恋人として付き合っている二人のお話です。R-18なので、18歳以下のお嬢さん方は読まないでくださいね。
R-18作品としては処女作です。お姉様方はどうかおて柔らかに。
最初は全年齢になる予定が、R-18になり、更にホラーっぽい要素もあります。言わずもがな腐向けです。
何でも許せる方向け。
恋人として付き合っている二人のお話です。
なんとなくホラーな描写があります。苦手な方はご注意ください。
「あなたは私の皮膚の中にいる」はフランスで愛の言葉に使う表現だそうです。
自分とは自分の中の他者である。
これは有名な哲学者の言葉なのだそうだ。と言っても、学のない自分には関係のない言葉だと、頭の隅で考える。
ノエルは幸福だった。
豪華な食事と、芳醇なワイン。かつての自分にはとって縁のなかった贅沢なものたち。
そして、それよりもずっと愛おしい人が隣にいる。痩躯ながらも頼もしい肩に身体を預けられるほど近くに。タクシーの後のシートに並んで座り、ノエルは微睡んでいる。先程のワインが程よくまわった身体は暖かく、車両の揺れは眠りを誘った。
「少し、眠っていなさい」
優しい声で言われ、目を閉じた。肩が山口の身体に当たっているのが非常に心地よかった。車体を通して聞こえてくるエンジンの微かな唸りと、二人の呼吸音が、ノエルを包む。
山口一と恋人として付き合いだしてから、もう数カ月になる。しかし、何カ月経っても、彼とのデートは特別だった。その理由が食事だとか酒だとか、或いはささやかな贈り物だとか、そういうものでないことはノエルにも分かっていた。
贅沢な食事だとか、豪華なホテルだとか、そういうものは少し前にやっていたバイトのせいで少しではあるが経験がある。明日の生活にも困る人間がそんなものを知っているなど奇妙な事である。
山口とのデートはそのようなものとは違っていた。料理の合間に交わされる会話も、時折触れる掌も。
全て特別で、与えられる度に幸せになった。
ノエルは、過ぎるほどに幸福だった。
穏やかな力で肩を叩かれる。さぁ、着きますよと。行き先は二人にとって馴染の場所で、都心にある小さなホテルだった。次の日に予定がないデートは何時もここで一晩を過ごす。
何をするかって、そんなこと決まっている。おいしい食事と酒のあと、恋人たちがする事。
「あ、俺あそこ好き……タオルふわふわしてるから」
寝ぼけた顔で子供のようなことを言うとそっと撫でられる。それを享受しながら窓の外を見た。
オレンジ色の明かりにぽっと灯されたホテルが見えてきた。1階の壁には煉瓦塀風の装飾がしてあり、併設された小さなレストランの窓からテーブルや椅子が見える。
趣味のよい小さな入り口には普段ドアマンなど立っていないのだが、今日は其処に2人の人物が見えた。
1人は中肉中背の男、もう1人は青年だ。髪が照明の光を受けてオレンジ色に見える。連れ立ってホテルに入っていくように見えた。
売りか?
寝起きの頭でもすぐに思い当たるのは、同じような経験があるからだ。
その時、男についでホテルへ入ろうとしていた青年がふっと、ノエルの方を振り返った。
背筋が寒くなった。
ほんの一瞬の事だったので、判別できなかったが、その人物が自分に似ているような気がしたからだ。
もちろん、そのような事はありえない。ノエル以外のノエルなど存在するはずがない。
それでも、確かに似ていた。
しかも、彼はなんとも言えず悲しげな顔をしていたように思えた。
見間違えか?ぼんやり考える。いや、見間違えに決まっている。今時、髪を明るい色に染めている若者などいくらでもいる。長髪の者だって、それを後ろで括っているものだって。
一気に頭が冴えた。
「どうかしましたか?」
突然、声がした。振り返ると、山口が車のドアに手をかけて、不思議そうな顔でノエルを見つめていた。タクシーは止まっていた。ホテルの入り口は目の前にあった。
「……何でもない」
彼の口から出てきたのはそんな言葉だった。あとは何も言わず、一人でドアを開けて車の外に出た。
少し風が吹いていた。
山口と並んでホテルに入っていく。
フロントに立つ従業員が笑顔を浮かべて二人を待っているのが見えた。
特別なのはタオルだけでなくて、シーツや枕カバーもそうだ。
特別な洗剤を使っているのか、真っ白なリネンは不思議な花の香りがする。ノエルはベッドに横たわりながら、できるだけ深く息を吸った。
エルダーフラワーというのだと、初めてここを利用した時、教えてくれた声が蘇ってくる。緊張するノエルを思いやる優しい声。エルダーフラワーが実際にどんな花なのかはノエルにはわからないが、きっと可憐な花に違いない。香りがそうであるように。
少しだけ喉が渇いていた。冷たいお茶が飲みたい。このホテルにはたしか、各階に飲み物の自動販売機があったはずだ。
もうひとつだけ息を吸って、ノエルはベッドから起き上がった山口はシャワーを浴びている。数分前に入ったばかりだから、待たせることもなかろう。バスルームのドア越しに声をかけて、ノエルは廊下へと出た。
ガチャリと、オートロックの鍵がかかる。それがスイッチであったかのようにノエルの脳は思考を始めた。もちろん、入り口の2人についてである。
「まぁ、どう考えても気のせいだよな」
口に出して呟くと、本当にそうである気がして、ノエルはほぅっと息をついた。
さっさと買ってこようと、歩き出した。山さんの文も買っていこう。と思った。無糖の紅茶があればそれがいいだろう。
歩いてすぐの小部屋に何台か自動販売機が並ぶ。飲み物と煙草のものもあった。
山口もノエルも煙草を吸わない。山口の事はわからないが、ノエルが吸わないのは喉を痛めるからだ。
但し、昔……彼が今と比べ物にならないほど貧しかった頃、一度吸ったことがある。吸ったというより、吸わされたのだ。当時の客に。
咳き込むノエルを見て、あの男は笑っていた。笑いながら、彼を犯した。あの時、ノエルはまだ未成年者だった。まあ、歳を偽って売春をしていたのはノエル自身だったのだが。
煙草の臭いは、そんな選択のなかった時代を思い出させる。そのような理由もあって、ノエルは煙草が嫌いだ。
目当てだった無糖の紅茶は見つからず、ノエルは代わりにミネラルウォーターを買っていく事にした。自分の欲しかった緑茶はあったので、手にとってすぐに口をつける。空調で乾いた喉に潤いが心地良い。
山口を待たせないように小部屋から出るノエル。
しかし、彼はすぐに立ち止まってしまった。紺色の目が目が見開かれる。驚きで、いや、恐怖で。
ノエルは廊下の奥に一人の青年を見た。少し前に追い越したように、青年はノエルに背を向けて、ノエルの進行方向へと歩いて行った。
夏だというのに、紺色のコートに、銀色の髪、それを束ねる青色のリボン。
見れば見るほど自分とそっくりな男だった。
いや、違う。
それがどんなにありえない幻想であり、絶望的な事実であり、認めざるを得ない。
それは、他ならぬノエル自身だった。
その背中に追いつこうと、震える足で走り出す。目の前のノエルは見るからに肩を落として、たよりなく歩いているにも関わらず、追い付くことができなかった。廊下の突き当り、T字の手前でノエルはのえるの伸ばした腕をすり抜けて、左へと曲がっていった。
曲がる瞬間、ノエルはたしかにその横顔を見た。自分のそれだった。常人より幾分彫りの深い顔には絶望の色が浮かび、銀色の睫毛は伏せられていた。紺色の目は虚ろだった。もう少しで手が届く距離で、はっきりとそれらを見た。
恐怖に足が竦んだ。心臓は壊れそうに脈打っているのに、頭からは血が引いた。
倒れそうになりながらも、ノエルは自分の部屋へ走った。手の中のボトルを取り落としそうになる。それを必死に抑えて、ノエルは部屋のチャイムを押す。
山さん、山さん!早く出てきてくれ、早く!
鍵が内側から開き、山口がノエルを招き入れる。ノエルはその胸に飛び込んだ。しっかりと受け止められる。
「どうしたんですか!?」
ノエルの様子に、山口は驚いた。子供のように彼は怯えていた。
「山さ……山さん、」
「何かあったのですか?」
優しい声に、ノエルは首を振る事しか出来ない。どんなふうに話せば良いのか分からなかった。目の前に自分自身が居たなんて、どう話せば信じてくれるだろう。
話せない。だが怖くてたまらない。忘れてしまいたい。
「……なぁ、山さん」
ノエルは絞り出すように言う。
「はい、ノエル」
この恐怖を。
「あのさ、シャワー浴びてないけど……」
今すぐに、忘れるには。
「頼む、抱いてくれ。今すぐ」
シャツのボタンは全て外され、ノエルは肌を晒していた。汗ばむ肌を山口の掌が撫でる。
「……んっ、ぅあ」
歯列をなめ上げられ、ノエルが声をあげる。ノエルもまた、自分から舌を絡ませて、いつになく、長い、熱っぽい口付けだった。
口を話すと、2人の唇の間を銀色の糸が繋ぐ。ノエルの口は溢れた涎で汚れていた。山口はそれを拭い、呟く。
「何があったのか、教えてくれないんですね」
そのまま、首筋、鎖骨と次々にキスを落とした。唇が触れる箇所に火がともっていくように熱くなる。
「何故でしょう、ノエル」
徐々に下る口付けが、ノエルの乳首を捕える。快楽と教られた行為に、ノエルの目は潤んだ。
「あっ……わか、んな……い……」
声は優しいが、責め立てられているせいで、ノエルは息もつけなかった。片方は舌で舐られ、もう片方は指で愛撫される。その度に、身体がふわふわと浮くような気がした。快楽が与えられる度肩が震えた。
「あっ……あぁ……きもち……山さ……ぁ、もっとっ」
求める自分の声が内側を這いずりまわる。
「もっと……触って……」
山口はノエルを見つめた。頬を染め、もっと、もっととうわ言のように呟く。 何があったのか、聞く気はもう失せていた。ただ、ノエルの求めるままにするつもりだった。
ズボンのベルトを抜き、下ろそうとするとそれを察したのかノエルは腰を上げる。その動きは蠱惑的で、まるで娼婦のように見える。
触れられるのを待ち焦がれていたそこは既にゆるく立ち上がっている。先走りと共に握りこむと、それだけでノエルの目から涙が零れた。
「今日はずいぶん感じやすいんですね。」
そういう山口もまたノエルの熱にあてられている。
そのまま上下に扱くと、それは忽ち限界まで起ちあがる。
「あぁ…!あ、っや、あ、あ…」
「苦しいでしょうから、1回だしておきましょう」
「う、あっ、で、でちゃ……っ!」
「良いですよ、出して」
「……ぅあ!あぁ…イっ…………!!」
いつもよりずいぶん早い射精だった。
ノエルの腹を汚す白濁を指先で掬い、双丘の奥にあてがう。女性のそれとは違い、濡れることのないその場所へ、ゆっくりと指を回しながら入れていく。
肩で息をするノエルを見て、山口は精液のついていない手でノエルの頬をなでた。
「息を吸って、ゆっくり吐いて」
ノエルがそのとおりにすると呼吸の合間をぬって指が奥へと進んでくる。ついでもう一本増やされた。
開拓された中は愛撫されるごとに甘い快楽をノエルに与えつづける。恍惚としながら彼はぼうっと天井を見つめた。
白い漆喰の天井に何かが見える。最初は薄っすらとした影だった。人影であるということはなんとかわかるが、何をしているかはわからない。しかし、だんだんと濃くはっきりとその姿を見せ始めた。
『あっ!……やぁあっあぁ、あっそこっだめっ……あっああ!』
声までが聞こえてくる。そこに見えるものが何なのか、突然わかった。
裸にされ四つん這いになり、尻だけ上げられた状態の自分。朱に染まった顔をシーツに沈め、解かれた銀色の髪が散っている。両手首は髪を束ねていたであろうリボンによって拘束されている。
目の前に、誰かに抱かれている自分が見えた。
自分を犯しているのは男のように見えたが、誰だかはよくわからない。昔の客のようにも見えたし、つい最近会ったようにも見える。
『やめて……っそこ……無理だからっ!もう駄目いかせて……いっ』
後ろから突かれ、ノエルの腰が揺れる。白い肌を更に白濁が汚し、目の前の自分が達したのが分かった。
『…っは、うあっはぁ、はぁ……もっと、』
ノエルは目を背けようとした。自分が犯されて、悦楽に狂ってる様子など見ていられなかった。
しかし、
『……どうして……』
のどから出た声は殆どかすれていた。金縛りにあったかのようにノエルは動けなかった。
目の前の自分が自分を見ていた。
快楽と苦痛で濁った瞳。はっきりと、目があったことを感じた。
『なんで……』
辞めてくれ、そんな目で見ないでくれ。
「……やだっ……やめ……やめてくれ!」
喉を詰まらせていたものが無くなったように、声が出た。
声が出ると体が動くようになった。ノエルはぎゅっと目を瞑った。
暗闇の中で、ノエルは頬に触れる誰かの手を感じた。
「ノエル」
優しい声がする。自分をいたわってくれる声。
「山さん」
「ノエル」
2人は呼び合った。名を呼んで、互いの存在を確かめあう。
「目を開けてください。もう、嫌なら辞めましょう」
暖かな体温が頬を包み込む。導かれるように、ノエルは目を開けた。
目の前に、山口がいた。眉根を下げて、戸惑うように片手をノエルの頬に添えていた。
「ノエル、」
口が優しい言葉を紡ぐ。彼の名を呼ぶ。
「……な、に」
「今日はもう辞めましょうか?」
微笑みかける。その顔はノエルだけを見ていた。ただ、ノエルだけを案じていた。
「……」
ノエルは無言で、しかしはっきりと首を振る。
「……なんか、凄く、怖い、……夢を見たんだ。凄く怖くて、だから、忘れたくて、……明日の、朝になったら、きっと話せると思うから、そしたら、話すから、……お願いだから。……今は何も考えないで、……最後までしたい」
まるで、幼い子供だ。
しかし、山口は辛抱強くそれを聞いていた。ノエルがなんとか言い終えると、よく出来ました、というように髪を撫でる。
「それでは、あなたを信じましょう。ノエル、あなたが好きです。だからどうか、私にあなたを傷つけさせないでください。私の知らない所で傷つかないでください。きっとあなたの力になりますから」
ノエルはこくりと頷く。頷いた後で、ちょっと頭を上げた。
すぐそばにあった山口の唇に触れるだけのキスをする。
「分かった。ごめんなさい、山さん」
じゃあやろ、とノエルは自分から脚をを広げる。その間に、恋人にもっとも深く触れられる場所がある。
山口は少しだけ笑うと、いつものようにゆっくりと自身をその中へ沈めた。
息が詰まるような圧迫感はいつも通りだが、丹念に慣らされたそこはすんなりと彼を受け入れる。やがて、結合部が融け合って一つになるような暖かさが二人を包んだ。
なんて幸福。愛する人が自分の中にいる。
触れ合う皮膚の感触、頬を撫でる手、落とされる唇、絡みあう舌。
嗚呼、感じるもの全てが愛おしい。
あれは何だったんだろう。蕩ける頭でノエルは考える。
過去の自分の幻想。
そんな考えが浮かんだが、すぐにそれは快楽の渦に飲まれて消えてゆく。ノエルは思考するのを辞めてしまった。
後で考えよう。俺だけじゃ答えは出なくても、きっと山さんならそれを知っているだろう。ベッドの中で、セックスしながら考えることじゃない。
それよりも、今、この瞬間。
それを全身で感じられるように、甘い夢の中へ落ちるように、目を閉じた。
ノエルは幸福だ。
読んでくれてありがとう!
初めてのR-18作品で、しかも読む人を選ぶようなお話ではありましたが、とても楽しく書けました。
楽しく読んでいただけたのなら幸いです。