お店を閉めようとして居た事から既に片付けが始まって居たらしく、白夜叉の私室へと集まる事になった十六夜達。私もそれに付いてきた結果、同席していた。未だに飛鳥の腕の中だけど。
扇子を持ちながら話をする白夜叉はコミュニティ【サウザンドアイズ】の幹部で、そんな彼女から外門や箱庭の階層に関する説明等をしてもらい、地図などを渡されながら会話を続けて居た。そしてその話を長々と聞き続ける中、私は1つ希望を抱いた。もしかして、もしかすると
『……バウムクーヘン……食べれる……!』
「……?」
例えの中に出て来たから。【バウムクーヘン】と言う言葉が。私の声が聞こえたのか、私に視線を向けて首を傾げる耀。でも今私の中にあるのは食べられるかも知れないと言う期待だけだった。仕方ないと思う。名前を聞く事があったとしても、前の世界はゲームの中の世界。バウムクーヘンどころか私の知って居る食べ物は殆ど無かった。似た様な物があってもやはり別物。だけどこの世界でなら違う。私が居た世界にあった食べ物がこの世界に存在している可能性がある。
話は大きく変わり、十六夜が倒した蛇神と言う存在の話になる。十六夜が世界の果てを見に行った時、その場所で倒したと言う蛇神。その際に貰った水樹と呼ばれる物を黒ウサギはずっと持っており、白夜叉はそれをどうやって手に入れたのかと言う質問をした事でその話は始まった。黒ウサギはその質問に何故か自分が誇らしげに「十六夜さんが素手で叩きのめしたのですよ!」と返答。白夜叉は驚いた様子で「もしや神格持ちの神童か!?」と質問するけれど、黒ウサギはそれを否定した。正直十六夜が凄い相手を倒した事ぐらいしか分からず、神格などの説明が無い私には後半理解出来なかった。
何でも十六夜が倒した蛇神に力を与えたのは目の前に居る白夜叉本人との事。十六夜は当事者で、黒ウサギは見て居た故に驚いて居るけれど飛鳥達や私なんかはそれがどれほど強いのか分からない。でもその白夜叉の言葉に十六夜が「じゃあお前はあの蛇より強いのか?」と質問すれば、白夜叉は何事も無い様に答えた。
「当然だ。私は東側の
東側では並ぶ者の無い最強の主催者。つまり東側では白夜叉が一番強いと言う事であり、その事に十六夜達3人は突然立ち上がった。何となく考えて居る事は分かる。目の前に居る白夜叉を倒すことが出来ればその時点でノーネームは【東側最強】になれる。だからこの場で勝負を挑んで勝ってしまおうと言う事なんだろう。十六夜がどれほど強いのかは分からないけれど、今までと言い常に余裕を持って居る事から相当の自信がある様子。黒ウサギが立ち上がった3人を抑えようとするけれど、白夜叉が「良いよ」と持って居た扇子を黒ウサギに向けて止める。
「私も遊び相手には飢えて居る」
そう言って同じ様に立ち上がる白夜叉。私は飛鳥に抱えられたままのため、その場から飛び退いて別の場所で様子を伺う事にする。……黒ウサギの近く辺りが一番良い。黒ウサギも現状に慌てて居て私に気を使う余裕は無さそうだから問題無い筈。
白夜叉が移動する私を見つめて居たけれど、私が黒ウサギの近くに座るのを確認すると「1つ、ゲームの前に確認して置く事がある」と十六夜達に言う。今からでもすぐに始めようとして居たためか、十六夜は眉をしかめて「なんだ?」と質問。そこで白夜叉は何かを取り出した。それは1枚のカード。そのカードにはサウザンドアイズの旗印であろう紋が入っており、それを取り出して白夜叉は言い放った。
「おんしらが望むのは【挑戦】か? もしくは【決闘】か?」
その言葉と同時に私達の居た場所は一変する。和室だった場所は一気に別世界と貸し、気付いた時には遥か向こうに大きな山が。そして何よりも目立つのは……水平に周る太陽。余りの出来事に飛鳥達は勿論、余裕を持って居た十六夜でさえ驚いて居た。私も当然驚き、思わず後ろに一歩下がってしまう。と、驚いて居た黒ウサギが私に気付いて「お、お猫様……」と不安そうな面持ちで私を抱き上げて来た。やっと解放された筈なのにまた自由を……。まぁ、黒ウサギも不安なのかも知れないから今は良い。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は【白き夜の魔王】。太陽と白夜の星霊、白夜叉。お主らが望むのは試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」
幼い少女とは思えない雰囲気を出して居る白夜叉の姿に3人は答える事もせずに黙って居た。今の今まで普通に会話をして居た相手が自分よりも遥かに強い力を持って居る……戸惑いもするし恐怖もする。そしてそこに追い打ちを掛ける様に白夜叉は言う。挑戦なら手慰み程度に遊び、決闘なら【魔王】として命と誇りの限り闘う。と。しばらくの沈黙の後、静かに十六夜が両手を上げて降参のポーズを取った。その行動に白夜叉は小さく笑い、今の今まで十六夜の傍に居た黒ウサギや飛鳥達は驚いてしまう。あの十六夜が降参の意を示す事自体、そうそう無い事だと1日も一緒に居ないながら分かるから。
「参った。やられたよ、降参だ。今回は大人しく試されてやるよ」
それでもあくまで『試されてやる』と言うあたり、十六夜らしいと言えばらしい。白夜叉もその言葉に笑いながら飛鳥達にも答えを聞いた。勝ち目の無い相手に命と誇りを賭けて戦うのは勇気と言うより無謀。故に2人も白夜叉の言葉に十六夜と同じ様に強がりをしながらも試される。つまり挑戦を選んだ。そしてそこで私を抱いて居た黒ウサギがやっと解放された空気に声を上げる。十六夜達と白夜叉の両者ともに怒り、最後に白夜叉に「魔王だったのは何千年も前の話じゃないですか!」と注意。その言葉に十六夜達が反応した。【魔王】としてとは言って居たけれど、どうやら上に【元】が付くらしい。
何はともあれ十六夜達は挑戦と言う形になった。そして白夜叉がどんな内容にしようかと考え始めた時、大きな鳴き声が私達の耳に聞こえて来る。獣の様な鳥の様な、曖昧な鳴き声。そしてその声を聞いて耀が驚いた様に「今の鳴き声、初めて聞いた」と呟く。動物と話せる事から動物に詳しいのかも知れない耀が聞いた事の無い声となると、この世界にしか居ない生き物なのかもしれない。そしてその声を聞き、「あやつが打って付けかもしれんの」と呟く。そして遠くに見える山に向かって手招きをした。やがてその行動によって何かが呼ばれてくる。それは……巨大な獣が翼を広げて居る姿。鷲の上半身に獅子の下半身を持つ生き物。
「グリフォン! 嘘……本物!?」
「如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。【力】・【知恵】・【勇気】の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」
耀がその姿を見て驚き、白夜叉が紹介をする中。グリフォンはその身体をゆっくりと地面に付ける。私はそんなグリフォンに……違和感しか無かった。確かにあれはグリフォンで間違いないと思う。だけどそれが【1匹】出たところでそこまで驚けなかった。だってアスナに捕まって攻略に連れて行かれていた日々の一時。グリフォンを、見た目は違うけれど普通に敵で見て居るから。
ふと気づけば3人が1枚の輝く羊皮紙を手に取って見て居る姿があった。あの紙こそがギフトゲームをする上で大事な内容が掛かれている