珍しく、私は攻略する最前線で1人になる事になった。本来ならアスナが私を離してくれる事が無かったのだが、どうやら大事な話で私と一緒の参加は遠慮して欲しいと言う事。当然アスナはクラディールに放った時の様な冷たい対応をしたが、今回はそれでも引かずに言われたために会議をして居る場所にアスナが1人で行くことになった。首輪の機能も発動して居ないため、結果として私は最前線の場所で1匹。自由の身になって居る。
逃げ出したいのが私の本音。だけどそれをするためにはまず、この首輪をどうにかしなくてはいけない。外せないのは恐らく呪いか何か。解き方は分からないけれど、呪われた装備は大抵何かの方法の末に外せる物。教会はあるらしいけど、そう言う設備がある訳では無いらしい。……何か浄化できるアイテムか何かがあれば良いのかも知れない。! あれは……。
「? ……お前、何時もアスナに抱かれてる猫だよな? やっぱりあの時の猫だったか」
私の目の前に現れたのはキリトだった。アスナはそんなに私の名前を呼ぶ訳では無いからまだ私の名前を知らない様子。そしてその正体も当然知らないから、シリカとの出会いの際にあった存在だと気付いては居ない様子。そして私はキリトの存在に希望を見出すことが出来た。もしかすればキリトなら持って居るかも知れない。私を自由にしてくれる何かを。
流石にここで人の姿になる訳にも行かず、私はキリトの足にぶつかった後に少し離れて振り返る。私の行動に驚いた後、「何だよ」と言ってくるキリト。私はそんなキリトの目の前を進んで曲がり角まで行ってから再び振り返る。
「ついて来い、って事か?」
私はキリトの言葉に頷いてから再び進む。どうやらキリトも私が頷いたのにしっかりと気付いてくれたらしく、私の後をかなりの速さで追ってきている。このまま人の居ない場所、或は何か意思を明確に伝えられる様な物がある場所に移動出来れば。
アスナの行った会議は30~60分程で終わるだろう。私が解放されてから既に10分は経って居る為、恐らく後20分程が私のタイムリミット。それまでに意思を伝えられれば……解放される。もし解放されたらまずはアスナが見つけられない様な場所に逃げよう。既にアスナの欲は満たされている様だし、リズ……よりもシリカの場所に行くのが一番かも知れない。
人の居ない場所に逃げ込んだ私はキリトが目の前に来るのを待つ。前回は黙って居たけれど、今の私にそんな余裕は無い。もう猫だとばれても、この状態から解放される事の方が優先。キリトが私を追って入って来ると、座って居る私を見て「何かあるのか?」と聞いて来る。そこで私は人の姿になるために想像をした。
「なっ!」
目の前で突然光出した猫が徐々に人の姿になる。そんな光景は当然乍らありえない事だ。驚かない方が可笑しい。そしてキリトに取って、そんな猫がどこかで見た事ある少女だったりしたら余計に驚愕でしかないだろう。
私の服は前と違う。私用の大きさになって居るYシャツと赤と黒のギンガムチェック柄のスカート。下着も上下とも貰って居て、水色と白の縞ブラと縞パン。全てアスナが用意してくれた物で、アスナに襲われた日にワンピースは破壊されてしまった。
リズの言っていた私の変化と共に自動で着ていた物を登録する機能。その機能でも流石に破壊されれば直らない様で、リズの時は全く同じ物を修復して渡してくれた。だけどアスナは同じ物を作らずに新しいこの服を私に与えた。アスナ的にこの服装が好みらしく、特にYシャツが透けて見える下着が好きなんだとか。だから私が汗を掻く事を知ってYシャツは透けやすい特注品。どう考えても無駄だと思う。
「……久しぶり」
「ハク……そうか、猫の正体は君だったのか」
私の存在を知って驚きながらも納得するキリト。普通の人よりも驚いて居ないのはキリトがゲームの事等に詳しかったからなのかも知れない。もしかすると不可思議な猫の存在と不可思議な少女、ハクの存在を照らし合わせて居た可能性も。可笑しな者同士、納得出来たのかも知れない。そもそも猫の時にもアスナにハクと呼ばれていた事からほぼ分かって居た可能性すらある。……それでもきっと訳の分からない存在である事に変わりは無いのだろうけれど。
「……キリト……助けて」
「助ける? どういう事だ?」
時間もそんなに無いため、私は直球に言う。と、キリトは真剣な表情で私に聞き返してくる。そこで私は自分が今、どの様な状態なのかを説明する。前回会った時には無かった首輪。この首輪が私の力を奪う物であり、私自身では外せない事。付けたのはアスナで、私はどうにかして自由になりたい事。それを説明し、首輪を外してくれなくてもせめて外し方をキリトの力で調べられないかと聞く。
キリトは私の首輪を対象にメニューを表示した。プレイヤーでは無い存在について居る装飾品。しばらくメニューを見続けた後、キリトはある一文を見て「これか」と言う。私からは左右反転してしまって居る為に読むことが出来ず、首を傾げてしまう。と、私の行動にしばらく黙った後、「何とか出来るとは思う」と言ってくれた。だが、その顔は少しばかり難しい表情をして居る。
「ハクの事を信じない訳じゃ無い。だけど俺にはアスナがそんな事をするとも思えないんだ」
「……どうすれば……良い?」
キリトの言う事も仕方が無い。アスナの普段の態度等は優しい副団長なのだから。私が捕まってからもキリトと共に圏内事件を解決したと聞いて居る。仲間を思い、人を思い。それでいてこの世界からの脱出を願って戦う容姿端麗な美少女。その姿をアスナが崩した事は無く、又作って居る訳でも無い。最初からアスナはそう言う性格なのだから。だからこそ私がこの様な状態で居る事をキリトは信じられないのだろう。どうすれば信用して貰えるのか……!?
「お、おい! どうしたんだよ!」
「……ア……ス、ナ……気付……いた。……隠れ……て」
突然私は首から一気に力を抜かれる感覚に襲われて地面に膝をついてしまう。驚いた様子でキリトが私に寄って来たけれど、もしも人の姿でキリトと会って居る光景を目撃でもされれば私の希望は消えてしまう。だから抜けて行く感覚の中で私はキリトに離れる様にお願いする。戸惑いながら残ろうとするキリトだが、私はそんなキリトの身体を全力で押した。力は無いけれど、抵抗は分かったのだろう。
首輪が機能し始めたと言う事は私が居なくなった事にアスナが気付いたのだろう。そして首輪にはもう1つ力を抜く以外にも機能が存在している。それが服従させた相手の位置情報を主に知らせると言う物。私は最後の最後で猫の姿になると立つのも無理となって横に倒れてしまう。離れたキリトが倒れた私に驚いてやっぱり近づいて来ようとするけれど、目だけで来ない事をお願いすれば、戸惑いながらも再び隠れた。そして私が倒れてキリトが離れた場所で此方を伺って居た状態でしばらくした後、私の目の前に人が立つ。他でも無い、アスナだ。
「ここに居たんだ。探したんだよ? さ、帰ろっか?」
私の身体を持ち上げてメニューを開き、首輪の機能を解除して歩き始めるアスナ。力が抜けた私はそんなアスナの手に抱かれたまま、隠れて居るキリトに視線を向ける。この光景が、私の言ったことが本当である事を証明する物になる筈。
キリトが離れて行く私を見ながら目を見開いて居るのが見える。目の前の光景が信じられないとでも言う様に。そして離れて行く中で、私はキリトが助けてくれることを願う。彼は言って居た、私の首輪を調べた時に『何とか出来るとは思う』と。アスナはキリトの存在に気付いて居ない様子だからキリトはこのままばれず、事実を知る事が出来るだろう。そして真剣な表情で離れて行く私にキリトは頷いた。
「今日は久しぶりに気持ち良い事、しよっか?」
私は希望を見出した。彼が私を助けてくれる未来が、そこにあるのかもしれない。私が解放されるときは……きっと来る。