エロないよ(笑)
本当にエロないから見なくても大丈夫です。
花畑が広がっていた。
色鮮やかな華々の咲き誇るそれは、かつていた弟子の一人が好きだった魔法で作り出したものだ。
ゼーリエは、そこに懐古、そして静寂と共に佇んでいた。
そして、その静寂は一人の来訪により切り裂かれる。
「ゼーリエ様、文が届いたのですが……」
ゼーリエは溜め息をついた。
文など幾らでも届く。やれ外交の話だの、魔法の話だのと、各地のお偉方から届く手紙は数えきれないほど来る。そしてその処理は弟子たちに任せてあるというのに………
訪れたのは、その任せた弟子のうちの一人だった。
「お前たちに任せてあるだろう」
「いえ、それが………私どもでも気付かぬうちに、
ゼーリエ様の椅子の上に置かれており………」
「はあ?」
ゼーリエは首を傾げる。
その弟子も困惑しているようだった。
弟子たちの中には魔力探知に長けた者も多い。それが何人もいておきながら、いつの間にか?有り得ないとも思ったが、だが同時に、そんな悪戯を仕掛けそうな知人を思い起こす。
「読み上げ……いや、見せろ」
「……よろしいのですか?」
「構わん」
ゼーリエは弟子から手渡された手紙の封を解く。
強力な封印が施されたそれも、ゼーリエにとっては簡単な、だが、とても古く、懐かしい魔法でもあった。
そして、その文字に目を通す。
何より先に、その名を探して───────見つけた。
「はっ………まだ、生きていたか」
ゼーリエは笑った。
直近では〝人間を殺す魔法〟を〝一般攻撃魔法〟への転用を思案し、そしてそれに伴う防御魔法の〝人を殺す魔法〟への耐性の付与、その一般化を提案
『〝飽きた。勝手にやれ〟』
ゼーリエはそれだけ言われ、そして風のように姿を消した。そして今、こうして文を送ってきた、ある男を思い出す。
その姿を、鮮明に。
大剣を片手に振るい、時には杖を以て魔法まで振るう。
ひたすら、ただひたすら魔物を屠り続けていたその姿を。
そして、その場に腰を下ろして手紙に目を通す。
『服従させる魔法』を会得したこと。
七崩賢の魔族、そしてもう一人の魔族を捕えたこと。
それはまるでレポートのような、淡々としたもの。
だが所々の文字から、ゼーリエは懐かしさを感じた。
そして。
「………えぇ」
それら魔族の〝使い心地〟と〝結果〟についてまで。
全く、あの男は、本当によく分からない。時折名乗っていた研究者気質ではあるのだろうが、飽きやすかったり、時には執着したり、それが遥か昔に見た戦いにも顕著だった。
それがまさか、魔族の肉体に向かうとは。
恐ろしいものだと、ゼーリエは軽く引いた。
「…………………止めた方がいいのか?これは」
ゼーリエは考えた。
この男、研究のためならば何でもする男だ。魔族への恨みはあるだろうが、とはいえその研究が人間にまで向かい出せば流石に不味い。その辺の倫理は弁えてはいそうだが………
と、その時、文を持ってきた弟子が口を開いた。
「ゼーリエ様、その手紙の………
差出人が何者か、聞いてもよろしいでしょうか?」
「…………あぁ、そうだな。
伝えておいた方がいいだろうな」
ゼーリエは、昔話を語り出す。
────
───────
〝珍しい客だ〟
言う。
リーニエが客だと言い引っ込んだが、出てきてみればさて、客にしても魔族ではないか。兜から伸びる二本の角、そして両手に握られた巨大な斧。………どこかで見た気がする。
「……人間か。まぁいい、一つ聞くぞ」
〝聞こう〟
「お前が断頭台のアウラを葬った人間か」
〝倒した、という点では間違いではないな〟
笑う。
今やアウラは最早、ただ欲しがるだけの獣だ。かつての名、断頭台をまた聞くことになろうとは思わず、故に笑った。
魔族もまた、笑みを浮かべる。
「礼を言ってやろう。
『服従させる魔法』が切れ、まさかとは思ったが……
俺もまた従えさせられていたうちの一人でな」
〝魔族に礼を言われるとは、久し振りだな〟
「その短い命の中でか?
クク、珍しいこともあるものだ。
魔族とそう何度も相対し、生きているとはな」
魔族が構えると同時に、背中の大剣の柄を掴んだ。
どうやら、抜かせてくれるらしい。
〝お前たち大魔族がそうであるように〟
大剣を固定するベルトがバチン、と激しい音を立てて外れ、地面に落ちる。久方ぶりに、身体を動かしたい気分だった。
〝俺の名を知り、生きていた者はそういない。
少々、長く生きてきてな〟
「成程な。では名乗ってやるとしよう。
俺はグロース。人間は、戦斧のグロースと呼ぶ。
俺の名前をこそ、貴様の死出に覚えていくがいい」
思い出した。魔族のなかでも武を極めた将軍。
そのうちの一人の名が、確かそんな名前をしていたか。
〝ならば────────〟
ただ、その魔族に大剣を向ける。
研究サンプルは二匹で十分。これ以上は不要だ。
────
────────
ゼーリエは語り聞かせる。
「古い時代、とある人間の研究者がいた」
「その研究者は長く続く戦いに対して、こう考えた」
「人間の成長力、そしてエルフの長寿があれば」
「遥かに強い存在が生まれるのではないかと」
「そうして、生まれたものがあったそうだ」
「生まれたそれは、おぞましいものだった」
「研究者はその赤子を捨てたらしいが、
だが、エルフの親に里へと連れられていったらしい」
「エルフの里は、古い魔族によって焼かれたが…………」
「そいつはまだ、生きている」
「私がまだ、お前たちのように未熟だった頃の話だ」
ゼーリエは、思い出す。
濁りきった男の目を。
だがそれ故に透き通った重い剣筋と、洗練された魔法を。
─────
─────────
〝ならば〟
〝誰にもなれず、誰でもない。ただの半端者〟
〝我が剣を、その骨肉に、その死に、刻むがいい〟
〝俺の名は──────────〟
誰でもない男は、大剣を振るう。