伊地知星歌のセフレが星歌の死後に色々と巻き込まれる話 作:ぽぶきち
原作:ぼっち・ざ・ろっく!
タグ:R-18 オリ主 アンチ・ヘイト 呪われた一族 原作キャラ死亡 セフレ きょせいおつ 未確認ライオット 一般公開
金髪ツリ目ツンデレ女だ。
でもその女、最近交通事故で死んだらしい。
店長の代理を探しているのだとか。
※主人公は一部の方にご不快な表現をします。
※他作より若干エロが少なめです。
※アニメ未登場の展開を含みます。
俺様は無類の女好きだ。
「くぅ♡ あっ♡ ぁっ♡」
金髪で勝ち気な顔の女の、形のいい尻に腰をぶつける。
楽器屋で出会った顔のいい女。
しかも向こうから声をかけてきやがった。
なりゆきでヤることなったんだが、気に入ったんで半年に一回くらいでリピートしている。
「おいっ♡ まて♡ 手首つかむなっ♡ いっ♡ いっッグッ♡」
後背位でヤるのもいいが、やっぱ正常位がたまらねぇ。
背後から抱きついて一発
そのまま正常位に組み付いて抽挿する。
この女はツンデレだから、耳元で褒めてやれば締まりが強くなる。
「てっ♡ てめっ♡ かわいいっていうなッ♡ って、何回も゛ッ♡♡」
なんか悩んでるっぽかったから、セックスでストレス解消させてやろうって魂胆だ。
唇を合わせるとヤニの匂いがする。
俺様はあんまり喫煙しないタイプだが、こんぐらいは気にならねぇ。
腰をあげて体重を乗せたプレスをしながら、俺様は女の膣内に射精した。
「お゛ッ♡♡♡ おぉおお゛おッッ♡♡♡♡」
ぎゅっとシャツを掴まれる。
俺様は我慢できず、この金髪の女を半裸で犯していた。
海老反りになる女の胸が、俺様の胸板にぶつかる。
悪くねぇ。
「はぁ……はぁ……♡ あぁ……」
いい女だ。
俺様が顎を撫でると、そのツリ目がぎっと俺様を睨む。
「顔だけのくせによ」
そのまま、ぱたりと女はベッドに全身を預けて眠った。
♢
あの女が死んだらしい。
人身事故だとか。
嘘だろ。
コンビニ帰りのところを飲酒運転の車にはねられたらしい。
お気に入りだったんだがな。
まぁでも妹がいるらしいし、物色でもしようかと思う。
俺様は女好きだからな。
高校生はちと幼すぎて苦手だが。
自宅へ弔問に行くと、何人か音楽関係と思われる輩が集まっていた。
妹らしき金髪の高校生もいる。なんかカラフルな髪色のやつらに囲まれてんな。
黒いジャージ? それは喪服なのか? ピンク頭。
線香を上げる。
確かこいつの母親も玉突き事故で亡くなってたな。
つくづく車での事故に縁があるみてぇだ。
遺影のなかでさえこっちを睨んできやがる。
おもしれぇ女だ。
翌日の通夜。
俺様とよくわかんねぇ女が金髪の女の家の留守居役をすることになった。
めんどくせぇ。
外に出てタバコを吸う。
煙で咳き込んでいると、後ろから女がやってきた。
「店長のセフレさん」
「セフレって呼ぶなや」
「ちょっと相談事があるんですけど」
タバコの火を消して、携帯灰皿に入れた。
「それが俺を留守役にした理由かよ」
「まぁそれもあります。すみませんね、お別れの時間を奪ってしまって」
「はっ、俺が情に厚く見えるか?」
「でもお気に入りだったんでしょう?」
とりあえず宅内に戻って、
黒服でピアスをつけた女がこちらに向き直る。
「
「あぁ? なんでだよ。お前、俺の職業知ってんのか?」
「知らないですね。高学歴なのは聞いてます」
「ジェネラリストっつーんだ。覚えとけ」
なんでこいつは知りもしねぇ俺様なんかに、そんな事頼むんだよ。
「…………食品衛生責任者の資格を持っている奴が、今はまだいねぇのか。」
「はい…………」
「……なんで知ってんだ?」
「星歌さんが話していたんですよ。もし自分が死んだら貴方がスターリーを継いでくれるって」
不快に見えるように眉をしかめる。
バカなことを言う女だ。
「嘘だろ、それ」
「はい。嘘です」
「資格の話を聞き出すくらいには、お前らは日頃から無駄話してたっつーわけだな」
「おしゃべりが好きなので」
掴みどころがなく笑う女。
デッキの選び方に無駄がねぇな。
会話の誘導が上手いのに、計画性や特定の固定ルートがある喋りでもねぇ。
配信者みてぇな喋りだ。
「遺族の同意は?」
「とります。これから」
「資格はあってもコンカフェの営業しか経験ねぇぞ?」
「まめに資料をまとめる人だったので問題ないですよ」
そのコンカフェだって、色々と風俗業界がクチバシを入れてきてからはきな臭くなってやめた。
俺様のやり方は相手からしたらズルにしか見えねぇからな。みかじめとってる奴らから知人とともに湾に沈められるのはゴメンだ。
「俺もうFIREしてんだが」
「なので、追加報酬をつけようと思いまして」
女は、んあ、と口を開けた。
蠱惑的なスプリットタンが、ゆらゆらと動く。
「ほーへほうは?」
「なんのつもりだ?」
「んふ、私が報酬に少しえっちなことをしてあげようかなって、提案です」
「お前処女だろ。無理すんなよ」
くっそ。
これも
俺様の扱い方をわかってやがる。
「後払いだ。まずは働いてやる」
「いいんですか?」
「デザートはあとでいただくタイプだ」
「なるほど」
わかってなかったのかよ。
♢
店長用の机にふんぞり帰って、ライブハウスを眺める。
「おい、あの震えてるベーシストはなんだ」
「インディーズで有名な人です。飲酒運転で店長さんが亡くなってからお酒止めてるんですよ」
「離脱症状か。なら相当な酒カスだったんだな」
「バンドマンなんてそんなもんです」
多少の欲求ならそれなりに制御する方法はあるが、あれだとライフハックにもなりはしないだろうな。
「エナジードリンクでも奢るか」
「意味あるんです?」
「欲求ってのは脳内選択肢の反復提示だ。細やかなトリガーを一つずつ別のものに置換するしか対処法がねぇんだよ」
「よくわかんないですねぇ」
元酒カスの、ワンピースの上からスカジャンを着てベースを背負っている女は、どこか所在なさ気な足取りで受付に向かい、チケットを購入していた。
そして、隣の女──PAをみつけると一瞬顔を輝かせたが、俺をみて怪訝そうな表情に変わった。
「えっと、PA、さん。その人は……」
「きくりさん、この人は新しい店長です」
「ええ、でも、そんな……、いや、でもこの人どこかで……」
まぁ受け入れられねぇだろう。
この前まで故人が据わっていた席に、俺様という知らねぇ胡散臭い男が我が物顔でついているのだから。
「店長だが、雇われの身だ。
「私が籠絡したんです♡」
「…………」
女の目が細まる。
俺様の核を見抜こうとするかのように。
非表出思考型か。
まぁそうだろうな。
少なくとも、俺様の持論から、人類は思考型と記憶型に分かれると考えている。
記憶力のねぇ人間は、事象を抽象化して長期記憶領域での処理を可能にすることで、現実に対処する。それを思考型とし、反対に記憶記銘を主な情報処理とするものを記憶型としている。
俺様みたいな小手先の活動者はだいたい思考型だ。
そしてその思考型も、言語野や視聴覚などの認知特性に出力して情報を保存する「表出」と、そのまま生のデータを腑分けする「非表出」に分かれる。
非表出タイプは、論理を言語化しねぇから、「勘」で動くが、それは「直感」とは違う。
ババ抜きでなんとなくカードを引くのが「直感」、相手の顔色から判断するが具体的にどんな判断したのかを言語化できねぇのが「勘」。
この女は「勘」で動くタイプだが、累積した情報から本質を見抜く「思考型」だ。
無論、この世のすべては連続的だから、MBTIとか四分類のように完全な離散的なものとして分けることはできねぇがな。あれは万人向けにわかりやすくされているから。
「よろしくお願いします」
「おいおい……見る目がねぇぞ。あんま変な男をいきなり信用しねーほうがいい」
「変な男は自分のことをそう言わないのでは? まぁ変ではありますが」
どうやらお眼鏡に適ったようだ。
俺様みたいな風貌の男をいきなり信用するもんかね。
俺様が同じ立ち位置だったらムカついて一発は殴ってるぞ。
そうこうしている間にライブが始まった。
今は亡き店長へ歌を捧げるという名目にしているから、かなり多くの人がライブハウスに集まっている。
カラフルラジカルのあとは、あの女の妹のバンドか。
確か名前は、結束バンド。すごいな。ネーミングセンス。検索容易性が致命的だろ。
イージーリスニング調の曲が終わり、バンドが涙まじりに舞台を降りる。
そして件の結束バンドが登場するのだが、
まぁ、想像通り、万全の調子とはいかないようだな。
「今も星の上にいる店長さんに、この曲を、送ります」
ギターのストローク音とともに、手慣れた楽曲が奏でられる。
曲名は……グルーミー・グッドバイと言ったか。
だが、遠慮してるな。
バンドメンバー全員が……いや、三人が一人に対して。
伊地知虹夏。
死んだあの女の妹だ。
鬼気迫った表情でドラムを叩いている。
まるで何かから目を背けるように、まるで何か怒りをぶつけるように。
ギュイン────
それを、途中で何かが遮った。
リードギター。
ピンク髪のJKだ。
コーラス用のマイクを外して、肉声で何か歌った。
それを聴いた伊地知虹夏が、思わずドラムを止める。
そこで、リズムギターがギターソロを入れる。
ベースはあえて何もしねぇことで、静謐さをもたせてやがる。
伊地知虹夏が、もう一度ドラムを叩く。
それは、整っていた。
まるでルーディメンツを流しているかのような、確かめるような音だった。
「……すごいな」
「でしょう?」
ピンク髪の行動で、バンドが持ち直した。
対応力? 表現力?
いや違う。
積み上げてきたものによるレジリエンスがあるのか。
♢
「あの子たちは、これに出ようとしてるんです」
「……未確認ライオット」
10代限定の音楽フェス。
デモ審査、ネット投票、ライブハウス審査で順位が決まんのか。
「知名度が欲しいのかよ?」
「というより、証明がしたいみたいですね……」
PAは語った。
フリーライター「ぽいずん♡やみ」がライブハウスに訪れた際、ピンク髪のJK、後藤ひとりを、ネットで有名ないわゆる "弾いてみた" の投稿者「ギターヒーロー」であると看過したこと。
さらにそこで「ガチじゃない」という評価をバンドメンバーに下したこと。
本気でバンドをしていることを証明するために、未確認ライオットに応募したこと。
デモ審査を通り、なんとかネット投票もクリアしてライブハウスでの審査を残すのみになったこと。
そしてそんなとき、拠点とするライブハウス「STARRY」の店長である伊地知星歌が亡くなったこと。
「優勝できると思いますか?」
「俺ぁこのフェスについてよく知らねぇよ」
「あとで過去の音源エアドロしますね」
「任せた」
とりあえず俺様は、バンドメンバーたちに近況を聞くことにする。
近況以外にも、色々と知らなければならないことがある。
いっちょかみかもしれねぇがな。
「あの……なにか御用ですか?」
結束バンドが俺様の前に集合する。
聞きたいことはそこまで多くねぇ。
サイドアップの赤髪のボーカルが、不思議そうにこちらを見ている。
若干目が輝いている気がするが何なんだ。
伊地知妹は少し不機嫌、
青髪のベーシストも若干それにつられて不機嫌、
ピンク髪のリードギターは……なんだあれ、腕が6本? え? バケモン?
「少し疑問があってな。後藤ひとりとか言ったか?」
「あっ、はい。すいません。お金持ってないです」
「? ……そうか残念だぜ? ──お前のギターヒーローという名義、なぜ使わねぇ?」
「…………そ、そっぅ、それはですね……!」
この未確認ライオット。
聞いた限りだと、若手でもっとも知名度のある奴が優勝する。
理屈はわかるさ。
ギターヒーローという自らのブランドに頼らず一事を成すことで、バンドが”本気である”ということを件のライターおよび各所方面に証明したいんだろう。
だが、果たしてそれは必要か?
求められる能力は、段階によって異なる。
無名バンドが有名になるために必要な能力と、有名バンドがさらに有名になるために必要な能力は違う。
片方が揃ったからと言って、もう片方が揃うとは限らねぇ。
同じ昇進ルートでも課長の仕事と部長の仕事が違うっつーのと似たようなもんだ。
ギターヒーローという名前は、それをショートカットできる。
そもそもエンタメにおいては、何か新しい発明を打ち出そうにも「発信力」が人権カードとして必要なはずだ。
すでにそのカードを持っているのに、なぜ使わない?
高い知名度で発信すれば、そのフィードバックから得られるアイデアの量も膨大になる。
もちろん無名だからこそ自由にできるといえるが、有名を目指している今のこいつらには逆行する話だ。
「無名になるのはいつだってできる。名前を隠して軒下でギターを弾けぁいい」
「……」
「有名になるのは、今しかできないかもしれねぇぞ。
お前の動画を見たが、特段何か新しいことをしたわけじゃあねぇな?
勝因は物量だ。来る日も来る日も何本も何本も演奏動画をあげてきた。完璧ではなく完成を打ち出し、動画投稿とともに成長してきた。今のお前にはこのバンドがあるかもしれねぇが、過去のお前にはギターしかなかった。それがここまでお前を連れてきた。
過去の自分からのプレゼントなんだよ、そのアカウントは」
ギターがうめぇってのは良いことだ。
もしこいつらが男だったんなら、ガチ恋を何人か作ってそれをうまく運用すればマネタイズもできただろう。
だがこと女性の場合、スキルがあるというのが異性人気にマイナスとして働くことがある。
男ってのはプライドが傷つきやすいバカな生き物だかんな。
ホントは聡明なのに無知を気取る女性インフルエンサーってのは、上位にいくほど多いもんだ。
だからもし、デスクトップミュージックが今以上に発展すれば、ギターの居場所は消えるかもしれねぇ。
俺様が任せられたのは、こいつらが向こう40年食べていけるようにすること。
そのためには、適応するか、発明するか。
そして、どちらにせよ、発信力は人権要素。
電脳世界では、知られていないというのは存在しないというのと同じだからだ。
「わっ、わたしは、みんなのチカラで……」
「…………」
「結束バンド全員が、平等に見られるように、勝ちたいです」
ピンク髪のJK、後藤ひとりの前に立ちはだかるように、伊地知虹夏が俺様を睨む。
「ぼっちちゃん、こんな人のこと聞くことないよ」
「虹夏、どうしたの?」
「リョウも知ってるでしょ。お姉ちゃんがたまに朝帰りしてたの。その相手が、この人」
「え……」
全員の目が俺様に向く。
まいった、と両手をあげた。
「痛いところをつかれちまったかぁ? これ」
「……このクズ」
「虹夏、やさぐれすぎ」
ぽんぽん、と肩を叩かれる。
みると、にこやかなPAが俺様の肩に手をおいていた。
立てた指先が、頬に突き刺さる。
「店長は、みんながみんなのまま、人気になってほしいと思ってましたよ」
「じゃあ俺はなーんもできねぇよ」
"能力"なんてのは言ってしまえば、社会で金銭価値に兌換できるとみなされる状態スコアの合意だ。
esportsが普及する前は、ゲームが上手いなんてのはなく、ゲームが好きな人がいる、っていうのが共通認識だったんだぜ?
進化するのは難しいが、変化ならいつだってできる。
まず大幅に変化して、あとから時代がそれを進化だったのか退化だったのか定める。
台風を起こして、それが災害となるか新しい潮流となるかは時に任せる。
それくらいの認識でいるべきなんだがな。
少なくとも、現行の評価基準に則って戦い、かつ持ってるネームバリューも使わないのなら、トップ層のSIDEROSやケモノリアには勝てないし、勝てたらいけねぇ。
「じゃあ、後藤ひとり、お前に代わりに聞く。
苦も無くできること、はなんだ?」
ピンク髪のJKが、きょとんとした顔をする。
まぁいきなりならそうか。
「好きなことじゃない。苦も無くできること、だ。
それが競争化しても嫌いにならず予測誤差でドーパミンダバダバできる何か。あるか?」
「え、えっと、ギター、です……」
「他には……?」
「う、うーん。イマジナリーフレンドと話すこととか、あと、鬱屈とした詩を並べることとか……」
「ぼっちちゃん……辛かったね」
「ひとりちゃん、いまは私たちがいるから」
ピンク髪を三人が囲って慰め始めた。
本人は、「あっありがとうございます、あっいい匂いです、へへへ」などと言っている。こいつ本当に女子だよな?
「なーんか悪い顔してますねー?」
「ああ、思いの他いいことが聞けて満足したんだ」
「イマジナリーフレンド……?」
「そっちじゃねぇ。まぁそっちもいいが」
イマジナリーフレンドがいるってのは、すげぇことだ。
アガサ・クリスティが幼少期にそうだったのは有名だな。
人格創作が呼吸のようにできているってことだから、創作活動者においてこの上ないアドバンテージだ。
だがそれじゃない。
「鬱屈、ね」
俺様は犬歯を剥き出しにして笑った。
♢
『うっ♡ あっ♡ あっ♡』
耳元で、あの女が喘ぐ。
俺様は、白い肩を抱いて、正常位で突き入れていた。
『くぅ♡ だ、
あの女の脚が背中に回る。
きゅう、という喉を鳴らす音が、耳元で響く。
密着した俺様とあの女の間で、その肌触りのいい乳がむにゅりと形を変えていた。
『はぁ……はぁ……♡ お前、毎回、量多すぎなんだよ。腹タプタプじゃねぇか』
俺様の頭をかき抱いて、耳元に唇を近づけ、内緒話をするかのようにそんなことを言われる。
それがさらに性欲を煽って、俺様は断りなく抽挿を再開した。
『おいっ、まてっ、まてって♡♡ いま、イッてッ♡♡』
懐かしい。
これはいつの記憶だったか。
互いに互いの触れる表面積を増やすように、体温を分け合って、密着して、そのまま何度も行為に及んだ。
お互い、とんでもねぇ色狂いになっちまったことだ。
「……ん」
夢が覚めた。
起き上がる。
隣を見ると、半裸で寝ているPAがいた。
いや、寝てないな。狸寝入りしてやがる。
「お前なんでここにいるんだよ」
「……忘れちゃったんですか?」
「馬鹿言うな。お前とワンナイトしてるわけねぇだろ」
「お酒に酔って記憶を失ったんですね」
「俺が酒を飲んだのは人生で一回だけだよ」
ため息を一つつく。
身体がベタついている感じもしない。
そして行為の翌朝特有の開放感もない。
なにより、
「お前はとんでもねぇ美人だが、俺のタイプじゃねぇ」
「へぇ、どこがダメなんです?」
「……金髪じゃない」
「じゃあ染めますね」
「……ギター弾けるやつじゃないと」
「SICKHACKのギターさん呼んできましょうか? 金髪巨乳美人」
「……巨乳は好きじゃねぇ」
以前の活動拠点は道玄坂だったから、新宿や下北沢はあまり勢力図を知らなかった。
それでも最近は勉強している。
SICKHACKっていうのはこの前のアル中が率いているインディーズバンドだな。
「ヤッたとして、配信者なんて接触時間の長いコンテンツをやってんならどうせすぐバレるぞ」
「ですかねぇ。でも、もう私は人が帰りを待ってくれている生活を知ってしまったので」
「帰宅時間同じじゃねぇかよ」
オフィスラブなんて馬鹿げてる。
相当互いが好きあっているなら話は別だが、仕事とかいうフェードアウトが難しい環境で本来賭け度の高い恋愛関係なんてものを構築しようとするのは、そういう営業でもない限り下策だ。
いまは営業でも下策だがな。
「あまり自分を安売りすんじゃねぇよ」
「……というと?」
「俺はお前を抱かねぇが、周りがどう見るかは別だ。タダでさえ俺はあの女のセフレってことで白眼視されてんだ、お前ぐらいは、あいつらの側にいられる大人であってやれ」
「じゃあ」
「あ?」
「じゃあなんで、私の提案を受け入れたんですか?」
「……」
PAが、俺様の使っていた枕を抱きしめながら半眼で睨んでくる。
やっぱわかってねぇのか。
隠してたつもりかもしれねぇが、手汗ビチャビチャでどちゃくそ緊張しながら自分を差し出すって言ってるやつに、「いらない」って答えたら落ち込むどころじゃねぇだろ。
てっきりそういうやり方が俺様に効くことをあの女から教わったと思っていたのだが、違ったらしいな。
「もういない人がライバルだなんて、勝ちようがないじゃないですか……」
♢
深夜1時。
俺様はコンビニで買った惣菜を持ってライブハウスに入る。
薄く、物を叩く音が聞こえる。
しばしして、練習を終えたドラマーが出てくる。
伊地知虹夏だ。
「食え」
「……もらいます」
おにぎりを食いながら、伊地知虹夏が若干不満そうにこちらを見る。
俺様にいてほしくないのかもしれないが、流石に深夜に未成年をライブハウスにほっぽり出せるわけはねぇだろ。
「あんなハリボテの演奏で、本当に大丈夫なんですか」
「演奏の時間は長くない。まだ持久力より構成力の需要が上回るコンテンツだ。どうとでもなるさ。地力はあとからつけていけばいい」
「……」
「それとも、褒められるためにバンドやってんのか? 違うだろ」
完璧を求めるより、粗削りの完成をこなしたほうがいい。
そもそも、ハリボテなんてのは世の常だ。
戦場を限定し、行動を限定し、そして最大効果をもたらすことで、世界を騙す。
限定された勝ち方を最大限にぶつけてまるでこの世で一番自由であるかのように見せかける。
伸びた端しか見えていないのなら、人はその半径をもつ巨大な円を錯覚する。
「もし優勝したら」
「……?」
「お姉ちゃんのこと、全部教えてください」
「…………ああ、いいぜ」
チェックリストを確認して、ライブハウスの電源を落とす。
既に下北沢の街は暗い。
俺様は、先頭を歩く伊地知虹夏を追うように帰路を辿った。
のだが、
「──」
なんとなく伊地知虹夏の背中を見ていた、そして、それに迫るライトを怪訝に思った。減速している様子がなかったからだ。
そして、どこかぼんやりとしている伊地知虹夏の様子も気がかりだった。
俺様じゃなけりゃ見逃してたな。
臆病で、神経過敏症だから。
急いで伊地知虹夏を抱き寄せる。
そして足元を少し浮かせた。
横合いから衝突した車に弾かれる。
少しだけ、宙を飛んだ。
伊地知虹夏の首と頭に手を回す。
そのまま地面に衝突し、ゴロゴロと転がった。
おいおい、やっぱ呪われてんじゃねぇか?
伊地知家は、車に。
「ちょ、ちょっと!」
伊地知虹夏が俺様を起こす。
根がいいやつだから、若干泣いている。
怪我なんてたかが知れてる。
こんぐらいじゃ人は死なねぇ。たぶん。
「おい」
「救急車、救急車!」
「おい!」
俺様は叫んで、伊地知虹夏を意識を引いた。
「手と足は? 怪我ねぇか」
「そっ、そんなことより」
「そんなことじゃねぇ。一大事だ。俺なんかどうだっていい」
見たところ、足をひねった様子も、手を擦った様子もない。
ドラムなんてのは四肢が第一のスティックだ。これに蹉跌があればどうしようもなくなる。
「お前は家に帰って安静にしろ。ライブが控えてる」
「そんなこと今どうだって」
「大事だ。頼む……」
俺様はうめくように呟いた。
「俺に、約束を守らせてくれ……」
だせぇ。
こんなカッコ悪い男が姉と肉体関係を結んでいたなんて、妹としては業腹だろうな。
「……とりあえず、救急車は呼ばせて」
スマホを取り出す伊地知虹夏に、どことなくあの女の面影をみた。
♢
別になんてことはなかった。
命に別状とかもない。
轢いた相手からは相応にぶんどった。
恋人を横に乗せて気が大きくなっていた若造だった。
むしろ恋人を乗せたら車の速度は落ちるもんだろうが。
俺様はパーカーを着込んで、ライブハウスに向かう。
STARRYではなく、新宿FOLT。
そこで、最後の審査が行われる。
伊地知虹夏にも怪我は無かった。
安心だ。
あとは結果を見守るだけ。
「結束バンドです────」
MCが始まる。
担当は、伊地知虹夏だった。
「私たちは、ここに来るまでに、大きな物を失いました」
MCとは盛り上げるためのものだというのに、その声はどこか低い。
「拠点の店長が、姉が、亡くなりました」
これは俺様の指示だ。
使えるものは使う。
例え俺様がこのあと、大勢にタコ殴りにされるとしてもな。
「実は、参加をやめようか、迷ったんです。
でも、ここで止まったら、姉の夢はどうなるんだろうって、考えてしまいました。
だから、私は、私たちは、本気で
これは、アドリブにはなるんだけど……」
青臭いな。
でも、こういう場所で聞くと、この青臭さが熱狂となる。
あと、アドリブといっているがアドリブではない。
これも仕込みだ。
「私のわがままのために、
頼らせて、みんな!!!」
その声に呼応するかのように、ギターソロが鳴り響く。
まずは後藤ひとりの高いギターテクニックで耳目を引き、美談に対する整理できない感情を、感動という現象だと誤解させる。
ネットではこのようなやり方はしない。すぐに人が離れていくからだ。
だが、ことライブハウスという途中退室がほとんど発生しない状態であれば、映画の法則が使える。
感情に与える数値を乱高下させることで、記憶への固着を狙う。
さらに────、
「──────」
後藤ひとりが、叫ぶ。
シャウトだ。
もちろん、慣れていないが、後藤ひとりは普段から奇声(?)をあげているため、土壌はあった。
そして、コーラスをベースの山田リョウが代替することで、後藤ひとりはこの一瞬の感動に喉のHPをすべて消費できる。
このライブのあと喉は枯れているだろう。
もしかしたら、ファイナルステージに進んだとしてもいまだ喉が潰れていて同じ感動は起こせないかも知れない。
だが、その頃にはもう "勝っている" のだから、無味でも下手でも問題ない。
そうなったら別のやり方を選んで、目をくらませるだけだ。
中間に、ポエトリーリーディングが入る。
後藤ひとりは少ししゃがれた声で続ける。
自分の "鬱屈" を、歌詞には載せられなかったような罵倒を、大衆の耳に容赦なくぶつける。
「"殺してやる"」
そしてギターをかき鳴らした。
俺様は口元を抑えた。
十分以上だ。ギターヒーロー。
観客は、勘違いした。
感傷と、戸惑いを、感動だと。
いつしか皆が腕を振り乱して熱狂していた。
「なに、これ……」
舞台袖で、ベレー帽のようなものを被ったギタリストが、表情を引きつらせてそう言った。
♢
優勝した。
結束バンドは、今期の若手バンドの王者となった。
審査員は、低評価と高評価に二分したらしい。
吉田銀次郎とかいうライブハウスの店長はずいぶんと低評価だったらしい。
バックステージパスを大事そうに抱える4人を舞台裏へと見送る。
観客席でじっと開催を待つ俺様の肩に、誰かの肩がぶつかった。
「朝は苦手なんじゃなかったのか」
「最近はちゃんと眠れているので、目覚めが良いんです」
PAが俺様の隣に座る。
「これで、よかったのか」
「自分でやっておいて、後悔してるんですか」
「いや、俺が頼られたということは、こういうことだから」
そんな俺達の前に、人影が立った。
「どうして、私は負けたの」
それは、いつぞや見たベレー帽の女。
今回2位だった、SIDEROSのギターボーカル。確か、大槻ヨヨコとかいったか。
「さぁな。俺にもわからん」
「あなたが、やったんでしょ」
ああそうだ。
だが、抽象的論理によってもたらされた勝利は、その勝因を明らかにしない。
木こりが大樹を切るために、斧を研ぎ、爆薬を更かし、刃の重量を増し、筋トレをして斧を振ったとする。
それで大樹が切れたとしても、もたらされた結果は、「切れた」だけ。どの要素がどれくらい役立ったのかはわからねぇ。
往々にして、勝利からフィードバックを得るべきではねぇんだ。
仮説は仮説として磨き、勝利は勝利としてのみおさめるべきだ。
だから、なぜ優勝したかという問いに対しては、わからない、という返答になる。
「俺が何を考えていたか、という話か?」
「そうよ」
ふむ、と顎に手を当てた。
「人が何かを定量的ではなく定性的に評価するときってのは、足切りをすんだよ。そういうバイアスがかかる」
「どういう意味よ」
「クオリティで足切りするんだ。それができなきゃ、無意識でこだわりをおいて足切りする。ビブラートがあるか、とか、歪みが正しくのっているか、とか、何弁で喋ってるか、とかな」
「……」
「そして、似たようなものは記憶に残りづらい。だから、既存のクオリティ基準で評価できず、そして他のバンドとも違うものをぶつけてやるんだ。そうなると、審査員の頭の中では、それか、それ以外か、の2択になる。50:50で選んだとしても、十分に勝ち筋があるだろ?」
「馬鹿げてる……」
「審査員のバイアスハック、と俺は呼んでいる」
後藤ひとりの技術力と、これまでの積み上げてきた連帯感があったからこそできた芸当だ。
あまりにもクオリティが低いとそもそも機能しない。
大槻ヨヨコの背後で、音が鳴った。
結束バンドのライブが始まった。
モッシュが荒れている。
「これは……」
その曲を聴いて、大槻ヨヨコが困惑した。
「優しい曲だろ? こういうのも用意していた」
「なんで……」
「もしお前たちが過激な曲を作っていたら、こっちにシフトしていた。他にも五個、曲の差分をつくっていた。演奏を終えたバンドの曲を総合し、そこからもっとも遠いジャンルをぶつけるつもりだった。幸運なことに、終盤のほうだったからな。手札はゆるりと選べたぜ」
「冒涜よ! そんなの、音楽の勝負じゃない……ただ戦略の話になるわよ」
「そうだ。音楽単体なら、お前たちが勝っていただろう。だからやったんだよ。勝つために」
俺様は音楽のことはそこまで詳しくねぇ。
目の前のJKのほうがギターの種類にも、音楽のカテゴリーにも詳しいだろう。
だが、だから勝てたんだ。
「これからアイツらにはダークシンガーになってもらう。
鬱屈とした歌を歌ってもらう。部屋の隅の孤独を助けるという名目で。
学生は、就業せず学業で並列化されるためアイデンティティが損なわれ不安によってセロトニンが分泌されないためにドーパミンが抑制されず行動的になるうえに、学び舎で同年代と物理的近距離に置かれているため、
「なっ、何を言って」
「ほとんどのプロデューサーはこの戦略をとらないが、学生ファンなんて三、四年待てばモラトリアムだ。そこからいくらでも金が回収できる。
テクノロジーによって音楽が完全並列化する前に、知名度で、自己創設のれんで、稼ぎ、逃げ切る。うまくやれば早期からインデックス投資でテキトーに資産運用して労働とおさらばだ」
お前は何年先を見ている。
俺様は、俺は、一〇年先も見えない。
うまくいかないかもしれない。
どうなるかはわからない。
発明とは、需要の再構築のこと。
誰も予測できない流れを作ること。
だからその要素が常に存在する限り、明日にでもエンターテイナーは食いっぱぐれるかも知れない。
俺には、時間と、余裕がない。
万雷の拍手が鳴り響く。
結束バンドが退場する。
結局、こいつが邪魔で顔を拝めなかった。
「認めないわ」
「そうか」
「絶対に、あなたのプロデュースを負かして、彼女たちを連れ戻す」
「やってみればいいさ。お前のほうが正しいかも知れない」
踵を返すその背中は、敗北感ではなく、戦意が宿っている。
思わず小声で、ありがとな、と呟いた。
「
「よくわかりませんでした。経営学科だったんですか?」
「専攻は哲学だった」
考えることは畢竟すべて哲学に行き着き、学ぶことは畢竟すべて世界史に行き着く。
俺様は思考型だ。
「とりあえず、打ち上げの用意だな」
「あまり高いところはダメですよ?」
「しねぇよ」
ジェネラリスト。
経営を補佐するオールラウンダーなアドバイザー。
以前は多分野知識を持つものがそう呼ばれていたが、いまでは非自明な仮説を創出できるものがジェネラリストと呼ばれることもある。
非自明な仮説ってのは、対照実験が絶対にできない仮説のことだ。
前提と結果にひどく時間がかかるもの。
非自明であるからこそ、それが正しかったときに情報的競争優位となる。
「あの子たちがレーベルに通う間、少し暇になりますね」
「そんときは女漁りでもするかな」
「ここにいますよ。食いつきのいい女が」
「追い込み漁は趣味じゃねぇ」
PAは、俺様の左腕をパーカーのポケットから抜いた。
そして、自分の右手を絡めた。
「なにしてやがる」
「嫌なら振りほどけばいいじゃないですか」
「…………」
「動かないんでしょ、左腕。手の先は動くようですが」
「…………」
「
別に治る必要はない。
呪いの代償、のようなものだと考えている。
俺様が片腕不随になったことで伊地知虹夏が生きていけるのなら、
随分と安上がりだ。神様ってのは商売が下手らしい。
♢
「くぅっ♡ うっ♡」
俺様は、PAの股ぐらに手を入れて、手淫していた。
なんでこんなことをしているのか、俺様ももうわからなくなっている。
「いっく゛♡♡♡」
潮を吹くPAを見届けて、その頭を、膝で持ち上げた左手でぽんぽんと撫でる。
さすがに絶頂後の女に毒づくほど落ちぶれてはいない。
「頑張ったな。良かったかよ」
「はぁ……ぁ……♡ はぃ……、とても……」
こいつ、俺様が手を出さないなら、他の男と寝るとか言い出しやがった。
恋愛は当人の自由だが、好きでもない男に抱かれるほどの傷心は見過ごせない。
俺様の家であることと、
休日であること、
本番はしないことを条件に、俺様はPAの性欲発散につきあっている。
「もう少し……強く抱きしめてください」
「こうか」
「……ふふ、いいですね、こういうの」
それにしても、
「明日はクリスマスか」
「今日が店長の誕生日ですよ」
「知ってる。だから呼んだんだろ。
でもな、あいつと俺が出会っていたのは、イブじゃなくてクリスマスだ」
明日は一人で過ごすことにする。
そういう気分だ。
「早く振り向いてくださいよ」
「……」
「私、行き遅れになるかも」
「…………」
「あっ、やっぱりこういうアプローチが有効なんですね」
「………………」
だんだん俺様の弱さがバレてきているな。
まぁ、いまさらか。
「俺みたいな女好きのどこがいいんだ?」
「女好きっていいますけど、経験人数一人ですよね?」
「…………」
「金髪で、ギタリストで、非巨乳で、世界に一人だけの女性が、好きだっただけでしょう?」
俺様は答えなかった。
答えたら負けだ。
♢
あるとき、
友人が死んだ。
かつて、ともにのし上がろうと誓った仲だった。
飲酒運転で、雪道を転げて死んだらしい。
バカな子ども、と言った親戚を殴って、それを止められて、父親に殴られた。
葬式を抜け出して、雪解けで雨になった道路を歩いて帰った。
遺品整理をすると、ギターが見つかった。
あいつの母さんは、俺様にそれをくれた。
でも、辛かった。
形見をもつと、どこまでも落ちていく感覚があった。
これはきっと呪いだと、そう感じた。
だから売りに行ったんだ。
『良いギターじゃねぇか』
店員、伊地知星歌は、俺様が持ち込んだアコースティックギターを鳴らして笑った。
弦も錆びてるのに、なぜかいい音が鳴った。
『一曲弾いてやろうか?』
といって、その人は、伊地知星歌は、とんとん木目を叩きながら、朗らかな曲を弾いた。
星空が落ちてきた。
そう思った。
窓からさす木漏れ日が、彼女の髪に反射した。
きれいな曲で、きれいな人だ、と感じた。
そして、
『これ私のオリジナルなんだよ、いいだろ』
と笑う彼女に、今度は、かわいい人だ、と感じた。
『このギター、売るにはもったいねぇよ。部屋の端でもいいから置いとけ。これ内緒だぞ? この店の店長だったら絶対買い取ろうとするからな。このモデルは』
この感情は知らなかった。
それが一目惚れであると気づくまで、少し時間がかかった。
俺様には音楽関係の知識や技術がなかった。
だから、プロデュースの力を磨いた。
そうやって、なんとか彼女のバンドの後方相談役の立ち位置を手に入れた。
彼女は、いや彼女のバンドはすごかった。
見るものを魅了する。音楽という神秘の体現だった。
俺様にとっては、僕にとっては、まさに、一等星、いや、北極星だった。
とあるとき、対バン相手との飲み会。
バンドメンバーの男一人が不在。
対バン相手は男性によって構成された新進気鋭の後輩バンド。
俺様はそこで、伊地知星歌が離席している最中に、
こっそりと彼女のグラスに粉薬が注がれているのを見た。
そのとき、周りはビールを飲んでいて、日本酒を飲んでいるのは彼女くらいのものだった。
俺様は、水を注ぎに行き、地面に少しだけ水をこぼし、グラスに少量だけ水を残して席に戻った。
地面にこぼした水で客の一人が転び、ちょっとした騒動になった瞬間、
対バン相手たちの目を盗んで、伊地知星歌と自分のグラスを入れ替えた。
帰り際、本当にそれが想像通りのものだったのか確かめるため、俺様はその酒を飲んだ。
結果、酒自体の度数が思ったより強くてべろんべろんに酔っ払った。
問題はそれだけじゃなかった。
たぶん、媚薬が入っていた。
身体が熱かった。
酔っ払った俺様を介抱したのは伊地知星歌で、俺様は気が気じゃなかった。
で、まぁ、全部バレていた。
『私が気づかないと思ってんのか。グラスに口紅ついてたし、リナからメッセ飛んでたし』
『別に……お前ならいいよ。私の責任でもあるし』
『初めてだから……その……優しく、しろ』
俺様は、媚薬とともに混ぜられていた遅効性の睡眠薬が効き始めるまで、初恋相手の身体に性欲をぶつけた。
正直、よく覚えていない。
どういう感じだったのか、伊地知星歌本人にきいても、『内緒』と返されるだけだった。
目が覚めたときには、自分のベッドに寝ていて、横には伊地知星歌がいた。
その寝顔をみて、
愛してるとか、大好きとか、そういう月並みな言葉が、浮かんでは消えた。
そっから、彼女の母親が亡くなって、
バンドが解散して、
『ごめん、お前の身体で、母さんのこと、忘れさせてくれ』
『妹がいるからさ、これからはその面倒をみるよ』
『ライブハウスの名前はSTARRY。星空って意味だよ。てか恥ずいな。聞くなし』
『咳き込むならタバコ吸うなよ。もしかして……私と喫煙室で話したいから吸ってるとかか? いや冗談冗談…………。んだよその顔。………………は、マジでそうなの?』
『なんだそれ、いらねぇよそんな高そうな指輪。いくらしたんだよ。他の女にとっときな』
『お前はそんなだから、見る目のある女に懐かれるんだよ。口調ぐらい変えたらどうだ?』
『何その話し方、ふっ、に、似合ってねぇ……やっぱお前がバンドマンなのは顔だけだな』
『しねぇよ、結婚。お前にはもっといい女がいるだろ。でもまぁ、30歳になってもお前が独り身だったら、考えてやる』
『ずっと私の寝顔みてたのかよ。いや、別にいいけどさ。おもしろいか?』
『はいはい、知ってる知ってる。私も愛してるよ。お前のこと』
『なぁ、もし私らが結婚したらさ、いやもしもの話なんだけど……。なんだよ、いいだろ、ピロートークなんだから……』
『女好きってなんだよ。私以外の女知らないだろお前』
『かわいいって言うな……』
『何見てんだよ。たまにはギター弾かないと鈍るんだよ。…………ああ、あれか、まだ弾けるぞ』
『そしたら妹が公園でギター背負ってるやつを見つけてきてさ、そいつがめっちゃ可愛くて。ほら、みろ、可愛いだろ? 可愛いって言え。…………私にじゃねぇ』
『そんな感じで、妹たちがフェスに応募するらしい。
……ん? まぁ、相談したくなったらするよ。そんときは絶対に、優勝させろよ?』
『星歌さん』
『なにさ?』
『世界でいちばん、愛してます』
『知ってる』
♢
「…………」
「なんか他の女のこと考えてますよね」
「……俺の勝手だろ」
PAの頭が、ごつんと俺様の顎にぶつかる。
痛ぇ。
「今はそれでいいですよ。
でも絶対、いつか、私が盗みますから」
PAの唇が近づいてくる。
俺様はその前に手の甲を翳して、普通に止めた。
完
https://www.pixiv.net/artworks/142232248
↑
「ああ、あれか、まだ弾けるぞ」の伊地知星歌。
AI絵。ログイン時R18イラストに注意。
(今書いている長編作品です。良ければお読みください)
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