アスナはその日、帰って来る事は無かった。私は帰宅した後早めに眠って夜を越した。キリトたちの出発する時間は聞いて居ないため、少し早めに出ようと考えて帰宅後は勝手乍らシャワーを使って身体を洗い、すぐに証拠隠滅。後に睡眠を取った。お蔭で今現在の時間は早朝と言っても早すぎるくらいの時間。今なら外に居る人はそんなに居ないだろう。猫の姿で私は家を出ると真っ直ぐに転移門に駆け出した。
恐らくだがアスナは今日、帰って来るだろう。時間はどれくらいになるかは分からない物の、午後だとは思う。15時過ぎには帰ってきている可能性が高いから、それまでに帰る事を目標に行動しよう。何はともあれ2人が速く行動をしてくれない限り目標にしたってしょうがないけれど。……多分午前中には出ると思う。
「……転移」
人の姿が殆ど見えない転移門で人の姿になって私は転移をする。向かう先は47層のフラワーガーデン。2人が人の姿しか知らない事から街の中に居るのは流石に目立ち過ぎる。なら向かうと言って居た思い出の丘の近くで戦って居た事にしよう。それなら多分大丈夫。何処か不安な思いが存在しているが、それが何なのかと考えると定かでは無い。何か、何か私は失敗して居る……? 今はそんな事を考えないで行動しよう。
転移が終わった時、私の目の前には綺麗な花畑の光景が見えた。まだ空が暗い事からその姿は暗闇に殆ど包まれて居る物の、もしも太陽の日差しが当たる様な事があれば幻想的な光景になる事は一瞬で分かる。そしてそんな花がある花壇の近くには沢山のベンチ。言われなくてもここがカップルの集まりそうな場所なのだと予想は付いた。きっと明るくなればそう言う人たちで賑わう事だろう。
外に出ると私は人の姿になる。既に圏外に出て居て魔物が出る場所だと言うにも関わらず、一面は花だらけ。流石は
私は今の今までワンピースを手にしてから新しい服を手に入れて居ない。手に入れるためにはまた盗みをしなければいけないが、かと言ってまたあの時の様にアスナに迷惑を掛けたくも無い。猫が下着を欲する事等可笑しいとしか当然思えない行動であり、結果として私はあの日手に入れたワンピース一枚しか衣服が無かった。そして今現在、私は逆さ吊り。ゆっくりと地面に向かってワンピースの下の部分が顔へと落ちて来る。見えないけれど、今現在私はほぼ下半身が全裸になって居る事だろう。
「っ!」
今は人が居ないけれど、一刻も早く私はこの状況をどうにかしたかった。見られて居ないからと言って、外で露出する趣味は一切無い。表情は変わって居ないだろうけれど、きっと少しばかり赤くなっては居ると思う。当然、恥ずかしいからだ。そしてそんな私を逆さ吊りにして食べようとでもして居るのか大きな口を開ける巨大花の魔物。私はすぐに足を掴んでいる蔦を剣を取り出して切断。まっすぐ降りる際にその口から少しずれてその巨体を一刀両断する。まっすぐ切れたその花はゆっくりと左右に倒れ、消滅して行った。
剣をしまいながら私は周りを見る。人が居る様子も、人の気配も無い。猫故に本能からか気配には敏感で、スキルとかいう能力を使われても大抵は気付く事が出来る。先程のは目の前の光景を見て居て油断していただけ。そんな能力上で無いのだから見られている可能性は無い筈。これには大きく安心した。と同時に圏外故に魔物が出て来る事を身をもって確認したため、2人が来るまでどれくらいあるかは分からない時間を私は警戒しながら待つことにした。
長い時間を待つ。そう思って居た私が瞬きをした時、目の前に魔物が迫ってきていた。しかし反応できる距離であり、私はすぐにその魔物を斬り伏せる。空は既に太陽が昇り、時間がかなり立って居る様子。目の前の光景にここが本当にゲームの中の世界なのかと疑ってしまう。が、私からすればゲームの中に入った覚えも無いため少し不思議な気分だ。だがこの世界に居るプレイヤーのその全てはこの世界を仮想とし、現実を知って居る。そう考えれば、当然ながら私はやはり異端なのだろう。
そんな事よりも気になる事。それは時間の流れだ。私は今さっきまで確かに待とうとした。だが瞬きをした時、太陽は一瞬で動いて居た。これはどう言う事なのだろうか? この状況を私は一度経験している。そう、初めて来たあの日。アスナをアスナと知らずに待って居たあの日もまるで同じだった。
「何でここに!?」
突然聞こえて来た声に振り向けばそこにはキリトの姿があった。その背後にはシリカの姿もあり、私の姿を見て驚いた表情で「ハクちゃん!?」と叫んでいる。どうして時間が過ぎたのかは分からないけれど、どうやら無事に合流は成功。太陽の向きと高さから時間はまだ午前中の様子で、やる事さえ済ませれば問題は無さそう。……この事については後で考えよう。
何故ここに、と聞かれて私は何て答えれば良いのか迷ってしまう。『貴方達を守りに来た。命を狙われている』。突然そんな事言われて信じろと言うのは難しい話だ。昨日面識がある事から信じてくれる可能性は十分にあるが、それでももし信じたとして可能性は低いが、この行動を中止するとかになればシリカは悲しむだろう。……やはりここは何も言わずについて行くのが一番かも知れない。
「……偶然」
「あたし嬉しい! またハクちゃんと会えて凄く嬉しいよ!」
シリカは満面の笑みで私の両手を掴んで言う。嘘をついて居ると言う現実に少々良心が痛むが、ここは堪える事にする。が、キリトは流石に疑問を抱いたのか考え事をし初めて何も言わなかった。独り言を言って居るみたいで少しばかり聞けば「余りにも違い過ぎる」と言う一言だけ。何が違うのかは分からないけれど、私の事の可能性は高い。だから私は話を進めるためにシリカに話しかけた。
「……この先……行く?」
「うん。少し厳しいかも知れないけど、ピナを助けたいから」
「……なら……一緒に行く」
「本当! やった!」
昨日の森の時の様にシリカは私の手を掴んで笑顔で歩き始める。その際に考え事をして居るキリトに「さぁ、行きましょう!」と元気よく話しかけたため、キリトはその考えを中断せざる負えなくなった。結果、少しばかり疑惑を抱きながらも私の存在を見る様に。シリカが私が一緒に行くことを伝えると驚いた後に「大丈夫なのか?」と聞いてくるため、私は頷いて返す。
シリカはこの層に来るのに適したレベルでは無い。それはレベルを知らない私が昨日の会話でこの層の事を聞いた時に苦しそうに言って居た声を聞いて居たから知って居る。そしてそんなシリカを守り手助けをするため、キリトはこの場に一緒に居る。そんなどう考えても優しい2人を襲う奴らがどこかに居るかも知れない。そう考えた時、私は思いを少しばかり強めた。絶対に2人を守らなければ行けないと。
それから私を含めた3人で思い出の丘へと向かう事に。道中ではシリカが早朝の私同様に逆さ吊りにされ、キリトと私に必死に助けて欲しいけど下着は見ないで欲しいと言う難しいお願いをしたリ、魔物を倒してシリカのレベルを上げたり、花が咲き誇るこの光景を少しばかり2人で駆ける事になってキリトがそれを見守って居たり。どう見てもまだ若い青年だと言うのにその目が妹、又は娘を見る様な目だったのは若干気になる。そんな年じゃない筈なのに。
「ピナが帰ってきたらハクちゃんの事、一杯話してあげる!」
そう笑顔で私に言うシリカ。他人が見ればきっと私達は似ては居なくても仲の良い姉妹とかに見えるのかも知れない。身長からシリカが姉で私が妹。私は記憶上で既に中学は卒業して居た筈だから精神的には私の方が上の筈。年下の相手にお姉さん振られると言うのは中々に複雑な心境。だけどシリカとしては純粋に嬉しいんだろう。今までの会話などから裏で汚い事を考えて居る可能性は絶対に無い。見た目通りの純粋さ、と言った所なのかも知れない。だから私はそんなシリカの言葉に頷いて返した。
「ん? あれがそうみたいだな」
キリトが前方を指さしながら言った言葉に私達はその方向に視線を向ける。小さな橋の向こう側に、祭壇の様な物がある光景が見えた。何もその上には乗って居ないが、使い魔の主本人が居なければ手に入らないと言う事はシリカが近づけば何かが起きるのかも知れない。シリカはその存在に気付くと走り始める。私とキリトはそんなシリカを追うのだった。