私達が借りて居る部屋の上。シリカが借りて居たのであろう部屋の中に、何とか落ち着いたシリカは顔を泣いたせいか真っ赤にしながら私達を部屋に招いてくれた。中に入って最初に行ったのはシリカとユイの自己紹介。シリカは見た目からまだ幼いために高い身長と言う訳では無い。だけどこの中ではダントツに高く、私がこの中では一番小さかった。だからだろう。シリカはユイの存在を認識して以降、私と出会った時以上に頑張ってお姉さんの様な振る舞いをしようとして居る様子。
ユイは最初から自分の事をあの長い名称で紹介。シリカは当然乍ら頭に『?』を浮かべてしまい、私はそんなユイに私と似た様な存在であるとだけ伝えた。既に私はプレイヤーでは無い得体の知れない存在である事をシリカは知って居る為、何となくで納得した様子。その時に私の考えて居る事を察したみたいにピナが私の頭に乗って怒りながら爪を立てて来たのは痛かった。ピナなりの励ましらしい。
ちょっとした偶然でユイとは出会い、それから一緒に行動していると私は伝える。するとシリカは私達がどうしてここに居たのかを聞いて来た。シリカの中で私と出会えた事は偶然。だけどシリカの事だから、『何か目的があるのなら自分よりも小さい子のためにも手伝ってあげよう!』とか思って居る可能性がある。まさかその目的が自分自身であるとは思って居ないだろうけれど。
シリカと前に別れた時、私が帰る場所がある事を伝えた。だけど今はその場所が無くなってしまい、ユイと共にどうにか生き長らえて居る事を説明。すると呆けたように私の言葉に固まった後、突然身を乗り出して私の目の前に顔を近づけて来る。
「じゃあ今、ハクちゃん達は帰る所が無いの!」
私はその質問に少し内心で驚きながらも頷く。と悲しそうな顔で「そんな」と言った後、座って居たベッドにもう一度腰掛けてピナと何かを話し始める。話すと言ってもシリカが言ってピナが頷き返すぐらいの意思疎通しか出来ないが、それでもお互いの考えを一致させるのは簡単だった様子。ピナが本当に元魔物だったのか。ゲームの中の存在なのかと疑うぐらい綺麗にシリカと一緒に頷き合った後。私の目の前に飛んでくる。そして楽しそうに行った。
『ハク! これから、一緒!』
「ハクちゃん、ユイちゃん。これからあたしと一緒に行動しよ!」
笑顔でそう言うシリカに私とユイは向き合う。最初からシリカと出会う事を目的として居たから、一緒に居ようと提案してくれる事はシリカの優しさも含めて2つの意味で嬉しい。ユイは「良かったですね!」と私の手を握って来るけれど、私は少し罪悪感の様な物を感じてならなかった。嘘をついて居ないけれど、本当の事も言って居ない。そんなシリカへの自分の対応。……本当にこれで良い? アスナも知って居てリズも知って居て、キリトも知って居てユイも知って居て。私はシリカにだけ教えて居ない。それじゃあ行けない気がする。
「……シリカ」
「? どうしたの?」
突然呼ばれた事に首を傾げるシリカ。彼女には知って貰おう。私の本来の姿を。それが本当の姿であり、人ですら無いと言う事実を。
アスナとリズも驚くだけだったけれど、普通に考えれば私の姿が変わると言う事は可笑しい物。怖がられても仕方が無い物。そう分かって居ても、シリカに黙って置く事の方が嫌だった私は覚悟を決めてシリカに姿を見せる。突然光出した後に居たのは猫が1匹。目を丸くしながら私を見て居るシリカはしばらくした後震え始める。恐怖を感じているのかも知れ、
「ね、ねねね、猫だ! 可愛い! 可愛いよハクちゃん! 2年ぶりに本物の猫が見れたよ! ほらピナ! これが猫だよ!」
……何で私は持ち上げられて居るんだろう。私の覚悟は何だったのかと思うぐらいに嬉しそうな表情で私を掲げ、ピナに向けて私を見せた後にその胸に抱きしめて来るシリカ。ピナもピナで『これが猫!』何て喜んでいる。……どうやらシリカは猫が好きな様子。猫の様な魔物は居るけれど、結局それは魔物であって色々と違う部分などが存在している。中には『~キャット』なんて名前の付いた人型の魔物すら居るのだから。そんな世界で猫と出会えることは無いのだろう。そして猫好きにとってその存在が居る事は……歓喜する事。
「……」
「ハクさん、頑張ってください!」
余りにも喜んで離してくれないため、私はユイに助けて欲しいと言う思いを込めて視線を向ける。だけどユイは私の思って居る事を理解した途端、私に向かって自分の両手を胸の前で握りながら言ってくる。つまり今この場に、助けは無い。
「可愛いよ~! ハクちゃんは猫でも人でも可愛いよ~! あ~幸せ」
本当に幸せそうなシリカの表情に私は少しだけならこの状態でも良い様な気がしてきた。怖がるどころか喜ばれるとは思って居なかったから流石に吃驚だけど、それ以上に私は……嬉しかった。
私とユイは自分の部屋に戻る。シリカは「私の部屋でも平気だよ!」と言ってくれたけれど、借りて居る以上は使った方が良いと思ったために私達は部屋に戻って来た。中に入って早々、「シリカさん、優しい方でした」とユイは感想を言う。それに頷いて私はベッドの近くまでついた時、突然の浮遊感に襲われる。そして気付いた時にはベッドに倒れ込んでいた。都合よくベットのある場所だったから良かったけれど、何も無い場所だったら危険過ぎる。
ユイは私がベッドに飛び込んだのでは無く、倒れたのに気付いて駆け寄って来る。だけど私は徐々に世界が遠くなる様な感覚を感じ乍ら無意識に目が閉じて行く。そして今になって気付いた。既に外は真っ暗になって居るけれど、今日は余りにも色々な事があったのだと。アスナから解放されると共に私は殺し殺されかけた。突然翼が出現することを知り、力の概念を知り、ユイと出会った逃げて来て、シリカと再会してもみくちゃにされて……余りにも濃すぎる1日。
遥か遠くから私を呼ぶユイの声が聞こえる。だけどそれすらも聞こえなくなった時、私の目の前に突然扉が出現した。目を瞑って居るから現実に出現している訳では無いだろうけれど、それでも私はその扉にどういう事なのか少しばかり混乱する。そしてまた気が付いた。確かに倒れてしまったけれど、何時まで経っても意識が途切れる事は無い。身体が動かなくなって、目を閉じて……気が付けば真っ暗な場所。多分今私は何か変な状態になって居ると言う事が理解できる。
突然、大きな轟音を立てて目の前の扉が開き始める。しかしその扉は完全に開ききらず、人が通れるスペースは開いているけれど全開にはならなかった。と同時にその扉の横に見覚えのあるものが出現する。
【ソードアート・オンライン】
【結城 明日菜『アスナ』 保護欲 MAX・癒欲 MAX・支配欲 MAX・独占欲 MAX】
【篠崎 里香『リズベット』 愛求欲 MAX・支配欲 MAX・独占欲 45/100】
【綾野 珪子『シリカ』 自己顕示欲 83/100・親和欲 MAX・養護欲 32/100】
【残り期限・15日】
所謂これは一種の……警告。今現在これだけを満たし、私に残されている時間は後15日。それまでに目の前にある扉を開ききり、私はこの世界から出なければいけないのかも知れない。15日後にどうなるのか分からないけれど、恐らく私は次の世界に行くことも出来なくなってしまうのだろう。そして残ったら私に出来るのはこの世界で生きて行くことだけ。だけどキリトは言って居た。この世界をクリアした時、私はどうなるのか? と。不確定要素が多い現状、危険なのは確実。
【残り期限・14日】
目の前の文字が1日減る。それは今もまた時間が無くなって居る証拠であり、私はこの光景に嫌でも理解せざる負えない。私に残された時間はもう少ないのだと。私はここで生きて行く訳には行かない。絶対に、絶対に帰って見せる。そう決意した時、私はまた落ちる様な感覚を感じ始める。今度は意識も薄れ始めた。きっと目が覚めれば朝なのかも知れない。ユイは心配しているだろう。起きたら謝ろうと思いながら、私は今度こそ意識を手放すことになった。