KのPhantomの二次創作です。

怪人になる前のエリックの1シーンを思い浮かべてみました。

18、19世紀頃の欧州、ヨーロッパ時代なのでかなり、陰惨ナ時代だったと思います。
見世物小屋の主はLIFFEの舞台ではジャベールという名前だったか。


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誕生 

母親から疎まれていた記憶は決して記憶から消えることがない。

 そのせいだろうか、子供であれ、大人であれ、女という生き物は正直、苦手だ

った。

 

 見せ物小屋で自分の顔と歌を晒している間、惨めな気持ちを味わったが、それ

も最初のうちだけだった、というのも、ある事件のせいだった。

 裏方で働いていた男が、仕事の最中に死んだのだ。

 普段から酒に目がなく、そのせいで仕事に穴をあけることもあった。

 事故があったときもだ、男はしこたま飲んでいた。

 普段から怠け癖のある男だったので、座長にしてみれば厄介払いができたとい

う、せいせいした気分だった。

 ところが、団員の一人が、この事件に事故じゃないと言ったことが波紋を呼ん

だ。

 

 自分は、この一座を取り仕切っている主だ。

 こんなガキになめられてたまるかと思っていた。

 それなのに、今はどうだ。

 いつも檻の中で大勢の客の視線に怯えた視線で、全身を萎縮させている少年が

 自分を見る目は、なんだ。

 「僕がやったっていうのかい、団長」

 「皆が噂してるぞ、あの男と、おまえが普段から仲がよくなかったってな」

 「だからって殺すなんてことはしないさ、それにあの男は酒だけでなく、あれ

もやってたじゃないか」

 「なんだ」

 「あんたもやってただろう、阿片さ、酒をたらふく飲んで薬までやっていた

ら、突然、死んだって不思議じゃないだろう、それにあいつがいなくなって嬉しいく

せに、せいせいしてるんだろう」

 少年は顔全体を覆い隠す白い仮面をつけている、だが、その声から覗く口元の様子からわかる。

 笑っているのだと。

 ぞくりとした。

 部屋の空気が寒々とした者に感じるのは決して気のせいではない。

 「僕をクビにするかい」

 「そのつもりだ」

 「だったら僕が今まで稼いだ金を払ってくれよ」

 なんて傲慢な言い方だ、何故、こんな薄気味悪いガキを一座に入れてしまった

のだろうと男は後悔した。

 「ところで、あんたのシャラザートだけと、昨夜はどこにいたんだい」

 「なんだと」

 「知らないのは亭主だけ、まるで三文芝居だね」

 男は仮面の少年を睨みつけた。

 だが、気にする様子も素振りも見せず少年は差し出された皮袋の中身を確認する

と突き返した。

 あきらかに不満だと言いたげな態度だった。

 「あんたてみたいなけちな男、女が愛想をつかすのもわかるよ」

 「相手は誰だ」

 「何故、僕があんたに教えなきゃいけないんだい、浮気相手の名前を」

 男は慌てて机の引き出しを開けて、鷲掴みにした札を目の前に突き出した。

 「相手はね」

 「もったいぶるな」

 馬鹿ににしているのか、叫んだ男に少年は左胸に百合の焼き印があるだろうと

呟いた。

 男は信じられないと大きく目を見開いた。

 手を動かしながら引き出しから取り出したのはナイフだった。

 そして、おまえが悪いんだといわんばかりに少年に掴みかかろうとした。

 ところが。

 

 背中に感じた鈍い痛みに男は振り返った。

 そこには自分の妻がいて、にっこりと笑っていた。

 だが、それだけではない。

 感じる違和感、妙な感触。

 それは痛みだ。

 刺されている、それも自分の妻に。

 「な、何故だ」

 男は混乱しながら、その場に崩れ落ちた。

 

 

 「ありがとう、これは報酬よ」

 「こんなにいいのかい」

 男のくれた報酬よりも多い、少年は袋の中身を確かめると気前がいいんだねと

笑った。

 「嫉妬深い、この男から解放されるんだから、幾らでも出すわ。ただ、きっか

けとその勇気がなかっただけなのよ」

 女は笑いながら、ぼろぼろと涙を流した。

 金の亡者のような男から逃げ出したかった、自分を束縛して、そのくせ、団員の女達と浮気をしてばかりだ。

 そのくせ、妻の自分が他の男から声をかけられたりするだけで怒って浮気をし

たなと怒鳴り散らす。

 うんざりしていた、殺してやりたいと思っていた。

 「あんたの取り柄は金だけ」

 床の上に哀れな死体となった男を女はさめた目で見つめた。

 少年は憐憫の眼差しを向けた。

 この女は知っているのだろうか。

 自分の妻を引きとめておくために男が必死になっていたことを、女達と浮気を繰り返した本当の理由を。

 だが、今更、真実を知ったところでどうなるものでもない。

 女が男を心底、嫌っていたのは事実だ。

 

 

 

 「この一座も今夜でお終い」

 女は吐き捨てるように言った。

 そして、せいせいしたわと嬉しそうな顔で少年に笑いかけた。

 強がりにも見えるその態度に少年は言った。

 「こんなことをいうと変だけど、楽しかったよ」

 「あたしも、あなたの歌が好きだったわ、もう聞けなくなるのが残念だけど」

 女の笑顔に少年も仮面の下で笑いを浮かべた。

 「マダム、貴方に幸運を」

 女は頷いた。

 

 あなた、これからどうするのと女は尋ねた。

 パリはどうと言われて少年は驚いた。

 奇術と、その歌声があれば、こんな見せ物や旅芝居より、もっといい暮らしが

できるわよと言われて、少年は少し考え込むように黙り込んだ。

 そんな言葉を聞くとは、言われるとは、思ってなかったのかもしれない。

 少年は返事の代わりに頷いた。

 

 まだ、慣れていないのだ、大勢の人達の好奇なものを見る嘲笑や畏怖、あざけ

りの視線には。

 あんなに見せ物小屋で檻の中でうんざりするほどの視線で見られていても。

まだ、まだだ。

 でも、いつか、行けるものなら。

 

 少年が去り、女も去った。

 

 翌朝、殺されている男の死体を見つけた団員達は警察に呼ぶこともなく。

 男の貯め込んでいた金を奪いあって逃げた。

 これが事件にならなかったのは無理もない、見世物小屋で事が死ぬなどよくあることだからだ。

 しかも、座長は酒を飲みで薬もやっていた。

 世間が同情する筈もなく、団員達が逃げたとしても幸運をと手を振るだけだ。

 

 それから数年後、パリのオペラ座に幽霊が現れるという噂が広まり始めた。

 


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