(うわー……やっちゃった……)
六花はどんよりとした気分で、晴樹の隣に座る。
お互いまだ裸ではあるものの、とてもいやらしい気分にはなれない。
座っているベッドの中心には自分が先ほど溢れさせた体液のあとがありありと残っていた。
あの後、何とかペットシーツでそれ以上の被害は防いだものの、既にマットレスに浸み込んでしまった分はどうしようもなく。
「その……ごめんね、舞い上がって完全に忘れてた」
六花は気まずさに、指先を突き合わせながら晴樹の顔を見上げた。
「なんでペットシーツ買ったんだと思ってたけど、こういうことだったのか」
「うん、実は……胸だとこんなことにはならないんだけどね……あはは」
正直自分でも面倒臭い体質だと思う。絶頂するたびに大洪水を引き起こすとか。
「その……夜までに乾くかな?」
「いや、流石に無理な気がするな……
「だよね……ほんとにごめん……」
「あんま気にすんなよ、飲み物こぼしたことにして、今日は来客用の布団でも引っ張り出すからさ」
晴樹がこんなことで怒らないのは知っている。そこは安心だが、内心呆れられてやしないだろうか。
一度悩みだすと雪玉が転がるように不安が大きくなる。
(もしこれのせいでえっちするのが面倒くさいとか思われたらどうしよう……せっかく彼女になれたのに……あんなにえっちが気持ちいいって知っちゃったのにお預けとか絶対無理だって……まだまだやってみたいことも沢山あるのに――)
ぽん、と頭に手が載せられた。
「だから気にすんなって、次はあらかじめ準備しておくか、最悪汚れても綺麗にすればいいし」
少し乱雑に、けれど優しく髪を掻きまわされると、不安が溶けていく。
何より晴樹も”次”をちゃんと望んでくれていることに、小春の頬が緩んだ。
「それに、男としては結構嬉しいしさ」
「……え?」
「だってそれだけ気持ちよくなってくれたんだなって分かりやすくて達成感があるし……あと純粋にエロいし」
羞恥と、けれどそれ以上の幸福で、落ち着き始めていた体温が急上昇する。
「ほ、ほんとに……?」
「まあ……思い出すとちょっと興奮する程度には」
言いながら晴樹はぴくりと股間を反応させた。
(……っ、ほんとにえっちだと思ってくれてるんだ……)
口先だけでなく本当にそう思ってくれていることに、心臓が高鳴り、喜びが血管を駆け巡る。
このままだと幸せでふわふわ浮いてしまうのではないかと、六花は晴樹の腕に抱き着いた。
「……晴樹のえっち」
「口元笑ってんぞ……ってかいいのかよ、裸見られた時はエロいって言ったら怒ってたのに」
「あれ? 確かに……?」
指摘されて六花は首をかしげる。
けれど確かに嬉しいものは嬉しいのだ。
さっきと同じ言葉なのに違う感情、その間に変わったことといえば――
「――晴樹がはっきり好きって言ってくれたからかな」
「……関係あるか、それ?」
「うん、あるよ。好きな相手からちゃんと好きって想ってもらえてるって、すごく安心するからさ」
だからエロいという欲望剥き出しの言葉にも、そこに込められた自分が求められているという愛情を感じられるのかもしれない。
「……まあ、六花がいいならいいけど」
今一つ理解できていなさそうな晴樹の腕を、ぎゅっと抱きしめる。
晴樹の股間がまた、ぴくりと反応した。
「――っ、というか! さっきから聞きたかったんだが、六花っていつから俺のこと好きだったんだよ」
露骨な話題反らし、けれどそれは六花にとって無視するわけにはいかない話だった。
「えっ、自覚なかったんだ……!」
「あったらとっくに告白してたわ!」
言われてみればそれもそうだ。
(私にとっては一生忘れられない思い出なんだけどな――)
――思い出すのは中学時代の学園祭、初めて人前でギターを披露した時のことである。
兄に触発され、指をボロボロにしながらなんとか一曲ものにした頃。いわゆる実力に対して自分を過剰評価していた時期だった。
学園祭のスターになってやると意気込んでステージに応募して……けれど現実は、自分より後輩の圧倒的にうまいギターに、大勢の人前に立つという緊張、そして何より実力不足。
散々な演奏を披露して、泣きそうになりながらステージに立ちつくしている私に向けて、シーンと冷え切った会場の中、真っ先に拍手をしてくれたのが、最前列に座っていた晴樹だった。
嬉しかったし、何より救われた。
この拍手にこたえられるようなギタリストになろうって頑張る動機になった。
正直、あそこで反応がなかったら今の私は音楽を続けていなかったかもしれない。
だからある意味、晴樹がいるから今の私がいるのだけれど――
――じっと見上げた晴樹の顔は、真面目に引き締めようとしているけれど、胸が腕に当たっているせいか、鼻の下がだらしなく伸び駆けている。
自分にこれだけ影響を与えておいて……なんだか素直に教えてあげるのも癪だ。
それに、散々アピールしたのに気づかなくて焦らされてきたのだ。今度はこっちが焦らさせてもらおう。
「うーん……内緒!」
「いや、そんなこと言われると逆にすっごい気になるんだけど!」
「ふふっ、ひーみつ♡」
六花は満面の笑みでウィンクを決め、ぎゅぅっ、と晴樹に抱き着くのだった。
これにて完結です。
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