リズの場所に帰ってきてから2日。寝る時などにリズが私に手を出そうとする時があったりしたけれど、ユイが傍に居る事でリズは留まってくれていた。子供に悪い影響を与える行為を流石に見せる訳には行かないと分かってくれている様子。……私は良いの?
ユイを救うための方法。それを私はあの日から探し続けて居る。だけどプログラムで構成されていると言うユイを解放する方法について、私は全く分からなかった。私に出来る事はどう足掻いてもやはり制御されてしまうのを防ぐことだけ。力に頼って居る今のままでは根本的な事を消す、又はどうにかする方法が無かった。
「ハクさん。……やっぱり「駄目」……ハクさん」
考えて居る私にユイが声を掛けて来る。だけどその内容は自分について気にしないでとかそう言う事ばかり。でもこうなったらもう私は意地でも諦めない。何が何でも方法を見つけてユイを助けたい。助けられてばかりなんて嫌。
「いらっしゃいま……って何だ、キリトか」
「何だって事は無いだろ。……少し落ち着いて来たからさ」
「そう……あぁ、ハク。無事だったわよ」
「! 本当か!」
考えて居る内に突然聞き覚えのある声が聞こえて私は座って居たカウンターの内側にあった椅子の上から移動する。そうして見えたのは武具店の内装と、出入り口の扉の前に立つキリトの姿。私に視線を向けて目をゆっくりと見開いて行くキリトに私は何とも言えない気まずさを感じてしまう。あんな別れ方をしたのだから尚更。
お互いに何も言わない私達を見かねたみたいに「とりあえず中に入れば?」と言ってくれるリズ。キリトがそれで我に返った様にリズにお礼を言うと、「営業妨害なだけよ」と返して鍛冶場への扉を開く。私は1度地面に降りると先程まで椅子に一緒に居たユイを背中に乗せて鍛冶場の中へ。その後にキリトも中に入って来た。リズはお店があるため、入っては来ない。
鍛冶場の中には椅子が別の箇所に1つとリズが何時も座って居る椅子が1つ。私は人の姿になると、遠くにあった椅子を持って何時もリズの座って居る椅子の近くに置き、その後にリズの座って居る椅子に座る。私が用意した椅子にキリトはお礼を言って座った。
「とりあえず無事で良かった。……その子は?」
「……色々、あった」
キリトは最初に私に笑顔で言った後、私の肩に乗るユイについて聞いて来る。だから私はそれだけ答えた時、ふと思いついた。キリトはゲームに詳しいけれど、もしかすればプログラムとかにも詳しいかも知れない。もしかすれば……もしかするかも知れない。
「……アスナの事……聞いた」
「! そう……か」
「……ごめんね」
私はキリトに謝る。帰って来た翌日、リズからアスナがあの後どうなったかを聞いたから。
あの事件で私は逃げる事が出来た。アスナから離れ、私は自由の身に。だけどアスナは他人から見ても分かるぐらい私に依存していて、そんな依存の相手が居なくなった後にあるのは……情緒不安定な心。何でもあの日以降、アスナは攻略に参加できる状態では無くなってしまったとの事。
キリトはあの事件をアスナと共に報告し、完全に力を無くしてしまったアスナをケアすると言う理由で一時的に退団。今は22層のとある場所にアスナと共に住んでいるとの事。同居していると言っても会話と言う会話は余り出来て居ないらしく、その代わりにアスナが言うのは私の名前だけ。キリトは偶にここに来てはその経過を報告しているらしい。そして今日来た時に言った『落ち着いて来た』と言う言葉は、普通に会話が出来る様になったと言う事らしい。少しずつ元に戻っている様子。
「……私の……せい」
「違う。アスナは……この世界で君を見つけて、癒しを得た。だけどそれに慣れ過ぎてしまったんだ。きっと」
常に傍に当たり前の様に存在して居た物が突然無くなってしまう。それは想像するのが難しい事であり、また余り考えもしない事。でもその時が来たとき、人は初めて自分がどれほどそれに甘えて居たのかを理解せざる負えなくなってしまう。そしてアスナに取って私はその1つだったのだろう。そう考えると信用されていたことの嬉しさ反面、私のせいで苦しむアスナに後悔の気持ちで一杯になる。だけど謝ろうとしても今のアスナでは合わない方が良いんだろう。やっと治って来た時に私が姿を現せばどうなるか分からない。
キリトは「アスナの事は俺に任せてくれ」と笑顔で言うと一瞬で真剣な表情になって今度は【私について】聞いて来る。今の今まで私は自分の存在が分からないで気付いたらここに居たとキリトに伝えて居た。だけどあの現象を間近で見て居たキリトに取って、私は今まで以上に得体の知れ無い。もしかすれば危険かも知れない存在なのだろう。そう思われても仕方が無い。と、思った矢先。頭に何かが乗る。それは……キリトの手だった。見上げれば、私に微笑むキリトの姿。……危険だと思って居ると言うのは私の勘違い何だと、そんな気がした。
「……信じて」
「あぁ」
ここまで来たなら、もう話してしまおう。そう考えた私はキリトにお願いをする。すると間を置かずにキリトは即答した。そして私はこの世界に居る理由を説明する。ユイの時同様に。欲を満たすために、帰るために行動する元人間・現猫の私。そんな話を聞いても普通なら信じてくれない。ユイの場合は特殊な環境だった故に信じてくれたけれど、普通の人であるキリトにはやっぱり想像のつかない話な筈。そしてその内容の中で、アスナをああいう風にした原因が私であると言う事も知る。アスナが私に依存したのは、私が自分から近づいた事が原因なのだから。そうして長い話を終えた時、キリトは難しい顔をして居た。怒ったり批難したりしないで、唯静かに。
「確かに信じ難い話だな。でも、信じるさ」
「……私のせいで……アスナは」
「さっきも言ったけどそれは違う。それに帰りたいって気持ちは……良く分かる」
そう否定して少し辛そうな顔をするキリト。家に、前の世界に帰りたいと言う気持ちは確かにこの世界に居る人々は皆感じて居る内容なのかもしれない。突然放り出され、生きる事を余儀なくされる。形は違えど、少し似た存在なんだったと私は初めて理解する。
お互いにしばらく黙って居た時、私はユイの事を思い出す。今の今まで神妙な面持ちで私達の会話を聞いて居たユイだけど、彼女もまた今現在普通の状態じゃない。何とかして救い出す方法を見つけなければいけない。そして目の前にはキリト。先程ユイの事も聞いてきてたから、説明しよう。私1人じゃ無理かも知れない。でも誰かと一緒なら、きっと……。
「じゃあユイは今ハクを守って居るって事なんだな」
「ハクさんは私を守ってくれているので、お互い様です」
「……助けられない?」
キリトは私の言葉に腕を組んで考え始める。もう既に私に残された時間は6日。リズと一緒に寝たりで最後の1つである独占欲も徐々に満たして居て、残り4日ぐらいになった頃には満たすことが出来ると思う。だけどユイが助けられない以上、私はギリギリまでこの世界に居たい。助けられると分かるまで、置いて行きたく何て無いから。
「今制限は解除されているのか?」
「ハクさんのお蔭で一部の制限のみ、解除されて居ます。今できるのは強制転移プログラムと認識障害・妨害プログラム。後はこの様に姿を変える事が出来るくらいです」
最初のは私をカーディナルの攻撃から助けてくれた物。2つ目は宿屋で値段を要らなくしてくれたもので、3つ目は私達の位置を特定出来なくしている言わば生き残る要の様な物。今解放されているのはそれだけらしく、他は私の力でも解除できないらしい。
キリトはずっと黙って居たけれど、やがて顔を上げると「駄目元だけどやって見るか」と言ってユイに何かを言う。すると驚いた様な顔をした後、目の前に私には難しくて理解出来ない画面を出して操作を始めた。何をして居るのか……。
「認識障害で自分の存在をアイテム化。種別は自動人形。……強制転移プログラムを作動します。行きます!」
突然難しい事を言いながらユイが画面の一部を押すと、突然ユイの身体が一度光る。そして掛け声と共に……ユイの姿は消えた。余りにも突然事に私はユイの居た場所を探すけれど、その姿は何処にもない。と、キリトが「成功したみたいだな」と言って私を見つめて来る。
ユイは何処に行ったのか分からず、私はキリトに質問する。するとキリトは目の前にメニューを表示。アイテムのリストを開き、そこから1つを選択。するとキリトの目の前が突然光り始める。やがて現れたのはユイの姿。涙を流して「やりました!」と私に抱き着いて来た。
「ユイは『メンタルヘルスカウンセリングプログラム』って言う存在の元に多分追われてる。だからユイ自体をアイテムと誤認させ、一度手持ちに転移して俺の所持にしたんだ。プレイヤーの持ち物を強制消去するのは流石に難しいだろうし、そもそもユイじゃ無くて唯の自動人形にしか見えない筈。これで大丈夫……だと思う。相手から見れば勝手に消失した様にしか見えないだろ」
「……ありがとう。……私……助けて貰って……ばかり」
大体は理解出来た。そしてユイが大丈夫になったと言う事もまた。だから私は私を抱きしめるユイの身体を抱きしめ返しながら、キリトにお礼を言う。と同時にユイに助けられてキリトに助けられて、自分が何も出来て居ない事に罪悪感を感じる。と、ユイが「ハクさん!」と怒る様な顔で私を見つめて来た。
「『自分を否定しないで』。ハクさんの言葉ですよ! 私はハクさんに助けて貰いました」
「俺もハクには何回か助けられてる。だから俺は君に出来る事をしたい。それだけだ」
「……ありがとう」
≪!≫
2人はそう言って笑う。だから私はまた2人にお礼を言った。何時も動かない表情も、少しだけだけど動いてくれた様な気がした。言ったことが恥ずかしかったのか真っ赤になって居る2人を見ながら、私はユイの安全が確保されたことに大きな心の閊えが取れた気分になる。リズから話を聞いてアスナの事は心配だけど、私に出来る事はきっと無い。満たされ次第。私は次の場所に行こうとこの日、改めて決心するのだった。