※この作品はR-18です。

Escape! 猫の世界巡り   作:ウルハーツ

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クラディールの喋り、これで大丈夫か少し心配です。


危機

 渓谷の様な場所で休憩を取る事になったキリト達。それぞれ食べ物と飲み物を渡され、キリトは近くの岩に腰掛ける。

 

 今の今まで私はキリトに首輪の外し方についての説明をこっそりと受けて居た。その内容はキリトが持って居ると言う解錠の鍵を使って私の首輪を外すと言う物。何でもキリトはそれを手に入れられる場所まで態々取りに行ってくれたらしく、その鍵の効果は言わずもがな【解錠】。どんな装備であろうと例外なく外すことのできるアイテム何だとか。1度の使用で消滅する消耗品らしく、そこそこ貴重なアイテムだと言う。そんな大変な物を手に入れて来てくれたキリトに私は感謝じゃ足りないほどの恩を感じた。

 

 袋を開けて中にあった瓶と食べ物を取り出したキリト。そしてその間の中に紛れてアイテムを出現させた。いきなり道具を使う等やはり可笑しく、紛れさせて出現させたらしい。そうして手に握られた鍵。私はついにこの首輪が無くなるのだと思い、キリトに頭を下げた。無事に逃げられたら何時か必ずキリトにお礼をしよう、そう思いながら。

 

 長く歩いたキリトは流石に喉が渇いて居たのか瓶の中にあった飲み物を飲む。と同時に突然目を見開いてそれを放り投げた。余りに突然の事に私はキリトを見上げる。と、キリトはそのまま身体を背後へと倒してしまった。どうやら身体の自由が利かない様で、よく見ればキリトの頭上にあるHPバーの横には雷の様なマークが。それに気付いた時、何かが倒れる音が聞こえて私は振り返る。そこにはゴドフリーが苦しみながらうつ伏せに倒れて居る姿。同じ様にHPバーの横には雷のマークが存在していた。

 

「麻痺……毒!」

 

 キリトが辛そうに言った言葉と同時にこの場で倒れて居なかった存在が立ち上がる。それはクラディールで、笑いを最初は堪える様に震えて居た物の突然狂った様に笑い始めた。そしてその笑いを私は一瞬とは言え、聞いていた。あれは気のせいなどでは無く、本当に笑って居たんだ。この現状を作り出したのは間違いなく……クラディール。

 

 クラディールはまずゴドフリーに罵倒を始めるとその近くに寄り始めた。そして持って居た剣を……容赦なくその身体に振り下ろした。一瞬で頭の上のアイコンはオレンジ色になり、ゴドフリーの身体には傷が出来る。その傷から血が出て来る事は無いけれど、HPバーは減少した。ここは圏外であり、街の中とは違って魔物だけでなく人の攻撃を受けた場合にも体力が減って行く。そしてそれが無くなればあるのは何も変わらない。【死】。

 

 『私達は犯罪者の集団に襲われ、皆死んだ中自分だけ勝って生還』。そんなシナリオを語りながら狂った様に笑い、剣を降ろし続けるクラディールと目を見開いて成す術無くその剣を受け続けるゴドフリー。このまま続けばクラディールの思惑通りにゴドフリーは死んでしまう。クラディールが止める様子など一切無く、もし殺し終わったら次に狙うのは確実に……。

 

「ハク……逃げ……ろ」

 

「!」

 

 そう言って私に力が入らないせいで震える手を無理に上げながら差し出してくる。その手には解錠の鍵。キリトがそれを使用すると、金属がぶつかる様な音が響くと同時に私の首輪は地面に落ちて居た。クラディールは攻撃をして居るせいで気付いておらず、今この時私は自由の身に。

 

 キリトはもう一度私に逃げる様に言ってくる。ゴドフリーのHPは既に赤くなって居て、後1回でも剣を振り下ろされれば無くなってしまう。ここで私が逃げればどうなってしまうのだろう。きっとゴドフリーはあのまま殺され、次にキリトが殺される。さっき必ずお礼をすると思ったのに、恩を感じた相手なのに……そんな相手を放って置く何て事、絶対に駄目。

 

「止め、ぐっ!」

 

 キリトが私を止めるけれど、私は迷わずにクラディールに突っ込んだ。全速力での体当たり。本気でぶつかった身体はクラディールをよろけさせるのには十分で、その拍子に剣はゴドフリーの横に振り下ろされた。そしてそれを合図に気絶してしまうゴドフリー。殺せなかった事、邪魔された事で怒り狂った様な表情を浮かべたクラディールは私を見て来る。

 

「気に食わねぇ……あぁ、気に食わねぇ気に食わねぇ気に食わねぇ!!! あの餓鬼もそうだがよ! たかが猫の分際で、あの女に可愛がられてるってだけで偉い位置に居るテメェはもっと気に食わねぇ!! この下等生物がよ!」

 

 そう言って標的を私に変更するクラディール。私は振り下ろして来る剣を左右に避けてクラディールから少しづつ距離を取る。完全に私を殺すことだけを意識し始めたクラディールはゴドフリーへの攻撃を止めて私に剣を何度も、何度も振り下ろして来る。やがて渓谷の壁にまで到着した時、クラディールが再び剣を振り下ろしてくる。そしてそれを避けた時、クラディールは私にその足を豪速で放ってきた。

 

 身体が小さい私に取って、その蹴りを受ける面積は大きい。大きく飛ばされて地面を転がる私の身体を激痛の連続が襲った。身体を立たせようとする。だけど私の身体は鈍痛を訴え続け、私の意思に反して動いてくれない。徐々に近寄って来る足音と剣が地面を削り続ける音が刻々と私に死期を近づけて来る。……帰るどころか自由になった瞬間、私はここで死んでしまうのだろうか……。

 

「死ねぇぇぇ!」

 

 迫って来る剣が、私に手を伸ばして居るキリトが、この世界が、徐々に遠くに行くような気がした。そして私の意思は……途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ななな何なんだよお前は! 唯の、唯の猫だった筈だろうがぁぁぁ!」

 

 私の目の前には怯える様子を見せるクラディールの姿。振り下ろされた筈の剣はその刀身の半分から先を無くし、クラディールの手から離れて地面に落ちて居た。私は斬られた筈だった。思いを叶える事も無く死ぬ筈だった。そして意識を手放し、目覚めた時にはこの状況。私が生きて居るのは……何故?

 

 現状に混乱しながら、私は【地に足をつける】。私の身体の周りには大きな白いふわふわとするものが存在して居て、それが【私の羽】だと分かるのに時間はそう要らなかった。そして右翼の一部が浅く斬られているのに気付き、そこに意識を持っていけば……傷は何も無かったかのように一瞬で修復される。そしてその光景にクラディールは腰を抜かした様に地面に座り込み、私から後ずさり始める。

 

「ば、化物だったのかよぉ! 何なんだよ何なんだよ何なんだよ!!! あの女、この事知って隠してやがったのか!」

 

 この場に居ないアスナに向ける怒りの言葉とは裏腹に顔は恐怖に引きつって居る。そんなクラディールに私はある感情を抱いた。

 

【この男を生かして置いて良い筈がない】

 

 人を殺そうとした。目の前で、何の迷いも無く。きっとこの男はまた同じ事を繰り返す。なら今ここで、私が消してしまった方が良い。と。やろうとして居る事はきっと同じ。だけど間違いなくこの男はまた狙う。この状況に追い込んだものを、関わった物を逆恨みする。アスナを、キリトを、ゴドフリーを。……私を。

 

 私は剣を取り出す。真っ赤に染まった刀身。それが怯えるクラディールの瞳にも移った時、クラディールは私に「ヒィ! ま、まだ死にたくねぇ!」と命乞いを始めた。だけどさっき、この男は命乞いをする事さえ出来ない男を無抵抗に殺そうとして居た。そんな男に慈悲など要らない。だから私はこの男を…………

 

 落ちて居た剣を拾って必死に私に向けて来るクラディール。だけど私の羽が私の身体を意思に関係なく守り、受けると同時にその刃を今度は柄の部分まで折ってしまった。クラディールの手にあるのは柄だけ。そうして私は持って居た剣を上げ、怯えるクラディール目がけて振り下ろす。だけどその時、私の耳に微かに声が聞こえた。今の私の中にあったのはこの男を殺すことだけ。しかしそんな私の心を、思いを止め様とする声。

 

「……ろ、ハク! ……止めろ、ハク!」

 

 その声が私の耳に届いた時、剣は止まって居た。クラディールは止まった事に怯える表情のまま恐怖の余りか倒れ、残ったのは泡を吹くクラディールと瀕死で気絶するゴドフリー。そして麻痺で動けないキリトに……何故か翼が大きくなった人の姿の私。

 

 私を止めたのは他ならぬこの場で唯一私以外に意識があるキリトで、私が人を殺さなかった事に安心した様な表情を浮かべて居た。私はとにかくキリトの傍に行くと能力を使ってみる。私自身も分からない癒しの力。どうやら予想通り体力だけでなく、状態以上にも効果がある様でキリトのHPバーの横にあった雷のマークは消滅する。と、キリトは私にお礼を言って立ち上がった。そして無事なのを確認すると、私は次にゴドフリーの治療を始める。真っ赤で今にも死んでしまう状態のゴドフリー。私は手を組んで胸の前に持っていき、力を全力で使う。……ゆっくりとゲージが増え始めた。

 

「首輪の効果が無くなったならきっと今にアスナが来る。ここは俺に任せてハク。君は逃げてくれ」

 

「……でも」

 

「俺は平気だから。アスナなら事情を説明すればきっと信じてくれる。だから、行ってくれ」

 

 キリトの言葉に私はゴドフリーのHPが黄色まで回復したのを確認すると立ち上がる。そしてゴドフリーから離れ、キリトをもう一度見れば頷いて返して来た。それを確認し、私は翼を広げる。翼が発現した時に浮いて居た様に、私はこの翼で空を飛ぶことが出来るらしい。だから私は翼を大きく羽ばたかせてそのまま空へ上がり、渓谷を超えてその場を後にする。

 

 この短期間で起きた事はそう簡単に心の整理が付かない。だから私は行く当ても無く、心を落ち着かせて整理しながら空を飛び続けるのだった。

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