ふたなり注意
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雨が降っていた。
夕刻、まだ完全には沈みきらない陽光も厚い雲に阻まれ、世界は鈍色に染まっている。
止めどなく降り続く雨は次第に勢いを増してゆき、ついには数寸先も見えぬほどの豪雨となった。
雨に煙る景色の中に、一つの建築物が見える。
一般的な集合住宅の作りながらも、ところどころに煉瓦を用いた外観は、どこかドイツなどの欧州の趣を感じさせ、普段ならば瀟洒な印象を与えるであろうそれも、この天気のなかでは逆に重々しい。まるで幽鬼のように立ち尽くしていた。
正面玄関へと住人たちが雨から逃れるように足早に駆け込んでいく。
見ればみな若く、少女ばかりであった。口々にこの生憎な天気について姦しいおしゃべりを続けている。
「急に強くなるんだもん。これは明日大変だねー」
「そうそう、ぬかるんだ地盤に沈み込んだりしたらもう最悪だよ」
どうやら、雨によるぬかるみを心配しているようであった。
「うん、ウチの戦車ってみんな重いから・・・それに転輪に泥が詰まると乾いた時も…あれ取るのしんどいんだよね」
およそ、年頃の少女が口にするにしては少々違和感を感じさせる単語が含まれる会話であった。
しかし、ここではそれが日常であり、茶飯事であった。
なぜなら、ここは黒森峰女学園。
伝統ある戦車道において常勝無敗の強豪校、その戦車道を履修する者達に与えられる学生寮であるからだ。
黒森峰女学園は、熊本に本拠地を置く大規模な学園艦高等学校である。特に日本戦車道の大勢を占める西住家がスポンサーとして関わるため、戦車道に特に力を注いでいる。
戦車道を嗜む者ならば、黒森峰に入学するために親元を離れる者も少なくないほどの有名校であった。
常勝無敗の強豪校。しかし、今年に限ってその輝かしい唄い文句は使用がはばかられていた。
前人未踏、空前絶後の全国大会10連覇を目の前にしながらも、それを逃してしまったからである。
大会からもう幾月の時間が流れたが、今だどこか重苦しい雰囲気が漂っていた。
そんな学生寮2階の角、部屋番号217
そこに1人の少女の部屋があった。
雨粒が窓を叩く。
太陽も隠れ暗闇に包まれた部屋の中で、薄い窓ガラスが立てる音が耳にかまびすしい。
僅かに見える室内は最低限の家具が配置されていた。備え付けの勉強机やベッドは質素ながらもしっかりとした作りで、部屋の持ち主の性格であろう。しっかりと片づけられている。
家具はそれぞれ2つあった。
学生寮は3年生の大隊長にでもならぬ限り、等しく二人部屋が割り当てられる。集団行動と連帯感を育むためであった。
しかし、この217号室からは1人分の生活用品しか見いだすことはできない。
そんなパズルのピースが揃わぬような空虚さを感じさせる暗闇の中、二段ベッドの上段に「彼女」はいた。
彼女の私物であろうぬいぐるみやクッション、柄の入った毛布がおかれて いない 方のベッド。
おそらく元同居人が使用していたのであろうシーツと、生徒の間で評判の悪いごわごわとした支給品の毛布にくるまり、枕をかき抱いて顔をうずめていた。
まるで去っていった者の残り香を、僅かにも逃すまいとするように。
しばらくそうして身じろきすらしなかったが、次第に彼女の体が小刻みに揺れ始めた。
腕は下腹部へと伸び、吐く息は熱を帯びていた。
そして部屋の中には雨水が立てる音ではない、粘り気のある小さな水音が響き始めた。
そして夜も深まり出すまで続いた水音が激しさを増したあと、一際大きくその体が跳ねた。
耳を澄ませば、熱を帯びた息をこぼしながら、誰かの名をつぶやいているようであった。
しかし、その声はついに空気を震わせるながら空を照らし始めた雷の轟音にかき消され聞こえない。だが、その光が白い肌の輪郭を闇の中に一瞬浮かび上がらせた。
華奢な体が熱に当てられ上気していた。日々の鍛錬の賜物であろう、引き締まりながらも女性的な柔らかさは失わぬ線が美しい。
汗ではりついた癖のある髪が、普段は優しげな印象を見る人間に与えるであろうその顔をどこか艶めかしく見せていた。
その口がまた開かれる。
「みほ…さん」
赤星小梅
彼女の口から漏れる憂いを帯びた声は、女を知ったばかりの男が恋しい想い人を呼ぶようであり、また愛しい男の名を呼ぶ乙女そのものであった。
雨は止む気配を見せない。
人、ヒト、ひと。
春
黒森峰女学園の入学式は、雲霞のごとき人であふれ返っていた。
桜の花が春の陽気を受けて己の美しさを誇る頃、赤星小梅はこれからの3年間毎日くぐることになる校門の前で、あまりの人ごみを前に立ち尽くしていた。
中学生の頃から戦車道に打ち込んでいた彼女は、自分ではそう思っておらずとも、並々ならぬ成績を残していた。
学校からもスポーツ推薦をもらい、念願かなって黒森峰へと入学することが出来た。
そして、入学式のこの日まで鏡の前で何度も袖を通しては、気の抜けた笑みを浮かべていた憧れのパリっと糊のきいた黒森峰の制服に身を包んで入学式会場の講堂へとやって来た。
人口10万を擁するこの学園艦に唯一存在するこの黒森峰女学園は、人口に比例するように、全国でも有数のマンモス校であった。
希望履修科目ごとに生徒が集まっているようで、周囲を見渡せば戦車道中学生の部では自分でも知っている有名な選手の顔まである。
赤星小梅は、もともと自分に過度の自信を抱く性格ではなかったし、どちらかと言えば引っ込み思案であると本人も自覚していた。それでも人並みの自尊心は持ち合わせていたため、
黒森峰へ推薦をもらえた自分は中々のものではないかと思っていたが、雑誌に顔が乗るような人物を近くにして、その自信は早くも顔を隠してしまいそうであった。
講堂に集まった人間の熱気で、少々汗ばむような気温の中、入学式は粛々と進められた。
白髪が混じりながらも、刈り込んだ短髪が精悍さを感じさせる校長が、この手合いには珍しいほど短い祝辞を述べたあと、逆に頭のハゲアガった線の細い教頭が眠りを誘う長々とした演説をのたまっていく。
祝辞を述べる来賓者の中には、本校に多大な影響を与えている日本戦車道において知らぬ者はいない、西住流家元 西住しほの姿もあった。
プログラムは進み、3年生からの祝辞に続いて、新入生の挨拶となった。
「新入生代表、西住みほ!」
「は、はい!!」
司会が告げた言葉に会場の、特に戦車道を志す者達の周囲がにわかに色めき立った。
(あの人が・・・)
どこか気の抜けるような緊張した声で返事をしながら壇上に登っていく少女の姿を目で追いながら、赤星は意外な思いを抱いていた。
彼女も、西住家の次女が入学するという話はどこからともなく聞いていはいた。
(家元やお姉さんとは雰囲気が違うなあ)
どこか小動物を思わせるかわいらしい整った顔立ちの、壇上で緊張からか手に持った挨拶文を落としかけたその少女は、対峙する人間から無条件で毒気を抜き落としてしまうような人物だった。
そんな彼女が、言ってしまえば勝利至上主義の西住流の跡継ぎの1人とは思えなかった。
彼女の姉、今だ2年生でありながらも抜群の能力の高さから国際強化選手にまでなった西住まほのような怜悧な印象はみじんも感じさせない。
赤星にしてみれば、それは好印象であった。
撃てば必中 守りは堅く 進む姿は乱れなし
西住流の教えを体現したような、家元や西住まほには憧れはあれども、友人として付き合いたいと思うのは、挨拶を終えて起こった拍手にぺこぺこと頭を下げている彼女の方であった。
とは言えども、どこか遠い世界の住人を見る思いであった。自分のような者が関わることはほぼ無いだろう。
そう思っていた。
学生寮の部屋割りを目にするまでは。
部屋番号217 : 西住みほ 赤星小梅
「え?」
式が終わり、それぞれのクラスは担任の誘導に従って行動し、教室での自己紹介などの行事が終われば戦車道履修者は先輩に引率された。
愛用のトランクを持ってたどり着いた寮の前にはこれから寝食を共にする二人組を示すボードが置かれていた。
(親元離れての生活は不安だし、優しい人が一緒ならいいな。)
そんなことを考えながら自身の名前を探していた赤星の目に映った情報は、理解するのに少々の時間を要した。
「え、嘘…西住さんって、あの?」
「あ、あった」
まだ脳の処理が追いつかず、なかば呆然としていた彼女のすぐそばで、聞き覚えのある、正確に言えば今朝の新入生挨拶で聞いた柔らかな声があがった。
思わず横を勢いよく振り向いた赤星の視線の先では、紛れもなく西住家の息女、西住みほがボードを見上げていた。
不躾にもとれるほど、まじまじとその姿を凝視していたらどうやらその視線に気づいたようで、赤星と彼女の目が合わさった。
きょとんとした顔をした彼女に、赤星はやっとの思いで口を開いた。
「えっと、あの…ルームメイトになります、赤星小梅です!西住さん…ですよね?」
「あっ、同室の!はい。これからよろしくお願いします」
赤星の名乗りに、西住みほは笑顔で答えた。
満開の桜のような笑顔だった。
(あ、かわいい)
それが、赤星小梅が西住みほに抱いた最初の印象であった。
家族以外との共同生活。弱冠15歳の少女達の多くがその人生において未だ経験したことのないそれは、ただでさえ不安が付きまとうものであった。
同居人があの西住家の息女となれば、心労はいかばかりか。赤星は初めのうちは胃を痛めるような思いだった。
西住家といえば、日本戦車道の草分け的存在だ。戦車道を嗜む者ならばその名を知らぬなどということは有り得ない。
国の内外を問わず、大きな影響力を持つ歴史あるその家系は大変な資産家でもある。
ごく一般的な家庭で生まれ育った赤星にしてみれば、【大金持ちの家で育った人間】というものに抱くイメージは
我が儘だったり庶民を見下していたりするのではないかというものだった。
だが、共に生活するうちにそんな心配も薄れていった。
朝6時30分きっかりに跳び起きてベッドを完璧に片づける姿には面食らったものだった。家にいた頃からたたき込まれた習慣であるらしく
流石は西住流、気合いが違うと畏敬の念を抱いたものの、次第にそれも変わっていった。
着替えればボタンをかけ違う。何もない場所で蹴躓く。歩けば電柱にぶつかる。
どこか間の抜けたこの同居人に、赤星は次第に手間のかかる妹に対する姉のような気持ちで接するようになっていた。
ある夜、寮も寝静まった深夜に寝ぼけた彼女が赤星のベッドに潜り込んできた。
「んん…おねえちゃん」
己に抱きつきながら小さな声で幸せそうな顔で寝言を言う彼女の頭を、赤星はゆっくりと撫でた。
(私がしっかりしないと)
普段の生活でかいがいしく世話を焼くようになる中で、戦車に乗る際も自分が見ていなければきっと怪我をしてしまうとすら思うようになっていた。
小学校の徒競走で自分の子供を見守る母親のような心持ちが近いかもしれぬ。
だが、待ちに待った戦車道の実習授業の初日、彼女の考えは微塵に打ち砕かれた。
共に搭乗することになったⅢ号戦車。赤星は砲手、みほは車長だった。
先に乗り込んだ赤星は、最後に乗り込んでくる目の離せないルームメイトが転んだりしないかとハッチを見上げた。
「え、西住さん?」
赤星は、全く無意識に声を漏らしてしまった。
「なんですか?赤星さん?」
「いいえっ!なんでもないです」
「?そうですか。では皆さん初めての実習です。頑張りましょう」
何故なら、普段あれほどフワフワとしている西住みほが、戦車に搭乗した途端、いつもとは違う雰囲気を纏っていたからであった。特に何が変わったわけでもない。
搭乗員にかける声もいつもの彼女のように柔らかく、見ようによっては自信のないような笑顔を浮かべている。
しかし何かが、何かがピンと張りつめたような空気を纏ったのだ。戦車に乗り込んだ瞬間に。
キューポラから射抜くような視線を周囲に向ける彼女からは、いつもの頼りなさというものが一切欠落しているようであった。
それから起こったことを、赤星は今でも鮮明に覚えている。新入生対抗の練習試合が始まると、西住家息女 西住みほの指揮はまるで迷いというものが無いものであった。
この黒森峰にて戦車道を履修する生徒は、みな程度の差はあれど小さな頃から戦車道に取り組んできた者たちだった。
しかし、そんな彼女たちを相手に刻々と移りゆく戦況の中で、当初の作戦が瓦解しようとも、相手が予想外の動きを見せようとも、即座に最善の策を提示し続けた。
そして遂に、自陣の損害なく敵陣を殲滅せしめるに至ったのだった。
この結果には上級生も大層驚いたようで、それからはトントン拍子だった。すぐにみほは一年生で構成されるチームの小隊長に任命された。そこでも優秀と判断され、中隊長に、そして大隊長へ。
並外れた指揮能力
操縦技術には若干の難が見受けられるが、それ以外においては最高の評価をつけることに何ら疑問の余地はなかった。
そして遂に、西住みほは一年生では異例も異例、全国大会メンバーの副隊長の座に上り詰めたのだった。
住んでいる世界が違う
「はぁ…」
「赤星さん、ど、どうしたの?」
課業を終えて、お風呂で汗を流し部屋で寝間着に着替えた赤星はため息をついた。
「いえ、なんだか…西住さんがどんどん遠くに行っちゃうなと思ってしまって。」
今でも日常生活では以前と変わらず、妹のように世話を焼いている、寝間着姿で熊の人形を抱いている目の前の娘が、自分など遠く及ばない才を持っていることをイヤでも理解した彼女はどこか諦めたように本音を口にした。
「ええ!そんな…私なんか全然」
心底驚いたように首を振りながらあわあわしている姿からは、戦車に乗っている時の凛々しさを伺い知ることは出来なかった。
「うふふっ」
「えー、何で笑うんですか!」
秀才が自分の才を自覚しない姿というものは、凡人からしてみれば往々にして嫉妬や怒りを覚えるものだ。
自分がいくら努力しても届かないものを、生まれながらに持っているというのは悔しいものだ。
しかし、みほの人となりをまだ2か月程度といえども知っている赤星は、そんな姿に毒気を抜かれる以前にそもそもそのような暗い感情を抱くことは出来なかった。
「西住さん、かわいいなって思っただけです」
「ええー!!」
「ふふっ」
「あ、また笑った!」
何故笑われたのかわからないみほが声を上げる姿がおかしくて、また笑ってとしているうちに、二人ともなんだかおかしくなって声をあげて笑いだしてしまった。
西住みほは、あまり感情を大きく表情に出すほうではなかったが、この娘のこんな表情を見れるのは同じ部屋の人間の特権だと彼女は思った。
こんな愛らしい笑顔を向けてもらえる人間は少ないのだと思うと、嬉しかった。
それに、戦車乗りとして、これほどの人物と共に戦うことが出来ることに喜びを感じていた。
赤星小梅は、西住みほのことが好きだった。
自分はこの西住みほという人物をとても好ましく感じていることを、赤星は自覚していた。
今でも時折自分のベッドに潜り込んでくる彼女の寝顔を間近で見ることは、密かな楽しみでもあった。
だがある時、窓から差し込む月の光に照らされて、キラキラと光る長いまつ毛と、規則正しい吐息を続ける柔らかな唇に目を奪われた。
心臓が無意識にその鼓動を強め、熱くなった脳は自身でも信じられぬ行動を肉体に行わせた。
それは、触れるか触れぬかという、およそキスと呼べるものではなかったであろう。しかしその夜、赤星は確かに可愛い妹のようなルームメイトの唇を奪ったのだった。
結局、その夜は高鳴る鼓動と罪悪感で、一睡もできなかった。
夏の全国大会に向け、大会における搭乗戦車と役割分担が決められた。みほはティーガー1、赤星はⅢ号戦車の車長となった。
同じ戦車に乗れなくなったことが寂しくもあったが、それはそれ、能力に応じた適材適所と割り切っていた。
赤星も1年生の身でありながら全国大会出場選手に選ばれていること自体異例の抜擢であり、その優秀さに疑念の余地はなかったが、みほという天才と共にあったために
おこぼれで選抜されたのだと彼女は思っていた。
練習が終われば、みほの方からシャワー室に汗を流しに行こうと誘ってくれた。赤星はみほが自身に心を開いてくれていることが嬉しかった。
しかし、ある時を境に練習後にみほの姿を見つけることが出来なくなった。
最初はたまたまかと思ったが、何度もそれが続くといぶかしく思うようになった。
気になって聞いてみても、戦車の整備で手間取っていたとか上級生とのミーティングがあったと言われては、納得するしかなかった。
(もしかして、嫌われちゃったのかな…)
すっかり夏らしくなってきた太陽にじりじりと焼かれながら。今日も今日とて練習にはげみながらもそんな考えが頭をよぎる。
部屋にいる時も若干よそよそしい態度を取られたように感じたこともあったが、今まで通りうまくやれている……と思う。
「は~」
「車長!三時方向!!」
「え?」
何事も、他のことに気を取られていては上手くいかないものだ。注意が散漫になっていたところを撃破されて、赤星のチームは破損した戦車を整備していた。なんとか自走できる状態にしたところで、ふいに遠くに見える濃緑の林の手前に見覚えのある姿が見えた。西住みほだ。
なにやら落ち着きなく周囲を見回しているようだった。わずかばかりそうしているかと思うと、林の中へ消えていった。
「みんな先に戻っててください。私もすぐ行くから」
クルーが集合場所へ向かうのを見送ると、彼女はみほが消えた林に向かった。
藪が茂るその場所まで小走りにたどり着くと、頬を汗が伝って落ちていった。
初夏の熱気を受けて早くも土から這い出てきた気の早い蝉の声が耳につく。
(西住さん、なんでこんな所に・・・あっ!)
演習場の外に位置するこの周辺は、特になにも無いはずなのにどうしたことかと思っていたが、視線の先にぽつんと小さなプレハブのような小屋があった。
柔らかい土を踏んだみほの物と思われる足跡が、その中に続いていた。
「これ、簡易シャワー室だ」
戦車の内部は狭く暑い。そのため年頃の少女たちのために演習場の近辺にはあちこちにこのような簡易シャワーが設けられていた。
赤星も何度か使用したことがあったが、こんな場所にあるとは知らなかった。
小屋の周りに雑草が高くしげっていることから、長らく放置されていることが伺い知れた。
「……」
勝手にあとを付けてきたためか、忍び足で彼女は恐る恐る中に足を踏み入れた。
中のシャワー室はせいぜい3つほどで古びた電球の明かりはどこか心許ない。
その一番奥のシャワー室だけ、カーテンが閉められていた。しかし、水の流れる音は聞こえなかった。
蝉の鳴き声ばかりが鼓膜を叩く。
いよいよ不思議に思っていると、かすかな音が耳に飛び込んできた。
「ん・・・んんっ」
息を無理矢理飲み込むような、どこか苦しそうな声だった。
引き寄せられるようにシャワー室の前まで抜き足でたどり着いた赤星は、声をかければいいものを好奇心から、僅かに開いたカーテンの隙間から中をのぞき込んだ。
「きゃっ!!」
そして赤星は、声をあげてしまった。
「え!?」
驚きのあまり仰け反ったことでバランスを崩し、後ろに倒れ込みそうになった彼女はまったく自己防衛の本能に従い、カーテンを掴み尻もちをついた。
シャワー室の内と外を隔てるものが取り払われた。
はたして、そこに居た西住みほの姿は、シャワーを浴びるにしてはおかしなものだった。
まずパンツァージャケットの上着を身につけたままだ。しっかりとした造りのジャケットは動き安さと共に砲撃などの衝撃から身を守る頑強さもあわせ持ち、少女の上半身を鎧のように包んでいた。
しかし、それと対照的に下半身には何も身につけられてはいなかった。そこにこそ、赤星を驚愕させたものが存在していた。
本来、女性には備わっているはずのない
怒張した男根が少女の股からそびえていた。
「え、あ、赤星さ…なんでっ。ちが…これは。ああっ!!」
そして、みほがどこか艶のある声をあげた直後、赤星は自身の顔に生臭さを感じさせるなにか温かいものが降りかかった事をどこか他人事のように感じていた。
手で触れてみればぬるぬると粘っていた。
呆然と赤星はみほを見あげ、みほの甘栗色の瞳と視線が絡み合った。
そこからの西住みほの様子は目まぐるしかった。
顔を赤くしたかと思えば、見ている人間の方が苦しくなるほどに真っ青になり、次いで下半身を隠すそうとスカートを手に取ろうとして足をもつれさせ、尻餅をついた。
「ごめんなさ……ふえええええん!!」
そしてついには声を上げて泣き出してしまった。
「あっに、西住さん?」
自分が見ている現実が、脳が受け止めきれない。
どうすればいいのか分からず、おずおずと声をかけるしかできない。
「ごめんなざい。ごめなさい。」
しかし、謝罪の言葉を繰り返す姿が、涙を流す彼女の姿が赤星の胸を苦しませた。
こんな悲しそうな顔をしないで欲しい。あの桜の花のような笑顔こそあなたには似合うのに。
今まで聞いたこともないほどの大きな声は、あなたの細い綺麗な喉のどこから出ているのだろう。
急に赤星は、このままではみほが、薄いガラス細工のように砕けて消えてしまうのではないかという不安に駆られた。
彼女はほぼ無意識にみほをかき抱いていた。
「西住さん、大丈夫です。大丈夫だから。ちょっと驚いたけど、大丈夫ですから」
泣いている子供をあやすように、雷を怖がる妹を安心させる姉のように、赤星はただひたすらに泣き続ける少女を抱きしめていた。
ひとしきり泣いたあと、目の周りを赤くしながらも一応の落ち着きを取り戻したみほは、赤星に少し枯れた声でこの不可解な現象の顛末を話し始めた。
「2週間前くらい前に、朝起きたら突然こんなものがあって…私、誰にも相談できなくて…っ!」
「ああ、西住さん。大丈夫ですから。ね?」
「ありがとう。赤星さん」
(2週間前…)
それは丁度、みほが練習後に姿を消すようになった時期と一致していた。
確かに、このような不可解なことがあればシャワーに誘えるはずもない。妙なよそよそしさを感じたのも気のせいではなかったようだ。
戦車に搭乗した後は決まって痛みを感じるほどに陰茎は固くいきり立ったそうだ。
どうすれば良いのか、最初は戸惑った。しかし、彼女も健全な思春期の女子高校生だ。性のことに当然興味を持っていたし、どうすればその猛りが治まるのかは
知識にもとづいた実践で習得していった。
皆を指揮する車長として演習場全域の詳細な情報を頭に入れる過程で、不便な立地の上、林の中という人目につかないために忘れ去られている
このシャワー室を見つけたのだという。
そして、練習後はこっそりとやってきては、猛りを鎮めていたのだという。
また泣き出しそうになったみほを、安心させようと再び赤星はその腕を彼女の背中に回し、頭を撫でた。
みほの柔らかな頭髪の感触が指に心地よく、シャンプーの香りが甘く鼻腔をくすぐった。
(西住さん、こんなに泣き腫らして…)
この戦車に乗っている時以外は、小動物のように気の弱い娘にとってそれはどれ程つらかったことだろう。
どれ程不安だったのだろう。こんなことになっては誰にも助けなど求めらるはずもない。
でも私なら…
「「あっ」」
不意に、二人が同時に声を上げた。
先ほど出すものを出したことで治まったはずのみほの男性が、履いたスカートを持ち上げて再び自己主張を始めたからであった。
するとみほは顔を赤くして気まずそうにそれと手で押さえたが、逆にスカートの薄布に成人男性の平均サイズを大きく上回る逞しいシルエットを強調しただけであった。
「えっ?あれ?そんな、さっき出したのに…赤星さん、えっとこれは」
「西住さん」
「え?」
急に自身の意思に反した陰茎に戸惑いながら、自身に弁明を言おうとする彼女を制して、赤星はこう聞いた。
「私が、してあげましょうか?」
「ぇ…ッ!!そんなこと…あっ!!」
拒否する言葉を待つことなく彼女はみほのスカートを持ち上げると、いきり立った男根に手をかけ優しく愛撫し始めた。
「赤星さん!ああ、こんな……自分でするより。んんっ」
最初は抵抗しようとしていたみほも、腰をわずかに突き出すように動かし始めた。
時おりあがる艶めかしい、快楽に悶える声が赤星の耳を打つ。
(熱い…)
赤星自身、自分が何を口走ったのか最初分からなかった。
言ってしまってから、その意味が遅れて脳に到達して顔から火が出そうになった。
しかし、頭で思っていることとは裏腹にその手はみほの逞しいモノを扱き続けた。
(とても、熱い…)
手の中で脈打つ陰茎の熱を感じながら、きっと自分はおかしくなってしまったのだと思った。
いつの間にか更ににボリュームを上げた蝉の合唱や、うだるような夏の暑さが
快楽に歪むルームメイトの表情が、蠱惑的な声が
そして数分前に顔に浴びたものの匂いが、脳を焼く。
「西住さん、今回だけ。今回だけですから…」
そう言いながらも、彼女は手を緩めない。
空いた左腕で快楽に悶える少女をきつく抱き寄せる。
みほもまた、縋り付くように赤星の背中へとその華奢な腕を回した。
体が密着し早鐘のような鼓動が、押し付けられた少女たちの柔らかな乳房を介して響きあう。
「んん、赤星さん……っ!!」
(あ…)
握る陰茎がひときわ大きくなったと思った次の瞬間、白い精が勢いよく赤星の手の中に先刻よりもその量を増して吐き出された。
倒錯的な行為が終りを告げたあと、幾ばくかの静寂が生まれた。
その空間には少女たちの汗と、むせ返るような濃い精の匂いが満ち、二人の脳の奥深くを焦がしていた。
蝉がうるさい。
そんな事があった後だが、彼女たちの関係は特に変わることは無かった。
それまでもそうであったように、朝は寝ぼけたみほに着替えを渡したり、しょっちゅう転びそうになる彼女を赤星が心配しながら登校していた。
変わった点はなかった。
戦車道の練習のあと、決まって二人の姿が消えるようになったこと以外は…
「ああ、赤星さん。気持ちいい…」
スカートを両手でまくり上げ、下着をひざ下まで下げた姿で棒立ちになりながら、みほの視線は下を向いていた。
視線の先では、膝立ちになった赤星がその頭を小刻みにみほの股ぐらで蠢かせていた。
男根を根本までくわえ込んだかと思えば、薄桜色の亀頭を優しく弄ぶ。
赤星が何かをする度に、みほは甘い声を発した。
そして、赤星が唾液の音が響くほどに激しく頭を前後させると、程なくして恍惚の表情とともに、彼女はその口内へと精を放った。
赤星は味わうかの様に咀嚼すると、のど音を立てながらそれを飲み下し、その様をみほのトロンとした瞳がみつめていた。
初めてのあの日から、二人の行為は続いていた。
最初のうちは、おっかなビックリと赤星が手淫することでその猛りを鎮めていた。
しかし、少しずつ慣れてくると行為は次の段階へと進んでいった。
インターネットが普及したこのご時世、性に関する情報を手にすることには事欠かない。
思春期の少女が調べようと思えば、その好奇心を妨げるものなどありはしなかった。
アダルトサイトで見た動画を参考に、初めて陰茎を口に含んだ時は、互いに勝手がわからずに赤星は歯を亀頭に立ててしまって
痛い思いをさせたり、口内に吐き出された精液が器官に入り、盛大にむせたりもした。
しかし、何事も慣れるもので、赤星は陰茎という人体の急所を、口に含むという行為に言い知れぬ快感を覚え始めていた。
みほのモノを口に含むと、彼女の下着にヌルヌルとした液体がシミを作った。
みほも口の粘膜に舐めあげられる、手淫とは異なる快楽の虜になっていた。
二人の少女は、覚えたての行為に徐々に溺れていった。
それでも、この行為にみほが積極的に赤星を誘うということは無かった。無論、みほもこの行為が嫌いなわけでは無かった。
しかし、自分に付き合ってくれる赤星に大きな感謝の念を感じると共に、罪悪感を抱いていた。
だからこそ、自分から求めることはしなかった。優しい赤星が、自分のことを気遣ってくれて手伝ってくれているのに
己の欲望を押しつけるなど出来ないと、まったく彼女らしい礼儀正しさと人格がそうさせていた。
そのため、赤星が練習後にみほの元へとやってきて、耳元で小さく「しますか?」と言うのに頷くというのが流れになっていた。
もっとも、赤星自身は行為を嫌ってなどいなかったのであるが。
だがある日、転機が訪れた。
それは全国大会のための練習ではなく、1年生の授業として再び赤星とみほの二名が同じ戦車に乗り込んだ日であった。
初めての対抗戦の頃から成長していた1年生の撃ちあいは、以前とは比べ物にならぬ程激しいものとなっていた。
幾度とない至近弾が車体を揺さぶり、キューポラから乗り出したみほの体の数寸横を砲弾が通り過ぎていった。
敵チームの最期の一両が撃破されたところで試合は終了となった。
みな激しい戦闘の興奮から、大声で勝鬨をあげた。
勝利に湧く車内で、笑顔でみほに振り返った赤星はそれを見た。
砲手席から見上げたみほの陰茎が、下着とスカートを持ち上げてかつて見たことが無いほどに怒張していた。
赤星は慌ててみほのそばに立つと、その体で彼女を他の乗員から隠した。
そして乗員に西住さんの様子が変だから保健室に連れて行くと言い残すと、みほに肩を貸すように寄り添い
周りの生徒からみほが見えぬように気を付けながら、周りに誰もいなくなったことを確認すると、いつも情事に使うあのシャワー室へと向かった。
林にたどり着いた時に、急にみほが赤星の手首をつかんだ。
「西住さん?」
すると彼女は赤星の手を引いたまま、ツカツカと早足に歩みを進めた。
引きずられるような力強さに、いつもと違うものを赤星は感じていた。
そしてシャワー室にたどり着くや否や、みほはカーテンを閉め、煩わしいとばかりに身に着けているものを乱暴に脱ぎ捨てると赤星の方を振り返った。
「あっ…」
荒い呼吸で肩を上下させながら、僅かに血走った瞳が赤星を射抜く。戦車を降りても、みほの瞳はいつもの柔らかなものではなく獲物を見定める猛禽のように鋭いものだった。
そして今まで見たこともない程に猛々しく反り返った男根からは、むせ返るほどの雄の匂いがした。
赤星は自身の下腹部が熱くなるのを感じた。そして自ら彼女の足元に跪くと、餌を待つ雛鳥のようにその口腔を開け渡した。
みほは赤星の頭を両手で掴むと、怒張しきったモノを一気にその喉奥へと突き入れた。
息が出来ぬほどの獣のような行為。
だが、食道に直接熱いものが注ぎこまれるのを感じながら、赤星の下着はもはやその機能を果たさぬほどに濡れそぼっていた。
(西住さん、こんなに必死に腰を動かして……)
みほの太い男根が気道を塞ぎ、脳が酸素の不足を訴える。
苦しいはずなのに、赤星はそれすらも快感に感じていることを自覚していた。
彼女はこれまでみほと行為を繰り返す中で、次第にみほに己を求められること自体に快感を感じるようになっていた。
容姿 性格 家柄 才能
全てにおいて自身を超越する、およそ同じ部屋になるということさえなければ自分など歯牙にもかけなかったであろうこの少女が、
自分が指先ひとつ、舌先ひとつを動かすたびに嬌声を上げるのだ。
常ならば羨望のまなざしを以て見上げることしか叶わなかったであろうこの孤高の愛らしい生き物が、快楽を求めるその時だけは、自分の成すがままなのだ。
その事実は、赤星に性的快楽にも劣らぬとも勝らない興奮を与えるものであった。
部屋に帰ると流石にあれは興奮した自分を抑えられなかったと、しきりにみほは謝罪したが、自分も嫌ではなかったと伝えると安心したような顔をしていた。
自分は決してみほの手伝いをすることは嫌いではないと、ここにきて初めて面と向かって話したのだった。
それからは、目に見えてみほが赤星を求める回数が増えていった。
まず、自分たちの居室でも行為に及ぶようになった。
それまではあの二人だけの秘密の場所だけでしかしていなかったのだが、何かタガが外れたように互いを求めるようになっていた。
生まれたままの一糸纏わぬ姿でベッドに横たわり、互いの性器を舐め合い快楽を求めて蠢くさまは、捻じれた双樹のようだった。
裸のまま抱き合って眠ることも増えた。朝起きて二人してそのまま廊下に出そうになった時は、扉を開きかけた直後に気付き慌てて閉めた。
隣の部屋の生徒が扉を開けて廊下に出る音がしたのはその直後だった。これには流石に肝を冷やした。
しかし、それすらもまた、彼女たちを燃え上がらせる燃料となった。
放課後、練習を終えてメンテナンスとミーティングを終えた生徒たちが去ったあとの格納庫に一人の女生徒が忘れ物を取りに戻ると
よく知る人物がその搭乗するティーガー1のキューポラから上半身をのぞかせていた。
「あら、副隊長まだ残ってたの?」
後方から掛けられた声に、みほは顔だけをそちらに向けた。
「あ、エリカさん。エリカさんこそどうしたの?」
「別に、ちょっと物を取りに来ただけよ。あなたも大会が近いからって無理したら駄目よ。あんたトロいんだから体調崩したらことだわ。」
「だ、大丈夫だよ…あとちょっとだけ整備したら帰るから……んっ」
「? そ、程々にね。じゃあ、明日ね」
「うん、また明日」
エリカと呼ばれた娘は、そう言い残すと後ろ手に手を振りながら格納庫をあとにしていった。
「あら、副隊長まだ残ってたの?」
その声が聞こえた瞬間、赤星は口に含んだみほの陰茎が一際大きくなったのを感じていた。
緊張からか時折ビクビクと震えている。
「エリカさんこそどうしたの?」
みほが努めて普段と変わらぬ声音で返事をした。
戦車の中で行為に及ぶようになったのは、そう最近の話ではなかった。
せまい車内に満ちる少女たちの体臭と熱気、シャワーも浴びていない男根の濃密な匂いは二人の脳髄を痺れさせるものだった。
もしかしたら、誰かがこの瞬間にも中を覗きこんでこるかもしれない。
そんな緊張感は二人の情事にとって最高のスパイスとなった。
だが、やがてそれだけでは物足りなくなってしまった。
みほはわざと身を乗り出すようになった。共に戦っている顔見知りの少女たちと声を交わしながら赤星の口内に吐精する時、膝が震えるような
緊張感と倒錯感がみほの心を高ぶらせた。
だが、今日はいつにも増して固く怒張していた。
(あの声は確か…逸見エリカさん?)
彼女もまた、赤星たちの同期で一年生ながらも全国大会選手に選ばれた才女であった。
風になびく銀糸のような髪が、日を受けてキラキラと輝いていたのが綺麗だったのでよく覚えている。
何かとみほに対して厳しい口調で話しかけていたが、彼女のことを慕ってもいるのだろう。分かりづらいが時折優しくみほを気遣うようなことを言っていた。
少し刺々しい印象を抱かれやすい彼女だが、女の自分でも見惚れるほど筋の通った美しい顔立ちの娘だった。
しかし、赤星はどうも彼女のことを好きになれなかった。嫌いという訳ではないが、彼女を見ると何と表現したら良いかも分からぬ、もやもやとした感情を抱いてしまうのだった。
そして、彼女を目の前にしたみほが何時にも増して興奮していることを感じた赤星は、唐突に意地悪をしたくなった。
「もう少し整備したら帰るから…」
頬をすぼめ、口内のすべてを密着させながら勢いよく喉まで咥えこむ。
急激な刺激に逃げようとするみほの腰を両腕でがっちりと抑え込み、ぱんぱんに腫れた亀頭を舌で蹂躙すると強く強く吸い上げた。
口の中に流れ込む熱いものを飲み干しながら、みほが必死に平静を装いながら逸見エリカを見送る声を聴いていた。
そして迎えた夏、いよいよ蝉の声が騒音と呼べるまでに響く頃、第62回戦車道全国高校生大会は幕を上げた。
第1回戦の対戦校は旧日本軍が用いた97式中戦車(通称チハ)を主力とした知波単学園だった。その伝統の総突撃作戦と戦車の非力を隊員の並外れた錬度によって補い、かつてはベスト4に入ったほどの強豪である。
しかし、当たった相手が悪かった。
背を向けるくらいなら潔く吶喊するというその姿勢は、勇猛であるが動きが読みやすい。
圧倒的な火力と全ての攻撃を弾き返す装甲の前に、成すすべはありはしなかった。
一方的とも言える圧勝に、どこか気が抜けながらも赤星もやはり勝利は嬉しかった。
戦車から降りた彼女は、愛しい少女の姿を探してた。
それはもはや習慣であった。
そして、目の端に探していた甘栗色の髪を捉えた。
しかし、駆け寄ろうと足を踏み出そうとした瞬間に彼女の網膜はもうひとつの色彩を映した。
みほのそばで揺れる、銀色であった。
西住みほが、逸見エリカと談笑していたのだ。
みほの表情は安心したような笑顔だった。エリカもまた普段の眉間にしわを寄せた仏頂面は鳴りを潜め、険の取れた柔らかな表情だった。
どうと言うことはない、チームメイト同士のやり取り。
だがその光景を目にした赤星は、連れだって歩いていく二人の背中を追うことが出来なかった。
彼女の足は、まるで縫い止められたかのように動かなかった。
胸がざわめいた。
黒森峰はその後も順調に勝利を重ね、王者の名にふさわしい戦いを見せつけた。
フィンランドの気風を色濃く持った継続高校との準決勝は一歩間違えれば負けていたほどの激戦だったが、みほとその姉であるまほの阿吽の呼吸による
コンビネーションによって辛くも勝利を収め、決勝への切符を手にしたのであった。
あの初戦の日から、決勝を目前にした今日まで、赤星は逸見エリカがみほの側に立っている姿を意識していた。
それは食堂で食事ととるときであったり、練習に向かう道中であり、作戦会議の席であった。
日を追う毎に二人の距離が、物理的以外のところでも近づいているように感じていた。
そしてそんな二人を見るたびに、赤星の胸は、何かドロドロと粘つく感情を蓄えていった。
胸中で大きくなる経験したことのないその感情に、彼女は戸惑っていた。
悲しいような
苦しいような
あるいは怒りにも似た何か
それは多感な一人の少女の心を不安定にさせるには十分だった。
それは、赤星とみほが無意識に引いていた一線というものを踏み越えるきっかけとなった。
決勝前日
「赤星さん……それって!!」
西住みほは上ずった声で、驚きの声を上げていた。
一日の汗を流し部屋に戻った赤星とみほは、どこそこのコンビニのスイーツが美味しいだとか、新作のファッションだとか
他愛のないおしゃべりで就寝までの時間を過ごしていた。
そして、テレビを点けると、去年映画館で上映したばかりの映画をベッドに二人で寝そべりながら鑑賞していた。
それは突然現れたテロリストに攫われた恋人を主人公が取り返すという、どこにでもあるものだった。
そしてこの手のものにお約束の、恋人たちの濡れ場のシーンでが流れたあと二人はテレビを消し、照明を落とした。
赤星とみほは何を言うでもなく立ち上がると、部屋の薄暗がりの中には2人分の衣擦れの音がした。
少し荒くなった呼吸とともにみほが赤星に近寄っていく。約束された快楽を与えてくれる赤星の口淫への期待で陰茎は上を向いていた。
しかし、少し待ってと言った赤星が、勉強机の引き出しの奥から文房具などをひっくり返すようにして掴み出した何かを彼女は不思議そうに見つめた。
だが数瞬ののち、赤星が手に持った、薄いピンク色をした薄いゴム製品が何であるかを理解した。
それは一線を越えようという、赤星の意思表示であった。
彼女たちは見つめ合う。
ドクン
心臓の音が闇に響いたような気がした。それはどちらのものだったのだろう。
少女たちは自身の呼吸が荒くなったことを自覚した。
緊張か興奮か、あるいはその両方か。
互いの体が上気しているのが、暗がりの中でもはっきりとわかった。
赤星の手にあるものに目をくぎ付けにし、頭が茹で上がるように熱くなりながらも、最後に残った理性の残滓がそうさせるのか
みほが僅かに首を横に振ろうとした時、赤星は動いていた。
みほの足元に膝を折ると、高級品の壊れ物を扱うような優しげな手つきでみほの陰茎に避妊具を覆いかぶせた。
みほの男根がビクンと跳ねたのを見届けると、彼女はすっくと立ち上がりきびすを返した。
みほがその姿を目だけで追う。
赤星はベッドの中に座り込むとみほにその体を向けた。
そしてその足をM字に開くと、彼女は恋人の抱擁を待つ乙女のようにその両腕を開き、みほに微笑んだ。
今まで見たこともない淫靡な表情だった。
その姿を目にしたみほの足が、一歩また一歩とふらふらと歩みを進め始める。
あのメスを自分のものにしてしまわなければならない…本能が体を突き動かしていた。
彼女のその様はまるで、花の蜜に誘われる蝶のようであった。
遂に赤星のもとへたどり着いたみほは、自身のいきり立つ男性器を納めるべき場所へあてがった。
そしてゆっくりと、だが確実にそれは赤星の体内へと沈みこんでいった。
「ッ!! くう…!!」
赤星の喉から苦悶の声が漏れた。眉がハの字に歪み脂汗がにじむ。
彼女の股から垂れた血が、白いシーツに染みを作った。
だが、止まらない。
みほはその陰茎を根本まですべて挿入したあと、ゆっくりと腰を動かし始める。
誰に教えられたわけでも無くとも、その動きは徐々に激しくなっていった。
肉と肉が打ち付けられる音がする
破瓜の痛みに顔を歪ませていた赤星の表情にも、今や苦痛の色を見出すことはできなかった。
赤星もみほも、互いの名を呼びながら僅かにも離れるものかときつく抱きしめあう。
みほは赤星の柔らかな乳房に顔をうずめながら彼女を貪るように動き続け、赤星はみほの腰を決して逃すまいと脚を巻き付けていた。
「小梅さんっ小梅さん…!!私もう……!!」
「みほさん!!私も…一緒に!!」
みほの腰がその動きを加速させ、粘膜が擦りあわされて立てる水音と肉がぶつかる音の間隔が狭まってゆく。
「「~~~~~~~~ッッッッ!!!!」」
そしてみほがその陰茎を赤星の子宮に届くほどに突き入れた瞬間、二人の体が震えたかと思うとピンッと強張り
みほは背筋を反らして目を半開きにさせながら、恍惚の表情で本能のままにその欲望を赤星の中へと注ぎ込んでいた。
長い射精が終わり、みほはゆっくりとその陰茎を引き抜いた。
赤星のなか、子供をつくる部屋へと流し込まれるはずだった大量の精液が、淫猥な水風船を作り出していた。
赤星は優しくコンドームをみほの半勃ちになった陰茎から取り外すと、その中身を見せつけるように飲み干した。
それを見たみほの男性器がまたその力を取り戻し、赤星の上に跨る。
「あっ…」
肉と肉が打ち付けあわされる音が、再び響いた。
赤星の用意したゴムは、ひとつしかなかった。
(遂にやってしまった…)
赤星は己の腕の中で眠る少女の髪を指で梳きながら、遂に自分たちは最後の一線を越えたのだという感慨に浸っていた。
今になって思い出したかのように鈍い痛みを訴え始めた下腹部に、わずかに目を細めたが、それを置いてもなお余りある充足感が体を満たしていた。
ゴムをせずにみほの男根が突き入れられた時、彼女の女陰は潮を吹いた。
もはや自制の効かなくなったみほは、彼女の子宮がその精液で満たされるほどに赤星を貪ったあと気を失うように眠りについた。
目を閉じれば、その濃密な時間が瞼の裏によみがえる。
みほが息を切らしながら必死に腰を打ち付け、婀娜っぽい声で何度も何度も名を呼んだ。
「赤星さん…赤星さん!!」
熱い息とともに耳元でうわ言のように繰り返す声が心地よかった。
しかし
何かが
まるで喉に刺さった魚の骨のように、何かが胸の中でつかえていた。
みほの口が、数え切れぬほどに自身を呼ぶときに紡いだできた言葉。
だというのに、何故…
ふと、彼女の網膜が眩しさを覚え、その目を細めた。
光源に目を向ければ、窓の向こうに雲の切れ間から顔を出した月が輝いている。
暗さに慣れた目に映った完璧な円を描く月は
昼と見紛うほどに鮮烈な”銀色”をたたえていた。
まるで、”あの娘”のような銀色を
「…呼んでください。」
「え?」
「下の名前で呼んでください!!」
考えるより速く、叫んでいた。
「私も、呼びますから…みほさん」
「!!ッ赤星さ…小梅さん!!」
「みほさん、みほさん…ああ…みほッ!!」
「小梅さんっ小梅さんっ!!」
何度も何度も、みほの声が己の名を呼ぶ声を聴きながら、赤星はこの瞬間まで自身の胸中で育ってきた感情の正体を理解していた。
嫉妬
それが彼女の中にあった黒く粘つく感情の名前だった。
赤星が「彼女」を初めて目にした時から少しずつ、白い紙に垂らした墨のようにじわじわと広がっていたもの。
「エリカさん。」
そうみほが呼んだ少女へと向けられた感情だった。
初めて見た時、美しい娘だと思った。
その吊り目が話しかけづらい印象を与えるが、同性の自分が頬を染めてしまうほど端正な顔立ちだった。
密かなコンプレックスである自分のウネリのある髪とは似ても似つかぬ絹糸のような直毛は、目を奪う銀色だった。
彼女もまた、僅かな期間で周囲とは一線を画す実力でその頭角を現し、全国大会選抜選手となった。
とはいえども、同じチームメイトとして頼りになる存在だと思うが、それだけだった
思えば、それが変わり始めたのは格納庫の戦車の中でスリルを求めて情事にふけっていたあの時なのだろう。
「あ、エリカさん。」
確かにみほは彼女をそう呼んだのだ。自分すらまだ呼ばれたことのない、下の名前で。
そして、決定的だったのが全国大会初戦のあとに見た光景だった。
みほの実姉や家族以外ならば、この学校に己以外は知る者はいないと思っていたその花のような笑顔がエリカへと向けられていた。
日々の中で、エリカがみほとの距離を縮めていく様を見ていた。
段々と、みほとエリカが共に行動する姿を見ることが多くなった。
みほが彼女にその笑顔を向ける姿をみる頻度が増えていった。
エリカもまた、みほに対して少しずつ心を開いているのが分かった。
練習試合ではその連携がみるみる良くなっていくのを見せつけられた。
心が拒もうとしても、頭の冷静な部分がささやいた。
「お前はみほの”特別”ではない」
たまたま部屋が一緒になって、自身の体に起こった変化に弱り切った彼女の心に上手く取り入っただけの、誰でもそうなれる程度の存在なのだと。
であるならば、あの美しい娘の方が余程ふさわしいではないか。
彼女の方が西住みほの隣に立った時、ずっと絵になるだろう。
みほの傍にある者として、容姿と才能そのどちらも己を上回る彼女の方が…
彼女は、みほの秘密を知っても受け入れられるだろうか。
いや、きっと受け入れることが出来るだろう。自分がそうであったように、時折みほを友情や尊敬を越えた感情の色を宿して見つめていた彼女ならば
逸見エリカならばきっと……
冗談ではない
閉じていた目を見開き、赤星は腕の中で寝息を立てるみほを強く抱きしめた。
私のものだ! 私だけの!!
いつも肌を重ねて眠るとき、この愛らしい娘が幼子のように私の乳頭に吸い付く癖を他の誰が知っているというのだ。
時折その歯が立てられる度、胸の先端から走る甘い痺れを誰が知っているというのか…!
誰にも教えてなどやるものか
白魚のような柔らかな肌の感触も、蜜のように甘い唇も、甘美に過ぎる体臭も…
誰にも渡さない
知っているのは私だけでいい
断じて渡してなるものか
私だけの、かわいい女(ひと)を…
「んん…」
腕に力がこもっていたからだろう、みほがむずがるように身じろぎしたが、すぐにまた寝息を立て始めた。
赤星は慈母のような微笑みを浮かべると、今度は包み込むように、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
(ずっとこのまま……)
そんなことを考えていた。
だが・・・
衝撃
それから一瞬の浮遊感
車内に流れ込む泥水
呆然とする自分に抱きついて泣き続ける愛しい少女の顔
現実は、彼女の願いをあざ笑うかのように襲いかかった。
その日、雲が空を覆い強い雨が降りしきる中
黒森峰女学園はその連勝記録に終止符を打ったのだった。
そして、西住みほの苦悩の日々が始まった。
みな、面と向かって言う者はおらずとも、敗北の原因であるみほに対して
どこかよそよそしい態度をとるようになった。
また、戦車道界隈でもこれは大きな事件として、様々なメディアが報道を行った。
当然、チームメイトを助けるその姿を称賛する声はあちこちであがった。
しかし、それらを含めた全ての記事が、こう締めくくっていた。
「西住流らしくない戦いであった。」
この言葉が、真綿で首を占めるように、じわじわと彼女を追いつめていた。
みほは次第に戦車道の授業を休むようになり、そして春を目前とした頃
彼女は黒森峰女学園を去った。
「さようなら」
そう言って扉が閉められた時、赤星は膝から崩れ落ち、その瞳は壊れた蛇口のように、只々涙を流し続けていた。
あの時の様な、雨が強い日だった。
みほが去った後、体に穴が開いたかのような空虚さが赤星を満たしていた。
特に、雨が降る日はその空虚さが体を突き破ろうとするかのように大きくなる。
彼女はそのたびに、こっそりと隠しておいたみほの寝具にくるまって自身を慰めるようになった。
「そんな状態で戦車に乗せるわけにはいかん。」
目の下に深いくまを残した赤星に、隊長の西住まほは公式戦のメンバーからはずれるよう言い渡した。
まほにとって、赤星は妹のルームメイトで何かと世話になったという認識からくる彼女の気遣いだったのだろう。
赤星もそれを理解していた。
(あなたは…いつも言葉が足りないんですよ。隊長…)
あの時もそうだったと、彼女は思っていた。
敗退のあと、まほの居室に呼び出された。
そこで彼女はみほに対してこう言った。
「西住流の戦いでは、なかったな」
そういわれた時の、みほの瞳を赤星は今でもよく覚えている。時折、今でも夢に見るほどに。
いつも光を蓄えた琥珀のような甘栗色をした瞳から、全ての色彩が抜け落ちていた。
その目からは一切の光が消え、奈落の底の様な闇がぽっかりと口を開けていた。
その目を見た時、赤星はたとえ自分が万の言葉を尽くしたとしても、彼女を救うことは出来ぬと思ってしまった。
それほどに、深い絶望がそこにあった。
フラフラとまほの部屋をあとにしたみほを追って退室しようとした赤星は、まほに呼び止められた。
そして、妹とは対照的な吊り目の目じりを僅かに下げながら言った。
「みほは…優しい子だから、きっと今回のことを気にしていると思う。実にみほらしい行動だったと思う。
赤星、同室のよしみだ。あの子を支えてやってくれ」
(ああ、あなたという人は、なんで…)
みほが本当に欲しかった言葉はそれなのだ。
「西住」としてではなく、「みほ」個人を見てくれているという、あなたのその言葉こそ……
みほはきっと戦車道を捨てるのだろう。
私たちをめぐり合わせ、二人を結びつけた戦車道を。
共に転校する覚悟を持つことができなかった自分も一緒に捨てられるようで、悲しかった。
黒森峰に入学して2度目の春が巡ってきたとき、彼女は戦車道をやめようと思っていた。
なかなか踏ん切りがつかずに、履修科目の変更届を持って生徒会のもとへやってきた時には5月になっていた。
他にも幾人かの生徒が窓口に列を作っていたため、順番を待ちながら、何のけなしに壁に取り付けられていたテレビに目を向けた。
それは戦車道の試合中継だった。
イギリス戦車を運用する、強豪の一角である聖グロリアーナと、最近戦車道を復活させたばかりだという、聴いたこともない学校との練習試合だった。
チャーチルMkⅦをリーダーとしてマチルダⅡがまわりを固めた聖グロリアーナに対する学校の戦車はひどいものだった。
どれも、生産国がばらばらの急遽ありあわせで集められたことの伺える戦車ばかりで、何より遠方からもその姿がはっきりと見えるような派手な塗装が目を引いた。
まともな戦力として見れるのは、Ⅲ号突撃砲と隊長車であろうⅣ号戦車ぐらいのものだった。
聖グロを相手に、あまりに無謀な戦力だった。
赤星は、戦車道を再開したばかりのその学校の生徒達を哀れに思った。
初めての試合で完膚なきまでに敗北し、やる気を無くしてしまわなければ良いのだがと。
テレビを見ていたほかの生徒も、聖グロの対戦校の敗北を確信していた。
だが、試合は予想をはるかに超えた展開を見せた。
他の全車両が戦闘不能になった絶望的な状況で、最後に残ったⅣ号戦車が、長い間戦車道を続けてきた者ですら驚愕するほどの動きを見せた。
重装甲を誇るマチルダを、肉迫からの近距離射撃と卓越した操縦テクニックで立て続けに撃破したのだ。
そしてついに、聖グロリアーナの隊長ダージリンの搭乗するチャーチルとの一騎打ちにまで持ち込んだが最後は車両の性能差により、敗れた。
予想外の善戦に、赤星の胸に久しく感じることのなかった熱いものがこみ上げた。
だが、もう自分は決めたのだと自分に言い聞かせた。
あの人のいない戦車道を続けることはもう出来ないと。
テレビから目を背け、書類を提出しようとしたその時
聞き覚えのある声が聞こえ、彼女は反射的に振り返った。
赤星の想い人が、画面の向こうで微笑んでいた。
試合を終えた大洗女子学園の生徒達へインタビューする取材班に、気弱そうな顔で時折つまりながらも答えていた。
赤星は無意識にテレビの前に駆け寄ると、文字通り食らいつくようにその画面に見入った。
(辞めて…なかったんだ……!!)
彼女の瞳から涙があふれた。人間は嬉しいときにも涙を流す生き物なのだと、彼女は知った。
そこからの彼女の行動は速かった。
その場で握っていた書類を破り捨てると、放たれた砲弾のように今年3年生となった西住まほの個室へと向かい、
まほが、喉笛に噛みつかれるのではないか思ってしまった程の気迫と共に公式戦への参加を認めて欲しいと嘆願した。
赤星は確信していた。
あの子が隊長となったならば、きっと全国大会に現れる。そうすればきっと、また会うことができる。
私たちを結びつけた、この戦車道の舞台で!!
突然の申し込みに目を丸くしていたまほは、僅かな時間赤星の目を見たあと、いつもと変わらぬ鉄面皮のままどこか柔らかい声で言った。
「ならば、実力で登って来い。 …待っているぞ。赤星」
赤星は深々と頭を下げると、退室した。
廊下を風を切るように歩きながら、憑き物が落ちたような晴れ晴れとした気分に自然に口角が上がる。
(みほさん、知っていますか?)
戦車乗りには、直情的で気の短い人が多いんですよ。
彼女にもまた、間違いなく戦車乗りの血が流れていた。
季節は流れ、赤星がこの学園艦で迎える二度目の夏がやってきた。
今年、第63回戦車道全国高校生大会においても黒森峰は順調に勝利を重ね、決勝を明日に控えていた。
その夜、黒森峰の学園艦の上には厚い雨雲がかかり、激しい雨を降らせていた。
だが、赤星はもう空虚さに苛まれることはなかった。
黒森峰の名のごとく黒いパンツァージャケットと、真っ赤なシャツにアイロンをかけながら彼女は静かに決意を固めていた。
今度こそ、伝えよう
あの日、戦車道に、西住流に絶望したあなたの目を見た時から
意気地のない自分がずっと伝えられずにいた言葉。
全てを押し流すような、激しい濁流にもひるむことなく河に飛び込んだあなたが私を戦車の中から抱き上げた
あの腕がどれほど頼もしかったか。
私を心配して抱きついたあなたの涙が、どれだけ嬉しかったか。
きっと、この黒森峰にいる時に自分がどれほど言葉を尽くしたとて、きっとあなたには伝わらなかったかもしれない。
互いの声さえも届かぬ雨の中では…
しかし、あなたは歩んでいた。
あの日から、私が雨の中でしゃがみ込んだまま止まっていた時間、あなたは前に進んでいたのだ。
そして再び私の目の前に立ち現れた。
今ならば、届くかもしれない。
あなたは雨雲の下から抜け出したのだから
ならば、私もいい加減この鬱陶しい雨の中から抜け出さなくてはならない
そして伝えるのだ
言えなかった言葉を
私の心の底からの言葉を
きっと届く
降り続く雨も、やがて止むのだ。
決勝戦当日
会場である戦車道の聖地、東富士演習場の空は
抜けるような蒼天だった
さあ、行こう
世はエリみほ、みほまほ戦国時代。
みぽりんと小梅ちゃんがいちゃいちゃする世界線があっても良いのでは!?!?
となって生まれたこの作品。
最初は西住殿がそのちんこで大洗女子を次々に食い散らかすというお話を考えてたんですが
需要なさそうなのでこっちにしました。