私は昨日して居た会話の通りにリズベットの家に預けられる事になった。アスナが去り際に私に向かって「もう少しだからね」と言って居たのが少し気になるけれど、前線に出て居るから何か攻略に関することなのかも知れない。私が関係ある気は一切しないけれど。
何時かの様にカウンターに乗って何もしないで呆けて居るだけの時間。奥の鍛冶場ではリズベットが剣を作って居る音が聞こえて来て、何にもやることが無い。……愛求欲については愛されたいと言う欲なんだと言う予想は付くけれど、考えて見るとどうすれば愛された事になるのかが分からない私にはどうしようも無い。何となく大事にされてる感覚……だとは思う。
アスナが攻略に出て居る時、他の人達もそれについて行っている可能性は十分にある。だからお客さんの入りは非常に少なく、鍛冶場の音が無くなってリズベットが出て来る物のお客が居らず接客する相手が居ない現状、暇でしかなかった。
「何かあんたが居ると客が来ない気がするのは気のせい? 招き猫ならぬ人払い猫じゃ無いでしょうね?」
そんな事私に言われても困る。そんな思いを込めてリズベットを睨めば「悪かったわよ」と両手を前に出して鎮めようとする。と、何かを思いついた様に椅子に座って頬杖をつき、リズベットは私をジッと見つめて来る。そして徐にその手を私に伸ばしてきて……私の目の前にメニューを表示させる。プレイヤーでは無い物には一応役割みたいな物があって、花瓶なら花瓶と表示される様にシステムがなって居るらしい。アスナも一時私の存在について気になった時、今のリズベットみたいに私の詳細を調べようとして居た。だけど出て来るのは。
「翼猫、ってそれは分かってるのよね。ほんと、謎だらけよ。あんた」
私の詳細が出て居るらしいメニューを弄りながら呟くリズベット。と、スクロールしていた手を止める。そこには何かが書かれているけれど、私からは鏡みたいに反対になって居るせいで読めない。だがそこに書かれている物をリズベットは興味があるみたいに手を止めて首を傾げ始めた。
「変化って何よ?」
変化? 言葉の通りならそのまま変わる事を指すんだろうけれど……私が変わる事と言えば人の姿になる事ぐらい、!? まさか。
私は駄目だと言う様に首を振ってリズベットに表現する。もし私の予想が正しければそれを使われてしまった場合、強制的に人の姿にされる可能性がある。アスナの時はスクロールが速すぎて気付かなかったのかも知れないが、気付いてしまった時。人と言うのは興味をそそられる事を出来るならばその場で行う者が多い。もしも私の予想が正しければ絶対にそれを押されてはいけない。この時私は忘れて居た。リズベットは中々嫌味な性格をして居る事に。
「何? 押してほしく無いの? ふ~ん」
何か楽しい物を見つけたみたいにメニューから一度手を離すリズベット。だけど凄い業とらしく手を動かし、「あ、当たっちゃった」と言って変化のボタンを押してしまった。システムの影響を余り受けないと甘く思って居た私は甘かったらしい。
押されると同時に私の身体が光始める。どうにかして逃げようとするけれど、私の身体は猫から徐々に人の形に変化していき、扉の目の前についた頃には人の身体に。扉のノブに手を掛けた時、光は収まって……恐る恐るリズベットを見れば目を見開きながら私を見て居た。そしてゆっくりと私に向かって震える手で指を差してくる。
「あ、あああんたが噂の」
猫が人になる姿には流石に追いつけなかったみたいで、やがてリズベットは後ろに倒れてしまう。もうこうなってしまえば手遅れ。私は握って居たノブから手を離して倒れてしまったリズベットの元へ。持ち上げるのは力が無くて出来なかったため、少々強引に引きづって鍛冶場の中に運ぶ。店の中で倒れたままもし誰か来たら騒ぎになってしまう。だから誰にも見られない鍛冶場にリズベットを運ぶ事にした。……ばれてしまったならもう仕方が無い。開き直って意思を正確に疎通できる唯一の相手として接触しよう。それしか無い。
勝手だとは思うけれど、本日リズベット武具店は閉店。夕方で少し早いかも知れないけれど多分それどころでは無くなってしまうと思う。リズベットの行動を見て居たから大体のやり方は分かるし、閉店作業に問題は無い。外の物は猫の姿で何とか行い、中ではもう最初から人の姿で行動して無事に終了。後はリズベットが起き次第話をするだけ。と言う状況でリズベットがゆっくりと目を覚ました。
「う、ううん。あれ? 私どうして……ってあ、あんた!」
「……リズベット」
「へ? あ、う、うん。えっと……ハク……なの?」
焦りながら私を見るリズベットをとりあえず落ち着かせるために名前を呼んでみる。自分で言うのも何だけれど、この身体の声は良い声をして居る。本来の私とは比べ物にならないくらいの声で、誰でも心地よいと感じられると思う声。思った通り名前を呼ぶだけでリズベットは少しずつ冷静になってきて、半信半疑と言った様子で私に聞いて来る。私は正直にリズベットの言葉に頷いた。
「じゃあ純白の天使は本当にあんただった訳か……猫が人って何なのよもう。この事、アスナは知ってる訳?」
「……知らない」
「でしょうね。見て見たいなんて言ってる時点で知らないに決まってる物。……で、あんたは何者なの?」
少し悲しくなってしまうのは私のわがままなのかも知れない。今の今まで普通に接してくれていたリズベットが今、私の存在を警戒しているその姿は何処か距離が大きく出来てしまったみたいで……だけどそれは当たり前の事。私はリズベットの言葉に答えようとするけれど、私自身、その言葉に対する答えを持ち合わせて居ない。人間だったけれど今は違う。この身体も私の本来の姿では無いし、猫だと言って信じてくれるはずもない。となれば出来る答えは……。
「……分からない」
「分からないって、本気で言ってるの?」
「……気付いたらここに居た。……アスナにあって……ついて行って……拾ってくれた」
リズベットはアスナから私との出会いについて聞いて居る。だから私の答えとアスナの語った過去を思い返し、その結果として少しばかり信用してくれた様子。だけれど私への警戒はまだ解除されない。
「あぁもう! 何が何だか訳わかんない! とりあえずあんたはハクなのは分かった。で、あんたはどうするの?」
「……?」
「いや、首傾げないでよ。この事、知られたくなかったんでしょ? でも私は知っちゃった訳で、どうしたい訳?」
「……お話、したい」
「……え? それだけ?」
リズベットが私に聞き返してくる。確かに知られたくなかったけれど、知られた以上もう諦めるしかない。猫が人になる事を気味悪がられると言う思いから隠していた訳で、最悪捨てられると思うと怖くて言いだせなかっただけ。でもリズベットは私を怖がると言うよりは分からなくて警戒しているみたいで、今の開き直った様な言葉には少し嬉しかった。今まで会話と言う物を1年以上出来て居なかった私としては、誰かとお話出来る事は嬉しい事でしかない。だからやりたいことはお話したい事。
「はぁ、警戒して損した。話ぐらい、いくらでもしてあげるわ。正し、アスナが帰って来るまで仕事は手伝って貰うから。良いわね?」
「……リズベット、大好き」
「な!? 唯の等価交換だって! 唯の!」
仕事の手伝いだけで話し相手が出来るなら安いとしか思えない。私が頷いて答えると真っ赤になりながら「今日は閉店して明日から働いてもらうから!」と言って鍛冶場を出て行く。だけどすぐに戻って来た。閉店の支度は既に終えて居たからやる事は無かったみたい。それから私は今日1日、リズベットとずっと会話をする。私の正体を知って居るのはリズベットだけである事。アスナに拾われてからずっとこの世界に居る事。正体を知られるのは怖いから黙って欲しいと言うお願い。色々な内容の会話をし続けた私は、久しぶりに清々しい気分になる事が出来た。
【篠崎 里香『リズベット』 愛求欲 23/100・支配欲 38/100】