やや暗めです。
※Pixivとのマルチ投稿です。
いつかはこうなるだろう――と、漠然とは考えていた。
だが……
然るべき日を迎えたものの、彼女の胸にそれほどの高揚感はない。
ようやく為すべきことを為しただけ――その程度のことだった。
***
知利子が彼を追うのに苦労したのは、学生の間くらいのもの。絶対的な評価軸がなければ、あとはコネでどうとでもなる。
集が課長に就任して以来、彼女はずっと秘書として彼を支え続けてきた。その数年後には部長へと昇進するが、それに伴い、彼女自身も昇格している。
こうして知利子は、常に集に寄り添ってきた。仕事とあれば、どんなときでも。会議とあらば、どこへでも。
ただ――
今回ばかりは急すぎた。
年末の仕事納めに九州支社での緊急会議。
日時は翌日朝一。
夜のうちに移動しなければ間に合わないが、宿を探している暇もない。
現地調達のつもりで飛び込んでみたものの……季節柄か、どこも満室。
彼とてそれなりの地位にある。金に糸目を付ける気はないとはいえ、空きがなければどうにもならない。
五件目にしてようやく一部屋。これからもう一部屋となると骨が折れる。
集から思わず溜息がこぼれたところで――知利子は事も無げに言い放った。
「構わないわ。セミダブルでしょう?」
これに、彼は少し眉をひそめるが、夜も随分更けている。世間体というものもあるが――彼は秘書の案を採用することにした。
寝る前に一人シャワーを浴びながら、知利子は己の置かれた状況に思いを馳せる。
先に上がったゆきあつは……きっと、早々に寝てしまっていることだろう。磨りガラスの向こうを眺めてみても、そこに人影がないことくらいは裸眼でも判る。子供じみた悪戯を企むようなヤツではないが――そこは、安心できるところでもあり、つまらないところでもある。
脱衣所に出てみるも、入る前と何ら変わらない。ここは洗面所も兼ねているし、トイレとも隣接している。だが、うっかり鉢合わせてしまうほど彼は抜けていない。ゆえに、知利子は戸板一枚あれば施錠の必要も感じなかった。
寝間着は部屋の方で用意されている。だが、下着は――折角さっぱりしたところなのに、一日穿き古したものを着け直す気にはなれない。
結果的に――寝室へと戻ってきた彼女は、素肌に薄い上下のみ。無防備すぎるといえばそうなのだが、眠っている相手に気を揉むのも馬鹿らしい。
だが、知利子の予想に反し――集は未だ寝ていなかった。サイドテーブルの小さなベッドランプを頼りに、文庫本か何かに目を通している。奥側に座っているのは、後から来る知利子を気遣ってのことだろう。
だが……
彼女が手前に腰を掛ければ、必然的に照明と書物の間を遮る形となる。
紙面の上に影が落ち、集は読書を諦めた。
本が閉じられたことで、それが就寝の合図――とはならない。
知利子もまた、横になろうとしないから。
彼女の真意を問うように、集の眼差しが向けられる。
それに知利子は、目蓋を閉じて答えた。
集は彼女の意図を即座に察し――そっと唇で、唇に触れる。
柔らかく優しい、知利子にとってのファーストキス。
思っていたより味気ない。
だから、彼女は手を握る。
より深いものを求めるために。
彼女の手にも確かな力が伝わってくる。
それで、知利子は暗闇の中で身構えていたが――
「――ッ!?」
ヌルリとした温かな感触。
舌が入ってきたと、彼女は即座に理解した。
だが……
心の準備ができていない。
一度触れたら二度目はコレか!
彼女の気持ちも知らずに、男の舌が蹂躙していく。
それに、知利子は抗わない。
虚勢を張りながら――どうにかこれに応えようとしている。
しかし……
どうしたらいいの……?
どこを……ここを!?
思いも寄らないところが、他者に踏み込まれていく。
最早、繋がれた唇すら気にしていられない。
未知なる一挙一動に、知利子は振り回されていた。
果敢に平然を装ってみるも――判る者には判ってしまう。
絡まる指先から伝わる緊張に、集は一旦顔を離した。
「……初めて、か?」
彼女が瞳を開くと、そこにあるのは心配するような、そして、意外そうな集の顔。
だが、下に見られているようで知利子は気に入らない。
「そうよ。だから何?」
別段、このような行為に興味はない。
興味があるのは――ゆきあつ、貴方だけよ。
彼女は再び目を閉じる。そして、唇を突き出し――彼が、処女は嫌だというのなら仕方ない。
だけど……
そんな知利子を前に、集はもう迷わない。ここで止めては、女性に恥を掻かせてしまう。
集が進めてくれるのならば、知利子にも拒む理由はない。
三度目の触れ合いは、表層だけ。
淡い吐息を感じながら、彼に支えられて――ズルリ、ズルリと姿勢を崩していく。
そして、シーツの上に横たわったとき――女の胸が男の手に包まれた。
ゆっくりと、布越しに揉み解されていく。
自分の女が、男によって蹂躙されていく。
これまで意識していなかったところを、執拗に意識させられてしまう。
もう片方の手が知利子の合わせを解いてゆくと、途端に腹部が頼りなくなる。
いや、頼っている場合でもないのか。我々は、これから密に交わり合うのだから。
衣服の裏側に手を差し込まれつつも――彼女もまた、彼のボタンに指を掛ける。
集はそれに身を委ね――それでも彼女の肌を侵食していく。
脇腹は、少しむず痒い。
そこからゆるりと這い上がってきた両手が――彼女の二房にのめり込む。
どうやら、触れられているらしい。それも、直に。
だが……
そこまで頑なに守るものでもないか、と彼女は思う。
何しろ、四捨五入すれば既に三十路だ。
男女の営みの場においてまで恥じらうような小娘でもない。
これは、至極当然――至極普通の――男による女への愛撫。
そう思い込んで、彼女は脂肪の塊を集に託す。
一方で――知利子の手もまた、集の衣を解き終えた。
そこから覗く彼の身体は、デスクワークとは思えないほどしっかりしている。
彼がジムに通っているのは知っているが――なるほど、伊達ではないということか。
触れてみたい――その硬く詰まった身体に。
誘われるように手を伸ばす彼女だったが――
「――っ!?」
死んでも喘ぎ声など上げるものか!
知利子は必至に口を結ぶ。
しかし、強張る全身は誤魔化しきれない。
集の指が、その先端から離れていく。
しかし……
突然のことで驚いただけだ。
そこまで嫌なわけじゃない。
いいえ、むしろ……
もう少し、そっとなら……
とはいえ……
集とて、ただ遠慮しているわけではない。
急きすぎたのなら、改めて。
柔らかなところにしっかりと指を食い込ませ、そして、再度……
「――ん」
知利子が小さく喉を鳴らす。
来ると判っていれば、もう恐れることはない。
ただ、彼を求める余裕もない。
乳房と乳首――女の丘陵を這い回る指先にただただ翻弄されている。
こんなところで、こんなにも感じてしまうなんて……悔しい。
だが、それよりも、まな板の鯉のように受け身になっていることが、悔しい。
彼が女を弄り回すのであれば、こちらとて男を辱めてもいいだろう。
手探りで下腹部に指を彷徨わせると――それはすぐに見つかった。
寝間着の内側から間抜けにせり出しているところに、知利子は躊躇なく指を添える。
私に……興奮している……欲情している……
集のらしからぬ一面が顕になっていることで、彼女は密かにほくそ笑む。
だが……
先を求めているのか……?
そう捉えた本人の手により、生地の境界が、下へ、下へ。
彼女の指はそのままに、その帳だけが流されてゆく。
そして、隔てていたものが取り除かれたとき――彼女は初めて相対した。
熱い……だが――意外と柔らかい……?
それは、先端だけか。幹の方は、硬く、しっかりと――
知利子はこれに、指を絡める。そして、そっと、手を引いた。
親指と人差指で作ったリングが傘の縁に掛かったところで、今度は奥へと戻していく。
こうすると、気持ちいいのでしょう?
こうして、欲しいのでしょう?
言葉として聞く必要はない。彼の身体は敏感に反応してくれている。その温かさを味わいながら、知利子は彼を労っていた。
一方、彼の手が女の胸に戻ることはない。
彼の手が目指していたのは――その、遥か下。
腰回りに指が入り込んできたとき――ついに来たか、と彼女は自ら背を反らせる。
抵抗するつもりはない。
恥じらうつもりもない。
お互い着崩して、
男女の秘所に触れ合った。
ならば――これは、必然。
下腹部の覆いは、尻の下を潜り、腿を滑り、足首の向こう側へと取り去られてしまった。
きっと今、私はとんでもなく無様な姿になっているのだろう――と、知利子は思う。上だけ羽織るも胸は晒され、下半身については隠すものもない。
だが……
それはゆきあつも同じか。そう思えば、少しは気も楽になる。
こんなに足を開いて、傍から見ればさぞだらしなく映るだろう。
しかしこうして、だらしなく、はしたなく、己の官能を求め合うのが……男女の秘め事ということか。
ここは、恥じらう方が、恥ずかしい。
知利子は、自身すら見たことのない身体を彼に開かす。
すると――
ペチャリ。
「んっ……!」
ただ一混ぜしただけで、自分の滴る音が聞こえてしまう。
クチュリ、ヌルリ――そして、それを粒の方へと……
「――――!!」
ここに何かが触れるのはいつぶりだろうか。
他の誰かに触れられるのは、当然初めて。
優しく、滑らかに、そして――鋭く。
周囲をなぞるように、くるくると彼の指が円舞を踊る。
そこに……彼の左手が、膨よかなところに戻ってきてしまった。
「……あっ、……ん!」
吐息に混ざる異質な甘味。それを知利子は必死に抑える。
悔しい! 悔しい……悔しい!!
その優しい唇も、卑猥な舌も、すべてが彼女を苛立たせる。
ゆきあつに……ゆきあつのクセに……!
どうしてこんなヤツの愛撫で……感じてしまっているの……!!
こんな自分が恨めしい。
もっと求めてしまっている自分の身体が恨めしい。
不甲斐ない己を振り切るように、彼女が握る手も激しさを増していく。
貴方だって……ゆきあつだって……こんな……こんなに腫らして……っ!
急かすその手に二人の距離が近づいてくる。
そして、ついには柔毛と柔毛によって挟まれ――彼女は、大人しく指を引いた。
来るのだろう……来るべきその時が。
それが遅すぎたのか、順当なのか――他者と比べても意味がない。
ただ、こうなることだけは判っていた。
ゆえに、これから行うことは、人生において、当然の――
「……んんん……っ!」
想像していたほどキツくはない。
案外、身体は緊張していないようだ。
とはいえ、弱い入り口だけは耐え切れなかったらしい。
鋭く切り裂かれたような痛みを感じる。
だが……
これだから処女は――などと思われたくはない。
彼の背にしがみつき、決して止めるなと想いを伝える。
集とて、初めての相手は初めてではない。
自分が彼女を痛めていることも判る。
しかし……
ここは、引くべきではない……か。
とはいえ、慎重に。
穏やかに。
だが……それが知利子の気に障る。
「何を遠慮しているの。相変わらず女々しいわね」
男の衝動がこんなに大人しいはずがない。
もっと、激しく撞きたいはずだ。
そんな幼馴染からの挑発を、可愛くない――と集は思う。
首筋も、
鎖骨も、
乳房も――こんなにも可愛らしいのに。
そういうことなら、お望み通り――
「んんっ!!」
――と、我儘になれるほど、彼は冷徹ではない。
一度は大きく打ち下ろすも、それに続くのは静かなさざ波。
また遠慮されている――と知利子は苦々しく思う。
が、それ以上煽ることはない。
あんな乱暴に二度三度と貫かれては……殴り飛ばしてしまいそうだから。
とはいえ……
ずっとこのままというのも何だか癪だ。
ゆえに、彼女は合図を送る。
いまなら、大丈夫。
受け止める心構えはできている。
そんな想いを、腕に込める。
これに合わせて――
――ズッ。
「――――っ!!」
大きな波と、小さな波。
その、繰り返し。
これは……認めるしかないだろう。
一日の長。
相手の方が、手馴れている。
悔しいけれど。
この、震えるような小刻みな動きに、自分の女の部分がどうしても悦んでしまう。
悦びが、どうしても伝わってしまう。
だから……
間近に頂きが見えてきたというのに……
ズルリ。
予期せぬ痛みに、知利子の顔が歪む。
それは、集自身にも抑えられない、雄としての限界。
彼女の
腹上で握られた血塗れの肉塊から集の最果てが迸る。
それは、知利子にとっても、見ていてあまり気分の良いものではない。
準備不足が祟ったか――知利子は突発的な行動を自省する。
そして、集の意識の低さも少しだけ呪った。
だが……思い知ったことだろう。
我々には、こういう付き合い方もできるのだ、と。
集は男であり、
私は女――なのだ、と。
今後そのような認識を持ってくれるのなら、一先ずのところは満足だ。
「シャワー、浴び直さないと」
知利子は集の腕を素っ気なく叩く。
「ああ、そうだな」
上から荷物を退けて身体をもたげた彼女は、同じように身を起こそうとしている連れを一声で制する。
「先、使わせてもらうわよ」
これに集は少し驚きを見せつつ、
「そうか」
小さく答えた。
一緒に入るとでも思ったか――これで、一矢くらいは報いることができただろう。
しかし何より……
これ以上は集に見られたくない、彼女なりの姿もあった。
ぬるま湯で汗を流す前――彼女は、自分の腹部を人差し指で拭い取る。
これは本来、こんなところに吐き出されるものではない。
本来は――ここに――
「ふ……」
やはり、他人に触れられるのと自分で触れるのとでは、勝手が異なるようだ。
痛い、というよりも、ただ滲みる。
だから、恐れるものは何もない。
ゆきあつの思いやりを、無にする行為。
もうひとたび掬い――自分の奥へと送り届ける。
「ん……んん……」
そして、それを泳がせるように、自分の奥を掻き回した。
「あ、は……ぁぁ……」
何しろ、届きそうなところで引き返されたのである。彼女の中は未だ燻ったままだ。
とはいえ……
これで良かったのかもしれない、と知利子は思う。
お陰で、こうしてアイツに見られることなく、独りきりで――
「――――っっっ」
彼の精は、もうすっかり薄く伸ばされている。
突き刺すような痛みにももう慣れた。
自分の
それが交わったとき、彼女はようやく充実感を得ることができた。
少し時間を掛けすぎたかもしれない。
声も、外に漏れ聞こえていなかっただろうか。
様々な想いをタオルで包み、彼女はベッドルームへと戻ってくる。
だが……
ゆきあつは、眠っていた。
事後の疲労もあったのだろう。
身体を流すのは、翌朝にでもすればいい。
だから、その前に――
知利子は、集の布団を剥がす。
温かなその中は、少し赤黒く汚れていた。
その腑抜けたところを、彼女は恭しく手に取って……
「ん……ふ」
あんなに私の中で暴れ回っていたのに……いまは随分としおらしいこと。
様々な想いがこびりつき、少し乾き始めているところを、自分の唇の中へと削ぎ落としていく。
そして、舌で彼を確かめる。
彼の――男としての在り方を。
「ふ……ん……ふふっ」
大人とも子供ともいえない彼の身体。
それを、しっとりと、舐め取っていく。
朝、目を覚ましたとき……どう思うかしらね。
気づくかしら?
気づいたとして……まさかこうして磨き上げられた――とは思わないでしょうね。
だから、いい。
それが、いい。
貴方の知らないところで、貴方の身体は――
「……!?」
とくん、とくん、と小さく脈を打ち始めていたことには気づいていた。
だが……
その振幅は留まることなく強まってゆき、
血流が送り込まれ、
ついには……
「!」
起きている!? ――と少し焦るも……ゆきあつの寝息は穏やかだ。
それは……不自然なまでに。
こんな、力んだままに眠れるはずが……?
だが……
彼女は男ではない。
男のすべてを知っているわけではない。
ゆえに、男とはそういうもの……なのだろう……か……?
まあ、どちらにせよ。
これ以上尽くしてやることもないだろう。
セミダブルはやや狭いが、彼も端で細くなっているので、もう一人眠るには申し分ない。
明日も仕事だ。早朝から打ち合わせが控えている。
だから……今日はもう寝ておこう。
私は……松雪部長の、秘書なのだから……
***
それからの集は……それなりに意識するようになったようだ。
夜遅くまで掛かる顔合わせも、少なからずある。
そんな日は……知利子が帰宅することはない。
「部長、明日も早いので……」
これが、夜を共に過ごしたいという、彼女なりの――誘惑。
しかし……
「明日は、有休の申請を受けているが?」
集は思わず吹き出すが、知利子はこれに動じない。
「私用のため、って言ったでしょう? 朝から丸一日掛かるのよ」
「そんな忙しい前日に……いいのか?」
「ええ、だからこそ、よ」
それを聞いて、彼は郊外に向けてハンドルを切る。
行きつけの建物の裏手から車を入れると――そのまま、エレベーターへ。
ここは、業務的な宿泊施設ではない。
最初から、営みを目的としている。
さすがに慣れたものね――と、ため息混じりの、自嘲。
それなのに……だからこそ……
彼女の胸の中で様々な想いが交錯する。
部屋に着いても、未だ共に身体を流すことはない。
肌を重ねるのは、ベッドの上でだけ。
彼女の方から彼を労ることもあるが――今夜だけは彼に甘えていたかった。
唾液と唾液を混じえながら、彼の指が彼女の具合を確かめている。
頃合いか……と、集は枕元に手を伸ばした。
勿論、備え付けのモノを使うつもりはない。
彼が自ら持ち込んだものだ。
しかし……
「ああ、今日は使わなくていいわ」
集の腕に、知利子の両手が添えられる。
「ん? そうだったか……?」
こちらの周期を覚えているなんて……厭らしい
でも……そのとおりに巡ってくるとは限らない。
貴方の知らないところで動いているものよ……女というのはね。
勘付いているのか、いないのか――それは、知利子には判らない。
ならば、せめて知らないフリをしていて欲しい。
知らないフリをして……自分勝手に私の中で――
次に抱き合うのは、少し先のことになるだろう。
だから今は、私のすべてを味わって欲しい。
今夜なら、何をしてもいいから。
何をしても、朝陽がすべてを塗り潰してくれるから――