悠一君と性を遊び、現実を忘れようとする姫ちゃん。
姫ちゃんに連れ添い、ただ彼女のために生きようとする悠一君。
共に依存しあう二人の、狭い世界の話。
って感じの短編スケベ小説。
こちらにマルチ投稿してます。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2079166
人間は環境の子であると、イギリスの社会改革主義者のロバート・オーウェンは言った。曰く人の性格は周囲の環境による外的圧力により形成され、そこに各人の責任も無ければ、主観的に関わっていく事も出来ないそうだ。
慈悲深く勤勉で勇気があり、忍耐強く思いやりがあって心が広く驕る事もない好人物が生まれるのは環境のお陰。
嫉妬深く強欲で色に貪欲な、怒りっぽくてすぐ怠け欲を抑えられない傲慢な不道徳者が生まれるのも環境のせい。
僕もこの思想に概ね賛同できる。
もし周りの環境が少しでも違っていたら、この僕と言う人格は形成されなかったはずだ。オーウェンと同じイギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルは、オーウェンの説に対して、環境だけでなく個人の内的経験によっても性格は変えられると語る。
はたしてどうだろう。内的経験とは主観の積み重ねであり、万象をどのように観測し判断するかによって千差の個性が生まれる。そしてその観測と判断に必要なのが価値観である。価値観の相違が判断の相違となり、判断の相違が主観、すなわち内的経験の相違となるのだ。
では、価値観はどのように生まれるのだろう。僕の価値観と他人の価値観は何故違ったものになるのだろう。僕は環境の違いだと思う。生まれた場所、育った場所、親を始めとする周りの人々、手に入る情報、自我を包む肉体。それらが自分にとって優先順位の高い物低い物を決めて行くのだ。環境にとって好ましくない物は好きにならないし、逆もまた然り。原始的な好き嫌いから高度に張り巡らされた思考の網まで、どこかしらで環境の影響を受け続ける。
例えを挙げると恋愛感情。これはとても素敵な物だけれども、環境無しには発展しえないものだ。あの子が好きだとそう思うには、数々の要因があるだろう。優しくされた。料理が上手だ。趣味が合う。見た目が好み。全て環境に起因する。何故その要因が好きという感情を生むのか。その根拠も、環境に淘汰された順位付けの条件にその子が合致するからである。
その実例が僕である。そして彼女である。
僕らの関係は、恋愛ではない。いや、恋愛感情が無いとは言えないが、もうその段階を通り過ぎてしまっている感がある。共依存の関係と銘打つのが一番しっくり来る。僕は彼女無しでは生きられないし、彼女は僕がいなければすぐに壊れてしまう。
僕の行動原理の全ては彼女であり、彼女がいないと僕は何をすればいいのか分からなくなってしまう。彼女の為に動く事がすなわち僕の幸せで、彼女の為以外の行動と言うのは僕の中では著しく優先度が低い。僕にとっての価値観は、彼女が好むか好まざるかであり、彼女にとって最も都合の良い存在である事が僕であると言う事だ。
彼女の精神は大変脆く、少しのストレスにも押し潰されて崩れてしまう。彼女の無茶苦茶に積み上げたぐらつく積み木の塔の様な心を、辛うじて支えているのが僕と言う存在だ。何をしたって許してくれる。どんな自分でも許してくれる。全て受け入れてくれる。一人ぼっちは嫌な癖に人とうまく交わることが出来ない彼女にとっての、唯一の他者。
互いが互いに依存して、他は一切排除して。
二人で支え合っているように見せかけて、二人で足を引っ張り合う。
こんな関係を作りだしたのも、間違いなく環境だった。
子供二人分の小さな世界にとって、余りに敵が多すぎる。そんな環境のせいだった。
●
空手部の活動を終えて、七時半過ぎ。僕は自宅のあるマンションまで帰って来た。築三十四年六階建て。周りには街灯が少なく夜間の外貌少々怖め。家から通えるギリギリの距離の高校に通っていて、さらに部活に入っていると、どうしても帰宅はこれくらいの時間になってしまう。
電灯が一本切れかかっていて薄暗いエントランスホール。早々に管理人さんに蛍光灯を取り替えてもらおう。ただでさえホラーな空気を発散させているのだ。これ以上恐怖ポイントが加算されると、近所の子供たちが肝試しなどのレジャーに我らが住処を使いかねない。子供嫌いな彼女にとって、それは良い環境とは言えない。ついでに言うと僕も子供が大嫌いだ。
灰色一色しかないホールのセメント壁に埋め込まれたポスト棚。自室番号が書かれた枠から夕刊を取る。
「ん?」
新聞の下にノートの切れ端が入っていた。
『来て』
とだけ書かれている。差出人の名前も無ければ、どこに行けばいいのかも書いてない。おそらく僕以外が見ても何の意味を成さない紙切れだ。
これは彼女からのメッセージだ。
今日は帰りに先輩と定食屋に行って小腹を満たしている。親も今は仕事中。ならば急いで家に帰る必要がない。夕刊の下に切れ端が入っていたという事は、夕暮前に学校から帰ってから、ずっと僕を待ってウズウズしているはずだ。そう、ウズウズと。身体の奥底から湧き出るマグマの様に熱く粘質な衝動を抑えているはずなのだ。ならば先に彼女のもとへ行かねばなるまい。
僕はエレベーターではなく階段を使って上へ登る。目的地は二階だからこっちの方が早い。廊下を進み、二〇四号室の前へ。イグナチェンコと記された表札が下げられた部屋だ。インターホンを押すが、返事は無い。まあいつもの事である。合い鍵で、中に入った。錆びた蝶番の軋む音を、出来るだけ立てないようにドアを締める。電灯はついておらず真っ暗だ。
目を瞑っているのと変わらない暗さでも、真っ直ぐ奥の彼女の部屋まで行くことが出来る。それくらい僕はこの家に、ずっと昔から何度も何度も訪れている。
彼女の自室の扉、壁との隙間から漏れる光で彼女の存在を確認できた。
最近短く切って随分セットが楽になった髪を撫でて整えてから、
「姫ちゃん、入るよ」
光を目を細めて遮り、部屋を見渡す。束ねられた灰色の遮光カーテンが吊られたと質素なワークデスクと厳めしい大型業務用ロッカー、そして真っ白なシーツのベッドしかない。
彼女はベッドに腰を下ろしていた。遠く正面の窓の外を眺めているのか、もしくは眼前二〇センチあたりの虚空を見つめているのか、何か見ているのか、何も見ていないのか分からない、そんな目で。ぼんやりと。
「ただいま」
「……お帰り」
一拍置いて首を向ける彼女は姫子・イグナチェンコという。僕の依存相手だ。
その名から察せられる通り、ハーフである。ロシアと日本の。琥珀色の髪と碧眼が、アジア人にもスラヴ人にも付かない異国的な顔立ちを飾っている。とびっきり美人という訳でもないけれど、決して不細工ではなく、もちろん平均値は上回る容貌。
俗世離れした、そこに居るような、居ないような、まるで人では無いような、薄い紙か何かで出来ているような、ただ立っているだけで違和感が滲み出てくるような、良い様に言い換えれば神秘的な空気を持っている。そんな女の子だ。最近ちょっとソバカスが気になるらしいぴちぴちの一六歳。僕と同い年。
「遅かったね」
「先輩と寄り道していたからね。で、何か用かい?」
姫ちゃんが僕を呼び出す理由は様々だ。ご飯作って掃除手伝ってと家事手伝いで呼ばれる日もあれば、一緒にいてくれと二人で数時間ぴったり寄り添うだけの日もある。呼んだだけで何も言わず、一日中放ったらかしの日もままある。
ただ今日は、それらとは意趣が異なるようだと雰囲気で察することが出来た。姫ちゃんが何も映さない目でぼんやり座っているのは、強いストレスを受けた証だ。そういう場合に言い出す彼女のお願いは、いつも決まっている。だからこの後の展開もだいたい予想出来た。
しかし、僕からは切り出さない。
これは彼女の口から始められなければならない。儀式のようなものだ。
だから僕は、ただ尋ねるだけ。何か用かい、と。
「ねえ、〝ごっこ遊び〟しよう?」
その言葉を吐いた瞬間。姫ちゃんは人の、そして女の顔になった。
確かにここに存在する、甘い香りと柔らかな音と熱い体温を持った、赤く照る唇で深く沈んだ性の澱へ誘い笑む、女になった。
●
〝ごっこ遊び〟。これが始まったのは、僕らがまだ小学生の時だった。周りの加虐に耐え切れず、現実逃避に走った姫ちゃん。その相手として捕まえた僕と自分に対する言い訳が〝ごっこ遊び〟だった訳だ。ごっこだから、全ては遊びだから、だから何をしても大丈夫。子供らしい考え方だと思う。遊びでは済まされないラインというものがある。
それを越えてしまったら、全ては現実に返ってくるのだ。現に僕らの関係は遊びでは済まなかった。済むはずが無かったのだ。それほどまでに、快楽は強い。病み付きになる。逃げ出せなくなる。
「ここに座って」
指差したのはベッドの角。その下の床だった。指示された通りに胡坐をかくと、姫ちゃんが寄って来た。普段押し込められて濃縮した女の匂いが、鼻の奥を、脳を刺激する。クラッと来る。姫ちゃん、良い匂いするなぁ。
「手、後ろに回して」
言って、姫ちゃんがブレザーのポケットから取り出したのは手錠だった。僕が先月の誕生日にあげた品の一つだ。どうやら先にそれで拘束されるのは僕の方らしい。
「ところで姫ちゃん、なんで制服のままなの?」
「悠一、この服好きでしょ?」
「大好き」
右胸に校章のあしらわれたベージュブレザーと、ブリティッシュトラッドなチェックのプリーツスカート。スカート丈は膝上5センチで健全な色気を演出。靴下はもちろん紺のハイソックス。女子高生という美しく限られた期間を彩るのに相応しい、清楚で可憐なわが校の制服は、僕がこの世で最も愛する服装と言えるだろう。それをスラヴ人特有のスラリとした体躯の姫ちゃんが召しているのだ。マーべラス。最高と言わずして何と言おう。
「……よし」
いつの間にか拘束され終えていた。ベッドの支柱に後ろ手で固定された状態。低い位置に座る僕は、目の前で仁王立ちする姫ちゃんを見上げる形になる。
「姫ちゃん、今日はどんな〝ごっこ遊び〟をするの?」
僕の質問に、姫ちゃんは〝ごっこ遊び〟の最中だけに見せる、軽く楽しそうでいて、粘りつく様な色気を含む笑いで答えた。
「今日はね、踏みます」
「踏みますか」
「踏みます」
踏みますと来た。姫ちゃんの紺ソックスに包まれた小さな足を見る。踏むと言っても色々ある。が、この体勢からだと大体の見当は付く。
足コキ、というやつだろう。
言わずと知れたフェチプレイ。女の子が熱り立ったペニスを足で弄ぶあれだ。僕も初体験。各種メディアで見た感じあまり気持ち良さそうには見えないのだけれども、まずは実践せねばなるまい。姫ちゃんがやりたいと言っているのだ。僕が拒絶する法は無い。
「じゃあやりますか」
と言ってもやるのは僕では無く姫ちゃんだ。僕はただ座って姫ちゃんのすることに身を委ねればいい。
姫ちゃんが膝を折って屈んだ。濃い琥珀色の頭が目の前にある。良い匂いがする。姫ちゃんはどこを嗅いでも芳しい匂いだけれども、髪の毛がもっとも強く鼻腔を撫でる。
姫ちゃんの細い手が僕の股間に伸びた。ベルトを外し、チャックを下ろす。パンツをずらして、男根を焼けた鉄棒でも触るみたいにおっかなびっくり外へぼろんと出す。
「勃たせて」
僕のそれは、期待と緊張で半勃ち状態だった。これ以上自力で勃たせるのは難しそうだった。
「姫ちゃん、ちょっと手伝って」
拘束されたままでは自分でしごく事も儘ならない。姫ちゃんはフンニャリやる気のない姿のペニスから顔を上げ、嬉しそうにニィィと笑んだ。普段の反動かよく笑う。
「手伝う? 悠一君は私にどう手伝って欲しいのかな? 何を手伝って欲しいのかな?」
会話の文脈的に分かりそうな事だけれども、それでも訊いてくる。僕の羞恥と場の雰囲気を煽るために。だから僕もそれに合わせる。盛り上がりを崩さないように、出来るだけ彼女が喜ぶように。
「……チンコ、自分じゃこれ以上どうしようもないから手伝ってください」
そして実際口に出して言うと結構恥ずかしい物なのである。
「だから、手伝うじゃ分からないかなぁ?」
「その、手で擦るとか」
性的な行為の要求。これは場の雰囲気とテンションがそうとう加熱していないと非常に恥ずかしい。意図的にこの会話の流れを作ったにしても、羞恥は依然消えはしない。
恥ずかしくて熱が上がって来た僕の顔に、姫ちゃんは妖しい笑みを近づけてきた。その距離五センチ程。二人の吐息が、混じり合った。
「駄目。今日は、足でしか触ってあげない」
「ご無体な」
「その代わりに……」
姫ちゃんは立ち上がり、僕の身体を左右に跨いだ。可愛いスカートが視界の大部分を占める。
「ほら」
そして姫ちゃんはスカートの裾を摘まんで、持ち上げた。といってもほんの少し。精々膝上一五センチ辺りまでだ。姫ちゃんのショーツはまだ遠い。しかし、
「うっ」
それだけで僕のペニスは大きく膨らんだ。
下着が見えなくても、いや、下着がどうこうではない。女の子が目の前でスカートをめくった。男の情欲を刺激するにはそれだけで十分だ。
白い、透き通った層を幾重にも重ねて出来たみたいな透明感のある肌。その肌で出来た太ももは、細い割に筋肉を脂肪が包んでいてふっくらとしている。
「どう? 勃った?」
「うん。ありがとう」
姫ちゃんはヒヒッと声を鳴らし、僕から一歩二歩と離れた。上気した頬には朱が差している。目も普段のガラス玉をはめ込んだだけのようなそれとは違う。潤みと熱にじませて僕の股間を凝視している。
どうやら始まるようだ。
姫ちゃんは右足を上げ、力加減を測るようにまずは爪先でちょんとカリ裏に触れ、そしてギュっと竿に足裏を押し付けた。汗で、ソックスがしっとりと湿気を帯びている。その湿度と思いの外柔らかい足の感触が普段経験することのない圧力を伴ってペニスを包む。
これは……なかなか、思っていた以上に気持ちがいい。
ギュッギュッっと確かめる様に踏みしめて、僕に苦痛が無いことを確認したらしい。
姫ちゃんの足が徐々に動き始める。
親指で亀頭を撫で、拇指球で竿を押し、踵で陰嚢の奥にある男根の付け根を踏む。
グリグリと竿を左右に転がす。親指と人差し指で器用に挟み、上下に擦る。
爪先で亀頭を押し潰し、指を小刻みに波打たせて刺激する。
「……う」
思わず声が出た。
それを聞いて姫ちゃんは、再びヒヒッと笑って足を持ち上げた。
すると、その足先に糸が引いた。いつの間にかカウパー液が漏れ出して、彼女のソックスを濡らしていたらしい。
「気持ちよかったんだ、悠一」
呟いて、姫ちゃんは腰の、その奥の辺りから足の爪の先、手の指先、頭頂部に至るまでブルリと身を震わせた。
「あ、は、あ、あぁぁ……」
吐き出した息は聞いた鼓膜まで焼けつきそうな程熱い。途方もない色を醸し出す姿に、僕のペニスがビンと跳ねた。
ゆっくり足を下ろした姫ちゃんは、ワークデスクに備え付けられたキャスター付きの椅子を転がしてくる。そこに腰を下ろし、僕を見下ろす。
「……悠一。続き、して欲しい」
思考が挟まる間もなく、僕は首を縦に振った。
快感。快感が、僕を動かしていた。頭がぼんやりして思考が鈍りつつある。心臓が早く、強く身体の内側から僕を叩く。鼓動に合わせて、ペニスも動く。踏んでくれ、踏んでくれと言っているようだった。
ヒヒッと、また聞こえた。
姫ちゃんは、今度は両足を宙に浮かせる。スカートが捲れて、チラリと奥に薄い緑のコットンショーツが見えた。
「これはどうかな?」
姫ちゃんの左右の足裏、土踏まずの空間で亀頭を包んだ。ギュウウっと強く挟み込んだり離したり転がしたりしてしばらくペニスを弄び、そして前後に擦り始めた。
「う、わあぁ……!」
腰が跳ねた。
ソックスのきめ細かいザラつきと足裏の柔らかさによる、強烈な刺激と快感。
カウパー液がどんどん分泌し、ヌチヌチと水気のある音が発せられ始めた。キツ過ぎた刺激が滑りで、徐々に強烈な快感へ移っていく。
どんどん強く、どんどん速く、姫ちゃんの足が摩擦を生み出していく。
姫ちゃんは笑みを深め、新しい玩具を与えられた子供みたいにただひたすらに、夢中になって僕のペニスを擦り続ける。
「ひ、姫ちゃん、これマズい……!」
僕の呻きに、姫ちゃんは足を離す。さっきよりも太く長く、カウパーの糸が引いた。
足によって生み出される快感。これは僕が当初想像していたものを軽く凌駕する物だ。足部を使用するが故の強烈な圧力。ペニスを頭から付け根まで覆う面積の広さ。そして手では出せないぎこちなさと、それでも中に一抹併せ持った繊細さ。身体でもっとも厚い皮による柔らかさ。そして何よりも、足を使うと言うアブノーマル性を燃料にした高揚感。
病み付きになってしまいそうだった。
僕が足コキの快楽に衝撃を覚えている一方で、姫ちゃんは両腕で身体を抱いて昂ぶりにブルブルと身を震わせていた。
「はああぁぁぁ……!」
身体をくねらせ、体内の熱を吐き出すような呼吸をする。
「姫ちゃん……続き……」
僕の懇願に、姫ちゃんは動きで応えた。
右のソックスを脱ぎ、カウパーで先がテラテラ光るそれを僕のペニスに覆い被せてきた。
熱い。熱くて、じっとりとしている。姫ちゃんの体温と汗を吸ったソックスが、僕のペニスを蒸らす。
「……うっ、わ」
ただ被せられただけなのに、今までにない快感が肉棒を伝って脳に届いた。蒸し暑さが、全身に広がって行くようだった。
姫ちゃんの素足となった右足が、ソックスを履いたペニスを這う。そして筋裏とカリ裏を親指と人差し指で挟み、僕の下腹部に押しつけた。
「行くよ……」
そう宣言し、亀頭を力強く転がし始めた。グリグリグリグリと。左右に。上下に。グリグリグリグリと。
痛いほどの刺激であり、絶頂へと繋がる快感だった。
「うわ、うわ、ひ、姫ちゃん、姫ちゃ――ッ!」
ソックスを履いたままの左足が、僕の口に突っ込まれた。しょっぱさを舌が感じ取る。
しょっぱいのに、甘い匂いがした。姫ちゃんは足の裏まで良い匂いがするようだった。
「悠一、気持ちいい?」
カウパー液を吸って、黒く変色してきたペニス入り紺ソックス。
その頭を、綺麗な薄桃色の素足がグリグリグリグリ。
「悠一、気持ちいい?」
口の中でも、姫ちゃんの足は舌をグリグリグリグリ。
調子に乗って僕もソックスをしゃぶる。爪を甘噛し、指と指の間を舐める。
「悠一、イッちゃいそう?」
股間の動きが増した。ラストスパートをかけるらしい。僕のペニスも躍動が止め無く続き、射精感が込み上げてくる。
「いいよ、悠一……!」
姫ちゃんの嬌声と同時に、尿道を精液が走った。
どくん、と。括約筋が強く締まり、精液が迸った。
どくん、どくん、と。馬鹿になったみたいに、ペニスは精液を吐き出し続けた。
どくん。最後の一群を出し切り、ペニスはゆっくりと萎れだす。
姫ちゃんは僕の口から足を抜いて、
「気持ちよかった……?」
そう尋ねてきた。自分の行為が正しかったのかを問うように。答え合わせをするように。
「……うん、これは……すごく良かったよ、姫ちゃん」
だから僕は素直に答える。君は正しいと。この〝ごっこ遊び〟は成功したのだと。
ヒヒッと、また笑って、姫ちゃんはペニスから足を下ろした。
これにて〝ごっこ遊び〟は終了。姫ちゃんも非日常を満喫したことだろう。
この行為、〝ごっこ遊び〟は、姫ちゃんの現実逃避のためにある。姫ちゃんは、他人とどうしても上手に関われない。どうしても社会に溶け込めない。どうしても、浮いてしまう。では人間社会がそのような存在を許すかというと、もちろん許さない。マイノリティは環境の敵なのだ。敵は、当然攻撃される。
もし姫子・イグナチェンコという少女が環境に打ち勝てるほど強いか、人との接触に全く関心を示さない人格を持っていたなら、このような現実逃避も不必要だったかもしれない。しかし、彼女は、その心だけは人並みだったのだ。一人は寂しい。馬鹿にされたり、無視されたりすると辛い。暴力は怖い。存在は人から外れかけている癖に、心はどこにでもいる普通の女の子だったのだ。
そんな姫ちゃんが日常で積もったストレスの捌け口として作り上げたのが、性的な、それもフェティシズムを興じるという非日常だった。苦しい現実からの一時的な逃走。ストレスで歪に変形した精神のガス抜き。僕と言うたった一人の味方との、これ以上ない遊戯。そして秘密の共有という愉悦。
それが僕らの〝ごっこ遊び〟である。
手錠を外された僕は、擦れて赤くなった手首を擦りながら立ち上がる。姫ちゃんは遊びの余韻に浸っているのか椅子に座ったままぽんやりとしていた。ともかく出しに出した精液を拭き取ろう。このままではズボンも履けない。
股間にソックスを被ったまま、ティッシュを取りにベッドの枕元へ向かう。裸のままのティッシュ箱に手を伸ばして、
「…………」
引っ込めた。
「ねえ、姫ちゃん」
ちょっとした好奇心。そして、その光景を見てみたいという逆らい難い欲求。そして姫ちゃんの、本当の性欲を満たすため。
僕は姫ちゃんのソックスを、ペニスを拭いながら抜きとった。中にはタプタプと精液が溜めこまれていて少し重い。精液が布地を越して、ポツポツと染み出していた。そのソックスを、姫ちゃんに差し出す。
「……なに?」
怪訝そうな顔をする姫ちゃんに、僕は言った。
「これ、履いてみてくれない?」
精液の溜まったソックスを、である。普通の女の子なら拒否するだろう。アブノーマルの入った女の子でも、少し悩むかもしれない。しかし、姫ちゃんは絶対に断らないだろう。なぜなら。
「…………わかった」
頷いて、ソックスを受け取る姫ちゃん。その顔は、僕のペニスを踏みまわしていた時とは比べ物にならないほど緊張し、悦んでいる。
座ったままソックスの入り口に足先を潜らせ、
「あ、ゆっくり入れてね」
僕の指示通りゆっくりと緩慢な動きで、ソックスを履いていく。そろそろ、そろそろ。
そして爪の先が精液の水面に届く。
「は、ひ」
そんな声がどこから出るのかと思うほど、性的な音色の声。
目の潤みは限界に達し、瞬きと共に雫が落ちた。
「さ、履いて」
僕の声に姫ちゃんは一瞬止まり、そして、一気に先までソックス履いた。クチュリと、粘っこい音がした。
「んひ……は、あぁぁぁぁ……!」
姫子ちゃんはため息にも嬌声にも聞こえる声を艶やかに細い喉で鳴らし、身体が一段と大きくブルンと痙攣する。
はうはうと数度喘いだ後、クッタリ背もたれに身体を沈めた。
「………………履いた、よ?」
「うん、ありがとう」
散々僕を上から嬲った姫ちゃんだけれども、姫ちゃんの性的な本質はマゾヒストなのである。だから、最後に彼女の性的欲求を満たすためのこの行為だった。
姫ちゃんは断らないだろう。だって彼女にとって、こうやって命じられることこそが真の快感なのだから。快感を貪るのが〝ごっこ遊び〟の趣旨だ。僕がそうしてもらったように、僕も姫ちゃんが気持ち良くなれるに動く必要がある。などと尤もらしい理由で飾ってはみたけれど、その実僕が姫ちゃんにそうして貰いたかっただけなのだが。
「じゃあ、僕は帰るよ」
「え? もう?」
首を起こす姫ちゃん。その喉元に浮いた汗粒とそれに張りついた髪の艶やかさに、股間に血が集まるのを感じる。が、抑える。
「うん。ちょっとやる事があるからね。まだ何か用事があるなら、もうしばらく居るけど」
「……ううん、ない。おやすみ」
「おやすみ。また明日」
部屋を出て。外に出て。鍵をかけて。深く息を吸った。そう、やる事がある。だからもうしばらく待っていてくれ、姫ちゃん。これから火照った身体を、姫ちゃんは一人で慰める事になるのだろう。ごめんね姫ちゃん。僕が彼女の性を、直接的に触れる事はしない。出来ない。
そう決めた。もしセックスの快感に捕らわれてしまったら、僕らは破綻してしまうかもしれない。もう二度と戻って来られなくなるかもしれない。だから、そうなっても大丈夫なようになるまで、僕らが周りなど一顧だにせずとも済むようになるまでは。
姫ちゃんが拒まない理由はもう一つある。これは別に性的な欲求とかそういう類の物では無い。そしてそれこそ、僕らが求め過ぎないようにしなければならない理由でもある。そもそも姫ちゃんは、僕のお願いなら絶対に、必ず応えてくれるのだ。
毎朝起こしに来てと言えば、目覚まし時計の様な正確さで起こしに来てくれるだろう。セックスさせてくれと言えば、公園の公衆便所でも股を開くだろう。今から一緒に死のうと言えば、笑顔で一緒に死んでくれるだろう。だから、求め始めると止まらないから、僕らは求め過ぎないようにしないといけないのだ。
僕と彼女の関係は、そういうものなのだ。
互いで互いを求め合い、互いが互いを牽制し合う。
互いが互いを支え合い、互いが互いの足を引っ張り合う。
互いが互いに要求し合い、互いで互いに応じ合う。
彼女の願いに何でも応じ、僕の願いに何でも応じる。
彼女がいないと生きては行けず、僕がいないと生きていけない。
僕らはとっくに共依存で、わざわざ〝ごっこ遊び〟などと言い訳する必要はすでにないのだ。ただの習慣で言い続けているだけに過ぎない。
姫ちゃんは今日僕を欲した。人が恋しくなった。現実から目を背けたくなった。昼間に何か辛い事があったのだろう。そのストレスを発散する事を僕に求めた。無限の信頼を僕に求めた。無制限の許容を僕に求めた。だから応じた。
そして僕は、姫ちゃんが、僕にとってのお姫様が僕によって汚れる姿を求めた。彼女の性欲発散など、副次的な効果でしかないのだ。それを承知の上で、姫ちゃんは僕の願いに応じた。お前は僕の物だと言う、子供の様な、我儘な、単なる独占欲の顕示に彼女は応じた。僕が求めたから応じた。
環境は容赦が無い。容赦なく、僕らから様々な物を奪おうとする。
だから僕らは、二人で求め続けるのだ。世界から奪われた物を、二人で補って行くのだ。
そうしないと、生きていけないのだ。