「そ、そろそろ俺は行くよ」
キリトが赤くなった頬を掻きながらそう言って立ち上がる。ユイがキリトの持ち物として紛れた。それはつまりこれからは大丈夫であると同時にキリトの所持品の様になって居る為、ここに居る訳には行かなくなると言う事。キリトがこの場を去るならば、当然ユイも去る事になる。だから私はキリトの言葉に頷いた後、手を出してユイの前に差し出す。ユイは私がしたいことを理解して手の上に乗った。
「ハクさん。忘れません。また。絶対にまた、会いましょう!」
「ん…………ユイを……お願い」
「あぁ。任せてくれ」
ユイの言葉に頷き、キリトに改めてお願いをする。それにキリトは頷くと、ユイは私の手からキリトの肩へと華麗に飛び移る。それを確認した後、キリトは私に背を向けてお店の方へと歩き始めた。ユイは肩の上で偶に私に振り返っているが、離れて行く者の上に乗って居る為に当然自然に距離が出来て行く。やがて扉まで到着した時、キリトはこちらに振り返って「またな」と。ユイは笑顔で手を振って、鍛冶場を後にした。既にキリトは私の存在について理解しているから、ここで分かれて最後。私と会える可能性が低い事を分かって居る筈。それを知った上でああ言ったんだろう。
閉まって行く扉にその姿を遮られた後。私は1人、この場に取り残される。あの事件の日から私はユイと一緒に居た事で、久しぶりに1人を感じる事になった。でも、不安と言う感情は無い。あるのはユイがこれから無事に存在できる様になった安心だけ。大きな目的が無くなった今、私がする事はリズの欲を満たして新しい世界に行くこと。後6日もあるのだから、大丈夫。
【篠崎 里香『リズベット』 愛求欲 MAX・支配欲 MAX・独占欲 73/100】
「何か、この感じも久しぶりね」
翌日、キリトがユイを連れて行った事を自分の目で確認して居るリズは、私とだけと言うこの状況に懐かしみを感じる様な表情でカウンターに肘をつきながら私を見て来る。確かに久しぶりに2人だけでこうして暇な時間を過ごして居る気がする。アスナに捕まって以降はここに来れ無かったし、昨日まではユイが一緒に居た事で3人だった。だけどそんなユイも居なくなってしまった今、私とリズだけの2人だけの時間と言うのは本当に久しぶり。
「あんたがここに居るって事が、あんなに幸せな事だったとは思わなかったわよ……ほんと」
そう言ってリズは私の顎の下を掻く様にして撫でて来る。と、扉が開いてお客が入って来たことによってそれを中断。「リズベット武具店にようこそ!」と営業スマイルをし乍ら接客を始める。私はそんな光景を見ながら今までの事を思い出して居た。
この世界に来てから約2年。私の年齢は既に存在して居ないのかも知れないけれど、精神的には17歳。高校2年生……。確か高校は受かって居た筈、なのに何で私はこうして欲を満たす旅に出る事になって居るのか。本来なら普通に生きて居た筈なのに、今考えればどうして私があの扉ばかりの世界に居たのかと言う事も分からない。そしてまだ1つの世界だと言うのに既に2年。世界が幾つあるかも分からないけれど、私は全てを終えた時。幾つになって居るんだろう?
「どうしたのよ、行き成り震えて」
既にお客さんが帰った後だったらしく、リズがそう言って私を抱きかかえる。「少しはあったかいでしょ?」と言われ、私はリズの暖かさを感じ乍ら考えるを止める。元の世界に帰った時にはお婆さんなんて、考えたくなかったから。
突然リズが私の身体に腕を絡めて抱いて来る。逃げられない様に、離れられない様に。見上げると幸せそうな表情を浮かべて居て、誰も居ないお店の中で悩まし気な溜息をつくリズ。すると満足したのか私を解放する。だけどその時、私の耳元でリズは言った。
「今日の夜、しない?」
降ろされた後、リズの顔を見ればその頬はリンゴやイチゴの様に真っ赤。今まで赤くなって居るのを見た事はあるけれど、ここまで赤くなって居るのは初めて。それに何時もならば私の意思は無視で襲ってくるのに……どうして今回に限って私の了承を得ようとして居るんだろう。私は思わず首を傾げる。と、リズは思いもよらない答えを言った。
「悪いとは思ったけど、その……昨日聞いちゃったのよ。あんたの事」
『!』
その言葉に私の身体は思わず跳ねてしまう。聞いて居た。それはつまり私がここに居る理由を。私がアスナと、リズと一緒に居た理由を知ってしまったと言う事。そして近いうちに私はこの世界から出て行くことを……リズは知って居る?
「別にあんたを責めるつもりは無いわよ。でももう会えなくなるって言うのは……納得出来ないのよ。ううん、したくないのよ」
「だからせめて最後の日まで」と言ってまた私を抱きしめて来るリズ。私はそんなリズの言葉に驚くしか無かった。言ってしまえば私は相手の心を埋めると言う理由で近づいて、勝手に離れようとして居る。言い方だけなら良い事かも知れないけれど、受けた本人からしてみれば勝手に現れて勝手に居なくなって、怒りの対象になると思って居た。だから、そんな事を言うリズに私は驚いて居た。
「お願い」と言ってくるリズの手は少しだけど震えて居て、私はそれに頷いて返す。するとリズは「約束だからね」と私を再び降ろし、仕事を再開し始める。と言ってもお客さんの居ない今はカウンターの内側で待って居るだけ。それからしばらくの時間。暇な時を過ごして居た。結局お客さんが来たところで私はそれを見て居るだけでしか無いため、昼寝して呆けて。また昼寝して。猫の姿だと、必要以上に眠くなって来るから時間つぶしには楽。でも、もしも早く時間が進んでほしいと思った場合。
「さて、今日はもう閉めるわよ」
『……』
外は一瞬で真っ暗になる。私にはまだ分からない事が2つ程ある。1つ目はこの時間を飛ばす事。最初はこの世界に来た最初の日にアスナを待って。次にシリカとキリトを待って居たフラワーガーデンで。そして今と、どれも時間が速く過ぎて欲しいと願った際にこの現象が起きる。これが何なのかは分からないけれど、私が待って居る時間帯にすぐなってくれるので便利と言えば便利。
もう1つがあのフラワーガーデンで起きた花の現象。あの日から今日まで、結局私の周りでもあれに関する何かが起こる事は無かった。手の中に入った様な光景だけが見えただけで、何か特別な事が起こった訳じゃ無い。だから一体あれは何だったのか、今でも分からない。と、考えて居た私は持ち上げられる。私からすればまただけど、リズからすればしばらく時間が経って居るんだろう。
この後、私は約束通り帰った後でリズと行う事になる。そしてその行動を最後に、時は来るんだろう。アスナ・リズベット・シリカの3人の欲望。それを満たした時、私はきっと次の場所への扉を開く。そしてそれは新しい世界への新しい1歩。全ては……また新しい場所で。
【ソードアート・オンライン】
【結城 明日菜『アスナ』 保護欲 MAX・癒欲 MAX・支配欲 MAX・独占欲 MAX】
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【綾野 珪子『シリカ』 自己顕示欲 MAX・親和欲 MAX・養護欲 MAX】