ギフトゲームは無事、私達ノーネームの勝利に終わった。何でも十六夜が無事にルイオスの元にたどり着き、アルゴールと呼ばれる悪魔を圧倒したとの事。アルゴールには相手を石化させる力があり、最後に意識が無くなってしまったのは恐らくそのせい。私自身は分からなかったけれど、どうやら石にされて居たらしい。……今まで過信して居たけれど、羽の力も効果が無い時があるって事が分かった。
無事に終わって、石化を解かれた私はその後倒れてしまった。理解出来ずに突然使えるようになったキリトの力は勝手に解除されて居て、その瞬間に来た脱力感と共に気を失った。だから私は人のまま、力の強い耀にノーネームまで運んでもらったらしい。目が覚めてすぐに皆には心配されて、飛鳥には力に付いても聞かれた。だけど聞かれたところで私自身、理解出来て居ないからその項を伝えれば納得行かなそうな表情をしながらも引いてくれた。耀は心配そうに話しかけてくれたけれど、十六夜は……正直怖かった。飛鳥から聞いたかは分からない。だけど凄く面白そうな物を見つけたみたいな目をして居たから。
元々ギフトゲームに挑んだ理由はノーネームの元仲間であった吸血鬼を助けるため。目的は達成され、吸血鬼は無事にノーネームに帰還することが出来たらしい。私は……まだ会話もしたことが無いから正直良く分からない。でもこれからここに居るならば、きっと会う事になるだろう。そう思ってその吸血鬼が眠って居る場所に行きたいと思ったけれど、飛鳥から寝てるようにと命令されてしまったから今現在どうすることも出来ない。おまけに監視役として、何故か黒ウサギがしばらくした後に私の部屋に来た。
「……仲間のところ……居なくて良いの?」
「レティシア様はもう休まれましたから。飛鳥さんと耀さんも疲れて眠って居ましたし、十六夜さんは……大丈夫だと思います。だから私はお猫様の看病です」
「……別に……良い」
「いいえ。十六夜さん達も勿論ですけど、あるべき場所にあの方を返してくれたお礼をしたいのです。こんな事で返せるとは思って居ませんが……それでも私はお猫様に何かしたいのですよ。前にも言いましたが、月の兎は受けた恩には必ず報います」
「……」
そう言って微笑む黒ウサギに私は流石に何も言えなくなってしまう。そんな私に納得したと思ったのか、黒ウサギは寝て居るベッドの傍に置いてあった椅子に座って優しい笑みを浮かべ乍ら私を見つめて来る。どうやら私が寝付くまではここに居るつもりらしい。……だけどどう見ても黒ウサギもまた、今日の出来事で疲れて居る。現に偶に目を閉じかけては私が寝て居ないからと無理矢理起きようと必死で首を振ったりしているから。仲間が戻ってきて安心したと言うのも当然あるのかも知れない。
「? お猫様?」
「……寝る」
私は起き上がると布団を半分剥がし、少し横に移動して開いた部分を叩く。そもそも普通に1人用のベッドの上に私の様な小さいのが乗って居る時点で大きすぎる。黒ウサギ1人が一緒に入ったところで、このベッドの大きさならまだ少し余裕があるだろう。黒ウサギは私の行動に目を見開いた後、首を横に振って拒否しようとする。しかし私としては、私の為に無理をして起きて貰う事の方が気になる。そして、その結果眠れなくなりそう。
「……なら……寝ない」
「なっ! 駄目ですよ! しっかり休まなければ!」
「……黒ウサギも」
「わ、私は平気です!」
黒ウサギは私の言葉に自分が元気である事をアピールする様にその場に立ち上がる。だけど私は元から動かない表情を利用して、静かに黒ウサギを見つめ続けた。少し気まずそうな顔をした後、観念したように「分かりました」と言って黒ウサギは私の寝ていた布団に入って来た。こうして誰かと眠るのはリズで最後だった。……慣れない事は確かだけど、何故だろう。相手が居る温もりは心地良い。
私の横に黒ウサギが寝た事で、私は捲った布団を戻して黒ウサギに身体を向ける。黒ウサギも入る際に私の方向に身体を向けて入ったから、自ずと向かい合う形となる。私よりも身長が高い黒ウサギだけれど、ベッドの上でなら頭が同じ位置にあるためお互いを見つめ合う事が可能。何処か赤い顔になりながらも、黒ウサギは私を見ていた。……そうしてお互いを見続け会う事数分。突然黒ウサギの髪が桜色に染まり始めた。そしてそれと同時に黒ウサギは私から顔を反らす。感情が高ぶれば髪が変わる……多分恥ずかしかったのだろう。
「……お休み」
このままでは確実に黒ウサギは眠れない。私は黒ウサギにそう言って彼女に背を向ける様にする。そうして瞳を閉じ続け居ると、突然私の身体を何かが抱きしめた。相手は当然1人しか居ない。私は目を開け乍ら振り返ろうとすけれど、それを出来ない様に少しだけ力を入れられた。……抱きしめられて眠る事自体はあったけれど、背中に柔らかい感触があるのは初めて。私もそこそこだと思うけれど、黒ウサギは私が知る中では一番だと思う。アスナは普通だったし、リズは……うん。まだ大きくなると思う。多分だけど。
「私は皆さんと会えてとても良かったです。ノーネームが一気に賑やかになって、かつての仲間も戻ってきて……感謝してもしきれません。だから言わせてください。ありがとうございます」
「……」
「ただ、もうお猫様はもうノーネームの仲間です。ですから絶対にこれから、無理はしないでください。また倒れたりしたら、今度はこんな看病だけじゃ済みません。済ましません」
「ん……気を付ける」
私の答えに黒ウサギは「はい、気を付けてください」と告げた後、何も喋らなくなる。しばらくすれば、静かな吐息が聞こえ始めた。やっぱり疲れていたらしく、寝入るのが速い。……私も布団の暖かさと黒ウサギの腕の暖かさに徐々に眠くなって来る。そして、私はその眠気に身をゆだねて瞳を閉じる事にした。
【黒ウサギ 承認欲 28/100・養護欲 36/100・性欲 5/100】
目が覚めた時、まだ黒ウサギは私の布団で眠っていた。窓から外を見れば、そこには朝日が刺して居る光景。どうやら朝になっては居る様子。私は黒ウサギが起きない様、静かに布団から出ると部屋からも出る。昨日はギフトゲーム以降、一度も歩くことが出来ずに横になってばかりだったから身体が少し硬い気がする。……外に出よう。
建物から外に出て、私は庭にたどり着く。ここは確か十六夜と吸血鬼が戦った場所。私はその内容を見て居ないけれど、十六夜が槍を素手で殴って弾き返したらしい。キリトでもそんな事出来ないんじゃ……出来るかもしれない。
ふと私は昨日の力を思い出す。私はこの世界に来て武器を失って以降、戦う術を持たなかった。だけどもしあれが使えるようになるならば、足手まといにはならない筈。そう思い、私はあの力を使おうとする。使い方は分からないけれど、あの時に触れた私の左手の甲が気になる。見て見れば、あの時映って居た模様は消えて居た。だけど、そこに右手をスライドする様に一度通らせると同時に模様が姿を現した。白い線で描かれた、まるで【砂時計】の様な模様。私は左手を握り、胸の前に当てる。と同時に淡い光が私の身体を包み始めた。確かあの時言った言葉は……。
「……憑依召還……キリト」
私の言葉と同時に周りに風が吹く。光が私を包み、あの時同様に髪は黒髪に。服は黒いコートに変化する。私は私のまま、だけど恰好だけは間違いなくキリトと同じ格好になって居る様子。コートも私用の小さい物になってるみたいだし、これが世界を超える絆? …………なるほど、分かった気がする。確証がある訳じゃ無い。だけど世界は違えどキリトと言う存在が私の傍に居る事が理解出来た。私は【私の記憶の中に居るキリトの力を借りて居る】……と。
紅蓮の剣同様、キリトの片手剣。エリュシデータを取り出す。あの時もそう。初めて握る物なのに、まるで今まで握り続けていたみたいに手に馴染む。試しに振って見れば、紅蓮の剣では出なかった速度でその刃が動いた。風が唸りを上げる程の速さで。
「?」
ふと左手の甲を見れば、描かれていた砂時計が【動いて居た】。上の砂が下へと落ちて行き、今現在4分の1程落ちてしまって居る。……羽の力と同じ。この力にも制限時間があるらしい。しばらく時間を掛けて砂が無くなるのを待ち、やがてその砂が全て下へと落ちた時。私を包むように身体が光、そして全てが元に戻る。髪の色も服も、全て。と同時に私は急激に身体が重くなった様な感覚と共に膝をついてしまう。これもまたあの時と同じ、この力は【異常な程疲れる】みたい。
「大丈夫か!?」
聞きなれない声に私は顔を向ける。そこには私よりは大きいけれど、それでも他からすれば子供にしか見えない金髪の少女の姿。石になって居たところを軽くしか見て居なかったから色も無く分かりづらいけれど、それでも目の前の少女が昨日助けた吸血鬼である事は理解出来た。……どうやら彼女もまた、起き上がって庭に来たと言った所かも知れない。
「平気か? 立てるか?」
「ん」
私に心配そうな表情で手を伸ばしてくる少女。その手を掴み、私は立ち上がる。まだフラフラするけれど、昨日の様に気絶するまでには至らなかった。あれは初めてだったから身体が慣れて居なかったのかもしれない。……もしそうならば、使う度に身体が慣れて行くかも知れない。まだ分からない事もあるし、完璧に扱うには時間が必要だろう。
「ここに居ると言う事はノーネームの者で間違いは無いな? 済まないが名前を教えてくれないか?」
「……ハク」
「ハク? それは確か黒ウサギがお猫様と呼んでいた猫の名前……君はそのハクなのか?」
私は彼女の質問に頷くと、猫の姿に変化する。少し驚いた様な表情をした後、彼女は私を抱き上げて「そうか」と呟いた。
「君も私を助けてくれた者の1人だと聞いた。ありがとう。私はレティシア。レティシア・ドラクレアだ」
そう言ってお礼と自己紹介をしてくる少女……レティシアの言葉に私は猫のまま鳴いて返事をする。その後、黒ウサギが慌てて建物から出て来てレティシアに私の所在を質問。腕の中に居る私を見て安心した後、レティシアからさっきして居た事を聞いて怒られる事になるのは別の話だ。……何はともあれ、こうして無事ノーネームに1人仲間が帰って来たのだった。
ハクの能力解説。
その世界とは別の世界に存在する者と絆を結ぶ事で、その存在を疑似的に己の身に召還することが出来る。召還条件は【絆が存在すること】と【お互いを思い合える事】。現在キリトとユイ以外は記憶が無いため、この世界で召還出来るのは【キリト】のみ。使用すればその者の所有して居た力を扱う事が出来る。手の甲に砂時計型の時間制限が存在し、使用後は急激な疲労に襲われる為に連続使用は余り出来ない。