※この作品はR-18です。

Escape! 猫の世界巡り   作:ウルハーツ

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使い魔

 無事に戻る事が出来た私達は昨日シリカとキリトが泊まった筈の宿屋に戻ってきていた。既に時間は午後になって居るだろうから、そこまで時間が無い。だけど宿屋の部屋を借りて以降、キリトもシリカも何も話そうとしない。

 

 まず最初にキリトが攻略組と分かった事でずっと一緒に居る事が出来ないのだとシリカは理解していた。見た感じシリカはキリトに懐き、心強い兄の様な存在となって居るのかも知れない。そんな彼がまた危険な場所に行くと言うのは複雑な心境なのだろう。このままここに居ればキリトの強さだ、死ぬ危険性は殆ど無い。が、前線に出てしまえばその危険度は圧倒的に違う。何時死んでも可笑しく無い世界だから。

 

 次にキリトは私の存在を疑って居る。何者なのか、何が目的なのか、色々と疑問に思って居るんだろう。私は猫でシリカの欲を満たすために助けに来ました。等と答えられる訳も無く、この事に関してはどうにかして誤魔化す予定だ。

 

「……ピナ」

 

「だな。シリカ。まずはピナを元に戻してあげよう」

 

「そうですね……それじゃあ」

 

 余りにも無言が続くため、私はシリカを見ながらその使い魔であるピナの名前を言う。そもそもキリトがシリカと共に行動したのもピナを助けてあげるのを手伝うため。私は自分のためでもあるけれど、結局のところ私達の行動はピナを還してあげる事だ。だから生き返らせないの? と言う意味も込めてそれを言えば、キリトが頷いてシリカを見る。で、言われた本人は頷き返した後にメニューを表示させた。

 

 まず取り出すのはピナ自身である羽。それを部屋にあったテーブルの上に置き、次に思い出の丘で手に入れた花を取り出す。シリカがその花を羽に翳せばゆっくりと花は消滅し、次に羽が光り始める。1枚の羽は徐々にその姿を露わにして行き、やがて小さなトカゲの様な姿になる。と首を上にあげて可愛らしく鳴きながら小さく炎をその口から吐いた。シリカの使い魔である小竜、ピナの復活。

 

「ピナ……ピナ!」

 

 シリカが目に涙を浮かべてその身体を抱きしめる。羽の姿の時の記憶は無いのか、ピナは驚いた様に突然抱きしめられた事に驚いて居る。その光景は実に微笑ましく、私とキリトはそんな姿を何も言わずに見つめる事に。少しの間その再会が続き、やがて落ち着いたシリカが私達に改めてお礼を言ってくる。キリトはそれに笑顔で返し、私も頷いて返した。

 

「キリトさんは……やっぱり前線に行くんですか?」

 

「しばらく休んじゃったし、明日にでも復帰する予定だよ」

 

「そう……ですか。……ハクちゃんはこの後どうするの?」

 

「……帰る」

 

 何処へとは言わないけれど、シリカは私の答えに「そっか」と言うと顔を下げた。と、復活したピナが私の顔を見て首を傾げる。そして真っ直ぐに私の目の前に飛んでくると顔の前で浮遊しながら私の顔を覗き込んで来た。人では無い存在故、目の前に存在する私が人とは違うのだと本能的に感じているのかも知れない。私は目の前に居るピナに手を伸ばす。噛まれるかも知れないと思いつつも人差し指を頭に乗せれば……怒る様子も無くそれを受け入れてくれた。

 

「ピナがあたし以外に懐くなんて珍しい! ハクちゃん、凄いよ!」

 

 シリカの言葉に私は目の前のピナの行動をすぐに理解出来た。私もそうだが、動物と言う物は総じて悪意等に敏感。見た目良い人でも心の中に悪意を持って居る人を何となくで感じる事が出来る。私の存在に少しばかり警戒していた物の、大丈夫と認識してくれたのだろう。少しばかり嬉しくなり、余り動かない頬が少しばかり動いたのを感じた。しかし2人には気付かれて居ない様で、私は撫でる手を降ろす。

 

 ピナがシリカの元に戻り、再び再会を喜び合う1人と1匹。そんな2人を尻目にキリトは立ち上がると私の横を通過する。その時、「来てくれ」と私に言ってからその場を去って行った。シリカは今の光景が見えて居た様で、「どうかしたの?」と私に聞いて来る。私はそれに「……大丈夫」と返した後、ここに居て欲しい事を言ってキリトを追う事に。廊下を出て少し進んで角を曲がった場所に立って居た。

 

「単刀直入に聞く。ハク、君は一体何だ?」

 

「?」

 

「初めてあった時にも色々分からない事はあった。だけど今回の事で分かったんだ。昨日俺達が居た層とこの層は余りにもレベルが違い過ぎる。あそこで戦って居たのなら、この層の敵は危険すぎるんだ。だけど君は普通に戦って居た。そして出会った時からやって居るけれど」

 

 キリトは言葉を区切ってメニューを呼び出す。そしてそこに書かれているある場所をタッチすれば、何かを承諾するか聞かれて居る様な画面が出現。だがそれを承諾した時、【ERROR】と赤い文字で出現し始める。それを見た後、私に再び顔を向けた。

 

「君をパーティーに誘おうとしても出来なかった。そして何よりも君にレベルの概念が無い」

 

 NPCでも無く、プレイヤーでも無い。かと言ってバグでも無いと思ったらしいキリト。となれば他に何も思いつくものは無かったのだろう。パーティも当然、レベルも簡単に他人のは見れない仕様になって居るが、上がる時の演出は確認が出来る。それが無い私にレベルの概念が無い等すぐに分かる事だ。

 

 私はどう答えるべきか迷う。別に世界を渡らなければいけないと言う事を隠さなければいけない理由は無い。だけど言った所で信じてもらえるのかも微妙……どうするべきだろうか。……いや、一度この様な質問に答えた事がある筈だ。そう、リズベットに聞かれたあの時。確か猫である事もばれていたが、そこを誤魔化せば何とか。

 

「……分からない……気付いたら……ここに居た」

 

「どういう事だ?」

 

 私は説明をする。内容はあの扉の場所をここに置き換えた様な物で、気付いたらこの世界に居てルールなどを覚え乍ら生きて居たと言う物。だからプレイヤーでは無いけれど、NPCでも無い。私自身も自分の事は良く分からず、この世界で生きて居ると言う物。嘘をつくのは心が痛い物。でも本当の事を話すよりはずっと良い。その事を伝えた後、キリトは考える仕草をしてから私にこれからどうするのかと聞いて来る。さっきシリカにも言った様に私は帰る場所があるため、その事を言えば難しい顔をしながらも「分かった」と言ってくれた。

 

 話も終わり、私はシリカの居るであろう部屋に戻ろうとする。だがその時、通って来た角の向こう側に何かが居る気配を感じた。話に集中して居て気付かなかったが、どうやら聞かれていたらしい。

 

「……シリカ」

 

「! は、ハクちゃん……えっと」

 

 私が名前を呼べば曲がり角からシリカが姿を現す。肩にはピナが乗っており、今の会話を聞いた後だったがために少し何を言えば良いのか分からない様な困った顔をして居た。一緒に居た相手がまさか正体も分からない存在だったなど、戸惑いでしか無いだろう。そう思って居た私だが、どうやらシリカは私が思って居た以上に心の強い子であり、また優しい子でもあったらしく、突然私の両手を掴み取ると言い放った。

 

「ハクちゃん! あたし、ハクちゃんが例えどんな存在でも平気。だってハクちゃんはあたしの大事な友達だから!」

 

『そして、命の恩人!』

 

 そう言い放った言葉にキリトが先程シリカとピナが再会して居た時同様の微笑みを向けて来る。何というか……暖かい物を感じた気がして、無意識に握られた手を握り返す。シリカの言葉にピナも同意し、私は新しい友達をまた……?

 

「……ピナ……話せる?」

 

『へ?』

 

「ピナの言葉が分かるの!?」

 

 私は思わず目の前で起きた出来事について口に出してしまう。そもそも私は人間では無く、猫でありながら普通の猫でも無い。種族の違いはあるけれど、どうやら私は他種族の言葉が聞き取れるらしい。その事にシリカは目を輝かせながら食いつき、キリトもまた私の言葉には驚いて居る様子。

 

 ピナが私の言葉に驚いた後、ゆっくりと目の前に飛んでくる。両手を差し出して足場を作れば、そこに着地して私を見上げて来た。

 

『言葉、分かる? そうなの?』

 

「ん……分かる」

 

『凄い……初めて会話、出来た!』

 

 どうやらピナは誰かと話せることが嬉しいらしく、聞こえる声と共に翼を大きく広げて喜びを表現する。私も猫の姿のまま会話が出来ず、思いを行動でしか伝えられなかった経験がある故にその気持ちが良く分かる。会話できると出来ないで大きく日常が変化するのだから。

 

「ピナは使い魔でプログラムの一種の筈なのに、自意識があるのか……? あ~! 色々あり過ぎて訳わかんなくなるな!」

 

「何て言ってるの! 教えて!」

 

 キリトは私の言葉に今度はピナの存在について考え始め、シリカはシリカで私に詰めよって来てピナが言って居る言葉を聞いて来る。それから私はピナの言葉をシリカに通訳し、部屋に戻ってからもしばらく話をし続ける事になった。キリトは明日出発するらしく、今日はここでシリカと共に部屋は違えど寝泊りをする様子。それを聞き、シリカは喜んで私達3人で居られる時間を楽しむ様に笑顔になる。

 

 ピナはシリカを自分の主として最高に慕っているらしく、会話が出来ると分かると主の自慢話を始める。話をする上でシリカへの思いなども言うため、私が直球にその事をシリカに伝えれば軽く指先を甘噛みされた。どうやら自慢話と言っても本人に聞かれるのは恥ずかしい様子。それから夕日が出て来るまで話は終わらず、キリトは少し疲れた様子で借りた別の部屋に戻って行く。そして私は……。

 

「……怒られる」

 

『何に?』

 

 定まってしまった未来に恐怖することになった。

 

【綾野 珪子『シリカ』 自己顕示欲 43/100・親和欲 92/100・養護欲 0/100】

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