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くろりいん
豪雪。
荒れ狂う風のうねりが、鈍色の空より降る純白の氷雪を、眼下の大地へと叩きつける。
結露の浮かぶ窓ガラスから無限に続く極寒の景色を仰ぎ見て、クロノ・ハラオウンは溜息をついた。
「風が弱まるまでしばらく動けないな」
冷え切った空気に澄んだ声が響く。
分厚い金属とモルタルの壁で句切られた小さな室内で木霊する声は、独り言でなく、同行者へ向けられたものだった。
黒衣の防護服の少年と共に、硬い床の上に腰を下ろしているのは、一個の、完全に完結した美の結晶であった。
「ええ」
小さな返答の声音一つとっても美しい。
煌めく髪は銀糸の如く、雪よりも白い肌は内からほの光る如く。
天の才を持つ芸術家が如何な身魂を賭けた細工であっても再現できぬ美貌。
吸い込まれるような、深すぎる赤い眼差し。
肉付きは果てしなく、男の欲をくすぐる、豊満の極み。
果たしてこれが神ならぬ人の被造物と知れば、古代ベルカにて猖獗を極めた魔法科学の異端ぶりが如実に実感できよう。
リインフォース、禁断たる闇の魔道書に仕えし融合騎は、ひっそりと咲く花のように座っていた。
隣に腰掛けた少年執務官、クロノ・ハラオウンは、どこか居心地悪そうだった。
闇の書事件を経て、年が明け、新年を迎えたこの頃、クロノはある任務を受けた。
永劫の寒期に包まれた氷結の惑星、第13世界第2惑星ザードスにおける、古代魔法遺失物調査だ。
不測の事態に備え彼は交友のある魔道士の何名かに声を掛けた。
義妹フェイトやその友人なのは、八神はやてを含めた、一連の事件からの知り合いだ。
皆それぞれに別々の案件を持っていたが、一人だけ時間の空いている者がいた。
リインフォースだ。
かくして、クロノは彼女と共に凍りついた星に降り立った。
しかし予測を遥かに超える悪天候の為、保護障壁を展開したままの活動さえ困難となり、一時避難を決めた。
過去この世界を観測しに訪れた人々の建てた山小屋だ。
金属やコンクリート、モルタルの複合壁と断熱材、なけなしの燃料ストーブのおかげで、かろうじて寒さをしのげる。
「……」
「……」
無言。
ただ、無言。
双方、どちらとも、互いに口を開かず、静寂を分かち合う。
元よりクロノは多弁な方ではなかった。
リインフォースも同じく物静かだ。
普段から交友が深いわけでもない。
そうして何時間かの時が流れる。
クロノは何気なく、リインフォースの横顔を見た。
人ならざりし美貌が、どこか儚げに、淋しげに、じっと窓外の雪景色を見ていた。
彼女には雪が似合う、白く冷たく、滅びの気配がする。
(彼女に、僕の父は殺された)
胸の内で、少年はそう囁いた。
クライド・ハラオウン、クロノの父親はリインフォースによって命を失った。
正確には暴走した闇の書から他の人間を守る為にだ。
正確にはリインフォース個人に罪はない。
正確には誰のせいでもない。
しかし現に目の前に闇の書という存在の象徴の如き彼女がいれば、なんとはなしに意識してしまう。
この静かな美貌の女の為に、自分の父が死んだという事を。
物心付く前の事だし、死ぬほどの恨みがあるとか、憎くて堪らないという事もない。
だが悪感情が絶無であるかといえば、そこまでクロノも善良になりきれなかった。
静寂という無形の毒に侵されたかのように、静かに静かに、少年はどこか鬱屈したものを内に抱える。
どれほどの時が経ったろう。
ストーブの火がひっそりと消えた。
外から断熱材と空気の層を侵食してくる冷気に、吐く息が白く煙る。
「執務官」
静けさを、涼やかで甘やかな声が断つ。
見れば、真紅の双玉がこちらを見つめていた。
「ああ、一度戻ろう。このままじゃ魔力が幾らあっても足りない」
クロノは彼女が、転移魔法で船に戻ろうと言っているのだと思った。
しかし違った。
すっくと立ち上がった長身は、まだ成長期を迎えないような小さな執務官へと近づく。
何をするかと思えば、おもむろに屈み込み、さらさらと顔を寄せた。
さらさらと流れ落ちる銀糸の髪から香る匂いが悩ましい。
クロノは目を剥き、硬直する。
構わず美女は身を寄せた。
座る少年の上に、豊満を極める我が身を押し付けるように。
「な、な……何を」
「身を寄せていれば少しはあたたまるでしょう」
「ッ!」
服の裾を掻き分け、白魚のような指が肌を撫でた。
ひんやりとして、それでいて、じっと触れていると少しずつぬくみを帯びていく。
体に当たる大きな双丘のボリュームに、童貞の少年は戦慄いた。
母とも妹とも違う爛熟した果実の如き媚香はあまりに強烈だった。
やめろ、と言おうとした。
だが拒絶の言葉を溶かすように、体は自然と男の反応をした。
ぐっと身を寄せ抱きつくリインフォースの、女として成熟し尽くした肉体の暴力に、血が一点に集まる。
硬く屹立していくものを、クロノは制御できない。
十分ほど抱きつかれた時、むくむくと少しずつ大きくなったそれは、リインフォースの太腿に当たった。
「あ」
彼女が、小さく声をこぼした。
一瞬驚き、そして羞恥し、受け入れる。
3つの工程の表情を経て、濡れたまなこが間近から見つめる。
淋しげで切なげな双眸は近くで視線を浴びると抗い難い魅力に満ちていた。
「執務官、よければ……私の体で」
目に焼き付く白雪。
黒いバリアジャケットを左右に開き、急激なカーブを描く谷間が現れた。
漂う汗と雌の香りが、少年の理性を蝕む。
逃れようと後退る、背後は壁、後頭部がぶつかる。
美しい侵略はゆるやかに彼の着衣を乱し、肌を触れ合わせていった。
「や、やだ、やめろ」
自分でも上ずった、力弱い声だと思う。
メラメラと湧き上がる劣情、目の前の肉感的な肢体への欲求が抵抗力を壊滅的に削っている。
硬くなったものは一向に萎えず、それどころか余計雄々しくなった。
下から突き上げるように彼女の腿や尻に当たって欲望を訴えかける。
完全にまろび出た乳房が顔を挟む。
濃厚な香り。
汗と、どこかほの甘い体臭。
温かい、ずっとこのまま顔を埋めて、死ぬまでいたいと思えるような柔らかな重み。
触れ合うぬくもりはどんどんその面積を増やしていく。
彼の服も剥かれていく。
白い肌と白い肌、微かな汗の湿り気を互いにわかちあう。
やがてしとどに濡れた秘裂が彼を飲み込んだ。
「く!」
「ああぁ!」
少年の悲鳴、女の嬌声。
のしかかる重量感全てが快楽に変わるような心地。
小刻みな腰使いのささやかさは、彼女の色事への不慣れさが如実に分かる。
「リインフォース……なんで、こんな」
怒涛の快感と一方的な行為、蕩けかける思考回路で生まれる疑問。
女は彼を豊満な乳房の中に納め、胎内に雄の象徴を埋め、体を揺すりながら、上ずった甘い声で言った。
淋しげに、優しげに。
「私の、できる……貴方への罪滅ぼしは、あまりないので」
微かに息を途切れさせる呼吸の中、囁かれる声音。
果てしない感情の、混沌が生まれ、言葉にもならず、形にもならず、少年の中で煮えたぎる。
美しさと妖艶さに飲まれる中、罪悪感に駆られ謝罪を告げながら体を重ねる彼女へ、言い様のない憤りを感じ、そして悲しさに胸を打たれる。
誰も悪くない筈なのに、誰かを責め立てたくてたまらなくなる。
気付けば、少年の細くしなやかな十本の指は大きな尻たぶを掴んだ。
思い切り指を埋め、そして、突き上げる。
「ひゃうん!」
甘い甘い声が出た。
頭上から浴びせられる嬌声の甘美な響き。
絡みつく媚肉の締め付けにクロノもまた脳髄が煮えたぎる。
大きな尻を上下する、いや、させる。
捕縛した両手で動きを制御し、強制し、腰を動かして。
自然と顔は強く乳房の合間に押し付けられ、口は桃色の蕾を求めた。
ぱくんと口に乳首を含んだ瞬間、そっと歯を立てて甘噛みする。
長い銀糸の髪が乱れ、白く豊かな長身が何度もさざなみに煽られるように揺れた。
「あ、胸……乳首、や……ん! あぁ!」
切なげな声を上げ、クロノが胸に吸い付き、乳頭への責めを行うたびにリインフォースは喘いだ。
心なしか、乳首へ刺激を与えるたびに腰の動きがいやらしくくねる。
締め付けが一段と強くなった時、クロノは思い切り腰を反らせた。
瞬間、リインフォースは身も世もない叫びを上げる。
「あああぁぁッ!」
弓なりに反る背中。
強く掻き抱かれ、少年の顔が胸に深々と埋まる。
締め付けと摩擦、灼熱の瞬間、忘我の時。
彼もまた果てた。
どくどくと脈打つものが、白く濁ったものを注ぐ。
注ぎ尽くす。
「はぁ……はぁ」
「ふう……ぅぅ」
冷たい静かな空間に、少年と美女の吐息が白く煙る。
荒い息遣いの中で、湯気を立ち上らせるほど熱された肢体。
快楽の残滓に甘く焼かれる脳髄。
思考はしかし、陶酔に至るには遠い。
「ごめんなさい……執務官……ごめんなさい」
頭上から降り注ぐ謝罪の言葉が、刺されば抜けぬ鈎の棘と化して苛んだ。
クロノはそれを忘れるように、彼女の腰を強く抱き寄せ、また腰を動かし始める。
轟々と吹きすさぶ風雪の中、営みはいつ果てるとも知れず続いた。
終幕