【残り期限・8日】
「また、会えるよね?」
転移門の目の前で、私はシリカとピナに見送られようとして居た。私は猫の姿。ユイは小さくなった人の姿で私の背中に跨って居る為、何も知らない人から見れば不思議な光景だろう。だが、シリカはそんな視線はお構いなしに切なそうな表情でこちらに聞いて来る。
『また会えるか?』と言う質問を私は正確に答える事が出来ない。今ここで別れた後、私は真っ直ぐリズの欲を満たすつもり。だけど満たしてこの世界を出て行った私がまたここに来れるのかなんて私自身、分からない。世界を回る事になる事は間違いないけれど、一度済ませた世界に戻って来る要素が無い限り、戻って来る事は無いだろう。そうなればここで分かれて最後、シリカと会う事は……無い。
「きっと会えます。居なくても傍に……ここに」
ユイがそう言って自分の胸に手を当てる。そう。昨日私達は信じた。傍に居なくても、覚えて居る限り一緒に居ると。だから私はシリカに頷いて返す。シリカも昨日の会話を思い出した様に「そうだよね」と言って胸に手を当てる。そして切なそうな顔から一転。笑顔になって私達に言った。「またね」と。ピナも『ハク! ユイ! また遊ぶ!』と。
私達の周りが光り始める。猫の姿だと転移をする事は本来出来ないが、ユイが居れば話は別。既に48層に行って欲しいと言うお願いはしてあり、私のやるべきことを知って居るユイはそれを了承してくれた。ユイについて何て説明すれば良いかは正直まだ余り思いついては居ないけれど、多分大丈夫……の筈。リズもアスナも、優しい人で小さな子に酷い事をする人じゃないから。
手を振るシリカが真っ白な光景と共に消えて行く。そうして見える様になったのはアスナに拘束された生活を送る以前、頻繁に目にして居た光景。ユイは「ここにリズベットさんと言う方が居るんですね」と言い、私はそれに頷いてリズの武具店へと向かう。出来る限り人目には付かない様に気を付け乍ら。そうして見えて来た武具店は……今日も人が居なかった。私が居なくてもお店は暇らしい。
「リズベット武具店……ここが目的地ですね」
ユイの言葉に私はその建物を見上げる。懐かしい建物……久しぶりに見たその光景には少し心に来る物があり、私はその場に立ち尽くしてしまう。だがユイの「入らないのですか?」と言う言葉を受け、我に返った私はそこでやっと中に入ろうとして……突然開いた扉に思わずその後ろへと隠れてしまう。徐々に迫る扉に潰されるかもとユイと共に慌てたけれど、目の前でその扉は止まった。そして
「誰も来ないわね……はぁ~」
目の前の扉を隔てた向こう側から声が聞こえる。それは正しく私が探して居たリズの声であり、その声音は何処か元気が無い。私は少し戸惑うけれど、意を決して扉からその姿をリズの前に出した。背中に小さな少女を乗せた私を見て目を見開いて居るリズに、私は『久しぶり』と言う意味を込めて鳴く。するとゆっくりと顔を下げてしまい、その表情は見えなくなってしまった。
「……よ」
≪?≫
小さく聞こえた呟きに私とユイは一緒に首を傾げる。と、バッと顔を上げたリズの瞳には涙が。驚く間も無く私は一気に持ち上げられる。ユイはその拍子に落ちてしまい、私はリズの顔の目の前に連れて行かれると……そのまま抱きしめられる。それも凄い強く。お蔭でかなり苦しい。それを伝えるためにもがけば更に強くされてしまい、これ以上されると潰されかねないと思った私は成すがままにされる事にした。
「何処に行ってたのよ! 本当に、本当に心配したんだから!」
そう言って涙を流すリズの姿は何時もの強気な態度とは違い、私はそんなリズに驚きながらも心配させた事を申し訳なく。そして心配してくれたことに嬉しさを感じた。ユイも後ろで「良かったですね」と言って居て、私はそのままリズが落ち着いてくれるまでしばらく待つことに。数十分ほど私を抱きしめたままで居たリズはやがて、涙を拭くと私を中に入れようとする。その際にユイは蚊帳の外にされて居たため、滑り込む様にして一緒に中へと入る。そして真っ直ぐに店の奥、鍛冶場の中へと入った。
「ここなら平気よね。さ、今まで何してたのか説明して貰うわ。そこの子の事も含めてね」
店への扉を閉めて私を降ろすと、その唯一の扉の前で仁王立ちする様に腕を組んで私を見降ろしてくるリズ。私の近くにはユイも控えて居て、リズは怖い顔で私にユイも含めて聞いて来る。だから私はそれに頷くと、会話をするために人の姿に戻った。リズは私の姿を見て何故か驚いた様な表情をしながらも、近くにある椅子を2つ用意。私とリズはそれに座り、私の肩にユイが座った。
私はまず、アスナの家に今までずっと居た事を説明する。するとリズは「それは知ってるわ」と答えたため、私は思わず首を傾げた。
何でもリズはアスナが私を連れてこなかった時に『体調が悪そう』と言う内容を聞いて居たとの事。最初はそれを信じて居たけれど、ある日キリトから私の現状を聞いてどうにか出来ないかと考えて居てくれたらしい。だけどそんなある日に私は行方不明となってしまい、どうにかするどころか私の居る場所すら分からなくなってしまったとの事。つまり先程の説明してほしい内容と言うのは、『私がアスナの元を離れてからどうしていたか』についての様子。私はそれを理解すると、当ても無く進んでいてユイには助けて貰い、似た存在である事から一緒に行動する様になった事を伝える。リズは少し疑うような表情をしながらも「まぁ良いわ」と答えた。
「あんたが居なくなってから大変だったんだから。アスナは憑りつかれたみたいにあんたを探そうとするわ、キリトは元気が無くなるわ……私だって……」
「……ごめん」
「はぁ。無事だっただけでも良かったわ。……親友を騙すのは少し辛いけど、アスナには黙ってて上げる。でも気を付けなさい。今あの子、普通じゃ無いから」
「?」
「後で教えて上げるわ」
リズはそう言って立ち上がると、「まだ営業中だから大人しくしてなさい」とだけ言って鍛冶場を出て行ってしまう。その表情は先程の元気の無い顔とは一変して居て、かなり心配させていたのだと改めて申し訳なく感じる。
何はともあれ無事にリズと合流することは出来た。私はリズの欲を満たすためにも、ここに留まらなくてはいけない。ユイは私から離れられない状態みたいな物だから一緒に面倒を見てもらう事に……!
「……ユイ」
「? 何ですか?」
「……私が居なくなったら……ユイ、どうなる?」
ユイは私達の存在をばれない様にしてくれている。そしてそんな行動を制限されない様に、その制限を私が妨害している様な物。だけど私が居なくなってしまったら、ユイはどうなってしまうのだろう? 助けてくれているのを助けて居るお互いの関係が、片方でも出来なくなってしまえば……きっと消されてしまう。私がこの世界から出てしまうと、ユイは消えてしまう? そんなの。
「ちょっと前に言ったばかりですよ? 忘れなければ、私は傍に居ます」
『私もです。絶対に、ハクさんの事は忘れません。例え消えるとしても、絶対に……』
そう言って笑うユイの姿に私は昨日のユイの言葉を思い出す。最初からユイは理解して居た。だけど私はそれに気付く事が出来ずに自分の事ばかりを考えて居た。守ろうと決めて居たのに、それが出来なくて、ユイはそれを覚悟すらして居た。結局私には何も出来ない? ……そんな事、無い。
「……絶対、助ける」
「いいえ。リズさんの欲を満たすことがハクさんの目的の筈です。そうしたら次の場所に行くんですよね? 私は平気です。だから」
ユイの言葉を私は首を横に振って否定する。例えユイが助けを求めなくても、私はユイを助けたい。今日を含めて後8日。8日しか無いんじゃない。8日もあると思おう。リズの欲を満たし次第次の場所に行く気だったけれど、ユイを助ける方法が見つからない限り私は次の場所には行かない。何かきっと方法がある筈。消される運命しか無いなんて……絶対に認めない。
今章、今回の話で30話になりました。目標が20~30なのに超えてしまった現状。予定では後3話程で終わりますのでもう少しお付き合いください。因みに明日は投稿できません。