※この作品はR-18です。

Escape! 猫の世界巡り   作:ウルハーツ

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出立

 真夜中、私は目を開ける。目の前に居たのはリズで、寝言で私の名前を呼んでいる光景。

 

 自分がさっきまで眠って居たのがはっきりと分かる。だけど目が覚めた私の思考は寝起きとは思えない程に覚醒して居て、その理由も私の頭の中には明確に答えが出て居た。故に私はリズが起きない様に身体を起こし、猫の姿に変化する。隣にあった温もりが消えた事でリズは私の居る場所を探し始めるけれど、目が覚める様子は無い。もしかしたら終わるまで、目を覚ますことも無いのかも知れない。

 

 私は徐にリズの近くに近づくと、その頬を舐める。人の時とは違う猫としての私が、離れる事を嫌がっているのかも知れない。猫は気ままだけれど、主が居ればそこを拠点にする。だからその拠点を離れる事を本能的に嫌がって居るのかも知れない。でも私は本来帰る場所がある筈。そこに帰るために、人であるために、私はここを離れなくちゃいけない。

 

 リズから離れて私は目を閉じる。全てを終えた今、開き切らなかった扉は全開になる筈。そして瞼によって真っ暗だった視界の向こう側に私の想像通り、扉が出現する。完全に閉まって居る扉。だけど最初にアスナの欲が。次にリズの欲が。最後にシリカの欲が文字列となって現れ、やがてその扉が開かれ始めた。そしてゆっくりと開き続ける扉は目の前で一度【消滅】。

 

『!』

 

 消えた事に驚いて目を開けた時、背後に強い光が発生しているのに気が付いた。それを確認するために振り返った時、私の目の前には神々しい光を放つ【完全に開け放たれた扉】が存在。思わずその明るさに目を覆ってしまう。それは余りにも強い光。にも関わらず寝て居るリズには見えて居ないみたいで、その光を受けても尚眠り続けて居た。

 

 この扉を潜れば最後、私はこの世界に戻って来られないのかも知れない。今私の後ろで寝て居るリズも。私を拾ってくれたアスナも。忘れないと約束してくれたシリカも。私を守ってくれたユイも。私を解放してくれたキリトも。皆、会えなくなるのかも知れない。場合によってはこの世界。もし戻って来たとしても、誰かが居なくなってる可能性だってある。……誰かが死んでいる可能性が。

 

 私はこの扉を潜る意味を理解した上で、歩き始める。皆と離れるのは嫌。でもその事があった上でも私は帰るべき場所に帰りたい。キリト達がこの世界で帰るために戦って居る様に、私も帰るために進まなければいけない。この世界でやる事が無いのなら、私は次の世界に行くしかない。だから私はこの扉を潜る。……だけどもし叶うなら、私は皆が死んでしまわない事を。また会える事を、祈ろう。それだけが私に出来る事だから。

 

 私が扉の中へ一歩足を入れれば光に包まれる。寝て居るリズの姿がその光に飲まれる様にして薄れて行き、それと同時に開いて居た扉が私を中に迎え入れた事でゆっくりと閉まって行く。最後に見えたのはリズの寝顔と……そんなリズの目の前に突然出現する綺麗な【1輪の黒い花】。それが何なのかを理解する間もなく、扉は完全に閉ざされる。そして私は再び、無数の扉の前に存在することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハ……ク? あぁ……あああ、嫌ぁぁぁぁぁ!!」

 

 22層の小さなログハウス。その1室のベッドで横になって居たのは結城 明日菜事アスナだった。アスナは突然何かに気付いた様に叫び始め、その声は真夜中のログハウスに響き渡る。そしてそれを聞き、血相を変えて部屋の中に入って来たのはキリトとユイ。まるで壊れたように叫ぶアスナに『どうしたんだ!』とキリトが質問すれば、アスナは髪を振り乱しながら呟き続ける。

 

「居ない。もう……居ない……。ハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ないハクが居ない!!」

 

 まるで憑りつかれたように言い続けるアスナにキリトは恐怖に近い物を一瞬感じる。と同時にハクがこの世界から出て行った事を悟った。すると突然アスナの目の前に【1輪の黒い花】が出現する。何処から来たのかも分からないその花。それはアスナの目の前で軽く光ると共にその花を散らす。と同時にアスナはまるで事切れるかの様に身体を倒してしまう。

 

 突然倒れてしまったアスナに驚いて生死を確認するキリト。死んでしまって居る訳では無く、本当に眠ってしまっただけの様で安心する。そして目の前に現れた花の存在についてキリトは考える。が、その前にキリトの目の前に同じ様にして花が出現した。それは光を放ち、アスナの時と同じ様に散るのだろうと判断する時。ユイが焦った様に『それから離れてください!』と大声で叫ぶ。頭の回転や理解力が高いキリトはユイの言葉にすぐにそれから離れると、花は何も無い所で勝手に散って行く。それが何だったのか分からずに混乱する中、アスナが徐に目を覚ました事でキリトはすぐに近寄った。

 

「アスナ! 大丈夫なのか!?」

 

「あ……れ? キリト君? 私……どうして」

 

「ママはハクさんの名前を呼びながら、気絶してしまったんですよ?」

 

 目が覚めたアスナはキリトの存在を認識した後、自分が何をして居たのか分からない様に首を傾げる。その事にユイが説明をした時、アスナは不思議そうな顔をして首を傾げる。ユイの事を忘れて居る訳では無い様子だが、この時2人は何か嫌な物を感じた。そしてそれは現実になってしまう。

 

「ハクさん……? 誰の事?」

 

「なっ! 何言ってんだよアスナ、ハクだぞ」

 

「うん。初めて聞いた名前だよ?」

 

 当たり前の様に言うアスナ。今までしっかりと会話が出来て居なかったキリトとユイはそんなアスナの対応の仕方等からそれが嘘で無い事を理解する。そしてその日は夜遅くと言う事もあり、アスナの記憶が消えてしまった事を心配しながらを次の日へ。

 

 アスナはすっかり憑き物が取れた様に元気を取り戻し、リズに会いに行くとキリト達に言った。結局覚えて居ないアスナにリズなら何とか出来るかもと考えるキリト。思い出してしまえばまた辛い事かも知れないが、忘れてしまうのはもっと駄目だと感じる故の行動。だがそれすらも無意味と化してしまう。

 

「ハク? 誰よそれ。そんな奴知らないわよ?」

 

「ほ、本気で言ってるのか?」

 

 リズベット武具店に来てリズと会話をした時、ハクの話題を出して最初に返って来たのはアスナと同じような回答。キリトはそれに「嘘だろ……」と言いながら1歩ずつ下がると、ユイが「シリカさんなら!」と思いついた様に叫ぶ。ユイからシリカと共にハクが行動して居た事を聞いて居たキリトはアスナ達が止めるのも無視してシリカの居るであろう階層まで移動。ユイの力ですぐに場所を見つけ出す。

 

「あ! キリトさん!」

 

 キリトの姿を見て大きく手を振って来るシリカに。何時もと変わらぬシリカにキリトは少し安心感を抱いて居た。が、すぐにその安心感が間違った物だと言う事だと判明する。

 

 ユイがキリトから飛び退いてシリカの目の前に移動すると、シリカは「ユイちゃん!」と友達に会えた喜びで笑顔になりながら手を差し出して、ユイを受け止める様に乗せた。自分を覚えて居る事を確認したユイはシリカに問う。「シリカさんならハクさんの事、覚えて居ますよね?」と。だがそのユイの質問に首を傾げるシリカ。まさかと思った2人だが、

 

「う~ん、あたしは知らないかな。ピナは分かる?」

 

『キュイ?』

 

 無情にもシリカは考えた後に答え、ピナに聞いてみれば首を横に振ってピナも答える。その事にユイは絶望した様に膝から崩れ落ち、シリカは「どうしたの!?」と焦ってユイの心配をする。そんな光景を見ながらキリトは同じく絶望した表情で空を見上げた。雲の無い快晴。だがそれを見るその心は余りにも曇って居た。今起きて居る現状に、嘆くしか無いのだから。

 

「どうなってんだよ……」

 

【自分とユイ以外の皆がハクの存在を忘れて居る】事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に見えた花は私がフラワーガーデンで触って、消えてしまった花に似て居た。何か効果があったのか、それはもう確かめる事が出来ない。既に私はこの空間に入ってしまったのだから。

 

 目の前に広がる無数の扉はどれも閉じて居て、私が次に向かうべき場所が何処なのかを明確に表してはくれない。と、私の背後。【ソードアート・オンライン】の世界に繋がる扉が強い光に飲まれて消滅して行く。どうやらその世界の人達の欲を満たせばクリアとなってその入り口が消えるらしい。……もうあの世界へと繋がる道は何処にも無いと言う事。

 

 大きな音を立てて私の遥か前方にあった扉がゆっくりと開き始める。どうやら一番近い扉とか自分が選んだ扉とかでは無く、決められた扉に決められた順序で入らなければいけないらしい。私は数ある閉じて居る扉を素通りし、その開いて居る扉の前へ。初めて世界を渡った時と同じ様にそこに足を踏み入れる。だけどその時、前回と違う事が起きた。踏み入れた足は地に足を付けずに落下してしまったのだ。

 

 幸いな事に身体が猫だったため、脇辺りを強打するだけで落下はしないで済んだ。だけどこれで分かる事は、この先はどうやら空中。地面に扉が出現すると思って居たけれど、場所は決まって居なかったらしい。それが分かった私は小さな翼を力を使って大きくする。

 

 ユイと一緒に居た際、私は力がどれだけ持つのかを検証してみた事がある。私が翼を出現させられる、つまり守りが強固になって空を飛べる時間は凡そ1分。それ以上は持たずに勝手に消滅してしまう。連続で発動する事は可能だが時間が半減するらしく、2回目は30秒。3回目は15秒。その後は丸1日発現すらしなかった。だから一度飛んだら一気に下降するなりして早めに地に足を付けないと危ない。落ちて居る最中に発現何て怖くて出来そうにないから。

 

 私は一気にその場から飛んで扉を通過する。瞬く間に扉は閉まり、私は雲を突き抜けて真っ直ぐ一直線に地面目がけて下降。やがて見えて来るのは……何時までも続く雲の風景だった。余りにも長い雲の感覚に私は嫌な予感を感じる。やがてその予感は当たり、翼の所要時間がすぐに経過。それでも終わらない雲の中に私は投げ出されてしまった。

 

 自然落下する身体。翼を出してからもう1度出してもこの雲が無くなるかどうかは分からない。確実な時に出すべきだと思い、私はその落下に身を任せる。そうしてしばらく落下をして居た時、私は遥か遠くにこの世の物とは思えない程の絶景を見つける。そして、それと同時に私と同じ様にして落下している人達を視界に捉えた。どうして私と同じ様に落下しているのか、私には分からない。だけど人が居る以上、無闇に力を使う訳にも行かない。

 

 ずっと下に大きな湖が見える。このまま落下すれば私は、私達はあそこへ着水する筈。私は来るであろう衝撃に備えて、目を瞑る。やがて大きな音と共に、5つの水柱が湖に出来上がる事になった。




色々思うところがある方も居ると思いますが、今回の話で今章は終了です。次章などの予定も含め、下記に記載させていただきます。

何時かの後書きでも記載しましたが、次章の投稿は大きめに開けさせていただきます。今回失敗しましたが、半分。10~15話ぐらいのストックが出来次第投稿を再開する予定です。再開された際には終わりまで連続で投稿出来ればな、と思ってます。

何となく次章の舞台。予想がついてる方も居ると思いますが、ストーリーでのハクの活躍は一時停止させて頂きます。引き続きこの作品を読んでくだされば幸いです。以上です。

※今回の事に伴い、少しタグを変更しました。
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