食べていたバウムクーヘンも終わってしまった後、私はお祭りを出来る限り満喫していた。箱庭には箱庭の遊びがある様に、私の世界には私の世界での遊びがある。似た様なものから、全く分からないものまで多種多様な屋台の内容はかなり面白い。そうしてしばらくの間に屋台を歩き続けていた私は、ふと空を見上げる。茜色だった色も暗くなり始めて居り、そろそろ夜になる事を告げている。もう帰った方が良いのかも知れないのだけど……今更ながら私は気付いた。私は何処に帰れば良いのだろう? 最初に思いつくのは白夜叉の居るサウザンドアイズ。だけど十六夜に飛ばされて、自由気ままに歩いてた私にそこまで帰る道のりが分かる訳も無い。
「お嬢さん、どうかしましたか?」
もういっその事空を飛んで最初に見えた壁の位置に移動しようかと考えた時、突然私は声を掛けられる。顔を上げれば、私の目の前には巨大な南瓜……の様なお化け。表情は変わらないけれど、内心で驚いて居た私にその南瓜は突然「これは失礼いたしました」と下に伸びて居る身体を使ってお辞儀の様な行動を取る。どうやらこれは意思を持つ喋る南瓜。周りの人と同じ様に接した方が良いらしい。
目の前の南瓜は私が1人で困って居る様に見えて声を掛けたとの事。見た目が幼い事もあって、心配したらしい。……子供が見たら最初に泣きだしそうな気がしなくも無いけれど、この南瓜は良い
「ジャックさん。ん? 何やってんだ? 子供?」
来たのは真っ白な肌と変わった髪型をした耀と同い年位の少女で、目の前の南瓜……ジャックに用事があって来たらしい。けれど目の前に私が居た事で気になったらしく、少し目線を下げて私と目の合わせた後に「迷子か?」とジャックに振り返りながら聞いた。ジャックは先程私が話した様に、コミュニティの仲間が居る場所にたどり着けないで居る事を説明する。サウザンドアイズの名前が出た時少し驚いた様な表情をジャック同様浮かべる少女。別に私はあそこのコミュニティでは無いのだけれど、そう思われてしまったらしい。
「あー。子供相手だし、特に気にしなくても良いか。ジャックさん! 連れて行ってやろうぜ!」
「ヤホホ! そうですね。ところでアーシャ。何か私に用があったのでは?」
「あ、そうそう。実はさ……」
少女……アーシャが私を連れて行ってくれると断言した時、ジャックの顔は一瞬で笑顔になりながら肯定する。何となくだけど分かる。ジャックはアーシャの保護者みたいな存在らしい。保護者……私に取っては十六夜達とか黒ウサギみたいな存在、なのかも知れない。まぁ、この世界での話だけれど。
話をし乍ら私を送ってくれるらしく、私の身体は軽々とジャックの大きな手に乗せられてしまう。その際に「ちゃんと1日3食食べて居ますか?」等と聞かれてしまったけれど、さっきまで食べていたのだから確実に問題は無い。私は頷いて答え、アーシャは「無口な奴だな、お前」と私に言いながらもジャックとの会話を再開した。何でも明日、【造物主達の決闘】と言うギフトゲームが行われるらしい。アーシャはそれに参加したいらしく、サポーターとしてジャックに出て欲しいとの事。ジャックは笑顔で了承しながらも、「あくまでサポートですよ?」とアーシャに告げた。でもアーシャは「分かってるって」と言って笑みを見せるだけ。……内容が内容だけに、十六夜とかは好きそうな気がする。もしかしたら出たりするかも知れない。
「っと、そろそろだな。あんまり他のところに入るのは不味い。相手が相手だしな。って事で、ここからはお前1人で行きな」
「目の前の道を真っ直ぐに進めばサウザンドアイズの看板が見える筈ですよ」
話をして居たアーシャがそう言って私を見る。ジャックも私を降ろし、目の前に続く道を指さしながら告げた。まだそれらしき物は見えないけれど、2人が嘘をつく事はまず無いと思う。だから私はそれに頷いた後、お礼を言う。
「……ありがとう」
「お、おう……気を付けろよ!」
「ヤホホ! それではお嬢さん、御機嫌よう」
アーシャは何故か驚いて照れた様に、ジャックは特に変わる事なく大きな身体を使ってお辞儀をして返した後にその背を向けて歩き始める。既に暗くなって居る街の中だけれど、街灯や飾りに吊るされている光が照らして居る道は明るい。私は2人が遠くに去って行くまでその姿を見た後、言われた通りに道を歩き続ける。と、やがて東側でも見た事のある2人の女神が向かい合って居る旗が見えた。サウザンドアイズの旗印で間違いない。
「帰って来た」
「お猫様! 一体何処に行っていたのですか! 心配したんですよ!」
建物の近くまでくれば、目の前には耀と黒ウサギが立っていた。最初に私の存在に気付いたのは耀で、ゆっくりと近づいて来るとその手を私の頭に乗せて撫で始める。耀の言葉で私の存在に気付いた黒ウサギは耀とは違い、かなりご立腹の様子。この後私は建物の中で責任を取る形で私を探しに行っていたらしい十六夜が帰って来るまでの間、黒ウサギにお説教を受ける事になるのだった。
街の中を歩き続けて居た私は当然汚れていた。既に飛鳥達はお風呂に入った後らしく、サウザンドアイズの大きな露天風呂はほぼ貸し切りの状態になって居た。私は一度身体を洗い、その後湯船に浸かる。背が低いせいでお尻を付けて座ると息が出来ないため、お風呂の中で正座に近いペタン座りと呼ばれる座り方で静かに入っていた。と、この露天風呂へと繋がる扉がゆっくりと開かれる。そしてそこから入って来たのは先程も私を出迎えてくれた耀だった。
「?」
「もう1度、入りに来た」
一度入った筈の耀に思わず首を傾げた私の姿に耀はそう答えると、桶でお湯を掬ってその身体に浴びせる。そして湯船に浸かると、真っ直ぐに私の傍へと近づいて来た。……前回の事もあって、お風呂で一緒と言うこの状況に無意識乍ら警戒してしまう。耀は「何もしない」と言って私に意を伝えたため、少しだけ私は警戒を解いた。しないと言われても、多少は警戒してしまう。もう本能的なものだろう。
「明日、造物主達の決闘って言うギフトゲームがある」
「……」
「参加者は本人と任意でサポーターが1人」
耀の言いたいことは何となく理解出来た。まずそれはアーシャとジャックが出ると言っていたギフトゲーム。2人が会話しているのを私はしっかりと聞いて居たから間違いない。十六夜では無くそれに耀が出るらしく、サポーターを選ぶとなったら……確かに人材は難しいと思う。十六夜は……出来なくはないけれどサポートって感じじゃない。それに何か別の大きな事をしようとして居るみたい。飛鳥は今何処かうわの空でサポーターとしては難しいと思う。黒ウサギはまず月のウサギだから参加出来ないし……私しかいないと言う事。
「……分かった」
「! ……ありがとう」
耀はお礼を言うと、「先に上がるね」と言って湯船から外へと出て行く。私はそんな耀の姿を何となく見つめていた。雰囲気からして、耀は誰かに頼ろうとしない。今回サポーターに私を選んだのは私しかいなかったからと言う事もあるけれど、根本は恐らく【私は何も出来ない】からだと思う。まず最初に『私の力に関して耀は詳しく知らない』。羽の事は知って居るけれど、キリトの力はあの場に居た飛鳥と使っているのを見たレティシア当たりしか知らない筈。サポーターの有り無し自体、任意だけれど多分白夜叉辺りに付けるように言われたんだろう。十六夜に頼むのも飛鳥に頼むのも嫌だった耀は、自分の力だけで勝ちたいために戦力にならないけれどサポーターとして選べる私を選んだ。羽の力は主に治療と防御。攻撃の手段を私は持ち合わせて居ないから。
「……」
【春日部 耀 親和欲 72/100・求知欲 86/100】
仲良くなりたいと思う気持ちは確実に満たされている。私が行動して居る事もあるけれど、それ以前に飛鳥や十六夜と話すこともまた彼女にとっては満たされる要因の1つだから。後者の方も、この世界に居る限り自然と上がって行くと思う。だけど、仲良くなる事とお互いを頼る事はきっと別物。耀に取って今の考え方が正しいのかは分からない。だけど、私はサポート役を今受けた。だったら最後までやろう。耀を助けられる存在として。