翌日、元々コミュニティのメンバーであったレティシアが帰還した事で黒ウサギは嬉しそうに何かを進めていた。何をして居るのかは聞いても答えてくれず、私は特に予定も無かったためにコミュニティの中を歩いたり日向ぼっこをしたリ……平和な時間を過ごして居る。
『……眠い』
『ぬくぬくやでぇ~』
「気持ちよさそう」
三毛猫と並んで庭に寝転がって居る私は暖かい空気と日差しで猛烈な眠気に襲われていた。三毛猫も同じ様で、私の言葉にその場でコロコロと転がって気持ちよさそうに声を出す。そしてそんな私達を見ていた耀が転がる三毛猫に微笑みながら呟いた。私は飛鳥と居る事が多いけれど、耀ともこうして居る事が多い。猫の姿でも会話を出来ると言うのはかなり便利だから。……一応私は元々人間な筈なのに、猫の姿が本物となってしまって居る今。不思議と此方の方が落ち着いてしまう。
「ここに居たか。うん? ハクも一緒だったみたいだな」
「レティシア」
眠りに落ちかけて居た時、レティシアの声が聞こえて私は目を開ける。そこにはメイド服を着用して居るレティシアの姿。何でも助けられたけれど、十六夜達が助けた事で3人が【メイド】と言う役職をノーネーム内でレティシアに与えたらしい。黒ウサギが少し怒った様子で私に教えてくれた。確かに助けたからと言って使用人にするのはどうかと思うけれど……でもレティシア自身、そこまで嫌がって居ない様子。本人に聞けば、「助けて貰った身だからな」と言って笑っていた。
そんなレティシアは耀を探していたらしく、私の存在に気付くとそう言って私に近づいて来る。今まさに眠ろうとして居た私は近づいて来た事で横にして居た身体を上げ、大きく伸びをした後にレティシアに視線を向けた。「起こしてしまったか」と少し申し訳なさそうな表情をするレティシアに私を首を横に振る。と、耀がレティシアに「どうしたの?」と質問をした。探していた以上、何か理由があった筈。
「黒ウサギからの伝言でな。『今日の夜は開けて置いてください』と言う事だ」
「何かあるの?」
「ふっ。少し、な。ハクにも伝えるつもりだったから一緒に居て手間が省けた」
そう言った後、「十六夜を探すか」と言ってレティシアは去って行く。そんな後ろ姿を見送った後、私と耀はお互いに目を合わせた。
「何だろう」
『……』
『んにゃ~ゴロゴロ』
当然聞かれたところで分からない私は耀の言葉に黙って首を傾げるしか無く、そんな私と耀を尻目に三毛猫は気持ちよさそうに寝息を立てていた。別に私は何か用事がある訳でも無いし、耀も同様にない様子。先程眠くなって居たのは当然失われておらず、私は再び地面に身体を付ける。すると突然お腹に手が回り、私は耀の膝の上に連れて行かれてしまった。
「ハク、三毛猫よりフワフワだね」
『ん……』
そう言って私の毛を撫でる耀。唯でさえ眠かったのに、耀の手の温もりと毛に触れるその感触がより眠気を誘ってくる。耀の今の行動は正に落ちそうな私を落とそうとする行為であり、その暖かさを受け乍ら私は眠りについてしまう。それからしばらく、私が目覚めるまで耀が何をして居たのかは当然分からない。でも起きた時に私を抱えて三毛猫も抱えて眠っていたから、1人と2匹で眠っていたのだろう。
【春日部 耀 親和欲 50/100・求知欲 46/100】
夜、十六夜・飛鳥・耀の3人と私は黒ウサギに誘われてあるところに連れて行かれた。そこはコミュニティの中にある場所で、到着して最初に見えたのは沢山の子供達。優に100人は超えるその数と、少し足りないと思える量の料理の数。コミュニティの現状、豪華な料理を用意する訳には行かなかった様子。私はその辺に付いて何も知らないけれど、危ない状況なのは間違い無い筈。と、私達が到着した事で黒ウサギが子供達を纏めて自分に注目させた。
何でも今から行われるのは私達4人がコミュニティに新たに入る事への【歓迎会】らしい。屋外でやった事はせめて豪華に見える様にと言う黒ウサギの考えなのかも知れない。飛鳥は気付いて居たらしく、黒ウサギに無理しない様に言っていたらしい。……子供を纏め、衰退したコミュニティを何時か立て直す。普通じゃ出来ない事を背負って黒ウサギは頑張って居るのだと、改めて思いなおす。
突然黒ウサギが空を見る様に言い、私達は一斉に空を見上げる。すると見続ける事数秒、星が突然流れ始めた。それは紛れも無く流星群であり、私は人間だった頃も含めて初めて見るそれに見入ってしまう。と、黒ウサギが子供達に告げた言葉に私達は固まってしまう。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの4人がこの流星群の切欠を作ったのです」
そうして語られるのは先日、私達が倒したペルセウスの事。サウザンドアイズ。つまり白夜叉が幹部のあの中に含まれていたペルセウスは、私達に敗北したことで追放。空にあった星座も消されてしまうと言う物。簡単に説明するけれど、空にある星座を消すと言うその内容は信じられない事だ。飛鳥が空の事を「箱庭を盛り上げるための舞台装置」と言うけれど、正にその通りなのだろう。空に浮かぶ星はこの世界に取って、自由自在に操れる物って事だから。
「……凄い」
「楽しんで貰えた様だな」
空を見上げて居ると、レティシアが声を掛けて来る。両手にはお皿を持って居て、そこにはテーブルに置かれていた料理が数種類盛られていた。そして私の元に来ると、片方のお皿を渡してくれる。気付けば飛鳥と耀は料理を食べて居て、十六夜と黒ウサギは話し込んでいる様子。私はそれを受け取ると、お礼を言う。レティシアはそれに頷いた後、私の横に並ぶようにして立った。
「私は正直、もう二度とこの様な場所に居る事は出来ないと思って居た」
「?」
空を見上げていたレティシアが突然口を開く。私は盛られていた食べ物を口に入れた後だったため、噛みながらレティシアに視線を向けた。と、レティシアが私に視線を空から移すと近づいて来る。
「だけど君たちのお蔭で今こうしてここに居る。だから改めて言わせてくれ……ありがとう」
レティシアはそう言って頭を下げる。私は噛んでいた物を飲み込むと、首を横に振った。正直な所、私はレティシアを救ったと言っていいのか分からないから。レティシアに付いては戻ってきてからしか分からず、助ける時には吸血鬼と言う情報だけ。ルイオスを、アルゴールを倒したのは十六夜で私は結局石にされてしまっただけ。と、私の行動にレティシアは少し笑うとまるで私の思いを理解したかのように「例え君がそう思ってもだ」と返してくる。そしてレティシアは子供達の方へと移動していき、私は盛られていた物をまた食べる。……そう言えばバウムクーヘン、食べてない。
「お猫様?」
バウムクーヘンが食べたいと思って居ると、十六夜との話が終わったらしい黒ウサギが話しかけて来る。お皿を持ったまま下を向いて居たため、心配させてしまったらしい。私は平気である事を伝えると、少し心配そうな顔をしながら「無理はしないでくださいね?」と言ってくる。それに頷いて返し、私は再び食べ始める事にした。……無性にバウムクーヘンが食べたくなって来たかも知れない。
「お猫様に言われた【責任】と言う言葉、ずっと考えてました」
「……聞かせて」
そう言い始めた黒ウサギの言葉に私は食べるのを止めて彼女を見る。あの時、ルイオスの元に行くか行かないかと言う選択を迫られた時に私が言った言葉。それに付いて考えて居たらしく、黒ウサギは空を見上げながら「やっと答えが出たんです」と言うと私に視線を向けて来る。口には出さないけれど、その目は『聞いて下さい』と物語っていた。だから私はその答えを聞くために言う。
「あの時私は仲間の為に自分を犠牲にしようとしました。でもその時、私は残された人の事を考えて居ませんでした。……だからハクさんの言葉を考えて、そしてやっと気付けました」
「……」
「皆さんを呼んだのは私です。家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて貰った上で私は皆さんをこの箱庭にお連れしました。だから私は導かなくてはいけません。他の誰でも無い、私が」
「どうですか?」と不安げに聞いて来る黒ウサギに私は……頷いた。黒ウサギの言う通り、私達をここに呼んだのは紛れも無く彼女。初めて来た何も分からない、常識すら違うかも知れないこの世界で導いてくれる者が居ない事は不安でしかない。何処か可笑しな十六夜も、気の強い飛鳥も、マイペースな耀も、皆黒ウサギが居たからこうして無事に今コミュニティに居られるんだと思う。そして私達はこれからも黒ウサギに頼る時がきっと来る。そして頼られる時もきっと。だからこそ、それを分かってくれた黒ウサギが……嬉しかった。
「! お、お猫様!?」
黒ウサギが驚いた様に声を上げる。私が首を傾げれば、黒ウサギは顔を真っ赤にしながら私を見続けていた。そしてそんな黒ウサギが変なことに気付いた十六夜が「何真っ赤になってんだ?」と黒ウサギに聞いた。私も分からない。
「今、今間違いなくお猫様が笑ったのですよ!」
「……へぇ~。それは是非とも見て見てぇな。おーいお嬢様、春日部! 家の飼い猫が笑ったらしいぜ!」
「何ですって!」
「気になる、見たい」
黒ウサギの言葉に私自身驚く。だけどその前に十六夜は面白そうに私を見た後、飛鳥と耀に大声で告げた。すると飛鳥も耀も子供達の中に居たにも関わらず、私の元へと素早く移動してくる。当然こうなってしまえば無意識だったとしても笑顔は無くなってしまう。だけどそんなの知らないとばかりに飛鳥は私に「見せなさい!」等と言い、耀も楽しみとでも言うかの様な瞳を向ける。十六夜はそんな私の状況に楽しそうに笑うだけ。黒ウサギは自分の言葉でこうなってしまった事に慌てて止めようとしてくれるけれど、そんな事で止まったりはしない。……飛鳥の場合、力を使えば可能な筈だけど……無理矢理じゃ意味が無いって事なんだろうか?
結局その後、私の笑う顔を見ようとして来た3人。だけど笑えと言われて笑える程私の表情は器用に動いてくれる訳も無く、諦めるその時まで私は食事を3人を無視して続けた。黒ウサギは3人を必死に止めながら私に謝って来る。騒がしくなった原因は黒ウサギだから、今度バウムクーヘンが食べれる場所が教えて貰おう。……とにもかくにも、この世界の人達は色々と癖があって皆騒がしい。だけどこの世界にもまた、私は自分の居場所がある事に嬉しく思う。何時か欲を満たして離れるとしても、最後の時まで楽しもう。きっとここは前の世界と同じ。例え辛い事があったとしても、それ以上に素晴らしい場所なのだから。
明日は投稿致しません。