しかし復讐心が空回りし、成果がついてこない。そんな時、鬼殺隊の厚生施設の案内が届く。女性のみが利用できるそれは、セックスで体調を整えるという目を疑うようなものだった。最初は半信半疑だったしのぶは藁をもすがる思いで利用し、いつしかそれなしではいられなくなっていく。
pixivにも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12054061
姉が、死んだ。
誰よりも優しく、鬼にすら手を差し伸べようとした、大好きな姉が。
残ったのは、鬼の頸を落とすことも出来ず、優しくなる事も出来ない不出来な妹だけ。
それでも、鬼を殺したかった。愛する家族全てを奪った鬼を。そのために、自分にも出来る事を必死に考え、毒という選択肢にたどり着いた。
意外にも、鬼を殺す毒について研究したいという申し出はすぐに認可された。何の事は無い、私より前にもそのような隊員は居り、古い研究資料と施設を紹介されたのである。
(それってつまり、失敗したってことよね)
生涯をかけて結実しなかったのか。それとも諦めて『隠』として生きる事を選んだのかは教えてはくれなかった。
だがそんな事は関係なかった。自分には、もうこれしかない。鬼を殺す毒を完成させ、姉の仇を討つ。それだけが生きる望みだった。
そして半年。一つも成果が出ない。そもそも試した毒は資料のどこかに実験記録があって、それに毛が生えた程度の工夫しかこなせていない。
「しのぶさん、最近顔色が悪いですよ」
研究拠点には、身の回りの世話をしてくれる隠の人を付けてくれていた。その彼女にもそう言われてしまうほどに疲労が顔に出ていた。
その夜、床の中で泣いた。
優しくなれるほど強くなくとも、せめて憎しみの強さだけは誰にも負けないと思っていたのに。この矮躯は、私の気持ちについてきてはくれない。薬が完成するまで一心不乱になる事を許さない。
かと言って絶対に諦める事は出来ない。強くもなれず、弱くもなれず、己の情けなさを恥じて泣いた。
泣いたからといって事態は好転せず、必死になって研究に打ち込むものの成果の出せない日々に弱気は募るばかりであった。
そんな時だった。鎹鴉が一通の報せを運んできた。
──女性隊員のみ使用できる厚生施設あり。希望する者は返信の事。
その下には、施設の内容が記載されていたが、目を疑うような内容だった。馬鹿馬鹿しいと、姉が生きていた頃の自分ならばその場で焼き払うような内容だった。
だが、弱気に屈して自分の心がひび割れている事も、嫌というほど分かっていた。このまま続けたとて、何年、何十年やっても成果が出る気がしなかった。
(鬼を、殺すためなら)
心の底から、変化を求めていた。両親を殺されて鬼殺隊に入り、才能の無い自分。姉を殺されてなお殻を破れない自分。本部……お館様はそんな私を見透かしている。だからこの通知が来たのだ。
変わらなければならない。鬼を屠れる自分に。いつまでたっても板につかない姉の仮面を捨てる事になっても。
鴉を前に立ち尽くした後、使用の希望を返信した。
その施設は、都市郊外にあった。目的を考えれば物資の調達に都合がいいのだろう。見た目はただの一軒家だ。
まるで知らない人の家に勝手に入るような気まずさを感じながら、ガラガラと戸を開ける。
「いらっしゃい、胡蝶しのぶさんでお間違いないですか?」
待ち構えていたように、若い男が挨拶をした。
「……はい。その、ここは鬼殺隊の……厚生施設ですよね?」
「ええ、それで間違っていませんよ。さあ、詳しいご説明をしますのでどうぞ奥へ」
こともなげにそう言って、奥へと案内される。建物の中には香が焚かれているのか、良い匂いが充満していた。薬を研究している自分だから分かるが、心を落ち着ける香だ。
だが、落ち着かねばならないのに落ち着けない今の自分にとっては不甲斐なさを指摘されているかのようで顔をしかめた。
なんと言う事のない八畳程度の部屋に通され、座布団に座り、出された茶を見つめる。
「改めて、始めまして。私は『閨の呼吸』を使います、八房帯陽と申します」
「はあ……」
男はにこやかに挨拶したが、既に心には後悔が渦巻き始めていた。自分はこんな所で何をしているのだろう。毒の研究は一刻も早く完成させねばならないのに、なぜ研究所を離れてしまったのか。そんな益体もない考えが頭を支配している。
「一応、日輪刀で戦う事も出来るのですが、私の呼吸は少々特殊でして、特殊な方法で他人の呼吸を整えて心の健康を取り戻すことができるのです。内容は、お伝えした文の通りですが……施術を行って大丈夫でしょうか? なにぶん方法が方法ですので、必ず面と向かって同意を取っております」
それはそうだろうな、と思う。
何せ、男女の性的なまぐわいを通じてそれを成すというのだから。
だが、それでも私は来たのだ。ここまできてやっぱりやめた等とぬかして帰るなど、それこそ町娘同然だ。
……ただし。
「……率直に言って、そんなことが可能なのですか? 効果のほどを疑ってしまいます」
本部、ひいてはお館様の紹介だというのに、信じきれない自分が嫌になる。しかし偽らざる本音だ。
「みなさん、そうおっしゃいます。ですから、初回は交接まで至らない、手わざのみの施術を推奨しております」
男の性器ではなく、手だけで刺激すると言う。
「それで済むのであれば、その……、こ、交接は必要無いのでは?」
「理想的には、肌を触れ合いつつ粘膜での接触を可能な限り増やしたいのです。その方が効果が強いので。勿論、この施設を利用なさる方の調子は様々です。初回のみで心身の健康を取り戻し、施設の利用を止める方もいらっしゃいます」
あくまでも、体調を整えるための施設という事か。自分自身の状況を顧みる。私は今、健康を損なっている。姉が死んでから必死になってきたものの、心は弱り、このままでは研究の完成もおぼつかない。変わりたいとこの施設に来てまで、どこか積極的になり切れていない。
(やらなくちゃ)
どれほど怪しげで気分が乗らなかろうと、今はまたとない好機なのだ。そう念じて、施術を承諾した。
「では、下履きを脱いでください。出来ましたらまた呼んでください」
そう言って、一つ奥の部屋に一人残された。着替えは見ないという最低限の配慮はあったらしい。
部屋には入り口で感じたのとは違う、甘ったるい香が焚かれている。どんなものなのかは想像に難くなく、呼吸を抑え込みたいのを堪えねばならなかった。
「…………」
足の下には、布団が敷かれている。これからここで、初対面の男に、性器を触らせるのだ……そう思うと、非常に手が重い。
かつて悲鳴嶼に言われた言葉が耳の奥に蘇る。
──普通の娘として幸せに生きろ、好いた男と結婚し、子を産み……
自分に呆れた。まだそんな事に未練があるのか。鬼を殺すために自分のすべてを使うのだ。性器を通じて心身の健康を取り戻せるならば願ったりだと、そう自然に思えぬ自分が情けなかった。
全集中の呼吸、常中。
今も、当然出来ている。だが意識してやり直し、嫌がる己を抑え込んだ。下半身の衣服をすべて脱いでいく。
「終わりました」
滑らかに襖が開き、男が姿を見せる。全裸の下半身を異性に晒し、羞恥に身体が震えた。何か月も手入れを怠っていた股間の陰毛は恥ずかしくなるほど茂っており、叫びだしたいほどの後悔を覚える。男はその辺りには何も触れず、ただ事務的に指示した。
「では、これから施術いたします。寝そべるか、私が肩を抱いて座ったまま行うか、どちらが良いですか?」
抱きしめられるよりはと、寝そべる方を選んだ。
「では仰向けに寝そべって、脚を開いてください」
「……ぐっ……」
自分の心臓の音が聞こえるほどの恥ずかしさなど、いつ以来だろうか。私は苦労して、無防備な下半身を男に晒した。
男が私の股の間に入って、軟膏を指に取り秘部に塗ってきた。ぬるりとした感触に下半身が震え、意識している事を悟らせてしまったとさらに羞恥が募る。
だが、そんな事を考える余裕もそこまでだった。
まぶされた軟膏により滑らかに動く指がぬるりと膣に滑り込む。嫌悪感を感じたのもつかの間、もう片方の手が私の『さね』をつまみ上げ、抗いようのない性感の痺れが這い上ってくる。さらに、膣内から指が的確にツボを擦り上げる。
「はっ……んっ……♥」
始まって一分も経っていないというのに、もう甘い声が抑えられなくなっている。男に股を開き、心の伴わない施術にこんなにも乱されるなんて、とまた己に対する嫌悪が湧き上がってくる。
「我慢しないでください。これは心の萎縮を解きほぐすための施術ですから」
その言葉に、耐えられなくなって両手で顔を覆ってしまった。彼に対する嫌悪も、指で気持ちよくなっている躊躇も、当然見透かされているのだ。
(恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい)
私の心はその時、それ一色だった。
それは、姉の死から後、初めて鬼に対する殺意が表層から消えた瞬間でもあった。
くちゅ、くちゅと自分の股間から水音が上がる。心で何を考えていようとも、男の指技は巧みだった。私の身体は施術に正常に反応し、『ほと』から蜜を滴らせていた。
それが、恥ずかしくて……でも、気持ちいい。
どんどん気持ちよさが膨れ上がり、やがて恥ずかしさすらも呑み込んでいく。冷たかった布団の感触も気にならなくなり、まるで暖かな日差しの中を宙に浮かんでいるように身体から力が抜けていく。
「あっ、あっ、あああーっ♥」
顔を覆う手のひらの間で、私の口はもう声を上げることを我慢できていない。男を求めているとしか言いようのない、あられもない善がり声が、部屋中どころか外にまで響くほどの声量で発されている。
そんな状態だというのに、抵抗はおろか両手の位置を変える事さえできなかった。いつの間にか、快楽に集中する事しかできずに身体中指一本動かすことができなくなっていた。ただただ、粘度を増していく股間の感覚に、全神経を集中してしまう。
どれほど続いただろうか。私はもう、光のただなかに浮遊している感覚しかなくなっていた。目隠しをしているはずなのに、自分がどんな体勢をしているのか分からない。
檻から放たれたような……重荷を下ろしたような……すがすがしい、晴れやかな気分だった。
そして、目が覚めた。
たっぷり十秒は、天井を見つめていた。
上半身を起こす。どうやら寝る前とは違う布団に敷かれ、下半身の服も着ている。
意識を失う前に感じた晴れやかさが、心に残っていた。
「あっ……」
胸のつかえがとれたと感じた瞬間、姉の死から堪えていた涙が、とめどなくあふれ出していた。
誰も来ない部屋の中で、止まるまで延々と涙を流し続けた。
十分ほどそうして、傍にあった桶と手ぬぐいで顔を洗って涙の痕を部屋の姿見で確認し、部屋を出る。先ほど……寝る前だからいつか分からないが……男と話した部屋と同じようだった。誰も居ないのでそのまま廊下にでると、声をかけられた。
「おはようございます」
びくんと身体を震えさせてしまった。羞恥に顔を赤くしながら咳払いして返事をする。
「……おはようございます」
「施術の効果は、でたようですね」
何でもない事のように笑う男が、ひどく腹立たしかった。
(私はあんなにも凄い思いをしたのに)
なんだかとても不公平だと思った。あんな……あんな……
深く考えるとまずいことのような気がして、やめておいた。
「はい、おかげさまで。えっと、ここって料金とかは?」
「鬼殺隊の運営ですので、お代などは必要ありません。これからどうなさいますか? しばらくここに泊まって施術を受ける方もいますし、調子が悪くなったら都度ここに通う方もおられます」
はっきり言って、あんな体験はもう二度と御免だと思った。けれど、施術で調子を取り戻したのは紛れもない事実なので、あくまでも社交辞令のつもりでこう言った。
「では後者で。失礼します」
自分の股間を思う様まさぐった男と対面していると、否応なく心臓が早鐘をうつ。一刻も早く帰りたかった。
「お待ちください。通いを選択されるのであれば、これを」
男は紙束を差し出した。施設を利用する申請書だった。
「これを鎹鴉で送れば、誰にも知られずに予約ができるようになっております」
「はいわかりました。では失礼しますね」
姉のように、姉のように。柔らかく、優しい笑顔を。それだけを意識して受け答えをし、屋敷を辞した。
(ああ、そう言えば、この所意識してもいませんでしたね……)
そんな事をようやく考えられるようになったのは、この男の御陰だと、感謝したいようなしたくないような、感じたことのない複雑な気持ちを抱いて、私は帰って行った。
研究は、予想以上に捗った。
藤の花だ。元々鬼に効くことは周知だったが、例えば手折ってしまうと意味は無い。それで良いのならば鬼殺隊は藤の花育て隊にでもなっていただろう。そもそも藤の花の何が要因なのかも明確ではなかった。それを解き明かす端緒を、私は掴んだ。
しかし、そこでまた行き詰った。鬼に効く成分を抽出は出来たが、保存性も効力もまるで実用に足りなかった。
私はまた、自分の非力に打ちのめされていた。
「しのぶさん、最近顔色が悪いですよ」
また言われた。前はどうして言われたのだったか。
「そうだ。アレを……アレをやりましょう」
一度やったのだ。効果も保証されている。だから、大丈夫。
そうと決まると、とたんに股間が疼き始めた。あまりのはしたなさに、独り部屋で赤面してしまった。
「胡蝶しのぶさん、お久しぶりです。今日は如何いたしますか」
男は前見た時と変わらず、にこやかに出迎えてくれた。
「その。ま、前より効果のある施術を、お願いできますか」
屋敷の部屋に腰を下ろすと、前回の記憶が鮮やかに思い起こされた。既に股間を湿らせているのを悟られているのではないかと気が気でない。
既に一度受けている事も相まって、どうせならと最大の効果を得ようとしていた。
「効果と言う意味では、最初に申し上げました通り、互いに裸になり男女の交接を行うという事になりますが」
男女の、交接。
さすがに意味は知っている。鬼殺隊の仕事で、遊郭に潜む鬼を切った事もある。棒のような男性器を、女性器に突き刺して、出し入れして。
(指よりよほど太い、男性器を……)
指でもあんなことになってしまったのに、そんな事をしたら、きっと私は壊れてしまう。
「心から受け入れなければ、施術の効果も上がりませんし……段階を踏むことをお勧めします」
嘘か実か、男はそんな提案をしてきた。どちらにせよ、私が小娘のように怯えているのを見抜かれたのだろう。何度となく思い知らされる未熟さに嫌になりながら、結局その提案に乗った。
「では、服をすべて脱いでください」
またも同じ部屋で、私は一人全裸になった。自分の身体の震えは、寒さか、嫌悪か、あるいは……
「ど……どうぞ」
裏返りそうな声を全集中の呼吸で律し、男を招き入れる。
性器を触らせるため。そう思うと心の臓が破裂しそうに恥ずかしい。
同時に感じる甘やかな期待は、部屋に焚かれた香がもたらしたものだと、そう言い聞かせた。
「では、仰向けに寝そべってください」
何でもない事のように、男の前で全裸の身体を横たえる。
既に乳首は勃起し、股間も湿っている。そんな自分の身体を見られていると思うと、気絶しそうに恥ずかしい。
「施術を開始します。身体を楽にしてください」
膝をそっと掴まれ、股を開かされる。くち、と水音がした気がして、耐え切れずぎゅっと目をつむった。
男は何も言わず、股間に何か近づいてくる気配を感じる。
「ひゃうっ!?」
熱くて湿ったものが股間を這い、驚きに生娘そのものの声を上げてしまった。ちらりと目を開けて見ると、なんと男は自分の股間に顔をうずめ、舌でほとを舐め上げている。
信じられないほどに卑猥な光景に、目を奪われた。
ちゅ、くちゅ、と唇でさねを吸い、ぬらぬらと舌が股間を這いまわるたび、前回を凌駕するほどの快楽が背筋に這い上る。
「そ、そんなっ、ことっ♥ あ、あなた恥ずかしくっ♥ ないんですっ♥ かあっ♥」
頭が爆発してしまいそうな程の羞恥と激しすぎる快楽に、混乱の渦に叩き込まれ、つい男に声をかけてしまった。
男はちゅるっと私がほとから滴らせた蜜を(信じられないことに)飲み込み、顔をあげて返事をする。
「粘膜同士が接触したほうが都合がよい事は、既に申し上げた通りです。指より舌、舌より男性器のほうがより深く干渉する事が出来ます」
そう言いながらも、さねやほとを弄る指は止まらない。前回感じたような快楽が、身体の深い所にじっとりと溜まっていくのを否応なく感じ、期待と不安で胸がいっぱいになってしまう。
「わ、わかった、分かりましたから♥ もう黙って、続けて……♥」
ただの施術。ただの仕事。そう割り切らねば、自分の『女』を狂おしいほどに引き出してくる相手の事を同じ人間、男だと意識してしまえば、何か取り返しのつかない事になりそうで強引に会話を切り上げた。
そして、再開と共に男の手が胸に延びてくる。膨らみかけの乳房にピンと勃起した乳首を繊細な手つきでこね回し、股間とはまた違った快楽を感じた。
(だめ……覚えちゃう……♥ 乳首も、さねも、ほとも……♥ みんな違って、みんな凄いの、覚えちゃう……♥)
まるで極彩色の絵画のように、舌で舐られ、手指でもみほぐされて感じる快楽が部位ごとに色とりどりに頭の中で輝きを放つ。
「あ──っ♥ ああ────っ♥」
両手をあげて枕を掴み、いつしか自分から限界まで股を開いて男を受け入れていた。
(もう、だめ。本当に、気持ちいいの……♥)
ぽろぽろと、男を拒む心が崩れ落ちていく。
──心から受け入れなければ、施術の効果も上がりませんし……
(だからこれは、正しい事……)
するりと、その本音が心に染み入ってくる。それを受け入れると、胸を股間を這う男の感触が、より明確に感じられ、前回のように自分の身体の感覚は希薄になり、心の中が光に満ちていく。
(ああ……来た……この感覚……)
もう自分が、現実でどんな声を上げているかも分からない。ただただ光の海に揺蕩い、心が解放されていくのに身を任せていた。
「ん────っ!」
そして、目を覚ます。着込んだ服はあの人が着せてくれたのかしら、と、どうでもいい事を考えた。
頭の中のモヤが晴れたような、極めて爽快な目覚めだった。
「おはようございます」
廊下に出ると、にっこりと姉のように柔らかな笑みを浮かべて男に挨拶をする。
「おはようございます。朝食は取られますか?」
どうやら、自分は朝まで寝ていたらしい。くぅと腹の虫が鳴った。
「はい、頂きます」
少しの気恥ずかしさはあったが食欲に逆らわず、頂く事にした。
朝食は男と差し向いで食べることとなった。
とりとめのない話をした。自己紹介のつもりなのか、男の身の上話だ。……自分と似たような経歴で、鬼殺隊に入った男は、呼吸は出来ても剣士としての才は無く、隠に所属しようとしていた時、お館様からこの施設の設立を提案されたという。
彼は、施設の設立にあたり特殊な外科手術を受け、まぐわっても子供の出来ない身体にしているという。鬼殺隊に貢献するために、若くしてそんな重い決断をしたことを、素直に尊敬した。
つられて、自分もまた鬼を殺すために毒を研究していること、その手段の一つとして身体に毒を仕込み、子を成せない身体になるであろうことを語っていた。
思えば、両親を殺された時もそうだった。姉と共に孤独な復讐を決意して、しかし鬼殺隊という集団に出会い、育ててもらった。今また、自分は孤独だと勘違いするところを、道は違えど同じ志を持った人が隣に居ることを教わった。
自然と親近感が湧いてくる。それと同時に、勇気も。
(後方支援をしてくれているこの人たちのためにも、研究を進めないと)
曇りなくそう思えるのも、施術の御陰だ。ようやく、そのことを認められるようになったのだった。
そして、それからは一月に一度は施設を利用するようになった。
「んおっ♥ おお────っ♥」
尻を高々と上げ、自分で性器を広げる。彼……八房さんは膣穴を舌でほじり、さねをくすぐりながら尻穴に指を三本入れて出し入れし、私を責め抜いていた。額に跡が残るほど強く枕に顔を押し付けながら、その快楽を身体中で受け止める。
「いくっ、いくう────っ♥」
絶頂。それを宣言する事で彼の指も合わせて激しくなり、意識を保つことが難しいほどの快楽が迸った。
「は────っ♥ は────っ♥」
「お疲れさまでした。ここまでにしましょう」
激しい絶頂に指一本動かせず、ぱっくりと性器と肛門を見せびらかした体勢のままの私に、彼が声をかけ、部屋を出ていく。お湯の入った桶と手ぬぐいで後始末をしてくれるのだ。もう慣れたが、その手つきがまた気持ちよく……赤子か老人のようにされるがままになるのは別の種類の気恥ずかしさがある。
事が終わると、彼とおしゃべりをする。
「貴方も鬼殺隊で、刀も振るえるのでしょう? 鍛錬はどうしているのですか?」
日の当たる縁側で、隣に腰を下ろしながら二人で居ると、心が安らぐのを感じていた。
「いやあ、私は剣士としてはどうにも。こうして、しのぶさんのような有望な方を支援している方がよほど役に立ちますから」
苦笑する彼を見ていると、なぜだか胸が切なくなる。見て居られない。いや、ずっと見て居たいような……
「むう……でも鍛錬はやるべきです。この後、時間はありますか?」
「え? ええ、まあ」
「じゃあ手合わせしましょう」
その日は日暮れまで二人で剣を交えた。
その後何回か、こんなことを繰り返した。
頻度が増えてくると、施設利用の希望の返信が遅くなることがあり、今か今かとやきもきしてしまう。
順調だった研究は、しかしいつしか伸び悩み始め……焦燥が募る周期も、短くなっていった。
いいや、そうではない。研究が行き詰まり、心の調子が崩れたという名分があれば、彼に会えると……そんな事を考えてしまっていた。
(私……何してるの)
我に返った。
己の愚かさが呪わしい。これは……こんなのは……
(好きに、なっているの?)
男に抱かれ、会いに行くことに幸せを見出し、大願を疎かにする。
これでは、いつか言われた通りではないか。
(ああ、これが……普通の、幸せ。女の、幸せ)
それはいつの間にか、自分の心を侵していた。僅かに残った鬼を恨む心すらも薄れさせていた。
何より、そんな自分に変わりつつあった事に、今まで気付いていなかったことに、怖れを抱いた。
それなのに。
(そう思っているのに、彼に……会いたい)
認めたくない現実だが……自分は、あの男に、顔を合わせれば性器を舐められてばかりの男に、恋焦がれていた。
(研究を……進めなきゃ)
もはや本末は逆転し、男に会う名分のために鬼を殺す毒を作ろうとしていた。
「……お願いが、あります」
そして次の施術の時、ついに決意をした。
手加減抜きに……男女の交接を伴う施術を、希望したのだ。勿論自分は処女なので、彼に捧げる事になる。
「承知しました」
そしてそれを告げても、彼は特に動じずに受け入れた。本当に良いのかと、聞き返して貰いたがっていた自分を見つけ、恥じた。
(情が通じ合ったつもりだったのね。なんて、おこがましい)
施術の後に食事を共にし、身の上を語り合い、縁側で寄り添って座って手のひらを重ね、剣の修練や走り込みなどを共に行ってきた。
友人か、それ以上の関係のつもりになっていた。
顔から火が出るほどに恥ずかしい。自分はただの施設利用者なのに。
(考えてみれば、ここはそういう施設で、私以外にも沢山利用者が居て……予約待ちになる事だって、あったじゃないの)
そうではないのだと、己に証明する。そのために、恋人ではないこの男に、愛ではなく、鬼を殺すため体の調子を整える施術のために、処女を捧げる。
二度と、恋心などという勘違いに迷わぬために。
捨てたつもりの自分の『女』が心の底から湧き上がってくる都度、ここに『排泄』しに来るために。
もう、着替えに部屋を出てもらう必要はない。ごそごそと彼の前で脱衣し、彼も服を脱ぐ。
挿入はしていないが、それでも幾度となく肌を重ねてきた。初めて抱かれてからもう一年が経つだろうか、自分の身体も望まぬ丸みを帯び、揉まれるたびに胸も膨らんできた。刀を振るに邪魔にならぬかと、彼はこういうのは好みだろうかと、頭を悩ませた。
全裸の男女が、立ったまま近づき、言葉もなく接吻を交わした。口内の粘膜を舐りつくすような彼の技に酔いしれながら、自分からも彼の口内を舐めまわす。
「んっ、ふ……♥」
胸と股間に手が伸び、私の好きな動きで刺激されると甘い声が漏れ出てしまう。ぬちゃ、ぬちゃ、とほどなく水音が響き渡るようになると、彼は口を離した。
「布団に寝そべってください」
耳元でささやくその言葉が、優しく甘い声色だと感じるのは、きっと気のせいだ。
言われた通り……いいやそれ以上に、仰向けに、自ら股を開いて寝そべった。
「……しのぶさん。私は、この施設を利用するすべての女性を、愛おしく思っています」
顔を覗き込まれ、肉槍が私の入り口に押し当てられた状態で、彼はそんな事を言った。
「酷い睦言も、あったものですね。私は別になんとも思っていませんから、好きにしていいですよ」
こんな薄っぺらい文言に、ひどく心がざわついてしまう。
「だから……必要以上に、自分を傷つけないでください。私から言えるのは、それくらいです」
「……私は」
何を言おうとしたのか自分でも分からない。けれど、言葉は彼の口にふさがれた。
そして、熱い感触が私を貫いた。
「ん──っ!」
聞きかじった通り、破瓜の瞬間は肉を切られる苦痛を伴ったが……それは一瞬の事だった。ずぶずぶと彼の身体が侵入してくる感触は、私に深い満足をもたらした。
全裸で抱き合い、性器でつながって。感じたことのない幸せが湧き上がってくる。
(気持ちいい……♥)
抱かれている間だけは、言葉を交わさない間だけは……何もかもを受け入れ、この気持ちに浸っていたい。
しばらく経って、彼が動き出す。
ずり、とほんの少し腰を引くだけで、私の中の肉ヒダが引きずられ、凄まじい刺激をもたらしてくる。今までの経験が児戯に思える位、身体の深い所に届く重い快楽。それが、腰を振るたびに断続的にやってくる。
「んっ! んむぅ────っ♥」
胎の中を、かき回される。鼻で全集中の呼吸をし、意識を研ぎ澄ましてそれをすべて受け止める。まるで自分の全身が穴になってしまったように、私はその快楽に支配された。
彼の技、『閨の呼吸』とはそうしたものだ。彼に自分の身体の一切を任せ、操ってもらう。心の臓の拍動すらも、私が許せば彼の思い通りになる。それをもって体と心の調子を取り戻す。
私からすれば、気持ちよく男女のまぐわいをしているのと見分けがつかない。……いいや、多分普通の男が相手ではこうまで快楽に浸れはしないだろうとは思うのだが、彼以外に身体を許したことは無いから分からないというべきか。
ばふっ、ばふっ、ばふっ。
彼と私の下腹が打ち付けあい空気を震わせる、間抜けな音を聞きながら……いつの間にか、頭のどこか冷静な部分が、枕元にしゃがんだ視点で、汗だくになって男に抱かれる自分を見下ろしていた。
「んぐぅ────っ♥」
彼に抱かれる私は、接吻されながら、うっとりとまなじりを下げて微笑んでいるかのようだった。
これまで、いつの間にか見透かされていたと感じることもあったが……これでは当たり前だ。見ればわかるほどに、恋する女の貌をしていた。自分の情けなさに深いため息をつく。
──はあ、本当に修行が足りませんねえ。どうなんです? そんなに気持ちいいんですか?
(気持ち、いい……♥ すごい……♥)
私の脚は彼の腰に絡み、手は彼の背中に縋りつき、どう見ても合意の上での性交としか見えない。あまつさえ、腰に絡んだ脚を支えにして、自分から腰を振っている始末だ。
「ふう────っ♥ ふう────っ♥」
殆ど白目を剥いて、とんでもなく鼻息を荒くしている自分に顔をしかめる。
──なんて無様なんでしょう。ほら、もう限界なんでしょう? さっさとイきなさい。
「ふっぐ……んんん────っ♥」
息もできないほどの激しい絶頂と共に、枕元に立っていた自分も光の中へ消えていく。
こうして、私の初めてのまぐわいは終わった。
「……今日はこれで、お暇します」
「分かりました。またお会いしましょう」
ぬかるんでいた地面が踏み固められたように、冷静にその言葉を紡ぐことができて、内心は安堵していた。
こうして、私は初恋を自ら終わらせ、研究に元通り打ち込み始めた……と言っても、今までの事が無かったことになるわけでもない。月のものが明けるたび、私の『女』は容赦なく湧き上がり、疼いた。その度に彼に抱かれ、さらに数年。淡々と研究を積み重ね、ついに鬼を殺す毒をものにした私は、柱にまで上り詰めていた。
同じ女性の恋柱には、正直思う所がある。彼女のような才が、私も欲しかったと。喜怒哀楽をはっきりと表現する彼女は、多分男を知らない。それが分かってしまう程度には、人に言えない経験を重ねていた。
隊服も、彼女は特注の露出度が高いものを着ている。私にも同じ意匠のものを渡されたことがあり、腹立たしさからその場で油をかけて燃やしてしまった。そう、彼に抱かれ続け、私の身体はますます女らしく胸が膨らみ、腰がくびれていた。がっしりとした肩や腹の筋肉が欲しかったのに。
「……今日はこんなの、どうです?」
燃やした隊服と同じ、露出度の高い恰好で、彼……帯陽さんの前でくるりと回ってみせる。
今更知ったのだが、施設の利用は一回一日。つまり二十四時間だ。その為今では、夜の零時に到着してめいっぱい彼とまぐわっている。彼を目の前にしたときだけ心を浮き立たせることを許した私は、遊女のようにはしたない恰好で自ら誘った。
「似合ってますよ。白くて大きい胸に、目を奪われてしまいます」
何気ない褒め言葉に心をくすぐられ、胸を高鳴らせながら彼に脱がされるままにする。普段は煩わしい大きな胸も、今だけは誇らしい。勃起した乳首を吸われ、鼻にかかった声を上げた。
「ああんっ♥」
わざとらしいくらいに甘い、私を犯してくださいという合図。過たず汲み取られたその意思は、着衣のまま布団に押し倒すという形で果たされた。
濡れそぼって部屋に焚かれた香に負けない位に雌の匂いをさせている私の股間に、するりと彼の性器が押し入ってくる。
「あうっ♥」
パン、パン、私の無駄に大きい尻と彼の下腹部がうち合わさり、性交の音が部屋に響く。
「あっ、あっ♥」
冷静な私が、呆れたように枕元から覗きこんでいるのを感じながら、いつものように夢中になってまぐわった。
今の私にとっては、この程度は前菜に過ぎない。じゅぶっ、じゅぶっ、と水音がいよいよ下品に湿ってくると、彼は私の上着をはだけ、大きな胸がこぼれ出た。それを、両脇から寄せあげるように手でつかむ。
(ああ、きちゃう、いつもの……♥)
──あなた好きですよね、その動き。飽きもせず、よくやるものです。
たわわに育ってしまった胸を寄せられ、両の乳首を吸われ、転がされながら膣奥を肉棒でえぐられる……その動きが、彼と私のたどり着いた最高の施術だった。もう、これをしないとここに来た気がしないと言うくらいに毎度せがんで、半日くらいはこれだけに没頭している。
鬼を殺すために培った全集中の呼吸で得た体力を使って、こんなことをしている。それが恥ずかしくて、だからこそ気持ちいい。そんな自分の心に、今だけは素直になる。
「きてっ♥ いつものしてぇ♥」
媚の塊のような、甘ったるく粘つく声音。冷静な自分が眉をしかめるほどに嫌らしく、男の勃起を煽るための掛け声。
じゅるっ、じゅるっ。
彼が両の乳首をいっぺんに口に含み、独特の腰遣いを始めると、頭の冷静な部分など消し飛ぶ。枕元にしゃがんでいた『正常』な自分は消え、ひたすらに性交の事だけが頭を占める。
「んおおおおおおっ♥ おおおおおおおうっ♥」
腹の底から、ケダモノのように泣き叫ぶ、これが蟲柱……胡蝶しのぶの、ただ一人の男にだけ見せるむき出しの『女』の部分だった。
「しのぶさん、鎹鴉が来ましたよ」
蝶屋敷に住まうアオイが、空を指さす。
「……何かいい知らせなんですか?」
「あら、そう思う?」
「ええ。だってしのぶさん、月に一度位そうやって笑顔になりますもん」
「うふふ。そうね。実は……」
「実は?」
「月に一度は、お仕事の帰りに美味しいぜんざいを食べているのよ」
「羨ましいです……」
ささやかな嘘をついて、今日も彼に会い、自分の中の女を置いてくる。