「それで、百合ちゃん。罰ゲームのことなんだけど……」
そう健太が言ってきたのは、彼が百合の部屋にあったウェットティッシュで指を拭き終えてからのことだった。
もちろん、少年は百合のスカートの中から頭を出し、正座のままでいる彼女と向き合って座っている。
そして幸いなことに、お漏らしと勘違いされた愛液のことは、健太の頭から飛んでしまっているようだった。
(そんなことよりも罰ゲーム、なんだろうな。健太くんは)
その思考に驚くことは、特にない。
降参したあとも健太の責めはやまず、結果として百合は絶頂させられてしまったわけだが、あれはただ少年も止まれなくなってしまっただけなのだろう。
もちろん、あれを『罰ゲーム』としてしまってもいいのだろうが、健太にその意図がなかったというのなら、敢えてノーカンにしてあげたいと百合は思う。
だから、彼女が問題としているのはそこではなく。
(一体、わたしになにをするつもりでいるんだろう、健太くん……)
なにせ、股間をまさぐり、スカートの中に頭を入れ、指で秘裂を直接いたぶり、果てには絶頂までさせてきたのだ。
健太には『イカせてやろう』という意思などなかったのだろうが、それでもやはり、これ以上の『罰ゲーム』となると、一体なにをされるのかと少し不安になってくる。
(服を全部脱げとか、アソコを舐めさせろとか、そういう命令されちゃうのかな……? 健太くん、太もも舐めるの好きだし……)
要求が行き過ぎている場合は、もちろん百合だって『それはできない』と言うつもりでいるのだが。
しかし、少年が口にした『罰ゲーム』の内容は、彼女の想像とはまったく方向性が異なっていた。
「あの、ね。実は、今日もお風呂、一緒に入ってほしいんだ……」
「えっ?」
思わず、それだけを返してしまう百合。
(まさか、そんなことが『罰ゲーム』? わたしを降参させるためだけに、あんなものすごいことをしたのに?)
もちろん、普通に考えれば充分すぎるほどの『罰ゲーム』である。
だが、すでに少年の行為を可能な限り許し、受け入れてあげると決めていた彼女からすれば、どうしても『いまさら』な感が拭えない。
そんなことを思いながら無言でいると、なにを勘違いしたのか、健太が慌てて言い足してきた。
「本当に今日だけでいいから! あとはもう、わがまま言わないから! 一生のお願い!! ――あ、おちんちんも大きくしないように頑張るから!」
それはどう頑張っても無理なのでは、と思う百合。
同時に、『一生のお願い』なんて久しぶりに聞いた、とも。
その
「え、えっと? 百合ちゃん?」
なんで笑われるのかわからない、という表情で首を傾げる健太。
そんな彼に、少女は微笑んだまま、なんの緊張もなくうなずいてあげた。
「うん、わかった。いいよ。今日も一緒に入ってあげる。……ううん、今日だけじゃなくて、健太くんが望むなら、毎日だって一緒に入ってあげるよ」
許してあげる、と決めたのだから。
甘えさせてあげる、と決めたのだから。
『お姉さん』として、自分にできる限り。
「本当!?」と表情を明るくする少年に「うん、本当」と優しく微笑みかけながら、百合はこうも思った。
(わたしだって、赤くなってる可愛い健太くんをまた見たいって、ちょっと思ってたし……)
お風呂は自分が優位に立てる場所。
肌を晒す羞恥にさえ耐えられれば、逆に健太を
それが、百合の風呂場に対する認識だった。
「それにしても健太くん、わたしと一緒にお風呂に入りたいからってだけで、わたしに勝とうと頑張ってたの?」
「う、うん。だって、昨日――」
「もう……。昨日のことは気にしないでいいって言ってるのに。でも……ふふっ、そっかあ。そこまでしてでも、健太くんはわたしと一緒にお風呂に入りたいんだあ」
からかうように言いながら、百合は少年に少しばかりの愛しさを覚えてしまう。
「『罰ゲーム』になんて、しなくてもよかったのに。普通に頼んでくれれば、それで」
「うん。ぼくも、もしかしたら普通に頼んでも『いいよ』って言ってくれるんじゃないかって、帰ってきてからの百合ちゃん見て、思ってはいたんだよ? でも、その……」
そこで、健太は少女から顔を背けた。
「ひざまくらも、してほしかったから。百合ちゃんの声、たくさん聞きたくて……」
「あっ……も、もう、健太くんったら……」
少年の正直な告白に、百合の顔が赤くなる。
健太の言う『百合ちゃんの声』というのは、つまるところ、百合のはしたない喘ぎ声のことだ。
それをもっと聞きたいと言うあたり、やはり健太は、理乃の言っていたとおり『男の子』なのだろう。
(でも、これくらいのいやらしさは……普通、なんだよね?)
異性に対する興味。
きっと、その一言で片づけられることなのだろう。
少なくとも、百合はそう思うのだった。
◆ ◆ ◆
静希家の居間は和室である。
茶色い長方形のテーブルがひとつに、テレビがひとつ、そして座布団が三つ用意されている畳敷きの部屋。
健太の席は百合の隣。百合の母だけが、百合と健太に向く形となっている。
今日の夕食のメインは、唐揚げだった。
適当につけたドラマを見ながら、百合はそれを健太にベタベタと抱きつかれながら口に運ぶ。
「ねえねえ、百合ちゃん。唐揚げちょうだい!」
「え? 健太くんのは?」
「もう全部食べちゃった! だからちょうだい!」
「そんな元気に言われても……。ちゃんと、わたしと同じ数あったはずだよ?」
「だって、足りないんだもん!」
言って手足をジタバタさせる健太。
そんな姿に、じゃあ自分の分をあげようかと、百合は苦笑しながら少し迷う。
だが、彼女が口を開く前に、少年は百合の母のほうへと向いた。
「じゃあ、百合ちゃん!」
話しかけてくる対象は、あくまでも百合だったが。
「百合ちゃんが唐揚げくれないって、百合ちゃんのお母さんに言っちゃうよ? それでもいいの? 百合ちゃん、お母さんにすっごく怒られちゃうよ?」
それに思わず吹き出してしまう百合とその母。
わがままを言っているのは、健太のほう。
百合の母は、その一部始終をすぐ目の前で見ている。
こんな状況で、一体なにがどうなれば、百合が怒られることになるというのだろうか。
(やっぱり、健太くんは可愛いなあ)
特に、この考えの浅さがたまらない。
仮に百合の母がこの場にいなくて、健太が台所まで『百合ちゃんが唐揚げくれないんだよ~!』と訴えに行ったとしても、健太がたしなめられて終わりとなるだろう。
「ちょっ! なんで笑うの!?」
むくれる少年に、なんでもないと笑いながら、百合は唐揚げを二つほど分けてやる。
すると、少し不機嫌になっていた健太の表情が、すぐさま喜びの色に輝いた。
「わ~い! ありがとう、百合ちゃん! だから百合ちゃんって大好き!!」
その言葉に、百合とその母はまたも笑ってしまう。
「だから、なんで笑うの!?」
これにもまた、二人揃って『なんでもない』と返し、百合は改めてテレビのほうへと目を向けた。
……濡れ場だった。
布団の中で、二十代前半くらいの男女が全裸で
いや、睦みあうなんて表現は生温い。もっと過激だ。男の片手は女の胸に触れており、それに応えるように女が男に口づけている。
そしてそれは、俗にいう大人のキスに移行していき、さらに、こちらは布団の膨らみからしか察せないが、男のもう片方の手は間違いなく女のアソコに伸びていて――
「――っ……!?」
慌ててリモコンを手に取り、バラエティ番組にチャンネルを変える百合。
あんなものを健太に見せてはいけない。
「け、健太くん。食べ終わったら先にお風呂に行っててもらえ――」
昨日と同じく、先に浴室に行っておいてもらおうと思い、健太にそう声をかけたのだが。
そこで、百合は言葉に詰まってしまった。
(え、な、なに……?)
健太が自分の顔を見つめている。
それも、ものすごく真剣な、どこか
そして、その視線は百合の顔のある一点だけに
(健太くんが見てるのって、わたしの、口許……?)
そうとしか思えなかった。
明らかに、健太は百合の唇を意識していた。
だが、そこをじっと見ているのが悪いことだとでも思ったのだろうか、少年は「ごちそうさま!」と言って唐突に立ち上がり。
「お風呂っ! お風呂、先に行ってるね!」
と大声で言い残して、逃げるように居間から去っていった。
さっき百合があげた、二つの唐揚げを残したままで。
(ドラマのディープキスを見て興奮しちゃった、とか? まさか、ね……)
実際にはそのまさかであり、今夜二人で布団に入ったとき、あのドラマのように彼女は健太から口づけを求められることになるのだが。
「じゃあ、お母さん。ごちそうさま。……その、今日も健太くんと一緒に入るから、部屋に戻って着替えの用意してくるね」
そのようなこと、いまの百合には、もちろん知る由もないのだった。
◆ ◆ ◆
バスタオルを片手に、けれど特に前を隠すことはせずに、百合は浴室へと足を踏み入れた。
もちろん、恥ずかしくないわけではない。
だが彼女は、健太が女性の裸に
素肌を晒していたほうが、恥ずかしがって少年のほうから目を背けてくれるだろう、と。
そう、踏んでいたのだが。
「あっ! 百合ちゃん来た~っ!」
昨日のように身を縮こまらせることなく、もちろん股間を隠すこともなく、健太は浴槽から飛び出てきて。
「えいっ! つっかま~えた~っ!」
「――きゃっ!?」
と、一糸まとわぬ百合に向かって、勢いよく抱きついてきた。
「百合ちゃんのおっぱい、やっぱり柔らかくて気持ちいい~」
服越しには何度かされているそれに、百合はよろけてバスタオルを取り落とし、閉めた扉に背中を押しつけられてしまう。
「ま、待って、健太くん! わたし、いま服着てないのに、そんなっ……!」
「お風呂なんだから、服着てないのは当たり前だよ~!」
百合の胸の膨らみに頭を擦りつけながら、そんなことを言ってくる健太。
それから、「――あっ」と漏らし、百合の顔を見上げてきた。
「ごめん、百合ちゃん。おちんちん、やっぱり大きくなっちゃった……」
わざわざ言われなくてもわかっている。
少年が抱きついてきたときから、『それ』は確かな存在感を百合の太ももに伝えてきていたのだから。
だが健太は、少しだけ申し訳なさそうな表情にはなっていたものの、少女から離れようとはしなかった。
逆に密着の度合いを強め、硬くなったペニスを百合の太ももに擦りつけてくる。
「うわあ、なんかこうすると気持ちいい~。おちんちん、ビクビクってするよ~」
「そ、そう……」
その感触と行為があまりにもいやらしいものに感じられ、少女は顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまった。
昨日、今日と太ももを指で刺激されていたからか、幸い、嫌悪感はなかったが。
そんな百合に、元気よく「うん!」とうなずく健太。
「なんかね、なんかね! おっぱい触るのとは別の気持ちよさがあるんだ! 上手く言葉にはできないんだけど、こうやってスリスリすると、ものすごく気持ちいいんだよ!」
そう言う少年の
ピクピクと小さく跳ねるその感触に、小さな声を漏らしてしまう百合。
「あっ……ああっ……」
「ん? どうしたの? あ、もしかして百合ちゃんも気持ちいい?」
「やっ、ちがっ……」
と、そのときだった。
「――あっ! うわあっ……!」
健太のペニスが激しく跳ね、上下運動が一度止まる。
もちろん、その先端から勢いよく飛び出るものはなく。
少年の陰茎が小さくなることもなかったが。
だが、それでも健太は、間違いなく百合の太ももを使って達してしまっていた。
「……はあ……はあ……。いまのって、百合ちゃんの部屋でもなったやつ、だよね? ねえ、百合ちゃん。いまのって、一体、なに?」
息を荒くした少年が、そんなことを訊いてくる。
それも、一度はやめていた上下運動を再開させながら。
「や、ま、待って……! 健太くん、一回離れてっ……!」
「え? ……あ、う、うん。わかった……」
もの足りなさそうな表情になりながら、それでも健太は百合から大人しく離れた。
そんな少年になんとなく申し訳なさを感じながら、彼女はうつむいて思考を巡らせる。
(いまのって、たぶん、イっちゃったんだよね? 健太くん。それも、その……わたしの身体を、使って……)
一糸まとわぬ百合の身体は、健太には刺激が強すぎたのだろう。
陰茎を太ももに擦りつけてきたのだって、おそらくは本能的なもの。
それはわかる。わかる、のだが……。
(でも、こんなこと続けさせてたら、健太くんに絶対よくない……。健太くんのことは受け入れてあげるって決めたけど、女の子の身体にアレを押しつけてイこうとするのまでは、さすがに許しちゃいけないと思うし……)
そこまで思ったところで、百合は気づいた。気づいてしまった。
隠すべき場所をすべて露わにしてしまっている自分の裸を、健太が食い入るように見ていることに。
健太の目が、少女の胸と股間を
遠慮など、微塵もなかった。
穴が空くほどに、見つめられていた。
興味本位ではあれど、ペニスを硬く勃起させたままで、
「――やっ! ああっ……」
それに恥じらい、百合は慌てて自分の身体を隠す。
とても隠しきれないとわかっていても、右手で両の胸を、左手で股間を、必死に隠す。
羞恥に染まった表情でそんなことをすれば、かえって男を欲情させてしまうのだと、気づきもせずに。
「あ、あの、健太くん。なにも、そんなまじまじと見なくても……」
「見ちゃ、ダメなの?」
「だめっていうか、その、健太くんが見るのはまだ早いっていうか……」
前を隠すことなくお風呂に入ってきておいて、一体なにを言っているのだろう。
そんなことを思う自分もいる。
だが、仕方のないことだとも言えるはずだった。
(だって、昨日の健太くんはものすごく恥ずかしがってて……。背中を洗ってあげてるときとか、わたしは、見られてることにも気づかなかったくらいで……)
なのに、なぜいまはこんなことになっているのだろうか。
お風呂は百合が優位に立てる場所。
間違いなく、そうであったはずなのに。
と、そこまで考えたところで、彼女はようやく自分の思い違いに気がついた。
昨日、健太が恥ずかしがっていたのは、自分の裸を見てしまったせいではない。
勃起した自分の陰茎を、百合に見られたからである。
(それなら、わたしも健太君のあそこをジッと見れば……って、そんなこと、できるわけ……!)
そう、できるはずがない。
勃起しているペニスを凝視してやれば、おそらく少年は羞恥心を覚えて陰部を隠すことだろう。
だがそのようなこと、
だから百合は、せめて言葉で少年に羞恥心を抱かせようと試みた。
「ねえ、健太くんは……その、前隠さなくていいの? 恥ずかしく、ない?」
「え? う~ん、そりゃ、ちょっとは恥ずかしいよ? でも、百合ちゃんがすごく恥ずかしがってるの見てたら、なんか、そこまでじゃなくなってきちゃった」
「そ、そうなんだ……」
昨日と完全に立場が逆転していることを悟り、百合はそうつぶやくことしかできなかった。
つまるところ、羞恥心から先に身体を隠してしまったほうが負けなのだ。
恥ずかしがって身体を隠してしまった時点で、相手に主導権を握られてしまうのだ。
昨日、先に羞恥を表に出したのは、健太のほうだった。
そして今日、先に恥ずかしがって身体を隠したのは、百合だった。
それが、少年が陰部を隠そうとしない理由。
この場での主導権を、健太に握られてしまった理由。
それに、百合は忘れている。
――わたしに見られたからって、別にそこまで恥ずかしがらなくてもいいのに。
昨日、お風呂で健太にそう言ったことを、忘れている。
――それにその反応は、男の子だったら普通のことだよ、きっと。
『恥ずかしがることではない』のだと。『普通のこと』なのだと。
少年にそう教え、納得させたのは、他でもない百合自身であるということを、彼女は完全に忘れている。
それらの言葉こそが、健太の羞恥心を限りなくゼロにしたのだというのに。
それを忘れている少女は思う。
(わたし、また健太君を異性として見たせいで、こんな失敗を……。なんとかして、なんとかして主導権を取り戻さないと……!)
そして、考える。
必死になって、考える。
昨日、自分が主導権を握っていたのは、具体的に、健太になにをしていたときだっただろうか、と。
(そうだ、背中! 健太くんの背中を流してあげてたとき!)
もちろん、それが主導権を握るきっかけになったわけではない。
むしろ、主導権を握ったあとだからこそ、健太は大人しく百合のされるがままになったのだ。
だが、百合はそれに気づかない。
『背中を流してる間は大人しくなるはず』と、昨日のことだけを根拠に結論してしまう。
だが、これも仕方がないことなのかもしれない。
なにせ、百合の思考は恥ずかしさのせいで停止寸前になっているのだ。
それを必死に働かせ、なんとか結論を導き出したのだ。
ならば、その結論に穴があるのは、むしろ当然のことだった。
「け、健太くん! 背中! 背中、洗ってあげる!」
「え? う、うん」
そして百合は、健太を椅子に座らせて、昨日と同じくその後ろに陣取った。
タイルの上に落ちたままになっているバスタオルを巻くのも忘れて。
この提案が、さらなる羞恥を招くことになるのだと、予想もせずに――。