クラブで出会った赤髪のラテラーノ人と一夜限りのセックスをして名前も知らずにサヨナラする話 作:オリスケ
原作:アークナイツ
タグ:R-18 アークナイツ 明日方舟 エクシア イチャラブ フェラ モブお兄さん
天災と鉱石病が蔓延する過酷な環境で全員が人として自立しているアクナイ世界は貞操観念が緩くて肉体関係を持つハードルが低かったりするとオサレでいいよね、という妄想です。
この世界では、人間の嫌なところばかりが目に付く。
一生かけたって埋まらない格差。実際の壁よりよほど分厚い隔絶……そういう非情のものが、高いビルの隙間を縫うようにしてあちこちに産まれている。
ろくでもないものばっかりだ。いつだって人は奪い、誰かを虐げなくては満足な生活を遅れない。社会とはそういう前提の上にできている。
龍門でも、他の移動都市でも変わらない。天災の濁った雲が天を覆い不治の病が社会に蔓延するよりもっと前から、ヒトは互いにいがみ合い、醜く争い蹴落としあってばかりだ。だいたい十年ほど前にその事実に気付いてしまった俺は、以来溜息と一緒にしか言葉を喋れなくなってしまった。
縁あって、俺はいくつかの移動都市を点々としてきた。天災トランスポーターほどではないが、他の奴と比べれば多くの生き抜く知恵と知識を持っている。体験として培ったそれらを駆使して命を繋ぎ、仕事を得て、上手いことこの社会で生きている。
俺の知見から言って、どの移動都市でも変わらないものが二つある。
ヒトのろくでもなさと、ろくでもないヒトが求める物だ。
夢も希望もないこの社会において、将来を語れるヒトはごく少数だ。
明日の食い扶持を探し、服を買う金もなく襤褸を使い潰すような奴等は、未来を見るよりも忘れる事を願い、酒と享楽に手を付ける。
例え内戦で毎夜火が点くような移動都市においても、バーとダンスクラブだけはいつだって繁盛していた。マトモな人間がマトモに生きるには、この社会は苦しすぎるのだ。
そんなヒトの鬱憤を散らす馬鹿の掃き溜めみたいなナイトクラブに、俺はいた。
天災の止まないこの世界では有り得ないほど高度に発展した龍門は、夜の喧噪もまたレベルが違う。そのへんのコンサートホールよりも大きいハコの中に、千人は固い人数が集まって音に身を任せている。眩いネオンは今まで見たどれよりも眩しくギラついていて、会場のボルテージを暴力的な勢いで引き上げている。
耳栓をしていなければ鼓膜が破れるほどの大音量が内臓を揺さぶってくる。ステージに立つDJがターンテーブルを回し、曲は目まぐるしく変わる。流行りのポップソング、こじゃれた炎国ビート、殴りつけるような勢いのハードロック。客は踊れれば何でもいいとばかりに頭を振り、矢鱈目鱈に身体を揺らしている。
「……」
けれど、やはり、ここも変わらない。
喧噪で満たされた空間には人々の鬱憤が満ちていた。音に身を任せて踊る様には、何か悪夢を振り払うような必死さを感じる。ステージから離れた暗がりでは数人のヒトが身を寄せ合って、小さな小袋を受け渡している。このクラブの規模であれば、違法薬物を取り扱うディーラーも片手の指より多い人数が紛れている事だろう。
隠しきれない息苦しさが充満した、薄暗く淀んだ空気。ナイトクラブに来た目的は、これを味わうためだった。龍門もまた、他の移動都市と同じろくでもない社会なのだと肌で感じるためだ。
クラブの隅のバーで、背中越しに光と音楽と歓声を浴びる事小一時間。そろそろ帰ろうかと身を捩った時だった。
俺のすぐ隣のテーブルカウンターに、白く小さな手が乗った。何かを考える前に、ソイツがずいっと身を乗り出し、カウンターに向け手を挙げる。
「ヘイ、マスター! ドラゴンブレスをウォッカ多めで二つ。隣のフォルテのお兄さんの驕りでっ」
余りに自然な調子で、そんな事を言う。バーカウンターに座っているのは俺一人。つまり、お兄さんとはどうやら俺の事らしい。
予想外の自体に固まっていると、ソイツが振り返り、悪戯っぽい笑みを向けてきた。
――率直に、癪に障る笑みだと思った。天真爛漫で、とにかく明るい。俺の経験上、こういう顔をするのは余程の馬鹿か狂人しかおらず、前者の方の雰囲気を肌で感じる。
少女の頭には眩い光の輪が浮いていて、彼女の短くまとめられた、ルビーみたいな深みのある赤髪を照らしだしていた。ラテラーノ人だ、龍門では初めて見る。
いきなり現れた赤髪のラテラーノ人は、さっきの身勝手を詫びる事もせずに言う。
「お酒も飲まずにボーッとしてるだけなんて、ここのマスターに失礼と思わない?」
「勝手に注文するのは俺に失礼と、そうは思わないのか?」
「助け船を出してあげたんだよ。ひとりじゃ注文もできない口下手かと思って」
僅かなやり取りで減らず口だと自己紹介した少女は、カウンターに身を乗り出すようにして、俺の顔を覗き込んでくる。
「お兄さんのそれ、カッコイイね。ファッション? コスプレ? ハロウィンはずいぶん先だよ?」
そういって、少女はピースするように開いた指で、唇の両端をきゅっと持ち上げる。
俺の顔の鼻から下は、無骨な防塵マスクで覆われていた。空気循環用のパイプが前面を覆っており、獅子の牙を彷彿とさせるシルエットを作っている。
荒野を懸ける移動都市に砂嵐は付き物だし、この社会では顔を隠さなければいけない事情には事欠かず、マスクはきょうび珍しい物ではない。なのに何か少女の興味を引いたのか、彼女は更に身を寄せ、俺の顔を覗き込んでくる。くりくりした目は子供みたいで、思わず息を飲んでしまいそうに綺麗だ。陶磁器のように白く艶やかな肌をしているので、頬の赤みがよく映えた。
「……酒臭いぞ、どけ」
「うっそだぁ。そんな無骨なマスク付けて、匂いなんて分かるわけないじゃん」
「酔っ払いに構う暇はない」
「だったらぁ、なーんでクラブに来てるんですかぁー? 冷やかしですかぁー?」
ムカつく語尾の伸ばし方をして、赤髪のラテラーノ人はカウンターに身体をへばり付け、伸ばした手で俺の角を突こうとしてくる。
カウンターテーブルに押し付けられて沈み込む胸や、ぐっと持ち上げたデニムパンツの曲線には、十分に女性らしい膨らみがあった。顔だけ見れば十代と言っても通じそうな童顔だったが、実際は二十歳前後だろう。
美しい少女だった。天使のようという比喩もなまじ冗談ではない。これまで出会った中でも極上の美貌だった。俺の中の下世話な部分がそう勘定を打つ。
「そういうお前はラテラーノ人だろ、どうしてこんなクラブに? ここは天界の使いが来る場所じゃないぞ」
「それは偏見だよ、お兄さん。天使だって火遊びの一つや二つは平気でするし、でろでろに酔っ払って朝まで踊り明かしたい気分の時だってあるの」
「素性も知れない男に面倒くさい絡みをする気分もあるのか?」
「へへ、あったりー」
俺の不精顔が面白くてしょうがないというように、少女は赤ら顔を緩めてへらへら笑う。頭上のリングは蛍光灯もかくやとばかりにピカピカと輝いている。ラテラーノ人のリングは気分によって輝度が変わると聞いた頃がある。彼女は頭がおかしくなるほど酔っ払っているか、でなければ箸が転んでも楽しいような天性のお気楽ということか。この掃き溜めで、随分と羨ましい限りだ。
結局、少女の会話に付き合って注文をキャンセルするタイミングを失い、マスターがカクテルを二杯俺の前に置いた。大袈裟に飛び上がってカクテルに伸ばした少女の手を、俺はぺしっとはたき落とす。
「金」
「なに、本当に一文ナシなの? かわいそう……」
「お前に払う金がないだけだ、勘違いするな」
「えー一杯くらいいいじゃん。こんなにかわいい子と一緒に過ごせるんだよ? お得だと思うけれどな」
「残念ながら、自分の事をかわいいなんて言う奴がマトモだった試しがないんだよ」
「なんだっけ、えっと……つつもたせ? とか警戒してる? やだなーあたしそんな怪しいヤツに見える? ぜんぜんそんなことないってー信じて信じて。信じるものは救われるよ。ラテラーノ人が言うんだから間違いない」
けらけら笑いながら酩酊している人特有の呂律の危うい早口で捲し立てると、少女はぐっと身を乗り出し、自分の頭の眩いリングをぐっと俺に寄せてきた。
「天頂におわして我等を見定めし、この光輪にかけて誓うよ。あたしはただなんとなく、おいしいお酒を飲みながら、キミと楽しい話がしたい気分なだけっ」
「……」
「……ちなみにこの宣誓、ラテラーノではプロポーズの時に使われるくらい、かなり大事なやつだから」
だから何だ、大事な言葉をクラブで軽々しく使うんじゃない――そんな文句が喉の中で大渋滞を起こしたが、結局そのどれも言葉にならなかった。
その理由は一重に、間近で向けられた彼女の笑みに、一瞬でも見惚れてしまったせいだ。彼女の言葉を借りるようで癪だが、酒の一杯二杯でこんな上玉を侍らせられるなら、確かに得と言える。
そんな心中の打算と無意識に弾む胸を悟られたくなくて、俺は鼻を鳴らし、彼女を遮っていた手をどける。彼女はニヤニヤと笑いながら、度数の高い赤いグラスを一気に半分飲み干した。
「マスター、リロード! 同じのもう一杯、用意よろしくっ」
「オイ、コラ」
「固い事言わないでよ。天使には良くしておくと、イイことあるかもしれないよ」
「なんだ、天国にでも連れてってくれるのか?」
「んー? それって言葉通りの天国? それともえっちな下ネタ?」
「……」
赤ら顔の目がニヤニヤと見つめてくるので、俺はマスクの下で、クラブの喧噪の中でも聞こえるような大きな溜息をくれてやる。
ここに来たのは、こんな馬鹿げた会話をするためじゃなかったはずなのだが……俺の憂鬱な気分などまるで意に介さず、赤髪のラテラーノ人は、カクテルの残り半分も勢いよく飲み干す。
「――当ててみせようか」
細くほんのり汗の浮いた喉をごくんと鳴らした少女は、グラスを置くのと一緒に、出し抜けに話を切り出した。
「……何をだ?」
「お兄さんがここに来た理由。正解だったら次のカクテルもアナタ持ち、外れたら……んー、なんかしてあげるよ」
「なんかって何だ」
俺の文句を同意とでも思ったか。一方的にクイズを持ち掛けてきた少女はテーブルに肘を着くと、俺を見て言った。
「ズバリ――お兄さんは今日、とっっても酷い目に遭った」
「……、……」
「それは自分じゃどうしようもないほど理不尽で、死にたくなるほど辛いことだ。このままだと気分がズブズブどん底まで沈んじゃうと思ったお兄さんは、重い足をえっちらおっちら運んでこのクラブに来た。救いを求めて――踊りまくるおバカさんを見て、自分はまだマシなバカだって感じるために」
僅かに、息を飲む。鼓膜を破るほど鳴り響いているクラブミュージックが、ほんの一瞬、意識の外へ吹き飛んでいく。
それはこれまでの彼女のあっけらかんとした様子からすれば、別人のように冷然とした言葉だった。
スッと目を細めてこちらを見る、その深みを増した瞳の赤は、まるで血のように深く沈んでいる。こちらの内面を見透かすような瞳は、天使というよりももっと壮大で残酷な、超越者めいた気迫を感じた。
そんな射竦めるような目で数秒見つめると、彼女はふっと元の酔っ払いの笑顔を取り戻して、俺に聞く。
「どう? 当たり?」
「……いや、ハズレだな」
少女がおやと目を丸くする。端から見ると、俺はそんなに思い詰めているように見えるのか。しかし彼女の答えはハズレだ。なぜなら俺は酷い目になんて遭っていない――"酷い事は、これから起こるのだから"。
しかし少女の言葉は、一つの確信を突いていた。
俺は横目で、ナイトクラブのステージを見る。おおげさに眩しいネオンライト。バカの一つ覚えのように飛び跳ねる客達。身体を揺さぶり、無理矢理にでも気分を高めさせてくる大音量のミュージック。
この赤髪のラテラーノ人は、クラブのバカ筆頭みたいなツラをして、酔いに身を任せ楽しそうに笑っていながら、このナイトクラブを『ろくでもない奴等が集う場所』と認識しているのだ。
少女の事がますます分からなくなる。それと同時に、俺は彼女の深まる謎を楽しいと思い始めていた。いつの間にかマスクの下の俺の口角は上を向いている。
「……ハズレだが、答えは気に入った。次も奢ってやる」
「ほんと? やーりぃっ」
ぱぁっと顔を明るくさせて、少女は目の前に置かれたグラスにさっそく手を付ける。俺も自分の分のカクテルを飲む。ストローをマスクの隙間に差し込む様子がツボに入ったのか、少女が俺を見てひとしきり笑い転げたりした。
笑ったお陰で目尻に浮いた涙を拭い、少女が聞いてくる。
「自暴自棄でもつまんない冷笑でもなければ、お兄さんはどうしてナイトクラブに来たわけ?」
「……確認したかったのさ。龍門も他の街と変わらない、どうしようもない場所だって事をな」
いつの間にか語りたい気分になっていた。俺は度数の高いカクテルで喉を潤し、蕩々と言葉を紡ぐ。
「確かに龍門は、これまで見てきた中で最も大きく、繁栄した移動都市だ。だが内面は何も変わらない。高いオフィスビルが立ち並ぶ影には残飯を漁る浮浪者がいる。高い教育を謳う一方で、聞き覚えた龍門スラングでしか会話できないガキがいる。マネーゲームが上手いだけの奴が私服を肥やし、そいつの豪邸のトイレよりも狭い廃墟に、一家族が押し込められるように暮らしている。感染者スラムに至っては――人間の住む所じゃなかったよ。他の街と同じようにな。上辺だけさも保護しているように見繕っている分、余計にタチが悪いまである。互いの安全のためって謳い文句の後に続くのは、非感染者を守るための隔離以外にはない」
言葉にすれば、どうしても呪詛が籠もる。恨みはもはや血と同じように俺の中を流れている。ラテラーノ人は静かに俺の顔を見つめている。
「社会は搾取で成り立っている。抗いがたい格差で隔てられている。その溝は鉱石病の蔓延により一層深まった。搾取される側の人間に残された救いは――こうして酒と享楽に溺れて、忘れることだけだ」
ステージから向けられる眩しい光はつらい現実から目を逸らさせる。明るいミュージックと度数の強い酒は正気も思考もぼやけさせ、頭の中に蔓延る不安やストレスを吹き飛ばしてくれる。
客は身体を振り回して踊り声を枯らして叫び、今この一瞬に熱中する。そうして彼等は、現実に迫り来る不安や恐怖から目を逸らしているのだ。
辛い事から逃げ出したいのは、本能的な欲求だ。責められるものじゃない。責める奴もいない。
だが、俺はああはなりたくない。目を逸らしていたくはない。
一歩俯瞰し、そう自分を戒めるために、俺はナイトクラブにやってきたのだ。
「こういう場所が、一番人間の隠された欲求が噴出する。龍門もどうしようもない場所だと確認できた。だから俺は――」
話を締めようと彼女を見た、その格好で言葉が止まる。
赤髪のラテラーノ人は、まるでばっちいものでも見たかのように顔をしかめ、両手を胸の前に交差して大きなバツ印を作っていた。
「……何してる」
「ぶっぶーーーー。お兄さんのスタンスはクラブ失格でーーーす。一発退学待ったナシの赤点でーーーす」
舌を出してこちらを挑発する少女の様子は無性にムカつく。美人じゃなかったら殴り飛ばしていただろう。
「お兄さんはバーカウンターで酒も飲まずにぼーっとしている間、そんなつまんない事をずぅぅぅぅっと考えてたの? 暇なの? というかお兄さん絶対モテないでしょ。誕生日プレゼントに現金を渡すタイプだ」
「関係ないだろ。お前だって、ナイトクラブはバカの集まりだと言っていたじゃないか」
「言ったね。けどバカが悪い事だなんて言った覚えはないよ。あたしはここで皆と一緒におばかさんになって、おばかな事をやらかすのが好き。ノーパーティーノーライフ! どんな思い出も、今この一瞬の楽しさには叶わないってね!」
少女はカクテルを身体ごと傾けて一気に飲み干すと、ずいっと俺に顔を近づけてきた。芸術的なほど整った顔と、煌々と輝く頭上のリングが、二つの意味で俺の目を眩ませる。
「では、ニヒルな社会派気取りのお兄さんに、一つ天言を授けましょう――人生優勝したいなら、うだうだ言わずに楽しめ!」
「人生優勝って何だよ」
「言葉の通り。つまるところ人間、何でも楽しんだ奴が勝ちってこと」
少女の上擦った吐息が俺のマスクにかかる。思わず固まっているうちに、少女は俺のカクテルをさっと掠め取ると、それもまた一気に飲み干してしまう。
度数の高い酒を立て続けに一気。喉も焼けるだろうに、少女はぎゅっと目をつむって「はぁーっ」と嬉しそうに歓声を挙げる。この世に仕事終わりの麦酒以上にうまいものはないと思っていたが、どうやら彼女はその上をいくものを知っているらしかった。
「お金持ちも浮浪者も、良いことをしても悪いことをしても、最後はみーんな平等にあの世に招待される。言わば人生はあの世生きの特急列車だ。キミが何を思い何を言おうと、どこで何をしようとも、社会は窓から見る景色みたいにぜんぜんびくともしない。そんな中、このナイトクラブは道中の停留所。誰もが好き勝手にできる場所だ」
「……」
「その道中何回あるかも分からない貴重な場所で、キミは電車に閉じ籠もって黄昏れてる――他の街と同じだから何? せっかくなら沢山買って沢山飲んで食べて、思う存分楽しまなきゃ」
「……」
それは、この社会の苦しみを知らない奴の妄言だ。図抜けた能天気だからこそ言える、夢よりも曖昧模糊な楽観視だ。鉱石病の蔓延したこの世界で生きる事を電車で例えるのならば、そこから弾き出される奴も、轢き殺される奴も星の数ほど存在する。
しかし、どこか底知れない雰囲気のある赤髪の天使の戯言は、どうしてか俺の心を惹き付けた。泥で分厚く塗り固めて閉じた洞窟に、それでもなお差し込む強烈な光を浴びせられた気がした。
赤髪の少女は俺の手を取ると、軽く引っ張った。促されるままに席を立つ。
緩やかな足取りで向かう先は、ドギツいネオンライトが激しく瞬く、人でいっぱいのステージ。
「オイ……」
「いーからいーから。きっと楽しいよ、あたしを信じて」
俺は、いつの間にか熱を持ち始めている身体に我ながら心底呆れ果て、眼前の緩い笑みを浮かべる赤髪のラテラーノ人を見た。
「……なあ」
「んー?」
「正直な所ノリ気にはなっているんだが。さっきあんなに高説を垂れておいて馬鹿になってしまう俺は、あまりにダサすぎじゃないか?」
「ふふ。こーんな美人にここまでお膳立てされて逃げちゃう腰抜けになるよりは、マシなダサさだと思うよ」
余りに明け透けな切り返しに、いよいよ俺は足を止める理由を失った。
音楽と酒の勢いに任せて、少女の手を握り込む。びっくりするほど小さな指が絡まる。いたずらな笑みを浮かべた天使が、今この時を楽しむ人でごった返す喧噪の中に俺を誘う。
思えば、心から楽しいと最後に思ったのはいつだろう。"あの時"から実に数年の間に、怒りも不安もかなぐり捨てて何も考えないでいた事が、ほんの僅かでもあっただろうか。
子供のような、馬鹿のようなそんな楽観は、もうとっくの昔に忘れていた。
今、それを思い出した。
自分の髪に負けないほど顔を真っ赤にした天使が、この瞬間が人生の最高潮だと言うような顔で笑い、はしゃぐ。鈴の鳴るような声が俺の耳を打つのは、それが息のかかるほど近く綺麗だからだ。色取り取りにチラつくネオンで目が眩みそうになっても、彼女の頭上で輝くリングの真っ白な光が、俺の気を惹き付けて放さない。
激しいビートに身を委ね、脳味噌は思考する変わりにメロディに浸らせる。デカい身体を揺らす俺のぎこちないダンスを、天使はからかいながら、つかず離れずの距離でからかいながらエスコートしてくれる。
数年ぶりに、俺は喧噪に身を投げ出した。暗く沈み石のように固くなっていた心が息を吹き返し、温かい鼓動を始めるのを感じる。
比喩でもなく、息を吹き返したような心地だった。
――まさか、このタイミングでこんな感情を得る事ができるとは。俺のような人間が、美人とダンスを踊れるとは。
なるほど、人生の停留所とは良く言った物だ。闇に紛れたここは、誰も咎めない。罪さえも闇と喧噪がもみ消してしまう、最上の自由がここにある。
「……、…………」
ならば、多少欲を張ることの何が悪いだろう。
どうせここ、龍門のナイトクラブが、人生の最後の停留所になるのだから。
「いやっほーぅ! ……うぁー、らー……」
何杯も一気飲みし、派手に踊りまくって、さすがに酔いが回ったか。半刻も経たないうちに少女は足取り覚束なくなる。
フラフラと揺らめく少女の身体を受け止める。ルビーのように赤い髪が汗に濡れて肌に貼り付いている。
クラブミュージックが、落ちついたバラードに変わる。少女は俺の首に手を回し、二人でくるくるとワルツでも踊るように身を揺らす。
「……にへへ」
満ち足りたような笑顔が、俺の目を見てふっと緩んだ。その笑顔が、俺に久しく忘れていた熱い感情を呼び起こさせ、下腹部の辺りを刺激する。
薄暗い欲望を自覚しながら、俺は彼女に言う。
「そんな調子じゃ、家まで帰れねえだろ」
「なに、送ってくれるの?」
「俺がそんな優しい奴に見えるのか?」
つっけんどんに言うと、少女の唇が更に深く吊り上がる。首に回された手に力が入り、更に身体をくっつけてくる。
間近に迫る、少女ではなく女としての、魔性めいた微笑。俺の思惑を全て分かった上で放たれた仕草に、理性のストッパーが一つ破られる。
「行き先は、ちゃんとあたしにふさわしいスイートルームなの?」
「酔っ払いが押し込められる分には、まあまあ上等な部屋だ」
「シャワーは?」
「ある」
「ならいいや、最高。途中で薬局に寄るのを忘れずにね。どうせゴムとか持ってないんでしょ」
友達と明日の予定を決めるような気軽さで、少女が言う。
そのようにして俺は、天使とのセックスを取り付けた。
◇
龍門スラムにほど近い場所、行く宛てもない浮浪者や同じくクラブ帰りの酔っ払いがまばらに彷徨く最中。
ビル壁の落書きでごちゃごちゃした路地の傍にあるビジネスホテルが、今夜の俺の寝床で、逢瀬の舞台だった。
新年祭でもないこの時期は観光客も少なく――もっとも移動都市への観光はそもそも難易度が高いのだが――ホテルも広い部屋を借りる事ができていた。キングサイズのベッドが一つ、冷蔵庫に中型のテレビが付き、床も身を投げ出せるほど広い。
反面、シャワー室は質素なものだった。直方体の、ロッカールームを広げたような狭い部屋だ。フォルテの俺の体格だと、身動ぎするだけで肩が壁にぶつかりそうになる。
そんな風に難儀しながらシャワーを浴びていると、磨り硝子越しに飄々とした声が聞こえてきた。
「ねえねえ、冷蔵庫の中のビール飲んでいい?」
「飲んでいいから、勝手に漁るな」
「なに、えっちな本でも隠してるの?」
「ガキじゃねえんだぞ。大人はもっと見られるとマズいものを持っている」
そう返すと、ちぇーという少女の悪態と、缶のプルタブを開ける音が響いてきた。
実家のようなリラックスぶりだ。さっき出会ったばかりの素性の知れない男の部屋で。これから何が起こるか理解しているだろうに。
これからその態度がどんな風に変わるのかを想像すると、子供のように胸が弾んだ。
「…………」
部屋の広さ以上に、このホテルを借りたのには理由がある。壁が厚く、防音性能が高いからだ。ちょっと暴れて騒いだ程度では隣の部屋に届かない。
仮に悲鳴をあげようと、無駄だ。スラムにほど近いここでは怒号も警察車輌のサイレンもひっきりなしに鳴り響いており、気にする奴はいない。
ここは鳥籠、少女は鳥だ。少女が美しく囀るカナリアになるか、食肉用の雌鶏になるかは、これから先の反応で決まる。
シャワーを止め、バスタオルで雑に水気を拭き取った俺は、タオルを腰に巻き付けてシャワールームを出る。
「遅かったね、待ちくたびれちゃったよ」
少女はキングサイズのベッドの端に腰掛け、深夜のニュース番組を流し見ていた。視線をこちらに寄越した彼女は、缶ビールを傾けた格好で凍り付く。
シャワーを浴びる最中に、顔の下半分を覆うマスクを外していた。完全密閉していた空気の漏れる音は、シャワーに紛れて聞こえなかったはずだ。
少女は初めて、俺の顔を目撃する。マスクの下に隠されていた――鉱石病に侵され、表出した鉱石でずたずたに崩れた俺の口を。
化物と、我ながらそう形容するのが適当な形相だった。大小様々な源石が口腔内に発生し、肉を押し広げ崩し、口元は酷い火傷を負ったみたいなケロイド状になっている。一際大きな源石が下顎を突き破るようにして表出し、牙のような意匠を放っていた。さながら獣か、悪魔のような。
これを見た奴は一人の例外もなく、悲鳴を上げて俺から距離を取る。
そして俺は、悲鳴を上げたそいつが、二度と声を上げられなくなるようにしてやる。これもまた一人の例外もない――例外はない筈だった。
「……何してんの?」
まったく乱れた様子のない、平静そのものの声。
少女はきょとんと首を傾けて、唯一の出口を塞ぐ格好の俺を見る。源石塗れの口元が目に入っているにも関わらず。
その有り得ない無反応に、俺の方が金縛りにあったように固まってしまう。
「ぼーっと突っ立って、どうしたの」
「いや……分かるだろ」
「何が? ぜんぜん分かんないけど? ねー、あたしも汗を流したいだけど、まだ使っちゃダメなの?」
痺れを切らした少女が指さすのは、正体を現した俺ではなく、その後ろにあるシャワールーム。俺が狭い廊下を埋めるように立ち、出口を塞いでいるというのに、それをまるで気にしていない。
用意していた言葉が全部吹き飛んでしまい、俺は身を傾けて、少女に道を譲ってやる。少女は「どーもー」と軽く言うと、さっと脇を抜けてシャワー室へ。手早く服を抜いて全裸になると、磨り硝子の向こうへと消えた。
ビジネスホテルの一室に、シャワーの音と、陽気な鼻歌が響く事十分。
少女が火照った身体を見せた時には、俺は所在なくベッドに腰掛けていた。源石まみれの顔は、マスクを付けて元通り隠している。
少女の格好は扇情的だった。水気を吸って頬に貼り付く赤髪。陶磁器みたいに艶やかな肌はほんのり朱色に染まっていて驚くほど肉感的だ。
細い腰、すらりと伸びた手足。尻や胸には小ぶりながらもしっかりとした膨らみがあって、女性らしい柔らかさを惜しげも無くアピールしている。そんな神が手ずから趣向を凝らしたような抜群のプロポーションを、フェイスタオルを首からかけただけの格好で見せびらかしている。
産毛でほんのり色づいた秘所までがハッキリと見えた。しかし少女は羞恥心をまるで見せず、俺を見て言う。
「あ、マスク着けたんだ。正解だね、そっちの方がミステリアスで格好よく見えるよ」
「……感染者だぞ」
「そうだね。それで?」
聞き返されるなんて思ってもみなかった。俺はつい苦笑し、両手を広げて見せる。
「それで、じゃないだろ。感染者と同じ部屋にいるんだぞ。何か言うことがあるんじゃないか?」
赤毛のラテラーノ人は、俺の質問の意図が本気で分からないらしかった。億劫そうに眉をひそめて、首から懸けていたフェイスタオルで横髪を拭く。綺麗なお椀型をした胸とその尖端の桜色が見えて、否応なしに喉が動いて生唾を呑み込む。
「んー、源石露出箇所は?」
「……脾臓と消化器官だ。外面は口元だけ」
「じゃあマスクは外しちゃダメだね。キスはなし、舐めるのもなし。血中源石密度は?」
「一.八%」
「明日死ぬくらい重篤じゃん、よく生きてるね……じゃあ、ちゃんとゴムは着けないとだ」
手早く俺の病状を確認した少女は、ビニール袋を漁ってコンドームを取り出す。
「ヤる気か?」
「ヤるために連れ込んだんじゃないのさ。もしかして、違う意味で襲おうと思ってた?」
「お前が俺の姿を見て悲鳴を上げるならば、そうするつもりだった」
「うぇー、趣味悪いなぁ。B級ホラー映画じゃないんだからさ。素直にえっちしようよー」
手慣れた様子でコンドームの袋を一つ取り出し、少女が俺の前に立つ。彼女の上気した肌が放つ熱気を身体で感じる。清潔な石鹸の香りと、その中に漂う女性の匂い。
「感染者に嫌悪感はないのか?」
「仕事柄ちょっと縁があってね。危ないし気を付けなきゃいけないとは思うけれど、それ以上は別に何とも」
「感染者とセックスするのも、何とも思わないっていうのか」
「というか、そもそもの話。その感染者かどうかって、今ここでとびっきり気持ちいいえっちしたい~って時に考えなくちゃいけないこと?」
逆に少女が聞き返してくる。
感染者かどうかで、住める場所も交友関係も、生き方そのものも変えられてしまう。鉱石病は考えるかどうかではない、その前提としてあるものだ。
だが解釈を変えれば、鉱石病とは前提であり、今この時にあれこれ考える必要がないとも言える……の、だろうか。少なくとも目の前のサンクタは、そう折り合いを着けているらしかった。
「ナイトクラブで出会った縁もゆかりもない二人が、その場のノリと勢いで意気投合して、ホテルに駆け込んで。お互いの恥ずかしい所も、恥ずかしい声もぜーんぶ見せつけて、動物みたいにお互いを求め合う。それって素敵でイカしてると思わない?」
「……そう、なのか?」
「んっふふ、少なくともお兄さんのソコは、パーティを始めたくてうずうずしてるみたいだけど」
そう言って少女は、俺の股、バスタオルを押し上げてできたテントの尖端をぴんと弾いた。不意打ちのぴりっとした刺激に、腰がひくつく。
どんな高説を垂れようとも無意味だった。目の前に惜しげもなく晒される少女の裸体を前にして、雄の本能はとっくにスイッチを押されていた。
タオルを取っていよいよ全裸になった少女は、心なしかワクワクとした調子で、俺の前に屈み、腰に巻き付けていたタオルをほどいた。
「はーい、ご開帳~……うわでっか。それに引くほどガッチガチじゃん。感染者が~とか言っておいて、ちんちんは素直なんだね」
剥き出しになったいきり立つペニスが、少女の鼻先に突きつけられる。外気に晒された刺激にヒクヒクと震えるペニスに、少女はふぅーっと息を吹き付けて、反応するのを楽しそうに眺めている。
「あたしの手よりおっきいな。このサイズは初めてかも……フォルテの人って、みんなこのぐらいおっきいの?」
「っ……人と比べるような趣味はない」
「そっか。ま、気持ちよくしてくれるならどっちでもいいや。今夜はよろしくね、おちんぽクン?」
ぴんっと指で尖端を弾かれ、刺激に腰が浮き上がる。
少女はけらけらと楽しそうに笑うと、慣れた調子でコンドームを取り出し、尖端を口に咥えた。
「どーもお兄さんは鬱憤溜まってそうだし、ちゃんとサービスして天国に連れてったげるね……あむっ」
おもむろに顔を股ぐらに近づけ、少女が亀頭を咥え込んだ。熱く、ねっとりと柔らかい感触が、張り詰めた先端を包み込む。
「っふ、ぅ……!」
「ほら、暴れない。じっとひて……ん、む、るぅー……」
ゆっくりと頭を落とし、ペニスを口内に呑み込んでいく。丸まったゴムをほどくために唇がもむもむと動き、それが肉竿を柔らかく揉みしだき、しびれるような刺激をもたらしてくる。
可憐な少女の小さな口がもたらす快感は、薄いゴム程度では全く薄れない。いきなりの強烈な刺激に、全身にぐっと力が籠もる。
「へへっ、上手でひょ? 結構、練習したんだぁ……む、んぅー……」
「っなんで、練習なんかしてるんだよ……!」
つい声が上擦る。震える俺の太股に、少女の小さな手が添えられる。反応が楽しいのか、口いっぱいにペニスを頬張った少女は、得意気に目を細めて笑い、竿を咥え込んでいく。勿体ぶるほどゆっくり、唇でもむもむと竿を揉みしだきながら。
手の平よりも長い竿が、先端から徐々にねっとりとした口腔に、にゅくにゅくと飲まれていく。喉の奥の肉に触れたかと思いきや、少女が喉を嚥下し、更にその奥にペニスを誘う。亀頭が喉奥できゅっと締められ、溜まらない快感が迸る。
そうして、ゴムの届く根元近くまで呑み込んだ少女は、最後に唇を窄めて、ペニスの根元にぴったりと吸いつかせた。
「んぐ、ん……じゅ、ぷぅぅ……」
「は、ぁ……!」
柔らかな口内の粘膜と迸る唾液をペニスに絡ませる。温かくとろとろの快感にペニス全部が包まれる刺激に、ぞくぞくとした快感が背筋を駆け巡る。
たっぷりと時間をかけて咥え込んだ少女は、同じようにゆっくり、勿体ぶるように時間をかけてペニスを引き抜いていく。端正な美しい顔から、大きくグロテスクなペニスが露わになっていくのは、感じた事ない興奮として俺の下腹部の熱を高めていく。
ゴムを被せられたペニスは信じられないほどガチガチに固く勃起し、少女の唾液に塗れててらてらと光っている。唾液とフェロモンの混ざった湯気立つような濃密な匂いが互いの鼻を付く。
「もむ、んむ、んぐ、ずるぅぅー……んふ?」
最後に先端を引き抜く直前に、少女が俺を見た。
自分でも分かる。俺は相当に余裕のない顔をしていただろう。突然の刺激に興奮のボルテージが振り切れてしまった俺の呼吸は浅く早く、見開いた目は瞳孔が小さく窄まり、彼女と、ペニスを呑み込む彼女の唇から離れない。
「じゅる、ちゅうう。っぷは……どうしたの? ゴムフェラがそんなに気持いい?」
「……こんなの、されたことない」
「え? ああそっか、感染者のおちんちんなんて普通は舐めたくないもんね……どうする? このままお口で射精しちゃう?」
少女の提案に、俺は素直に頷いた。少女は屈託無い笑顔で「了解」と応じると、俺の身体を押し、ベッドの奥へと移動させる。
枕を背もたれに胡座を掻いた俺の目の前に、少女が寝そべる。肘を立ててリラックスした様子の彼女の鼻先には、ぴんとそそり立った唾液塗れのペニス。その亀頭に口づけし、少女が笑う。
「それじゃあ、まずはあたしの口で……この我ながら天使のように綺麗でちっちゃな唇と、ぷにぷにの舌を使って、お兄さんをとろとろの天国に招待しちゃうよー」
あぇ、と口を開き、赤い舌をちろりと覗かせる。可憐な少女から放たれるその仕草はくらくらするほどいやらしく背徳的で、下手するとこの光景だけで爆発してしまいそうな気がした。
もはや目は離せない。興奮に浮いた俺の視線を一心に受けながら、少女は細い指でペニスを包み込み、顔を寄せる。
「いただきまーす。あーー……ん、ちゅ、くぷ、ちぅ」
少女の唇がペニスに吸いつく。赤く充血した亀頭に、血管の浮いた竿に、天使の唇がキスを捧げる。
「お口にチューしてあげられない分、おちんちんにたっくさんキスしたげる。ちゅ、ちゅぅ、えるぅ、ぷ……」
ペニスに対する抵抗感は全くない。少女はアイスキャンディーでも舐めるように唇を寄せ、吸い付き、肉厚の舌で竿を下から上へとゆっくりねぶり上げる。
口が触れる度に痺れるような快感が背中を駆け抜け、俺の身体をびくんと跳ねさせる。ひっきりなしに痙攣するペニスが跳ね回るも、根元を少女の手にしっかりと抑えられているため逃げられない。
少女は口で愛撫を続けながら、手で竿全体をしごきあげる。細くしなやかな指が肉竿を包み込み、大胆にグラインドして快感を底上げする。コンドームの上から絡みついた唾液は最高の潤滑油になって、にちゅにちゅといういやらしい音を立てて耳からも快感を叩き付けてくる。
「んっふふ、根元を押さえて、先っぽを……えるえるって、舐め回したり……」
「っ……」
「逆に、根元をちゅぱちゅぱしながら……唾液塗れの先っぽを手で掻き回したりしちゃって。ほーら、くちゅくちゅ~」
「ふぅ……!」
「えっへへ、声我慢できない? お兄さん、強面の割にビンカンだね~。ちゅる、ちゅぷ、ぇるぅる」
「ッそっちこそ、天使の癖に何だ、その舌使い……! 堕落しきってんじゃねえか……!」
「パーティーもえっちも、本気で楽しまないとつまらないでしょ。それにあたし、キミみたいな一見強そうな人がヨガるの見るのが、結構ウケて好きなんだよね」
「っこの、堕天使が……あ、くっ」
少女の言葉は誇張ではないらしく、舌使いはますます勢いを上げて、手とのコンビネーションでペニスを責め立ててくる。ねっとりとしたフェラチオに、理性がぐらぐらと揺らぐのが感じられる。
赤い舌をちろちろと見せつけながら竿を舐め、時に頬擦りまでしてみせる。アーモンドみたいにくりくりの目は常に俺の顔を捉えていて、俺の反応を心から楽しんでいる事が明らかだ。この陽気な天使は、自分がどれだけ美人で、どんな仕草が男の情欲をかき立てるかを、完璧に理解しきっていた。
「お兄さんのおちんちん、おっきくてかちかち。カリもぴんと立っててエグい形……あたし的には大当たりだ。今から楽しみ」
「そりゃどうも。お前も、俺には勿体ない上玉だよ」
「どこが好きとかあったら言ってね。サービスしたげる。あむ、はぷっ、ちゅ、ちぅ」
「……なら、咥えてくれ」
「ひょーかい。ふふ、素直に言えて偉い偉い。せっかくなんだから、あたしのフェラを思う存分味わって、とびきり気持ちよくなっちゃおうね」
からかうようにそう言って、少女が俺の要望通り、亀頭をぱっくり咥え込む。
敏感な粘膜全体をねっとりと包まれるのは、やはり極上の快楽だった。薄いコンドームの有る無しなど考えてられない。むしろゴムがなければ、ペニスが溶けてなくなってしまうのではないだろうか。そう怖くなってしまうほどに、気持ちいい。
「ぐぷっ、んむ……あ、そうだ忘れてた。お兄さん、汗の感染リスクはある?」
「っいや、ないが……」
「良かった。それじゃ、あたしの事もよろしく」
そう言って少女は、ペニスに顔を寄せたまま身動ぎし、俺の方へ腰を寄せた。
滑らかな肌。足を閉じる事なく惜しげもなく晒された秘所。細かな説明など不要だった。
俺は少女の腰に手を添える。ペニスを咥えたまま少女が甘い吐息を漏らすのが、亀頭が痺れて気持ちいい。温かくしっとりとした身体は想像の何倍も滑らかな手触りで、いつまでも触れていたいと思える。
豊かに膨らんだ尻の曲線を撫で回していると、少女が催促のように身を捩らせた。求められるまま俺は手を滑らせ、ほんのりと茂った陰毛をかき分け、少女の最も大切な箇所へ触れる。
少女のヴァキナは信じられないくらい熱く柔らかかった。ぴっちりと閉じられた膣の入口に指を押し付けると、沈み込んで膣の入口を開かせる。中指を挿し入れると、少女がびくっと身を捩らせた。
「ん、や……お兄さんの指、ゴツゴツしてっ……!」
「痛いか?」
「ううん、いい感じ。でも優しく扱ってね」
そう言い、少女はフェラチオを再開する。快感がスパイスになってか、舌使いは一層情熱的に、遠慮がなくなっていく。
「あむ、ちゅう、んぷ、ぷじゅる……ん、ひんっ」
「っく、はぁ……!」
柔らかな膣肉を弄っていると、すぐに奥から、ねっとりとした愛液が溢れてきた。それを指に絡め、膣全体に塗りたくって潤滑剤にする。更に愛撫を続けると陰唇がほぐれ、小さな膣穴が口を開いた。
女性が持つ、深い蜜壷。これから犯す事になる最奥。ヒクつく膣穴は、指を挿し入れるときゅっと窄まって、柔肉できゅうきゅうと締めてくる。今からここをペニスで掻き回すのだと考えると、否応なしに気分が昂揚する。
中指を挿し入れ、愛液を掻き出しながら、俺は夢中でペニスを頬張る少女に聞く。
「なあ……実際どうなんだ。俺はお前の何人目の竿役になるんだ?」
「じゅる、ぷ……それ、今聞く必要ある?」
これまた嫌悪感はなくごく自然な調子で、少女はペニスを手でしごきながら、俺の目を見て答える。
「たまたま暇で、えっちしたい気分になった時に、たまたまいいかもって思う男を見つけた。ここでえっちすることに、それ以上の情報がいる?」
「……いいや。ただ、俺がお前をヒイヒイよがらせて、申し訳なく思う奴がいないか気にしただけだ」
「お、言うねえー? 大丈夫だよ、あの人は気にするような質じゃないし、あたしは今気持ちよくなりたい。だから思う存分やっちゃって」
何やら含みのある言い方をして、少女は一瞬、ここではないどこかの誰かに想いを馳せるような仕草を見せた。
遠くラテラーノから龍門に来る時点で、軽くない過去があるのだろう。だが彼女の言うとおり、それは必要のない情報だ。大事なのは、俺が彼女に欲望の丈をぶつけて構わないと言質が取れた事。俺は指を一本追加し、手首も使って膣を掻き回す。
「ぁ、や……ひゃ、ひんっ」
「感染者の溜め込んだ欲望を舐めるなよ。今夜はコンドームの箱が空になるまでヤるからな」
「ん、ぁ、くひぅっ。へへ、いいねえ、乗ってきたね。それじゃああたしも遠慮なく、一発目をどぴゅどぴゅさせちゃおっと。はぷっ、あむっぷ、じゅるるっ」
ボルテージの上がった彼女は、ペニスに吸い付き、音を立てて啜り上げてきた。唇をきゅっと窄めたまま頭を動かし、激しく上下にグラインドさせてくる。舌は竿の裏筋にぴっとりと貼り付き、
遠慮のない、本気の舌使い。ペニスが溶けるような快感がひっきりなしに襲いかかり、たちまちのうちに射精欲が沸き立ってくる。
「えっへへ、ゴムの先っぽにおツユが溜まってきてるよ。もう射精したくてたまんないでしょ? ほら、射精しちゃえ、射精しちゃいなよ。みっともなく呻き声上げて、びゅー、びゅーってさ――あ、ん、ひゃぁっ」
「ッこの、色欲天使が……!」
射精したい。この女の口に、ありったけを吐き出してしまいたい。その欲望を無理矢理押さえつけ、少女の膣を思い切り掻き回す。ビジネスホテルの一室に、唾液を啜り上げる音と愛液と膣肉を掻き回す水音を響かせる。
断続的に襲いかかる快感に、身体がぎゅっと緊張する。熱く火照った血液が全身を駆け巡り、思考を蕩かせていく。
ヴァキナを弄りながら、空いた手を少女の頬に触れさせる。赤髪のラテラーノ人は、俺のペニスを深々と咥え込んだまま、うっとりとした目つきで頬を擦り付けてきた。
――こんな風に身体を触れ合わせるのは、いったいいつ振りだっただろう。
二年か、三年か。鉱石病に発症してからは、満足な寝床も、一人処理できるプライベートすらも失ってしまった。
源石が身体の中を巡るようになってから、早々に諦めて思い出す事さえ忘れていた、雄としての、生命としての本能的な欲求。それが急速に息を吹き返し、満たされていく感覚は、情けないことに涙が出るほど嬉しかった。
全身を緊張させ必死に堪えていた射精欲。それも少女の本気のフェラチオの前には、痩せ我慢以上の意味はなかった。
頬に添えていた手を少女の後頭部に回す。下腹部のマグマがグラグラと沸き立ち、ペニスがぐっと膨らむ。
「っくそ、射精る、で……!」
「いいよ、イっちゃえ。口できゅって包み込んでいてあげるから――んぷ、じゅぷっじゅぷっ、じゅ、るるぅ、じゅううぅぅっ」
根元まで咥え込んだペニス全体を思い切り啜り上げられたのを最後のトリガーにして、俺は快感で痺れるペニスを大きく脈打たせて、下腹部に溜まったマグマのありったけを少女の口に吐き出した。
「んぐっ!? ――んむ、んむ、んーー……」
全身をポンプのように緊縮させて、ペニスから真っ白な精液を迸らせる。
源石に侵された俺の精液は薄いゴムに遮られ、少女を犯す事はできない。けれどゴムの膨らみで射精を知覚した少女は、竿をぱっくり咥え込み舌と粘膜で射精中のペニスを包み込む。びくびくという射精のリズムに合わせて唇をもむもむと動かし、止めどなく続く吐精を促してくれる。その仕草があまりに優しく心地よくて、俺はそれが無駄打ちであることなどすっかり忘れて、思考が真っ白に塗り潰されるような強烈な快楽に身を委ねた。
「っく――は、はぁ――」
「ん、じゅるる、ちゅうう……」
何度も何度も痙攣を繰り返し、長い時間をかけて快感の波が引いていき。
緩やかに頭を上下して射精が終わった事を確認した少女が、ずっと締め付けていた口を緩めた。先端の膨らんだゴムを唇に引っかけ、手を使わずにコンドームを引き抜いていく。
僅かな刺激と一緒にコンドームを引き抜いた少女は、口に残ったゴムを引き抜き「うわ」と声を上げた。
「すっご、めちゃくちゃ大量じゃん。そんなにご無沙汰だったんだ……ともかく、これであたしの勝ちだねっ」
「オイ待て、いつのまに勝負になったんだ」
「だってあたし、まだイってないし。ちなみに文句は無駄だよ。こんなにたっぷり射精しちゃった以上、お兄さんの発言は全部負け犬の遠吠えになっちゃうから」
少女がからかうように笑う。しかしその顔はすっかり熱く上気し、艶やかな肌は汗でしっとりと濡れている。さっきまで俺が掻き回していた膣は、透明な汁を涎のように垂れ流し、ヒクヒクと危うげに痙攣していた。
うっとりと細められた少女の目は、彼女の言う勝負が危うい所での辛勝だった事を言外に語っている。そして、勝負はまだ一回戦が終わったばかり。俺の怒張は、既に休憩を終えて臨戦態勢を取り戻している。
「ちなみにこの勝負、どう決着をつけるんだ?」
「ゴムが尽きるまでにあたしをくったくたにさせられたら、キミの勝ちって事で」
「上等だ、本気で箱が空になるまでヤり倒すぞ」
上を向いた怒張を見せつけて宣言すると、少女は股を開き、自らの秘所を露わにした。
美しいサーモンピンクの粘膜。淫口はご飯を求めるように涎を垂らしヒクヒクと口を開けている。その中には、とろとろにほぐれた肉ヒダがいっぱいに詰まって、固く張り詰めた怒張を今か今かを待ち侘びている。
もう一秒たりとも我慢していられなかった。俺はゴムを手早く装着し、赤黒い亀頭の先端を膣口にあてがう。
自分でも見たことがないほど固く膨れたペニス。奥まで突き込めば、きっと少女の臍の下まで届くだろう。「うわ……」と小声で少女が囁いた。
はぁ、と深く息を吸い込み、少女の形のいいふっくらした胸が上下する。彼女はあてがわれたペニスをマジマジと見つめると、冷や汗一つ、俺に尋ねた。
「……えと、ちなみにあたし、実はもうちょっとでイけそうな危ない状態なんだけど……女の子に優しくするダンディズムを持ち合わせてたりする?」
「お前にはもう、ない」
言い捨て、俺は一息に、少女の膣を貫いた。
濡れそぼった愛液を潤滑油にして、膣肉を無理矢理に押し広げ、かき分ける。ずぐっと音が立つほど一気に、少女の最奥までを抉り抜く。
愛撫で準備万端かに見えた膣肉は、それでも極太のペニスを受け入れるような準備を済ませていなかった。敏感な膣全体を一気に擦られる刺激は、彼女の許容値を容易く越した。
「ふぁ――っあ、はひ、きゅうぅぅぅ!?」
少女の意識が一瞬バチッと途切れたかと思うと、途端に押し寄せてきた快感に押し流され、絶頂した。これまで聞かなかった甘く甲高い声が、ビジネスホテルの一室に木霊する。
膣全体がびくびくと痙攣し、肉ヒダが生き物のように収縮してペニスを搾り上げる。ねっとりと絡みつくその快感に悶えながら、俺は意識を飛ばす少女の細い腰を鷲掴みにする。
「これで、一勝一敗だな」
「ふぁ、あ、やば。ちょ、タンマ。一旦休け――」
「このまま勝ち数を稼がせて貰うぞ」
恨むなら、挑発したお前の調子良さを恨むといい。内心そう溢して、俺は欲望のままに抽送を始めた。
一気に引き抜き、叩き付ける。肉を打つばちゅんっという音に、少女の嬌声が重なった。
「んあっ、ひんっ!? や、あ、いきなり激し――あんっ!?」
さっきまでの余裕は嘘のように消えて、少女は身を投げ出し、ペニスを突き込まれる快感に打ち震える。絶頂の余韻の残る腰が、ひっきりなしに叩き付けられる刺激にガクガクと痙攣している。
「んひ、く、はうぅ……ず、ズルいよ、イったばっかりなのにこんな――あ、あ、は、ひ、ひぅぅっ!」
「ちゃんとイった回数は数えておけよ。決着が付かなかった時の判定に使うからな」
「こんなに激しくやられて、覚えてられる訳な――あ、やだ、イく、イク、イッ――~~~~~ッ!?」
声にならない甲高い声を上げて、少女がまた身を捩らせた。ぷしっと愛液が迸り、俺の下腹部を温かく濡らす。
元より遠慮するつもりはなかったが、そんな事を考える余裕はたちまち消え失せた。
美しいラテラーノ人の少女は、ヴァキナもまた天に昇るような心地よさだった。熱くみっちりと詰まった肉ヒダをかき分ける度に竿全体がずるずると擦れて、腰が抜けるほど気持ちがいい。小さな身体の小さな膣を、フォルテの大きな怒張で押し広げる、その密着感はどう控えめに形容しても最高だった。ペニス全体が満遍なく柔肉に揉みし抱かれ、目一杯口を開いた入口が竿の根元をきゅうきゅうと締め付けてくる。
気を抜くと容易く射精してしまいそうだ。マグマがあっという間に次弾の用意を始める。どれだけ堪えても、数分しか保たないように思えた。
何分も保たず、自分だけだらしなくイくのは御免だ。こんな気持ちいいセックス、感染者の俺はもう一生味わえないだろう。そんな焦燥感さえ滲ませて、俺は少女の腰を鷲掴み、ペニスを叩き付ける。
「あ、あ、あ……いい、気持ちい。こんな凄いの、ほんと久しぶりぃ……! っん、ひんっ、ひゃうんっ」
少女の絶頂の余波を逃さず、更に強烈な快感の波を叩き付ける。ひっきりなしの快感で、ボルテージを極限まで高めていく。少女はその快楽にどっぷりと浸り、仰向けになった身体を悶えさせている。歯を食い縛った口の端からは、我慢することを忘れた涎が首まで伝っている。それを舐めて味わえない事が、ただただ残念でならない。
腰を打ち付けるぱん、ぱんという水音は、ますます激しく、ペースを上げていく。とめどなく溢れる熱い愛液で膣はみるみるほぐれて蕩け、ペニスへの密着感を一層強くしていく。膣内は熱く柔らかくひたひたに濡れていて、ゴム越しでもペニスがふやけて溶けてしまいそうだった。
「んあ! あんっ、あんっ! きもちい――っん、ひゃあぁん!」
「っくそ、天使のくせになんて締め付けしやがる……!」
休む間もなくペニスを叩き付けられ、少女は軽イキを断続的に繰り返していた。膣はひっきりなしに痙攣し、俺の余裕を奪い取っていく。
俺は意識を外れて虚空を泳ぐ少女の手を取り、腰の方に引き寄せた。性器同士の密着率が上がり、奥まで突き込んだ亀頭が、少女の子宮を容赦なく押し上げる。
「っんひ……それっ、それ好きっ。奥をぎゅううって押されるの最高――っふ、ふぅぅ……!」
「っこのまま、奥にぶちこんでやるからなッ」
吼え立て、両手を引っ張って密着感の増した膣に腰を叩き付ける。
更に激しいばちゅばちゅという水音。息つく間もない高速のピストン、フルスロットル。我慢することをやめ、快感によがり狂う彼女と共に、一気に高みまで登り詰める。
焼けた鉄のように固く張り詰めた怒張を欲望に任せて突き込む、獣のようなセックス。そんな乱暴な責めさえも、赤髪の天使は受け入れ、快感へと変えていた。涙混じりによがる嬌声は喜色に満ちあふれ、子宮を抉るほど凶悪なペニスを、膣全体でじゅるじゅると啜り上げて歓迎してくれる。
マスク越しの息苦しささえ快楽に変えて、一心不乱に腰を突き入れる。煮え立つマグマを、爆発の瞬間まで一気に引き上げる。
「ッ射精すぞ、受け止めろよ――!」
「いいよ。きて、きてきて、きてっ。おちんちん押し付けて、あたしのいっちばん奥に、びゅーーってして! っあ、いく、んあっは、ああ――――ッ!」
少女が身体を跳ね上げて大きな絶頂に身を委ねるのと、限界を迎えたペニスがザーメンを放出し始めたのは、ほとんど同時だった。一気に押し寄せてきた視界に星が散るほどの快感に、俺達は二人一緒に打ち震える。
ザーメンを吐き出すペニスの運動と、快感に悶えるヴァキナの痙攣が重なる。どくん、どくん、びくん、びくん――雄と雌の胎動が重なり、一つの大きな快感の波になって、互いの頭を真っ白に染める。
その快楽はあまりに幸せで、強烈で、何秒も経ってやっと射精が終わりペニスを引き抜いた時、尻餅を着いてへたりこんでしまった。
「っああ……ペニスが引っこ抜けるかと思った……ちゃんと付いてるよな……」
思わず、そう呟く。膣肉でじゅるじゅると啜られ続けるのは比喩でもなく溶けそうな快感で、もはや腰から下の感覚が曖昧だ。
ペニスは冗談みたいな量の精液を吐き出して、コンドームの先端が提灯のように膨れている。我ながら笑えてくる大量の雄汁を溜めたゴムを引き抜き、口を縛って適当に放り投げる。
はふ、と溜息が溢れる。風呂にでも入ったような脱力感が一気に押し寄せてきた。セックス中に全身に力を籠めていたようで、血管が押し広げられて全身がぴりぴりと痺れている。
今倒れ込めば、きっとすぐに意識を手放し朝になってしまうだろう。そう確信できるだけの虚脱感。
しかし、今ここで寝入る事は、俺も彼女も許さない。
ベッドに身を擲って絶頂に浸っていた少女は、俺と同じく痺れる身体を起こして、ゆったりとした四つん這いで俺に擦り寄ってきた。
抱き受けると、頭上のリングの眩しさに目が眩むと共に、改めてその体格差に驚かされる。胸にすっぽりと収まるような小さな天使は、俺の胸に頬を擦り付け、胸を押し付け、それから身体を落として、俺の胸に唇を吸い付けた。
「ぇむ、むちゅ……ちぅ」
「ん、く……」
脱力した胸を唇で舐られる、いじらしい刺激。一旦引いた欲望の波が再び揺り起こされる感覚。
乳首の先端を唇でつまみながら、少女は傍らからコンドームを抓むと、まるで勝負をしかけるカード師のような仕草で俺の目の前に翳した。
「ろーひたの? まだまだ弾は残ってるけど……リタイアしちゃう?」
「冗談よせ。ここで打ち止めにしてたまるか」
「にひ、そうこなくちゃ」
少女は心の底から楽しそうに笑うと、俺を押し倒して馬乗りになり、まだまだ元気な怒張にゴムを装着させて、自分からゆったりと腰を沈ませた。
そうして俺と少女は身体を絡ませ続けた。
少女は美しく可憐で、なのに時折驚くほど大人びて妖艶で、何より今この瞬間、俺とのセックスを心から楽しんでいた。彼女の陽気はクラブミュージックのように俺の心に影響を与え、弾ませ、否応なしに昂ぶらせてくる。
気付いた時には、俺はマスクの下の源石塗れの口を吊り上げて笑っていた。楽しみながら少女を犯し、犯され、楽しみながらセックスした。
飽きるはずがなかった。欲望はとめどなく溢れて、獣のように互いを求め合った。夜が更けても嬌声は途切れる事はなかった。
夜が更ける度。身体を重ね絶頂を迎える度。この夢のような心地よさがずっと続けばいいのにと、本気で思ってしまうようになっていた。
「……ひょっとして、俺はもう天国にいるのか」
体面座位の格好で少女の膣を味わいながら、俺はふと脳裏に浮かんだ言葉を呟いていた。
うっとりと快感に浸っていた少女が、きょとんと目を丸くすると、ぷっと吹き出すように笑う。
「なに、感極まっちゃった? 天国じゃこんな事はできないよ」
「なんだ、あの世には性欲は持っていけないのか?」
「さあ、あたしはまだあの世にいったことはないし――ん、ふぅっ」
ぐりぐりと腰を押し付け快感を貪りながら、少女は屈託なく笑った。
「でも――あたしより美人でえっち大好きな天使は、あの世にはいないんじゃないかな」
「……違いない」
「でっしょー? ん、やんっ」
からかうように笑われるので、仕返しにふっくらした胸を揉みしだき、桜色をした乳首を指で弾く。
片手で胸を揉みながら、もう片方の手は少女の尻を掴んで支え、ペニスでぐぷぐぷと膣をかき分けて快感を貪る。すっかり互いの形を覚えた性器は、鍵と錠前のようにスムーズに接合し、快感を与えてくる。
コンドームは先ほど空になった。空はもう白みだしている。これが正真正銘、夢のような時間の最後だった。
「それじゃ、あたしがキミを天国に連れていってあげるよ。最後の思い出に。最っ高に楽しい"今"のおしまいにね」
少女は膣を強く締めて、最後の射精をおねだりする。何度も何度も射精し、受け止め、射精の兆候まで把握されている。
既に体力も限界が近い。ゴムも精液も打ち止めだ。最後に向けて昂ぶり続けているボルテージに、言い知れない虚しさを覚えてしまう。
これほど満ち足りた絶頂は金輪際ないだろう。俺の人生に、今この瞬間以上の幸せは絶対に訪れないだろう。その予感は確信を越え、既に確定した事実として俺の胸を打つ。
俺は目の前、息がかかるほどの距離にある、美しい赤髪の天使を見つめた。絶頂の予感を感じぞくぞくと身を捩らせる彼女の身体を抱き締め、聞く。
「……お前、名前は?」
「それは、いまこの瞬間に必要な情報?」
まるで愛の囁きのように。天使が質問を返す。
ほんのり切ない感情が、納得として俺の腑に落ちた。
「いや、要らないな――悪い、もうイく」
「謝らないでいいよ。いっぱいだして」
囁き、互いを抱き締める。
頭上に輝く純白のリングに照らされた下で、俺は名前も知らない赤髪の天使の膣内に、残った精液のありったけを吐き出した。
「ん、ふ……、っ…………!」
「ん、ぁ、い……っ」
同時に天使も絶頂を迎える。そこには言葉すら必要なかった。細やかな呻き声を上げるだけで、幕引きとなる最後の絶頂を心ゆくまで堪能する。
互いの肌を重ね、何度も脈動し、きゅうきゅうと窄まるヴァキナの快感をペニス全体で感じ入って。
最後の一滴を絞り出した段階で、俺の体力も限界が来た。
途端に押し寄せる強烈な眠気。頭が鉛のように重くなる。
ふらりとよろめいた俺の上体を、赤髪の天使が受け取った。
「……ばいばい。君の道行きに幸福があらんことを」
耳元で囁かれた優しい祝福を最後に、俺は意識を手放す。
変わり果てたあの日から何年も何年も経って。俺はようやく、初めて、自分が感染者であることを忘れて眠りに落ちた。
◇
「……、…………」
窓から差し込む朝日を受けて、俺は目を覚ます。
身動ぎした身体が、湿ってくしゃくしゃになったシーツを握りしめた。朝の冷たい空気に交じって漂ってくる生々しい匂いに、俺は昨夜――というかほんの三時間ほど前――の事を思い出す。
身体はくたくたで、筋肉痛であちこち痛い。寝不足の脳は鉛のように重く淀んでいる。
それでも、心は馬鹿みたいに晴れやかだった。生きていく上でこびり付いていた垢を全部洗い落とされたみたいだった。
一夜を共にした赤髪のラテラーノ人は、もう姿を消していた。空気にほんの少しの甘い香りが残っている。
姿見の前のテーブルに、五千龍門弊減っている俺の財布と、その辺の店で買ってきたらしいホットドッグとミルクが置いてあった。まだほんのり温かいホットドッグの包みの下に、折り畳まれたレシートが敷いてある。
レシートを広げると、ボールペンで走り書きがされていた。
――人生楽しんだもの勝ちだよ! 天使より
雑なスマイルマークと一緒のメッセージに、俺は苦笑する。
「世界全部が、お前みたいに楽観的だったらな……」
つい、そんな言葉を口にしてしまう。
詭弁だ。社会はそんなに都合良くできていないし、きっとあの少女だって、そんな都合の良い生き方ができている訳ではないだろう。
ただ、それでも。昨夜は余りに満ち足りていたから。つい、そんな感傷に浸ってしまう。
俺は少女が買ってくれたミルクを飲み干し、レシートのメッセージをジャケットのポケットに差し入れる。
ポケットの中にメッセージを忘れないようにぽんと叩いた俺の手は、そのまま姿見の下の棚を開く。
下の棚には俺の私物を入れていた。これから使う仕事道具だ。
泥にまみれたホルスター。使い古したナイフ。アーツを用いて起爆する源石爆弾。ペンを幾重にも走らせた作戦記録の残る地図は龍門全体を俯瞰したものだ。
そして、仮面。
無機質なセメント色の表面に洞のような穴を開け、表出した源石をモチーフにした黒いペイントが塗られたそれを被り、俺は世を憂う末期鉱石病患者から、レユニオン・ムーヴメントの一員に成り代わる。
そうだ、何も変わらない。
社会は相変わらずろくでもなくて、俺は感染者――ろくでもない社会から、ろくでなしと銘打たれた存在だ。
たまたま天使に出会って、甘い蜜を味わえただけ。天使と過ごした一夜は信じられないほどに幸せだったからこそ、俺の決意を揺るがし、足を止めるような現実味を有していなかった。
何も変わらない。俺が感染者であることも、感染者が排除されるこの社会も。
世の中を生きて楽しむにはもう、色んなものが変わり果て過ぎたのだ。
人生の終着点は、抗いがたいすぐそばまで迫っていた。自由と安寧を享受するような停留所は、もう一つだって残っていない。
だから俺は――いや、俺達は抵抗する。
死へと向かう護送車に閉じ込められ、外の輝かしい景色とそこで過ごす輝かしい日常に、二度と触れられず、憧れる事さえ許されないのなら。いっそ燃やしてしまおう。
窓を蹴破って飛びだし、火を付けてでも追い出して。例え更地になったとしても、そこを「俺達の場所」だと宣言しよう。奪われた居場所と尊厳と取り戻さんとするレユニオンの思念に、俺は賛同した。
レユニオンは今日、龍門相手に戦いの火蓋を斬る。
組織の六割近くを動員した、本気の戦争だ。各分小隊ごとに龍門内外に設定したポイントを襲撃。龍門市警を混乱に陥れた隙に、本体が龍門中枢を殲滅・占拠。都市機能を掌握する。
成功すれば、テラで初めて感染者の国が手に入る。
成功してもしなくても、今日が俺の命日になるだろう。
分小隊を率いる俺は、多少信頼が於けるリーダーであれ、使い捨ての駒以上の価値を得ていない。
それでもいいと思えた。虐げられ続けた感染者として、理念によって動き、尊厳のために死ぬのなら、これ以上の幸福はない。
多くの感染者がそう考え、レユニオンに志願した。俺もまた、レユニオンの志のために死ぬことを幸福だと考えていた。
――もう戻れない。
レシートに書かれた下手くそなスマイルマークを見ても、占拠した繁華街に龍門市警が訪れて徹底抗戦が始まり、ほんの一メートルの所に落ちた迫撃砲が炸裂し、熱と鉄塊が身体を貫く時になっても、俺は後悔だけは決してしなかった。
◇
「――、どうしたんだ?」
「ちょっと野暮用。すぐ追いつくから、テキサスは先に行ってて!」
朦朧とした意識の中で、弾むような声を聞いた。
辛うじて電気が通る壊れかけの電化製品のように、俺は切れかけの意識を辛うじて繋ぎ止める。
全身がばかみたいに痛かった。迫撃砲の爆発を間近に受けたのだ。衣服が破れて焦げてボロボロで、その下の皮膚もあちこち焼けて爛れているのが分かる。
息をしようとしても、呼吸がうまくいかない。鉛でも呑み込んだみたいに苦しい。
脇腹のあたりに、本来あるべき自分の身体の感覚の代わりに、焼けた鉄を埋め込まれるような激烈な痛みがあった。その他にも、自分の身体として無意識に知覚していた色んなものが、欠けて壊れているのが分かる。生きているのが不思議なほどの重傷。俺の命はもう風前の灯火だった。
朧気な意識を更に奮い立たせて、俺は死神に押さえつけられているみたいに重たい目を開く。
厚い雲で覆われた鼠色の空。砲弾やアーツでボロボロになったビルディングから、割れた窓硝子がパキパキと音を立てて光の雨を降らせている。人や露店が燃え尽きた粉塵混じりの空気には、肉と血の匂いが染み着いていた。
そんな変わり果てた荒涼とした景色の真ん中に、眩しく輝く純白の光。
霞む目を何度も瞬かせて、俺はようやく、それを捉える。
「や、奇遇だね」
赤髪のラテラーノ人が、しゃがみこんで俺を見つめていた。頬を乗せた手に持つサブマシンガンの銃口からは、細い硝煙が漏れている。
今も付近のビルから瓦礫が崩れ落ち、あちこちでサイレンが鳴り響いている。そんな異常事態にも関わらず、少女は能天気な笑みを瀕死の俺に向ける。
「こんな早く再会するなんて、さすがに運命って奴を信じずにはいられないかも」
「……龍門の雇われだったのか、お前」
「んーにゃ? 龍門を愛する、清く正しく親切な一市民だよ。住んでる街が大変な事になりそうだったから、悪者を懲らしめにきただけ」
「っはは、そいつぁ……タチの悪い冗談だ……」
一つ発音する度に喉がざらつき、苦い血の味がこみ上げてくる。息を吸うだけで、ぜぇ、ぜぇと重篤なノイズが走る。そんな俺を、少女はにこやかな顔で眺めている。
「……俺は、死ぬか?」
「死ぬよ。試しに起き上がってみなよ、腰から下がないのが分かると思うからさ」
「俺の、部隊は――」
「全滅。龍門市警が周辺を固めてるから、逃げた奴もじきに掴まるよ」
そう言うと、少女は天を仰ぎ、大袈裟に溜息を一つ。 今朝のトーストを焦がしてしまったような軽い嘯いた口調で、少女は今まさに死のうとしている俺に言う。
「もうさぁ、ほんっと馬鹿なことしたもんだよね。お兄さん結構いい人だったから、残りの人生は楽しく生きなってあたしが助言してあげたのに」
「お前みたいな楽観がまかり通るほど、世の中は都合よくできちゃいな――」
俺の文句は途中で止まる。むっと唇を尖らせた少女が、友達の脇腹を小突くようなノリで、銃口を抉られた傷口に押し込んだからだ。崩れた肉をぐじゅっと押され、焼け付くような痛みが走る。
「ォ、がァァ……ッ!」
「楽観はどっちさ。自棄になって暴動起こして、それで自分たちを認めてもらおうなんて、虫が良すぎると思わない?」
「っぁ、ああそうさ。あまりに都合がいい、ばかばかしい理想論さ……だが感染者は、そんな馬鹿げた理想論以外には、夢を持つ事も叶わないんだ」
少女の眉が持ち上がり、傷口を弄んでいた銃口が離れていく。
俺は痛む肺を必死に動かして、命を繋ぎ、言葉を紡ぐ。
「店に入れず、残飯以外の食事ができない生活が分かるか? 感染者になったその日から、ありふれた日常だったものの全てから締め出される寂しさが分かるか? どいつもこいつも、雑菌や怪物みたいな目で俺達を見る――クソッタレな源石に蝕まれる前は友人で、家族でさえあった人をだ」
「……」
「ああ、いい。分からなくていい。お前みたいなガキが分かる必要はない――ただ俺は、いや俺達は、こんなクソみたいな生活を少しでもよくしたかった。良い人生にしたかったんだ。今よりもマシな幸せを得るためには、戦う以外になかった」
少女は黙って、俺の言葉を聞いている。
その愛嬌たっぷりのルビーの瞳に見つめられると、否応なしにあの時の事を思い出す。本当にクソッタレな人生で、唯一自分が感染者であることを忘れられた夜の事。
「ああ……世の中が全員、お前みたいに能天気だったら……」
「……」
「全員が、感染者に石を投げず、手を取ってダンスに誘ってくれるような奴だったら……俺達だって、こんな風には……っげほ、えっほ、げ……」
こみ上げてきたどす黒い血が、俺の口から溢れて腹に伝う。
もう何が遺言になってもおかしくない。そんな風前の灯火の俺の言葉を、彼女は静かに聞き入り――今度は深く、切なげな色の吐息を溢す。
「……ノーパーティーな人生は、確かに最悪かもね」
「……」
「ね……じゃあ、昨日は楽しかった?」
「……はは……人生で一番、幸せな時間だった」
「ん、そっか」
頷くと、少女はよっこらせと立ち上がった。手にしていたサブマシンガンを検め、残弾数を確認する。
「多分あと十分もすれば、龍門市警がここを検閲しにくるけれど。どうする? もう少し生きてみる?」
「いや、もういい……やってくれ。頼む」
「了解」
弾倉に銃弾を籠め、少女は銃口をまっすぐ俺の眉間に向ける。
霞む目で俺が見上げた最期の光景は、鼠色の空を背景に輝く天使の輪に照らされながら俺を見つめる、赤髪の天使の美しくあどけない顔。
小さな唇をくすりと綻ばせて、少女が笑った。
「――あたしとエッチしたこと、あの世で自慢していいからね」
「上等だ、オナネタにしてあの世でシコり倒してやる」
ぱん、と乾いた銃声が一発。
鈍い衝撃を眉間に感じた次の瞬間、俺を構成するあらゆる意識が砕け散り、闇に溶ける。
こうして俺は、他の馬鹿な感染者と同じように、ゴミのような命を散らせた。
だが――それでも。
名も知らない美しい天使に、二度も天国に連れて行って貰えたのだから――これはきっと、まあまあ最高な人生だったと言えるのだろう。
読んでいただきありがとうございます。
アークナイツのえっち小説もっと増えろやぁ! と日がな思ってるところですがあの世界鉱石病患者とのセックスって普通にアウトだよね? でも社会的に限界ギリギリでいつも生死の境目を生きてるオペレーター達は死生観が達観して刹那的なスポーツセックスとかしてくれるといいな〜っていう妄想を煮詰めたお話でした。
こういう程よくエロくてハードボイルドな作風が似合う気がしますねアークナイツって。
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