「『麻帆良学園から来ました烏丸イソラです!』『仲良くしてね!』」 作:おーり
「通算61話目でキリもいいけどたぶん読者が求めるものとは違うんだよなぁ…」
「――ッ」
ガバァッと上体を起こし、自らを抑えつけるように覆っていたシーツを跳ね除けた。
まるで水底へ引き摺り込まれ溺死し掛けたかのように、その彼は起き抜けなのに動悸が激しい。
目を大きく見開き、自分の中の『ナニか』を反芻している様は、性質の悪い霊媒のような何かに脅かされている精神疾患の患者を彷彿とさせていた。
しかしその様を把握しながらも、先ずはと声をかける彼女からすれば、ひとまず無事に起きたことを安堵とするらしい。
「……良かった、起きたんだね、イッセーくん」
「………………祐奈?」
斜陽も過ぎ去った日暮れの保健室で、傍らで待っていた金髪の少女。
それだけを絵にすれば酷く美しいものなのだろうが、事態を穿てばそうした感情だけで片付けて良いものでもない。
知る人ぞ知る話だが、木場祐奈と改名を果たした彼女は、この兵藤一誠の監視役なのだから。
「ミッテルトさんから連絡を受けた時は驚いたよ。何があったのか、教えてくれるかな?」
【ナニ】と遭遇したかは聞き及んでいる。
事実、それへの対抗策を練る為に、ミッテルトを初めとした烏丸陣営と呼ばれる少女たちは足早に拠点へと集まっていった。
しかし、イッセーには幸か不幸か、負い目がある。
彼にとっては実に非情な現実と遭遇したがために彼が陥った、記憶の改竄という『負い目』。
それを知る祐奈には、探るような質問の仕方で事態を測る必要があった。
彼に掛かった状態が、どのような切っ掛けで綻び始めるのかが見極められないがために。
「――――……」
祐奈を見る、イッセーの目は酷く暗い。
それは彼女を見ているようで見ていない、自分の中の何かを組み立てなおして、問うべきことを測る目だと、経験則から彼女もまた把握できていた。
そうして数分後、漏らすような声で、イッセーは問いかける。
「…………なぁ、アーシアは、何処にいるんだ……?」
その言葉は、平穏の終わりを意味していた。
▽ ▽ ▽
起き抜けの俺の質問に表情を強張らせ、詳しい話とやらをするためにある場所へと導こうとする祐奈。
その間ずっと質問を繰り返しても、『詳しい話』をするべき相手が先にいる、と言うばかりで聞く耳を持とうとしない。
駆け込むように其処へと連れられた俺は、挨拶よりも憑いて回る疑問が先走る。
「部長っ! アーシアはっ、アーシアはいったい何処にっ!?」
「落ち着きなさいイッセー、アーシアは無事よ。少なくとも、あの子自身が望んだ居場所にいることを咎める謂れは私たちには無いわ」
「そうは言いますが部長!? 最後に見た光景が体育用具室でのハーレムエッチじゃ落ち着けないのですが!?」
弄ばれる小ぶりなピンクの先端に、入り混じってゆく同世代&後輩おっぱい!
常軌を逸した光景から、たとえずっと時間が過ぎ去っていようとも、俺のハーレムを侵略していった
「だから、それもあの子の選択ということよ。フラれたのだからもう諦めたら?」
「男にはそれですませない時があるんすよぉぉ……ッ!」
男の子の負けん気ってやつを、女は一切わかってくれねぇッ!
「それはさておきイッセー君、先ずは口にするべき言葉があるのではなくて?」
はっ、とあらあらうふふ的なオーラを発揮する朱乃さん(より正確には同時に目に映った冬用制服越しにも主張される爆乳のオーラ)に気付き、冷水を浴びせられたかのように落ち着いた俺は改めて現実を鑑みる。
適乳ではあるが金髪美少女の祐奈はセフレに残っており、ナイスバディかつナイスおっぱいの部長とは既に身体を交えた仲。
さらによりド迫力おっぱいの持ち主である大和撫子朱乃さんが今もこの場にいるということは、さては恐らく手出しされていない証拠では?
そこらのグラビアアイドルも裸足で逃げ出す美女が現状3人も居残っている状況で、確かに美少女ではあったけれどちょっとばかりハーレム要員が減ったとしても、これでも充分に世間様からすればエロス密度は飽和していると言っても過言ではない。
――確かに、落ち着いて考えれば勝ち組のままだったわ、俺。
ついでに言えば、どんな風に寝取られたところで烏丸は人間だし、アーシアを初めとした美少女たちはみんな悪魔なんかの亜人系だ。
根本的に寿命の問題がある以上、あいつがくたばった後なら何の邪魔者も入らないしな(暗笑)。
「部長っ、朱乃さんっ、ご心配かけて申し訳ございませんっ! 男イッセー! ただいま帰還いたしましたおっぱいっ!」
「貴方それが通常運転で問題ないの……?」
オカ研を代表する二大おっぱいに敬意を払ったはずなのだが、何故か呆れたような声を掛けられてしまった。解せぬ。
さておき、久しぶりに踏み入ったオカ研の部室は、俺が知るよりもずっと閑散とした場所となっていた。
アーシアが気付けばこの町からも姿を消していたのは今になって気付いた事実だが、小猫ちゃんの姿は何処に?
というか、教会組のゼノヴィアとイリナはなんでいないんだよ。
あいつらも一応はグレモリー眷属で合ってるよね?
と、その二人と言えば、
「それで、アーシアたちはどういうことになってるんです? 俺のクラスにいたロッテとかいう子も関係してるんですよね?」
連想して思い出した見知らぬロリッ子のことも問いかける。
入れ替わるようにあの場所に組み込まれた美少女なのだから、あれが関係ないと言われたら余計に恐ろしい事態だ。
先ほどのことでもないが、レイナーレの時のように催眠術を使われてるとしたら……。
「記憶のほうは戻っているみたいね。それじゃあ改めて、今の状況を教えるわ」
せっかくカオスブリゲードの問題も片付いたっていうのに、もっと恐ろしい危機が町へ迫っているのだとしたら、と想像を働かせていた俺に、部長は向き直る。
真面目な雰囲気に思わず息を飲むが、どんな問題だって乗り越えて見せるぜ。
だって俺には、ハーレム王になるっていう夢があるんだからなッ!
▽ ▽ ▽
………………えー、教えられた情報が多すぎてちょっと混乱してるイッセーです……。
整理しなおして箇条書きにしてみると、以下こんな感じだった。
・烏丸は用事があると駒王から去っていった
・アーシアと小猫ちゃんもそれについていった
・詳しい事情を方々へ語るわけにもいかないので、ひとまずホームステイ中という体
・更に詳細を語れない人間の社会相手にはお馴染み悪魔式催眠術が
・ロッテという少女はアーシアの抜けた穴を取り繕うため急きょ入ってもらった烏丸の眷属に当たるらしい
・あと『烏丸の眷属』という者たちは何人か駒王町で待機してるのだとか。先ほどレイナーレとの間に割って入った女の子もそれにあたる
……居なくなってからも影響及ぼすのか。なんつーか、迷惑な奴だなぁ。
というか、奴の手付きが町内にいるのか。
……そのうち保護しなくちゃな(意味深)。
ゼノヴィアとイリナは烏丸の眷属とは違うが、今日は天使側へと話を持ち掛けているらしい。
なんでも、復活したレイナーレ(?)に関して何か重大な事情が絡んでいるらしく、聖書陣営総出で当たらなくてはならなさそうな問題だと部長は判断したそうだ。
そして何よりも俺を困惑させたのは烏丸に関する話などではなく、俺自身に纏わる今後の事情。
「――というわけで、イッセーは今後上級魔族になることが第一条件だから。頑張ってね」
男子を魅了する微笑みと弾んだ語尾で部長に言われ、茫然と問い返すことしか考えが及ばない俺。
ぶっちゃけ
「……えーと、初めからそのつもりでしたけど、期限とかが加わるんで……?」
「期限はないけどお兄様とかの機嫌が悪くなるわね。何せ、貴方は可愛い妹を孕ませた憎い間男になるわけだから」
妙にご機嫌に仰られますけどお兄様って要するに魔王様ですよね!?
俺のお舅さんが魔王様、とかいう一文が浮かびますけど微塵も誇れるところがねぇ! むしろ文字列から殺気が滲み出ている様が伺えるよぉ!
さておき、部長が妊娠した。
父親は身体を許したのが俺であると俺自身も自覚しているので確定であり、その辺の事情もサーゼクス様やご実家の方へと筒抜けのようだった。
子供が出来難いという種族特性を顧みると充分すぎるほど喜ばしいことであるのだが、その相手が俺のような悪魔としての実績もない若造である事実は誰の目から見ても負い目というか、不満の対象に当たる。
同時に部長のご実家でヴェネラナさんやグレイフィアさんの妊娠が発覚していなかったら、その別口の慶事がフォローに当たっていなかったら真っ先に俺の命がなかったのだと教えられた。
今更ですけど、悪魔社会って命の取り扱いけっこう軽いっすよね!?
ちなみに、アーシアの喪失で抜け殻になっていた俺が復帰できなかったら、その事実は俺自身に伏せられたままで、折を見て接触が図られるはずだったのだとか。
悪魔の自覚もなかった状態で記憶を弄られる点の恐ろしさを考慮されたらしいけど、肉体的には寿命の問題上長い目で把握し切れるからどの点を鑑みても俺の現状は恩情に守られているのだろう。
それはわかったけど、……俺、祐奈とも関係持ってるのだけど、それはいいんスか?
「祐斗は戸籍上は男性だから問題はないわね。どちらにしろ、貴方が
配下の愛人美少女との淫靡な関係、ってやつすか。
うん、悪くないな!
しかしなんというか、部長や魔王様には色々と見透かされているらしい。
やっぱ悪魔ってすげぇんだな。
そして、上級悪魔という『
降って沸いたこのチャンス、モノにしないバカはいない!
いや、それはともあれ、あんまり待たせるのも悪いだろうしな。
部長にフォロー含めてご機嫌取りでもしておこうか。
そう考えて、俺は部長の横に座り直し、彼女の肩を抱いて某焼き鳥みたいにキリっとした顔を作ってみた。
「――リアス」
「どんと、たっちみー」
笑顔のまま拒否られた。
え、ええ~……?
「……いやおかしくないっすか!? 俺、一応は将来の旦那っすよね!?」
ソファを転げ落とされて、抗議の声を上げる。
そんな俺に触れてくるのは、部長ではなくて祐奈であった。
「その辺りはグレモリーに関わる男性陣一同からのご通達なんだよね。イッセーくんが正しく上級悪魔として認められるまでは、肉体的な接触の一切を禁じる、って」
「そんなぁ!?」
予想以上にグレモリー家がお怒りですね!
……大事な娘を傷物にしたのだから当然ですね!
そしてそんな俺に跨ってくる祐奈。
こ、このシチュデジャヴすぎる!?
やめろー! 何をするだぁー!?
「そんなわけで、イッセーには行動を制御する呪縛が課せられるわ。そのチョーカーは『そういうこと』よ」
あれよあれよという間に首へ回される革製のベルト。
穴へと通すためにくぱぁぁぁぁと開かれる姿は、実に淫靡であった。
んぁぁぁ! 苦しい! やめてぇぇ!
「というか、それはほぼ矯正用と言った方が正しいわね。相手の了承を得ずに女の子にエッチなことをしようとした際は、きゅ、と締まってきつくなるから気をつけなさいね?」
「逆に言えば、ムードさえ作れば何とかできるってことだからね。そのあたりのお勉強だと思えば何とかなるはずだよ」
紐を結ぶようなジェスチャーでほほ笑む部長に、俺の首筋を蹂躙し終えていい仕事したぜと笑顔の祐奈。
俺何かしましたか!? そこまで信用得てないんすか!?
「そしてこれが貴方が休んでいた分の
俺が泣く間も与えられず、代わりに差し出されたのは見覚えのある住所のメモ。
……森沢さん家やミルたんのおうちだと記憶しております。
俺は変態専門ってことかい!?
チクショー! やってやんよぉ!
変態召喚師の希望に応えて、上級悪魔になってやんよぉ!
▽ ▽ ▽
ぅおおおおおぉぉぉ……、とドップラー効果が途切れるまで叫び、自転車で依頼者宅へと向かったイッセーを見送り、3人は顔を見合わせる。
「……これでいいのですよね?」
「ええ、イッセーには全部話す必要はないわ。あの子じゃ何もできないでしょうし」
本人が別の事柄に気を取られすぎて気付いていなかったが、イッセーが聞くべきことはもっと他にあった。
意図して開示すべき情報に制限はかけたが、其処を気付けられなかった時点で彼は平凡な高校生からは逸脱し切れてはいない。
そんな彼を巻き込むことは本意ではないし、何より役に立たない以上は口出しを忌避するためにも蚊帳の外へ置くことは当然の措置と言えた。
「戦力的にも見込みがないことはわかっていたけど、飼い殺しにするのも以前から決まっていたことだわ。お兄様の眷属が目を光らせていたのも事実だけどね」
「何より烏丸くんが異世界の存在であることも一部以外には知られない方がよろしいでしょうし、素直に兵藤君に教えて煽る必要もありませんわ。世の中には知らなくてよいこと、というものもあるということで」
リアスの言葉を引き継いだ朱乃の言葉が二人の冷徹さを際立たせる。
顔つきは笑顔のままだが、イッセーの扱いに関しては記憶のない状態と比べても一切の修正が施されていなかった。
眷属に甘いとされていたはずのグレモリーは何処へ行ったのだろうか。
「朱乃さん……何か、怒ってません?」
「兵藤君の視線が胸から一切離れなかったことが不快だっただけですわ。きちんと躾けなさいね、祐斗」
「躾け……、りょ、了解です」
笑顔のままだが、その細められた目の奥は一切笑っていないように伺えた。
自分が怒られたわけではないのだが、思わずわずかに震えた声で返せば、話は終わりだとばかりに控えていた資料を取り出す朱乃。
さて、とリアスが口にすれば、空気はぴしりと切り替わっていた。
「先ほどの邪竜ですけど、確かに伝説上に存在する名ですわ。酷くマイナーでゼノヴィアの所持していた怪物辞典にも載っていなかったほどですけれど」
レイナーレの皮を被って現れ、名乗った【邪竜】という存在は見過ごすことはできない。
邪竜『ゴルィニシチェ』、出典はロシアの物語集『ブィリーナ』より語られる。
奇襲、不意打ち、勝負に負ければ命乞いをし、その約束を反故にすることも躊躇わない、【卑劣竜】の二つ名で呼ばれるほどの悪竜。
物語ではそれだけやっても英雄には勝てなかったとあるが、元来強靭なはずのドラゴンがそこまで恥も外聞もない行動を起こせる知恵を働かせることが恐ろしいのだ。
元来強靭な肉体を備えているドラゴンは、そんな小手先の技を使わなくとも神代の時代からの強者であることは事実なのだから。
本当に議題として挙げるべき事情を再確認した3人。
そんな相手であるからこそ、例え烏丸の眷属としてどうやってか蘇っていようとも脆弱なままの堕天使だと(彼女らは)思い込んでいるミッテルトが相手では、逃げられることも止むを得なかったのだろう、と勘違いもしていた。
実際は聖杯に似た何かで復活させられていると思われる以上討伐しても復活する可能性があったために、『槍状の
攻撃するだけが戦いではない、という些事のような戦略眼すら、以前のレーティングゲームの敗北でも未だに学べていないようである。
「しかし、どうやって奴はレイナーレの姿をもって現れたのでしょう。イッセーくんを挑発することが目的だとしても、そうそう姿を自在にできるものなのでしょうかね、ドラゴンというものは」
「その辺りは、ひょっとすれば伝承が伝えているのかもしれませんわね」
物語では英雄に命乞いをしたのち、舌の根乾かぬうちにその出身地から姫を攫い討伐されたとあるが、仮にもドラゴンがそうそう討ち取られるほどか弱いはずはない。
そう思っている朱乃は、件の攫われた姫と姿を取り換える術か何かを使ったのでは、と推測していた。
そうして生き延びて、今日まで封印されているのだと思い込ませたのだ、と。
「その推測は今は置いておくとして、問題は今後のことね。下手をすればコカビエルの時以上の被害がこの町に出るかもしれない。そのためにも、戦力の確保は第一条件だわ」
「ですわね。烏丸くんの眷属にはミッテルトさんが通達に行ってるでしょうし、私は冥界、グレイフィア様へ。祐斗は、」
「はい。皇さんにも声をかけておきます」
「私はソーナにも声をかけておくわ。アイドル活動も大変でしょうけど、流石にこんな状況を見過ごすほど附抜けているはずはないでしょ」
聖杯の事情を知らない(アザゼルを除いた)聖書陣営からすれば、名を名乗って逃げ去ったとはいえ『伝承上討ち取られ封印されているはず』の【邪竜】の一角が姿を現した事実は、前回の『奇襲』で未だ姿を現していないとされる『
その警戒心が、『蚊帳の外』を意識から外させた。
ゴルィニシチェが何を思ってイッセーに接触したのかを、誰もが気にかけなかったのだ。
その意識のズレは、後に致命的な運命を彼らへ齎すモノだと、それを知るのは未だ徒に差配するルシファーのみである。
~革製ベルトがくぱぁぁぁ…
一巻買いました(何の話か
詳細書くとしたら、あれだ、マックノウチ!マックノウチ!
あれも天使と悪魔だし、うん、それほど離れた話題じゃないな
恥ずかしながら戻って参りました
お待たせしました再開です
言い訳その他の類は活動報告でつらつらやります
お暇でしたら覗いてください