祭壇の上には何も置かれて居らず、周りには目的と思わしきアイテムが存在して居ない。その事に私はもしかして無いのでは? と思った時、シリカが驚いた様に声を上げた。その声に祭壇を再び見れば、シリカが近づいた事で祭壇の上に1輪の花が咲き誇る。
その花は周辺にある花とは明らかに違う異質な存在感があり、シリカがそれを手にするとメニューが現れる。どうやら入手したことになったらしく、シリカはその花をしまうとキリトと私にお礼を言う。本来ならすぐにでもピナを蘇生させたいだろう。だけどここは圏外で危険な場所のため、安全な場所に行くべきと言うキリトの言葉に従って私達はその場を後にする事にする。
2人が進む中、ふと私は祭壇をもう1度見た。最初同様に何も無いその祭壇で、私はゆっくりと何かがその上に現れるのを確認する。シリカは花を手に入れた事に喜び、キリトはそんなシリカを見て居る。少し離れてもばれそうに無い。
「……?」
気付かれない様に戻り、祭壇を見て見るとそこには先程と同じ様に花が咲いて居た。シリカは既に入手しており、他にビーストテイマーらしき存在は見受けられない。この場に居るのは人でも無い私だけ。何となくその花に手を伸ばしてみる。すると突然その花は私の指先に触れた瞬間、その花弁を周りに散らしながら消えて逝く。そしてその光景の後、私の手が軽く光る。何が起きたのかさっぱり分からないが、祭壇の上にもう花が出現することは無かった。
流石に離れすぎるとばれてしまう。私は今の出来事について、深く考えるのは後回しにして2人を追う事にした。幸い話しかけられた時には傍に戻った後だったため、今の光景を見られる事は無かった。こうして私達は帰る事にする。が、私が来た目的は恐らくここから。レアアイテムを手に入れたシリカの命をそのアイテムごと奪うのがあいつらの目的。ならこの帰り道、きっと現れるだろう。
しばらく歩き続け、橋を渡って居た時。前を歩いて居たキリトが私達を止める。それもその筈。橋の向こう側にある木から複数の気配が感じられる。それは間違いなくあいつらだろう。女性とその仲間達。最初から1人2人で無いのは予想して居た。キリトはそれに気付いた様で、私達を止めると隠れて居る者に出て来るように言う。その言葉で出て来たのはやはり昨日、シリカに嫌味を言って居たあの女性だった。まだ女性しか姿を現さない事から今は隠れて居るつもりらしい。
女性の要求はレアアイテムを差し出す事。そうすれば見逃す等と言っては居る者の、昨日の内容からその可能性は低い。最初からこの状況になった時点で自分達の存在を知る者は抹消するつもりなのだから。キリトは悠々とそんな言葉を受けても立って居て、シリカが言われた言葉に戸惑う中それを否定する。そしてその言葉を聞いて女性が意味あり気に笑うと出て来るように指示、それを合図に隠れて居た他の気配も姿を現した。数は大体7人くらいだろう。全員男で、その全ての頭の上にあるアイコンはオレンジ色になって居る。
頭の上にあるアイコンはプレイヤーであると同時にそのプレイヤーの危険度も表しているとアスナが言って居た。緑は普通のプレイヤーだが、オレンジ色の人物は一度誰かを殺した経験を持つ者。プレイヤーキルと呼ばれる行動を取った事のある存在である証。そして今その存在が私達の目の前には複数存在している。女性は緑だが、その言動などから自らは手を下して居ないだけの様子。
私は剣を取り出す。私の存在を確認した時、各々が「純白の天使」と呟き始める中で女性が再び笑う。
「あんたは生きて捕えさせてもらうよ。どうやって姿を隠しているのか、そのスキルとかを吐いて貰いたいからね」
こういう事をする人間に取って、私が噂でしか無かった理由。その存在を隠し通して居た理由がどのような物なのか、知りたいらしい。確かにこの世界に取ってスキルと言う概念が存在する中で噂にしかなれない程の姿暗ましは異常な力なのだろう。向こうはその力について私から聞きだし、あわよくば自分達が使えるようになりたい。それが私を捕まえる狙い、と言った所。捕まえたところで猫になれる訳が無いのだが、最初からまともに相手をする必要も無いだろう。ここを乗り越えれば良いだけの話。
鞘を橋の横に放り投げて両手で柄を持ち、構える。だがそんな私の頭に何かが乗り、見上げればそこにはキリトの姿。
「ここは俺に任せてくれないか?」
「……危ない」
「平気だから……な?」
そう言って笑うキリトに私は少し考えた後、剣を降ろす。……兄とはこういった存在の事を言うのか。記憶上、私は1人っ子だったから分からないけれど、何となくこんな感じなのかも知れない。守るために来たのだが、どうやらキリトに関してはその必要が無いらしい。……それでもシリカは絶対に守らなければいけない。だから私はそれに頷いた後、「……シリカは……守る」と答えればキリトが前に出て行く。剣を取り出して歩いて行くその姿は中々に様になって居て、本当に10代なのか少々疑問に。
「! 黒い服装に片手剣。まさか此奴、攻略組!」
「攻略組って……黒の剣士か!?」
キリトの姿を見て突然そう言いだす男達。攻略組は当然乍ら攻略に出て最前線で戦って居るから、強い。特に【二つ名】を持つ者はその中でも飛び抜けて強い。アスナがそうであるように、一緒に攻略に出て二つ名も持って居るキリトもまた……どうして忘れて居たのだろうか。あの時に焦った私の心は無意味だったのかも知れない。そんな事無いと思いたい。うん。
前線に出て居る人間が40層代の場所に居るのは可笑しいらしい。男たちの言葉を聞いても「攻略組がここに居る訳が無い」の一言で女性は片づけ、キリトに向かって攻撃をする様に指示を出した。男達もそう思ったのかキリトに切りかかり、対するキリトは攻撃を防御しようともしない。何が平気なのか、私はすぐに駆け出そうとする。が、キリトはこっちに顔だけ向けて安心させるかの様に笑う。と、そんなキリトの身体を刃が通った。
痛みは感じる筈だろう。だがキリトはそんな素振りも見せずにその攻撃を受け続けて居た。シリカは目を見開き、震える手を腰にさして居る短剣に伸ばし始める。私も同じ様に剣を手に出るべきか考えるが、その時シリカが再び驚いた様な声を上げた。
「キリトさんのHPが減って無い……?」
シリカの言葉に私はキリトの身体を周りを見て見る。と頭の上、キリトのHPは少量少なくなるたびに勝手に回復して居た。……バトルヒーリング効果。自動で回復の魔法であるヒールが発動する物であり、10秒ごとにその体力に比例したHPを回復する。戦闘が終わった際には絶対に体力を満タンにした方が良いため、その効果はかなり大事な物なのだと言って居た。アスナの独り言が色々な場所で生かされているのはかなり良い事だと思える。お蔭で理由が理解出来て焦る必要が無いのだから。
様は敵に比べてキリトが強すぎる、と言う事だ。全員で攻撃しても10秒間で回復する量の方が多い。だからいくら攻撃されても勝手に体力が満タンになるのだ。この時点で彼らに勝機は……無い。本当に私は要らなかった様子。
キリトの目的は最初から彼らで、彼らによって全滅させられた人の仇を討つために行動をして居たとの事。余りの強さに勝てる見込みすらなくなった男達に牢獄に行く転移結晶を見せ、女性は自分のアイコンが緑故に自分を殺せばオレンジになるのだと変な脅しを仕掛けるも、凄い速さでその女性に近づいて剣を構えた。何を言っているかは聞こえない。が、ここでキリトが傍から居なくなった男達の1人が私を見た。と同時に勝機を見出したみたいに笑う。何となく次に起きる事が分かった。
「人質さえ取れれば! なっ!」
「……離れて」
予測出来た私は迫って来る男の傍に反応出来るよりも早く近づいて少しジャンプすると右膝でまず腹に攻撃、目を見開きながらくの字になって宙を浮く男を元居た場所に戻す様に回し蹴りで蹴り飛ばした。大きく飛ばされた男は白目をむいて橋に背中をこすられながら倒れる。そしてその光景に行動した男を見て勝機を見出した様だった男たちが再び恐怖に染まった顔に変化する。よく見れば蹴った男のHPが赤くなって居る。……あと少しで殺すところだったらしい。そしてこの後、一気に終息していくことになった。……最後の最後、居て良かったのだと思おう。
全員がキリトの手によって牢獄に飛ばされ、一気に平和になったこの場でキリトは私達に振り返る。今の今まで戸惑いながらも怯えて居たシリカは全てが終わった途端に緊張が解けたのか座り込んでしまう。私はすぐに駆け寄ってシリカを見れば、見上げるその瞳には涙がたまって居た。そして私にしがみ付いて「怖かったよ~!」と泣き始める始末。お姉さんを装って居たあのシリカは今ここには完全に居なかった。
「流石に色々あったからな。……とりあえずシリカが落ち着いたら戻ろう。それとハク。後で少し話がしたい」
「ん」
私にしがみつくシリカの様子を見てキリトは頬を掻きながら言った後、私にそう言って橋の脇に座り込む。今のキリトの最後の言葉。先程の人達に向けて居た視線の様に真剣な顔をして言った事から、かなり大事な話らしい。恐らくだが、私の存在について本格的に問いただすのかも知れない。私はその事にどうするべきか考えながらも、今はシリカが落ち着くまで待つことにするのだった。
明日も投稿は難しいです。