「はぁ……はぁ……!」
目の前に迫る拳を避けて一閃、相手を仕留める。倒せば倒す程現れるために休み無く戦い続けて居た私は、正直今疲れ始めている。確か魔物は既定の数だけだったりする筈なのだけど……何でこんなに湧く様に現れるのだろうか? どう考えても普通じゃ無い気がする。
とにもかくにもこの数は流石に相手をし続けるのに限界を感じる。私は目の前に迫ったゴリラの魔物を倒し、一気に駆け出すことにした。向かう先は街。圏内に入ってしまえば魔物が現れる事は無い。少し距離はあるけれど足は速いから大丈夫の筈。……!? 誰かいる!
「……ピナ! ピナ!」
しばらく駆け続けた時、突然感じた人の気配に私は足を止める。人の姿でも猫並みの素早さは出るらしく、既に背後に魔物の存在はなかった……のだけれど、前方にゴリラの魔物が6体とその中心に座り込む1人の少女の姿があった。その少女は何かを大事そうに持ちながら絶望した様な表情で涙を浮かべて居て、その背後で魔物が拳を上げる。私が来た日に知ったこの世界のルールの1つ、ゲーム内での死は現実での【死】。そう理解した時、私はすぐに動いて居た。
「!」
足の素早さを生かして魔物と少女の間に入り、その間際に振り上げられていた拳を降ろされる前に肩から切断する。そしてそのまま降ろした剣を返す様にして胴体を横一文字に切り裂いた。目の前に居た魔物は振り上げたままの表情で消えて逝く。振り向かなくても分かるけど、後ろから視線を感じる事からどうやら驚かれている様子。でもまだ安心出来る訳じゃ無い。目の前には後5体居る。
一番近くに居た魔物の目の前に近づくと、初めて戦った時同様に右下から左上へと斜めに一撃。横から迫って来た別の魔物の拳を左回転しながら避けてその勢いのまま一撃を加える。これで後は3体。一気に決めよう。そう思い、全く同じ様に駆け出した時。私の足が私の思い通りに動かずもつれてしまい、結果よろけてしまう。そしてそんな倒れかける私目がけて拳が真っ直ぐに向かってきて……倒された様にその拳は持ち主事消えて逝った。魔物の向こう側に居たのは黒い服を身に纏った何処か見覚えのある少年の顔。
「大丈……夫……か」
魔物が消えた事でお互いの顔が見える様になった時、向こう側に居た少年……キリトは言葉の途中で私の姿を見て驚愕と言った表情を浮かべる。少女を助けた時の驚きは突然現れた事に寄る物だろうけど、何故キリトは私の姿を見てから驚くのだろうか?
私は少し考えた末に気付いた。今猫の姿では無いと言う事はつまりこの世界で純白の天使として噂な存在なのだろう。確かソロだとアスナは言って居たけれど、噂話を聞く事は当然ある筈。その本人が居た事への驚きなのかも知れない。じゃあ少女も……まぁ、どっちでも良い。
「……ありがとう」
「お、おう。……」
鞘は自在に投げ捨てた後も取り出すことが出来る。だから私は剣をしまった後、お礼を言って少女の元に近づく事にした。驚いた表情のまま私を見つめて居る少女。そんな少女の手には小さな1枚の羽が握られていた。これは……アイテム?
驚いたままの少女と何も言わない私に少女同様驚いて居たキリトが近づいて来ると質問する。少女はその質問で我に返った様にお礼を言った後、その羽がピナと言う大事な仲間であった事を説明する。【使い魔】と言う存在らしい。主が居てその存在に従う物……アスナと私みたいな気がしなくも無いけれど、契約とかは無かったから多分違う筈。で、どうやらその使い魔。先程のゴリラの魔物に倒されてしまった物の、キリトの話では助ける方法があるのだとか。私は完全に分からないため、近くの木に寄り掛かって話を横で聞いて居た。
2人が話を終えると同時に合わせたかの様に私に視線を向けて来る。で、私の姿をもう1度見たキリトは再び少女に話しかける。何かを質問したらしく、少女は首を横に振ってその質問に答えて居た。と、私の方に2人が歩いて来る。
「プレイヤーじゃ……無いよな。意識はあるのか?」
「どうしてプレイヤーじゃないって分かるんですか?」
「頭の上にアイコンが無いんだ。だから違う筈なんだけど……」
私の目の前で考え込み始めるキリト。とりあえず私は立ち上がると頭の上を見て見る。確かにキリトと少女の頭の上には緑色の逆三角錐形の何かが矢印の様に存在している。対して私の頭の上にはそんな物が存在して居なかった。頭上にぴったしついて居るのかもと思い頭の上を触って見るが、キリトの言う通り私の頭の上に同じような物は存在して居なかった。
確かに私の頭にそれは無い。だが、私が自分の言葉に反応したと分かった様で「やっぱり意識があるんだな」と言うと近づいて来る。
「君、名前は? どうしてこんな所に?」
「……練習」
≪?≫
目線を私と近い位置にして迷子の子供を相手にする様に対応するキリト。確かに身長は低いけど……何か少し癇に障る。でも今は聞かれた質問に素直に答える事にしようと思い、答えた結果。2人して首を傾げてしまう。きっと『何の?』と思って居るんだろう。だから私は目の前に剣を出してそれを抜く動作をする。一瞬キリトが目の前で剣を抜いた事で驚きながら身構えるけど、私はその刀身を横に放った後。素振りをする。で、もう1度同じ事を答えれば伝わったらしく何度目かの驚いた表情をする。
「剣の練習って……事か? こんな子供が?」
顎に手を当ててまた考え始めるキリト。そんな彼を尻目に少女は私に近づいて来るとキリト程では無いが、少しだけ目線を下げて私を見て来る。思わず首を傾げれば、少女は少し困った顔をした後に何かを決めたように頷く。
「あ、あの。あたし、シリカ! 貴女は?」
「……ハク」
少女……シリカは私にお礼を言った後、自己紹介をして私の名前を聞いて来た。で、私は少し考えた末にアスナから貰った名前をそのまま使う事に。この世界ではこう呼ばれているし、猫と私を結びつける様な人は殆ど居ない筈。私の名前を聞いてキリトが「ハク?」と私の名前を言い直しているけれど、人間である私と猫である私を別々でしか知らない彼は思い至っても確証が無い限り何もしない……筈。多分大丈夫。……最悪ばれても何とかなるだろう。
「ハクちゃん……さっきは助けてくれてありがとう!」
先程まで泣いて居たのが嘘みたいに笑顔で私にお礼を言うシリカ。どうやらキリトとの会話でピナの復活を手伝ってもらえる事になって絶望から希望を見出したらしい。私は頷いた後、もうこの場所に様は無いために去ろうとする。が、そんな私を「ちょっと待ってくれ!」とキリトが止めた。どうやら街に戻るなら一緒にと言う事らしい。先程の様な事があったために心配なんだろう。特に私の様な子供だと余計に。しかし此方としては街に入る直前で猫の姿になる予定のため、傍に誰かが居るのは困る。だから私は首を横に振ったのだが……それを確認する前にシリカが私の手を掴んだ。どうやらシリカは自分よりどう見ても年下の相手が居る事に少しばかりお姉さんを気取ろうと頑張って居る様子。
「じゃあ街に戻ろう。マップとかの内容はそこで」
そう言うとキリトは歩き始める。私はこの逃げられない状況で、シリカに手を引かれ乍ら街へと向かう事になる。もうどうにでもなれと手を握るシリカを見た時、私は久しぶりにあの感覚を感じる事になる。頭の中に流れ込んでくるこの不快感。そしてこれが指すのは1つ。
【ソードアート・オンライン】
【綾野 珪子『シリカ』 自己顕示欲・親和欲】
また新しい対象者が現れてしまったらしい。
明日は投降出来ません。