あの巨大な雷の直撃を受けたのにも関わらず神獣ローパーは、一瞬その身動きを止めただけで、そんなに効いているようには見えない。
流石は神獣と言ったところであろうか。
だがしかし、そんな大きな雷が自然界では絶対にあり得ない頻度で、幾度となく上空から降ってくるので、さしもの神獣も段々とまいってきているように見えた。
マスターはこんな芸当が出来るのはあいつらしかいないと、その姿を探した。
するとここから離れた荷物置き場で、泣きながら裸のままで必死に斧を振るう二人のキル姫の姿が見えた。
「ロンちゃんを離してよ~……」
「あ~ん……ロンお姉ちゃああん……」
ペルーンとシユウは必死になって、二人の持つ『雷パワー』を合わせて、雷を何度も呼び寄せていたのだ。
だが、あんなむちゃくちゃな力の使い方をしていては、すぐに力が枯渇してしまうだろう。
マスターはあの健気な二人の姿を見て、ついに心を決めた。
「ケーリュ……。頼みがある。取りあえず一発だけだ。一発だけあいつに魔弾を放ってくれ。それであいつが、ロンギを諦めなかったら、その時はもうしょうがない。俺は全力であいつを倒す。それでだ、今これからお前に狙って欲しい箇所と言うのは……」
「あの他とは違う、真ん中の触手の先端付近ですね」
ケーリュケイオンは、マスターの考えは全て分かっていると言わんばかりに落ち着いた声で答えた。
「そうだ。頼む」
「はい」
ケーリュケイオンは慎重に狙いを定めて魔弾を放った。それも五分の威力でである。彼女はあの触手を破壊しないぎりぎりを見定めて撃っていた。
その魔弾は見事にその真ん中の触手に命中し、そのロンギヌスの股間に張り付いていた触手を上手い事彼女から外す事に成功した。
そして何とその時、その触手の先端から真っ白で真円を描く物体がポロリとこぼれ落ちた。
あのとても綺麗に輝く球体が神獣ローパーの卵なのだろう。
その卵は地面に落ちて、草むらの奥にころころと転がっていった。
この偶然は、卵を持っていた触手の力があの雷を連続で受け続けた影響によって、一時的にかなり弱まったから起きた事なのだろう。
不運にも卵を落としてしまった神獣ローパーは、声なき悲鳴のように体を大きく震わせると、ついに諦めたのかロンギヌスの体を草むらの上に解き放ち、新たに空間の亀裂を作ってその中へと去って行った。
やっと辺りに静寂が戻って来た。
マスター達は急いでロンギヌスの元へと駆け寄った。
ロンギヌスは裸で草むらに横たわっている。
息がまだ少し乱れていて、四肢に力があまり入らなそうだが、特に問題はなさそうだと分かってほっとした。
マスターはカドケウスにロンギヌスの着る物を取りに行かせて、ケーリュケイオンにはペルーンとシユウの様子を見に行かせて、そうしてから横たわるロンギヌスにそっと声をかけた。
「大丈夫か?ロンギ。……いや、その、すまない。助けてやれなくて」
ロンギヌスはまだ熱っぽく潤んだ瞳でマスターを見つめて、弱々しく笑った。
「ふふ。何で謝るのですか?マスター。マスターはちゃんと助けてくれたではないですか」
「……う、いやまあ、結果的にはそうなんだが……。とにかく、お前が無事で良かった」
ロンギヌスはそっと体を起こして辺りを見渡して言った。
「あれはいったいどこに行ったのでしょう?」
マスターは首を横に振りながら答えた。
「さてな……ここではない別の次元のどこか、なのだろうな」
ロンギヌスは身を起こした事で、自分の裸体が目に入って恥ずかしくなったらしく、そそくさと露わになっていた自分の胸と股間を手で隠していた。
マスターも慌てて目をそらした。
その時ちょうどカドケウスがロンギヌスの服を持って戻ってきたので、着替えの手伝いはカドケウスに任せて、マスターは荷物の置いてあるほうへと向かった。
そこにはケーリュケイオンと服を着たシユウとペルーンがいた。
シユウとペルーンは何やらケーリュケイオンになだめられているようだった。
ペルーンとシユウはマスターが近づくと、びくりと怯えたように体を振るわして俯いた。
マスターがそんな二人の様子を疑問に思って二人に声をかけた。
「……ん?どうした?お前達。そんな顔をして」
「……」
声が小さすぎて聞き取れない。なんだか二人とも泣いているようだった。
「ん?」
「……ごめ…な…」
涙声でかすれてよく分からない。
「何で泣いてんだ?」
マスターは彼女達を元気づけようと笑いながら訊ねた。
「か、かってに力つかって、ご、ごめんなさい……」
ペルーンがどもりながらやっとの事で言えていた。
すぐにマスターはピンときた。
そう、あの時この二人がやった雷の招来のような大規模な特殊な攻撃スキルは、基本的にマスターの許可がないと使ってはいけない事になっているのだ。
二人はあの時ロンギヌスを助けるのに必死だったとは言え、マスターの指示を待たずに力を行使した事を後悔して、泣きながら謝っていたのであった。
マスターはそんな二人の肩に手を置き優しく言った。
「そうか。お前達は良い子だな。俺の言いつけをきちんと守ろうとするとても良い子だ。あの時、お前達は雷を俺の指示なしで呼んでしまったな。そう、本来はそういう事は絶対してはいけない。……でもな、それにも例外はあるんだよ。それはな、お前達が自分のマスターの事を守ろうとした時だよ。マスターが指示を出せない状態で、その窮地を助ける為にやった行為なら、その行いは何の問題もないんだ」
シユウが泣きはらした目をマスターに向けて訊いてきた。
「……で、でも、あの時はますたーが危なかったんじゃなかったぞ……」
マスターは安心させるように頷いた。
「そうだな。でも、あの時俺は精神的に混乱していて、自分の心の優先順位が分からなくなっていたんだ。自分で自分に誓った、何より自分のキル姫達を一番大事にすべしと言う気持ちが抜け落ちてしまっていた。だが、あの時お前達が雷を呼び寄せてロンギヌスを必死に助けようとした事で、やっと俺は自分を取り戻せたんだ。お前達には深く感謝しているよ。お前達は取り返しのつかない後悔を背負うかもしれない俺の心を救ってくれたんだ。ありがとうな」
ペルーンとシユウはマスターに抱き付いて思う存分涙を流した。
ほっとして心が緩んでしまったのもあるだろう。
そこへ服を着たロンギヌスもやって来た。
「助けてくれて、どうもありがとう。シユウちゃん。ペルーンちゃん」
「ロンちゃあん!ふみゅう……良かったよ~……」
「ロンお姉ちゃん……!」
三人は抱き合って無事を喜び合っていた。
だいぶ皆も落ち着いて、全員で帰り支度を始めている時にロンギヌスがマスターを呼び止めた。
「あのっ、マスター……」
「うん?どうした。ロンギ」
ロンギヌスは胸に手を当てて何やら落ち着かない様子だった。
「……何故でしょう……、何かよく分からないのですが、どうしても、あの場所にすごく心が引き寄せられるのです……」
ロンギヌスが指で示したその先は、あの神獣ローパーが出現した場所であった。
「……ふむ、何かあるのか?」
「分かりません……。でも、何というか……何かに助けを求められているような、そんな奇妙な感じを受けるのです」
ケーリュケイオンがすぐにピンときたように言い出した。
「行ってみようよ。皆で警戒しながらなら、もし何かあってもすぐ対応出来るわよ。でも、ロンギヌス。その場所から、特に危険な感じはしないんでしょ?」
「うん、そうね……。でも何なのだろう……?」
マスター達は武器を構えてあの神獣が姿を現わした温泉のほうに向かった。
だが先頭に立って歩いていたロンギヌスは少し方向を変えると、何の迷いなく前方の草むらに近づいて行く。
それはまるで前もってそこを目指していたか、もしくは何かに導かれているかのような動きだった。
ロンギヌスはその草むらの前で立ち止まるとその草木を掻き分けていく。
するとなんとその草むらの奥に、まるで隠されるような感じでこぶし位の大きさの真っ白な球体が見えてきた。
そう、それはまさしくあの時に神獣ローパーが落とした卵であった。
ロンギヌスは少しも迷う事なくそれを大事そうにすくい上げてマスターに見せた。
「……これ……ですね。ずっと私を呼んでいたのは……」
マスターは一応予期していた事だが、驚きを隠せなかった。
「神獣の卵か……!」
その卵はロンギヌスの手の平の中で静かに息づいているようにも見える。
マスターはじっとそれを見つめながら考えた。
……あの神獣ローパーがロンギヌスを捉えてその胎内に宿そうとしていた卵か。
どうなのだろう?果たして外の世界に存在する事になっても生きているのだろうか?まあ、卵が生きているというのもまたおかしな話だが……。
マスターがロンギヌスのほうを窺うと、彼女は手に持ったその卵をずっと真剣な様子で見つめているのが分かった。
もしかしたら、あの卵とロンギヌスの間には何か特殊な繋がりが出来ているのかもしれない。
そう、言うなれば魂のレベルで。
ロンギヌスにあの卵の在処が分かったのが良い証拠だ。
マスターはロンギヌスに訊ねてみた。
「持って帰って温めてみるか?」
ロンギヌスはハッと顔を上げてマスターを見返した。その言葉に彼女の顔が喜びに輝いているように見える。
「良いのですか!?」
「ああ、孵化するかどうかは分からないがな。とにかく、その卵がお前を呼び、お前がそれを見つけて、その手に持ったと言う事には、やはり何らかの意味があると思うんだ」
ロンギヌスはその卵を大事そうに胸に抱いた。
「はい!私、やってみます!やらして下さい!」
周りで見ていた皆がロンギヌスに声をかけてきた。
「頑張って!ロンちゃん」とペルーンがガッツポーズを見せて言った。
「しゆうもてつだうぞ!」とシユウがニカっと笑って言う。
「……何か面白そう……」とカドケウスは羨ましそうだ。
「ロンギヌス。それなら卵はみぞおちの位置で直接肌に身に付けておくのが良いかも。そこなら胸の膨らみが温かいクッションとなって胎内に似た感じの環境を卵に擬似的に与えられるかもしれないわ。それに……」
ケーリュケイオンは熱心にアドバイスをしていた。
ロンギヌスはケーリュケイオンのアドバイスに従って、服の中で卵をその位置に収めた。
素肌に触れるその卵はほんのりと温かく、肌触りがすべすべしているので何だかとても気持ちが良い。
ロンギヌスはその位置に手を添えて、大事にその卵を抱えながら街に向かって歩き出した。
それから二十日が過ぎ、ロンギヌスはその間ずっとその卵をお腹に抱いたまま過ごしていた。
寝る時はもちろん、学校に行く時も、友達と遊ぶ時もずっとで、その卵を片時も手放す事はなかった。
ロンギヌスは、お腹に抱いたその卵がもう自分の一部分と思うまでに慣れ親しんでいた。
更に十日が過ぎ、その頃から卵に何か変化が見受けられるようになってきた。
一瞬その卵が極僅かに動くような感じがする時があるのだ。
見た目的な感じにはそんなに変化はないが、いつも身に付けているロンギヌスには、はっきりと分かった。
そしてそれから五日後の深夜、ロンギヌスがいつものように身を丸めて、体で卵を包み込むようにベッドで寝ている時に、その卵についに小さなひびが入ったのだった。
ロンギヌスの体の中心にいつもあるような卵のそのひび割れの微かな音は、彼女にはすぐに分かり、急いでそれを確かめようと服を脱いだ。
そして卵を自らのみぞおちに固定していた布を慎重に取り、卵を両手で優しくすくい上げるようにして手に持った。丸一ヶ月ぶり位にその卵を体から離したので、何だかその場所がとても寂しく感じる。
その卵はふらふらと動き、ひび割れがだんだんと大きくなっていく。
卵の欠片が一箇所ポロリと取れたが、まだその中の様子は分からない。
その内に卵は動くのをやめてしまった。疲れてしまったのだろうか。
不安になったロンギヌスは卵の割れた隙間に爪をかけて、そうっと力を入れて殻を少し壊してあげた。
するとその中からヒョコヒョコ動く細い糸状の物が一本出てきた。
それを目にしたロンギヌスはあっと思った。あの神獣の触手そっくりのミニチュア版だったからだ。
そうして見ている内にその触手は数を増やし、ついに卵の殻の中から本体がその姿を現した。
姿形はあの巨大でグロテクスだと感じた神獣ローパーにそっくりだが、今彼女の目の前にいるのは、ほんの手乗りサイズの大きさの姿であった。
ロンギヌスはこの小さい姿を見てすぐに可愛いと思い、守ってあげたいと感じた。
初めこの姿を見るまでは、自分が卵の中身にどんな感情を持つのだろうかと少し不安だったが、何てことはない、普通に優しい心を向ける事が出来た。
あの親ローパーには、かなり強引な事をされて恐怖を感じさせられたのだが、この子はずっと大事にお腹に抱えていた卵から孵ったものであるため、慈愛の心が自然と芽生えたのだろう。
ロンギヌスは殻から出たチビローパーを片手にそっと乗せ替えて、少し持ち上げてじっと見つめた。
そのチビローパーも特に目はなさそうだが、ロンギヌスの顔に意識を集中しているのが分かる。
ロンギヌスはおそるおそるそのチビローパーを指先で触れてみた。
そこを頭と言っていいものか分からないが、本体の上を人差し指でそうっと撫でる。
固めの弾力がありぷるんとした肌触りを感じた。
そしてロンギヌスが何度かそうやって触れると、そのチビローパーが何だかとても喜んでいるような感じを受けた。
言葉や見た目ではまるで分からないがそんな感覚を感じるのだ。テレパシーのようなものかもしれない。
指を近づけると、その指に触手が優しくまとわりついてくる。何か母親の指を握る赤子の手のような感じだ。
ロンギヌスは、しばらくそうやって楽しくスキンシップをとっていたが、チビローパーが段々大人しくなってきたので、今日のところはもう休む事にした。もしかしたら、疲れて眠くなったのかもと思ったのである。
ロンギヌスはこのチビローパーをどうしようか迷ったが、最終的にはいつもの定位置だった自分の胸の膨らみの下に抱きかかえることにした。
チビローパーもやはりそこが落ち着くのかそこで大人しくしていた。
朝になってロンギヌスが目覚めるとチビローパーも活発に動き出した。たぶんロンギヌスと精神的にシンクロしているのだろう。
チビローパーの何本もの細い触手がロンギヌスの胸の膨らみをさすってくる。まるで構ってくれと言わんばかりだ。
ロンギヌスはくすぐったくてしょうがないので、昨日のように手に持とうとしたが、チビローパーは服の中から出てこようとしない。
触手を駆使してあの胸の谷間の真下という定位置から動こうとしないのだ。
ロンギヌスはしょうがないと思い、無理に引き離すのはやめて、また服を脱いで上半身裸になり、はっきりとチビローパーの姿を目で見られるようにした。
そしてベッドに仰向けに横たわって、何度も優しく撫でてあげてから声をかけた。
「……おいで。大丈夫よ」
するとチビローパーはおずおずとその場所を離れて、ロンギヌスの顔のほうへクネクネ歩いてやって来た。
ロンギヌスはその愛らしい動きに頬が緩んだ。
チビローパーはロンギヌスの顔まで来ると触手で顔を撫で回してきた。
ロンギヌスは黙ってチビローパーのやりたいようにやらせてあげていた。
触手が一度鼻の中や耳の奥まで入ろうとしたが、ロンギヌスが首を振って嫌がると、チビローパーはもう二度とそれをしようとはしなかった。
とても頭の良い優しい子だとロンギヌスは思った。
そうしてチビローパーと遊んでいる内に学校へ行く時間になってしまった。
ロンギヌスは、もう今日はこのまま休もうかなとも思ったが、早めにこの子の事をマスターに報告しないといけないと思い直した。
だが、元気に動き回るこのチビローパーをどうやって運んだものかと悩み始めた。
いつもの場所が一番良いのだろうけど、歩いている最中にさっきみたいに触手で胸をいじられたらたまったものではない。かといって制服のポケットに生まれたての神獣の子どもを入れて歩くのもどうかと思った。
それに、たぶんこの子も嫌がりそうな気がする。
ロンギヌスは色々考えた末に、このチビローパーに一度きちんと事情を説明してみようと思った。
首筋にまとわりついているチビローパーを、手で優しく掴んで目の前に持ってくると、じっと見つめてから話しかけた。
「……あのね。私はこれからお出かけしなくてはいけないの。それであなたも一緒に連れて行きたいのだけど、どうしたものかと困っているの。いつもの場所が一番だとは思うけど、あの場所であなたにモゾモゾされると私はくすぐったくてしょうがないのよ。それであなたにお願いがあるの。お外であの場所にいる間は、出来るだけ大人しくしててもらえないかしら。どう?あなたに出来る?」
チビローパーは始めは元気に触手をウネウネ動かしていたが、ロンギヌスの話しを聞いている内に大人しくなってきた。そしてチビローパーは触手をロンギヌスの小指に巻き付けてきた。まるで約束の仕草のようにである。
ロンギヌスは何でそんな事を知っているのかと思ったが、とても素直で賢いこの子にキスをしてあげた。
そして制服に着替えるとチビローパーをお腹のいつもの場所にしまい込み学校へと向かった。
学校についたがやはり遅刻してしまっていた。
ロンギヌスはさんざん迷ったすえに、マスターの元へは向かわず、授業を受ける事にした。
チビローパーは取り敢えず、言いつけ通りに大人しくしてくれている。
ロンギヌスの遅刻は珍しかったので、先生にもクラスメイトにも色々聞かれたが、上手にお茶を濁して逃げる事が出来た。実はあの神獣の卵一件は、取りあえず仲間内だけの秘密にしているのだった。
だが昼休みになる頃には、大人しくしていたチビローパーの我慢の限界がきたのだろうか、またウネウネと胸の辺りを細い触手が動き始めていた。
ロンギヌスは席についたまま顔を赤らめて、困った様に胸を押さえていた。
果たして、こんな状態で放課後まで我慢出来るだろうか。
しかし、そんなロンギヌスに声をかけてくる者がいた。
「ロンギヌス、ちょっといいかしら?探している本がどうしても見つからないの。一緒に探してくれないかしら」
ケーリュケイオンだった。
「え?」
「ほら、早く」
ロンギヌスが戸惑っていると、ケーリュケイオンは彼女の腕を取り、少し強引に連れ出した。
そして二人で廊下をスタスタと歩き、ケーリュケイオンは周りに人がいなくなった時を見計らって歩きながら言い出した。
「全く、何か変だと思ってたらそういう事だったのね。それなら早く私に相談しなさいよ。もしくは学校なんて休んですぐにマスターの所に行けば良いのに」
「あはは、そうだよね。ごめん。何かタイミングが掴めなくて……」
ロンギヌスはそう言って笑ったが、何だか声に元気がない。
ケーリュケイオンは眉を寄せてロンギヌスの事を見返したが、取りあえず何も言わずに図書室に向かった。
図書室に着くと二人はひと気の全くない部屋の隅っこのほうへ行った。ここなら人の目も気にせずに、いくらでも会話が出来る。
ケーリュケイオンはロンギヌスに向き直ると早速本題に入った。
「で?やっとあの卵が孵ったのでしょ。どうなの?まあ、そうやって連れて歩けるのなら、特に害はないのでしょうけど」
「うん……」
ロンギヌスはチビローパーを取りだそうと服の下に手を入れたが、また案の定引っ付いていて出てこない。
しかも、どんどん上の胸の谷間のほうに逃げていってしまっている。
「……こ~ら。出てきなさい……ぐぬぬ、駄目ね。はあ、しょうがない。ちょっと待ってね」
ロンギヌスは制服の上着を脱ぎ、プチプチと全てのワイシャツのボタンを外していった。
「わお♪」
ケーリュケイオンは前をはだけたロンギヌスを見て楽しげな声を出した。
ロンギヌスの胸の膨らみが丸見えで、その胸の谷間に、あの時見た神獣ローパーの小さいのが挟まっていたからだ。
しかも、そのチビローパーはケーリュケイオンの視線から身を隠そうとして、ロンギヌスの胸の膨らみを触手で寄せようと頑張っているではないか。
ケーリュケイオンは笑ってしまった。
あの小さいのの動きも可笑しかったが、ロンギヌスが何の抵抗もせずに自分の胸を、あの小さいのにやりたいようにやらせているのも何か微笑ましかったからである。
ケーリュケイオンは楽しげに言った。
「ノーブラなのね」
「うん。この子が何か嫌がるのよね。着けてると引っ張ってくるの」
ロンギヌスがチビローパーを見ながら言った。
「大丈夫よ。この人は私のお友達なの。あなたに危害は加えてこないわ」
するとチビローパーはその動きを止めてじっとしてきた。まるでケーリュケイオンの事を見定めているような感じである。
ケーリュケイオンはそっと人差し指を伸ばして近づけてみた。
その指に触手が伸びてきて優しく包み込む。
まるで握手のような感じだった。
ケーリュケイオンは一気にこのチビローパーの事が気に入ってしまった。
基本的に相手は未知の生命体である神獣なのだからと、警戒心は多いに持っていたのだが、そんなものはもうどこかに吹き飛んでいた。
ケーリュケイオンはロンギヌスに訊ねた。
「私にもこの子を持たせてもらえる?」
「え?私は良いけど、この子はどうかな……」
ケーリュケイオンは手を伸ばしたが、チビローパーは乗り移ろうとはしてこなかった。
「……駄目か。ま、お母さんのがいいよね」
ケーリュケイオンは微笑みながら言った。
「お母さんって……」
ロンギヌスは戸惑い顔であった。
「ふふ、貴女の仕草を見ているとまさしくそんな感じよ」
「そ、そうかな……」
そう言ってロンギヌスはチビローパーを優しく触ってあげていた。
ロンギヌスはチビローパーを手に乗せてケーリュケイオンと色々と話をした。
そしてやはりもう早めにマスターの元に行き、この神獣の子どもの事をきちんと報告するべきと言う結論に至った。
だが、ケーリュケイオンが何度そう言っても、ロンギヌスは歯切れの悪い返事を繰り返すばかりであった。
「……うん、そうだね。やっぱりそうだよね……」
ロンギヌスはチビローパーを撫でながら言う。
ケーリュケイオンは初めはロンギヌスの真意が分からなかったが、やっと腑に落ちてきた。
「ロンギヌス……、貴女、怖いのね?」
ロンギヌスはビクリと肩を震わせた。
そう、ロンギヌスはこの神獣の子どもの事をマスターに報告したら、そのまま取り上げられてしまうのではないかと思ったのである。
確かにこのような神獣の子どもなどと言う、まるで奇跡のような生き物は、普通に一介のキル姫が持って良いような代物ではない。
分不相応は明らかだ。
だがそれは理性では分かっているが、心では納得など到底出来なかった。
もうロンギヌスは、この小さい生き物に母性のような愛情が湧いてしまっているのだ。
だから、ロンギヌスは学校に行ってそのまま授業を受ける事にして考える猶予を増やして、結論を先延ばしにしていたのであった。
それに、この話が何処かから先にマスターに伝わるのを怖れて、仲間にも報告出来ずにいた。
だが、このままマスターにずっと黙っている事などは、彼女にとっても論外である事に間違いなかった。
ケーリュケイオンはロンギヌスの心の内を察して、自ら結論を突きつけた。
「もうマスターの元に行くべきよ、ロンギヌス。やっぱりこれ以上の報告の遅延は、貴女のマスターに対する忠義心に何らかの傷を残す可能性があるわ。私は貴女の友人として、そんな事を絶対見過ごす訳にはいかない。……それにね、きっと大丈夫よ、ロンギヌス。あのマスターが貴女のそういった気持ちを無下に扱う訳ないでしょう?もしも、何かこじれそうになっても、私がちゃんと付いて行って色々フォローするから」
ロンギヌスはケーリュケイオンの言葉に勇気をもらい、今からマスターの元に向かう決心を固めた。
ケーリュケイオンは職員室にいたマスターを見つけて、すぐに生徒指導室を借りて貰って、そこでロンギヌスが詳しい事情を説明する段取りをつけた。
なかなかに手早い動きである。
生徒指導室に入り、皆が椅子に座るとマスターはすぐに本題に入った。
「さて、こんな感じにロンギヌスから話があると言う事は、どうやら上手い事、あの卵が孵ったみたいだな」
「は、はい!」とロンギヌス。
「どんなのだった?」
「え、え~と、あの時の大きい姿のミニチュア版って感じです」
「ほお。幼生体と成体とで姿が全く同じなのか……それは興味深いな。それで気性はどうだ?」
「はい。とても大人しいです。あと甘えん坊のような感じも受けます。それに頭もかなり良さそうです」
「へえ。それは何でそう思ったんだい?」
「はい!それはですね……」
ロンギヌスはあのチビローパーの行動を余す事なくマスターに報告をする事が出来た。
マスターはとても聞き上手でロンギヌスはとても気持ち良く報告が出来ていた。
するといつの間にか、あのお腹に隠れていたチビローパーが胸のほうまで出てきていて、その姿をチラリと見せてきた。
ロンギヌスとマスターもそれに気が付いたが、報告の途中だったので敢えて触れずにほうって置いた。
「以上です」
ロンギヌスが報告を終える頃にはワイシャツの隙間からチビローパーが顔(?)を覗かせるまでになっていた。
「ふむ。良く分かった。ありがとう、ロンギ。それでこの子がその神獣ローパーの子どもという訳だ。初めまして。私がこのロンギヌスのマスターだよ」
マスターは人差し指を伸ばして近づけた。
するとチビローパーも触手を伸ばして、そのマスターの指をくるんできた。
だがチビローパーはそれだけでは嫌なのか、ワイシャツのボタンとボタンの隙間から抜け出ようとウネウネともがいてきた。
ボタンが弾け飛びそうになったので、取り敢えずロンギヌスはまたボタンを全部外して自由に動けるようにしてあげた。
ロンギヌスの胸の膨らみの谷間の上にいたチビローパーは、マスターの指をグイグイと引き寄せてきた。
そして充分に引き寄せると、ひょいとマスターのその手に半分自分の体を乗せてきた。
これには周りで見ている皆が驚いていた。たぶんこのチビローパーは卵を孵してくれたロンギヌスにしか懐かないと思っていたからだ。
チビローパーがマスターの手を引き寄せた事により、マスターはロンギヌスのその露わになった胸に、ずっと触れているような格好になってしまった。
マスターは、大いに照れていた。
だがそれは、顔を赤らめてマスターとチビローパーを恥ずかしそうに交互に見つめるロンギヌスも同様だ。
二人の手の上のチビローパーは凄い嬉しそうに、マスターとロンギヌスの間でウネウネとその身をくねらせていたのだった。
マスターは手に触れているチビローパーの体を優しく触りながら言った。
「う~ん。何でこいつは俺にこんなにも懐くのだろうな?」
「何ででしょう……?」とロンギヌス。
「……私が思うところによると、ロンギヌスの心に影響されているのかもしれないわね」
ケーリュケイオンが考えながら答えた。
「心に?」とマスター。
ケーリュケイオンは話を続けた。
「そう。ロンギヌスがマスターに会って話を始めるまでは、その子はずっと彼女のお腹に隠れて出てこようとはしなかったわ。でもロンギヌスがマスターに話をしていくにつれて、彼女のマスターに対する深い愛情や、絶対的な信頼感が、次第とこの子にも伝わったのではないのかしら。自分の保護者のそこまで愛する人ならば大丈夫と、この子がそう思って警戒を解いても、何の不思議もないわね」
「ふむ……」とマスター。
「はわ……」とロンギヌス。
「ところでロンギヌス」
マスターはロンギヌスを見つめて言い出した。
「は、はい!」
「こいつに名前はつけないのか?これとか、こいつとか、神獣ローパーの子どもとか呼び続けるのも、不便だし、それに少し可哀想だろ」
「え?」
ロンギヌスはきょとんとしてしまった。
何かその言い方だと、まるでずっと一緒にいても良いみたいではないか。
はっきりと言われなくても、やはり今すぐではないが、近い内にお別れがくるはずだと、一応覚悟はしていたのだ。
「あのう、マスター。……この子に名前を付けても良いのですか?」
「ああ、もちろん」
「ですが、そんな事をしてしまうと、お別れがつらくなってしまいます……」
マスターは何故そんな事を言うのかと眉を寄せた。
だが泣きそうな顔になってチビローパーを見つめているロンギヌスを見て腑に落ちた。
「……ああ、そうか。そういう事か。すまん、そいつの処遇のあり方をまだ言ってなかったな。その卵の件だがな、俺が直接教会の上層部と色々協議をした結果、最終的には、俺が全責任を持ってそれを管理監督して、上層部の連中に逐一報告をあげると言う事で話がまとまったんだ」
「ええっ!そんな事が……」
ケーリュケイオンは驚いたように言った。
マスターはニヤリと笑った。
「ふふん。凄いだろう?俺はただの普通の奏官では無いと言う事だ。……な~んてな。まあ、ああいった神獣の出現と言うものは神の御心、神のお告げとも取れる神聖なものだが、かなり曖昧なものでもあるんだよ。だから、その曖昧さを利用して、あの卵はロンギヌスが神獣直々に託された物であると言う事にしておいたのさ」
「ええっ!?」ロンギヌスは目を見張った。
「しーっ!ものは言いよう例えよう……って訳ではないが、一応運命の導きと言う言葉もある。捉え方次第でそう見えなくもないと言う事だ。まあ、いくら教会といえども神から託された物を、その相手から取り上げるなんて事は出来ないさ」
「え、え?じゃあ……」
ロンギヌスはまだ信じられないと言うような感じであった。
マスターは力強く頷いた。
「そうだ。あの卵、そして孵化して孵ったその中身は、全部俺の責任を持って全ての事柄を処理出来る案件になっている。そしてその卵の件に関しては、俺はもうロンギに全てを任せている。だから頼んだぞ、ロンギ。こいつを無事に育ててやってくれ。俺も協力は惜しまんよ」
ロンギヌスは泣きそうな程嬉しくて、マスターの手ごとチビロ-パーを抱きしめた。
ケーリュケイオンが冷静な声でマスターに進言してきた。
「マスター。この神獣ローパーの子どもの事なんだけど、もっともっと色んな文献を調べたほうが良いと思うの。基本的に神獣と言うものは未知の部分が多いのに、今回の件に関しては多分にイレギュラーな感じがするし。だから今から私に、王都に行く許可をちょうだい。あそこの王立図書館なら色んな本があるから、目当ての事が載っている本が必ずあると思うの。そこで色んな書物をあらかた借りてすぐにまた戻って来るわ」
果断即決のマスターは即座に了承した。
「よし、分かった。ケーリュ。じやあ、すぐにでも向かってくれ。本を借り受ける為の書状と移動の為の馬はすぐに用意する。あと、その旅にはカドケウスは同行させるか?」
「ええ、お願い」
「よし。取り敢えずケーリュに任せる。好きに使ってくれ」
ケーリュケイオンは先に部屋を出て、旅支度をしに向かった。
部屋に残ったマスターとロンギヌスはチビローパーを挟んでそのままの姿勢でいた。
チビローパーがマスターの手をなかなか離さないのである。
その光景は傍から見ると、マスターがロンギヌスの胸を揉んでいるようにも見える。
マスターは照れ隠しに咳払いをして言った。
「んんっ!……それで、この子の名前は考えたのか?」
ロンギヌスは、はにかみながら答えた。
「はい一応……。この子の神獣ローパーという種族名から『ロ』の字を一つ貰って、あとマスターから『マ』の字もお借りして、あと私のロンギヌスの『ロ』の字も使って、ロマロって言う名にしようと思います。……どうでしょうか?」
「うん。かなり良い名だと思うよ。何となく見た目の感じが伝わってくる名だ。なあ?ロマロ」
ロマロと呼ばれたチビローパーはすぐに自分の事だと分かったのか凄い嬉しそうに、触手を大きくウネウネと動かしてきた。
マスターは触手のその動きに合わせて、捕らわれていたその手を素早く引き抜く事が出来た。
マスターに逃げられて抗議をするかのように、ロマロがマスターのほうにまたその触手を一生懸命に伸ばす。
だが全然届いていない。
見かねたロンギヌスがそれをそっと抑えた。
「駄目よ、ロマロ。マスターも困っているでしょ?また今度ゆっくり遊んで貰いましょうね」
そう優しく諭されたロマロは大人しく引き下がっていった。
マスターはこのロンギヌスとロマロを見て、どうすれば一番良いかを悩み始めた。
ロマロの事はあまり世間に大っぴらにしたくはないが、このままずっと隠し続けるのも無理だろうと思った。
ロンギヌスの話を聞く限りこのロマロは結構元気なようだからだ。
お腹にしまい込んでいられるのは何時間か程度が限界だと言っていたし、それなら今のようにロマロが外を見られるようにしておけば、ああやって少しは落ち着いているのかもしれない。
だけど……。
マスターは一応、目は背けてロンギヌスに言った。
「えっと、ロンギ……」
「はい?何でしょう」
「あ、うん。え~とな……。そろそろワイシャツのボタンをかけてその胸をしまったらどうかな……とな」
「え?……きゃっ!!」
ロンギヌスはロマロに気を取られていてすっかり忘れていたようだった。
両方の胸の膨らみがピンク色の突起と共に、完全に丸見えになっていた。
ロンギヌスは急いで服を直そうとしたが、胸の谷間に居座るロマロの事に思い至った。
「あ、でも、ロマロが……」
ロマロはまだ服の中に入る気は全くないようだった。
それを見たマスターは提案してみた。
「それなら、ワイシャツの下から順にボタンをかけていって、ロマロの体が半分が見えるところ位までボタンをかけてみたらどうだ?それなら多少胸元がはだけて見えるくらいで、それはもうしょうがないだろ」
「え?……と言う事は、もうロマロの事は隠さないで良いと言う事ですか?」
「まあ、そういう事だな。学園内では取りあえずもう隠す事はしないで良い事にする。学園外は一応隠そう。取りあえず学園の生徒達には、ロンギヌスは教会の極秘の特殊任務を受けて貰っていることにしておく。そうすれば騒がれないし誰にも詮索はされないだろ。まあ、ウチの仲間だけには事情はちゃんと説明するがな」
そうしてロンギヌスはロマロを胸の谷間に置いて学園生活を送ることになった。
するとロマロはすぐに学園の人気者になった。
だが、マスターが全校集会でロンギヌスは特殊な任務を受けている最中だと言ってくれたお陰で、彼女は一応普段通りの静かな学園生活を送ることが出来ていたのだった。
「ふみゅ~?ロマちゃんは何が好物なのかな~?」
ペルーンがマーラーカオを旨そうにパクつきながら言った。
「うん?ロマちゃんロマちゃん!これすっごくおいしいぞ!!」
シユウが自分の分のマーラーカオをロマロに差し出しながら言った。
だがロマロは触手でそれを少し触っただけで、特に何の反応も見せてこない。
「ロンお姉ちゃん、ロマちゃん食べないぞ」
ロンギヌスはシユウにすまなそうに言った。
「ごめんね。ロマロは人の食べ物は何も食べないみたいなの。水だけなら飲むんだけどね」
ロンギヌスが水の入ったコップをロマロに近付けると、ロマロは触手を伸ばしてきて、その触手でコクコクと器用に飲んでいるように見えた。
「でもホントに不思議な生き物よねぇ」
カドケウスがロマロの触手をツンツンと触りながら言った。ロマロも彼女にだいぶ馴れてきていて、逃げようとはしなくなっていた。
ロマロは、あの時に西の山にいたメンバーには不思議と馴れていて、触られても大丈夫になっていたのである。
「そうね。でも確かに神獣ローパーが何か食べ物を食べているような記述はまだみつからないよのね。……神獣だから、何も食べないで生きていられるって事もありえるのかしら……」
ケーリュケイオンが分厚い本を片手に、ペラペラとページを繰りながら言った。
ケーリュケイオンとカドケウスは馬を駆りたったの五日で王都まで往復して帰って来たのだった。
それもちゃんと神獣に関連した書物を大量に携えてである。
今ロンギヌス達はあの西の山に行ったメンバーで、学園の食堂での簡単な食事会をしていたのであった。
とりあえず、神獣の卵が孵化してから十日が経ち、マスターとあの時のメンバー達への詳しい状況報告も兼ねてである。
ケーリュケイオンがしばらくじーっとロマロを観察してから言い出した。
「……どうなのかしら?ロマロの元気があまりないような気がするのだけど」
ケーリュケイオンはあの時の、ロンギヌスと共にマスターに報告しに行った際の、ロマロの様子を思い返していた。
あの時のロマロは、マスターとロンギヌスの間で、全ての触手を動かしながら、もっと元気だった気がするのだ。
ロンギヌスはハッとするようにケーリュケイオンに問い返した。
「あ!ケーリュケイオンもそう思う?」
ロンギヌスはロマロを撫でながら言葉を続けた。
「そうなの。あのマスターといた時は、ロマロも興奮していたとは思うんだけど、あれから段々と大人しくなってきたから、少し不安なの……。最近は大人しすぎるって感じもするし。それにあれからマスターがとても忙しくなっちゃって、落ち着いて報告する機会も全然なかったから……」
「あら、そうなんだ?でも今日は、マスターはここに来てくれるんでしょ?」
カドケウスが訊いてきた。
「うん。スケジュールを色々調整して来てくれるみたい……」
そう言って話をしている間に、マスターが急ぎ足で食堂へとやってきた。
「やあ、結構遅れたな」
「ううん、そうでもないよ」とカドケウスが応えた。
カドケウスは立ち上がると、ロンギヌスの隣の席をマスターに譲った。
マスターがロンギヌスの横に腰をかけると、ロマロが嬉しそうにはしゃぎ出したのが目に見えて分かった。
ロマロはロンギヌスの手のひらの上で、マスターに向かって一生懸命にウネウネと触手を伸ばしてくる。
マスターは微笑んでその触手の群れの中に片手を差し入れた。
「やあ、ロマロ。元気にしてるようだな」
ロマロはマスターのその手に触手を絡めると、グイグイと引き寄せて、マスターの手とロンギヌスの手をくっつけるようにしてきた。
マスターはとりあえず、ロマロのやりたいようにしてあげていると、いつの間にかロンギヌスと恋人繋ぎのように手を合わせる格好になっていた。
ロンギヌスは何だか恥ずかしくて照れたようにマスターを見つめた。
マスターも照れたようにロンギヌスを見返して笑った。
ロマロはそんな二人の合わさった手の上で、満足そうにウネウネと動いていた。
マスターがそんなロマロを見ながらロンギヌスに話しかけてきた。
「とりあえずロマロが元気そうで安心したよ」
ロンギヌスはロマロを見ながら少し首を傾げていた。
「いえ。最近はずいぶんと大人しくて、少し心配する位だったのですけど……。何だかマスターが来てから凄い元気になったような」
ロンギヌスは元気になったロマロを見て、心底ほっとしたように微笑んだ。
マスターとロンギヌス達は皆でワイワイと楽しく食事をしながら色々な話をした。
だがその食事会の終わり際で、もしかしたらと皆が危惧していたことが起こった。
そう、ロマロが二人の手を離そうとしないのだ。
もう何重にもその二人の合わさったその手に触手を巻き付けている。
マスターは困ってしまった。
明日、と言うか今夜からどうしても抜けられない用事があったからだ。
それもロンギヌスとロマロを連れてホイホイと行けるような簡単な用事でもないのだ。
マスターはロンギヌスに助けを求めた。
「……ロンギ、ロマロに少し言ってもらえるか?」
「はい。やってみます」
ロンギヌスはマスターにそう応えてから、ロマロに顔を寄せて諭すように言った。
「ロマロ。ごめんね。今日はもうおしまいなの。マスターは今から大事なお仕事があるんだって。だからもう行かないといけないの。でも貴方が今、手を離そうとしないから、マスターが困っちゃってるのよ。あなたも寂しいのは分かるけど我慢しようね。また今度相手してもらおう。ね?」
ロマロはすぐには聞き入れなかったが、それからのロンギヌスの説得により、しぶしぶといった感じで触手をほどいていった。
マスターは指でロマロの本体の上を優しくさすりながら言った。
「すまんな」
ロマロはその指に触手を伸ばしたが、もう絡めることはしなかった。
マスターは皆にじゃあまたと言って、急いで食堂を出て行った。
それで食事会も終わって皆も部屋に戻っていった。
ロンギヌスはとりあえずマスターとゆっくり話が出来て安心したし、ロマロが少し元気を取り戻した事にもほっとしていた。
だが、それからまた数日が過ぎて、今度ははっきり目に見えるくらいの感じで、ロマロの調子が急激に悪くなっていってしまうのであった。
手乗り触手生物……可愛すぐる!