7/9 後日おまけ話”盗聴×安全日”を追加しました♡
「あら? 綺麗な箱……」
物置部屋の掃除をしていて、偽装用の『仲睦まじい夫婦セット』と一緒に置かれた綺麗な細工の箱がふと目についた。
何とはなしに手に取り、蓋を開ける。
――んんんっ!?
予想もしない中身に思わず箱を投げ出してしまい、床にそれが散らばった。
大量の避妊具。
慌てて拾い集めて箱に戻し、蓋をする。きっとロイドさんが、夫婦の寝室として不自然でないように用意したものだろう。
――そうよ、落ち着きなさい、ヨル。これはあくまで偽装用の小道具よ
そうは思っても初めて間近に見た避妊具が気恥ずかしくて、赤面してしまう。想像しかけた用途と使用する状況を追い出すように頭を振った。
――これは小道具。これは小道具。これは小道具……!
自分に言い聞かせながら、箱を見ないようにして掃除を済ませ、部屋を後にする。
その日は恥ずかしくて、ロイドさんの目が見られなかった。
……最近、ヨルさんがよそよそしい。
冷たいというのではなく、何かを疑っているような、何かを言いたそうな、微妙な壁を感じる。
「よくない……これはよくない」
任務遂行の為に完璧な家族を演じ、円満な夫婦仲をキープする必要があるのに、このままでは支障をきたしてしまう。
ただ、原因が思い当たらない。
スパイだとバレたかとも思ったが、それなら周囲に秘密警察の影がちらつくはずだ。しかしそんな気配はないし、彼女の態度はそういう感じではない気がする。
そんな訳で、今夜はアーニャをフランキーに預け、ヨルさんと二人きりで話をしてみる事にした。
レストランなども考えたが、他人の目がない方が話しやすいだろう。
途中、ご機嫌取りの為の花と砂糖菓子を購入して帰宅し、少し凝った夕食を用意する。
料理も仕上がりテーブルに花とカトラリーを並べて準備が整ったところで、ちょうどヨルさんが帰ってきた。
「わあ、今日はなんだか豪華ですね」
「アーニャがいないので、今夜はワインをたっぷり使った煮込み料理にしてみました。ヨルさんのお口に合えばいいのですが」
「ロイドさんの作るものは、いつもとても美味しいですよ」
会話だけ聞いていれば和やかなのだが、顔を合わせた時の表情や目を合わせた後の視線の逸らし方などが、やはり以前とは違う。
「――そうだ、今日はデザートにいいものを買ってきたんです」
紙袋からリボンをかけた箱を取り出して、ヨルさんに手渡す。
「開けても?」
「もちろん」
スル、とリボンを解き、箱を開けた彼女は、整然と並ぶガラス細工のような砂糖菓子を見て目を輝かせた。
「綺麗……!」
「バラのリキュールのボンボンです」
白いすりガラスのような砂糖の中に、赤いバラのリキュールが閉じ込められている。
一目見て、ヨルさんっぽいと選んだものだ。
「食べるのがもったいないですね」
そう言ってなかなか手をつけない彼女に、ひとつ摘まんで口元へと持っていく。
「どうぞ。なくなったら、また買ってくればいいんですから」
「え!? あ、はい……」
しばらく躊躇していたヨルさんは、困った表情のまま頬を染め、やがて口を開いた。
恥ずかしいのかギュッと目を閉じて無防備に口内を晒す姿に悪戯心が頭をもたげたが、すんでのところで理性が止める。
性欲に負けて無理強いしヨルさんの機嫌を損ねては、偽装家族を続けられなくなってしまう。
唇に触れないようにそっと、ボンボンを口に入れた。
「んんん~~♡」
目を開いたヨルさんが顔を輝かせてから、とろけるような笑顔になる。
「これ、とっても美味しいです、ロイドさん!」
「喜んでもらえてよかった。僕もひとつ、いいですか」
「あ、はい」
彼女は箱を差し出したが、受け取らずに微笑み、口を軽く開いて待つ。
間を置いてこちらの意図に気付いたヨルさんは、真っ赤になりながら砂糖菓子をひとつ摘まんだ。
「あ、あーん……」
食べさせてもらったボンボンが口の中で甘く溶け、やがてシャリ、と崩れて香り高いリキュールが溢れ出る。
「……うん、美味しい」
互いに気恥ずかしく微笑み合い、なんとなくよい雰囲気になった。いい頃合いだ。
「ところでヨルさん。僕に何か、言いたい事があるのではありませんか?」
軽く緊張してみせながら切り出してみる。
「え!? あ、ええっと……」
驚く彼女の感じから、スパイである事がバレたなどの深刻な問題ではなさそうだ。
目を泳がせる様子に、どうやら恥ずかしい事らしいと察する。
「最近、ヨルさんの僕に対する態度がおかしい気がしたので……ああ、でも言いたくないなら無理にとは言いません」
気が付いているし、気にもしている、けれど気持ちは尊重する、と伝える事で話しやすい流れを作り、微笑んでみせながら急かさずに待つ。
逡巡しているのだろう、彼女は組んだ指をそわそわと動かしていたが、やがてクッと顎を引いて顔を上げた。
「ロイドさん、私たちは利害が一致して一緒にいるだけの偽装夫婦です」
「そ、そうですね」
「だからロイドさんに“そういう関係”の方がいてもおかしくはないと、頭では理解しているのです。でもなぜだか胸の中がモヤッとして……」
意外過ぎる彼女の言葉に、さすがに焦って遮ってしまう。
「ちょっと待って!? 待ってください、ヨルさん。“そういう関係”って?」
「この言葉が、私たちに当てはまるのか分かりませんが――“浮気”、されていますよね?」
「してませんよ!? どうしてそんな勘違いを!?」
「それは――」
彼女は言いかけて言葉を止め、ポッと頬を染める。
「物置に置いてある箱の避妊具が、どんどん減っていくのを見て……」
「え? ヨルさん、気付いて?」
あまり目ざとい方ではないと思っていたので、まさか気が付いていたとは思わなかった。
これは絶対に正直に話さなければならない場面だ。例えそれが、話しづらい事であっても。
「えー…それはですね、その……」
――そうだ、任務の為、ここは誠意を見せなくては
顔が熱くなるのを感じながら咳ばらいをし、なんとか自分を奮い立たせる。
「……自慰で、使っていたので……」
「へ!? ど、どういう事でしょう?」
驚いた顔のヨルさんにツッコまれ、心の中で“深く聞かないでくれ!”と叫んだが、言わない訳にはいかなかった。
「その……汚れないし、後処理も楽なんです」
「はあ……?」
意味が分かっていなさそうな表情で頷いたヨルさんは、一転して照れくさそうに笑う。
「私、てっきり他の女性と使っているのかと思ってしまいました」
一応、誤解は解けたようだった。
ロイドさんの返答に気が抜け、ソファの背もたれに身体を預ける。
――よかった……
“ロイドさんにはそういう事をする恋人がいる”と考えると、契約で形づくられた夫婦のはずなのに、自分でも不思議なくらい動揺していた。
――きっと、夫婦でいられなくなると周囲からスパイだと疑われてしまうからね……
ここ数日感じていたモヤモヤが綺麗さっぱり消えたら、ホッとして眠くなってきた。
昨日、殺し屋の仕事で――もちろんロイドさんには市役所の残業だと伝えている――遅くまでかかってしまったから、少し寝不足だったせいもある。
二人で皿やグラスを片付けて洗い、シャワーを済ませて歯を磨き、寝る準備をする。
心配事がなくなったせいか、なんだか凄く眠い。
「ロイドさん、今日はもう、休ませていただきますね」
「おやすみなさい、ヨルさん」
リビングでニュース番組を観ていたロイドさんに声を掛けてから、自室に行く。
ベッドの手前であくびが出て身体が揺れ、キャビネットに置いていた紙袋を落としてしまった。
ガチャガチャン、と思いがけない大きな音を立て、中身が床に転がる。
昨日の仕事で使うように店長が用意してくれた拷問用の拘束具だ。
結局使わず持って帰ってきたものを、アーニャさんから見えないようにとキャビネットの上にとりあえず置いてしまっていた。
一気に眠気が吹き飛び、慌てて拾い上げたところに「どうしました、ヨルさん!」とロイドさんが部屋に飛び込んできた。
ロイドさんが拘束具を見て、固まっている。
「……ヨルさん、それは一体……?」
「あー…、ええっと……」
殺し屋だとバレる訳にいかない――そう思った私は、咄嗟にとんでもない返答をしてしまっていた。
「じ、実は少し、こういうのに興味があって……」
――ヨルさん、まさか緊縛プレイに興味が!?
手枷と足枷を手に恥ずかしそうに話す彼女に、一応提案してみる。
「……なら、使ってみますか?」
「へっ!?」
「興味があるんですよね? こっそり買ってくるくらい」
「え、ええ」
「でもそれ、ひとりでは使えないですよね。足枷はともかく、手枷は誰かに付けてもらわないと」
「そうですね……えっと、じゃあ……」
当然断ると思ったが、ギュッと唇を嚙み締めたヨルさんは、ふるふると震えながら涙目で拘束具を差し出した。
「お願いします……」
ネグリジェ姿のヨルさんの足首に枷をつけようとして、“随分と本格的な拘束具だ”と気付く。そういう事に疎そうな彼女の事だ、アダルトショップの玩具の拘束具ではなく、古道具屋などでたまたま売り出していたものを購入してきたのだろう。
このままつけたら角が当たって痛いだろうし跡もついてしまうと思い、タオルを巻いた上から拘束具をつける。
「ヨルさん、痛くないですか?」
「は、はい……」
しかし、ヨルさんがこんな道具で拘束されたいという願望を持っていたとは。
Sではなさそうだとは思っていたが、性に関する知識も経験も少ないようだったので、意外だった。
――だが、これはいい機会かもしれない
より夫婦仲を円満にする事は、任務の為にも必要不可欠。
アーニャもいない事だし、多少騒いでも問題はない。今夜は夫としてできる限り、妻の願望を叶える事としよう。
ヨルさんの手首と足首に枷をつけ、ベッドの四隅に固定する。
そんな趣味はないはずなのに、恥ずかしさと不安で震える彼女の姿にゾクゾクとした。
「ヨルさん、この状態で、して欲しい事はありますか?」
「な、ないです! ただ少し、縛られてみたかっただけですから!」
「そうなんですか? 恥ずかしがらなくても、言ってもらって大丈夫ですよ」
「いえ、本当に、身動き取れない状態を体験してみたかっただけで――」
ふと、さっきの勘違いの話を思い出す。
「ねえ、ヨルさん。だったらそのまま、僕のする事を見ていてもらえますか?」
「え?」
「ヨルさんが望まないのに、無理矢理触れるような事はしたくありませんから。でもせっかくこうして拘束したんですから、“それらしい事”もしてみましょうよ」
「それらしい事……ですか?」
四肢を繋がれて固定され、身じろぎする度に鎖が鳴る。膝も閉じられない状態になる事は思った以上に恥ずかしい。
本当はすぐにでも外してほしかったが、わざわざ用意したはずの拘束具をすぐに外したがっては、本当に自分の為に用意したのか疑われてしまうかもしれない。
よく分からない提案をするロイドさんからは、悪意は感じられない。それに“無理矢理には触らない”とも言ってくれている。
いつも紳士的なロイドさんが、約束を破るとは思えない。
「……分かりました。見ているだけで、いいんですね?」
「ええ、見ているだけです」
頷いた私に満足そうに微笑んだロイドさんは、部屋を出ていくとすぐに戻ってきた。
手には避妊具の入ったあの箱を持っている。中からひとつを取り出すと、ロイドさんはにっこりと笑って言った。
「さあ、ヨルさん。勉強の時間です」
「え?」
「ヨルさんはウブ過ぎて、前から心配だったんです。会話などから いつかボロが出てしまうんじゃないかとね。いい機会なので少し夜の夫婦生活について、学んでおきましょう」
「よよよ夜の夫婦生活!?」
「もちろん、約束は守りますから安心してください。ヨルさんが望まない事は決してしません」
ロイドさんがベッドに上がり、ギシッと小さく鳴る。
「え、あの――」
戸惑う私に馬乗りになったロイドさんが、ズボンの前を開けた。
「まずは――男性器がどんな感じのものか、見てもらいましょうか」
「へ……?」
下ろされた下着から、男性器がボロン、と出てくる。
勃起前の陰茎は柔軟で、子供の頃見たユーリのものとは大きさも全然違っていた。
――“それらしい事”って、こういう事―― !?
卒倒しそうになった私を、鎖の音が現実に引き戻す。
「……い、意外と柔らかそうなものなんですね」
初めて見る男性器にぐるぐるしながらも何か言わなければと焦って言うと、ロイドさんは悪戯っぽく片目をつぶる。
「さあ、どうでしょうね」
ロイドさんは陰茎を握り、ニュク、ニュク、と扱き始めた。
ひと扱きごとにグン、と大きくなっていくそれを目の前に、見てはいけないものを覗き見てしまったように目が離せない。
これまではぼんやりとソーセージのような単純な肉棒を想像していたけれど、実際に目の当たりにした血管の浮き出た陰茎の生々しい造形に、背筋がゾクゾクする。
「はっ……っ……」
気持ちよさそうに息を乱すロイドさんの表情に、こちらまで変な気分になってしまう。
やがて反り返った陰茎から手を離したロイドさんは、避妊具を取り上げた。
「この中を開いてみた事は?」
「ないです……」
「では、どんなものなのか、どうやって使うのか、知っておきましょうね」
ピリ、と袋を破って取り出した丸くて薄い避妊具を、陰茎の先にあてがう。
「……こうして亀頭に軽く被せて、ゆっくりと下ろします」
端をくるくると被せていく様子に、こんな時ながらよくできていると感心してしまった。
「はい、これで準備完了」
ロイドさんはぴっちりと薄いゴムで覆われた陰茎を、再び扱き出す。
「ふぅ――ッん……」
充分大きくなったと思っていたのに、ビク、ビクッと脈打ちながら更に太く長くなっていく様子を見て、下腹部に甘い痛みが走った。
――凄い……こんなに大きくなるんだ……
「っあ――ヨルさんっ、そろそろ出ます……よく見ていて――っ」
ハアハアと苦しそうなロイドさんの手つきが速くなり、やがてグッと歯を食いしばった。
「ウグッ――う、クッ!」
ビュルルッ、と避妊具の先に白濁液が溜まっていく。
――あれが、精液……
肩で荒い息を吐いていたロイドさんは少しして息が治まると、タプンと揺れる部分から中身がこぼれないようにゆっくり避妊具を抜き取って、口を縛った。
「……ね? 飛び散らないから汚れないし、後の処理も簡単で、避妊具は自慰にも使えるんですよ」
そう言って照れくさそうに笑うロイドさんの陰茎は、射精前ほどではないけれど反り返ったままだ。
「あの、ロイドさん。それ……」
「はは……すみません、一度では治まらなくて……ヨルさんに見られていると思ったら、思いの外、興奮してしまったようです」
半勃ちの陰茎をズボンの中に無理矢理収める。
「その……大丈夫なのですか?」
「ああ、後でもう一度抜きますから。それよりもヨルさん、拘束されて苦しくないですか? 今日はもう外しましょう」
「え……」
どうしてロイドさんは、こんな私に、こんなにも気遣ってくれるのだろう?
拘束具を見た時も、驚いてはいたけれど軽蔑するでもなく受け入れ、こうして私の嘘を疑いもせずに信じて、受け入れてくれた。
家事はほとんどできず、完璧な妻役も母役も演じられているとは言えないのに、文句や嫌味のひとつも言わない。
それに、アーニャさんがいる事もあるかもしれないが、夜のお相手を強要する事もしない。
いつも穏やかで、頼りがいがあって、私が普通とは違う部分も、理解を示してくれる。
こんな完璧な男性が、どうして私なんかを選んで――
拘束具を外すと、俺は自分の部屋に戻ろうと立ち上がった。
「じゃあヨルさん、おやすみなさい」
「あの、待ってください、ロイドさん」
ヨルさんが腕を取り、引き止める。
「どうしました?」
「あ、その……」
少し逡巡したヨルさんは、顔を上げ、決意を込めた瞳で見つめた。
「私に、もっと色々教えていただけませんか?」
「それは――夜の夫婦生活について、という事ですか?」
「はい。偽りの夫婦であるのは分かっています。だけどいつも私ばかりが貰ってばかりで、私もロイドさんにほんの少しでもお返しがしたくて――」
キスですら恥ずかしがっていたかと思えば、こっそりと拘束具を購入していたりする。性に対して興味はあるが、知識と経験がないが故に怖さと恥ずかしさが先んじてしまうといったところか。そして彼女もその事に自覚があるから、こうして勇気を出したのだろう。
「ヨルさん、僕の言葉、覚えてますか?」
「え……?」
「僕はさっき、“ヨルさんが望まない事は決してしない”と約束しました。それはつまり、“ヨルさんが望むのならなんでもする”という事ですよ」
ヨルさんがパッと表情を明るくする。
「それじゃ――」
「ええ、とりあえず、そんな会話になった時に怪しまれない程度には一通り教えますね」
「はい! 私、頑張ります!」
「まずは、キスくらいはできるようになりましょうか」
なにしろ恥ずかしがり過ぎて弟を張り飛ばすくらいだ。
「前にユーリ君が遊びにきた時は凄かったですもんね。彼、壁まで吹っ飛んでましたっけ」
思い出してくすりと笑うと、彼女は悲鳴を上げる。
「それはもう忘れてください! その時の反省も踏まえて、これからロイドさんに教えていただくんですから!」
少し思い詰めた様子だったヨルさんの雰囲気が緩んだ。
「どうしますか? せっかく拘束具もありますし、一応手枷だけでもつけておきます?」
「いえ、さっきロイドさんが自慰を見せてくださったので、吹っ切れたというか、今度は大丈夫な気がします」
本当に大丈夫だろうか? 俺、殴り飛ばされたりしない? ……などとはおくびにも出さず、「では」と腰に手を回して抱き寄せると、途端に彼女はギュッと顔に力を入れた。
軽い緊張や恥ずかしさはいいスパイスになるが、過度のそれは、ヨルさんにとって拒絶に繋がってしまう。
――なにか、緊張を緩めるものがあれば――…。
「そうだ。ヨルさん、少し待っていてもらえますか?」
キッチンに行って、冷蔵庫から目当ての箱を取ってくる。
「お待たせしました」
ヨルさんの顎をクイッと持ち上げると、ほんのりと冷たいボンボンを唇に触れさせた。
「?」
「……僕が持っているので、このままこれをゆっくりと舐めてください」
ヨルさんは頷き、舌を出してチロチロと舐め始める。
口を開き、舌を出して動かす事で顔の強張りは解けていき、甘い食感が緊張をほぐしてくれたようだ。
「ん……♡」
無心に舌を蠢かせる様子に、色々しているうちに萎えたはずの股間がピクリと反応する。
「……あ」
砂糖部分が破れたのか、ヨルさんが小さく声を上げたところでボンボンを取り上げ、中のリキュールを煽ると、唇を重ねた。
「んむっ!?」
いきなり大人のキスはハードルが高かったかもしれないと思いつつ、甘いバラの香りを二人で舌を絡ませて味わう。やがてキスが気持ちいい行為だと気付いたヨルさんは、恥ずかしそうにしながらも、俺がする事を真似し始めた。
ぬるぬると舌を絡め、擦り合い、吸い、互いの唾液を味わう。
「……とても上手ですよ、ヨルさん」
「ロイドさん……もっと……♡」
トロンとした目でねだるヨルさんの、普段は見せない表情にゾクゾクする。
「じゃあ、次はひとつのボンボンを二人で味わいましょうか」
「はい」
砂糖菓子をひとつ口に放り込み、舌先に乗せて見せると、彼女は何も言わなくても自分から唇を合わせた。
二人で貪るように、口の中のボンボンを転がし合う。
「ん……んぅ……美味ひぃ……♡」
やがてボンボンがなくなり、味の余韻も消えると、ヨルさんは名残惜しそうに唇を離した。
「…………」
もじもじと、ヨルさんが何かを気にしている。
「もしかして……濡れちゃいました?」
「っ!」
言い当てられて顔を真っ赤にした彼女は、それでも素直に肯定した。
「~~~~~~~はい……」
「パジャマ、脱いでしまいましょうか」
頷いたヨルさんはネグリジェを胸元までたくし上げ、裾を持って、グイッと腕を上げて首を抜いた。
上げる時、布地で持ち上げられた乳房が落ちて露わになり、ぷるんと揺れる様子を目に焼き付けた事は彼女には内緒だ。
ツンと上向きの形のいい乳房に、無駄のない身体のライン。長い手脚。
小さな怪我の痕が複数あるが、護身術の覚えがあるという事だから、稽古や修行などで負った傷だろう。
「ヨルさんは本当にスタイルがいいですね。とても――綺麗です」
「そんな事……」
彼女は恥ずかしそうに、両腕で大切な部分を隠す。
「本当に――こんなに綺麗で素敵なひとが今まで経験ないなんて――奇跡としか思えません。周りの男の目は余程の節穴だったのでしょうね」
彼女の耳元に顔を寄せて、囁く。
「でも僕は感謝もしているんです。こんなに素敵なひとの、初めてになれる栄誉と幸運に」
褒められる事に慣れていないのか、ヨルさんが申し訳なさそうに言った。
「そんなに気遣ってくださらなくても大丈夫ですから……」
「気遣うだなんて、そんな。思った事を言ったまでです」
「ロイドさんは本当にお優しいですね」
なぜだか反射的に、言葉が出ていた。
「……僕はヨルさんが思うほど、いい人間ではありませんよ」
「え?」
何をやっているんだ、俺は。ここはいいひとだと信じ込ませておけばいい場面じゃないか。
そう思うのに、口が勝手に動いてしまう。
「あなたが無防備に晒す肌やうなじが目に入る度、どれだけ触れたいと思っていたかを知らないでしょう? ヨルさんには嫌われたくない、僕たちは偽装の夫婦に過ぎないのだと、何度自分に言い聞かせ、手を伸ばしたいのを抑えた事か。あなたは僕の事を優しいと言ってくれますが、本当の僕は欲望の目であなたを見ていながら、一歩を踏み出す事もできない臆病者なんです。こんな風にあなたが断りづらい状況を利用して、“勉強”なんて耳障りのいい理由をつけないと、手も出せない男なんですよ」
苦く笑ってみせると、彼女は俺を励まそうと両手を握った。
「ロイドさん、それはきっと、死別された奥様をまだ愛しているからだと思います。臆病なのではなく、慎重になっているだけですよ。心のどこかで、奥様以外の女性と偽りでも結婚した事を後ろめたく思っていらっしゃるのではないでしょうか」
少し、驚いた。
あまり他人の詮索をする性質ではないヨルさんが、そんな風に思ってくれていたとは。
「……ねえ、ヨルさん。確かに僕たちの関係は利害の一致から始まったものだけれど、共に過ごすうちに生まれた感情だって大切にしてもいいと思うんです。例え偽物でも、今夜は夫婦の絆を確かめ合う、いい機会だと思いませんか?」
ロイドさんが壊れ物でも扱うように優しく、唇を重ねる。
先程までの激しさはなく、ただひたすらに優しく甘いキス。
「……順番が逆になってしまいましたね。大抵は、こんなキスから始まって、だんだんと深くなっていくんですが」
「でもかえってそれがよかったのかも。酔っていて覚えていませんが、前に私、ロイドさんを蹴り上げてしまったと聞いていますし」
「今夜は蹴られなくて、よかったです」
いやに感じ入るようにしみじみと言われてしまい、何度も謝る私をロイドさんは笑って許してくれてから、ボンボンを手に取った。
あの身体の芯が溶けてしまいそうなキスをもう一度するのだと思うと、下腹部の奥がキュウッと甘く疼き出す。
私は砂糖菓子を口元に持ってきたロイドさんの手をそっと押し戻した。
「それはもう必要ありません」
驚いた顔のロイドさんが一転、艶めかしい微笑みに変わり、初めて目にする雄の表情にゾクゾクッと背中が震えてしまう。
「では次のステップに進みましょうか」
「んっ――んうっ―――ぁ…♡」
顎に唾液が伝うのも構わずに舌を絡ませる深いキスをしながら、乳房を愛撫される。
――ロイドさんの手、大きくて温かい……
包まれるように揉まれて、自分で触れても感じる事のない昂りでお腹の奥が痛いくらいだ。
ロイドさんは身体の向きを少し変え、耳に舌を差し込んだ。
「ひっ!?」
間近に感じる乱れた熱い息と、ぬるぬると舌を捻じ込まれて耳の中から犯されているような感触、ぴちゃぴちゃという音が、これからする事を予感させて首筋がぞわっとする。
「ヨルさん、鳥肌――耳はお嫌いですか?」
「初めての感覚なので分からないですが……たぶん、好き、です……」
「そう? ならよかった」
ロイドさんが乳房の中心で触れられるのを待つようにツンと勃っている乳首を摘まみ上げた。
「んああぁぁっ♡」
思わず変な声が出てしまい、恥ずかしくて顔を隠すと、ロイドさんが少し慌てたように手を離す。
「す、すみません、強過ぎましたか?」
「いえ、あの……こんなに感じてしまった事がないので……声、次からは気を付けます」
ロイドさんはクスッと笑った。
「ここはもうあなたの家なのだから、好きなだけ声を上げてもいいんですよ? もちろん近所迷惑にならない程度にですが。でも、そうですね……指で触れるのが強いなら――」
胸元に顔を近づけたロイドさんはおもむろに乳首を優しく吸う。
「あぁっ♡」
チュッ、チュッと乳房に顔をうずめるロイドさんが、なんだか可愛らしい。
「赤ちゃんみたい……」
ついポロッと言ってしまうと、ロイドさんは怒るどころか真剣な目を向けた。
「そうですね。もしも僕とヨルさんの子供が生まれたら、赤ん坊相手に本気で“この乳房は僕のものなのに”と嫉妬してしまいそうです」
「へ……!?」
どんな時でも私を一人の人間として尊重してくれるロイドさんだけど、女性として見てくれているかは怪しい感じだったので、まだ見ぬ相手にまで嫉妬を覗かせられて“嬉しい”と感じてしまう。
吸いながら舌先で乳首を弾かれる度にジンジンと更に敏感になって、腰が砕けそうだ。
「あ♡ ……っあ……♡」
耐え切れずにそわそわと膝を合わせている事に気付いたロイドさんは、太ももの間へ手を伸ばした。
指が触れると、下着越しなのにクチクチと音を立てる。
「ふふ……下着、ぐしょぐしょ。気持ち悪いでしょう? 脱がせるので少し腰上げて……」
恥ずかしさを抑えて素直に従うと、スルリと下着を下ろされ、秘部との間に糸を引いて垂れていく。
「こんなに濡らして――さっきお風呂に入ったばかりなのにね」
クスクスと笑いながら、ロイドさんがふと思いついたように私を見た。
「ヨルさんは自分の性器、見た事ありますか?」
「な!? ないです、ないです!」
カアッと赤い顔を更に赤くして、ヨルさんが両手を振って否定する。
「ではこの機会に、自分の身体の事もちゃんと知っておきましょう」
「ええ!?」
コンソールテーブルから鏡を持ってきて、彼女の脚の間に置き、角度を調整した。
「ほら……よく見て。こうして広げると――」
ひだを押さえ、クパ、と広げられた秘部は真っ赤に色づき、溢れる愛液でたっぷりと潤っていた。
「あ……」
初めて見たらしい自分の性器から視線を外す事ができないヨルさんに、言い知れない感情が湧いてくる。
「ヨルさん、ここ――こうして押さえて」
イケナイ事を教え込む背徳感と征服感にゾクゾクしながら、彼女に自分でひだを押さえさせた。
自分で性器を露わにする卑猥なポーズをさせる事で更に発情させる効果と共に、恥ずかしさが極まると手や足が出てしまいがちなヨルさんの手脚を固定させる。
「――ヨルさんのいやらしい部分がまる見えですね。では、僕が教えていきますんで、しっかりと覚えましょう」
秘部の上部の穴を指す。
「ここがおしっこの出る穴です。人によっては、潮を吹いたりもします」
彼女の下腹部に手を当て、被っている皮を持ち上げて陰核を剥き出す。
「この真っ赤に顔を出して勃起している突起がクリトリス。男性の亀頭に当たる部分です。後でたっぷり舐めてあげますね」
「舐め……!?」
期待なのか単なる反応なのか、陰核がヒクンと震えた。
「そしてこの穴が――」
熱い狭穴に中指を滑り込ませる。
「ヨルさんの大切な部分――子宮へと繋がる膣口です」
ヌチ、ヌチ、と抽送し、ふとある事に気付く。
「ん……ヨルさん、自慰は経験あるんですね」
「へ!?」
「だって、指一本ではなんだか物足りなさそうにして。二本ならどうかな?」
中指と薬指を突き立てると、膣内が痙攣しながら絡みついてきた。
「んんんうっ♡」
「ほら鏡見て、ヨルさんのここ――僕の指を二本、美味しそうに飲み込んでいますよ」
微妙に隙間があるせいで、突き立てる度にグプ、クププ、といやらしい音を立てる。
自慰の経験を言い当てられて恥ずかしかったのか耳まで真っ赤になった彼女は、また顔を隠してしまった。
「ダメですよ、ヨルさん。ちゃんと見て――あ、そうか。僕の指をしっかり感じたくて、見ないようにしているんですね。それなら実況しましょう」
鏡を床に下ろし、彼女の耳に顔を近づけて、熱い息といやらしい言葉を流し込む。
「感じますか? 根元まで突き立てられた僕の指を――熱い愛液がどんどん溢れてきて、ぬるぬるでトロトロで――でももっと濡らしておきましょうね。 この後、僕のモノを飲み込んでもらうんですから……そうだ、膣内の気持ちいいところもきちんと覚えておきましょうか」
挿入した指をグッと曲げて探ると、ある場所で「ひぅ♡」とヨルさんが可愛い声を上げた。
「……これがGスポット。ここで感じられるなんて、ヨルさんは才能ありますね」
「才、能……?」
「ええ、気持ちよくなれる才能です。この分なら、奥も期待できますね」
「奥って――?」
質問に答えず曖昧に微笑んでみせると、暴いた彼女の弱いところを弄り回す。
「や!? いけません、ロイドさん! そこ、なんだか変な感じで―― !」
「そのままその“変な感じ”に身を任せて――ああ、痙攣凄い……そんなに締めちゃって、ヨルさんエッチで可愛いです♡ ――もっともっと僕の指を感じてください」
完全にスイッチの入った彼女は、くねくねと身をよじってシーツを握った。
「あ♡ ああ♡ やぁ♡ 本当に変! 変な感じなのが――ッ!!」
膣内の痙攣と締め付けでタイミングを計り、指をスッと抜く。
「! ――っ?」
絶頂の直前で止められ、何が起きたのか分からないといった表情のヨルさんが、愛液をどろどろに纏って引き抜かれた指を見た。
「ロイド、さん……どう、して――?」
指の愛液を舐め取ってみせると、彼女は息を飲んでその様子を見つめ、下腹部を押さえる。
「どうしました、ヨルさん? 感じ過ぎちゃってつらい?」
「え? あ……」
息を乱し、涙目の彼女がふるふると震えて「はい……」と頷く。寸止めされ焦らされて、全身が快楽を求めて敏感になっているはずだ。
「では次へ進みましょうか」
避妊具をひとつ取り上げ、ヨルさんに渡す。
「練習してみましょう」
――練習!? 私がロイドさんに着けてあげるという事!?
「あの、それは、普通に世の奥様がしている事なのですか?」
「まあ、そうですね。夫婦に限らず恋人同士でも、相手が着けてくれると男は嬉しいかもしれません」
嬉しい……。
「ロイドさんは? 私が着けたら喜んでくれますか?」
「もちろんです。妻のエッチな姿を喜ばない夫はいません」
「わ、分かりました。頑張ります」
不器用に袋を破って避妊具を取り出し、先程見た自慰を思い出しながら、服を手早く脱いだロイドさんの股間に屈んだ。
陰茎の先っぽに、避妊具を被せる。
「そうです、そのまま巻き付けるように下ろしていって――焦らなくてもいいですから、爪だけ立てないよう注意して――そうそう、上手いですよ、ヨルさん」
出来上がりはシワが寄りかなりクシャクシャしているが、ロイドさんが止めないという事は一応大丈夫なのだろう。
「それで、これをどうするのかは分かっていますね?」
ビンビンに反り返った陰茎を見せつけるようにされ、お腹の奥がきゅんきゅんと疼く。
「ヨルさんの可愛いおねだり、期待しています♡」
さっき絶頂の直前まで昂ったせいで、はしたないと分かっていても目の前のものが欲しくてたまらない。
頭も身体も快楽を求めて理性と恥ずかしさを吹き飛ばし、私は寝転がって脚を開いた。
「ロ、ロイドさんの――ここに、ください」
「僕の、何をですか?」
「え? あ……」
――いつも優しいロイドさんが、意地悪――…
不思議と少し、ゾクッとした。
「お……」
「お?」
ロイドさんが陰茎を秘部へ擦り付けて、続きを促す。
「おちんちん――ロイドさんのおちんちんを……入れて、ください……♡」
生まれて初めて口にした卑猥な言葉の響きに、ゾクゾクしてしまう。
ロイドさんは「よくできました」とおでこにキスをしてから、亀頭を膣口にあてがった。
「安心してください。優しく、ゆっくりしますから」
一気に貫いてしまいたいのをこらえ、可能な限りゆっくりと挿入していく。
「――ッん……」
「……平気ですか、ヨルさん」
「は、はい……私、初めてなのに――身体中が痺れて、気持ちいいです……♡」
浅く乱れた息遣いで泣き笑いのような表情を浮かべるヨルさんに、心の奥から愛おしいという感情が溢れそうになった。
「ッ――」
――何をやっているんだ! 俺は任務の為ならハニートラップも辞さないスパイなんだぞ!
揺らぐ気持ちを追い払うように、ロイド・フォージャーとして妻を悦ばせている夫の仮面を被り直す。
「――さあ、ゆっくり、ゆっくり――擦ってあげますね♡」
これ以上できないほどゆっくり抽送し、狭い穴をじっくりと中から愛撫する。
「あ♡ あ♡ ……んんっ♡」
くねくねと身をよじらせて悶えるヨルさんから漏れる甘い声と、ヌチ、ニュチチ、と音を立てていた秘部の奥から熱い愛液が溢れ出てきた。
「ん♡ 少しずつ馴染んできたかな」
「ロイドさん……ゆっくりなの、切なくておかしくなってしまいそうです……」
「激しくしても?」
頷く彼女に、試しに強く腰を打ち付けてみる。
「んああぁ♡」
一気に深いところまで突き上げると、だいぶ下がってきていた子宮に亀頭が当たって押し込まれ、ヨルさんは腰を浮かせて仰け反った。
「苦しくないですか?」
「ロイドさんの先っぽが当たると、腰と頭がフワッとして気持ちいいです♡」
「ここが子宮口――ポルチオですよ。やっぱりヨルさん、素質がありますね」
「あの、ロイドさん――」
ヨルさんが恥ずかしそうにねだる。
「もっとしてください♡ 激しいのもゆっくりなのも、ロイドさんがしてくれる事全部、好き……♡」
「……!!?」
天然だとは思っていたが、こんなにも真っ直ぐに誘ってくる姿に、さすがに理性が利かなくなった。
「――は♡ 僕の妻はいやらしくてとても可愛いですね。いいでしょう、望み通りたっぷり味わわせてあげます。二人で色々な体位と性技を試して、一緒に覚えていきましょうね」
どのみちこれがハニートラップであろうとなかろうと、やる事はひとつなのだ。
そう自分に言い訳して思考を止め、シーツを握り締めてよがる彼女に腰を打ち付ける。アーニャの不在で、漏れる音を気にする必要もない。
腰を引きながら浅いGスポットをこね、一気に貫きながらポルチオを責める。
「あー♡ あっ♡ んあっ♡ ッああぁ♡」
奥に当たる度、声が止まらないヨルさんに圧し掛かると、すがるように抱きついてきた。
背中に回された手と密着する肌から伝わる体温が、愛おしさを掻き立てる。
きつかった蜜穴は俺を受け入れて馴染み、身体の内と外から余すところなく抱き締めて痙攣し、奥へと導こうとしていた。
「す、すみません、ロイドさん――はしたない声を上げて――…っ」
「いえ、ヨルさんが気持ちよくなってくれている証拠ですから――むしろ、僕こそ謝らないと」
「え?」
「ヨルさんが可愛過ぎて――もう、限界……!」
身体を起こし、両脚を抱え上げる。
「あ、あの――ロイドさ――んう!!?」
ただ彼女の奥を求めて、激しく腰を叩き付ける。
「急に……激し……!」
さっきまでの比ではない強さと速さで抉られ、擦られ、ヨルさんが耐え切れないように身体をよじる。
「ロ、ロイドさんっ……私っ、もう――っ!」
「オーガズムの時には、“イク”って言うんですよ」
「イク! ロイドさんっ――イクっ、イクッ! イクぅッ♡♡♡」
ヨルさんは涙を流して舌を突き出し、ビクッと身体を仰け反らせた。
「うぐッ――クゥッ」
痙攣と締め付けに導かれて、しっかりと腰を抱えて奥まで挿入したまま精を解放する。
下半身が溶けてしまったかのような快感と、全身が甘く痺れた心地よい脱力感で、彼女の上に覆いかぶさった。
任務でたくさんの女性と関係を持ってきた俺が、こんな風に一瞬でも任務の事を忘れ、ただ愛おしさに任せて快楽を貪ってしまった事に戸惑う。
なぜだろうか、ヨルさんが相手だと、どうにも冷静でいられない。
ヨルさんが、俺の背中と頭に手を回してギュッと抱きついてきた。
「あ、す、すみません。重かったですよね」
起き上がろうとした俺を引き戻して、強く抱きとめる。
まだ息の乱れる彼女が微笑んだ。
「いいえ、いつだってロイドさんは私の事を支えてくだっているのですから、こんな時くらい私に寄りかかってください。いつでもこうして、受け止めますから」
その優しい、心からの言葉に、不覚にも涙が出そうになる。
自分だって初めてでいっぱいいっぱいだろうに。
「…………」
言葉が出てこず、黙ってヨルさんの身体を抱き締め、自分と同じ石鹸の香りのする肌に顔をうずめた。
こんな風に他人に甘えたのは、子供の時以来だろうか。
「……では、もう少しだけ、このままで――…」
おまけ 盗聴×安全日
――あった。やはりか……
ヨルさんが帰宅前に、“たまたま近くに寄ったから”と家を訪れたユーリ君が、水を一杯飲んで帰っていった。
通りから後姿が見えなくなるのを待ってから、キッチンを確認する。
思った通り、秘密警察がよく使う型の盗聴器が取り付けられていた。
――さて、これをどうするか……
すぐに外しては、かえって疑われてしまう。
適当な期間そのままにして当たり障りのない会話を聞かせておき、偶然見つけた風を装って処分するか――などと考えながら、夕食の準備に取り掛かる。
アーニャは今夜、ブラックベル家へお泊りで留守の予定だ。
あらかた仕上がり、もう少し煮込めば完成となったところで、タイミングよくヨルさんが帰宅する。
「おかえり、ヨルさん」
「ただいま、ロイドさん。いい香り! ポトフですか?」
鍋を覗き込んだ彼女は、嬉しそうに声を上げた。
「ええ、皿に盛ったら胡椒を挽きましょう。ちょっといい胡椒を手に入れたんです」
「じゃあ私、荷物を部屋に置いてきますね」
今日こそ、お前の本性を暴いてやる……!
そう息巻いて乗り込んだフォージャー家のキッチンに盗聴器を仕掛けた僕は、逸る気持ちを抑えてヘッドホンを着け、受信装置の電源を入れた。
『……ちょっ!? ヨルさん!?』
ロッティの焦る声が聞こえる。なんだか分からないけど、いいぞ姉さん。もっとあいつを困らせてやれ。
『せめて風呂に入ってから……いや、食事の後に――』
『らめれふ♡』
なぜか、姉さんの声がくぐもっている――と、それがうっとりとしたものに変わった。
『ロイドさんの雄の匂い……ゾクゾクしちゃいます♡ それにロイドさんだって、もうこんなに……♡」
『だっていきなりヨルさんが咥えるから――』
なんだ? 二人は一体、何をしているんだ?
『あ、あ……ヨルさんっ――そんなに強く吸ったら……っ!』
『んむッ―――んんっ♡」
しばらく無音が続き、微かにハアハアと荒い息遣いが聞こえる。
『……ヨルさん、フェラ、上手くなりましたね』
『ロイドさんに悦んでほしくて、いっぱい“お勉強”しましたから♡』
聞こえた単語に、時が止まった。
――は? フェラ? 今、フェラって言ったのか?
まさか、姉さんがそんな事――聞き違えに決まって――
『もう、夕食の前にそんなもの飲んで――ダメでしょう』
『だって……ロイドさんの精液、濃くって美味しいんですもの♡』
せせせせ精液!?
姉さんの口から出たとは信じられないセリフ。けれど声は確かに姉さんのものだ。
この盗聴器はキッチンに取り付けた。決して、寝室ではない。
こんな会話を聞かない為にキッチンに取り付けたはずだったのに、スイッチを入れた途端に行為の真っ最中だなんて、どうなっているんだ。
僕の後悔など露ほども知らない二人の睦事は続く。
――どうする、黄昏!?
積極的な妻に悦ぶ夫の表情を浮かべながら、内心ではとてつもなく焦っていた。
すでにスイッチの入ってしまったヨルさんを止められそうにない。
初めて交わった夜から、彼女はアーニャの見ていないところで――就寝後や帰宅前、出掛けている間など――キスやそれ以上の行為を求めるようになっていた。もちろん、そんなヨルさんに悪い気はせず、絆を深める為にも喜んで応えていたのだが、さすがにキッチンで襲われ――誘われるとは思っていなかった。
しかも、ここには盗聴器がある。
彼女の弟が聞いているところで、いやらしい事を言ったり、したりしているのだと思うと、申し訳なさと同時に、優越感のような不思議な感情が湧いてきた。
――いや、見方を変えれば、これは好機だ
これだけ仲良くしているのを聞かせれば、二度と「目の前でキスをしろ」などとは言い出さないだろう。それに自分から言い出しておいて唇が重なる直前に取り乱して止めにかかった彼の事、明日にでも盗聴器を外しに来るはずだ。なんなら今頃、受信装置の方を壊してしまっているかもしれない。
『……ロイドさん、早く♡――早く来てください♡』
『まったく……食事の前なのに、そんな可愛いおねだりをされたら僕だって我慢できませんよ?』
『私、今日とってもいい事を、カミラさんたちに教えていただいたんです』
『うん……?』
『安全日の数え方♡ 計算したら、ちょうど今日で――だから今夜は避妊具なしで――♡』
『……もう、ヨルさんはどこまで僕を溺れさせるつもりですか?』
衣擦れの音がしたと思うと、姉さんが甘い声を上げる。
『んああぁぁあ♡ 凄い、凄いの! ロイドさんを直に感じるの、気持ちいいっ!』
『んっ――ヨルさんの中、いつもより熱――ッ』
『もっと、もっと♡』とねだる姉さんに応えるように、腰を打ち付ける音がパンッ、パンッと響く。
『好きっ♡ 好きっ♡ カリがゴリゴリって中を擦るの、好きぃ♡』
姉さんが――優しくて綺麗でたったひとりの家族である姉さんが、僕と結婚してくれるって約束してくれた姉さんが、あんな男に自分から生挿入をねだって、悦びの声を上げている――。
『いくよ、ヨル! 奥で受け止めて!』
『私も♡ もうっ、イッちゃう! イク! イクッ! イクうッ♡♡♡』
ヘッドホンから流し込まれる音声に耐え切れず、乱暴にむしり取ったそれを床に叩き付けると、接続部が抜けて部屋に嬌声が響いた。
『ああぁ♡ ロイドさんの精液が奥にいっぱい出てるっ♡ 注がれてる♡』
翌日。
乱暴に鳴らされた呼鈴に出てみると、ユーリ君が涙目で立っていたのは言うまでもない。
拘束具もボンボンも、恥ずかしいと手や足が出るヨルさんをとにかくなんとか“その気”にする為の小道具です。初めは拘束したままあれやこれやするつもりでしたが、紳士なロイドさんがそれを許してくれませんでした。(>_<)!?
ボンボン、綺麗で美味しいですよね~
ボンボンというとチョコレートボンボンの方が主流っぽいですが、以前山梨のお土産屋さんで買ったワイン入りのボンボンが美味しかったので、ヨルさんっぽいデザインで登場させてみました。実際にあるかは分かりませんが、あったらきっと綺麗(*´ω`*)