タイトルが全て、ワンシチュエーション特化スタイル。
※この作品はフィクションであり、実在の宗教・団体とは何も関わりはありません。
※ノクターンノベルズ、Pixivにも投稿されています。
“今は昔、はるか昔。人々は悪しき魔と契約を交わして都市を築いていました。
塔は天に届くほど高く、街明かりは夜を昼に変えるほど眩く、人々は果てしなく傲慢で欲深いものばかりでした。
やがて人々は悪しき魔の力に踊らされて争いを始め、全ての街は焼け落ちてしまいました。
塔は崩れて灰になり、長い長い夜が続きました。
人々が己の愚かさを悔い、天に祈りを捧げると主はそれに応えられました。
天にまします母なる神はその一人娘を地上に遣わしてくださりました。
母なる神の娘、聖なるマライアはその身を捧げて地上の悪しき魔を封じられ、世に光が戻りました。
神の子は我らの原罪のためにその命を捧げられ、主はその一人子の犠牲を以て我らに愛を示されました。
我々は罪深き人の末裔として聖女マライアを救い主として敬い、我らの罪が故に命を落とされた神の子に祈りを捧げなければならないのです”
聖女マライア信仰——今日における『聖教』の起源はおおよそ千年前に遡るとされる。
その誕生の経緯は多くの伝承のヴェールに覆われており明瞭としない部分が多々あるものの、概ね正典において語られた事例は実際にあったことであると歴史家は語っている。
聖女の死の年を元年とする現在の暦…『聖歴』より以前を先史時代と呼ぶが、この頃の人類は極めて高度な魔術文明を持っていたとされる。
しかしながら発達しすぎた魔術とその技術はやがて人の手に余るようになり、大きな災いが起こって文明は崩壊した。
その先史魔術文明末期に現れ、災害に見舞われた人々を導き、ついには凶悪な魔術兵器の暴走を止めるために奮戦してその命を落とした女性こそが他ならぬ聖女マライアであった——というのが現代的解釈である。
勿論、宗教的・神話的解釈に基づき、聖女こそは神が遣わした御子であり人々を惑わした悪しき魔を撃つために身を捧げられたのだ…とする原理主義者もいるし、そうした信仰を支える物語を現実的歴史に堕とすような行いは好まれるものではないが。
なんにせよ、聖女マライアはその尊い自己犠牲の姿から人々の信仰の対象となり、今日まで続く聖教の
それは間違いのないことである。
「……今日も市街の方は賑わっているようですね」
「はい、左様にございます。実にめでたいことです」
——聖地ソライマ。その中央の聖堂にある尖塔に二人の僧侶が立ち、眼下を見下ろしていた。
一人は華美に走らず荘厳さを演出するように、丁寧な刺繍と装飾を施された壮年の女性……他ならぬ『聖教』の現法王にあたる女性だった。
もう一人は法王の法衣をさらに簡略化して質素にまとめた白い修道衣を纏う人物だ。顔の上には布を垂らして覆面としているため人相は伺えない。
ただ女性であることは確かだろう。彼女らのいる聖地の中枢は男子禁制である。
「第九代の聖女様が巡礼を終えられ、この聖廟にて『列聖』なされたのがつい三日前のこと……これほどの慶事がありましては祭りも長くなりましょう」
「ええ、その通りです。こうして眺めているだけでも皆の喜びが伝わってきます。これも主の思し召しですね」
法王は柔和な笑みを浮かべ、塔の上から塀の向こうにある街とその喧騒に視線を注いだ。
既に今代の聖女が迎え入れられて三日経つというのに市井はいまだにお祭り騒ぎである。
路上で楽士が祭囃子を奏で、昼日中にも関わらず花火があちこちで音と煙を上げる。
露店が普段よりも多く並んで花や食事を売って、街の外からやってきた観光客が熱に浮かれて買い込んでいく。
無論、街の各所にある教会も宗派を問わずに大賑わいである。教会では連日の
『大』の字を形どった聖印を刺繍した旗が家々の前に掲げられ、それを小さくした手旗を持った子供が腕を振り回してはしゃぎまわっていた。
三日前の『巡礼』には法王自身も聴衆の前に立って、聖女を迎え入れる儀式を行ったがその時も凄まじい賑わいであった、と彼女は述懐する。
あまりに盛り上がりすぎて怪我人が出たり、暴動に発展しなければ良いのだが、という考えが脳裏に過ぎる。
しかし法王は基本的に市政には関与しない立場だ。治安に関しては聖地ソライマの自治体に任せるのみである。
「外の空気を吸うのはこれくらいにしておいて、我々も本来の職務に戻りましょうか。行きますよ」
「かしこまりました、法王猊下」
塔にある窓から改めて市街地を一望した後、法王は衣の裾を翻して踵を返した。
一人の修道士を伴って彼女が向かうのは……塔に備え付けられた
地下階行きのスイッチを押し込んで、昇降機が到着するまでの時間を二人は黙々と待機した。
ーー聖地ソライマは今や世界宗教となった『聖教』の聖地にして、先史魔術文明の技術をいまだに現役で残し続ける世界的にも貴重な遺構である。
現在でいうところの『中央聖廟』は当時は城砦として建築された建物であり、今日でも聳え立つ城壁がその白亜の威容を誇っている。
上から見ると五角形の形をしたこの城砦を中心に、聖歴以降に人々が入植し始め……以来千年。ソライマという街自体は内から外に向けて拡大していくようにしてその形を作り上げていったのである。
街の外周ほど近代的な様式になり、中央に足を進めるほどに古い街並みに変化していき、真ん中には生きた古代文明による未来的とさえ言える外観の城壁が聳える。ここはそんな街だった。
そして聖地の中心、城壁の内側たる『中央聖廟』には一般人の立ち入りは厳に禁止されている。
内部に立ち入ることが許されるのは聖廟の設備を運営する資格があると厳重な審査の下に認められた、信仰厚き修道士たちと、世界中の全ての信徒たちの頂点に立つ者として選ばれた法王。
そしてーー『聖女』のみ。
「……アニェーゼ様のお加減は如何ですか」
「『列聖』後の経過観察は順調です。皆喜んでおります」
「ありがとうございます。私も後で直接『祭壇』に伺いますので」
「ご随意に、猊下」
狭い昇降機の中で法王は修道士と共に予定を擦り合わせる。
今は聖廟全体でも重要な時期である——何せ今代の聖女を迎え入れたばかりなのだから。
聖女、それは現在において『初代聖女』と位置付けられるマライアの再来と言われる人間のことだ。
神の子。救い主。始まりの聖女。その生まれ変わりと言われる彼女らはまさに現人神とも言われるだけの信仰の対象となり、選ばれた今代の聖女が聖地を目指すための道程——『巡礼』も行く先々で盛大な祭りが催されるのだ。
今や世界各地に広がった聖教の関係者が絶えず聖女の候補者を探しているが、見つかる機会は少ない。
何せ聖教が興って以来の千年で現れた聖女は僅かに九人。百年に一人、いるかいないかの計算である。
その希少さもあり、聖女の誕生は盛大に祝われるのだ。
聖女が聖地に辿り着いたならば、聖廟に迎え入れられることになる。
しかし、聖廟には「一度入ったならば一生涯出られない」という極めて厳しい戒律が存在する。
それはここに勤める全ての修道士たちがそうであり、唯一の例外は外部との折衝も職務の一部とする法王のみである。
聖女は聖廟に迎え入れられて以降は、他の修道士達と共に神の子たる初代聖女マライアの菩提を弔うことに生涯を捧げる……というのが表向きの説明である。
そう、
この千年、一切真相を外部に漏らさないままに続けられてきた中央聖廟の活動——その表向きの説明に過ぎない。
「着きました」
「私は先に『中枢祭壇』に行きます。アニェーゼ様の元にはまた後ほど」
「ははっ……。こちらこそ、後ほどお会いしましょう」
ちん、という鈴を一度鳴らすような音と共に昇降機が停止する。
自動扉が開いた先の壁には『祭壇フロア』という表札が『聖教』の
法王と修道士は一旦別れて別方向へと足を進める。
聖廟の内部施設は、実に一千年以上前の代物だというのに未来的とさえ言える作りをしていた。
靴底があたると静かな音を立てる石とも金属とも付かぬ健在の床、火ではない電気の光を灯す照明機器。
今日に至るまで、実に千年もの長きにわたって保存され、そして現役で稼働し続ける先史魔術文明の生きた遺構……。
既に聖廟に勤めて長くなるが、法王はこれら先史の技術に触れる度に、これを後世に引き継ぎ続けた先人たちの意思と努力に思いを馳せて身震いするのであった。
そしてそれだけのことが偉業がなされる……なされ
それは表向きから隠されたこの聖廟の本来の役割であり、今まさに法王の目の前にあるものがその答えだった。
彼女が足を進めて辿り着いた扉、そこにはやはり聖印ともに一枚の表札が掲げられており、そこにはこのように刻まれていた。
——『中央祭壇室、初代聖女マライア』。
「……」
法王は今一度厳粛な面持ちで法衣の裾と襟を正し、大の字の
無意識のうちに口の中で小さく聖句を呟く。逸る心持ちを抑えるように。
そして彼女は扉の横に設置されているパネルに掌を合わせた。
掌紋、皮下静脈走行、法力波長の三種を読みとって個人認証を行う先史文明の鍵である。
ピィィ、と甲高い電子音ともに扉が開く。入室が認められた彼女は静かにその部屋へと足を踏み入れた。
そこは聖性すら感じるほどに静かな空間だった。
千年前からあるこの部屋はその間一日も絶やすことなく清浄さを保たれ続けており、それを成し続けてきたこれまでの修道士たちの意思が壁に床にと染み込んでいるかのようだった。
ーー敬虔。言葉にすれば、それがそこに込められていた意思であった。
「……マライア様」
吐息の音を漏らすことすら憚られるその空間に、法王の呟きが響く。
空間の広さは一般的な講堂くらいのものだろうか。常時維持されている白い電灯が仄明るい光を投げかけている。
入り口からやや離れた、部屋の奥まった場所。講堂でいうならば講壇があるだろうくらいの場所に、
一言で言うならばそれは円筒形の大きなガラス容器だった。
直径数メートルほど。円筒の上端と下端はそれぞれ台座のようになっており、それを加味すれば大きなカプセルと言った方がわかりやすい形状と言えるだろうか。
天井と床にはそれと施設内の機構とを結ぶように多数のケーブルが這っており、さながら樹木の枝葉と張り出した根のよう。
その円筒形の大きなカプセル……『祭壇』の周囲には幾つかの管理用端末が設置されている。さながら遺跡に込められた製作者の遺志を語る石碑のように。
「……おぉ」
そして法王は無意識のうちに感嘆と——畏怖の声を漏らしながら、祭壇の前に跪いた。
最敬礼。五体投地。土下座とも言える、自らの全てを投げ出して主への服従と帰依を示す礼拝の所作だった。
彼女が頭を垂れた先、祭壇の中にはこの世で最も尊く——そして美しいものが捧げられていた。
そこには一人の少女が浮いていた。
否、浮いている、という表現は的確ではない——あくまでそのように見えているだけだ。
見れば彼女が収められている円筒管の上下、そこから幾つもの紐か或いは縄のようなものが伸びて、その体を空中に固定しているのである。
両手足を
「拝謁の栄に感謝いたします——マライア様」
法王が口にする。
そこにいるのは他ならぬ聖女マライアその人だった。
一千年前の聖女。神の子。世の救い主。その語り継がれた生と死が今や一つの教えとなり一つの世界宗教となるまでに至った女性——いや、少女。
一体誰が想像し得ようか、彼女が千年前から今日に至るまでこの聖廟に存在し続け……
そう、聖女マライアは未だに生きているのだ。この円筒のカプセルの中で千年にも渡り。
それが事実であることは祭壇の周りを囲う幾つもの計器による数値が示しているし、目視でも見れば宙に磔にされた少女の薄い胸が僅かに上下しているのが確認できるだろう。
——聖女マライアは不老不死である。
千年以上前の先史魔術文明、その末期に
それは紛れもなく三千世界の全人類が夢見たものであっただろうが、残念ながら極めて人を選ぶ施術であったと言われる。
幾つもの実験が繰り返され、最終的に完全な形で適合できたのは後に聖女として語られる、マライアという一人の少女しかいなかったのである。
ではなぜ、その不老不死を体現した彼女はこうして聖廟の地下に封印されているのか?それは端的に言ってしまえば
残された記録を紐解けば聖廟が元々城砦であったというのは事実の半分であり、正確には監視施設にあたる。
ここよりさらに地下数百メートル深くには、当時魔術世界文明を破壊し尽くしたという最終兵器『シャイタン』が眠っているのである。
地を焼き尽くし、天を堕とし、一つの文明を終わらせるほどに至った先史文明の人類の原罪、その象徴。
機能停止したそれを埋め立て、上から封印のための魔術機構として作られた楔と言えるのがこの聖廟の正体である。
そして、聖女マライアはこの設備を動かすための動力源、人柱とされた。
魔力(現在は法力と言い換えられる)は生命力を変換したこの世界における重要なエネルギー源である。
つまり、不老不死の人間がいればそこから無尽蔵にエネルギーを抽出することができるーー当時の技術者はその様にして考えたらしい。
不死化実験が先にあってそれを動力源に使おうとしたのか、封印設備を動かすための動力源を求めて不死の人間を作ろうとしたのか、順序は判然としないがーーなんにせよその試みは成功した。
少女は永久に悪魔の兵器を封じ続けるための人柱となり、その功績は詳細を伏せられたまま人々の口の端に登り続け、やがては新しい伝説となった。
そして伝説は神話になり、神話は宗教になり、生贄の少女はやがて聖女としてーー尊い自己犠牲によって人々の原罪を贖った神の子として祀られるようになった。それが歴史の顛末である。
「…………」
目の前に自身の信者となる人物が頭を垂れていてもマライアからの応答はない。
彼女を収めているカプセルが音の一つも通さないほどに密閉されているのもあるが、それ以前に彼女は目も耳も完全に塞がれているからだ。
目元には分厚い目隠し、耳には大きなヘッドギア型の耳当てがつけられており、外部の情報からは完全に遮断されている。
また口には鼻まで覆う大きなマスクがあてられている。これはカプセルの天井にまで管がつながっており、空気と栄養の補給を続けている。
如何に彼女が不死者の体であっても、真っ当に生命を維持できる環境でなければそのエネルギー産生効率は著しく落ちるからこその処置である。
少女、という以外に形容のしようがない程度にその体は細く、華奢だった。ほっそりとした伸びやかな手足、華奢な骨が皮膚の下にも見える肉付きの甘い胴と四肢。
その
白い光沢の帯が、手首に上腕に、足首に腿に、首元に胸に胴に腰にと纏わりついている。その様は革で出来たジベットの様ですらある。
さらにそれらは全身の各所で上と下から伸びている
一分の
彼女を宙に吊っている拘束具が蜘蛛の巣ならば、その長い髪は蝶の羽根だろうか。
仄明るい祭壇室の照明を浴びて、星屑のように煌めく銀色の髪は、長い。
その長さは自身の身長を超えて、その体が床から浮いているにも関わらず、カプセルの床面についてなお余るほどだ。
これはただ単に伸びるがままに放置され続けているから——ではない。
人の髪には魔力が宿る、などという話があるが実際に魔術師(この時代では法術師と呼ぶが)の髪にはある程度の魔力を溜め込む性質があることが知られている。
聖女マライアの髪が伸ばされているのは余分に魔力が必要になったときのための、いわば非常時用の予備燃料といった意味合いがある。
このように、彼女の五体は余す所なく封印施設を動かすための動力源として活用されている。
そのためのエネルギーを抽出しているものが、彼女の下半身に集中していた。
大の字に広げられた手足、その両足の間……股座から会陰部を伝って臀部まで、がっちりと食いつくように大仰な機械が取り付けらている。
ボディハーネスと連結して腰のあたりで留められているそれはさながら大きな機械仕掛けのショーツのようだ。
そこからは幾つものチューブとケーブルが伸び、祭壇の床に吸い込まれている。
その機械が今もなお正常に動作し続けていることは、周囲の監視端末が表示し続ける情報の羅列からしても明らかだった。
「……あぁ」
法王の見ている前でモニターに表示されている情報が一つ更新され、それに連動したように祭壇の中にいるマライアの体が跳ねた。
いや、正確には跳ねようとしたというべきか。彼女に施された拘束は完璧であり、体も手足もどこも動かす余地はない。
ただ僅かな首の動き、手足の指の丸まり、皮膚の下の筋肉の強張りなどからそれを察することができるだけだ。目視に頼らずとも計測結果で筋肉の動きを確認することもできるが。
先程計器が観測したのは——絶頂である。
法悦。エクスタシー。オルガズム。人体の性感の高まり。
そう、聖女マライアはその体に取り付けられた機械仕掛けの器具にてその女体を嬲られつづけているのである——千年、絶やすことなく。
この一見悪趣味とさえ見える機構にも相応の理由がある。
人間が魔力を溜め込むことができる場所に頭髪があるとは先程に述べたが、魔力を別の場所に移す際にも適切な触媒がある——それは体液である。
一般的には血液を利用することが多い(生贄の儀式などは大量の血を命ごと搾り出すことが目的である)が、魔力が含まれるなら唾液や汗、それこそ愛液であっても構わない。
人間間で魔力譲渡を行うならば粘膜接触を伴うことが最も効率がよいという記録も残っている。
魔力を法力、魔術を法術と呼び変えて聖教が管理下に置いている現代でも、教会所属の法術師が治癒術行使のために患者と褥を共にすることもままあるほどである。
その際、特に性感が高まれば高まるほどに魔力の産生率が上がることも知られている。
これは性行為自体が生殖……生命を作る行いであるからこそ生命力を強く刺激するのだろうというのが広く知られた説である。
この祭壇はこうした原理に基づいて作られた機械式の魔力抽出装置なのである。
マライアの股間部に取り付けられた機械は決して外れることがないように固定された上で、陰核、尿道、膣孔、肛門の四箇所に食い込み、性感刺激を与え続けている。
これによって愛液から……それだけでなく尿など排泄物からも魔力を採取している。マスクは唾液から、胸を覆うパッドは僅かでも乳液を介して搾り取ることを試みている。
さらには密閉型のカプセル内では揮発した汗などその他体表から出る分泌物までも吸引して動力源に充てている。
その上で、採取物に含まれる魔力量を増やすために少女の性感には絶えず機械仕掛けによる刺激が与えられ、絶頂を強要されているのである。
その全ての反応は祭壇の電子記録に保管されている。千年間、仔細に至るまで余す所なく全てである。
今もまたマライアがどう嬲られて、どう犯されて、どう感じているのかの詳細が端末上に表示され続けている。
つい先刻迎えた絶頂感をより長引かせ、深く味合わせようとするように陰核を覆うキャップ状の器具は、姫芽をゆっくりと、しかししっかりと強く、ぐにぐにと弄ぶ様に揉みほぐしている。
尿道の挿入具はそれとシンクロする様に小刻みな振動を発し、陰核神経を根本から刺激して勃ち上がらせていた。
女性器に埋め込まれた張型は膣肉を伸ばし切るように深く深く、下から上へとその先端部を押し込み、押し当て続けている。
もはや本来の役割などとうの昔に忘れ去ってひたすらにポルチオ性感の発生源と化しているだけの哀れな子宮はそれでぐずぐずに蕩け切った雌肉から搾られるように粘液を垂れ流した。
それは実際、果汁の収穫に似ていた。果肉は少女の子宮であり、硬い器具ですり潰せばたっぷりの
肛門側の挿入具もその働きを援護するように、直腸側から先端を伸ばして、とんとんと子宮の背を叩く。
こうした局部へ挿入されている器具類は魔術的な機構によって変形し、その応用によって抽送や振動など様々な動きを再現することが可能だ。
そしてそれらは祭壇の管理機構に基づいて聖女から魔力を抽出するために最も適した形状と動作をするようにプログラムされている。
磔の聖女の総身を駆け巡る快楽信号の激しさはグラフとして可視化されて端末の上に線を刻む。
常人なら大声をあげてのたうち回っているだろう、体が下腹部から溶け落ちてしまいそうなエクスタシーの奔流。
だが全身に拘束具を纏わされている少女にそれを表現する術はない——かろうじて不随意な筋肉の収縮や肌の震えが外部から観測されるのみである。
塞がれた口では声を上げることも許されていない。こちらもまたマスクの下では挿入具が変形して、小さな口腔の中を蹂躙して唾液を啜り上げているのだから。
絶頂に身を震わせながら口を塞がれていようとも、マスクから供給される酸素によって呼吸困難に陥っての窒息死などということは起こらない——不死者の体が蘇生している間は魔力が身体機能の回復に割かれてしまうため抽出効率が落ちてしまうため生命維持は欠かせないのである。
激しく吸排気を行う肺の動きは側からも肉眼で確認することができる。上下する胸の上では薄く未熟な乳房を責め苛むように搾乳機が稼働して、幼気な乳首に吸い付いていた。
「では、失礼致します」
法王は聖女に向かって改めて一礼すると端末を操作し始める。
入り口のそれと同じ三重認証に加えてパスワード設定、他の修道士複数名による事前の認証も有する厳重なロック。
しかしながらこれは日課として行われていることもあってか彼女のその手順に淀みはなく、解除のプロセスはあっさりと進んだ。
やがてそれらが滞りなく完了すると、ふぃん、と気の抜けるような音と共に目の前のガラスの円筒がせり上がり始めた。
透明な檻が開かれ、カプセル内部の空気が外気に漏れ出す。
法王はそれを吸い込んで無意識に鼻先をひくつかせる。
魔術的な洗浄機構が付随しているにも関わらず、内に染み付いている、女の匂い。
揮発した汗と、絶えず吸われている愛液と尿と唾液と、その他女体から染み出すだろうあらゆる液体と分泌物の混合した香り。
千年、生きた人間を一つところに押し込めて生かし続けて体液を絞り出してきた……ここ以外には存在し得ないだろう、濃密なそれは見えない霧のように祭壇室の空気の中に溶け込んでいった。
そして法王はその匂いが嫌いではなかった。
これもまた目の前に在られる聖女の受難の証明。
尊い献身の一つの顕れと言えるからである。
故にこの聖務に際してはいつも敬虔な誇りと昂揚がその胸を打つのである。
「では、お髪を整えさせていただきます」
そう言って彼女はあらかじめ祭壇の横に備えてあった道具類を近くに運び出してきた。
脚立と、櫛等々のヘアケア用品一式である。
初代聖女の髪を整えるのは歴代法王の日常業務の一環として大々受け継がれた神聖な儀式の一つだった。
マライアは既に総身を厳重に縛られておりそれは何人たりとも外すことはできず、またそれは許されていない。
だがせめて果てしない受難にその身を置いている御方を労って差し上げたい——そのように考えた過去の法王が始めたのが聖女の整髪であった。
「お加減はいかがでしょうか、マライア様」
空中に磔にされている聖女の高さに合わせて脚立に登り、法王は恭しくも手慣れた手つきでその長い髪に櫛を通し始めた。
数百年単位で伸ばされっぱなしの髪は先述の通り宙吊りの体の全長を追い越して床についてなお余るほど。
これに櫛を通すだけで年嵩の女性である法王には重労働である。
しかしそれを彼女が苦に思ったことはないし、おそらくは今までの前任者たちもそうであろう。
その証であるかのように、伸び通しのマライアの髪は同性である他の修道士たちからの目から見ても見惚れるような美しさを保っている。
仄明るい部屋の照明の元でその銀髪は星屑のような煌めきを放ち、手に取った時の滑らかさは掌を流れる銀砂のよう。
床の上に流れるまでのその長さも、中空から垂れ落ちるその姿はまるで天に捧げられた反物か、或いはシャンデリアのようにさえ見える。
非現実的とも言える、幻想の美。定命の人間の身では再現できないだろう、偶像の美。
「以前にもお話しさせていただきましたとおり、聖廟には九代目の聖女様をお迎えさせていただきました」
「……ッ。……っ……ぅ゛」
「アニェーゼ様と言われるお方でして、丁度マライア様と同じ銀のお髪をお持ちなのです。巡礼の終わりに際してお会いした時はその色合いが陽の光に映えて大変お綺麗でして……」
「っ……。……ッ゛ッ」
法王は取るに足らない雑談を口にしながら髪への手入れを進めていった。
櫛入れの後は髪油も差して艶を入れる。大々聖廟に受け継がれてきた
無論、彼女の言葉は何一つとしてマライアには届いていないが、それでも彼女の語り口には信徒の幼子にでも話しかけているかのような柔らかい慈愛の響きがあった。
盲にして聾の聖女に向かって語りかけるのは祈りにもにたものがあった。決して届かないからといってそれが言の葉を述べない理由にはならないのと同じに。
カプセル越しでなく直接触れる距離にいて見る聖女マライアは見るものにはいっそう痛ましく見えるだろう。
無言に思えてその実、項垂れた顔に科せられたマスクの端々からは呻き声が断続的に漏れ出ている。
無意識であり、不随意のそれである——測定されている脳波は既に一千年近く、人間で相当するところの「失神」に等しい状態を維持している。
最早人間らしい正気などとうに失われて久しい廃人となっているのは想像に難くないが、壊れた心に対して肉体だけは千年変わらず健康で瑞々しいままに生き続けている。
その体は与えられた刺激に対して実に鋭敏に反応している。
それはこの整髪の儀式の間に置いてもそうだった。
法王が髪に櫛を通し、油を塗り込めるたびに戒められた細い体はビクンビクンと大袈裟に震えている。
キッ……キッ……、と近いからこそわかるほんの僅かな拘束具の軋み音。革帯に締め付けられた裸体の、その肌が赤く火照って甘酸っぱい乙女の汗を滲ませる。
長く、あまりに長く犯され続けてきたその体は髪をこうして摩られるだけでも快楽に震えるのであった。
その記録もまた、計器に余さず残り続けている。
「これで本日の分はおしまいになりますね、お疲れ様でした」
「…………ッっ゛」
相応に長く、静かで厳粛な時間が過ぎていき、やがては終わりを告げる。
数メートルに及ぶ少女の髪を手入れするのは既に老境の法王にとっては大きな労力であり、終わる頃には既に額に汗をかいているほどだった。
しかし、この光栄極まる聖務を前にして疲れを理由にして手を休めるようなことなどあるわけもなし、ましてや永き受難に身をさらされている聖女のことを思えばこの程度のことなど労苦と呼ぶのも烏滸がましいと思うのであった。
そしてその聖女を労るように、法王は最後にそっと素手で少女の頭を撫でる。
それに応えるように長く項垂れていたマライアの首が僅かにびくん、と跳ね、それが全身に伝播して漣のような震えが走るのが見えた。
それを見届けた上で法王は手順を逆に辿り、脚立と道具類を片付けてから、改めてカプセルのロックをかけ直す。
静かな音を立てつつ、上辺から透明な円筒のガラスが下り、施錠される。
その上で全てのシステムに問題が発生していないかを端末を操作して確認する。
拘束具に異常はなし——大の字に磔にするワイヤー、細い体を戒める全身のハーネス。耳を塞ぐヘッドギア、視界を覆うアイマスク。
責め具に異常はなし——口腔から喉にまで届く挿入具がついたマスク。陰核、尿道、膣孔、肛門を嬲り続ける下半身の汎用性具。
これらは全て、聖女に施されている不老不死化術式と連動するように設定されており、彼女の命がある限り恒久的にその動作を保証されている。
しかし何かの不具合で連動がうまくかなくなり、劣化が始まる可能性も存在しており、それらの監視も非常に重要な任務である。
「何者が聖女の愛より我らを引き離すことが叶いましょうや。艱難、苦痛、迫害、飢え、貧しさ、危機、剣……」
全てが正しく動作していることを確認してから、法王は改めて聖女に向き直り、祭壇の前に跪いて祈りを捧げた。
細く華奢な体を磔にされて宙に掲げられたその肢体は生贄のよう。
いや、事実そうなのである。彼女こそが今ある世界を護るために捧げられた贄であり、人柱。
その尊い犠牲の上に生きる自らの罪深さと——その慈悲に対して法王は祈るのである。
祈りを終えた後、改めて一礼した法王は祭壇室を後にした。
墓守の犬の鼻息のような、くぉん、という静かな音と共に扉が閉まって施錠され、その部屋は再度の静寂に包まれる。
中央祭壇室を辞した法王はこつこつと足音を立てながら廊下を進む。
途中ですれ違う覆面の修道士たちとも会釈を交わしながら次なる目的地に向かう最中、彼女はとある一室の前で一旦足を止めて一礼した。
そこにはこのように表札が掲げられていた——『第二祭壇室、二代聖女ステファニア』。
この部屋は現在空室だ。およそ九百年前、当時の未熟な施術により聖女は命を落とした。
その痛ましい事件は未だに聖廟内に語り継がれており、法王はその犠牲に手向の礼をとることを忘れない。
だが、その犠牲から得られたものもある。
事実、以降の九百年の間で、
……これが聖廟のもう一つの重大な秘密。
聖女マライアの再来として崇められる歴代の聖女たち。
巡礼を終えてここに迎え入れられた彼女たちは全員がここに収容されている——生きたまま、
およそ九百年前のこと、聖女マライアを動力として動く封印機構によって抑えられない可能性が出てくるほどに、地下深くの『シャイタン』の活動が活発化しているという報告が挙げられた。
そのために当時の聖廟の修道士たちが考えたのが
不幸なことにその二人目の聖女は亡くなってしまったが、その際の記録から有用性が認められ……以降、更なる予備動力としての聖女の追加が行われ続けている。
そう、聖女の資格とは法力の高さや、その敬虔にして清廉な心根、信仰の在り方ではなく——初代聖女と同じ、不老不死化処置への適性の高さによって計られるものなのである。
そして『列聖』とは彼女たちのために誂えられた『祭壇』にその身を捧げられることを意味する。
初代聖女の『中央祭壇室』を擁する区画、その周囲には歴代聖女を収容する祭壇室が他にも多数存在している。
そしてそれらはやはり初代聖女と同じく、聖廟に勤める修道士たちが付きっきりでの監視とケアの下——不死のその体を嬲り尽くされながら、法力を搾り取られているのである。
廊下を歩きながら、法王は歴代聖女に思いを馳せる。
第二代聖女、ステファニア。
現在祭壇空席。不老不死化処置の完成度が当時はまだ低かったこと、シャイタン復活の兆候が見られた都合上法力をより強く抽出する必要があったことが祟り、1日に最大で75回の心停止を経て死亡が確認される。これの責任を取って処置と管理に携わった修道士15名が自害した。
この事例は徹底的に精査され、後の安定した列聖処置の礎となった。
第三代聖女、ジョアンナ。
第五次東夷征伐軍に参戦した将軍であった女性。その功績から『勇の聖女』とも語られる英雄的人物。
初代聖女に拝謁した折にその痛ましい姿を見て激昂、修道士に7名の死傷者を出した。この経緯から特に封印拘束は厳重に行われた。
第四代聖女、ワルワラ。
南方大陸出身で元奴隷階級の女性。家族と共に改宗した際に法力の才に目覚め、やがて聖女として見出された。
この経緯とそこから派生した様々な逸話から『黒肌の聖女』として今も信徒から厚い信仰を受ける。
出身地の風習からその黒髪を細かに編み込んでおり、列聖されて以降も専属の修道士達が彼女の髪を結い続けている。
第五代聖女、カタリナ。
聖教の元となった初代聖女の受難と献身に倣い、自らも痛みと苦しみを受けて神に身を捧げる……つまり苦行を教義に据えたサクレ派という少数宗派の出身。
初代聖女に拝謁した折、その崇高な犠牲の姿に心を打たれて涙を流し、自ら進んで祭壇に捧げられることを選んだ。
第六代聖女、アガタ。
五代と六代と間には二百年程の間が空いている。この頃は『魔女狩り』という痛ましい集団恐慌が吹き荒れ、聖女の候補者を探すことは難航した。
彼女はそんな時代に発見された聖女であり、魔女狩りに際しての拷問で致命的な身体的欠損を幾つも負いながらもその法力の才覚によって辛うじて生きながらえていた。
法王による直々の聖女認定を受けて以降彼女は『不具の聖女』の二つ名で呼ばれ、その逸話の悲劇性から今も市井での人気が高い。
列聖の際の処置は彼女の命を繋ぎ止めたという意味で幸いなことだっただろう。
第七代聖女、アルスリア。
歴代最年少の聖女であり、列聖された時の年齢は十歳未満だった。
聖教圏西方のユーク王国王家の血縁にあたる少女であり、その巡礼は王家の威信をかけた大規模なものとなり、王国各地から集められた七千人にも及ぶ修道女が付き従ったという。その巡礼の記録は今日でも様々な物語の題材となっている。
第八代聖女、マリナ。
歴代最年長の聖女であり、列聖された際には既に二児の母だった。
女性の場合、子に力を分け与えるように出産を行うごとに法力の総量は目減りするのだが(なお男性も女性ほどではないが房事過多の場合法力が減りやすくなる)、彼女は二度の出産を経てもなお潤沢な法力を宿す類稀な資質を持っていた。
現在も法力産生量は初代聖女に次ぐ量である。
第九代聖女、アニェーゼ。
最新の聖女。つい三日前に列聖されたばかり。
歳の頃は千年前の初代聖女マリアナと同程度。裕福な一般家庭で愛情を受けて育ったごく普通の少女。
特に聖女アニェーゼは法王にとって特に印象深い。
なにせ現役法王としての自分が迎えた最新の聖女である。それも当然と言えるだろう。
目を閉じれば今もありありと思い出せる、ほんの三日前のこと、聖女の巡礼の終着点である聖地ソライマの式典にて顔を合わせた時のこと。
詰めかけた幾多の信徒たちが花を撒き、厳かな中に隠しきれない歓喜——いやさお祭り気分を滲ませる、天の祝福のような快晴の青空の下。
司祭達、司教達に囲まれ先導を受けながら参道を静々と進む可憐なる乙女の姿。
陽の光に映える壮麗な純白の衣装は花嫁のそれを彷彿とさせ、当代の聖女となるアニェーゼは法王の前に参じたのであった。
夜の海を思わせる深い藍色の瞳に、ふっくらとした桜色の唇、ほのかに赤らんだ頬の丸みさえ愛らしい。
その
信仰に厚い家庭で大切に、愛されて育った素朴で信心深い少女。法王にとって自身が導くべき信徒達の、その
主の鳴らす角笛に導かれるに相応しい、愛すべき神の子羊。
彼女を迎え入れ、聖女と参列した信徒達へ向けた祝福の演説は思わず熱が籠ってしまったのを覚えている。
『荒野の果てに夕日は落ちて、妙なる調べ天より響く。いと高きところに、神に栄光あれ……』
中央聖廟、正門前広場。白亜の城壁が陽を浴びて眩しく光る式典の祭場に聖女アニェーゼの讃美歌が朗々と響き渡る。
祈りの形に握り合わされた柔らかな白い手と、伏せられた瞳を囲う銀の睫毛の彩り。歌に思いを込めるその横顔は敬虔にして美しい。
青空にその歌声が吸い込まれるように伸びていき、法王はそれに合わせて白い鳩が街の屋根の上から飛び立つのを見た。それが主の聖霊が喜ばれている証に見えて、知らず涙が頬を伝うのを感じた。
讃美歌を歌い切ったアニェーゼが、万雷の拍手に祝われながら隣に立つ法王に目を向ける。
蕾の花開くような可憐な笑みだった。昂揚で薔薇色の頬が例えようもなく愛らしく、屈託ない瞳は無垢な童女のよう。
この可愛らしい、聖女に相応しい聖女を迎えることができたのは、この法王にとって終生に至るまでの誇りとなった。
(信仰の道に入った身の上、子供はいませんが——孫がいたならばあのような子だったのでしょうか)
聖女アニェーゼとの出会いを思い出しながら、無意識のうちに頬を綻ばせる。
しかしここは厳粛な聖廟、しかも最も聖なる領域である祭壇の区画だ。緩みかけた表情を瞬時に引き締め直し、彼女は改めて自身の目的地に向き直った。
ちょうど辿り着いたその部屋の前にはこのように表札が掲げられている——『第九祭壇室、九代聖女アニェーゼ』。
「少し遅くなりました、アニェーゼ様のお加減はいかがでしょうか?」
「お疲れ様です、猊下」
「アニェーゼ様の方は滞りなく。法力摘出量は上々といったところです。多少のムラはありますが、三日目でこれならば及第点以上の出来かと思われます」
「こちらが三日間の摘出量の推移と以降の予想数値になります。合わせた開発プログラムも記載してあります」
「皆様方、大変ありがとうございます」
そこは中央祭壇室とほぼ同じような作りの部屋だったが
、違うのはすでに数人の職員……修道士達が作業を行っていたことだった。
揃いの修道服に覆面を着用して個を殺し、聖廟の運営に命を捧げる彼女らは法王をして決して下に見ることのできない相手だ——何よりここに勤めている
修道士達から手持ちのタブレット端末を渡され、その内容を検めた法王は礼を言いながら満足気に頷いた。
最新の聖女、愛らしきアニェーゼから採取できる法力の量は、時間あたりで見ると多少の上下が目立つものの、総量でいうならば他の聖女と比べても遜色のないものだった。
列聖されて三日でこうだというのだからこれ以降も期待が持てるというもの。
あとはブレが少なくなって常に一定量算出できれば言うことはないだろう。
そしてそのブレの原因も大方予想がついている。
端末の画面を手慣れた手つきでスクロールして呼び出したのは脳波を読み取って計測した意識レベルのグラフである。
失神と覚醒を何度も繰り返した証拠に激しく上下する波形が見られている。既存の聖女のグラフは低値かつ
祭壇に捧げられた聖女がまだ意識と、ある程度の正気を保っていることを確認した法王は他の修道士に声をかけた。
「アニェーゼ様にお目通り願いたく存じます」
「心得ました。では認証を行います」
初代聖女の管理は法王が専任にあたるが、それ以外の後代の聖女達には一般修道士数名が担当している。
彼女達の了承を行った上で、法王は祭壇の一時解放の手続きを行った。
時代も降れば好む好まざるとに関わらず、何事にも変化が生じるように、ここ第九祭壇室は部屋の大枠そのものは共通していながらも祭壇の作りや機構については初代聖女の中央祭壇室とは違う点がいくつか存在していた。
千年に渡る聖廟の運営、その中で培われた技術や様式の研鑽や変遷の結果と言えるだろう。
この部屋の中枢である祭壇は、初代のカプセル状ではなく大きな箱型をしていた。
金属と機械仕掛けのその大きな直方体は見ようによっては内部に複雑な機構を湛えた棺にも見える。
ガラス張りではなく、外部から肉眼では全く内部を伺うことのできない構造で、監視は基本的に備え付けの端末を介して行うようになっている。
そしてその箱型の祭壇が、入力された指示に従ってその筐体を開き始めた。
「ご機嫌よう、アニェーゼ様」
「………………っ!?……ーーぅ゛っ!?ぅー……っ!!んんぅっ゛、んん゛ぅむぅーーーーっ!!!!」
「……あぁ、まだお声を出される元気があられるのですね。なんというお強い方なのでしょう……」
祭壇の面が扉のように横に開き、そこに収められていた聖女アニェーゼが露わになる。
自分が閉じ込められていた箱が開いてそこに誰かがいることに気付いたのだろう、少女は全身でもがきながら声にならない声で叫んでいた。おそらくは助けを求めているのだろう。
聖女のその様を見て法王は感嘆の吐息を漏らした。
まだ三日とは言え、されども三日。それだけの間、祭壇の機構に体を虐め抜かれてなおそうやって声を上げられるだけの体力と気力があるのだ。
素晴らしい資質という他にないだろう。
「ん゛ふぅっ!!んっ、んうぉ゛っ、ぉ゛うっ!!んんうぅぅぅーーーーっっ゛!!!!」
祭壇の外観がそうであるように、内部の作りも第九代のそれは様々な形で初代のそれとは差異が見られる。
まず聖女が体を固定されているのは
全身至る所に巻きつけられた多数の拘束具……首枷、手枷、足枷、腕枷、腿枷、その他胴のハーネス等々は共通のデザインだが、それらが磔台にしっかりと連結されて対象を決して逃がさないように縛り付けている。
今も、悶えるように身を暴れさせる聖女アニェーゼのその体の動きにも、拘束が緩む気配は微塵も見えない。
千年聖女マライアを拘束し続けている機構を解析・再現して継承と研鑽を欠かさなかった聖廟の修道士達の技術の賜物である。
そして、特に一目見てわかる大きな差異といえば——少女の全身を覆う黒いボディスーツだった。
首下から手足の指先までを一切隙なくぴっちりと覆う
祭壇室の仄明るい照明の下で、黒々とした色合いの表面に
乙女の白い柔肌をすっかり黒く塗りつぶしてしまっているその第二の皮膚にもきちんと意味はある。
これは不老不死化の術式を定着させるための法術補助機構なのだ。
聖女を聖女たらしめるのは不死化への適正であるのは前述のとおりだが、実は完全に手放しでの不老不死を実現しているのは初代聖女マライアのみである。
つまり先史時代の技術を継承し続けている聖廟を持ってしても、当時においても極北にあたるような超技術を完全に再現するには不足があったということ。
先述の通り第二代聖女ステファニアは不死化技術が不完全であったがゆえに亡くなり、その反省から生み出されたのが不老不死術式を補助するためのこのスーツである。
スーツ自体に術式の定着を補助するための機能と、術式の状態を把握するための機能が組み込んであり、綻びが生じていないかを常に外部から監視可能になっている。
「ほ、ぉ゛っ……!!んお゛ぇぁぁ……っ!!ぉぁぁ……」
「少し動かさせていただきますね……」
法王が手持ちのタブレット端末を操作すると、アニェーゼの磔台がゆっくりと垂直から水平へと動いていった。
祭壇の筐体内壁から伸びている幾つものチューブとケーブルに引っかからないように注意しながら法王は彼女の元へと歩み寄っていった。
それらの管の用途は基本的に初代の祭壇のものを踏襲している。口元のマスクに伸びる酸素供給、食餌用。股座の責め具一式に繋がる動力供給及び排泄物管理。体液回収とそれに伴う法力徴収はもちろんのことである。
追加で増えているのはボディスーツに直接連結されている幾つもの細いチューブだろう。これはスーツと地肌の間に染み出す汗を常時吸い出すためのもので、ここからも法力を回収している。
「あら?今から絶頂なさるところでしたのね。ちょうどよかったわ、見せていただいてよろしいでしょうか?」
「ん゛ぅー……!!んゃっ、ぁぁぁ゛っ!!ぁぁぁあ゛っ゛!!」
端末で情報を確認しながらそう語りかける法王の姿は患者の病状を確認する看護師にも似ている。
その表情には慈愛の笑みさえ浮かんでいるが、アニェーゼにとってはたまったものではないだろう。
耳当てと目隠しで誰がいるのかはわからないだろう。しかし、確実に今そばに誰かいて水平になった磔台に横たわる自身を見下ろしていることはわかっているはずだ。
人が見ている前で機械に犯されながら絶頂を迎えるなど、正気を残している女性にとっては恥辱の極みとしか言いようがないだろう————特にそれが、今まで自慰すらしたことのない清らかな乙女にとっては。
「ん゛ーっ!!!!んぅ゛ーっ!!!!ん゛っ、んんぅぉっ゛!!!!んゃぁっ!!!!ぁぉあ、ぁ゛…………っ゛!!!!」
ぅ゛ー…………、っとホワイトノイズのような、静かな機械の駆動音、
それを塗りつぶすのは磔刑に処されたまだ年若い聖女の哀れな嬌声だ。
三日前まで性の快楽などというものすら知らなかった少女の柔い体が無慈悲な機械仕掛けによって絶頂に追い込まれていく。
アニェーゼ自身が触れたことすらなかった新芽のようなクリトリスは、吸着機械によって吸い出されながら高速回転する内壁によって絶え間なく擦り上げられていた。目に見えるところで行われていれば、ちゅりちゅりちゅりちゅり……、と細かくやすりがけされているような音が立っていただろう。
尿道への挿入具は、本来形のある個体を入れるべきでない場所の粘膜であることを十分に配慮しながら、細やかな抜き差しに終始していた。しかしそれは左右の肉の中に沈んでいる陰核の根本の神経を目覚めさせることに終始している、苛烈な責めの一環であった。
膣はまさに此処こそが主役の場と言わんばかりに張型が躍動していた。瑞々しく健康な……しかし青く固かったはずの少女の胎は殴打され、打擲され、すっかり柔らかくこなれた雌肉へと作り替えられてしまった。
今も止まない、機械の激しいピストン運動は幼い身の上で女の喜びを知った背徳を詰るような、嬲るような激しさだ。
ぐじゅっ、ぐじゅっ、ぐじゅっ、ぐじゅっ、と湿った肉が踏み潰されるような音が少女の体内に反響して、その淫らさを責め苛んでいた。
肛門側にも差し込まれている責め具も同じく抽送を繰り返している。
排泄物回収のために使用される際には管状になって直腸の中身を吸い上げるのがその役目だが、現在の仕事は聖女の肛門性感を昂らせることにある。
三日にわたってほじくり返され続けた尻穴はすっかり自身が快楽機関であることを調教されたと見え、細い数珠状の竿がぐっと押し込まれると直腸襞がきゅっと恐縮したように縮こまりながら健気に食いしめるのであった。
「ん゛っ!!!!ん゛っ、んんっ゛!!!!んぅんむーーーーー……っ!!!!」
一際大きなくぐもった絶叫と共に、アニェーゼの体が跳ねる。
そしてその跳ねようとする動きは、全て頑強な拘束具に阻まれて磔台を揺らすことすらできずに終わる。
考えてみれば酷な話である。脳が焼けるほどの快楽を味わされても、こうも厳重に縛られた体ではほんの僅かに腰を逃すこともできずに受け止めさせられてしまうのだから。
今も、留め具をがちゃがちゃと鳴らしながらアニェーゼの体がのたうつも、側から見ればそれは大の字姿勢から僅かともズレていないというのはそれはそれで哀れな物だった。
びくっ、びくっ、と震える体の表面でボディスーツが艶かしくぬらつくような光を放つ。
「ん゛ーー…………っ!!んぅぇぇ……っ!!!!」
「あぁ……こんなにも法力が……。素晴らしい、素晴らしいわアニェーゼ。貴女は本当に素晴らしい娘」
「……っ!!?」
感嘆の声を漏らしながら、法王はそっと磔の少女の下腹部を指先で撫でた。
中に埋め込まれた張型で、内側から微かにぽっこりと膨れているそこに指が這うとアニェーゼは露骨に身悶えした。
スーツ越しとはいえ、まったく刺激されていなかった肌に何かが触れるのは不意打ちのような衝撃だったのだろう。
だが、それに構うことなく法王は指先に意識を集中し、聖女の体内で湧き上がっている法力の律動を感じ取っていた。
その下にある子宮のビクビクと痙攣するような脈動も、である。
今、少女の幼気な子宮には、絶頂のタイミングに合わせて擬似精液が流し込まれていた。
女体が妊娠・出産を行う際には子供に力を分け与えるために法力の総量が目減りしていく物だが、その手前……生殖・受胎の段階では逆に生命を育むために胎内で法力が高まるのだ。
その性質に着目し、僅かなりとも肉体に受精を錯覚させるために膣用の責め具には射精機能が搭載されていた。
その効果は如実に現れているようで、直接触って確認している法王だけでなく祭壇の前で別の端末を覗き込んでいる修道士達も満足気な様子だった。
「素晴らしい法力産生量ですね。気が早いかもしれませんが、母乳生産処置も試したいものです」
「えぇ、アニェーゼ様はお年の割にお胸が大きくていらっしゃる。きっと良い恵みがもたらされることでしょう」
「不死性の完全な安定が確認され次第、呼吸制御の方も申請を出しておきたいですね……」
「ん゛っ……!!んん゛ぅっ!!んぃぅうう……っ゛!!!!」
そうした声も、無論当のアニェーゼには知る由もない。
無音の暗闇の中でひたすらに絶頂を反芻し続けるだけだ。
白く粘ついた濁り汁を吐き出した張型は、種無しの精液を乙女の園にさらに塗り込めるように淡々とした抽送を繰り返している。
こねくり回されながら射精を受け、混乱して自分が孕まされたと勘違いした子宮はきゅんきゅん♡と収縮して震えながら、終生の番となる機械仕掛けの雄棒に粘ついた愛液を吹きかけた。
「んん゛ーーッ!!!!んぁぅぇ、っ゛!!!!ん゛ぁぇぇーーーーーっっ!!!!」
「あぁ、アニェーゼ。愛しい娘、貴女はとても頑張っているのね」
法王は今度はそっと少女の頭を撫でた。
その手のひらの触れる感触に何かを感じたのだろうか、アニェーゼは懇願するかのように首を振り乱し、不自由な体を揺すってくぐもった声を上げた。
三日前の巡礼の時に歌われた讃美歌を思い出す。
だが、少女のその口は今後もう二度と、神を讃えるその精妙にして可憐な歌声を囀ることはないだろう。
その桃色の唇は無機質で無骨なマスクに覆われて、その機械の接吻によって永劫に娶られてしまった。
祈りの言葉を幾度も口ずさんだ小さな口は噛み切り防止の開口具で固定された上で挿入具を埋め込まれ、口腔から喉奥までを深々としたストロークで
大の字に広げられて固定された腕の先で、その細い指先が何かを掴もうとするかのように虚空で握っては開いてを繰り返す。
その手が何を求めているのかは知る由もないが——少なくともその手が主への祈りのために健気に握り合わされることも、もう二度とないのだろう。
磔刑に処された無垢な乙女の哀切なまでのその訴えは見るものに胸を掻きむしるような憐憫の情を思い起こさせる。
それは法王も同じことだった。——だが、彼女の胸に憐れみはあっても哀しみはなかった。
そして自らの行いに後悔もなかった。
そこには純粋な愛と、何よりも信仰があった。
「愛しているわアニェーゼ。神が子を愛するように、私も貴女を愛しているわ」
法王のその言葉に偽りはない。彼女はアニェーゼを愛している。巡礼に際して顔を合わせたその時から、まるで我が子か孫にそうするように。
そして、
“神の子は我らの原罪のためにその命を捧げられ、主はその一人子の犠牲を以て我らに愛を示されました”と、正典において語られているように————神は自らの愛娘を犠牲に捧げるという形でその無辺の愛を人類に示された。
ならばこそ、法王もまた愛しい娘を犠牲に捧げることに躊躇いはないのである。
神のため、世界のため、人類のため。
意味と意義を理解した上でなされる犠牲は幸福である。
————そう、聖教とは『犠牲』を是とする教えである。
「ご安心なさい、私は貴女を見捨てません。この命が尽きるその日まで——私は聖女様のために身を捧げると決めていますから」
法王は自身の未来に想いを馳せる。
自らが法王の座を後身に譲った後、彼女もまた覆面の修道士としてこの聖廟に骨を埋める覚悟を決めている。
……いや、不死化というのは語弊があるだろう。良いところが寿命延長処置程度のものだ。
不死になるには聖女に相当する適性がなくてはならず、それなしでは同じ処置を受けてもせいぜい寿命を2倍か3倍くらいに伸ばす程度の効果しかない。
だが、
————聖廟の修道士は、
「んぅぇ゛っ、ぇぅ゛っ!!んぅうぅぇぇぇぇ……っ!!!!」
「————私は神の御前に罪人であり、聖女マライアは私の罪のために磔刑となって身を捧げられたこと、及び私を義とせんがために永遠を生きられることを信じ、マライア様を私の個人的な救い主として受け入れることを、今ここに告白いたします」
法王は告白の言葉を口ずさみながら、そっと少女の頭を撫でさすった。
滑らかな銀の髪を指先で
顎先くらいまでの長さで切り揃えられたその髪も、いつしか日毎に伸びていくのだろう。
そして、いつの日にかそれが初代様のように床に垂れ落ちるほどにまで長くなる時、それに櫛を入れるのは自分でありたいとそう彼女は思い、祈るのだった。
「では、これらのことについて何と言ったらよいでしょうか。もし神が私たちの味方であるならば、誰が私たちに敵対できますか?
私たち全てのために、その御子をさえ惜しまず死に渡された方は、御子と一緒に全てのものを私たちに賜らないはずがありましょうか。
誰が神に選ばれたものたちを訴えるでしょう。人を義としてくださるのは神なのです。
誰が私たちを罪に定めることができましょう。死んだ方、否、むしろ、復活させられた方であるイエス・キリストが、神の右に座っていて、私たちのために執りなしてくださるのです。」
(ローマの信徒への手紙 8章31〜34)