ノーネームに無事帰還した私と黒ウサギ。黒ウサギは私の言った言葉に困った様な表情を浮かべているけれど、こればかりはきっと本人が自分で自覚しなくてはいけない事だと思う。だから私は帰還と同時に黒ウサギと別れ、自分に充てられた部屋に向かう。どうやら大浴場で気絶してしまった後、目を覚ましたあの部屋は私に充てられた部屋らしい。猫相手にどうかとも思うけれど、人になれるのだから一応は【1人】と見てくれているらしい。……位置はペットだけれど。
ベッドの上で、私は今後どうするべきなのかを考える。ギフトゲームは出来ず、吸血鬼は救えない。黒ウサギに取って大事な仲間なら、黙って見て居る訳にも行かないだろう。かと言って、私に出来る事と言われても無いに等しい。……私があの男の物になれば可能なのかも知れないけれど、やはりそれは嫌。何をされるか分からないし、第一欲を満たす対象はこちらに居る人達だから。
『ハク、居るかしら』
しばらく考え事をして居た時、私の部屋をノックする音の後に飛鳥の声が聞こえる。置いてきてしまったけれど、無事に帰って来た様子。私は扉に向かい、飛鳥を入れるためにその扉を開く。廊下には少し顔を下げ、浮かない表情をする飛鳥の姿。「入っても良い?」と言って来たため、私は頷いて飛鳥を部屋の中に入れる。そして先程と同じくベッドの上に座り、入って来た飛鳥に視線を向けた。と同時に飛鳥の目が私を見て、飛鳥の口が私に告げる。『答えなさい』……と。
「貴女はあの男の元に行くつもりで居るの?」
「……無い」
別に隠すことでも無いけれど、私の意思とは関係なく口が飛鳥の問いに答える。そしてその答えに飛鳥は安心した様な表情を浮かべ乍らその支配を解き、「ごめんなさいね」と謝って私を見て来た。その目には安心して居ると同時にどこか怒って居る様な、そんな様子が見える。
「無いなら無いで質問した時に答えなさい。……貴女も黒ウサギみたいに自分を犠牲にしようとするんじゃないかと思った物」
「……無理矢理……何故?」
「もし行くつもりでも『行かない』って答える可能性があるからよ。貴女がどう思って居るか、それを知りたかっただけ」
飛鳥は続ける様に「だから安心したわ」と言うと、ゆっくり私に近づいて来る。そして私の目の前に立ち、その手を私の頬に伸ばして来た。飛鳥の柔らかい手が私の頬に触れ、その暖かさが伝わって来る。人の姿をして居ても猫の特性は残って居るのか、喉へと移動して擽られれば思わず目を閉じてしまった。と、突然飛鳥の手が私に触れたまま停止する。目を開けば頬を赤くして私を見て居る飛鳥。どうしてか分からず、首を傾げると同時に飛鳥が突然私の両肩を軽く押して来た。余りに急な事だったため、私の身体は抵抗も出来ずにベッドに倒れてしまう。そして、そんな私の上に身体を少し被せる様にして飛鳥がベッドに乗って来た。
「何故かしらね……貴女が可愛くて仕方が無いわ」
「……飛鳥も……可愛い」
「嫌味にしか聞こえないわよ? そうね……飼い主の質問に1回目で答えなかったペットには、軽くお仕置きしてあげるわ」
飛鳥はそう言って私の髪を撫で始める。黒ウサギが迷って居る件があるにも関わらず、こんな行動に出てしまうのはきっとリズの時にも大浴場の時にもあった【魅了】が原因なんだろう。詳しい事は分からないし、ギフトカードに出なかった事から能力と言う訳では無い様子。それでも確実にまるで何かに憑りつかれた様に行動する飛鳥に私はどうするべきか考える。別に飛鳥の欲にこう言う行為を求めて居る物は……!?
【久遠 飛鳥 変化欲 38/100・求知欲 42/100・支配欲 7/100】
気分の悪さと共に出て来た内容はこのまま身を委ねろとでも言うかの様な意図を感じさせる。誰がして居るか等分かりはしないけれど、今飛鳥が私を『支配したい』と思って居るのは間違いない。リズの時もアスナの時も、【支配欲】を満たすために行ったのはこう言う行為や相手の元に置かれている事。……このままされるのが私の目的を果たす上では一番良い行動なんだろう。
ゆっくりと髪に触れて居た手がまた私の頬を、喉元を触り始める。さっき同様に目が無意識に閉じてしまい、その心地よさを感じる。そして飛鳥の手が喉元を離れ、ゆっくりと胸元に移動し始めたその時。突然の轟音と共に私の部屋の扉が本来は横開きな筈にも関わらず、真っ直ぐ倒れながら開いた。それを行ったのは十六夜の様で、片手に重そうな布袋を抱え乍ら中に入って来ると同時に面白そうな目で私達を見て来る。
「おっと、取り込み中だったみたいだな。俺に気にせず続けてくれて良いぜ?」
「……はぁ。貴方のお蔭で一気に冷めたわよ。悪かったわね、ハク」
「ん」
十六夜のニヤニヤとした笑いに魅了されていた飛鳥は何時もの飛鳥に戻り、溜息をつきながら私から身体を離す。ベッドの上に倒れていた身体を起こし、私はベッドに座る様に。飛鳥は私の前に立ち、十六夜は扉の前で「何だ、止めるのかよ?」と少し残念そうな声を上げる。そんな彼に飛鳥は少し苛立った様な表情と声音でこの部屋に入って来た理由を質問。すると十六夜は再び笑いながら袋を私達に見せて来る。十六夜曰く、『お見上げ』らしい。そしてその袋を開けば、中には丸い大きな玉が2つ。
「……何? ……これ?」
「有り体に言えば、【ペルセウスへの挑戦権】。だな!」
ごく普通に言った十六夜の言葉に飛鳥は絶句し、私は目の前の玉を見続ける。十六夜曰く、この2つの玉を持って行く事で、ペルセウスへのギフトゲームが可能との事。どうやら私達が帰るあの時、白夜叉と話をして居たのはこの事だったらしい。だけどこの2つの玉を手に入れるのはきっと難しい事。最初にあった時に彼の事を世界の名前もあって【問題児】と考えた事があった。今までも何となくそんな雰囲気はあったけれど、どうやら私のその考え方は間違って居なかった様子である。だけどきっと、上に付ける事が出来る。【頼もしい】……と。
十六夜のお蔭でペルセウスにギフトゲームを挑めることになった【ノーネーム】。十六夜の行動に怒りながらも感謝していた黒ウサギはその後、2つの玉を手にあの時話し合いに居た男性……ルイオスに挑むことを告げたらしい。そうしてすぐにそのギフトゲームの日はやって来る訳だけれど……1つだけ私には理解出来ない事がある。黒ウサギも同じらしく、私が視線を向けても苦笑いしか返って来ない。
そもそも、私はノーネームに取ってペットと言う位置に存在して居る。そしてギフトゲームをするのはコミュニティに参加して居る【人達】であって、普通ペットが含まれる事は無い。だけど私達の目の前にある巨大な宮殿のその入り口に浮いて居る
「……何故?」
「あ、あはは……一応お猫様も我がコミュニティの一員ですからね。参加するうえで資格は十分にあったんだと思います」
「そもそもペットと言う位置は考えは出来てもギフトゲーム上存在しません。だからハクさんも参加することになったんだと思います」
つまるところペットと言うのは十六夜達が考えて居るだけ。私は立派なノーネームの一員、って事らしい。ギフトも所有して居り、子供の姿をして居ても戦力になると見なされた……そう言う事。武器も無くなり、治療するしか力の無い私に何が出来るのか……書かれてしまったのなら仕方が無い。せめて足を引っ張らない様、気を付けよう。