赤熱し、パチパチと爆ぜる薪が暗闇の中で仄かに辺りを照らす。三人は焚火の前に並び、男を間に挟むようにして座している。
「……それでー? 話の中の女とは結局ヤったのかな?」
先程までは狂乱していたように騒いでいた二人は何とか平静を取り戻していた。溜め息を一つつき、クレマンティーヌが気になっていたことを男に問う。
クレマンティーヌが男の目を覗き込む。怒りがあるわけでも、疑念や嫌悪を含んでいるようにも見えない、ただ事実を確かめようとしているのだろう。そんな目で見られて、男は疚しいこともないのに居心地が悪くなった。
「……精神体になったって言っただろうが。それに彼女は幼い少女の姿だぞ、急に変な話をするな」
「へぇー……まあ、それもそっか。てっきり女だったら誰でもいい変態なのかと思ってたからさぁ。もしヤッてたら稚児趣味野郎って呼ぼうかと思ってたのに。ザンネン」
少しだけ機嫌良さそうにニヤリと笑い、良く我慢出来ました、と挑発するように頭を撫でつける。
「お前はいったい俺を何だと思って……」
「え? ンー、変態、女の敵、スケベ野郎、スケコマシ、エロ魔神──あとはー」
「……もういい」
静かに首を横に振る。
クレマンティーヌはそれが当然のように罵倒した。男もその言を否定したかったのだが、出来なかった。振り返ってみれば、まぁ言われても仕方ないことを色々して来ていたのだから。
微妙な顔をした男を見て、クレマンティーヌがプッと吹き出すように笑った。
実際、彼女が気にしていたのは肉体関係もそうだが、精神的な繋がりについて。つまり、件の少女が男の庇護の内に数えられているか否か。クレマンティーヌは彼女自身も含めて、男が肉体関係になった相手には情を持つ傾向があるように思えたため、その可能性を探っていたのだ。
そして──男は答えた。彼女との間柄を例えるなら相応しいのは、教え子に他ならない。彼女は身体こそ幼いが、精神的には大人であり、守ってあげなければならないほど無力でもないのだと。
そもそも、召喚の効果が切れれば、いずれ帰還することになるとは予測でき、離別の時が必ず訪れることは分かっていた。故に、出会った当初は無力だった少女に、男は離別した後のことを考え、自衛のための力を身に着けさせていたのだという。
結果、少女は自衛の力を身に着け、世界を生き抜く手段を得た。やれる事はやったと話す男の様子を見る限りでは、件の少女は完全な庇護下にあるという訳でもなさそうだった。
現に、今も一人置き去りにしてきたことを気にしてはいるようだが、可能か不可能かは別として、もう一度霊体となってまで探しに行こうとまでは考えていないらしい。
元々その時代に居るべき存在ではない。そもそもが交わした約束など果たせる訳が無かったのだ。だから、いっそのこと強大な存在と相討ちとなって死んだ、ということにしたと。自分に出来たのは約束を果たす事では無く、異変の原因を排除することだけだったと語る。
奇妙な所でドライで、別れ方も狡いと思う。
「……御方様をへ、変態などと罵り、気安く御髪に触れるなど、なんたる不敬……調子にのるにも限度というものが……」
そんな二人の様子を尻目に、これまで沈黙を貫いてきたユリが恨めしそうに呟いた。
自分にはそんな事をする勇気もないのに、この女性は事も無げに成してゆく……と。同性が、自身の慕う人物とじゃれ合っているのを見るのはモヤモヤして、我慢しなければと思っていても、ユリの口からは不満が零れてしまう。
ただ、主が変態かどうかの是非にノータッチな当たり、その点ではユリも内心で否定しきれない思いがあったのかもしれなかった。
「ユリちゃん、嫉妬〜? カワイイんだ〜、うぷぷ…… てか、自分だってちゃっかり膝枕してイチャイチャしてたの忘れてない? ヤッてる時だって色んなとこ触れてるだろうに今更不敬も図に乗るもあるかよ」
「〜っ! そっ、それとこれとはっ」
そんな不満を耳ざとく拾ったクレマンティーヌが、ニヤニヤと口を三日月のように大きく裂いて嗤う。
「……あのな、女がヤるとか、ヤらないとか……そういう事を平然と言うもんじゃない」
「んー? ……もしかして、女に幻想見ちゃってるクチ? だとしたら、ごめんねー。女同士の会話なんて男からしたらさ……そりゃあ引くくらい生々しいってのが現実だから」
「……だとしても男の前で言うのは」
「なんかさぁ、結構常識的なんだよねー。最初はどんなヤバイ奴かと思ってたのに。あぁ……そういえば、もう一個呼び方あったっけ」
「……」
赤い瞳を細め、男が数瞬身構える。レイプ野郎、という内心の言葉が聞こえて来そうだった。
彼女が思い出すのは相手の力量を見誤って叩きのめされ、暴力的な快楽を植え付けられた過去。ストレスの悪循環から無理矢理に引き抜かれ、彼女自身の転機ともなり、運が向いて来るようになった切っ掛け。クレマンティーヌにとっては、それすらも愛する人との思い出だ。
この世界では女性の尊厳などあってないようなもの。暴力に屈し、醜い欲望のはけ口にされる不幸な女など、それこそ幾らでもいる。人の生き辛いこの世界で生まれ、現実に打ちのめされ続けてきたクレマンティーヌからしたら、言ってしまえばそんな物はただの弱肉強食でしかない。
弱者が強者に取るべき行動は取り入るか、目のつかない場所に隠れ潜むかが常道。故に、強者である男が何をそこまで後ろめたく思っているのかなど、彼女からしたら正直な所、イマイチ判然としていなかった。
ただそれでも、それが男の弱みになっていることは分かっていたから。
「……心配しなくても、(誰にも秘密は/余所でヤるとか)言わないよ」
──マウントとるために利用はするけどね
だって、誰かに明かしたらそれは二人の秘密ではなくなってしまうし、精神的に優位に立つために相手の弱みを突くのは当然のこと。もしも秘密が明かされる時が来るのであれば、それは関係が切れた時。執着の程度から考えて関係を手放すことなど考えられなかったが。現に、クレマンティーヌは一生、そのことで男に強請りをかけるつもりであった。
「──それにさぁ、男は女に理想を押し付けて、夢見てるけど……現実は、普段清楚ぶって貞淑を気取って見える奴だって、隠れてヤるときゃヤッてるもンなの。そこのユリちゃんもねぇ……どうかわからないよぉ?」
「はっ?」
ユリの表情が驚愕に染まる。とんだとばっちりだ。
「その点、私は隠さないしー? 愛してる人には愛してるって素直に言うし、ヤりたい時はその気にさせてでもヤる。純愛だよねー」
他人を貶めて、自分を上げる。狡猾にも、本当に信じるべきは私であるとアピールする。クレマンティーヌは身体を密着させ、恥ずかしげもなく男の下腹部に手を這わせた。
「お、御方様っ?! ボクは他の誰かとなどしていませんし、今後もそのようなことはありません! 彼女の言葉は嘘ばかりです!」
「いや、流石にわかっているが……」
「ボクは御方様に嘘なんてつきませんからっ」
万が一にも信じられてしまっては堪らないと、焦ったようにユリはその言葉が妄言であると男の腕を揺すりながら抗弁する。
片や誘惑するようにしなだれ掛かり、片や焦りから加減も忘れて揺すり掛かる。両隣で騒がれ、姦しさの中心にいる男がいい加減疲れてきたという目でユリの方を見た。
「お前ら……」
そもそもがからかい混じりの冗談だ。それを信じる者などナザリックの関係者にはいないだろうに、冗談を真面目に受け取りすぎだと男は少々面倒くさげに返した。
「!? ……??? な、なんだか御方様の目が冷たい気がします…………なぜ……?」
「ぷぷぷー、清楚系ビッチだって思われたのかもね、あーカワイソー」
「──今すぐその口を閉じなさい、死にたいのですか」
「……どうしても挑発し合わないと気が済まないのか」
流石に呆れ果てた男。正直もう面倒くさい。仲の良くない女二人を男が仲裁するのったどうしたらいいんだ……? と、もはや諦観の念が表情から溢れている。
とはいえ、クレマンティーヌとユリの二人を抱いて、この状況を招いたのは男の自業自得でもある。この状況から逃げることは許されないのだ。
「……ならさぁ、ユリちゃん。私と一つ勝負しないー? どっちが上なのかさぁ」
「何かを企んでいる……? ……いいえ、いいでしょう。むしろ勝負は私も望むところ。何か企てがあるのなら、正面から叩き潰すだけです」
「……ようやく理解しましたよ。やはり、貴女とは分かり合えない……貴女に、もう一度身の程というものを叩き込んであげましょう」
「……はあぁー? 散々理由つけて逃げ回ってた奴が何イキってやがんだ。首無し」
「フン……貴女の方こそ無様にも殴殺されかけたことを忘れてはいませんか」
挑発的な言葉にカチンときたユリは承諾の意思を返す。そのまま、再び言い争いが始まる。男は溜息をついた。
「……」
男がチラとクレマンティーヌを見れば、表面的な苛立ちの裏に、冷静さを保ち、優等生を嘲笑うような表情があるように思えた。何か思惑のありそうな蠱惑的な赤い瞳が男を射抜き、それを男は見なかったことにしようと……その視線から逃れるようにそっと顔を背ける。
彼女の考えていることが何となく分かってしまうあたり、毒されてきているのかもしれなかった。
□
テント型のグリーンシークレットハウス、その中にて。テントの中は外から見た大きさとは見合わず、空間が広くなっている。そして、その内観はもはや野営とは思えない。
ユリの言う粗野という言葉は当てはまらず、クレマンティーヌの言う小汚さなど欠片もない。テント内は清潔感に溢れている。白を基調とした内装に板張りの床、大きなベッド。キッチンこそ備えていないが、シャワー、トイレまで完備。男からしたらコレじゃない感が満載だが、例えるならそれは男の前世にあったグランピングに近い。
大きな寝台がテントの奥に一台だけ置かれており、その薄暗い空間には3つの影があった。
「あっ、ぁうっ、奥あたるっ」
「う、うぅ……こ、こんなの……こんなの勝負じゃ……」
女の歓びに満ち、快楽に喘ぐ声と、困惑と羞恥に満ちた声。
「さっきはよくも変態扱いしてくれたな……」
「んふ、えっち、大好きでしょー? 最初はあんまり気のないフリしてた癖に……誘惑したら、すぐやる気になっちゃうんだもんねー」
ベッドへと仰向けになった男が、馬乗りにのしかかっているクレマンティーヌに対して眉を顰めて抗議するも──否定出来ない言い分に、男は言葉を詰まらせる。男という生き物は現金なもので、その場で特に気がなかったとしても誘惑されるとどうにも拒否出来ないものだ。まして、それが美女であるなら尚のこと。
「あぁ、んっ!」
挑発的に言い返された苛立ちから、男へと跨がる彼女の女陰へと、一際強く男根を突きあげた。肉壷はしとどに濡れそぼっており、その内に収めた男根へと彼女自身の熱を伝える。
「御方様……」
幸せそうな、艷やかな嬌声が響く一方で、悲しげな声音もあり、霞むように消えていった。
──男一人に対して女が二人。その内、男とクレマンティーヌが情事に耽り、その場に入り込めずにいたユリは二人の睦事を見せつけられている。
ユリの目の前では、クレマンティーヌが男に乗り、腰を揺らしている。憎まれ口を叩きながらも二人の距離は物理的にも精神的にも近しいように思えた。彼らは離れていた時間を取り戻すように肌を触れ合わせており、彼女は悩ましげな息づかいをして綻びた結び目を直すように口づける。
「ん……キス……きもちいぃ」
キュウっと、膣が締まった。
パチッパチッ、と肉が肉を打つ音が聞こえている。ユリの目の前で行われている行為は生々しく、その接合部から漏れる水気を含む音が彼女の鼓膜を震わせた。
男の記憶を呼び覚まし、心の距離を近づける儀式。また遠い場所に旅立つことがあろうとも、彼女を忘れることが出来ないよう、過酷であろう旅路において男の支えとなるよう新たな記憶を刻み込む。
ユリはその情景を羨望や嫉妬、悲しみ、寂しさ、疎外感などが入り混じった複雑な感情のままに眺めていた。
──事の成り行きはクレマンティーヌとユリの言い争いにある。男を挟んで、両側で争う二人だったが、クレマンティーヌがユリに勝負を持ちかけたことにある。
無論のこと、ユリは勇んで勝負を受けた当初、その内容がこのような、インモラルなものだと思いも寄らなかった。
勝負の内容は、どちらが男を満足させられるか、というもの。
「た、爛れた関係はいけません!」
とは動揺を顕に視線を彷徨わせたユリの言。勝負を受諾する前に内容を確認しなかったユリも悪いのだが……それを勝負を受けた後に知ったユリは驚愕し、急に及び腰になった。
クレマンティーヌはニヤニヤと男とのまぐわいを見せつける形で独占を狙い、一方、ユリは三人でするなど……と羞恥から硬直。かといって逃げ出すことは女のプライドが許さない。よって、出遅れたユリは進むも退くもいかず、二人の情事をただ間近で見ているしかないという状況に陥っていた。
「うぅ〜……奥、やばぁ……あっ、もぅっ、イクッ、イキそっ」
男の胸に手を置き、クレマンティーヌが腰を揺さぶって男の怒張を扱いてゆく。極太の肉棒が愛液に濡れ、テント内を仄かに照らすランタンの灯りを反射していた。甘い吐息と余裕の感じられない嬌声が断続的に艶かしく吐き出される。目を閉じて身体を揺らしながら快楽に集中している彼女の様は、男の支配欲をひどく刺激した。
ユリの位置からはクレマンティーヌの
──あ、あんなに大きいのがボクの中にも入っていたの……?
思考がグルグルとループし、現状を上手く認識出来ない。その意識外では、ユリの下腹部が愛液を分泌し、男を受け入れるための準備が整えられてゆくのだ。
「あっ、あぁぁぁ、だめだめだめだめっ、突きあげないでっ、イクッ、もうイッちゃうっ」
「イかせるために突いてんだよ。さっさとイケ、雑魚マンコ」
男に跨がるクレマンティーヌがほっそりとした腰を掴まれている。苦悶の表情を浮かべる彼女をよそにガシガシと攻め立てると、ふるふると身体を震わせた。
「ひいぃっ……むりぃっ……奥なぐられる、みたいでっ、やばいからぁぁ、とまって、とまってよぉぉ」
「もっと……もっと、ゆっくりぃぃ」
「最近のお前は調子に乗り過ぎだ。たまに躾けてやらないとな!」
息も絶え絶え。イヤイヤと、黄金色の髪を四方に振り撒く。切羽詰まっているのか、叫ぶような喘ぎが響く。
絶頂が近いのだろう。クレマンティーヌのその嘆願を裏切って、女の狭い空隙に男の摩羅が切削するように割り込む。男は彼女にガニ股、ヤンキー座りを強制し、突き出された丸尻に打ち付ける。その衝撃で双丘が激しく上下に乱舞した。
「んひっ……もぉ躾けられてるっ、躾けられてるからぁっ」
「お前、さっき俺を脅そうとしたよな」
「ひっ、調子にのって、ごめんなざい、ゆるひ、ゆるひてぇっ」
「駄目だ」
クレマンティーヌは激しい快楽の嵐に吹き飛ばされまいと、必死に耐えていた。しかし、とうとう自身の姿勢を支えられなくなったのか、ガクリと彼女が前傾に倒れ込みそうになる。すると男が手を恋人繋ぎにして体重を支え、更に容赦なく突き込んだ。女の表情が媚びを含んだ笑みで歪む。
「お゛っ、イグッ、イグッ、イグゥッ」
「そら、盛大にイケっ」
「も゛ぉ、らめぇぇ〜っ──あっ、ぃ゛っ」
バスバスと軟肉を激しく打ちつける。男がトドメとばかりに、膣奥に摩羅の亀頭を押し付け、グリグリと腰を揺すると停止させ──クレマンティーヌは獣のような低い声をあげた。
「〜〜っ!! ん゛ぁっ、あ゛ああぁ……あ゛ぁ……あぁぁ……あぁ…………」
クレマンティーヌの身体が跳ねる。グッと歯を食いしばった後に、反射的に背筋を限界まで伸ばす。脱力──余すことなく与えられた快楽を身に受け入れると、今度こそ男の胸の上に倒れ込んだ。
荒い吐息、切なげに、しかし腹から響くような低い声を震わせて鳴き、細い腰と尻をガクガクと痙攣させたのだった。
──あぁ……いいなぁ……あんな風に責められて……気持ちよさそう……ボクも……ボクも欲しいよ……
ユリの視線は彼らの行為に釘付けになっていた。彼女の下腹部はキュウキュウと疼き、男の一物を急かすように求めだしている。
「ハァ…………ハァ…………」
長距離走をしたように肩で大きく息をする。絶頂を迎えたクレマンティーヌの体は、刺激に対して敏感になっていた。大きな快楽の波に震えながら、膣は生き物のように蠕き締めつけ、今も異物である男の男根を舐るように動いている。
そんな彼女を見て──男は倒れ込んで来た彼女を、心の底から溢れてくる情のままに、労るように抱き締めた。細い肩は柔らかく、暖かな体温を感じる。汗ばんだ女の髪からは安心するような、心地よい甘い香りがした。
男は女を求めるが、彼女たちの本質を永遠に理解出来ない。しかし女もまた、自身を理解出来ないはずの愚かしい男を愛さずにはいられないもの。
互いに価値観の違う生き物で、すれ違いも多い。なのに触れ合う肌の感触は、どうしてか心を安らがせ、惹きつけ合ってしまう。
彼女の脱力した全身は発情で発汗しており、男の肌も塗らして互いに張り付く。抱き締めた腕の中で、時折体を強張らせ、ブルリと震わせながらも短く早い荒い息を何度も繰り返した。未だ体の自由を支配する絶頂の余韻の只中にあり、彼女は暫く戻ってくることはないと思われた。
ズルリ……と彼女の膣から剛直を引き抜いて、その四肢を横たえる。クレマンティーヌの口から、あぁ……と艶めかしくも切なげな声が漏れ出た。
「……一人だけ満足そうな顔しやがって。そこで少し休んでいろ」
返事はない。男は仕方ないとばかりに言葉を投げかけたのだった。
□
クレマンティーヌの果てる様の始終を、ユリは見ていた。
彼女が主に求められ、艶めかしい矯声をあげている様は本当に幸せそうで……何時までも見せられていると、ユリ自身が出遅れたのも忘れて、何で彼女ばかり、どうしてボクのことを見てくれない、愛してくれないんだと嫉妬と悔しさで気が狂いそうになった。
──お腹が疼く……
まして、主が愛おしげに彼女を抱き締めるのを見てしまっては……女としてのプライドか、自身も彼女と同じように、いやそれ以上に求められなくては自尊心を満たせないことだろう。
そして、ユリは見たのだ。彼女特有の、口元を大きく吊り上げた笑みが最後にユリに向けられたのを。それはまるで、自身がどれだけ愛されているのかをユリに見せつけ、どうだ、と挑発しているかのようでもあった。
「ユリ」
「御方様……」
声をかけられてハッとした。男を伺うユリの視線が不安と緊張に揺れていた。
「……ユリ、おいで」
「っ、はい」
ユリは待ちに待った男に呼ばれて、惑いながら側へ寄ったものの……そこからどうしたら良いのかわからなかった。
彼女はクレマンティーヌへの嫉妬や、複数での性行への背徳感、そしてようやく関心を向けられた安堵、胎の奥底でグルグルと渦巻く欲望。数多の感情を受け止めきれずにいたから。恋い慕っているはずの男の目を見る事が出来ず、触れられたい、抱き締められたいと願っているのに、自らがその肌に触れることを躊躇した。
ようやく自身のことを見てくれたことは嬉しかったはずなのだが、一つ安堵してしまうと、今度はこのような状況への不満が口から出て、感情の赴くまま喚きたくなるのを必死に抑えていた。
自身ではない他の女を抱く主の様子は、当然の事ながら今まで見た事もなく、いっそ別人かのようにも思え、彼女に少なくない衝撃を与えた。その様は彼女が初めて身体を捧げた時とは異なり、大切な思い出が汚されたようでユリは何だか悲しくなったのだ。
だがしかし──元より至高の存在である主を独占するなどは出来ようはずもなく、これは一人の男を取り合う、女と女の勝負でもあったから。謂わば、正妃戦争の前哨戦ともいえるかもしれない。互いの覚悟を確かめ、相手が本当に自身と競い合うほどの存在か否か判断する。簡単な話、普段のマウントの取り合いが少し過激になった程度のもの。
正妃戦争が絡むのであれば、ユリに逃走の選択肢はない。男の情に訴え、この場を回避することも、侍女として今回のことを非難し、諌めることも可能ではあったが、自身の未来、ひいてはナザリックの将来に深く関わるとなれば不退転の覚悟を示さなければならなかった。
それに、思ってしまったのだ。
彼女だけには、絶対に負けたくないと。彼女よりも主から愛されているのは僕なのだと。この場から逃げるようでは、いずれにしても至高の御方の伴侶となって隣に立つことなど、夢のまた夢。
自身の感情?
思い出が汚された?
その程度のこと。悔しいのなら思い出を取り返せ。至高の御方を前にして喚き散らす醜態を晒すなど、二度とする訳にはいかない。それこそ被造物としての、至高の御方々に仕える下僕としてのプライドが許さなかった。
それはわかっていた。だが……ユリとしても覚悟を示す前に少しだけ落ち着く時間が欲しかった。肚に意気を込める時間が。
「御方様……きつく抱きしめていただけますか」
男が彼女の言う通りに、ゆっくりと、きつくユリを抱き締める。ユリは腕の中で深く息を吐いて心を落ち着けた。
「……嫉妬で狂ってしまいそう。でも、ボクだって負けるつもりはありません。……だから、お願いします。彼女よりも、めちゃくちゃにして」
上目遣いで囁くように請われ、男は唾を呑む。彼女の表情は真剣でこそあったが、情欲の色を隠せていなかったのだから。
「あぁ、後悔するなよ」
男としても複数人での乱交など経験もなかったが、こんな状況で緊張もせずに、むしろ彼女の身体の柔らかさに普通に興奮してしまう辺り、我ながらクズだなと自嘲したのだった。
□
「そら、これからって時に服を着たままじゃな。脱がしてやろう」
「あっ、そんな、じ、自分でっ」
ささやかな抵抗にあいながらも、ユリが着ていた服を下着を除いて剥き、寝台へと押し倒して、のしかかる。
「あ、う」
それだけでユリの中で渦巻いていた不安や嫉妬といった感情は少しずつ鎮まってゆき、反対にイケナイコトをしているというドロドロとした背徳感や、これから行われるだろう行為への興奮や期待感で上書きされてゆく。
男がユリに口づけし、彼女は抵抗することなく受け入れる。吐息が交わされ、何度も何度も互いの唇の感触や相手の反応を確かめる──その興奮のままに口内へと舌を侵入させると、ユリは眉根を寄せて悶えた。
男がユリのショーツへと手を入れる。割れ目をなぞると、ユリの身体がビクリと反応した。
「──驚いた。ずっと期待してたんだな。バッチリ濡れてるぞ」
「そ、そんなことっ……」
股を指の腹で撫でるように弄るとクチクチと水気を含む音とユリの小さな喘ぎ声が重なった。無意識にかユリの股座は開かれてゆき、男の手の動きが激しくなる。
「ユリ、本当はずっと待っていたんだろ。自分の番を。素直になれ」
「ち、ちがいますぅ」
イヤイヤと首を振って抵抗する。その反抗を非難するように突起を指で弾いた。ユリの腰が引け、彼女の長い脚が股座を弄っていた男の腕を挟む。
「そうじゃないよな」
膣に指をゆっくりと差し込んでゆき、膣穴を解し、広げるように円を描く。
「ううぅ、っ……」
膣の中で愛おしい人の指が動いているのがわかり、その気持ちよさに声が漏れた。しかし、焦れるようにゆっくりと、もどかしい。時折、クリトリスを撫でられるのがユリの情欲を煽った。息が荒くなる。
目の前の主から圧力を感じる。して欲しければ、認めろと。
「……ず、ずっと御方様に求められるの待っていましたっ。いっぱい愛されながらめちゃくちゃにされて、気持ちよくなりたいっ。早く欲しいっ、ずっとお胎が疼いて仕方が無いんですっ」
「そうか、そうか……なら、直ぐに挿れてやるからな」
ユリの忍耐は早々に情欲に負ける。主が言わせようとしていただろう懇願の言葉を、羞恥を感じながら吐く。その対価に、彼女の待ち望んでいたものが与えられる。
表情が期待で喜色を帯び、眼の色が雌の媚びるものへと変わってゆく。
「そら、挿れるとこ、よぉく見ておけよ」
「あっ……いやぁっ」
「こうすれば見やすいか」
ユリの首に巻かれてあるチョーカーを外し、躊躇いなくユリの首を抱えた。
「あぁ、あぁぁぁぁぁ……?」
ズブ、ズブ……とゆっくりとM字に開かれた脚の根本、ショーツが横にズラされ、ユリの秘裂に逞しい肉棒が突き立てられると共に、男の腰も沈んでゆく。体温の感じられない膣が熱い男根を冷ますように包み込んだ。
男の腕の中にあるユリの頭が、その瞬間を期待していたかのように陶酔を含む高い、歓喜の声をあげ……次第に困惑を含むものへと変化させた。ユリの肢体は挿入による刺激でピクピクと身悶えしていたが……ユリの頭は期待していた刺激が感じられず、困惑を顕にしたのだ。
「あぁ……首が繋がってないと気持ちいいのもわからないのか」
男はユリの頭を肢体に繋げることなく側に立て置き、そのまま腰を抱えて、物を扱うように荒々しく男根を突き上げた。肉を打つ破裂音が響き、その衝撃で、バルンッとブラから乳房が溢れた。
肢体は声なく快感に悶え、玩具のように翻弄されている。白くほっそりとした腕が勝手に動き、ベッドのシーツをクシャリと掴んだ。
「えっ? えっ?」
まだ状況を理解できていなかったユリの声が次第に泣きそうなものに変わってゆく。
主が自分の身体にその劣情を注ぎ込もうとしているのに、ユリの意識はそれを感じることが出来ない。声を発する事の出来ない身体はもたらされる快楽に腰を弓なりにしならせ、時にくねらせ、震えているのに、何も感じない。頭部の自分だけが主を感じられない。
「や、やだ、やだっ。ボクも、ボクにもっ! 御方様ぁ!」
ユリの頭が悲鳴のように訴えっていても、男は腰の動きを止めることは無かった。バスバスと腰を執拗に打ちつけ、母性の塊が激しく形を変える。
そして──頭の無い肢体がひとりでに動き出し、自身に覆い被さっている男へと絡みつく。密着した彼女の豊かな胸は男の厚い胸板に押し潰されていった。
「そんなっ、どうして、勝手に動かないでっ」
悲鳴をあげた。しかし、ユリの胸を胸板で押し潰しながら腰を打ち付ける度に、彼女の肢体は歓びで弾む。身を蹂躪される快楽を拒むことなく受け入れる。
「ユリ、お前の弱いところは知ってるぞ」
男が荒々しいピストンを何度も繰り返す。
と、今度はユリの腰を抱えて浮かせ、枕を挿し込んで挿入の角度を変えた。下腹部の裏側あたりをカリ首で引っ掻くようにじっくりと抽送していった。
声がなくとも身体の反応は正直だった。
手は互いに恋人繋ぎで絡み合い、しなやかな脚は男を逃すまいと腰に組みついて与えられる快楽の刺激に身を捩っている。どうやらユリの肢体は頭のコントロールから外れているようで、意に反して身勝手に快楽を貪り始めているようだ。
そして、ユリもユリで、感覚こそ繋がってはいないが身体の状態はわかるようだ。つまり、早くも絶頂へと上り詰めかけていると。
「そんな! ダメ! まだイッちゃダメ! 御方様っ、お願いします、早くボクの首をもとに──」
「わかった、わかった。だから、そう焦るな」
「へ──アヒィえェッ?」
──ビクゥッ! ビクビクッ!
懇願を受け入れた体で、男が泣きそうなユリの頭を取って首を接続させると手早くチョーカーを巻き付ける。首を体に接続した途端、ユリの体が大きく跳ねて暴れた。ユリが歯を食い縛る。
と、同時にユリの肢体がギュゥッ、と男の全身を締め上げた。一気に大きな快楽が流れ、ゼロから絶頂寸前のところまで一瞬にして引き上げられたせいだ。
「んおっ、おおぉぉおぉぉぉ……」
腹の底から響いてくるような低音の喘ぎ。ユリの脳裏が真っ白にスパークする。突然齎された快楽の津波に思考がバグった。思考力が強い快楽に押し流され、ただただ全身で主の体温とオーガズムを感じるだけの性処理具へと成り下がる。
快楽の波が引くと、ユリは腰が怠く感じ、自身の下腹部に男の男根が収められているのを感じた。太く熱い杭が胎を焼き、膣を押し広げながら奥深くまで貫いている。男根の亀頭のエラが子宮口に引っ掻かっているのか、ヘコヘコと少し腰を揺するだけで胎に快楽が溜まり、また腰が重くなってゆく。その行為に、密着している愛する人の温もりに、頭が茹だりそうな幸福感を覚えた。
「ひ、ひどいです、おかたさまぁ」
「もう満足か?」
「やぁあ、もっとぉ」
頭が可笑しくなりそうな幸福感に、彼女の浅ましい本性が顔を出す。普段の真面目で、しっかり者の姉の姿はなく、愛しい男に身を任せ、甘い声を出す女の姿があった。
彼女には疲労無効のスキルがあるはずだが、絶頂を迎えた体は重く、身体の芯に鉛でも詰められているかのように感じられる。しかし、浅ましい本性が更なる快楽を求めて、腰を揺すらせた。
そのまま男はそんなユリを潰すようにベッドへ押さえつけると、開かせた股に再度腰を送り込む。
「ァ、ンッ……」
ユリの中は体温を感じられないが、ドロドロに濡れそぼっており、抽送に抵抗はない。──いや、ユリの膣はキュウキュウと主の帰還を歓迎するかのように抱き締めて離さない。彼女の一面か、出ていこうとする剛直を惜しみ、逃すまいとネットリと絡みつく。
舐るような絡みつきは確かに男に快楽を伝える──しかし、最も快楽を享受していたのはユリの方で、膣を抉られては剛直のカリ高に容赦無く抉られ、そのあまりの快感に腰が痙攣するように震え、細い腰が、背が折れそうなほどに反っていた。
「ハァ……はァ……あぁっ、おかたさまぁ……おしたいして、おりますぅ」
男の腕力によってM字に開かれていた長い脚は、何時の間にやら蟷螂の前脚のように男の腰を挟みこんでいた。男を覗くユリの目は蕩け、愛情と色欲に濁り、腕を大きく広げ唇を突きだすようにして接吻をせがんでいる。
そのまま求められるまま、彼女に密着するように口づければ、そこは底なし沼のように貪欲で、その愛情の深さに抜け出す事など出来そうになくなる。
「すき、すきぃ……」
「ンッ、ンッ……ボクだけをみて……」
ユリには最早、他のことなど頭になかった。あるのは主と自分がまぐわっている現状のみ。
グリグリと腰を押し付けてユリの豆粒を押し潰し、奥を撫でるように掻き回せば、彼女は焦点の合わない瞳を揺らして快楽を味わい、塞がれた口からは切なげな喘ぎが漏れる。
一瞬の隙をつき、密着状態から脱する。男がユリをみれば、彼女は恨みがましいような、不満気な表情をしていた。
その表情を深い一撃でメスの顔へと戻す。ユリの腕を手綱のように掴んで支えにすれば、彼女の大きな胸が更に強調され、一突きする毎にその豊かな膨らみが大きく揺れ、頭頂部がきれいに楕円を描いた。
「ッ、はっ、はっ、やだ、やだぁ、まだイキたくないのに゛っ」
「前に教えたよな。イクときはちゃんと報告しろ」
「う、うぅぅぅっ……また……イギますっ」
「よし。ほらイケ。イケよ。無様にイクところ見せてみろ」
歓喜を滲ませて鳴く、ユリの余裕のない矯声が男の脳を震わせる。切なげに男を呼ぶ声と艶めかしい吐息が精神を昂ぶらせ、女の甘い香りが思考を鈍化させるとともに攻撃的な獣性を呼び覚ます。組みしだき、触れ合う柔らかな女の唇と肌の感触が支配欲を高めてゆく。
それを何度も繰り返していると、ユリの身体が細かく震えて落ち着かないように悶え始め──膣奥のスペースがポッカリと広くなり、膣口あたりの締め付けがキツくなる。子宮が下りて来ようとしているせいなのか。
「あっあっ、やだやだっ、ぶざまにアクメきめるとこみられちゃうぅっ」
「ちゃんと見てるぞ。俺にアクメ顔見せてみろ」
「おかたさまも、いっしょ、いっしょにぃ」
「あぁっ、俺もイクぞ!」
「うれしぃっ、イグイグイグイグ、またイグゥぅぅうぅ!」
絶叫。息を止め、喉を反らせて身体を硬直させる。硬直の最中に起こるビクビクという痙攣がその絶頂の深さを物語っていた。刺激が強過ぎたのか、腰をヘコヘコと痙攣させる彼女の表情は完全に蕩けており、普段の彼女からは想像出来ないであろう淫らな顔をしていた。
「ぁ、っ…………ぁ、っ…………」
ハクハクと喘ぎ、凄まじい圧力で男のイチモツを絞り上げる。貪欲に性液を寄越せとギュウギュウと蠢動する。
「ぐぅっ」
奥に、奥にと男根が吸い込まれてゆく。腰が密着し、それでも彼女の一番奥へ奥へと誘われ、そこで果てることを求められていた。
男の射精感が迫り上がり、とうとう吐精を迎える──男はユリの腰を掴み、その中へとドクドクと白濁液を流し込んだ。締め付ける膣。下腹部にあたる臀部の感触。眼下で快楽に悶る美女の姿。腹部に力を込めるとイチモツが更に膨張した。魂の抜けるが如き快楽が全身を走り、男の視界が白くスパークした。
吐き出された白濁液はユリの体温よりも熱く、ユリからしてみれば胎の中に熱源が出来たように感じられたことだろう。
「〜〜〜〜っ!」
それは心地よい熱だ。愛する人の吐き出した、謂わば主の一部だったものが自身の深い場所にある。幸福感を伴う絶頂の余韻の中、その温かさにユリは両手で下腹部を慈しむように撫で、ニヘラとだらし無く笑ったのだった。
「ユリちゃんばっかズルい」
男の背後から蠱惑的な声が聞こえた。そのまま後ろに引き倒されると、ユリの膣からズルリ、と一物が引き抜かれた。
「ぁ、ん……」
吐息のような微かな悲鳴。それと同時にユリの股座から白濁液が零れた。
見上げるように、自身を引き倒した存在を男が見れば、そこには獲物を見定めた猫化の獣のように、クレマンティーヌが赤い目を眇めて此方を覗き込んでいた。
「私の番だよ」
□
狂乱は終わらない──
この淫らな宴が終わるには彼女達が満足しなければならないのだから。
「ねぇ、きもちいぃ? イク? イキたい?」
押し倒した男に背を向けて跨り、ヤンキー座りの体勢で腰を上下させながら、彼女は流し目で問いかける。男の位置からは、クレマンティーヌの菊穴や白い尻が自身の陰茎をズブズブと呑み込んでは引き抜いていく動作がよく見えた。
背面騎乗位という女性優位な体勢にクレマンティーヌは気を良くしているのか、はたまた先程好き勝手に弄ばれた仕返しを狙っているのか、ベッドを軋ませて激しく男を攻めたてる。
「ぐぅ……!」
「ほらほら、せーし、だしてっ、だせっ、んっ」
クレマンティーヌが身体を前傾に、屹立する精強な男根の全てを容易く呑み込むと、肛門を締めるようにして膣圧をかけながら扱く。
タンッタンッ、とリズムよく反復される。男がその心地よさに呻いた。
クレマンティーヌも身に走る甘い刺激に息を荒くするが、先程とは異なり自身のペースであることや、腹に力を込めていること、膣奥の弱い部分を叩かないように加減していたことで耐えられていた。
「イけっ、ザコマンコにまけて、びゅーびゅーしろっ」
「ぐ、おまえっ」
腰の上下運動が荒々しく、段々と早くなってゆく。男も主導権を取り返すべく、腰を下から打ちつけようとしたが──
「しつれい、します」
「っ!」
絶頂の余韻に、暫し呆けていたユリが復活を遂げ、男の頭を持ち上げ、そこに自身の膝を滑り込ませた。
「ふふ、御方さま。だめですよ、ボクたちにごほうしさせてくださいね」
膝枕状態となった男からは、そう話す彼女の顔はよく見えなかった。見えたのはユリの大きく、柔らかそうな胸だけ。頭頂部がツンと張っていて、男はそれを摘みたい衝動に駆られた。
「うぅぅ〜、はやくっ、はやく、イケっ」
男に跨がっているクレマンティーヌも男が腰を浮かせることが出来ないよう、膝に手をついて体重をかけ抑えてはいるが、切羽詰まってきているのかあまり余裕の無さそうな声音だ。
「では、ボクもごほうしいたしますね」
男の眼前に大きな膨らみが迫ってゆき、ニュウッと圧迫する。ユリの前腕によって挟まれた巨乳が顔を上へ下へ、左右に撫でてゆく。その最中にグリグリと男の顔面を刺激するやや固いものがあり、それが口元に触れた際、男が喰らいついた。
「ひゃあんっ、そんな赤ちゃんみたいにっ」
と、悲鳴をあげるもユリの声音には歓喜が含まれている。
乳輪ごと大きく吸い付き、舌で突起をつつき、焦らすようにグルグルと舐め回す。と、思えば突起に舌を絡めるように愛撫したり、強く吸ってみたりする。
「あっ……あっ……お、御方さまぁ……ボク、またほしくなってしまいます……」
緩急を織り交ぜた愛撫。焦らしによる期待感、と思えば、急に訪れる期待を満たす快感にユリの表情が再びトロンとしてゆく。ユリの子宮がキュンキュンして、恋慕う主の肉棒を求める欲求が急激に膨れ上がっていった。
「っ、そんなにすっても、おっぱいはでません、からね」
と、同時に自身の乳を夢中で吸っている主を見て、ユリは子どもみたいに甘える姿を可愛いと思い、胸の内もキュンキュンした。
「あぁっ、それズルいっ」
クレマンティーヌが背後で行われている痴態に思わず本音を零す。男の膝から手を離し、ヤンキー座りの体勢から膝を着く形に変える。そのまま自身の胸を揉みしだき、乳首を弄りながらも、ピストンは止めなかった。
「ぁ、っ……これ、きもち、ぃ」
甘い吐息とともに、小さく漏れた言葉。金色の髪が上下運動で弾む度にフワリと広がっては落ちる。男から見えない彼女の表情は、赤い瞳が閉じられており、男から胸を弄られるのを想像しているかのようだった。
「ぅ、うっ」
男の口から呻きが漏れる。男からしたら今の状況はまさに地獄のような天国。いや、やはりただの天国。上は乳攻めで、下は締まりのよい媚肉に包まれ、扱かれる。身体が溶けそうな心地だ。
これはアカン、変な性癖目覚めるっ。でも止められない……とは男の内心の声。あまりの心地よさにうっかり限界を迎えそうになるも、腹部に力を込めてなんとか耐える。
「ひ、んっ」
グッ、と血流が集まったのか男根が通常状態よりも膨張し、クレマンティーヌの膣を押し広げた。内部から圧迫される心地よさに声が漏れる。
そして、男根を膨らませた男の反応に、彼女は男の限界が近いことを悟った。クレマンティーヌの表情が歪む。
「ぷぷ、イキそうなのかなー……? いつでもいいよー……?」
「ほぉら」
「びゅーっ、びゅーって」
「がんばれっ、がんばれっ」
語尾にハートが付きそうな甘い声音だった。
クレマンティーヌが腰を落として男の下腹部と臀部を密着させる。と、膣圧を高めて陰茎の全体を強く、一定のリズムを保って丁寧に扱く。
「ふ、ぐぅっ」
顔面に感じる優しく、柔らかな乳の感触。下腹部から齎される男の欲を満たす快楽に抗うことが出来ず──男はとうとう腰を浮かせて射精した。情けなくもオギャってしまった。
「んっ……かーわいぃんだ。よくがんばりました」
男の腰が浮いた瞬間を見計らってクレマンティーヌは腰を深くまで落として動きを止め、自身の最も深い場所で精を受け止める。
「ん……あったかい……」
ドクドクと、胎の中に流し込まれる性液の温度を感じた。赤い瞳に映るのは愛おしい人。守りたい人。ずっと側にいたい人。自身の運命を変えてくれた人。
静かで、優しく、愛おしげに。慈愛を込めて。しかし、流し目で男を伺うクレマンティーヌの赤い瞳には狂おしいほどの情欲もまた渦巻いている。
「っ、もうむりっ、がまんできない、わたしもイキたいっ」
「ま、まて……」
「あっ、ん……御方さまぁ……」
ブルリ、と肩を震わせるとクレマンティーヌは射精した後も陰茎を抜く事なく、腰を動かし始める。
射精後の脱力感に、口に含んでいた乳首を離してクレマンティーヌに静止の声をかける。同時に、ユリが残念そうな声を出した。
「ぁっ……ぁっ……」
始めは男根の亀頭を膣奥にくっつけ、グリグリと円を描くようにグラインド。陰茎で膣を広げるように動き、次いで、カリが最奥、子宮口の出っ張りの気持ちいいところに引っ掛かのを見つけると、今度は小刻みに前後に動くようにシフトする。気持ちいいと思う所をカリ首で引っ掻いた。
「はぁ……はぁ……おく、きもち、ぃ」
ヌチヌチと接合部が白く濁る。段々と胎の奥が重く感じるようになってゆき、気持ちいい痺れが溜まってゆく。静かに、一人で上り詰めてゆく。
「あ、ぇ……?」
──男が突然、身を起こし、クレマンティーヌは後ろから抱き締められた。と、後ろを無理矢理に振り向かされ、そのまま口を吸われる。女の口内に侵入してきた舌と彼女の舌が絡み合い、水気を含む音を立てる。
「動けん。早くイケ」
「ぁ……うん……」
出会ってから、もう幾度も繰り返した口吸い。後ろから伸ばされた大きな手がクレマンティーヌの胸を鷲掴み、やわやわと揉む。
目を閉じたクレマンティーヌが男に背を預け、感覚に集中しながらヌチヌチと、腰を再び動かし始める。クリクリと両の乳首を弄られ、身体に走る甘い刺激に眉根を寄せた。遠慮など知らぬとばかりの口内を蹂躪する舌に、必死に応える。
静かに、確かに、高まってゆく。
「あっ、あっ、イク……イクっ……きもちっ」
「可愛いぞ」
たまに邪険にされようとも、クレマンティーヌには愛されているという確信があった。その言葉に愛しているという隠れた意味があることも。魂と魂が一本の糸で繋がっているかのように、男の考えは何となくわかっていた。
でも、わかっていても本当に欲しい言葉は──
「あいしてるって、いって……?」
快楽に悶えながら、男に請う。キラリ、と左手薬指に嵌められた指輪が光を反射した。その言葉に反応するように、射精により若干硬度を落としていた男根が雄姿を取り戻し、クレマンティーヌの媚肉を槍の如く貫く。
「あぁ、っ……!」
元の張りを取り戻した亀頭がクレマンティーヌの子宮口を刺激し、ビィンと電流が走る。イクか、いかないかの瀬戸際。綱渡りの恐怖のように、身体が絶頂に身構えて固まる。膣が男根をギュウッと抱き締めたまま、フルフルと震えている。
イキたいのに、まだイキたくない。今にもイキそう。でも、踏み止まっている。もう一歩が怖い。少しでも動いてしまったら、なし崩し的に上り詰め、この幸せな時間が終わってしまう確信があった。
でも──
「愛してるぞ」
耳元でクレマンティーヌにだけ聞こえる声量で、欲しかった言葉が──
「っ、っ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
悲鳴のような喘ぎは再び口を塞がれたことで封殺され、胎の奥底に溜まっていた心地よい痺れが暴れ出し、ダムはあっけなく決壊する。
愛する人に抱き締められ、口を吸われ……胸に伸びた男の手と股座を雄々しく貫く男根……彼女が感じたのは強い一体感と幸福感。
クレマンティーヌが感じているように、男も彼女に絆や信頼を感じ、共感していることが分かったから。彼女が欲しい言葉を伝えてくれたから。
笑みを浮かべた。一緒なのだと、分かることがこんなにも嬉しい。同時に目尻から涙が流れた。
「泣きながらイッてんのか?」
それもわかっているくせに。意地の悪い男はクレマンティーヌを抱き締めて笑った。
□
──その後も男女のまぐわいは続く。
負けん気の強いユリがクレマンティーヌに嫉妬し、子どものようにむくれて男を取り返せば、先程のクレマンティーヌのように主へと跨り、彼女へとその痴態を見せつけた。
現にグリーンシークレットハウスの中では、女達の嬌声が止むことはない。
時に、背面騎乗位。ユリもまた寝そべる男に跨り、その上で踊るように悶えた。ユリの菊穴が見え、何も隠す事なく自身を曝け出したその姿に男は興奮した。
ユリが杭打ち機のように屹立する摩羅を呑み込み、激しいピストンを繰り返す。バチバチと肉と肉が打ち合わされる音が響いた。
「あぁんっ、いぃっ、いいですっ、おかたさまっ」
表情を蕩けさせて悶るユリの真っ白な尻を手の平で叩くと、ユリは艷やかな嬌声をあげ、流し目で男を挑発した。
「せーし、またボクのなかにびゅーびゅーして……?」
そこで男の我慢は途切れる。
「ひゃっ、おかたさまっ?」
ムクリと起き上がり、ユリを背後から羽交い締め。そのまま腹の上に戸惑うユリを寝転がせて乗せたまま、手加減なしの突上げの連続を繰り出した。
ユリはその突上げで腹の内側を容赦なく抉られ、それまでにあった余裕など、簡単に消し飛ばす。
「あっ、んおっ、おかたさまっやめっ、これ、きもちっ、んひっ、もぅ、わけわかんなくなるぅっ!」
羽交い締めにされているため逃げ場などなく、ユリはただただ与えられる快楽を呑み込んでゆくしかない。
先程までとは異なる角度で挿入された陰茎は彼女に新鮮で苛烈な刺激を与えた。男はガシガシと腰をぶつけ、ユリは快楽に翻弄されながらも、喘ぎ声をあげる。
その強引なピストンに彼女のMっ気が刺激され、表情が男への媚びで歪む。思考が気持ちいい、セックスすごい、チンコでイカされるでいっぱいになった。
「おかたさまっ、だめっ、だめっ、もうゆるしてっ」
「キスしたいのっ、おかたさまぁっ」
快楽を存分に享受しつつ、甘く鳴き、口先だけの許しを請う。そして、最後には子宮に男根の亀頭をめり込ませながら、放精され──
「ひっ、イクッ、もぅらめ、イッ、グッ────」
ユリの意識は漂白され、遥かなる高みへと至る。胎の底で堰き止められていたダムが決壊し、快楽の重い津波が全身の、指先に至るまで押し寄せる。ユリは鳴き叫び、壮絶なイキ顔を晒して、ふっ、と意識を飛ばした。
あるいは、対面立位──所謂、駅弁。クレマンティーヌがその身を抱えられ、性玩具のように扱われる。クレマンティーヌの膝を抱え、配慮などせず一気にスパートをかけると、男の剛直が彼女の深い場所を滅多打ちにした。
重い一撃の連続が彼女の身体に責め苦を与え、精神の余裕をガリガリと削り取ってゆく。
「おっ、んおぉぉ らメェっ、らめぇ! つ、よすぎる、ってっ、んァ、ア゛、ァ、ア、また、イ゛ッちゃ……」
耐え難い暴力的な快楽の波濤。激しいピストンによる強過ぎる衝撃に尻が宙に跳ね上がり、今度は振り子のように元に戻ろうとする。
「ひいぃぃぃぃ、っ、ぁっ、あっ、っもういった、もういったからぁっ」
「まって、まって──」
ガクガクと腰を震わせ、訴えるも男のピストンは止まることはない。
勢いよく挿入された剛直が奥を打ちつけ、その反動で腰が浮き、剛直が膣から抜け出てゆく。そして、浮き上がった腰は元の位置に戻ろうとし、再び剛直を奥まで咥えこむ。クレマンティーヌは泣き笑いで矯声をあげるしかなかった。
「ねぇもうつらいのっ、きいてるっ? わたし、しぬっ、しんじゃ……」
「あぁっ、もうやぁっ、また、いっ」
クレマンティーヌがオーガズムに身を震わせ、顔色を赤く染めた。それを目の前で目撃した男の目が愉しそうに歪んでいた。
「もぅ……や……しっ……」
意識が朦朧として、人形のように力の入らなくなったクレマンティーヌをベッドへと押し倒し、柔らかなマットレスと厚い胸板でサンドした。そのまま泣き言ばかりの口を塞ぎ、ネッチネッチと餅を搗くように体重をかけて腰を送り、子宮を捏ねる。
「〜〜っ、ひっ〜、んっ、ぁ────」
仰向けになった無抵抗なカエルのように、クレマンティーヌは股を開き、両の手を頭上で拘束される格好で男の劣情を受け止める。塞がれた口から甘い吐息と、小さな喘ぎが漏れ出た。
「ひぐっ」
やがて、男がクライマックスを迎えるとともに、小さく悲鳴をあげて彼女も果てる。息荒く、肩で呼吸する彼女の表情は苦悶で歪みながらも、満足気であった。
──男女ともに思考を止め、ただ快楽をもとめるだけの獣となった。心を通わせた女達の痴態に満足した男はベッドへと大の字になる。
しかしながら……
「おかたさま……どうか、もういちど、おなさけを……もっと、もっとごほうし、いたします」
大の字となった男へとユリが擦り寄り、再び跨がった。
問題があるとすれば、彼女らが二人であるのに対して男は一人であったこと。ある程度体力が回復すると、ゾンビや亡者のように復活する彼女らの性欲はまさに無尽蔵。
何度、絶頂に達し、気を飛ばそうと、終わりは見えてこない。
「あいしてます……たくさん、きもちよくなってくださいね」
「おかたさま……あいしてるって、いってくださいますか……?」
「あ、あいしてる……」
「うれしぃ」
ユリがほっそりとした手足を蜘蛛のように這わせて男へと覆い被さる。スパイダー騎乗位──無抵抗な獲物を捕食するように覆い被さり、腰を艶かしく上下させた。ユリは男にそのままに、キスを強請り、舌を絡ませあう。
興奮した彼女には、愛する人しか目に写っていなかった。
男が昇天し、それでも愛と快楽を求めて積極的に身体を揺するユリを目にして、男が、自身が犯されている側なのではないかと錯覚するほどに。
「ねぇ、もっとできるよね……?」
「まて……少し休憩を……」
彼女たちの愛を求める衝動は止むことがない。しかし、男の精力は有限。蕩けた顔で妖艶に笑うクレマンティーヌは、自身がこれまでされた事を仕返すつもりなのかもしれなかった。
「くふふ……テントのしみでもかぞえてて」
「……ボク、まけませんから。おかたさまの、いちばんに……」
そして、ユリの方には未だに勝負という建前や正妃戦争のことが頭にあるのか、勝敗に拘ったまま。加えて、専属のメイドとしてのプライドか、彼女に引くという選択肢を与えなかったようだ。
「あっ、あっ、ぅんっ、おくにひびくっ、きもちいぃよ」
「あんっ、ボク、またイキますっ、おかたさまっ、せーえき、たくさん、たくさんだしてくださいねっ」
男は段々と窮地に追い込まれてゆき……とうとう、二人掛かりで攻められる状況に陥った。
「おかたさま、どちらの方が気持ちいいですか……?」
「わたしに、きまってんじゃん。こんなに、からだの相性いいんだからさ。わたしのほうがイカせた数おおいし」
「……もう……おわりに……」
「……なにを勝った気になっているのか……しょうはいは、まだついてません。まだこれからです」
「えぇ……?」
「ぷぷ……バカだよねぇ、いちばん、だいじにされてんのは、このクレマンティーヌ様だってわかりきってんのに」
「はぁ? バカはあなたの方です。おかたさまがいちばん気に掛けてくださっているのは、ボクです!」
男は天国のような地獄を見た。今度は天国ではない。無理矢理、勃たせられ精液を搾り取られるのは拷問に等しく、彼女らも互いに張り合っているようだった。
「おまえら……もう、やめ……」
狂乱は続く──猛烈な眠気に襲われ意識が遠退いてゆく間際、男は思った。
やっぱり旅は一人でした方が気楽でいいかもしれない……と。
□
ふわふわとした、現実味のなさに疑問を持つことも無い。ただ、脳裏が過去に見た映像を記憶しており、脳内で再現しただけのもの。
『 』
長い金色の髪を持つ女がこちらに向かって何かを言っている。
その女は髪で顔の半分を隠していた。
「お前は──」
怒り、哀しみ、そして寂しさがない混ぜになった眼で男を見ていた。
そんな彼女に、男は──
っ!
突如として、意識が一瞬にして覚醒──鋭い殺気を感じて反射的にハッと目を覚ました。
開く眼。視線の先には真上から振り下ろされる得物の刃先?
瞬間的な思考。とにかく回避し、距離をとらなければ──
「!」
だが、腰の上に刃物を振り下ろしている何者かが馬乗りになっており回避行動が上手く取れなかった。間一髪。咄嗟に傾げた顔のすぐ横にバチバチと雷光を発する鎧貫きが突き立てられた。
「やっぱさぁ……そんな気はしてたんだよねー。寝言で、私の知らない女の名前呼んでたよ」
一糸纏わぬクレマンティーヌが冷たい目で男を見下ろして笑っていた。
「私も知らない名前でした。御方様……レイ何某とは、どなたでしょうか」
どこかハイライトの消えた病んだ目でこちらを見るのはユリ。
「ねぇ」
「御方様」
その綺麗だが温度の感じられない笑顔には、然しもの男も『あ、これヤバイやつ……』と震えた。
闇霊のように赤黒いオーラを立ち昇らせ、ダークリングを宿した赤い瞳が男を写している。温度の感じられない灰色の眼が、不貞を責めている。
果たして、流れた冷や汗はその怒気に当てられたものなのか、寝起きに刃を突き立てられたからなのか、はたまた他にも激怒されるような秘密に心当たりがあったせいなのか、どれだったのか。
「いっぺん死んでみる?」
そんな言葉とともに向けられた笑顔を見て、男は……不都合な過去を有耶無耶にするために、どうしたら言い逃れが出来るか、頭を必死に働かせるのだった。
──なお、昼過ぎに再びエ・ランテルに向けて出発した頃には二人は心なしか肌艶もよく、機嫌も良くなっていたのに対し、男は明らかにやつれ、足取りも重かったという。
男の心はもう決まっていた。
やっぱり、二人には次の旅の目的地は知らせないでおこう、と……
□
「アインズ様。御方様に同行しているユリより、至急の報告が届いています」
ナザリック地下大墳墓。その主の一人であるモモンガ改めアインズの元にとある報告書が届けられていた。
そこには簡潔にではあるが、至高の41人の一人である男の事が書かれている。その内容とは、彼の保有するワールドアイテムの真の力と、この世界における不死人の種族スキルの一端、またそれにより彼が経験した出来事について。
信じ難いことに、アインズの友人は過去もしくは隣り合う世界へと跳び、それなりの月日を過ごしたらしい。そして、それはどうやら現在のナザリック地下大墳墓の周辺ではなく、未だ調査の及んでいない大陸中央に近い地域での出来事と記されている。
「……ふむ。ワールドアイテムによる、過去への旅、隣り合う世界への移動か」
「はい。他にも以前から報告に上がっていた竜王と呼ばれる存在と交戦したと。幸いにもその竜王は御方様が単独で撃破できる存在だったようですが……」
竜王──報告に上がってくる名では幾つかの存在が示唆されていることをアインズは知っていた。そして、そのどれもが一筋縄ではいかない者達であると警戒していた。
「……いや、竜王とやらをその程度と侮るのは危険だ。その竜王とやらはどんな存在だったと聞いている?」
「報告にあるのは、ゾンビ等を無数に従えるアンデッド属性の竜王だったらしいとしか……」
「アンデッド属性か。ならば今回は彼の敵ではなかった、と見た方がよい」
アンデッド属性、と聞いた途端にアインズの警戒は幾分か緩んだ。アルベドはその変化に少し戸惑う。
「……それはどういうことでしょうか?」
「彼はアンデッドに効果的な火属性を得手としているし、大軍向けの切り札も幾つか持っているからな。なにより、彼に相対するにはまず火に対する絶対耐性が必須……火属性脆弱のアンデッドではそもそも相手にならないだろう」
朗々と友人の強みを語る。アインズの中では、彼はナザリック地下大墳墓でも有数のアンデッド大特攻を保持している人物という評価であったから。
「そ、そうなのですか……それは……アッ、アインズ様を含めて、ということなのでしょうか……? っ、も、申し訳ありません!」
「ははは、構わん。私は火属性に対する絶対耐性を付与するアイテムを装備しているから問題はない。……と言いたいところだが、彼の火は絶対耐性すら抜いてくるからな。……だがまぁ、それ自体特殊な方法によるもので、プレイヤーであれば対策のしようがない訳でもない。もしも彼とPVPをしたとしても後れを取ることはそうそうないだろうさ」
火属性脆弱のアンデッドではそもそも相手にならない、という言葉に動揺したが、アインズの彼にも遅れを取ることはないという自信に、アルベドはホッと安堵の息をついた。
「しかし、そうか。懐かしいな……」
「懐かしい、ですか?」
「あぁ……かつて、このナザリック地下大墳墓に大量のプレイヤーが押し寄せた時も彼が地上部で待ち構えて、奴らを押し留めたことがあった」
「まぁっ、そうなのですか」
初耳であった。かつて傭兵NPCも含め、計1500ものプレイヤーがナザリックに押し寄せた時の話。その話はナザリックでは非常に屈辱的な出来事としてアルベド達、ナザリックの下僕達には認識されていたが、まさか、そのような活躍があったとは知らなかった。
「その時に使用した切り札が広まり、有名になってしまってな。あまりに仰々しい技名を見知らぬ誰ぞに命名されて本人は身悶えしていたが……」
懐かしむように昔を思う。ウルベルトが当時、非常に羨ましがっていた光景を。やまいこが彼をからかい、ブループラネットが身悶えする彼を宥めた、ナザリックの過去の日常の一片を。
アインズが過去を懐かしむ様子を目にしたアルベドは嫉妬した。
「アインズ様──」
「む……すまない。そうだな──彼が編み出した技を説明するのなら……」
過去の場面を思い浮かべるように語りだす。
「まずは敵味方問わず、身に纏う炎熱で効果範囲内の尽くを焼却することから始まる。先にも言ったが、彼の火は絶対耐性すら抜いてくる強力なスリップダメージ……状態異常攻撃でな。対策していなければ、それだけで非常に苦しい戦いを強いられることになる」
「そして、焼却することで残った骸に仮初めの命……彼曰く人間性の闇を与えることで強制的に操り、自らの駒として自陣に引き込んだところから本格的な攻撃が始まる」
「強制的に……状態異常攻撃はまだ序の口ということですか……」
アインズの語りにアルベドは唾を飲み込む。自身ならどのように状態異常攻撃を攻略するか考えてみたが、アルベド自身が持っている至高の存在の戦闘情報は皆無に等しい。優秀な頭脳を以てしても直ぐには対策は浮かばなかった。しかも、本命の攻撃はまた別にあると。
「そうだ。これはまだ始まりの段階。彼の術中に嵌った者は悲惨の言葉に尽きるぞ。何故なら、彼らには死者にあるべき安寧もなく、彼が目的を全うするまで『冒涜』を受け続けることになるのだからな」
「冒涜、ですか……?」
死の支配者たるアインズが冒涜と言うくらいだ。本来であれば、倫理にもとり、非難されるべき行為すら戦術に組み込まれているということだろう。
「あぁ。あまり人の情報を勝手に話すのは良くないのだが……皆も知っていた切り札だ。アルベド、統括守護者であるお前になら教えたとしても問題はないだろう」
「っ、貴重な知識に触れられる事に感謝いたします」
「うむ──彼の種族である不死人には特殊な魔法があってな。『死者の活性』と呼ばれるそれは、死者の骸を闇属性の爆弾へと変化させる効果があるのだ」
「っ、それはっ」
今度こそ息を呑んだ。敵味方問わず自らの駒として手中に収め、それらを爆弾として運用ができる。その厄介さは、実際に対峙していなくとも想像に容易い。
「……お前ならば、もうわかるだろう。この技は骸達に死者の活性を掛けることで完了する。彼の魔法により、大量の自走可能な爆弾がお手軽に出来上がるという訳だ」
「そして、なお恐ろしいことに、死者の活性は骸が存在する限り、何度でも行使が可能。大量のアンデッドモンスターが湧くナザリック地下大墳墓では、正に反則級の魔法と言っていい」
「……効率的。しかしアライメントが善に傾く者には忌避感があると思われます。言葉は悪いですが、それは……」
「あぁ、死者への冒涜を恐れぬ外道戦術と言ってもいい。……骸の大群が彼の一命で特攻を繰り返す。故に、リアルでの有名な古典をもじって、こう名付けられたのだ──"火禍十万億死大葬陣*1"と」
□
──帝都アーウィンタール 帝国城
窓から城下を望む、黒の騎士甲冑を身に着けた金髪の美女。その顔は半分が隠されている。フワリ、と窓からそよぐ風が彼女の隠された顔を顕にした。
「……」
そこには異臭を放つ膿が湧き出す、腐りかけた不浄──などなく、痣のように赤みを帯び炎症を起こしたように見える肌があった。
彼女の眼差しは遥か地平線へと向く。
その内心を推し量るものは未だいない。