歓迎会から約1月。ノーネームの新しい仲間として正式に加入した私達4人はあの日から様々な場所でギフトゲームを行っていた。そもそも衰退していたコミュニティを立て直すためにも、まずは経済的に余裕を持たなければいけない。子供達は100を超える数が居て、1日に消費する量はかなりの物。だからこそ、十六夜達は稼ぐことを最初に行い始めた。相手も衰退した旗の無い弱小コミュニティと舐めて居たため、ギフトゲームを取りつけるのは非常に簡単。後は圧倒的な力で勝つだけだった。……と、ここまで話して居るけれど私はこの1か月で精々5回ほどしか行って居ない。私の
一度で手に入る額や物は少ないけれど、それでも十六夜の様に楽しさを求めて只管ゲームを繰り返せばドンドン蓄えは増えて行く。結果、贅沢を出来る程では無いにしろ、普段生活する上ではかなりの余裕が出来たと言って良い。黒ウサギは3人に振り回されて、私のお願いを聞いて、子供達のお世話をしてと色々あってかなり疲れた様子だけど。……苦労人と言うのは正しく彼女に当て嵌ると思う。
「ハク、そっちはどう……だ……」
今現在、私は部屋の掃除をして居た。ノーネームは現在弱小かも知れないけれど、過去箱庭の東区画最強のコミュニティだったとガルドは言っていた。故に今でもかなりの土地を有して居る。子供達が住む場所も沢山あり、定期的に子供達は大掃除を行っていた。そして私は今現在、それに参加して居る。ギフトゲームが飛鳥達に止められている以上、出来るその時までサポートする位しか私には無いから。レティシアはメイドとして同じ様に参加し、黒ウサギは子供達に指示をして居た。稼ぎは十六夜達が、家事は私達が行って居ると言う事。そして今、レティシアは割り当てた掃除の状況を確認しに私が掃除をして居た部屋へと入って来る。何故か部屋の内装を見て目を見開いて居るけれど。
「これは……凄いな。ここまで綺麗になるとは」
「……そう?」
レティシアの言葉に私は部屋の中を見る。ここは所謂応接室として使われて居た場所で、ソファや棚などが置かれている。一応どの角度から見ても光る様な状態を意識して掃除したため、部屋の中は外からの日差しを受けて文字通り輝いていた。でもアスナの部屋などはもっと綺麗だったから、この部屋があそこより綺麗とは思えない。……そう言えばあれは家具と言う名のオブジェクトだから埃とか被らなかったかも知れない。
「あぁ、かなりの物だ。次は図書館の方をお願い出来るか? 広い場所だからな。ハクにはそこに専念して貰いたい」
「ん」
レティシアの指示を受け、私は箒を片手に言われた通りに図書館へと向かう。ノーネームの中にある図書館もまたかなりの広さがあり、普通の部屋の1、20倍はあると見て良い。本来1人4~6部屋を担当する掃除だけれど、図書館の場合そこを1日かけて行う事が多い。普段は子供達がやって居るけれど、今日は私がやる様子。別に不満もないし、全て終わったら本でも読もう。この世界、前の世界とは違う何か面白い事が掛かれているかもしれない。
「よう、白猫。掃除か?」
図書館にたどり着き、掃除を始めようとした時。唯一ある座れる席に座っていた十六夜が話しかけて来る。隣にはジンが机に伏して居て、眠って居る様子。……最近2人は良く何かを勉強して居るらしい。十六夜は意外にもかなりの博識だし、ジンは私達が増えた事でリーダーとして頑張って居る様子。私は十六夜の言葉に頷くと、部屋の掃除を始める。十六夜は私を少しニヤニヤと見つめて居たけれど、やがてジンと同じ様に眠ろうとし始める。が、そんな時。突然入った時に閉めた筈の出入り口が勢いよく開かれた。そこには飛鳥の姿と耀の姿。そして狐の耳と尻尾を付けた子供達の中では年長の少女……リリの姿。私は掃除しながら移動して居たため、本棚に隠れて3人からは見えない位置に立って居るため気付かれない。と、飛鳥は眠る十六夜に迷うことなく膝蹴りを入れようとする。だけどそれは十六夜が瞬時にジンを盾にして回避。結果、ジンは顔にその膝を受けて大きく飛ばされる。見ていたリリは悲鳴を上げてジンに駆け寄った。
「ジン君!? 大丈夫! ジン君!」
「……」
「は、ハクさん! ジン君が!」
何故かそれほど外傷は無い人の顔。だけど受けたのは間違いなく、威力もかなりあった。私はリリと同じくジンの元に近づくと、癒しの力を使う。少しジンの身体が光った後、ジンはゆっくりと目を覚ました。そしてそんな彼の姿にリリは安易した様に身体から力を抜く。
「あれ……僕は一体……?」
「良かった! 本当に良かったよ~!」
「ん」
無事に目を覚ましたことを確認した後、私は箒を手に掃除を再開する。だけど再開して間もなく、私は十六夜達に半強制的に連れて行かれてしまう。箱庭の北側で行われると言う、
連れてこられた先はノーネームの敷地外。連れて行く際、私に拒否権などは一切無かった。飛鳥の力で猫にされ、その腕に抱かれて連れてこられてしまえば私には何も出来ない。北側に行くと言う事と、そこで開かれるお祭りに参加しようとして居る事は理解出来た。だけどその行き方について十六夜達は考えて居なかったらしく、ジンに聞く。しかしジン曰く、北側までは980000㎞あるとの事。当然そんな距離、十六夜だけならまだしも飛鳥や耀に出来る訳も無い。ジンは諦めて戻る様に説得を試みるが、何しろ相手が悪い。
「あんな事して今更引けるものですか! 絶対に行くわよ!」
「おう! こうなったら駄目で元々、サウザンドアイズに行くぞゴラァ!」
「行くぞコラ」
ジンの言葉に飛鳥を始め、3人の心は更に北側に行こうと動き始めてしまった。因みに飛鳥の言う『あんな事』と言うのは黒ウサギに置手紙をして来た事。内容は分からないけれど、何となくこの3人の事だからまた黒ウサギが迷惑被る様な事を書いたのだろう。今現在北側に行こうとしている時点で色々掛かって居ると思うけど。
何でも飛鳥達が火竜誕生祭に付いて知ったのは白夜叉からの招待状を見たからとの事。招待した以上、責任を取って貰おうと言う考えからサウザンドアイズに向かう事になった3人(と連れて行かれる1人と1匹)。やがて入り口を掃除していた店員さんが十六夜達に何とも言えない顔をするけれど、ほぼ強制的に押し入る形で中に入る。前回同様、居間に白夜叉は座っていた。そしてそんな彼女に十六夜は掻い摘んで内容を説明、要するに『俺達を北に連れて行け』とお願いとは思えないお願いをする。白夜叉は呆れた様子で私達……と言うよりも十六夜達を見つめた。
白夜叉は私達がここに来ることを予想して居たらしい。予想通りの行動を行った十六夜達にそう伝えると、十六夜達に質問する。それは箱庭の災厄、【魔王】に関することを引き受けると言うノーネームの噂の真意。十六夜とジンが決めた事らしく、コミュニティを衰退に追い詰めた魔王を相手に私達は挑むと言う意識表明があるらしい。私達は後から聞かされただけだけれど、異論する人は黒ウサギ以外居なかった。黒ウサギもジンが決めたと言う事、そして彼の覚悟に最後には認めたけれど。
真意を確かめた後、白夜叉は長い内容を語り始める。私は何時の間にかに飛鳥からの拘束を解かれ、部屋の隅でそれを眺めていた。と、視線の隅で1人の少女を見つける。それはここに入る際に苦労を掛けたサウザンドアイズの女性店員。襖越しに彼女は部屋で話をして居る十六夜達の存在に何とも言えない表情を浮かべていた。そして私の存在に気付くとしゃがみ込み、静かに手を差し出した。初めてアスナと出会った時にも行われた『おいで』と言う行為。その行動通りに私は女性店員に近づき、話に夢中な十六夜達は私が動く事に気付かなかったため無事にその場所にたどり着く事が出来た。
「初めて来た時も一緒に居たわね、貴女。あの人たちのペットか何か?」
少し疲れた表情を浮かべ乍ら聞いて来るその言葉に私は頷く。と、彼女はまた溜息をついて私を抱き上げた。その際、私の身体に触れたと同時に「なにこれ……!」と驚いた様な顔で呟いたけれど、何故そうなったかは分からない。……突然背中を撫で始めたけど。
「貴女に行ってもあの人達はどうにも出来ないわよね……はぁ、家の看板に傷が付かないと良いけど」
サウザンドアイズは元々ノーネームお断りの場所。そこに入る十六夜達は彼女に取って頭痛の種らしい。ノーネームだからと馬鹿にされる事は多々ある。見方を変えればこの人もまたその1人。だけど彼女の場合、ノーネーム自体は何の興味も無いんだろう。あるのは何処までも自分のコミュニティを思う気持ち。私達を入れた事で自分の居る場所に傷が付くかも知れないと言う心配。自分の場所を大事に思うから、大切に思うからこそ感じる心と言った所。……この人も黒ウサギ同様、苦労人らしい。
しばらく彼女の愚痴を聞いて居ると、突然焦った様な十六夜の声が聞こえる。私を抱いていた彼女はその事に気付くと、「そろそろね」と言って私を床に降ろした。そして「部屋の中に居なさい」とだけ言って去って行ってしまう。何故? そう疑問に思いながらも私が部屋の中に入ると、突然白夜叉が手を叩く。すると一瞬、本当に一瞬だけれど外が歪んだ気がした。そして……空気が変わった?
「これでよし。望み通り、北側に着いたぞ」
≪は?≫
白夜叉がさも当然に言った言葉と同時に十六夜は一気に外へと駆けだす。飛鳥と耀も立ち上がると、通りすがりに私は飛鳥に拾われてそのまま外へと出る事になった。