【質問】男にしか扱えない精霊術を鍛える学園と聞いて入学したのですが、俺以外は全員女ってどういう事ですかねー!? ~【学園からの回答】見なかった事にしてください! 何でもしますから!(全裸土下座)~ 作:信頼できる語り手
高次存在である精霊にとって、人間は赤ん坊のようなものだ。
これは師匠が言った比喩表現だが、精霊術の教科書に載せたいレベルで的を射た言葉だと思う。……ってか、カウンターフィト霊脈学園の指定参考書にちゃっかり載ってた。さす師匠。ちなみに、印税の受取人はアリオトである。
精霊は大人、人間は赤ん坊。そう考えると色々と辻褄が合う。
よほどの極悪人でない限り、理由もなく赤ん坊を蹴ったり殴ったりはしない。泣いていたら助けてあげようとするし、大人の汚い部分が目に入らないように配慮もする。
でもさぁ……考えてみてくれ。そんな大人達が普段から優しさの塊だと思うか? 部下や後輩に同じ顔で接してると思うか?
あくまで、スイッチを切り替えてるだけなんだよ。赤ん坊の価値観に『合わせてる』だけ。そして、合わせ続けるのにも限界がある。
今日から赤ん坊に成りきって託児所で過ごせ、って言われたらどうだ? どれだけ子供好きな人間でも、まず無理だろー?
そこを勘違いした奴は一流になれない。精霊が人間に友好的だからって対等な存在だと思い込むのは愚の骨頂。時限爆弾を処理するような緊張感を持って接するのが正しい心構えだ。
例外があるとすれば、カウンターフィト王国の独自システム……『守護霊』くらいか。
幼体の頃から1人の人間と共生する彼らは、自然霊と違って宿主に尽くす事が存在意義になっていく。だが……それでも、精霊は精霊だ。
──何かの拍子にスイッチが切り替わってしまう可能性は、ゼロではない。
「こんな都会でも、人間の手が入ってない自然の山ってあるんだなー。探険っぽくてテンション上がるぜー」
落ち葉の積もった山道……いや、道とすら言えない木々の隙間を掻き分けつつ、俺は感嘆の声を漏らす。
「メノウ・ルースケース。早く先に進みなさいな。これは刑務だという事をお忘れなく」
「分かってるってー。足先で安全確認しながら歩かないと、崩落したら洒落にならんだろー? 俺1人なら精霊術でどうとでもなるが、今はアンタらもいるから気を遣ってやってんだぜー?」
「……私達が足手まといだと仰いたいのかしら? 貴方は今、霊光騎士団に護衛されている身なのですわよ? 立場を弁えるように」
フェルカド・ローズクォーツ副団長が糸目を吊り上げる。おー、怖。反省してまーす。
「はっ、俺より弱い奴らに護衛されてもなー。そこのおっさんクラスならともかく」
「……え、僕ぅ!?」
うだつの上がらないサラリーマン風の眼鏡男性が、俺の言葉に表情を引き攣らせた。
「そ、そんな……僕なんて精霊も使えない弱者男性だし、普通に君達の方が優秀だからね? 公務員歴が無駄に長いだけで……。とほほ……おじさんも霊能者の才能が欲しかったよ……」
確かに、白髪のおっさんからは精霊の気配がほとんど感じられない。……恐ろしい事に。
(だとしたら、『アレ』は生身でやってるって事だろ? 1、2、3、4……)
おっさんの手元を凝視する。
(今……何回、剣を抜いた……?)
未舗装の山中で、何故か彼のスーツだけ全く汚れていない事。周囲の精霊が竜巻のように回転している事。微かに銀色の煌めきが視認できる事。そこから推察できる答えは1つだ。
おっさんは自身を妨げる全てを神速で『斬り』ながら歩いている。
(バラバラになって墜落する虫の死骸で、辛うじて何やってるのか分かるくらいだぜ)
達人の間合い。数人分の距離がある今でも見失うのだから、目の前まで迫られたら対処はほぼ不可能だ。
「おっさん、強いな。名前はー?」
「あ、あれ? 言ってなかったっけ……? 僕は『フォイル・ダイヤモンド』。剣術指南役とかやってるよ。よろしく、メノウ君」
「ダイヤモンド……もしかして、フェクダの親父かー!? うわー、全っ然似てないぜー!!」
「たはは……よく言われるなぁ……。まあ、性格が似ないのは仕方ないよ。ダイヤモンド家は自主性を重んじるから、実子にもあんまり干渉しないんだ」
フォイルが岩をぴょんと飛び越える。足場の悪い急斜面にも関わらず、平地のように危なげない身のこなしだ。
「意欲があれば技術は教えるけど、他人に押し付けられた信念は簡単に折れるからね。時間はかかっても自由にやらせる方が良い」
「なるほどなー」
そう言えば、フェクダの所属する武術サークル『剣戟倶楽部』も割りと自由な気風らしい。堅物に見えて意外と寛容な彼女の性格は家庭環境によるものなのだろうか。
「ところで、アンタの剣って……」
「ああ、分かるかい? 実体のないモノも斬れる特殊な剣……ダイヤモンド家に伝わる遺物だ。精霊が相手でも少しは戦えるよ」
フォイルは眼鏡をクイッと押し上げる。ううむ、フェクダの父親だけあって、キリッとしてるとイケメンだな。
「フォイル先生、ご歓談中申し訳ありませんが……そろそろ、目的地点に着きますわ」
「不審な霊気反応の調査、だったかな。僕は精霊の専門家じゃないからルカ君達に任せる……と言いたいところだけど……」
俺、フォイル、ルカ副団長の順で足を止める。他の騎士団員も一拍遅れて身構えた。ま、腐ってもエリート集団。流石に並みの学園生よりは勘が鋭いか。
「人……いや、男性の気配が2つ。若い方が僕達を指差してる。……気付かれたね」
「この殺気、明らかに敵ですわね」
「あー。ついでに言うとアイツら……」
敵のいる地点を中心として、木々がメキャメキャと放射状に倒れていく。
「多分、本物の『霊能者』だぜー」
霊能者(男)の実力はピンキリである。
俺の知る中だとアレキサンドライトが別格、師匠が天井、隠秘哲学の老紳士が一流、ショッパーが中堅、他が雑魚ってとこか。若年層の実力者は極端に少ない。
霊能者の地味に深刻な問題が指導者不足だ。精霊術は感覚的な部分が多いので、どうしても付きっきりで教える必要がある。しかし、そこまでしてくれる人はなかなかいない。
ぶっちゃけ、霊能者の素質があればそれだけで生きていけるしな。後進の教育とかは完全な慈善事業だ。
ただ、一部の天才は指導者が不在でもある程度のラインまでは自力で到達する。ショッパーの奴が良い例だろう。神格精霊が味方にいなかったら、そこそこ手こずったはずだ。
だから、指導者がいない事は不運だが最悪ではない。最悪なのは……。
「チッ……。おい、何モタモタしてんだよ、ビルジ。テメェの成長の為に連れてきてやったんだから、休まず働けや!」
無能な自称指導者に当たった場合である。
「ご、ごめんなさい……。で、でも、先輩。騎士団の人達は気絶させましたし、誰も逃げられないように山全体の土着精霊を掌握して……」
「んなもん、霊能者なら誰でも簡単にできんだよ、愚図が!」
できてたまるか。霊能者の知識を持つ人間が少ないからって適当言い過ぎだろ、コイツ。
「で? 他にやる事は?」
「えっと……? 先輩……何をやれば……」
「チッ……オレに訊くなよ。自分で考えろ」
先輩と呼ばれた男の苛立ち混じりの舌打ちに、ビルジと呼ばれた少年の目が泳ぐ。彼は明らかに萎縮していた。
「隠秘哲学の邪魔をしてくるメノウ・ルースケースを殺すんだよ! さっさとやれ!」
自分で考えさせないのかよ。
「え、先輩!? あの……ボスの命令は生け捕りで……。本当に殺すんですか……?」
「そう言ってんだろ。チッ……話聴いとけよ」
いや、確認しない方が不味いだろ。隠秘哲学は何でこんな奴を仲間にしてんだ……?
「ごめん、メノウ君。今、どういう状況かな?」
フォイルがこっそり俺の肩を叩いてくる。
「あの若い方の霊能者が初手で衝撃波を撃ってきた。精霊術の早撃ちが上手過ぎて、俺もアンタ1人を庇うのが精一杯でな。騎士団員は全員バタンキューだぜー」
「あの子、強いのかい?」
「天才だなー。完全な我流で広範囲の精霊を自在に操ってる。精度が半端ない」
あの先輩とやらが基礎を教えたわけじゃないだろうしな。何せ、先輩の方はまるで精霊の扱いがなってない。霊気の流れの雑さを見るに、一般学園生でも余裕で倒せる。
「ま、俺の方が天才だけどー。でも、一刻も早く倒さないとヤバいかもなー」
「何故……ですの?」
「おー、副団長生きてた」
「勝手に殺さないでくださいまし」
そういや、忍者は精霊に耐性があるんだったな。フィジカルつよつよ組が生き残ったのは良いが、この状況ではどちらかと言うと頭脳タイプの味方が欲しいんだよなー。
「端的に説明するぜー? アイツら、多分……神を降ろそうとしてる。この山全体に神格精霊を呼び込む仕掛けが刻まれてるからなー」
「で、僕は何を斬れば良いんだい?」
「アンタらは対人戦だ。天才少年の集中力を乱してくれれば、俺がその間に神降ろしの術を解体する。ちょっと背中触るぜー」
俺は手持ちの精霊をフォイルに纏わせる。
「おお、これは凄いね……! 力が漲ってくる……! 霊能者はこんな事もできるのか!」
自身に精霊を降ろすだけの霊媒と違い、霊能者は集団戦でも大きな役割を持てる。そりゃ、全盛期のカウンターフィト王国は最強だっただろうよ。
「──今なら山ごと斬れそうだ」
「っ! 先輩、来ます!!」
ビルジと呼ばれた少年が警戒の声を発した。
「んな事は分かってる! テメェは……」
「本当に分かってらして?」
「……ぅが!?」
敵の肩に血の華が咲く。フェルカド・ローズクォーツが投げた棒手裏剣だ。
「先輩……!? この……っ!!」
ビルジが精霊を飛ばして仲間を庇う。
「悪いね。容赦はしないよ。──遺物『形無』」
「くっ……! アレキサンドライト様、自分に力をお貸しください……!」
戦闘が始まった。
俺は木の幹に寄りかかりながら、神降ろしの術の詳細を把握しようと試みる。
「こりゃあれだなー。術が独立して構築されてるなー。ビルジを倒したら解けるようなヌルい仕様じゃなさそうだ。ひゅー、やるじゃん」
細部まで丁寧な仕事振り。一流の技術を持った霊能者がたまたま同行してなければ、マジで詰んでたかもな。
「ほー、ほー、ほーいっと」
パズルのように組み合わさった精霊を1体1体無力化する過程で、それっぽいフェイクが多数仕込まれてる事に気付く。そのせいで、なかなか根幹部分を潰せない。
「一旦、守護霊の力で停止させるかー? いや、流石に安直だな。誘導装置と制御装置の停止順番を間違えたら最悪だぜー」
神を誘き寄せるからには制御する算段があるのだろう。そう考えた俺は、術の意図を解読する事に集中する。深く、もっと深く。
「さーて、呼び出す予定の神格精霊はー?」
やっぱ、山に関わる神か? いや、制御の事を考えたら、敢えてアウェーの神を呼んでランクを落とす手もある。
そう考えていた俺は今日一番の衝撃を受けた。
「……。……は? ラン……ダム……!?」
……確かに、才能ある霊能者なら完全な無作為で神を招く事はできる。人間側の都合で釣り上げるのではなく、場を整えて神格精霊が入ってくるのを待てば良い。
メリットは神のランク上限がなくなる事だ。術者が提示できる最高条件を餌に、ワンチャンとんでもない神を呼べる可能性が生まれる。
だが、普通はやらない。何故って……。
「チッ……ビルジ、早く片付け……げぼっ……! ガ……痒……!? ギイアアアア……ッ!!」
自分が死んだら意味ないだろ?
「ああ、良かった。間に合った」
ビルジが安堵の笑みを漏らした。
「困りますよ。神を呼び込む前に先輩を殺されちゃ。この人には臨時の依代になって貰う予定だったんですから」
「何だい、あれは……!? 人が怪物に変貌していく……!!」
毛虫? 蝙蝠? あらゆる生き物から人間が生理的嫌悪を抱く部位のみを集めたような……悍ましい化け物が現れる。
「怪物とは心外ですね。これが神本来の姿。人の形にこだわらない最適形態ですよ」
依代に全く配慮せず、心身を滅茶苦茶に崩壊させる精霊。それは俺達の業界ではこう呼称されていた。
──悪霊。
「アンタ……悪霊使いだったのか!!」
「あ、はい。どっちも使いますけど……人の悪意に染まった悪霊の方がコスパは上ですよね。何せ、人間を生け贄に捧げるだけで食い付いてくれますから」
斬撃によって全身に重傷を負っていたビルジだったが、悪霊の神の登場が形勢を逆転させる。
「きゃあっ!?」
「これは重いね……!」
カサカサと蠢く悪霊の脚が、ルカ副団長とフォイルを遠くに蹴り飛ばした。
「……コスパで、味方を使い捨てるのかよー」
「先輩も自分の成長を喜んでるはずです。外様で新米の自分が神格精霊を手に入れたとなれば、彼の殉職もアレキサンドライト様に評価して貰えるでしょう。2階級特進ってヤツですよ」
ビルジは悪びれる様子もなく微笑んだ。その腕がズシャリと地面に抜け落ちる。
「え……?」
あーあ。だから、言ったろ。自分が死んだら意味ないって。……ま、敵ながら同情はするぜ。こんな初歩の初歩を教えてくれる指導者にさえ巡り合えなかったアンタにはな。
「……ッ! ガッアアアア……ッ!!」
「うああああああ……っ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ……! 自分は隠秘哲学の幹部に……!!」
悪霊の神は2人目の生け贄の命を貪るように食い散らす。
「チッ、チッ……! ビルジ……シネ……!」
「生け贄の悪意を取り込んで制御できなくなったか。また面倒だなー」
こういう事故が起きるのが現場ってヤツだ。
「メノウ・ルースケース……ゴロズ……!!」
周囲の木が一瞬で枯れた。いや、削り取られたと言うべきか? 咄嗟に基本六術で障壁を展開するが、俺自身の体も無事では済まない。
「げほげほ……っ! あー、しまった。やらかした。今のは俺の対処ミスだぜ……」
血を吐く。これほどの深手を負うのは久し振りだ。学園に入ってからは初めてかもしれない。
「メノウ君……っ!? 大丈……」
「……おい、アンタ。やってくれたな」
何の概念を司る精霊だ? ああ、いや……もうそんな事『どうでも良い』か。
「……! ……!!」
血の粒が空中で静止した。山から自然のざわめきが消える。神すらも間抜けな姿勢で動きを止めていた。
「この体に……」
メノウ・ルースケースの中で『スイッチが切り替わる』。
「
──俺は『人間のフリ』を放棄した。
「喧嘩を売る相手を間違えたな、木っ端神格」
守護霊は王国に根付くシステムに過ぎない。
王国出身者が命を落とした場合、共生していた守護霊は自然に還る。……ただし、とある精霊だけは例外だった。
その精霊……『メノウ少年の守護霊』は宿主の死後も体内に留まり続けた。
守護霊にとっての最優先事項は、主を護る事である。
メノウの肉体にかかる負担を減らす為。そして、彼の願いを叶える為。守護霊は人間に擬態し、人間のスケールで生きる事を学んだ。
精霊としての本能を押し殺して、メノウの代わりに人としての生を積み上げていく。幸いにも精霊使いの常識において、彼は『少しズレた人間』の範疇に収まっているようだった。
師から人間の扱う技術も教わった。精霊が精霊術を使うなんて馬鹿げているが、こちらの方がメノウの体には負荷が少ない。
とにかく、彼にとって大事なのはメノウを護る事だ。メノウの身を脅かす者に容赦はしない。
主から譲り受けた体を深く傷付けられた場合に限り、彼は精霊本来の貌を取り戻す。
「最悪だ。失敗した。また親友の体を護り切れなかった。……何が悪かったんだろうな。原因は何だ? 隠秘哲学か? それとも……王国か? 俺は何を『終わらせ』れば良い?」
便宜上、こう呼ぼう。
──停止の神格精霊、メノウ・ルースケース。
「面倒だから纏めて潰すか」
王国の盾『ジャスパー・ルースケース』が生前に出会った精霊の中でも最強に分類される1体である。
(体が……動かない……っ!!)
「あの一瞬でここまで距離を詰めるとは。10年若けりゃ届いてたかもな、剣術使い」
目の前にいるのはメノウであって、メノウではない。剣を振りかぶった姿勢で停止したフォイル・ダイヤモンドは直感する。
(神の気配……! これは不味いね……)
かつての友、ジャスパー・ルースケースは言っていた。神格精霊には人間社会を破壊するだけの力が備わっている。人ができるのは無闇に神を刺激しない事だけだ、と。
会話ができても油断してはいけない。人と神ではスケールが違い過ぎる。
「久々だな、この枷が外れた感覚。ああ、世界が広い。……知ってるか? アンタら人間の尺度に合わせるのは、常にダイヤルを微調整するような窮屈さがあるんだぜ」
ビルジの呼び出した正体不明の悪霊が、抵抗もできずバラバラに引き千切られた。その残骸にメノウが腰かける。
「莫大な霊気を全て内側に向ける事で、俺はようやく人間の真似ができる。まあ、精霊に敏感な霊媒体質の連中は、無意識に俺の正体に気付いてたかもしれないが……」
一見すると普段と変わらない様子。ただ、その身から溢れる霊気の濃さは、それだけで空間を軋ませていた。
「……やっぱり、一度外向きに力を解放すると駄目だ。人間の思考をなぞってもスイッチが切り替わらない。元々、精霊ってのは力で解決する種族だからな」
メノウは呟きながら王都の方角を見る。
(下山するつもりか……! くっ、動け、体……! 今の彼を山から出してはいけない……!)
「邪魔する奴を全員潰して、王国を支配下に置く。それが正解だと思えちまう。……アイツや師匠なら何て言ったんだろうな……」
動けないフォイル。気絶した騎士団員。それら全て、既にメノウの眼中にはない。
停止の神格精霊は敗者達に背を向けた。
「ふふ……」
その背後。フォイルの傍に倒れていたフェルカド・ローズクォーツが音もなく起き上がる。
「やっと視えたわぁ、未来」
瞳を紅く輝かせた女性は長い舌で唇を舐めた。
「……!」
「フォイルはん、貸し1つやよ」
何かが肩に刺さる感覚と共に、フォイルの全身が自由を取り戻す。
「……これも忍びの里の秘術かい?」
「秘密。詮索せんといて。それにしても……」
ポラリス・ローズクォーツが囁く。
「その剣に捉えられぬモノなし。『砂斬り』と恐れられたあんさんが、子供相手に随分と苦戦してはるなぁ」
「……僕は精霊使いじゃないんだ。いつまでも君達のように若々しくはいられない。ジャスパーさんには悪いけど、王国の剣の肩書きはもう背負えないよ」
「子供できて丸ぅなったんやない? 昔はうちが泣くまでタコ殴りにしてきよったのに」
「降参宣言しながら背中を刺してきた悪ガキに責められたくはないね」
旧知の2人は早口で言葉を交わした。
「……で? 君が出てきたという事は何か勝算があるんだろう、無敗のポラリス。学園長として、メノウ君の弱点とか知ってたりするのかな?」
「勿論、知っとるよ。あの子はねぇ、ハニートラップが弱点や。せやから、うちがエッチな事してあげたら直ると思うわぁ。……とりあえず、寝技仕掛けられる距離まで近付かせてくれへん?」
「……君は本当に邪道な戦い方しかしないね」
「うちにとっては、褒め言葉どすぅ」
ポラリスの瞳が未来を覗く。どう足掻いても、停止の神格精霊に勝てる未来は視えなかった。
しかし、接触さえすればメノウを無力化するチャンスはある。何故なら、彼の魂は縁結びの神『フィラー』と繋がっているから。
男女を『仲良く』させる。その一点に関してのみ、フィラーはあらゆる神格を上回る。
(問題はフォイルはんや。前線に出らんなって、すっかり鈍ってしまっとる。あの悪霊使いなんて、全盛期の『砂斬り』なら瞬殺やったやろ。せめて、気力だけでも昔に戻って貰わんと)
ポラリスは作戦の成功率を上げる為、国防の先輩に活を入れる事にした。
「ちなみに、メノウはんなぁ。新入生やのに序列持ちを6人も抱いとるんよ。プレイボーイやと思わん?」
「……まあ、思春期の男女ならそういう事もあるんじゃないかい? 僕も若い頃は相応に……」
「そん中にあんさんの愛娘……フェクダはんがおっても、同じ事言えるん?」
ひらり、と。空中に静止していた木の葉が数枚、地面に舞い落ちる。
純粋な剣技のみなら歴代最強とも言われる鬼才『砂斬り』。非実体にも通じる剣の遺物『形無』。それらが組み合わさった結果として。
──超常現象を引き起こす霊気そのものを断つ、という離れ業が成立していた。
「少し、話を聞く必要があるかもね。……もうさっきみたいに不意討ちで『停止』させられたりはしない。霊気は全て、先手で斬る」
獰猛な笑み。その攻撃的な前傾姿勢こそが、王国の剣と呼ばれた彼本来の構えである。
(んー、戦いが終わった後が色々と大変そうやけど……堪忍してな、メノウはん)
ポラリスは内心で謝罪した。
第3回ヒロイン人気投票(殿堂入り除外)
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①赤:ドゥーベ・ルビー
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③白:フェクダ・ダイヤモンド
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④黒:メグレズ・オニキス
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⑤紫:アリオト・アメシスト
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⑥黄:ミザール・シトリン
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⑦緑:ベネトナシュ・エメラルド
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◎灰:スピカ・ゴッシェナイト