

 

 

 口調が曖昧なままだが、その内容は如何にも危うい。

 確かに神器を自らの望むままに変貌させられるというのなら、この先において何より役立つことになるだろう。

 だが、そのような技術を悪魔が所持しているということは、【英雄派】として活動している自分たちにとっては如何にもマイナスな要因足り得るのではないか?

 

 

 「な、なあ、それ俺たちが知っちゃって良い話だったのか? 神器の成長とか、一応俺たちは悪魔にとっては敵なんだろ?」

 

 

 声を潜めるように、クレオは問う。

 聖書陣営が同盟を組み、三竦みであった者たちが協力し合ってゆく指針が出来ていたとしても、此処に来たふたりは人間で、しかも所属している団体は基本的に冥界にとっては敵対組織だ。

 英雄派とかいう話以前にばれたりしたら決して無事では済ませられないと云う事を、彼だけが必死で気に懸けていた。

 

 

 「ああ~、だいじょぶだいじょぶー。其処の研究所は神器や最近の冥界の技術にはなんら関わりも無いからよー」

 「……は?」

 

 

 アジュカ・ベルゼブブの手によって【悪魔の駒(イービル・ピース)】が開発されるより以前、悪魔の元には眷属を強化する手段が酷く限られていた。

 基本的には種族的に上位に位置する怪物や能力の高い術師などを契約によって従属させる方式であったのだが、それは悪魔の軍備を維持することには繋がっても悪魔を増やすことには直結し得ない。

 更にはそんな眷属ばかりを得られるわけでも無い、実力が足りない者も当然存在したわけである。

 そんな者たちの為、とばかりは言えないが、眷属を【改造】するという『手段』が当時の悪魔たちの種族繁栄の為の選択だった。

 その手段の名を、【グレイテスト・オリオン】。

 神器より以前にあった、今は廃れた悪魔らの持っていた改造手段。

 人の魂をエネルギーとして使うが為に『魂の蒐集』が盛んに行われ、悪魔が悪魔として最も恐れられた時代の代名詞でもあった技術の一端である。

 

 

 「此処はそんな廃れた技術を未だに研究しているところでな、巷に未だ逃げ惑う『はぐれ悪魔』って呼ばれる怪物どもの生みの親でもある。悪魔の駒を与えられない程度の奴らが眷属として自分の下僕を集めたい時には、まだ贔屓にされてるらしいぜ?」

 「……マジか。つーか、此処をぶっ壊せば英雄派の名を上げられるチャンスじゃないのか……?」

 

 

 粗方の事情を説明された後、クレオがぽつりと漏らしていた。

 実際、かつてクレオたちのいた組織にも教会からの通達が届いていた討伐依頼などの協力要請の対象は、理性を失くし無差別に人を襲うという『異形の悪魔』らだ。

 エクソシスト側としてはそれらを【悪魔】と断ずるのに異論などなかったであろうが、人の形をしている悪魔が居る一方で明らかに異形であるそれらを本当に同等と扱って良いものかという葛藤だって、クレオの中にもあったのだ。

 事実、自分たちを此処まで護衛してくれた銀髪の少女も【悪魔】だ。

 例えば【禍の団】から外れて再び以前のような仕事に就いたとしても、その討伐対象として【彼女】を討てと命じられたとして、それを実行に移せるはずがないとクレオは良く把握できていた。

 そんな葛藤を知ってか知らずか、リゼヴィムは下品に嗤う。

 

 

 「いひゃひゃ! むーりだって! 此処は天下のルシファードだぜ? 如何に問題のある研究だからと言って、役に立っているのも事実だ。現魔王だって首都を荒らされてたら出張ってくるっての! それに、こんな施設は一つで済むはずがねーしな!」

 

 

 どうやらクレオの予想以上に、悪魔繁栄の弊害は根が深そうであった。

 それはさておき、説明の合間にネフレアは、既に職員らに連れられ実験レポートなんかを閲覧させてもらいに行っている。

 研究結果は害悪そのものだが、【改造】という点に置いては彼女に役に立つことは間違いが無い。

 それと比べると、自分の【杖】は果たしてどうやって強くしてやればよいのだろうか、と途方に暮れるクレオである。

 手持ち無沙汰な現状に、以前の仕事を連想したことで久方振りに思い出したフリードくんは果たして元気にしているだろうか、と益体も無いことが脳裡へと過ぎっていた。

 そんな折、

 

 

 「――リゼヴィム様、ユーグリット様が死にました」

 「――……マジで?」

 

 

 唐突に。

 控えていた少女が口を開いたかと思えば、そんな言葉を漏らす。

 それを疑うまでも無く、事実を事実として捉えたリゼヴィムに肯定するべくか、少女が報告を続けた。

 

 

 「はい。私の同位体である5号・7号・18号が同時に消滅した模様です。自己保全権利を行使すべく侵食阻止の為アストラルラインをカットしましたが、齎された情報は研究所諸共の消滅が最後でした。サーゼクス・ルシファーの【滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)】に近しい性質でしたが、威力・範囲共に規格外に思えます。少なくとも、ユーグリット様の知覚領域の遥か外側から、狙撃に似た形で勧告無く放たれたかと」

 「……あの甘ちゃんのサーゼクス坊やが、仮にも小姑に当るユーグリットにそこまで容赦が無いかね……?」

 「尚、放射された波動は魂をも侵食する属性が付与されていた模様で、」

 「ああ、わかってるわかってる。念のために()()復活するような事態になった場合、ユーグリットからの連携が取れる符丁も決めてあったんだ。それが未だにこっちに無いってことは、本格的に死んだってことだわな。……あっぶねぇな、こいつらが別行動の時で良かったぜ……」

 

 

 リゼヴィムの科白に不穏な背景を感じつつ、クレオには口を挟む間も無い。

 言葉の端はクレオやネフレアの生存を危ぶんでいるようにも聴こえるが、その内心ではまた別の理由が前提に在るようで未だに警戒を薄めさせないでいた。

 

 

 「よし、クレオ君。ネフレアちゃんを早く呼びに行ってくれ、急いで逃げるぞ」

 「に、逃げる? 何から?」

 「話は後だ。こうなってはもう起死回生の手はキミにしかない。キミの持つ【生死覆す万象の杖(ロッド・オブ・アスクレピオス)】が邪龍復活のカギだ」

 

 

 そう言って不敵に嗤う。

 何やら不穏な単語が最後に混じっていた気がするが、彼らの功績は英雄派の為になると曹操からも既に云い含まれているクレオには、その行く末を留めるだけの権利は無い。

 そこはかとない不安を抱えながらも、呑み込もうとする虚のような目を持つその少年から逃れる手段など、彼には想定することすら叶うことは無かったのだった。

 

 

 





~ゲオルク&ヘラクレス「げせぬ」
 烏丸がなんでこんなに強いのかと問われたらやっぱり世界補正ですよね
 この世界が全体的に脳筋じゃなかったら、もっとやり様もあったはずなのにねぇ(憐憫


~イッセーの濡れ場キンクリ
 木場&椿姫「計画通り(ニヤリ」
 (おふたりが共謀したわけでは)ないです


~ユーグリット&その他「ぬわあーーーーーー!?」
 二度と復活できないように執拗なまでにやられてしまったという結果。犯人は一体誰なんだ(棒
 詳細は次回



無駄に小説っぽい出来上がりになった気がするけど、烏丸は相変わらず軽いです
あとリアスさんに備え付けの呪いも一応は残ってます。でもあの子尻が軽いからなぁ…(誹謗
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