呼ばれた問題児たち。紛れた翼猫
湖に勢いよく着水した私達。普通の湖じゃ無かった様で、何かの膜を破る様にして着水した私達は怪我も何もして居なかった。水の中に入ったため、ビショビショになってしまっては居るけれど。
犬掻きならぬ猫掻きで湖から外へと上がり、水に濡れて重くなってしまった毛の水分を飛ばすために身体を大きく揺する。私を中心に地面が濡れて行き、しばらくやれば少しは身体が軽くなった。それでも乾き切らない部分はあるため、そう簡単にスッキリは出来そうに無い。と、私と同じ様に着水した者の1人がこちらをジッと見て居るのに気が付いた。手には三毛猫を抱え、私を見つめて来る少女。
少女がこちらに来ようと足を進めだした時、別の人達に話しかけられてその行動を中断する。私と共に落ちたのはヘッドホンを付けた青年と育ちの良さそうな少女。そして私を見て来ていた先程の少女とその少女が抱える三毛猫の計3人と2匹。猫である私達を尻目に自己紹介をし始める3人だが、どうにもそれぞれが変わった雰囲気を醸し出して居る。特に青年、逆廻 十六夜と言う名の彼は大人しく出来無さそうな雰囲気がある。一言で表すなら……そう、【問題児】だろう。
「で、春日部さん。抱いて居る猫はそうでしょうけど、あのこっちを見て居る猫も貴女の飼い猫か何か?」
「違う」
どうやら私を見て居た少女……春日部 耀だけでなく、他の2人も私の存在に気付いて居た様子。自己紹介が終わった後、私の存在に育ちの良さそうな少女……久遠 飛鳥が私の事について耀に質問した。耀が三毛猫を抱えて居る為、猫関連で彼女の猫だと予想した様子。だけど私も耀もお互いに当然知らないため、飛鳥の質問を耀は首を横に振って否定した。
先程から気になって居たけれど、3人の居る場所の向こう側にある森。その中に誰かが居る気配を私は感じて居た。こちらを観察する様にして見て居るその視線に敵なのか味方なのかの判断をつけることが出来ない。故に私はそれが何なのかを確かめるため、森の方へと歩き始める。突然動き出した私を3人が見て来るけれど、私が向かう先に気付いたのかその視線が外れるのを感じた。
気配を感じる場所にたどり着き、そこにある草を掻きわけて中を覗いた私の目に飛び込んで来たのは……スカートを履いて居る兎だった。ウサギと言っても女の人の姿に兎の耳を付けたまるでコスプレの様な姿。そんな存在に驚くのと同時に私は少しこの光景から見える景色に違和感を感じた。完全に真下に居るにも関わらず、その人のスカートの中が見えない。見たい訳では無いけれど、この位置からなら普通は見えるため、それに私は違和感を感じた。と、私の存在に気付いた女の人が人差し指を立てて静かにするような仕草をしてくる。ばれて居ないと思って居る様子。でも、完全に気付かれていると思う。その証拠に女の人の背後には何時の間にか耀が立って居た。そしてゆっくりと手を伸ばし、耀は容赦なく女の人の兎耳を引っ張った。結果、女の人の悲鳴が周辺に木魂する事になる。
耀の行動によって十六夜と飛鳥の2人も同じ様に女の人の兎耳を引っ張ると言う行為を開始。どうやら本物らしく、引っ張られるたびに悲鳴を上げる女の人が少し可愛そうに見えてならなかった。そしてそんな光景を見ながら私は、
『わいは三毛猫。お前さんは?』
『……ハク』
耀が抱えて居た三毛猫と話をして居た。私の名前を聞かれた際、少しだけ迷ってしまった。だけど少し考えた結果、今の今まで使って来た名前をこれからも使う事にした。人だった時の名前は覚えて居るけど、今の私の身体は完全な別者。故にこの身体にはこの身体の名前があっても良いと思う。……にしても目の前の三毛猫、まさか名前も三毛猫とは少し驚き。特に付けられて居ない様子。
『あの通りお嬢は好奇心旺盛でな、何となく付き合い長くなりそうやから仲良うしてくれると助かるわ』
未だに悲鳴を上げる女の人の耳を2本纏めて片手で掴んでいる耀の姿に少しだけ恐怖に近い物を感じてしまう。もしもあれが私だったら。羽などを触られたりしたら……中々に恐ろしい。三毛猫には悪いけれど、出来る限り関わらない様にしたい。だけど私の願いは空しく消える事しか出来なかった。今目の前に存在する人達を見て居た時、あの感覚が私を襲ったから。
【問題児たちが異世界から来るそうですよ?】
【久遠 飛鳥 変化欲・求知欲】
【春日部 耀 親和欲・求知欲】
【黒ウサギ 承認欲・養護欲】
……この場に居る内の3人。十六夜と三毛猫を抜いた女性たち全員が今回の対象者らしい。まだこの世界に来て1時間も立って居ないため、これから人も欲も増えて行くのかも知れない。この世界でどれほどの時を過ごすことになるのかは分からないけれど、私に出来る事はまた最初から頑張って行くしか無い。だから私は三毛猫の言葉に頷いて返した。
名前を見て少し世界の名前が変わった題名なのが私は気になる。前の世界では【ソードアート・オンライン】と言われて世界の事だと認識出来たけれど、今回の題名。【来るそうですよ?】とは誰に言って居るのだろう。最初の【問題児たち】と言うのが目の前の3人の事なのは大体予想が付くけど。
とにかく、私はこの人達について行かなければいけないらしい。やっとの事で解放された女の人……黒ウサギは地面に四つん這いになりながら疲れ果てて居た。だが、そんな黒ウサギが疲れて居る現状に気遣いも無く十六夜は説明を要求。余りの扱いに黒ウサギが可愛そうに見えたため、その傍に近づいて元気が出る様に傍に近づいて鳴いてみる。私の行動の意味が伝わったのか、黒ウサギは涙を流しながら私に「お猫様ぁ~!」と抱き着いて来た。けど私にその手が触れる前に、私は別の誰かに持ち上げられる。結果、空を抱いた黒ウサギは地に伏せた。
「良いから早く説明して頂戴。そしたらこの子、渡してあげるから」
「うぅ……では定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ、【箱庭の世界】へ!」
私を抱き上げたのは飛鳥だったらしく、黒ウサギが私を物欲しそうな顔で見つめて来る中。飛鳥の言葉で立ち上がると一瞬で切り替えて私達に言い放つ。そこから始まるのは長い説明。要約するとこの場に居る皆が持って居るらしい【力】は【ギフト】と呼ばれる様々な恩恵であり、この世界ではそれを使って【ギフトゲーム】と言う物を行う事が出来る。またコミュニティと呼ばれる物が存在し、どこかに入る事が絶対。ギフトゲームでは何でも様々な物を掛ける事が出来、己の力で手に入れたい物は手に入れられる。との事。ゲームで賭けをして勝てば手に入り、負ければ失う。良くあるルールだと思う。
黒ウサギが自分のコミュニティでもっと詳しい説明などをすると提案する中、十六夜がそれを止める。何か期待したような表情をして聞きたいことがあると黒ウサギに言えば、一番の問題児故に身構える黒ウサギ。だけどその構えは無意味だった。十六夜の質問は唯一言。
「この世界は……面白いか?」
「……YES! ギフトゲームは人を超えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します!」
聞かれた内容に少し固まった後、黒ウサギは笑顔で答える。それを最後にこの場での説明会は終了。私達は黒ウサギの言うコミュニティに移動する事になった。そしてその際、先程飛鳥が説明が終わり次第私を渡すと約束して居たため、黒ウサギが「お猫様をこちらに!」と飛鳥に言う。何時の間にか私は黒ウサギに求められる存在になって居た。が、黒ウサギの言葉に飛鳥は無情にも「嫌よ」と返答。それには黒ウサギは勿論、私も驚いて飛鳥を見上げた。
「この子気持ち良いし、貴女は案内があるでしょ?」
「案内なら抱きながらでも問題ありません!」
「そう。でも嫌よ。離したく無いもの」
飛鳥が譲らない事に絶望した表情で肩を落とし、みんなの前を歩き始める黒ウサギ。私はこの後、唯飛鳥に抱き上げられながら黒ウサギの言うコミュニティに向けて移動するのだった。