知らない男の舌が僕の唇を貪る。
「はぁ…あぁ…んはぅ」
あああ…いやだ…やめ…やめて。感じるから…やめて…。知らない男なのに。誰かもわからないのに…こんな場所で犯されて、よがり声をあげて、悶えて…僕は本当はこうなの? 彼の言葉が僕の心を少しづつ侵し始める。
(君は元から淫乱なんだ)
願ったんだ。確かに僕…は…もっと狂い、せめて気持ちよく…なれる…よう…
「くあああっ!」
本当にあれは媚薬…なの?
「んあっ!」
誰かが敏感な場所を口で責めて…さっき出してしまったのに…そこは。
「はあうっ…」
願いが叶う…こんな残酷に。こんな…に…なりたく…ない。願ったのに…自分に裏切られる。
「いやあああぁぁ!」
僕はこんな酷いことを願ったの?
「くはっ…ああぁ…あうぅ」
「良い声で泣くね…すごく興奮する」
もう一人誰かが…僕の口に。
「ああ…たまらん。もっと喉の奥まで欲しいか?」
二人の男に上と下を同時に犯される。身体の中に膨れ上がる愉悦。ああっ…また…ま…たぁ…
「ぐふっ…」
「また出したね。君のは美味しいな。こんな風に責められたら我慢出来ないだろう」
でも口の中はいっぱいで、喘ぐことすら出来ない。
「むぐぅ…んん…」
神経が焼かれる。頭が飛びそうになる。快感で苦しい…はけ口が…ない。誰か…あ…あ…また…違う…男…が…
「もっと良くしてやる」
「ぐ…うぐうっ!」
三人目の男の身体が僕のうしろから尖端をめりこませてくる。気の遠くなるような衝撃。身体の芯が抜きとられ、変わりに太い支柱を埋め込まれ、人形みたいにされるがまま。
「ん…ん…んんんぐぅっ!」
「可愛いね…また出して」
何度でも…何度でも噴き上げる快楽の淫らな果汁。体がどろどろに汚れていく。
「んふっ…んぐうぅぅっ!」
灼熱の鉄の杭がまた身体の中に、容赦なく打ち込まれて。あ…あ…う…ごけ…な…い。こ…れが…本当の…僕の身体…
いや…だ
い…や……だ
兄…貴
あに…
たすけ…て
た…す…け…
入れ替わり男たちが僕の身体を犯す。永遠に終わらないかのような絶望のループ。地獄の責め苦…? いや…これは淫魔のサバトだ。ありとあらゆる身体の性感が起こされ、弄ばれ増幅される。僕はもう…きっと人のかたちをして…ない。これから僕は…自分から欲しがる…のかな。あの頃の兄のように、身体が飢えて闇を求めるのか…な。一日中…いきりたつそれを慰めても慰めても足りなくて、あの男にすがりつくのかな…僕は…もう…誰とでも…
あにき。ぼくはあなたの…じごくをめぐる。聖地を経巡る巡礼みたいに、あなたの足跡を追って、こんな魔道に堕ちてる。そう、ぼくはのぞんだんだ。あなたのぜんぶをみたいと…あなたのすべてがいとしいと…だからみせてって…ぼくがのぞんだ。このみち…あなたもとおった。ぼくはいま…それをみてる…
「ああああっ!あああっ!」
「急所がいろいろとわかってきた…2人で同時に急所責め続けたらどこまで狂うかな? この子は」
「あああっ…やめてっ! いやだあああああっ!」
いまぼくは、あなたになってる。あなたのくるしみをこうしてみてる。こんなばしょにひとりでいたの?
「出るっ!でる! んっんっ!」
「ほら…くわえろ」
「こっちも奥まで欲しいか」
「あああ…許し…て…いっ…んぐぅ」
まわされて、おかされて、ゆるしてとなきさけんで、こうしてみしらぬおとこにひざまづいて、よくぼうをぶちまけられて、それでも、たえて…いきて。
「ああ…たまらん身体だ。いくらでも応えてきてくわえこんで、離さないなこの子は」
「も…だ…だめ…あっあっあっ!」
「快楽を植え付けられているんですよ。幼い頃からね。呪われているんだ…血が…ね」
「あはっ…ああ…あんっ」
「腰を回して…犬みたいにすりつけて。自分から腰を使い始めたな」
「乳首をこんなに立てて、女みたいに感じてる」
「貪欲な身体だ。身内に仕込まれてこんなにされたのか…可哀想に。もう戻れないね、ほら、いいだろ?」
「ああっ…い…良い…あ…そっ…そこ…そこぉ…!」
ほら…もう…求めてる。兄が拒絶しながら父親に抱かれたように、僕もいやなのに開いてしまう。こんな地獄に独りで生きて、兄は幼い頃から独りでこれを…。中学校に行き始めた兄の暗い姿が不意に浮かび上がる。もしかして毎日、こんな狂った身体に耐えて、日々を生きて…? ああ…耐えられない。今まで気が付かなかったことが次々と脳裏に浮かびあがる。きつく僕を抱きながら僕を愛した兄。僕の息が苦しくなるほど孤独な目をして、僕をかき抱いて眠る兄。骨膜炎になり疲労骨折を起こすほど部活でひたすら走って、身体の熱を静めて耐えていた兄。聞かされて知っていたのに、わかっていなかったこの苦しさ。こんな淫火の中でさえ、あんなに僕を精一杯愛してくれた。今ならわかる。この身体を許すことが出来ない。そしてもしこれを幼い僕に刻みこんだと兄が認識するのなら…自分の存在そのものを否定する。兄なら。
「あぁ、欲しがり始めたな。それじゃやめようか? いやなんだろ?」
焦らされた空虚感が耐えがたく襲ってきた。埋めないと焦燥感で気が狂う。一瞬…この身体、兄か自分かわからなくなる。あにき、あにき。ぼくももうすぐ堕ちるよ…もう自分から身体を開く…見知らぬ男に自分から求めて溺れる。もうすぐ、そこまでとどく…だからもう…あにき…独りじゃ…ない。こんな暗闇で…ずっと待た…せ…てごめん…ね…もうす…ぐ…そこ…まで…い…く…
「ダメぇ…! やめちゃダメ…やめちゃ…あああぁ…して…してっ!」
ぼろきれのような感覚で、車の中で目が覚めた。いつものように助手席に座らされて、ボロボロの人形のような身体をシートベルトに支えされていた。車は止まっていた。どこ…だ…ろう? あのあと縄を外されて、更に激しく男たちに犯されて、泣きながらとうとう自分から求めて狂った。長い長い饗宴。僕は、堕ちた。彼はそれをただ眺めていた。無表情に。
記憶がどこからか途切れていた。きっと意識を失ったんだろう。わななく思うように動かない身体を少しづつ動かし、左に視線を移す。隣には彼が目を閉じて、シートに深くもたれていた。目をあげると視界の向こうは海だった。僕はしばらくシートに頭を預けて、ぼうっとそれを眺めていた。
「なぜだ…なぜいくら汚しても汚れない…?」
目を閉じたまま彼が呟いた。僕が意識を取り戻したのをわかったようだった。
「私と真反対だ。私は存在自体が闇。汚辱そのもの。だから皆自分を貶めるために私と交わる…君はたとえ狂っても汚されない…闇の中で魔物にとり憑かれても、君の闇はなぜか…光りを放つ…」
僕は黙ったまま廃人のように、焦点の合わない視界に映る夕暮れの海の色を眺めていた。
「今君の兄さんは魂の抜けた人形だ。空っぽの身体を私の闇で満たしてる。君の兄さんには元々闇がある…私と微かに響き合う絶望という名の闇が…」
彼は大きくため息をついた。
「君はなぜ…絶望しない?」
僕に訊くともなく彼は尋ねた。
「君をこの何ヵ月凌辱し続けた? 君を踏みにじり汚し唾を吐きかけ、犯し、そして今日腹を空かせた
ハイエナ達に君の肉を引き裂き、放って与えた」
朦朧とした耳に彼の呟きが淡々と響いていた。
「君は私のトリックに見事にハマり、ついに身体を開いた。君の身体は淫欲にまみれ満たされ、堕ちた。見知らぬ男たちに自分から愛撫を求め、快楽を貪る犬になった」
そう…僕は堕ち…た。
「…だが」
彼は低く囁いた。
「堕ちたはずの君は…堕ちたはずの魔境の闇の中で発光していた。汚れない…どうして君を闇に染めることが出来ない…?」
彼は空しく笑った。
「なぜなんだ?」
彼はゆっくりと僕に向き直り、シャツの裾から手を入れ僕の身体を片手でまさぐった。僕の死体のような身体が、独りでにピクンと反応した。
「私が手ぬるいのか…」
首筋を唇が這う。こんな虚脱した身体なのに、まだ苦しいほど感じてしまう。薄く唇が開く。声も出せず吐息だけが漏れる。僕は抵抗する力すら残っていない。彼が僕のシートベルトを外す。自分の重みを支えられずに窓に身体が倒れかかる。
「こんなにボロボロにしたのに…」
彼は残念そうに呟いた。
「君は何で君を支えているんだ?」
僕のシートをいきなり深く倒す。一緒に僕の身体も後ろに倒れこむ。
「まだ私の忍耐が足りないのか…」
彼が今日初めて、無抵抗の僕の身体を激しく嬲る。独りでにガクガク震えてくる身体。自分の意志では反応すら出来ない。指が僕の中心をまさぐる。死体に電極を繋いだような無機質な痙攣。
「私は君を憎んでいる。私が堕とせなかった者など未だかつて一人もいやしない。だが最も憎悪しているはずの君が、まだ私に支配されないのはなぜなんだろう」
覆いかぶさった彼は、僕の中に強引に入ってきた。灼けるような感覚が広がる。吐息だけが独りでに漏れる。
「薬でボロボロにするのは簡単だ」
彼は僕を陰湿に犯しながら囁いた。
「だけどそれでは復讐にならない。君が君自身を貶めて自分を切り刻むのを見た…いの…に…」
激しく突き上げながら、彼は僕の中に欲望の飛沫を注ぎ入れた。後部座席で後ろ抱きにされて二度目の凌辱が始まる。根本まで固く繋がれて、僕は虚脱したまま彼に腰を奪われ弄ばれた。
「私に屈服するんだ。心も身体も。君のことを助けられるのは…私だけだ」
犯されながら、あまりに悲しくて涙があふれてきた。僕は思った。あなたがまるで宿り木のように誰かの闇に寄生しなければ、あなたはこんな酷い思いをしなくて済むのに。プライドも支配も、はかない。それでもあなたは手に…入れたいんだね。心も身体もあなたの思い通りに。だから闇という手綱をつかんで操ろうとする。あなたはそれを半分わかってるけど、半分は無意識で、愛が支配に変わる瞬間を、きっと気づかない。
きっと僕も兄を欲しがり過ぎたのだ。実在の肉体を持った兄を。ほんとだ。普通の兄弟の愛でただ心を分かち合い、思い遣りの中で暮らせればなにも喪うことはなかったはず。それができなかった…できなかったんだ。なぜなら兄はもう、闇の中にいたから。でも僕は闇に巻き込まれても悔いはない。兄が歩いた闇を歩きたい。だから僕は此処でこうやって、この人や知らない男達に犯されても僕はそれでいい。そう思えた…男達に犯されながら、兄の愛があるから、どんなに暗くても僕にはそれしか見えない。たった、それだけのこと。兄の心、きっと一緒に居る。だから僕はどんな闇の中でも兄の姿を見る。淋しげな優しい眼差しを、僕は闇の中で見つける。兄の苦しみをわかって、共に味わって、そして兄の絶望に一歩でも近づきたい。兄を独りにしたくない。離れてわかった兄の孤独の深さ、堕とされてわかった兄の狂気。兄がいなければ僕も容易く闇に染まるだろう。だけど兄が居る限り、僕は闇の中で兄を愛してしまう。どうしてもそれをやめることは、出来ないのだ…と。
魔境の暗闇を歩いたから、兄とひとつになれる。心が重なる。それが本当の“共に居る”ことだから。だからこの人にもほんとは、ありがとうって言わなきゃならない。この人だから、こんなに深い場所に連れてきてくれた。どんな光も届かないような魔境に。
この人にも闇に棲むための過酷な理由がきっとあり、心の底で密かに苦しんでいるんだろうな。でなければ復讐なんか思いつくわけがない。幸せなら人の幸せを願う。不幸なら不幸を願う。不幸を願うこの人が、あまりにも悲しい。この人を憎んでも恨んでも殺しても飽きたりないはずなのに、この人の悲しみがもう闇を汚すほど、この人を覆っている。それが悲しくて、復讐と憎しみでそれに気づいていないこの人がもっと悲しくて、僕はこの人を憎みきることが出来ない。彼もいつか崩壊するかもしれない。こんなに悲しかったら生きていけないのに。
「また泣いているのか。そんなに私に犯されて気持ち良いのか? ボロボロになっても責められて堪らないのか。淫乱だな…君の愛する兄さんと同じだ」
何時からか圧し潰れた彼の心。ブラックホールみたいに光さえ飲み込んで、輝くことはもうないのだろうか?
あなたのために髪を剃り
荒布をまとい
あなたのために心を痛めて泣き
はげしく嘆く
《エゼキエル書 第ニ七章31節》