既に時刻は夜になり、私達はチームメートの二年生に夕食を届けてもらった。彼女は私と立花が唯のアミティエであると認識している。怪我した後ここで二人が劣情を暴発させて肉体関係があるなど想像だにしないだろう。彼女は試合の話を熱く語って帰って行った。それを受けて他愛無い会話をしながらのぎこちない食事。美味しいはずの食事も素通りだ。
頭の中は先程までのまぐわいが片時も離れない。隣で上品に箸を使う立花を見ても、先の乱れた姿に置き換わってしまう。不馴れなベッドでの食事に戸惑う私を甲斐甲斐しく気遣う立花。なのに普段の様に見られない。良心の呵責を感じる・・・・・・。食事が終わり後片付けをする立花を見やり、胸の中の苦しさを堪えられなくなった。
「ねぇ、立花・・・・・・」
「なあに、マユリさん」
「立花はさ、後悔していないかい? 私と・・・・・・あんなことをしてしまったことを・・・・・・さ」
言った後、瞬時まずいなと布団を引き上げ顔を覆う。気まずくなった空気を察して、そそくさと立花が食堂に食器を返しに行った。ドアが閉まる音を聞き布団をずらし息をつく。一人、殺風景な保健室で天井の照明を見つめる。あの時、 私はどうして立花に手を出してしまったのだろうか。刹那胸が苦しくなり大声を出す。目を腕で覆い自問する。
聖堂で初めて会ってからずっと立花に恋をしていた。容姿、立ち振る舞い、性格。しっかりしているのに完璧でないのも親しみが持てた。一週間もしないうちに私は立花以外目に入らなくなった。なのに立花は同じアミティエの白羽さんに、事あるごとに心砕いて接して何時も私は嫉妬し苦悩した。いい子ブリながら内心は般若の様だった・・・・・・。次第に白羽さんの人となりが判ってきたので幾らか気持ちを抑えることが出来る様になってきた。おかげで日常生活で醜態を晒す事は無かった。
白羽さんは、私に好意を持っていた様に思う。恋愛感情的なものだ。私と立花に対する態度が微妙に違うのを感じていたから。それがまた私をイラださせた。立花の好意を袖にする奴と。白羽さんはクラス一の美人だ。容姿に関しては誰に聞いても異論は皆無だろう。性格は真面目で非の打ち所も無い。難はかなりの人見知りで友達は少ないことか。孤高のお姫様といった感じだ。誰もが振り向く美人だからと言って好意を受けるかは別問題。私が欲しいのは白羽さんじゃない。立花だけだ。 そう、あの子だけ・・・・・・。
「マユリさん? 入るわよ」
ノックの音と共に立花が帰って来た。不意をつかれた私は、上擦った声で返事をした。
「どうしたの? 変な声。喉の調子悪いなら、丁度良かったかな。紅茶を準備してきたわ。それに沙沙貴さん達からクッキーの差し入れよ」
上半身を起こし入り口を見やると、立花は、セット一式が載ったワゴンを押して部屋に入ってきた。
「気を遣わせてしまって悪い、立花」
「私も飲みたかったの。マユリさんと・・・・・・」
ベッドの横にワゴンを着けて赤らみながら可愛いことを言う。
「立花が淹れてくれる紅茶は最高だよ」
私もウインクして答える。わたわたとしているが、さすがに手慣れているので零したりはしない。良い匂いが鼻をくすぐる。
「今日は、キウイフルーツティーにしてみたわ。疲労回復に良いのよ」
私に手渡しながら、何時もの様に蘊蓄を交える。立花はパイナップルティーを飲む様だ。そして椅子を寄せベッドの私の横に座る。促されて早速頂く事にした。美味しい。冷たさが心地よい。幸せを感じる。
「ねえ。『ねえ。』えっ!?『 えっ!?』」
二人同時に口を開いてしまい変な空気が漂う。カップを手に見つめ合う二人。先に立花か視線を外す。
「マユリさん。お口に合うかしら? 」
「ああ。好きだな。この味。今の気分にぴったりだよ。立花、ありがとう」
一気に飲み干してしまった。立花は自分のカップをワゴンに置き、私にお替りを淹れようとした。私は立ち上がろうとした立花の手を握りそれを抑える。
「マユリさん? 」
私の名が聞こえるか否かの間合いで、立花を抱き寄せた。私に倒れ込む立花とキスをする。初めての逢瀬と異なり、やさしくだ。立花もそれを待っていたのかの様に受け入れる。舌を絡ませお互いを味わう。何時までしていたか、ちょっと我に返って立花を引き剥がす。
「マユリさん、いけずね。もっとして・・・・・・」
上目づかいに私を見つめる。ちょっと責任を感じて口を開く。
「ねえ、ほんとに立花は私でいいのか? 気の迷いならこれで終わりにしよう」
そう言うと、突然一気に泣き崩れる立花。
「捨てないでよ。マユリさん・・・・・・お願いだから。私が必要だって言って。私なんでもするから。もう一人にしないで・・・・・・」
私の胸に埋もれる様に顔をつけ手をばたばたさせる。
「えっ、おい。どうしたんだよ。落ちつけって。私は立花を捨てやしないよ。もう一度言う。私には立花が要るんだよ」
「だったら、何で終わりにしようなんて言ったのよ。酷いわ。酷い人。人の心弄んで」
「ごめん。私も、本心で立花を失いたくない。でも、今なら二人が唯のアミティエに戻る最後の機会かなと思ったんだよ。立花」
「今過ぎたらもう後戻りは出来ないからさ。でも私は戻る気はないよ。ずっと待ち続けた人に出会えたんだから」
思いつく限りの言葉をかけて立花を落ち着かせる。落ち着き始めた頃を見はからい、さっきの言葉の真意を話す。
「立花は白羽さんが好きだったんだよね。それなのに、私に抱かれたことを受け入れられるの? 」
「うーん蘇芳さん? 今でも好きかな。だってあんな美人見たこと有って? マユリさん」
「でもね、私思うの。蘇芳さんは不可侵の人かなって。立ち位置が違いすぎるわ。私、今日肌を合わせて判ったの。マユリさんの私に対する気持ちが心地好いの。その気持ちに応えたいのよ。もう他の誰も要らない」
立花の話を聞いて、私も涙が滲んできた。必要とされる事の重みが嬉しい。
「でも信じられないよそんなこと。立花は私に同情してくれただけだろ。私で無くても迫って来たら受け入れてしまうんだろ、立花は優しいから」
「もういい加減にして。まだそんな事言うの。もう、私にはマユリさんだけよ。どんなことあってもあなたを絶対離さないからね。もちろん浮気は許さないわよ。本気の私は怖いから覚悟して」
そう言ってニヤリとしメガネに指を添える。まるで泣いたカラスがもう笑うと言った豹変ぶりだ
攻守逆転? した立花を宥めるのに、色々した。言葉でなく行為で。二度目となるとお互い勝手が掴めたというか、何度も登りつめた。お互いの指、舌、肌。全身が融け合うほどに・・・・・・。
「そうだ、立花。さっきの事だけど、何でも言う事聞くって言ったじゃない? 」
月の光が差し込む部屋。事後の二人がベッドに重なってる。立花は何度も達して疲れたのか気だるそうに頷く。
「なーに? 、覚えてるけど・・・・・・」
「私の事、マユリさんって呼ぶの止めてよ。二人だけの時さ。何か考えて、立花」
「それだったらマユリで良くない? でも三文字はちょっと言いにくいわね。ユリだと苺さんが使ってるし・・・・・・」
「マユ、じゃ駄目かしら。マーユでもいいし。決めた。マユ。これからはマユって呼ぶわね」
頷く私。また少し立花が近くなった気がして嬉しい。メガネがトレードマークな立花だけどベッドの中ではしていない。日常的にメガネしている人のしていない顔をじっくり見られるのは恋人の特権。とマンガで読んだのを思い出した。私も恋人になれたのかと改めて思った。立花を見続けていると、学院に入ってからのことを次々に思い出していく。涙が滲んでくる。幸せというのはこういうものかと改めて思う。そんな私に立花は腕を絡ませて、出会う前の事を聞きたがった。楽しい話は無いよと言うとそれでも聴きたいとゴネる。曰くマユの全てが知りたいと・・・・・・。
ベッドに同衾して腕枕し、両親が離婚するまでのごく一般的な家庭での生活。離婚から一変した生活。そこで出会った女性。私を変えたその人のことを包み隠さず話した。そしてそこから立花に繋がることも・・・・・・。さすがにここまで重い話とは思っていなかったのだろう。境遇に自分を重ねたのか時に泣いたり、時折目を瞬かせていた。そして全て聴いた立花は私を求めてきた。
「色々、辛かったのね、マユったら。でも、これからは私が一緒だから・・・・・・悲しい事は起きない、起こさせないわ。もう二度と」
返事を言う間も無く、口を塞がれてしまった。柔らかい唇が押しつけられる。舌を絡ませる。手は身体をまさぐってくる。胸から臍、そしてその下に下がってゆく。なすがままの私。
「痛っ。なっ、なにを? 」
胸を舌で愛撫してくる立花が乳首を噛んできた。
「こういうの好きでしょ。マーユ。私もよ」
悪戯っぽく言う立花に私は否定はしなかった。更に立花は身体を脚の方にずらし私の股間に顔を埋める。舌の攻めは続く。私は達してしまった。
「起きて、だらしないわね。全く。感じやすくて・・・・・・可愛い」
そう言いながら立花は股間から顔を上げて私にのしかかる様に密着してくる。私はまだぼーっとしている。
「もっと良い事しましょ、マユちゃん。明日は安息日だし、一晩中してあげる」
手には制服のリボンを持ち、私を見て笑みを見せる。力の入らない私の手を一つにまとめ手首の位置にリボンを巻く。そして頭の上に廻しベッドの手すりに結んでしまう。予想外の展開になすがままだ。更にタオルで目隠しされてしまう。
「なにするんだよ。解いてくれよ、立花」
「ダメよ。これからが本番よ。心配しなくて良いわ。マユをもっと私好みに開発してあげる。縛られていて抵抗できないって自分に言い訳立つでしょ。さあ始めるわ。済んだら私を恨んで頂戴。囚われの王子様」
表情は見えないが、笑ってる様に思える声のトーン。酷いことにはならないだろうと思えた。パンドラの箱を開けてしまったのは私。仕方ない堕ちるとこまで行くかと立花を五感で感じながら思った。
眠りに就いたのは、明るくなるちょっと前。朝食を袖にしてもゆっくり寝ていたかったのだけど、結局二時間位しか寝られなかった。苺と林檎が朝食に間に合う様に起しに来たのだ。二人で一緒に寝てる姿をばっちり見られてしまった。
どんな言い訳しようにもキスマークや乱れたシーツや着衣はバレバレなので、あえて取り繕わず自然体で居ることにした。即ち夜の二人だ。苺達にはスキンシップ過剰の振る舞いに見えたのだろう。事ある毎にバカップルを連呼して出て行った。喋る小鳥が野に放たれてしまったと立花と二人で苦笑する。立花が私のために車椅子を準備してると
「そうそう、マユも私のお願い聴いてくれないかしら? 」
と聞いてきた。私は車椅子に腰掛けて、身体をよじり位置に体を合わせる良いよ、何? と言うと
「マユとおそろいの指輪が欲しいわ。いいでしょ? 。あとね、判るんだけど・・・・・・マユは声が・・・・・・とっても大きいわ。気をつけてね」
そう言いながら立花がキスをしてきて話は終わり、互いに顔を赤らめて私達は車椅子を食堂に進めたのだった。