電車内で揺られながら、窓の外から眺めるホテル街は、いつもと同じオスとメスを誘い込むを放っている。
どれだけホテル街から離れても、茜華がパパ活をしていた事実は変わりない。
ロングシートに座りながら、スポーツバッグから財布を取りだした茜華は、ズシッと重くなっている中身をもう一度確認した。
一万円札が10枚。
バイト代で稼いだお金を合計し、12万円が女子高生が所持する、財布の中に入っているのだ。
おじさんと数時間エッチするだけで、10万円も貰ってしまった。
……普通にバイトをしてお金を稼ぐのが、馬鹿馬鹿しく思えている「自分」も、確かに心の中に姿を見せている。
だが、彼女はバイトを辞めたりはしない。
なぜなら、パパ活資金は推しVTuberへの、スパチャ代にだけ使うと決めているからだ。
(明日はリアルタイムで、配信見に行けそうだなぁ)
エッチ疲れが小柄巨乳の身体に回って、ややぼんやりと推しのスケジュールを確認した。
帰ったら遅い夕食を食べて、お風呂に入って、念入りに身体を洗ってから、推しのアーカイブを見て就寝する。
(……の前に、ハガキも送らないとだね)
クラスで二人しか聴いていないラジオへ番組は、投稿するネタを待ち侘びていてくれる人がいる。
表ではまだ言えない事も、薄っすらと本音を濁しながらだけど……ラジオでなら伝えられるから、眠気まなこだろうが必ず書く気概である。
「……もう着いちゃった」
未知男と交わった街と、茜華の実家がある家は三駅の距離しかない。
時間にして僅か10分、未知男の頭を撫でていた時間と同じだ。
しっかりとボタンを止め、パッツンパッツンになっているシャツは、目の前に座っていたサラリーマンの股間を元気にさせてしまう。
その事に気がついていないフリをしながら、ぷるんっ♡
やや大振りな動作で「よいしょ」と声をあげながら、シートから立てばYの字が浮かぶ谷間、根本に密集しているシワを作り出す、二つの98㎝がもぎたて果物の如く揺れる。
(お疲れ様)
明らかに残業帰りであろう、疲れ果てたサラリーマンに対しての「ちょっとしたサービス」
毎回はしない。
本当に気が向いた時だけ、自分の身体をわざと強調する茜華は――
「私って性格悪っ……」
改札を通って、マトモな岐路につこうと彼女は、自宅へ向かって歩き――
「あ、あれ! 茜華ちゃん!?」
「ッ~~~~! 健吾くん!」
タンクトップを着た、気になるあの人」が背後から声をかけてきたのだ。
急いで振り向いた茜華は、こんな時間、こんな場所で健吾に会うなど想定外だったので、笑顔が少し引きつってしまった。
「えっと、ジムの帰り道だったり?」
汗を拭っていたタオルをバッグに押し込み、健吾は消臭スプレーを自らにぶっかける。
彼はこんな時間に茜華と会えるとは思わなかったので、アタフタしているが表情は実に嬉しそうだ。
「うん! いつもと違うメニューを試してたら、結構遅い時間になっちゃってさー! 茜華ちゃんは?」
茜華は「こういう時」に備えて、言い訳リストを頭の中で作成してある。
「気になる洋服を見に行ってたんだ~♪ 結局何も買ってないんだけどね♪ ご飯も食べてゆっくりしてきちゃったから、気がついたらこんな時間になってたよ~♪」
ホテル内でシャワーを浴びた後、ペットボトル1本分のお茶と、大き目のクッキーを摂取したので、腹の虫が鳴るヘマはしない。
目の前の少年は、茜華がパパ活帰りだと分かる筈もなく、彼女と同じ笑みを作ってくれている。
罪悪感……勿論、茜華は抱いている。
だけど、まだ推しにスパチャするお金は欲しいから、パパ活を止めたくない。
だから絶対に知られてはならない秘密だ。
人間誰しも秘密を抱いているが、まさか誰からも好かれる彼女がパパ活をしてますなど、茜華と関りを持つ全ての人間が冗談でも思ったりはしないが……
実際はちょっと前に、おじさんに中出しをされているし、財布の中は女子高生としてはありえない額が詰まっている。
「そっか! 理由はどうあれ、ここで茜華ちゃんに会えたのは嬉しいよ……」
「……………………♪ うん、私も!」
中年のチンポを喜んでしゃぶっていた少女は、同じ歳の男子が向ける屈託の無い、本当の意味で「純真」な笑顔を眩しいと思った。
よく「茜華は明るいねー!」「嫌味がないんだもん!」
クラスメイトは褒めてくれるが――パパ活をしているのだ、それだけで茜華は褒められてはならない女子である。
「茜華ちゃんも……?」
「……えへへ♪ 何かの運命かも? なーんて♪」
二人して頭をかいてしまう。
汗だく騎乗位をしてきたのに、それらよりもずっと「オトコノコ」との会話が恥ずかしくて難しい。
よりによってパパ活の帰り道に健吾と鉢合うとは、運命はあるかもしれないけれど、中々に意地悪だ。
「ね、ねぇ茜華ちゃん!」
ウズウズしながら、視線を背けては合わせるを繰り返していた二人。
拳をギュッ、とさせてから健吾はクラスの男子達にブーイングされるであろう、勇気を出して大胆な発言を口にした。
「昼食一緒に食べる約束したよね」
「うん……」
茜華も「その言葉」を期待してしまっている。
「明日はバイトある?」
「……ごめん、あるんだ」
パパ活をしている時とは違う。
健吾と接している時にだけ、密かに生まれる鼓動を茜華は感じている。
「そっか、ならさっ! バイト先まで一緒に行ってもいいかな? いやっ、変な意味じゃなくって……一緒に帰りたいなって意味で……」
――近くの居酒屋に、未知男と同じくらいの歳の中年が、女子大生くらいの子を連れて中へ入って行った。
「いいのかな? 精々15分くらいしか一緒にいれなくても……?」
「そ、それでも……茜華ちゃんと一緒に帰りたいなって……」
「……………………そっか♪ うん! いいよ! 折角だからジュース一杯頼んで欲しいな~♪」
「た、頼む頼むっ! 丁度そのタイミングで喉乾くと思うからさっー!」
「ええ~! なにそれ~♪ ……うん、明日……楽しみ、かな……」
徐々にか細くなる茜華の声は、最後には本当に消えてしまった。
が、口の動きで何となく……健吾はセリフを察せている。
『私も……一緒に帰りたいし……』
彼の思い違いでなければ、だが。
いや、思い違いじゃない自信が彼にはある。
今後も健吾は、少しずつ少しずつ……
だが確実に、茜華との距離を詰めようと努力するだろう。
今回の「一緒に帰りたい」は、猛アタックその1だ。
健吾は安堵している。
「嫌だ」や「キモい」と返答されたなくて良かったなぁと。
茜華はそんな過激な言葉を使わない、断るにしろやんわりするだろうが……それでも、健吾は凄く怖かった。
それでも、茜華ともっと仲良しになりたいから、勇気を振り絞ってアタックしたのだ。
「こんな時間だし、家まで送ろうか?」
「ううん、結構家近いし大丈夫だよ!」
「そっか! 気を付けてね!」
「ありがとう♪ 健吾くんも気を付けて帰ってね!」
二人は顔を紅くさせながら、何度も手を振り返す。
「また明日学校でね!」
「その前にラジオで……ね♪」
「あっ、そっか! そっちも楽しみだよ!」
「ねっ……♪」
わざとセリフを引き延ばすのは、お互いに「もう少しでも話したい」、思っているに他ならない。
「……茜華ちゃん、おやすみ」
名残惜しいけれど、れ以上茜華の帰宅を遅延させる訳にはいかないので、先に会話を切り上げた健吾は、手を振りながら駆け足で茜華とは、反対の方角へ去って行った。
「おやすみ~♪ 健吾くん♪」
彼女の最後の言葉は、今日一番の優しさがこもっている。
――彼女は再び一人になった。
家までそう遠くはないが、健吾とのやり取りを想起させながら歩きたい。
門限を少し過ぎてしまうだろうが、それくらいなら怒られないだろう、多分。
「健吾くんも、私も……」
トクッ……トクッ……
早まる動悸を、この温かい気持ちを抑えられない。
神に祈りを捧げるかのポーズのまま、茜華は目を細めて、あの少年が消えた道へと一言。
「はぁ……好きなんだろうなぁ」
自分に言い聞かせながら、彼女は決めたのだ。
「寝る前に一人エッチしちゃお……♡」
ネタとなるのは勿論……『彼』
「明日も楽しみだなぁ♪ ……おっと、その前にラジオがあった!」
健吾が隣にいてくれたならば、「さっき俺に突っ込んでたよー!」
そう明るく笑ってくれていただろう。
推しのⅤにスパチャする為、パパ活に手を出した最低の女。
茜華は自分の行っている行為から、目を逸らしていないが、それらは恋ではない。
推しVtuberは、トークが面白くて、声とアバターもいい。
パパ活相手のおじさんは、エッチが上手で、「自分がいてあげないとダメなんだ」と、母性と庇護欲を刺激してくれる。
楽しい時間を過ごせるのは違いない。
だけど恋心だと自覚出来るのは――健吾だけだ。
「パパ活……二年生の内に止めよ」
夜の闇に溶け込んでいる帰路には、誰の気配も無いからこそ、決断を口にしながら、ミニスカートをはためかせ走り出す。
決して知られてはならない秘密を、抱いている少女は――3回胸を弾ませた。