飛鳥によって沢山の服を着る事になった後、飛鳥は私に白いワンピースを買ってくれた。だけど何故か条件として、『今日一日はそれで居る事』と約束をする事に。別に今までの服に拘りがある訳でも無いため、私は飛鳥のお願いに了承。そして、今は飛鳥と共に街の中を再び散歩して居た。少し懐かしい服の感覚を感じ乍ら、私は飛鳥の隣を歩き続ける。
「特に面白そうな事は無さそうね」
「……」
突然足を止めた飛鳥は呟く。さっきの店に寄ったのも何となくだった様で、今もまた同じ様に何か楽しい事を探して居る様子。だけど既にここに来てかなりの日を経過して居る。今まで飛鳥達が楽しい事を探して居ない訳が無く、既に様々な事を終えてしまって居る飛鳥に取って街の中はもうつまらない世界になってしまって居るのかも知れない。……この世界はまだまだ広いから、きっとまだ何かあるのだろうけれど。
飛鳥が止まれば当然私もその場に止まる。しばらく動かない飛鳥の姿を見て居ると、ふとお互いに目線が合った。と同時に私をジッと見続けて来る。そして何を思ったのか、今度は再び「行くわよ」と言って歩き始めた。何処か行く場所を決めた様で、その足取りは迷いが無い。私は飛鳥に言われた通り、彼女の後を追って歩き続ける。と、やがてたどり着いたのは服とはまた違うお店……帽子屋。
「あれね」
店の中に入った飛鳥は中を一度見回し、すぐに目的の物を見つけるとそれを手に私に近寄って来る。それは私には少し大き目の麦わら帽子で、青いリボンが小さく巻かれていた。……どうやら飛鳥は今日一日掛けて、私の姿を自分の好きな様にしたいらしい。白いワンピースに麦わら帽子は確かリズやシリカが『お洒落するなら』と偶に言って居たから可笑しな事ではきっと無いんだろう。
私の目の前に立った飛鳥は私の頭を軽く撫でた後、それを被せて来る。凄い満足そうな表情で私の姿を見た後、遠くに居た店員にすぐ「これ買うわ!」と宣言。今度は沢山の物を試着するのではなく、一発で買い物を終える。そして先程とは違い、買い物を終えた後に私は飛鳥に手を引かれて店の外へと出る事に。ブカブカな帽子は上手く被らなければ落ちてしまいそうで、片手で必死に抑え乍ら私は飛鳥に付いて行く。
「偶にはお洒落をさせて見るものね。凄い似合ってるわよ」
「……そう」
再び並んで歩く様になると、飛鳥は横目で私を見ながら笑顔を浮かべて言う。私を着せ替える事が飛鳥に取ってどれ程楽しいのかは分からないけれど、満足はしてくれている様子。私も私で帽子なんかは余り被った記憶が無いから新鮮で、少し楽しいのかも知れない。
流石にこの後飛鳥は特にする事が思いつかなかった様で、散歩だったと言う事もあってノーネームに戻る事になった。ノーネームに戻った時、黒ウサギが目を見開いて此方を見て来たり、帰って来ていた十六夜と耀が私の姿に親指を立てる姿があったのは余談。……黒ウサギから見て、私の今の恰好は余り良いものでは無いのかも知れない。
『久遠 飛鳥 変化欲 MAX・求知欲 MAX・支配欲 MAX』
【問題児たちが異世界から来るそうですよ?】
【久遠 飛鳥 変化欲 MAX・求知欲 MAX・支配欲 MAX】
【春日部 耀 親和欲 MAX・求知欲 MAX】
【黒ウサギ 承認欲 MAX・養護欲 MAX・性欲 MAX】
【残り期限・3日】
全ての欲は満たされた。前回の世界と今回の世界で欲を満たす人数が同じなのは偶然なのかは分からないけれど、増える時もあれば増えない時もあると言う事は分かった。後残りの日々を私はまだこの世界で過ごし、きっと次の世界にまた旅立つ事になる。自分の世界に何時になれば戻れるのか、終わりすら見えないこの使命を私は何時まで続ければ良いのか、何も分からない。
「そうか……残りの3日間、悔いの無い様にの」
私の目の前で白夜叉が扇子を片手に告げる。その目は何処か寂しそうにも見えた。シリカやリズと同じ、別れる事に悲しみを感じて居る瞳。……世界を巡ればきっとまた誰かと出会い、そして別れる。私はその目を見ても、心がもし揺れたとしても、止まる訳には行かない。絶対に私は私の世界に帰るから。
白夜叉の言葉に頷き、今日の修業も終わりとなった事で立ち上がった時。私達の後ろで何かが大きな音を立てる。修業をして居る間、気配を確認する余裕は一切無かったから誰かが居たとしても私には気付けなかった。白夜叉は「誰じゃ?」と襖越しに質問するけれど、何も答えは帰ってこない。私は白夜叉に向き直り、お互いに視線を合わせて頷き合ってから音が響いたであろう向こう側を確認するために襖を開ける。と、そこには包みの様な物が落ちて居るだけ。それを確認してみれば、それはどうやらお菓子の様子。
「誰かが居たのはまず間違い無い。だがこの様な朝早くに来るのはお主ぐらいだ」
白夜叉は私が手に取った包みを見て言う。白夜叉も相手が誰かは分からなかった様で、私達は唯首を傾げる事しか出来なかった。……この時、私は気付くべきだったのかも知れない。その包みが落ちて居たのは私達の話を聞いたからであり、その話を聞いて物を落とす程に衝撃を受けた存在だったのだと。それを知る事が出来て入れば、彼女に【涙】を流させる事も無かったのかも知れない。
時は少し遡り、ハクが修業を行って居るその時。サウザンドアイズの傍には1人の女性の姿があった。女性の手にはサウザンドアイズに居る少し性格に問題はあるが、自分達を助けてくれている白夜叉に送るための差し入れを持ち、目的地へと足を進め続ける。
朝早くだと言うにも関わらず、サウザンドアイズの目の前には女性店員の姿があった。箒を片手に掃除をして居た彼女は女性の存在に気付くと、少しだけ顔を不機嫌そうにして口を開く。
「こんな朝早くに何の御用でしょうか?」
「最近お猫様がお世話になって居ますし、色々助けて貰って居るので白夜叉様が居る今の内にお礼をしたくて来たのです!」
白夜叉と言う存在を様付で呼ぶ者は少なくない。だがハクの存在を知り、尚且つ【お猫様】と呼ぶ者はこの箱庭には1人しか居ない。……朝早くにサウザンドアイズに来たのは他ならぬ黒ウサギであった。
ハクが毎朝店に来ている事は当然女性店員にも分かって居る。そして白夜叉がそれを許し、自分から行って居る事も。故にこの様にハクの保護者である黒ウサギが来ることは可笑しな話では無く、女性店員は「早めに済ませてください」とだけ言って店の中への道を開けた。黒ウサギは開けられた道を見て女性店員にお礼を言うと、白夜叉が居るであろう場所に向かう。そして声を出そうとした時、黒ウサギは襖の向こう側から聞こえて来た声に止まる。
『後この世界にはどれ程居られるのだ?』
『……3日』
「……ぇ」
黒ウサギに聞こえて来たその会話が上げようとした声を一瞬で枯れさせ、頭の中を真っ白にしてしまう。中から聞こえて来た声は紛れも無く白夜叉とハクの物であり、その2人がして居る会話の内容が一体何なのか……黒ウサギは嫌でも理解出来てしまったのだ。白夜叉が聞いた事、ハクが答えた事。その内容の全てを。
『そうか……残りの3日間、悔いの無い様にの』
悔いの無い様に。それはつまり、ハクと言う存在が3日後に居なくなってしまうと言う事。黒ウサギは何処かで思って居たのだろう。これから何時までも長い時をハクと共に過ごすことが出来ると。それが特別で無くても仲間として、何時までも傍に居る事が出来ると思って居た。が、そのハクは悔いの無い時間を過ごした後に自分達の前から姿を消してしまう。
「!」
黒ウサギの中で巡り続けた思考は確実に何度も最悪の結末へと導かれてしまい、それに絶望した黒ウサギの手からは力が抜けてしまう。持って居た差し入れの包みは床に落ち、大き目な音を立てる。と同時に襖の向こうから『誰じゃ?』と自分の存在に確実に気付いたであろう白夜叉の声。白夜叉が気付いたのなら、ハクも当然気付いて居るだろう。この場に立って居たのなら、確実に黒ウサギはばれてしまう。そして聞いてしまった事にも気付かれてしまうだろう。そう理解した時、黒ウサギは一瞬でその場から逃げだして居た。
「(お猫様が……居なくなる? そんな、そんなの……!)」
走り抜ける風と共に流れる涙を必死に堪え、黒ウサギはノーネームへと帰るのであった。
白ワンピには麦わら帽子だろ! そう言って見せられた画像に衝撃を受けたのが数日前。どうしても書きたくなってしまったのです……!
でもその結果かどうかはわかりませんが、今章。今回の話で30話に。20~30を今回も成功出来ませんでした。……無理にしなくても良いとはわかっていますが、それでもやはり目標話数で収めたいんですよね。…………予定では残り2話程。最後の最後まで、お楽しみください。