【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「ここは……………どこだ?」
ふと気づくと俺はそんな言葉を発していた。
まるで白昼夢を見ていたかのように先ほどまで何をしていたのか、その記憶が飛んでいる。
ぐるりと辺りを見回す。
中央に黄色いラインが引かれた廊下、蛍光灯の並んだ白い天井、それは俺のよく慣れ親しんだ光景だ。
「学校、か……」
我が母校たる穂群原学園、その廊下に俺はポツンと立っていた。
「…………」
何か、強烈な違和感がある。だがその違和感を突き止めようとすると思考にモヤがかかったようになって頭がうまく回らない。
何かとても……とても大事なことをしている最中だった気がする。
俺はなぜ、こんなところにいたのだったか……
「…………って、別に疑問に思うようなことでもないか」
俺は学生で、ここは学校だ。
制服も着ているし俺がここにいることに何の不思議もない。先ほどまでの記憶が少し飛んでいるがきっと疲れてボーッとしていたのだろう。
そう1人で納得すると、先ほどまで感じていた強烈な違和感も薄れるように消えていった。
「…………」
窓の外を見るとオレンジの色の夕焼けが目に入る。
地平線のギリギリで光を放つ太陽が、どこかコチラをじっと監視しているように空を照らしている。
何にせよ、もう授業も終わってすでに放課後となっているようだ、俺ももう家へ帰るとしよう。
そう思って足を踏み出そうとして……
「あら?どこ、行くの衛宮くん?」
振り向くとそこには遠坂がいた、彼女も制服を身に纏い、優雅に髪を掻き分けて俺に声をかけてくる。
「あぁ、遠坂……怪我はもう大丈夫なのか?」
「怪我?何の話?」
遠坂の顔を見た途端に何故か怪我のことを聞いてしまったが、何の話か分からないというように首を傾げられてしまう。
あれ……確か、遠坂は……何か、重い怪我を……
「っ…………?」
ぐらりと一瞬、目眩のような感覚に襲われる。
「立ちくらみ?ピンピンしてる私の心配するより自分の心配した方がいいんじゃない?」
ふらりとバランスを崩しそうになった俺を遠坂が支えてくれる、そう語る彼女の顔は確かに健康そのものだ。
何故か俺は遠坂が怪我をしていたと思い違いをしていたようだ。
「ちょっとフラッとしただけだ、ごめんな。そのせいで変なこと聞いちまった。じゃあ俺そろそろ帰るから」
遠坂に心配をかけまいと話を打ち切って帰路に着こうとする俺を遠坂がグッと腕を握って引き止めてくる。
「何言ってるのよ、家になんか帰る必要ないでしょ?それより早くいきましょ」
「えっ?行くってどこへ……」
俺の言葉を無視して遠坂は手を握ったままに歩き出し、仕方なしに俺もその後に続く。
「さっ、着いたわよ」
そうして困惑する俺が連れて来られた先は俺の所属する2-Cの教室だった。
「シロウ、待っていましたよ」
ガラリと扉を開けると教室の中には1人の少女がいた。
金色の艶やかな髪に青い瞳の少女……セイバーだ、他の生徒もいないガランとした教室の中、その中心でポツンと静かに立ち尽くしている。
「あれ、セイバー……何でこんなところにいるんだ?」
「おや、私もここのクラスメイトなのですからいる権利は当然あると思いますが……それとも留学生は余所者だと言いたいのですが?」
拗ねたようにプクッと頬を膨らませて見せるセイバー、いや、それにしても留学生だって?セイバーが?
一瞬、混乱しかけて……そういえばそうだったなと思い返す、セイバーはイギリスからの留学生でこのクラスの一員だ。
外国人らしい容姿のセイバーがこの慣れ親しんだ穂群原学園の制服を着ているのがどうにも違和感があって酷い言い方をしてしまった。
「あぁ、ごめん別に悪気があって言ったわけじゃないんだ。ただもう夕方なのにこんな時間まで何してるんだろうって……家に帰らなくていいのか?」
「家?そんなところに帰らなくてもずっと学校にいれば良いではありませんか」
「ずっと……って、そんなわけにはいかないだろう。下校時間が過ぎれば学校からは追い出される」
イギリスでだって学校で寝泊まりする習慣があるだなんて話は聞いたことがない。
「まぁまぁ、そんなことはどうでも良いではありませんか」
「そうそう、衛宮くんは真面目すぎるのよ」
だというのに、セイバーも遠坂も言葉をまるで取り合わないようにケラケラと笑う。
そんな2人を見ていると、なんだかどうにも会話が噛み合っていないような居心地の悪さを覚える。
「それよりほら、もっと楽しい話でもしましょうよ」
「そうですよシロウ、時間など気にせずここにいれば良いのです」
机の上にギシリと遠坂とセイバーが腰掛ける。はしたなく思い切り座るものだからその際にふわりとスカートの中が見えそうになって慌てて目を逸らす。
セイバー達はチラリとそんな俺の様子を横目に見ながらも今日の授業で先生がヘマをして面白かっただとか購買に並んだ新しいパンが美味しかっただとかそんな取り止めのない話を一方的にまくしたててくる。
しばらくは俺も適当に相槌をして話を聞いていたのだが、そうしているとなんだか焦燥感というか早くここから立ち去らねばというどうにもムズムズする感覚が湧き上がってきた。
別に何か予定が入っているわけでもない、せっかく2人が話しかけてきてくれたのだからこっちだって応じるべきなのに……そう思っても、焦燥感がジリジリと体中を這いずり回りついに俺は声を上げる。
「あ〜、っと、遠坂たちとはもっと話していたいけどそろそろ俺も帰って夕飯とか作らないといけなくてさ……悪いけどここらで……」
「ご飯?衛宮くん、お腹空いてるの?だったら……」
遠坂の言葉を待っていたかのようにガラリと教室の扉が開き、誰かが入ってくる。
「じゃじゃ〜ん、お腹を空かせた先輩のためにご飯を作ってきましたよ!」
「桜!?なんでここに……というかその料理はどうしたんだ?」
教室に入ってきた人影の正体は桜だった、手に持ったお盆には肉じゃがや味噌汁、炊き込みご飯などが並べられている。
一学年下の桜がここにいることも違和感があるが、それより手に持った料理は一体どこで作ってきたのか……作りたてという感じでホカホカと美味そうに湯気を放っているそれは弁当の残り物なんて感じでもない。
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。それより食べてみてくださいよ」
「そうよ、せっかく桜が作ったんだから細かいこと言わないの。さぁ座って座って」
疑問符を浮かべる俺をよそに桜と遠坂に急かされて仕方なく席に座る。
料理まで出されては流石に帰るわけにはいくまい。
「先輩、はーいあーん……どうですか?美味しいですか?」
「あ、あぁ……美味いよ」
確かに料理は美味しい……美味しいが、何か物足りなく感じる。
その正体も分からないままに次々に桜は料理を俺に差し出してくる。
「むぅ、見ていたら私もお腹が減ってきましたね、少し分けてください」
横で見ていたセイバーがそんなことを言いながら桜の料理に手を伸ばす。
その際に俺を押し退けるような形を取ったものだから、セイバーの小ぶりな胸がふにゅりと俺の頭に当たる。
「うっ……………」
思わずガタリと身動きした俺を女性陣たちが目ざとく見咎めてニヤリと笑う。
「あら、お腹が空いてるのかと思ったけどそっちも不満だったのね……」
「ふふ、先輩ったら仕方ないですね」
楽しげに話していた先ほどの様子から一転、場の空気が変わる。
うっすらとした笑みを浮かべながら、僅かに顔を上気させて3人が俺に体を近づけると、どうしようもなく女の子の匂いが鼻腔をくすぐってくる。
「ずっと、ここにいましょうね。怖いものも痛いものもここにはありませんから」
セイバーがあやすような口調と共に俺にその柔らかな肢体を絡めつけてくる。
「逃げたって、閉じこもっていたって怒る人は誰もいないわ。安心していいのよ」
何か深刻なことを忘れさせるような軽い調子のセリフと共にチュッと啄むように遠坂が俺の首元へと口づける。
「ご飯も作ってあげますし、必要ならベットだって出してあげます。食べて寝て、うふふ……時々えっちなこともしてずーっと、ずーっと、ここにいましょうね」
桜が俺の手をギュッと握ると導くようにその手を自らの豊満な胸へと押し当てる。
「ちょ……ちょっと、待ってくれ、みんな……」
3人の変容ぶりに思わずたじろぐ。
何か……変だ、この3人だけじゃない、もっと根本的に……この世界そのものがどこか歪に感じる。
「あ……………?」
チラリと窓の外から夕焼けが見える。
もうすぐ日が沈むというギリギリの高さで、先ほど見た時と寸分変わらぬ美しさで、オレンジ色の光が空を染め上げている。
最初に夕焼けを見た時からそれなりの時間が経ったというのにその光景は全く変わっていない。
バッと教室に備え付けられている時計を見る。
「時計が……」
だが時間を確認することは叶わなかった、時計の針が忽然と消え失せていたからだ。ただ12個の数字が並んでいるだけで、肝心のそれを指し示す針が取り外されている。
カチカチと時を刻む筈の時計はただ無音でそこにある、これでは時間は分からない。
やはり……この世界は確実に何かおかしい……沈まない夕日、進まない時計、この世界はどうしようもなく止まっている。
「全く、女の子といるのに時間を気にするなんて野暮ってもんよ」
「そうですよ、時間なんて気にせずここでゆっくり過ごせばいいんです」
唖然とする俺をよそに遠坂と桜はそう語りながらもシュルシュルと制服のリボンを緩め、その胸元を露わにしていく。
「ふむ、もしやシロウは3人だけでは物足りないのでしょうか?」
パサリと脱いだスカートを地面に落としながら、そんな見当違いなことをセイバーが呟くと、桜が入ってきた時と同様にまるでタイミングを計っていたかのように教室の扉が開く。
「やっほー衛宮、遊びにきたよ」
同学年の美綴。
「ふむ、彼のことは一度味見をしたいと思っていたのです」
ペロリと蛇のように舌を舐めて見せるメガネの女性はライダーだろうか?
「私とも特別に遊ばせてあげるわ」
年齢的に学園になんているはずのないイリヤまで当たり前のように制服を着て混じっていた。
まるでこの学園の女性生徒や俺の知り合いの中で見目の良いものを適当に放り投げましたとでも言うように続々と女の子が教室に入ってくる。
「っ…………」
異変を感じて逃げ出そうとした俺の体を何人もの女たちの手が押さえつけてくる。
「どこにいくんですか?」
「ずっとここにいればいいのに」
「ここなら何にも煩わされることないわよ」
もはや誰が話してるのかもよくわからない、女たちの声が幾重にも重なって耳に響く。
「そうまでしてここから出ていく必要なんてないでしょ?」
「ここには何の危険もない、時間の進むこともない、安全で不変な世界」
「外に出たっていいことなんてないわよ」
窓から照らす夕焼けの光が俺の肌をジリジリと照らす。
朝と夜、その狭間である夕暮れ時。
この世界はきっとそこから動かない、動かないから何か危険なことも起こらない。
何故かこの世界は『そう』できているのだとそんな確信をする。
「ほら、難しいことは考えずに楽しいことだけしてよ?」
「服なんて着てないで、もっとラクになろうよ」
誰かの手が俺の服のボタンをぷつりと外す。
俺はその手を……拒むことはしなかった。
ここは安全な世界だ、ならずっとここにいればいいじゃないか。
そんな気持ちがゆっくりと心を支配していく。
それは逃げだ、今すぐ戻れ、戻って◼️◼️◼️◼️◼️に向き合え!
なんて叫び声が脳裏に聞こえた気もしたけれど俺はその声にそっと耳を塞ぐ。
そうだ、この世界では目を瞑って、耳を塞いで逃げ出したって誰にも咎められることはない。
ここでは、それは悪ではない。
ここでは、それは罪ではない。
なら……別にいいじゃないか。
「…………」
強張っていた体から力を抜く。
それで俺が受け入れたと察したのだろう、セイバーや他の女たちが熱っぽい視線と艶やかな吐息と共に俺の体に手を伸ばす。
そうして、俺のズボンのベルトをシュルリと解こうとしたその時に……
ポツリと窓を叩く雨音が聞こえた。
「あら、雨……」
ポツポツと降る雨は次第に雨足を増してザーザーと強い音へと変わっていく。
女たちは一瞬、訝しむように窓の外を眺めていたがすぐに視線を俺へと戻す。
「変わるはずのないこの世界で雨が降るだなんて奇妙な話ですが、むしろ外に出ない理由が増えましたね。この教室の中にいれば濡れることもなく暖かい思いができます」
セイバーがポツリとそう呟いて、自らの温かな体温を伝えるようにギュッと俺に抱きついてくる。
確かに……この状態で外に出たところで冷たい雨に降られるだけだ。
そもそも無理に外に出なければならない理由だってあるわけではない、それならばずっとここにいた方がいい。
「さ、楽にしてくださいね」
「力を抜いていいのよ衛宮くん」
遠坂や桜、他の女たちも俺を囲うようにギュッとその柔らかな体を俺に押し付けてくる。
そんな彼女たちに対して俺は……