どこにも居場所がないという彼女に一本奢ったことをきっかけに、仕事終わりに二人でエナドリを飲む奇妙な関係となった。
陰キャ同士、真夜中のささやかな交流で不思議と惹かれあっていく。
しかしある大雨の夜、何かに絶望した様子で歩いている彼女を見つけてしまい、なし崩し的に家に連れ込んでしまうのだった。
「お先でーす」
かび臭い部屋に向け一言挨拶をして軽い会釈をする。同僚からの返答を聞き流しながら、部屋を後にした。
通り過ぎる廊下の窓からは暗闇が広がっている。腕時計を見ると時間は深夜二時。
ロッカールームで私物のカバンを取り出してから、エレベーターで一階まで降りた。
「暑っ……」
社屋の外に出ると、ほんのりと湿っぽさを含んだ生ぬるい風が肌に当たる。じとっとした不快感に眉を顰める。
こういう時は冷たいコーラでも飲みたくなる。俺は三つ隣の建屋にある自販機へ脚を向けた。
「こっちにも自販機置いてほしいよなー……」
夜勤シフトの仕事終わり、誰もいない中ひとり呟く。
俺の職場はそこそこ大きい建物を片手の指くらい持っているくせに、ケチっているのか自販機は一番端の一棟にしか置いていない。
「ん」
先客が一人、自販機の光の前に見えた。俺と同じシフトの人は大抵すぐ帰る。違う部署の社員が残業でもしているのかと適当に考えながら、バッグから財布を出した。
三つある自販機の真ん中の台の前に立つ。先客は左の台の前でポケットから財布を出そうとしているようだった。
が、思わず目が留まった。
背中まで伸びた黒髪のポニーテールが特徴的な女性だった。暑そうな上下長袖スウェットにリュックサックという姿は、普段ここを使ううちの社員には見えない。
身長も俺の胸くらいまでで、女性、というか高校生くらいの少女にしか見えなかった。
しかし俺の視線に気づいてしまったようで、少女が俺の顔を見上げる。
「あっ」
声を上げたのは少女のほうだった。かなり伸ばした、というよりは伸びっぱなしの前髪に隠れた瞳が大きく見開かれた。
じろじろ見すぎた、と思ったと同時に少女が顔を伏せる。
「ごっ、ごめんなさい。あの、ここ職員さん専用、ですよね」
慌てた様子で早口でそうまくしたてられる。
ぺこぺこと頭を何度も下げる少女のポニーテールがばさばさと揺れる。俺が呆気に取られて何も言えないでいると、彼女は頭を下げながら一歩後ずさった。
「すみません、あの、すぐ出ていきますから……!」
俺が鬼の形相でもしているのかと不安になるほどビビった様子のリュックサック少女。
「あー、いや、別に大丈夫ですよ。多分、うちそういうのないですから」
さすがにこちらが申し訳なくなってそう口にした。
「えっ、あっ、そうなんですか?」
「うん、俺はここの管理者じゃないけど、まあ何も気にされないと思う、っすよ」
敬語なんだか微妙な言葉づかいで答える。年下とはいえ女性と話す経験が乏しくてぎこちなくなってしまう。
目の下まで伸びた黒髪の向こうの瞳から一段階不安が消えた。
「そこ開けっ放しになってますし」
指さした会社の正門は開放されている。俺のような夜勤勤務者が出入りするためだ。
少女は、「ああ」と納得した様子で、心細い電灯に照らされた門扉を見やる。
「あっでも門のところに『関係者以外立ち入り禁止』って書いてありましたよ」
「……」
じゃあなんで入ってきたんだよ、という言葉は飲み込んだ。
「こんな時間だしいいんじゃないですか。だれも見てないよ」
言いながら財布から小銭を取り出す。正義漢ぶる趣味はない。
ちゃりん、と硬貨を三枚入れて、ボタンを押す。出てきたコーラを取り出しながら、少女を一瞥する。出ていくべきか迷ってその場で固まっている。
「あー……なんか、飲みますか?」
精一杯出した気の利いた言葉だった。
「えっ、あ、いやそんな!」
夏なのに長袖を着ている少女は慌てた様子で両手を突き出して、そんなそんなと口にしている。
「俺、ぜんぜん金使わないしいいですよ」
「あっ、そうですか?」
遠慮がちにしながらも、また俺の隣に歩いてくる。今度は少し離れて。
「何にしますか?」
「えっと……じゃあ、モンエナで」
一番高いやついったな。別に構いやしないが。
友達付き合いも彼女もない俺は本当に金の使い道がない。五百円硬貨を入れて黒と緑の缶を購入する。
「はい」
「あっ、ありがとうございます」
おずおずと細長い缶を受け取る少女。すぐに飲むわけでもなく、それを両手で握りしめている。
俺は釣銭を財布にしまいながら、自販機の横の壁に寄りかかった。ぷしゅりと音を立ててコーラの蓋を開け、一口飲んだ。
ちらりと少女に目をやると、まだ自販機の前で固まっている。猫背のままでこちらの様子を伺うようにちらちらと目線を送っている。
「……飲まないんですか?」
「えっ、あっ……いいんですか?」
「それはもちろん」
そんなに俺は威圧的に見えるんだろうか。
「じゃあ、いただきます」
プルトップを引いて、ごくごくとエナジードリンクを飲むその姿は、まるでガソリンを補給しているようだ。
オーバーサイズというかワンサイズ合っていなさそうな服を着ている彼女は、なんとなく不健康そうな雰囲気が漂う。
「あー……おいしい」
心地よい息を吐きながら少女は呟いた。
ようやく笑顔らしきものが見え、俺も肩の力が抜けた。
「よくここ使ってるんですか?」
「えっ」
つい安心して質問すると、彼女の肩がびくっと跳ねた。
「あの、すみません。よくっていうか、たまに――あっいや! ごくごく稀っていうか……!」
「あ、まあどれくらい使ってても俺は構わないんですけど。普通にその、雑談みたいな」
「えっ、あっ、そういう、ことですか。あっははは……ごめんなさいなんか」
口元を片手で隠しながら、少女は愛想笑いをした。前髪に隠された目がちょっと困っている。
「その、モンエナこの辺だとここしかなくて」
「ああ」
なるほど、と頷く。
この辺は工業地帯で、そもそもコンビニも自販機もほぼない。今のような深夜は人も車もほとんど通らない静かな場所だ。少し離れた大通りから時たまうるさいバイク音がきこえてくる程度だ。
「……」
気まずい沈黙が流れる。「雑談力のつけ方」みたいな本を買ってしまうくらいに雑談力が無い俺には場の持たせ方がわからん。
「あっ、はは……」
ふと目が合うと、黒髪の向こうから愛想笑いをしてくる。人のことを言えないが、この子も結構対人が苦手のようだ。
「……まあ、他に行くところないなら使っていいと思いますよ」
俺はそんな彼女から視線を外しながらそう口にして、コーラをまた一口流し込んだ。こういう気まずいときに飲む物っていうのは得てして味を感じない。
少女が特に何も言わない。不思議に思って目をやると、遠慮がちにしか見てこなかった瞳が見開かれていた。
結構大きな瞳をしていることにはっとした。自販機の眩しいホワイトが反射して綺麗だ。というか、暗がりとびくびくした態度で気づかなったが、この子結構かわいい。なんてことを思ってしまった。
「……あの?」
声をかけると、一時停止を解除したようにびくっとして「はいっ!」なんて声を上げていた。
「あっ、あの、ありがとうございます……っ」
少女は大げさにがばっと頭を下げた。反動でリュックサックが頭にぶつかる。固いものが入っていたのか、頭を上げた彼女は手で後頭部を押さえていた。
「え……っと、いや……怒られない程度にしてくださいね」
ヘンに意識してしまい、たどたどしい口調で呟くようにそう返した。だがそんなことを意にも介せず、彼女ははい、と頷いた。
「じゃ、俺は帰ります。おやすみなさい」
気まずさとは違う気持ちから、俺は帰ることにした。なんというか、ぼろが出てしまいそうだった。
「あっ、はい。またおごってくださいね」
結構へんにずぶといというか、不思議な子だ。
控えめな笑顔を向けながら、モンエナ少女が手を振る。俺はそれに軽く手を上げなら、自販機の光に背を向けて徒歩五分の駐車場に向かった。
「ヘンなこと言っちゃったかな」
しばらく歩いたころぽつりと呟いた。
「行くところないなら」なんて、もし違えば普通に失礼だ。だけど俺の口がそう言ってしまったのは、彼女の身なりや行動の端々から”そういう”気を感じたからだろう。
どういう事情があるかは知らないが、なんとなく親近感が湧いたのかもしれない。
「あっ、こんばんは」
次の日、仕事終わりに自販機へ行くと、また彼女がいた。昨日と服装は違うが、やはり長袖にリュックサックという格好だった。
「こんばんは」
夜勤明けの気怠さをなるべく隠しながら挨拶を返す。
「今日もいるとは思わなかったですよ」
本当はいるかもなんて内心期待していたのは内緒だ。
「あはは……別にいくとこ無いんで」
自販機の光で半分が照らされた彼女の顔は、昨日見た時より幾分明るく見えた。相変わらず猫背だが。
「えっと……今日もいいですか?」
「まあいいですよ。モンエナ?」
はい、と頷くモンエナ少女。健康に悪いよ、と夜勤をしている俺にとやかく言えることはない。
「思ったより度胸あるっていうか……意外と遠慮しないんですね」
缶を渡しながら軽い話を振ってみる。
「えっ、あ……ごめんなさい」
俺の手から缶を受け取ろうとしたその手が止まった。少女は目に見えてしゅんとした反応を見せた。
「あっ、いやいや別にいいんですよ。これくらい大人だし」
慌ててフォローを入れると、相変わらず長い前髪の向こうの瞳が上目づかいでこちらを見た。
「そう、ですか? じゃあ、いただきます」
申し訳なさを残しながらも彼女は缶を受け取った。
自信がないのか図々しいのかわからない態度に調子が狂う。誤魔化すように、いつもとは違って俺もモンエナを買った。
それから、俺と彼女は毎日夜勤終わりに自販機横でエナドリを飲む、というのが日常になった。
彼女は
二十代前半とはいえ成人男性が女子高生と深夜に喋っているということに危険さを感じたが、彼女と喋るのは結構楽しかった。
「お兄さんって、何の仕事してるんですか?」
山野辺咲さんと話すようになって一週間ほどが経過したある日。少しの時間だが、彼女も少しずつ気を許してくれたようで、笑顔も見せるようになった。
今日もまた自販機の横で隣同士、俺と山野辺さんはモンエナ片手におしゃべりをしていた。
「んー運用保守員っていう仕事で。……まあ、インターネットのシステムがちゃんと動くようにメンテナンスするみたいな感じかな」
「へえー……なんていうか、社会の歯車っていう感じですごいです!」
それは褒めているのか?
だが、感心したような視線がそうであると言っていた。皮肉を言うような子でもない。
「山野辺さんはいつも何してるの?」
話し始めた当初は敬語を使ってしまっていたが、山野辺さんのほうから「私のほうが年下なので敬語とかぜんぜんやめちゃって大丈夫です!」とせがまれてタメ口で話すようになった。
「私は……勉強、です。学生ですから」
「いつも?」
「学校にいるときとお母さんが家にいないときは、してます」
「ふーん……」
一瞬、彼女の顔が陰る。山野辺さんは家関係の話題になるとき、決まって長い前髪で目元を隠すように俯く。今もそうだ。
「お母さんと、何かあるの?」
思い切って聞いてみることにした。
放っておけないと思ってしまったのだ。家族との問題が辛いことは、俺もそれなりにわかっているから。
「……えと」
言い淀む。だが、俺の顔をちらりと見た後、視線を落としながらも言葉をつづけた。
「お母さん、夜の仕事してて。それで、イヤで」
「夜の仕事……」
頭に疑問符が浮かぶ。キャバ嬢とかだろうか。
「あの、デリヘル、とかやってて。お母さん、ウチに呼ぶんです。お客さん」
さっと血の気が引いた。なんというか、グロい。それは家にいたくなくなるのなんて当然だろう。
誰が自分の母親が知らない男に身体を売っているところを聞きたいだろうか。
「それはまあ、いいんですけど」
「えっ」
いいのかよ。
俺の驚愕に構いもせずに、山野辺さんは話を続ける。
「ちょっと前にお母さんから『出来損ないなんだから外で身体でも売って稼いで来い』って言われて、それで。……別に本気で言ったわけじゃないとは、思うんですけど」
「……」
酷いことを言う親だ。
スチール缶を持つ右手に思わず力が入る。
「あっ、はは……わたし、不登校になって高校中退して定時制通ってるんで、まあ、出来損ないなのは変わらないんですけど。えへへ……」
何も面白いことなんてないのに、彼女は取り繕うように笑う。それは怒りややるせなさの代償行為なのだと思う。
「出来損ないなんかじゃないよ。ちゃんと高校通って、家で勉強もして、立派なもんだよ」
「え……」
つい感情的になり、声に力がこもってしまう。山野辺さんが呆気に取られているのを見て我に返った。
「あ……まあ勉強サボってたり学校やめたりとかいっぱいいるよ。俺だってそうだし」
「え……お兄さん、そうなんですか?」
余計なことを言ってしまったか。
「あー……俺は勉強とか――まあ色々ヤになって大学辞めてて。俺に比べれば、山野辺さんはちゃんと勉強してて偉いよ」
一瞬嫌な思い出が頭をよぎり、エナドリでそれを記憶の奥底に戻しこんだ。
「そう、なんですか? でもお兄さんって自分でお金稼いでて、すごいなって。……わたし、バイトとか怖くて、できなくて。やっぱりお母さんの言う通り出来損ないで、邪魔なんですよ」
弱々しい声で、自嘲するように笑いながら山野辺さんはこぼした。最近思っていたが山野辺咲という少女は、自信が無い、というよりは自己肯定感が育ち切っていないかへし折られた子に見える。
いつの間にか壁によりかかったまま座り込んでしまっていた。
「お母さんがどう言ってたとか真面目に聞かないほうがどうでもいいんじゃない? 親が絶対的な評価軸なのはせいぜい小学校くらいまでだよ。変に期待すると失望する」
山野辺さんに、というよりは昔の自分に向けたような言葉だった。
しかしそれでも、彼女にとってはマシな言葉だったようで。
「……そう、なんですかね」
「うん。親に認めてもらっても自分が楽しくなけれりゃ意味ないよ」
俺が言うと、山野辺さんは壁に背中をずりながらも、腰を上げて立ち上がった。
「じゃあ――楽しいこと、するようにします」
不器用で、それでいて自然な笑顔だった。色白なその顔に、俺もどこか救われた気がした。自分の言葉で多少なりとも前を向かせられたのだと。
「ん、それがいんじゃないかな。好きなこととかないの?」
「好きなこと……勉強?」
「えっ」
変態だ。俺は勉強が大嫌いだ。
「そ、それ以外とかないの」
「えっ? んー……っと、なんでしょう」
本気で頭を抱えて悩む山野辺少女。ぐびりと一口モンエナを飲み込むと、ふと思いついたように口を開いた。
「あの、お兄さん」
「ん?」
やけにかしこまって俺を見上げている。反射的に背筋を伸ばして俺も彼女の顔を覗き込んだ。
「お兄さんとお話しするのが、今は楽しいです。……だから、しばらくは今みたいにお話、付き合ってください」
予想外の言葉に息が止まった。いや予想外だから、というよりは単純に嬉しかったのだ。
俺は今まで友達付き合いはほとんどない。彼女もできたことない。女の子とまともに話したのなんていつぶりだろうか。
そんな具合で、山野辺さんのほうからそんなことを言われてしまって嬉しくないわけなかった。
「……まあ、これくらいならいくらでも」
そこで目を合わせることができなかった。白くてあどけない顔立ちの彼女からまっすぐにそんな言葉を投げかけられると、俺のような童貞はまぶしすぎて直視不可能だ。
「はい、ありがとうございます」
俺のヘタレっぷりに構いもせずに感謝を伝える彼女はとても純粋だった。
「それに、家にいるとその、普通にあんあん聞こえてくるの、なんか不快なので……」
もし自分が同じ立場だったらと置き換えてみると、普通に吐きそうになった。「なんか不快」で済ましているのがかなり図太い。
「……お兄さんは、そういうお店とかいったことあるんですか」
「えっ」
予想外の質問に口に運ぼうとしていた缶が止まった。
「ないけど」
「そうなんですか。……意外です」
「え……行ってそうに見えるの」
「あー……いやなんとなく、あんまり女の人と縁なさそうだなって」
ぐさりと胸にナイフが突き刺さった。それは確かに俺は全然イケメンじゃないし女性経験も無いが。
「あはは……冗談です」
「あっ……そう」
山野辺さんは猫背のまま微妙な表情を浮かべている。冗談のつもりで言ったら図星をついてしまって気まずい、と顔に書いてある。
たらりと首筋を汗が伝う。八月の夜は蒸し暑い。この汗はその暑さだけのせいではないが。
「興味とか、あるんですか? そういうの」
「そういうのって……夜のお店とか?」
「お店というか、その、そこですることがらというか」
「……えーっと、なに、いかがわしいこと?」
俺の微妙に回りくどい言い回しに、はい、と黒髪を垂らしながら頷く彼女。
まだ続けるのかこの話題。だいぶ微妙な空気なのだが。
山野辺さんに目をやると、目が合ってしまった。彼女のほうが慌てて目をそらす。
「……無くはないけど。まあ男ならだいたいみんなそんなもんじゃないかな。知らんけど」
俺も目をそらしながら当たり障りのない答えを返す。門扉のそばの電灯に羽虫が飛んでいる。
「わたしは……ちょっと興味あったり、して」
囁くようなぼそりとした声で彼女はそう呟いた。
「え――」
思わず彼女に視線をやる。俯いていて表情は見えない。ただ所在なさげに左足をぶらぶらさせている。
彼女はいつもオーバーサイズな服を着ている。今日も暑そうな長袖スウェット上下だ。
だぼっとしたアウトラインが全身を包んでいて、体の細さとかはほとんど不明。だが少なくとも細い首筋から太めではないとわかる。
ただ一つだけ、いつも見ないふりをしていたが、服のしわが少なくなる部分がある。それは、たゆんと曲線を描く彼女の胸元だ。猫背のせいかもしれないが、正直かなり大きいと思う。
意識しないようにしていたところに不意に目線が行ってしまい、どくどくと心臓が足を速める。
妙に熱を持つ空気。俺か、彼女が口を開きかけた時だった。
派手なエキゾーストノートを立てながら、会社の前の道路を一台のセダンが駆け抜けていった。
「……っ、音でか」
妖しい空気を切り裂くようなその音に便乗するようにそう口にした。
助かった、とも、なぜかその反対の感情もあった。
「う、うるさかった、ですね」
山野辺さんもいつもの愛想笑いをしながら口にする。先ほどの空気は完全にぶった切られた。
「……じゃ、そろそろ帰ろうか。飲み切ったし」
空になったスチール缶を自販機の横のゴミ箱に突っ込む。
「あっ。は、はい」
気まずさをぬぐい切れないまま、彼女も俺に続いて缶を捨てる。
「じゃあ、気を付けて帰ってね」
振り向かず、彼女に手を振ってそのまま歩みを進める。そんな俺の背中に、山野辺さんの比較的大きな声が追いかけてきた。
「あっ、お兄さん!」
振り向くと、リュックサックの肩ひもに手をかけた山野辺さんが、不安げな様子で俺を見ていた。初めて会った時のように、こちらが不安になるほど怖がっているようにすら見えた。
「また、明日も待ってますから」
「――うん、明日も来るよ。おやすみ」
軽く手を挙げて、俺は今度こそ帰路に就いた。
飲み終わったら解散。対人が得意でない俺たちはそれがちょうどいいきっかけなのだ。こういう気まずい空気もリセットできる。
だが、そこに名残惜しさを感じるくらいには、俺は彼女との時間を大切に思ってしまっていた。
「なにこれ」
パソコンの画面に映し出された文面を見て思わず呟いてしまった。
「夜間の正面出入り口閉め切りについて」との件名のメールをざっと下までスクロールする。
月曜日の出勤早々から嫌なニュースを目にしてしまった。要約すると夜は正面入り口は閉めるから従業員用の裏口から出入りしてね、と書いてある。
「あーそれっすか。なんか夜とか勝手に入ってきて自販機とか使ってるヤツがいるらしいっすよ」
隣の席の後輩がマグカップ片手に俺のパソコン画面を覗き込んできた。
へー、と適当な相槌で冷汗を誤魔化す。これ絶対山野辺さんのことだろう。
「まあ別にいんじゃねって感じですけどねー」
「はは……まあ、変な人とか入ってきても困るし仕方ないんじゃないかな」
困っているのは俺な訳だが。
要領がよく既に俺より仕事ができる彼は、「そうかもっすねぇ」とどうでもよさそうな返事をしながら自分のパソコンに戻っていった。
メールを閉じて業務に戻りながら、今日の夜はどうしたものかと本気で頭を悩ませることになった。
その日は早々に仕事を切り上げ、足早に職場を後にした。そして、いつものように自販機へ向かったが、当然のようにリュックサックを背負った彼女の姿は無かった。
いつもは堂々と開けっ放しになっている門も、憎たらしくも固く閉ざされている。
そのまま帰るのも変なので、とりあえずモンエナを二本買って踵を返した。
「しゃーないか」
社員証でロック解除する仕組みの裏口から出て、一つため息を吐いた。
山野辺さんとは連絡先なんて交換する度胸もない。彼女との接点はいとも簡単に無くなってしまった。
警察とかに見られて面倒なことになるよりはマシなのかもしれない。少しだけ現役女子高生とおしゃべりする夢を見れたと思うことにした。
いつもより重い足を引きずって、いつもの駐車場へ向かった。
「あっ、お兄さん」
どうやらもう少しだけ夢を見られるらしい。
駐車場が見えた頃、正面から見慣れたスウェット少女が歩いてきた。
「やっ、まのべさん」
びっくりしてスタッカートを付けてしまった。
お互いに予想外の出会いに、数秒硬直する。山野辺さんは相変わらずだぼだぼのスウェット姿。
「どしたの、こんなところで」
「あっ、えっと……その、門閉まってたので入れなくて――行くところもないしぶらぶらしてたっていうかっ、お兄さん探してたとかそういうのじゃ決して……!」
早口でまくしたてて、ばたばたと手振りをしている。そんな山野辺さんの可愛らしい姿に思わず吹き出してしまった。
「えっ、あっ? なんで笑うんですかお兄さん」
「いや、そんなに慌てなくてもと思って」
俺の言葉に、山野辺さんは猫背をさらに丸めて顔を伏せた。小動物的な雰囲気だ。
「モンエナあるけど、飲む?」
バッグに仕舞っていたうちの片方を取り出して彼女に差し出す。また十分に冷たく、結露が手に伝う。
「……飲みます」
赤くなっているであろう顔を片手で隠しながら、もう片方の手でそれを受け取ってくれた。
「――そういうわけであの自販機はもう使えないかな」
ハンドルを握りながら、ことのあらましを説明する。助手席に乗る山野辺さんは、申し訳なさそうに肩を落とした。
「そう、ですか……まあ私が悪いんですよね。でも、残念です」
行くところもないので、国道を一直線に走らせる。道沿いのカーディーラーやら飲食店は軒並み営業を終了している。
駐車場で立ち話をしているとさすがに同僚達に見られてしまうので、とりあえず助手席に座らせてしまった。危うさ的には自販機横よりよっぽど上だが、この際どうでもよかった。
「モンエナ飲めなくなっちゃったね」
「あ……それも確かに、残念です」
「ん、他に何か?」
「……いや、お兄さんと――いえ、ナンニモナイデス」
ぼそぼそと口にして窓の方を向く山野辺さん。心なしかちょっとだけ不満そうに見えた。
「あの、お兄さん」
「ん?」
カップホルダーに置いていた缶を一口飲むと、山野辺さんが口を開いた。
「楽しいことするのがいいって言ってくれたじゃないですか。なんかあるかなって考えてみたんです」
「何か見つかった?」
「はい。今日持ってきたんですけど」
そういうと、彼女は足元に置いていたリュックサックを漁ってあるものを取り出した。
「これ、なんですけど」
ちょうど赤信号でブレーキを踏む。フロントガラスから彼女へ視線を映す。
山野辺さんが持っていたのはカメラだった。それも割と高そうな一眼レフ。あんまり筋力なさそうな山野辺さんは、ちょっと辛そうにそれを俺に掲げている。
「へー! カメラかぁ」
「はい。たぶん、お父さんが使ってたんだと思います。たまたま押し入れに入ってて」
説明しながら、彼女はおもむろにカメラの電源を入れた。
「もう何か撮ったの?」
何か見せてくれるのかと思っていると、山野辺さんは無言でカメラを構えた。その照準は俺に向いている。
俺が何か反応する前に、カシャリと子気味のいい音を立ててシャッターが切られた。
「……撮りました。いま」
カメラからひょこりと顔を出して、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。年相応の無垢な笑顔に思わずドキリとする。
「っ……油断したよ」
「えへへ……びっくりさせたくて」
青信号に変わり、ブレーキを離す。
一瞬彼女に目を向けると、カメラを見てくすくすと笑っていた。
「ふっふふ……っ。お兄さん、ヘンな顔してます」
「勝手に撮っておいてひどい言われようだ」
「だって面白い顔してます。ほら、家の鍵穴にヘンな虫とまってた時みたいな」
「なんだその喩えは」
小さな車内に俺と山野辺さん、会社員と女子高生というアンマッチな笑い声が響く。
「今度、なんていうんでしたっけ……あの、写真を具現化するっていうか」
「ああ、現像?」
「あ、それです。現像して持ってきますから」
「いいよ、恥ずかしいから」
いやです、なんて言って山野辺さんは笑う。初めて会ったころは随分人見知りな子だと思ったが、悪戯っ子な正体が見えてきた。
お互いにまぶしい青春を送ってきた陽キャとはほど遠い。だが、似た者同士、不思議と気の合うところを感じていた。
その日は適当にドライブした後、会社の最寄り駅にロータリーに戻ってきた。
「じゃ、また今度」
「あ、はい。ありがとうございます」
ドアのロックを解除する。田舎だから駅は誰もおらず、駅舎の電気もほとんどついていない。
「あっ」
「ん……どうしたんですか?」
山野辺さんが不思議そうに首をかしげる。
門が締め切られる件ですっかり忘れていた。
「俺来週からシフト変わるから……えっと、次はいつかな」
スマホを取り出してカレンダーの予定を確認する。
「来月の……最初の月曜日だね」
「えっ……三週間くらい先ですか」
ものすごく残念そうな顔を浮かべている。山野辺さんは感情がそのまま顔に出やすい。
そんな反応をしてくれるのは嬉しいが。残念なのは俺も同じだ。
「ちょっと、さっ、さびしいかなって」
長い前髪をくるくると指でいじりながら、山野辺さんは落ち着きがなくそんなことを言った。
開きかけた口が止まる。これは明らかに連絡先交換のチャンスだ。さすがに俺でもこれは勘違いじゃないと確信できる。
たった二週間でも、俺はとっくに山野辺さんに下心を抱いてしまっている。そりゃ今まで女性経験もない男がいきなり年下の、しかも女子高生と毎日話すようになってしまったのだから。
「っ……たまには好きなことして遊んでみるのもいいんじゃないかな。せっかくカメラっていう趣味もできたんだし、色々なところ撮りに行ったりとかさ」
俺はヘタレの選択肢を選んだ。ギャルゲだったらバッドエンドに行くやつだ。
「……そう、ですか? でも」
「俺みたいなおじさんと喋るより楽しいこともあるよ多分、きっと」
「お兄さんまだ二十二って言ってませんでしたっけ」
「……女子高生からしたらおじさんじゃないかなと」
これでおじさんって言われたら傷つくが。
「……わかりました。じゃあ、今度会ったらどこか写真、撮りに行きませんか。――いっ、いっしょ、に」
「えっ、あ……ああ、わかった。そう、しようか」
嬉しい提案に思わず意思が揺らぐ。
じゃあ今から撮りに行こうか、なんて言葉が脳内選択肢に出現した。明日は休みなのだから、朝まで二人でいたって構わないのだ。
しかし、一抹の後悔を抱えながらも、誘惑を押し込んだ。
「じゃあ、また今度、ここで待ってますから」
「うん。気を付けて帰ってね」
ドアを開けて山野辺さんが車から降りる。優しい強さで扉を閉めてもらった後、窓を開けてギアをドライブに入れた。
「絶対、来てくださいね」
ドアから俺を覗き込んだ山野辺さんが、そう念を押す。わかってるよ、と笑って、俺はアクセルを踏んだ。
慣れた手つきでステアを回して駅のロータリーから出る。ウインカーを出して出口から曲がる瞬間、バックミラー越しに手を振る彼女が見えた。
ちなみに一キロほど走ったところで猛烈に自分の判断を後悔した。
俺はその後悔を抱えたまま、九月まで三週間という退屈な日々を再び過ごすこととなったのだった。
九月最初の出勤日は台風の影響で大雨が降っていた。暑さに湿気がプラスされて不快感の化学反応が起きている。
今日は山野辺さんと久しぶりに会う日、のはずだがこの雨だと厳しいかもしれない。不安を抱きながらも、俺は定時きっかりで退社した。
車を走らせ、約束の駅に車を停める。
「さすがにいないか」
明かりに乏しいことに加えて大雨だから視界は最悪だ。ワイパーをマックスにして目を凝らす。
しかし、やはりリュックサックの猫背少女の姿はなかった。
「……家で飲むか」
助手席のドリンクホルダーに置いたモンエナを一瞥して呟く。ため息をひとつ吐いて、俺は車を出した。
いつもの通勤路をいつも通りぼけっと運転する。この大雨では人っ子一人歩いていない。信号機の三色だけが照らす大通り。
「えっ」
何気なく通りすぎたラーメン屋の前。俺の視界の端を、人影が通りすぎていった。
反射的にブレーキを踏んで車を停める。ドアミラーからそこを確認すると、確かに人が歩いていた。
「山野辺さん、だよな」
傘もささずに土砂降りに打たれているその人影は、山野辺咲その人だった。猫背に雨濡れの長髪が重なってどこかのホラー映画みたいになっている。
ハザードを焚いて路肩に停め、車を出た。折り畳み傘を開き、ばしゃばしゃと音を立てながら彼女に駆け寄る。
「山野辺さん! 大丈夫!?」
明らかに普通の様子じゃない。いつもの猫背をさらに丸めて、俯いたままとぼとぼと歩いていた。
「あ……おにい、さん」
俺の声に彼女が顔を上げる。もともと長い前髪が濡れて顔に張り付いてひどい有様だ。
何より、彼女の黒い瞳は俺を見ているようで焦点が合っていなかった。まるで全部どうでもよくなってしまったような。
「どうしたんだよ、こんなびしょ濡れで。風邪ひくよ」
とにもかくにも、彼女の上に傘を差しだす。
リュックサックにスウェットというのはいつもと変わらないが、ずぶぬれであちこちから雨水が滴っている。いつものポニーテールはほどかれて、服に張り付いている。
「山野辺さん? あの、聞こえてるかい」
「おにい、さん……ごめん、なさい」
「え?」
予想に反した謝罪の言葉。
「かめ、ら……持ってこれなくて」
彼女の声が震えている。濡れた山野辺さんの頬に、また一つ雫が伝った。
「え……ああ、カメラ? いいんだよそれくらい。それより風邪ひくからとりあえず車乗って!」
触れた彼女の肩は冷たかった。かなり長い時間雨に打たれていたことがうかがえる。
強引に肩を掴んで助手席に乗せる。他人が見たら誘拐に見えるかもしれないが、どうでもよかった。
「ほら、シートベルトして」
運転席に乗り込み、助手席のシートベルトを下げる。
山野辺さんは意志喪失といった様子でうなだれている。何かあったことは聞くまでもない。
だが、今はそれを気にするより先にやることがあった。
「悪いけど俺の家連れてくから。ほら、とりあえずこれでちょっと拭いて」
後部座席にぶら下げてあったスーツのジャケットを山野辺さんに押し付ける。「ああ……」とうめき声みたいな声を出しながらも受け取ったのを確認して、俺はアクセルを踏んだ。
大雨の国道を飛ばす間、山野辺さんは一言も話さなかった。俺もなんて声をかけていいかわからず、ひたすら三十分先のアパートに急いだ。
「入って。山野辺さん」
アパートの鍵を開けて、山野辺さんを招き入れる。
そのまま彼女の手を引いて、風呂場に直行した。スーツということに気が引けたのか、車にいる間はほとんど自らの体を拭かなかった。
「はい、これバスタオル。とりあえずシャワー浴びて、あったかいやつ。風邪ひいちゃうから」
脱衣場の電気をつけて、棚に置いてあったタオルを山野辺さんに渡す。
「……はい」
タオルを洗濯機の上に置くと、彼女はおもむろに自分のスウェットを脱ぎ始めた。
「ん」と不快そうな声を上げて、水を吸って重くなった上着を引っ張り上げる山野辺さん。白くて柔らかそうなおなかと、その上に白い下着がちょっとだけ見えてしまった。
「うわっ! あっ、ちょ……! 山野辺さん、俺いるんだけど――あっ、出てくからごゆっくり!」
慌てて脱衣場から飛び出て、思い切りドアを閉める。
ちらりとは言えど、女子高生の肌を見てしまった。どくどくと鳴る心臓のまま、床に放置していた荷物を拾って部屋に直行した。
「あの、お兄さん」
部屋着に着替えて落ち着きなくスマホをいじっていると、部屋のドアがノックされた。ぼそぼそとした山野辺さんの声がさらにくぐもっている。
「山野辺さん? どうかした?」
「あの、入ってもよろしいでしょうか……」
やけに恐縮している。
「もちろんどうぞ」
やけにドアを狭く開けて、びくびくしながら入ってくる山野辺さん。
ドライヤーを使わなかったようで、髪が湿り気で光を反射している。だが、この家に入ってきた時よりは随分とまともな姿になった。
びしょ濡れだった服から、俺が部屋着にしている白Tシャツと薄いスウェットパンツに装いは変わっている。サイズは合っていないが、いつもの彼女のスウェットも大概だぼだぼなのであまり違和感ない。
「……そこ、座っていいよ?」
「あっ、はい。失礼いたします……」
ドアの前に突っ立ったまま動かないので声をかけると、びくっと肩を跳ねさせてちょっと裏返った声で返答された。
山野辺さんは落ち着かない様子で俺のシングルベッドに腰かけた。人を呼ぶことを想定していない家なので、俺は山野辺さんとローテーブルを一つ挟んで床に座っている。
まあそりゃ気まずくてそんな態度にもなるよな、と内心納得する。
「散らかっててごめんね。これでもちょっと片付けたんだよ」
「あ、いっ、いえ……! ウチよりずっと綺麗です」
家庭環境がよろしくないことは承知しているからそれほど驚かなかった。
「あの、本当にすみません、お兄さん。……家、お邪魔しちゃって、シャワーと、着替えも借りちゃって」
俯いたまま、山野辺さんは口にした。脚の間に入れた両手が所在なさげに絡み合っている。
「いいよ、これくらい。山野辺さんが風邪ひいて倒れちゃうよりずっといい」
「あっ、ありが――すっすすすみません」
慌てて謝る山野辺さんに、仕方ないなと息を吐く。初めて会った時を思い出すビビり具合だ。
「飲む?」
「えっ?」
テーブルに置いてあった二本の缶うち、片方を山野辺さんに差し出した。
雨で冷えているだろうから、本当はホットミルクとか出した方がいいんだろうが、委縮してしまっている彼女には、いつものようにモンエナ飲ませた方が落ち着くんじゃないかと思った。
「……はい、飲みます」
やっと俺に視線を向けて、山野辺さんは黒と緑の缶を受け取ってくれた。
「……で、さ。何があったの?」
三分の一ほど飲んだころ、そろそろかと思いそう切り出した。
「えっ、あ」
ぬるくなった缶に視線を落としていた山野辺さんの目が、一瞬俺を見てまた元に戻る。
「嫌ならいいんだけど、ごめん、俺が気になるから」
それは理由のうち半分だ。誰かに聞いてもらえるだけで、解決策なんてなくても楽になることはある。
少なくとも俺は昔、誰かに聞いてほしいと思った。
「……はい。そう、ですよね。お兄さんには、ちゃんと話します」
小さい声だったが、弱々しくはない。彼女の白い手が、持っていた缶をテーブルにことりと置く。
「お兄さんと会えない間、お兄さんが言ってたようにいろいろ写真撮りに行ったんです」
部屋の隅へ置いた自身のリュックサックに目をやりながら、山野辺さんはゆっくりと話し出した。
「それで、一枚すごくいい写真が撮れたんです」
「それは、どんな?」
俺が聞くと、山野辺さんは猫背を少しまるめて、Tシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
「朝の、日の出です。山から太陽が出てくる瞬間をすごく綺麗に撮れました」
ほんの少し、山野辺さんの声がやわらいだ。
「……それ、で。わたし、その写真をお母さんに見せたんです。その、ほっ、褒めてほしかったんだと、思います」
しかし、彼女の声がまた強張る。息継ぎも浅くなった。
俺はそれを黙って聞いた。
「でも、褒めてもらえるなんて、そんなことなくて。『こんなことして遊んでるから出来損ないなんだ』って、言われちゃって」
悲壮感とは反対に、痛々しい笑みが山野辺さんの口に現れる。
「でもそれだけじゃ、なくて。……あの、察してるかもですが、ウチあんまりお金無いんです」
うん、と頷いて山野辺さんの言葉を待つ。
「カメラなんてあるの、お母さん知らなかったみたいで。カメラって、結構高いじゃないですか。……だから、そのまま売られちゃったんです」
思わず顔をしかめざるを得なかった。
他人である俺から見れば酷い親だ。しかし、山野辺さん本人にとっては認めてもらいたい人だったのだろう。親とはそういうものだ。
しかし、それを真っ向から否定した挙句、見つけたばかりの自己表現のための道具を奪ってしまうなどあってはならないのだ。
「……だか、ら……っ、かめら、もってこれなくっ、て。お兄さん、と……一緒に、撮りにいこうって、やくそくした、のにっ……」
山野辺さんの声が震える。Tシャツをぎゅっと握る拳に、雫がぽたぽたと零れ落ちる。小さな肩が痛々しく揺らしながら、「ごめんなさい」と口にした。
反射的に俺は立ち上がり、彼女の横に駆け寄っていた。背中をさすろうとする手が一瞬躊躇したが、やはり俺はその丸まった背筋に触れた。
「っあ……」
「いいんだ、山野辺さん。いつもみたいにドライブしたり雑談するだけで俺は楽しいから」
少し熱を取り戻した小さな背中をさする。そうすると少しだけ彼女の震えがおさまった。
しばしの間、山野辺さんの啜り声と、外からの雨音だけがアパートのワンルームに響いていた。
「……もう、大丈夫です。すみません、急に」
肩の震えもなくなったころ、軽く鼻をすすって山野辺さんは呟いた。外の土砂降りも少し弱まってきただろうか。
「そっか」
ゆっくりと背中から手を離す。
「……ありがとう、ございます。話したら、ちょっと楽になりました」
よかった、と胸をなでおろす。
「……お兄さん」
「うん?」
山野辺さんが俺に顔を向ける。涙で目の周りが赤みを帯びている。
いつもの前髪が涙をふくために上げられていて、いつもははっきりと見えない彼女の瞳が俺の視線にさらされる。
「お兄さんも、昔何かあったんですか」
「えっ?」
不意に確信をついた言葉に思わず驚いてしまった。
「どうしたの、急に」
正面に顔を向けて視線をずらす。いつもは隠れている、あどけなくて可愛らしい顔立ちにどきりとしていたのもある。
「なんとなく、ですけど。お兄さんっていつも、欲しい言葉をくれるっていうか。……だから、何かあったのかなって」
驚いた。いつもおどおどしているのに、鋭い観察眼を隠し持っていたようだ。
「何かあったって程じゃないけど。……似たようなことを思ったことはあるよ」
山野辺さんが話してくれたのなら、こっちが隠すわけにはいかない。好き好んで話したい内容ではないが、山野辺さん相手ならいいと思った。
「父親が医者なんだよ。だから昔から勉強させられまくってて、色々頑張っても全然褒めてくれなくて」
小さいころから塾に通わされ、中学高校も進学校に行かされた。ちっとも楽しくはなかったが。
「俺はあんまり勉強得意じゃなかったんだ。でも、俺なりに頑張って医学部じゃないけど割といい国立大に受かって、ちょっとは褒めてくれるかなって思ったんだよ」
当時の俺の評価基準は父親だった。厳しかったが、優秀な人だというのは親戚からの話を聞いていて、俺も尊敬していた。
「でも医学部は落ちたから褒めてなんてくれなかったよ。失望されて、『あとは好きなようにしろ』なんて言われたから大学も中退して、なんとか今の会社に拾ってもらえた」
ふと山野辺さんを見ると、憐み、というよりは共感のような視線を感じた。それがむずがゆくて、誤魔化すように笑って続けた。
「だから……その、なんだろ。俺は自分があの頃言ってほしかったことをそのまま山野辺さんに投げてるだけみたいな、そんな感じかな」
話し終えると、途端に恥ずかしくなってきた。これを他人に話したのは初めてだ。初回が年下の女子高生になるとは思ってもみなかった。
「お兄さんも、すごく大変な思いをしてきたんですね。……あっ、お兄さんも、っていうか、私よりずっと大変だったと、思うんですけど」
「そうかな」
「はい。――でも、おかげで、わたしはちょっと救われました」
えへへ、と照れくさそうに笑う山野辺さんの笑顔に、どくんと心臓が高鳴った。
その言葉で、俺もまた救われてしまったのだから。今までの嫌なことや苦悩が、少しだけ報われたような気がした。
「……それならまあ、よかったよ」
少しジワリとくるものを感じてしまった。俺はテーブルに置いてあったモンエナを取って一口飲み込んだ。
「あっ」
俺がごくりとカフェインを体に吸収したのと同時に、なぜか山野辺さんが声を上げた。
「どしたの?」
「えっ……あっ、それ、私が口付けたやつだったので」
「え? あっ、ごめん!」
慌てて缶をテーブルに戻す。そういえば俺のはテーブルの反対側に置いてあった。
「うっかりしてた。新しいの買ってくるよ」
「ええっ? あっ、いやわたしは気にしないですからっ」
俺が腰を上げようとすると、慌てた様子で俺が口をつけてしまった缶をぐびりと飲んだ。
謎の行動に俺が面食らっていると、あっという間に全部飲み干してしまった。
「ほっ、ほら、全然平気です」
「あっ、うん……あ、ありがとう?」
俺も謎の感謝をしてしまった。まあ、山野辺さんなりの優しさなんだろうと腹落ちした。
「あ、山野辺さん、こぼれてる」
一気飲みしたせいか、口の端から液体が襟元まで伝ってしまっていた。ベッドのそばに置いてあったティッシュを二三枚取って差し出す。
「あっ、すみません」
山野辺さんは口や首元をティッシュでぬぐいながら謝ってくる。さっきまでシリアスな空気だったから、ちょうどいいアイスブレイクになった。
「ごめんなさい、お兄さん。シャツもちょっと濡れちゃって……」
「ああ、いいよそれくらい。千円くらいのだか――」
いいかけた言葉が止まる。俺の視線の先には、俺の白シャツをぽんぽんとティッシュで吹いている山野辺さんがいる。
彼女はいつもだぼっとした服を着ていて、体のラインが出にくい。男である俺の服を着ている今もそうだ。
しかし、唯一の例外が丸みを帯びた胸のふくらみ。
「あの、お兄さん?」
いつもは猫背の上に薄暗いところでしか見ていないから、意識することはほぼなかった、というか意識しないようにしていた。だが今はどうだろうか。
薄いTシャツである上に、汚れを拭くために背筋を伸ばしている。ぴん、と白い布が彼女の肌に貼り付けられ、その曲線がこれでもかと見せつけられている。
それだけでも十分破壊力があるというのに、今はそれにもう一つ要素がプラスされていた。
「あっ、いや……なんでもないよ」
その言葉を口に出すのは十秒遅かった。
俺の態度に違和感を感じた彼女は、俺の視線をすでにトレースしてしまっていた。
「あっ……」
山野辺さんの目線が自らの胸元に落ちる。
陰影がくっきりと浮かび上がる白い布地。膨らみの頂点に、突起がはっきりと影を作っていた。
「やっ、あっ! ごごごごめんなさい!」
なぜか彼女のほうが謝りながら、がばりと両腕で自らの身体を隠して逆方向を向いてしまった。
「あっ、いやごめん、俺のほうこそ……!」
俺も彼女に合わせて反対方向を向く。視界の先には本棚があるが、俺の意識には先ほどの光景が焼き付いている。
細い腕や首とは不釣り合いにぶら下げられた膨らみ。白いシャツが張り付いたそれに浮き上がった突出は、明らかに乳首だった。
というかなぜノーブラなのか。
「あっ、あの、ブ、下着……っ、濡れちゃったので、あの、つけてなくて……っ」
答えてくれた。
いつもの慌てぶりだが、今日ばかりはそれが俺にも伝播してしまう。
「あっ、いや、大丈夫だよ……見えてないから、全然見ていない。チラッとしか」
「みっ、見えちゃったんですか……」
もし女性経験があればいくらかスマートに流せたのかもしれないが、これではまるっきり童貞丸出しだ。
とりあえず今は位置がまずい。ほぼぴったり隣同士だ。
「っあ、山野辺さんの服、洗濯しないとだよね。洗濯機回してくる!」
ひとまず離れようと、腰を上げた。
「あっ、ま、待って!」
しかし、なぜか山野辺さんは立ち上がろうとする俺の服を掴んで引き留めた。バランスを崩して再びすとんと腰を下ろす。ぎしっ、とベッドが大きく揺れた。
「や、山野辺さん?」
「あっ、いや、えっと……ごめんなさい、なんか、とめちゃいました」
自分の行動原理がわかっていない山野辺さん。俯いているその顔は、はっきりわかるほど赤くなっていた。
二人横並びでベッドに腰かけている。突然の事故でそういうモードに移行し始めた俺の脳は、まるでこれから性交渉が始まるようなシチュエーションだななどと解釈している。
「お兄さんって、そういうこと――興味、あるんですよね」
張りつめていて、それでいて不快感はない空気を、山野辺さんの囁くような声が揺らす。
いつかした会話を思い出す。
「ある、けど。……なんで」
「――おっきく、なってるので」
彼女の視線が俺の下腹部に向いている。柔らかい素材のスウェットパンツが、俺の性欲で隆起している。
彼女は恥ずかしくて俯いていたのかと思ったが、ソレを見ていたのか。拒否感ではないその視線の理由が知りたくなる。
「……山野辺さんこそ、興味あるんでしょ」
心臓がどくどくと早鐘を打っている。そのビートに押し出されるように、俺の口がアクセルを踏む。
はっとした顔で山野辺さんが顔を上げる。
涙の腫れが引いて、白い顔が際立っている。ほんの僅かに開いている口が、つばを飲み込んで一瞬閉じて、また開く。
「……は、い」
震えそうになる手を力を込めて抑えながら、彼女の小さな肩に手を回す。「は……」と声にならない山野辺さんの息が漏れる。
彼女の大きな瞳は伏せられて、長いまつげが揺れている。その視線は俺の体のどこを漂っているのか。
ほんの少し顔を寄せると、その瞳は俺を向いた。
もう、止まる気なんて無かった。
「……ん」
外の雨が止まった気がした。代わりに聴覚を支配したのは、羽が落ちるほどの彼女の小さな息遣いだった。
遅れて触角が追いつく。俺と山野辺さんの唇が、そっと触れあっていた。
彼女の目が俺をこれでもかと映している。瞬きを一つすると、それは薄められ、やがて閉じた。
「っ、は……」
息が漏れる。唇を離したのは、息が詰まりそうだったから。
でも口を離すと、思ってもみないほどの飢餓感が喉まで上がってくる。
「おにい、さん……」
山野辺さんは熱に浮かされたような焦点の定まらない目で俺を見上げている。無垢でいて、それでいて催眠にかかったようなそれに、じわりと劣情が顔を見せる。
「っん……」
次の瞬間には、体を寄せると同時に彼女を引き寄せて唇を奪っていた。
相手が女子高生だとか、もう考えていられなかった。拒むどころか、期待するような目を向けてくる女が目の前にいるというのだから。
「っん、ぁ……」
片手を彼女の腹に触れさせる。やせ型だと思ったが、ちゃんと肉付きがある。性的な部位でなくとも、女性の体の柔らかさというのはそれだけで男を虜にする。
だが当然それだけで満足などしない。はやる気持ちを抑えようともせず、上に滑らせて彼女の桃肉を包んだ。
「っあ……っ、ん……」
彼女の息が大きく漏れて唇が離れた。唇だけで触れあっていたのに、半開きになった彼女の口元から涎が伝う。
「山野辺さんの……でか……」
「っん、あ……」
思わず漏らした声に、山野辺さんは目をそらした。しかし拒否する色はどこにも見当たらない。
手をすべらせて、撫でるように彼女の大きな乳肌を堪能する。極上の感触は薄いシャツなどでは到底隠しきれておらず、十全に張りを主張している。
「あ、の……大きいの、ヘンですよね」
「え……?」
予想外の言葉に思わず手を止めた。
「ヘンじゃ、ないけど。年の割には大きいけど、すっごく、その……いいよ」
「そっ、そうですか……?」
俯いていた山野辺さんの瞳が俺を見上げる。
「高校に入ってから大きくなっちゃって、その……ちょっといじめられてた、ので。……それがきっかけで、学校、いけなくなって」
そんなものただの嫉妬だ。だが自信のついていない彼女はそれを受け流すことが難しかったんだろう。
「俺は好きだけど。山野辺さんの胸」
「うえっ?」
山野辺さんが素っ頓狂な声を上げた。
「えっ、そ、そうなんです、か?」
「うん。その……いや、山野辺さんのこと乱暴にしそうになるくらいには、すごくいい」
俺には回りくどくするか、ドストレートに伝えるかしかできない。こんな普通じゃない状況では後者になってしまう。
口に出した後で自分の発言に引いてしまって、山野辺さんの目を見れなかった。
「そっ……そう、ですか」
しかし、盗み見た彼女は口角が上がっていた。彼女も俺と同じように目をそらして、それでも嬉しそうな色が隠せていない。
「山野辺さん、無理。我慢できない」
「えっ? ふあっ……!」
あまりにも可愛らしい反応に、理性がぱちんと弾ける。
両腕で抱きしめるように、二つのメロンを包んだ。ぎし、とベッドが軋む。俺の動きだけじゃなく、山野辺さんが身体をびくんと反応させたのもだ。
「あっ、ん……ぁ、おっぱい……っ、あ……さわられ、て――」
片手じゃおさまらない山野辺さんの乳肉を贅沢に独り占めする。
下から軽く持ち上げるだけでずっしりと肉が五指にのしかかってくる。こぼれ落ちてしまいそうな肉感に思わず息を吞む。
「あっ、お兄さんの、て……あったか、い……んっ」
はあ、と吐く山野辺さんの呼吸は熱を孕んでいる。アルコールでも含まれていそうなそれにくらりとする。
「ここ、勃ってるよ」
「えっ、あ……ぁんっ!」
白い布に影を落とす膨らみを、ぴん、と両の指ではじくと、小さな身体が跳ねた。
「っ……はっ、ぁ……お兄さんのせいです、から――だか、ら……きもちよく、してくれませんか」
それを皮切りに、また一つ空気が変わった。彼女の大きな目に性欲が浮かんで、潤んだ瞳に揺蕩っている。
どっ、どっ、と跳ねる心臓は、密着している彼女にも伝わっていることだろう。
俺はそれを隠すこともせず、山野辺さんの乳房を鷲掴みにした。下から持ち上げて、両側から抱きしめて、これは自分だけのものなんだと主張するように。
「あっ、う……んっ、ぁ……はっ、は……はっ、あ……っ」
感度が徐々に上がっていっているのか、乳首に触れていなくても山野辺さんの呼吸が乱れていく。それをもっと狂わせたいと思うのは、男として当然のことなのだろう。
揉みしだくのをやめて、人差し指を親指を膨らみの頂点に這わせる。瞬間、期待するように彼女の呼吸が止まった。
ほんの一瞬焦らして、引き金を引くように、ぽつっと浮き出たそれを二つの指で挟んだ。
「あっ……! んっ、ぁ……っはっ、はーっ、あっ……おにー、さんっ、あっ……きもちっ……んっ、あっ……!」
ダムが決壊するように、山野辺さんの快楽のギアが上がった。
興奮して感度が引き上げられているのか、俺の不器用な指使いで身体をびくびくと震わせて感じている。
「っ、山野辺さん」
「お兄さんの、も……っ」
お返しなのか、山野辺さんの小さな手が俺の股間の膨らみに触れられた。
反射でびくりとソレが跳ねる。それを見て山野辺さんは紅潮した頬のまま、少し笑った。
「ん……す、っごいです。おとこの人のって、っン、こんなあっついん、ですね……」
さわさわと優しく弄ばれると、鈍く濁った快楽が下腹部で疼く。それはぞくぞくとした欲望を加速させる。
拒むもののないまま、俺は彼女の乳肉をまさぐる。乳首をしゅりしゅりと擦ると、耳元から山野辺さんの吐息が熱く漏れる。
「シャツ……脱がしていいかな。山野辺さんの胸、直接見たい」
「ん、えっ? あっ、あ……ん、えっと――」
さすがに恥ずかしいのか、顔を伏せて言い淀んだ。
しかし山野辺さんは身体を震わせながらも、拒むことは決してしなかった。それが何を意味しているのか、彼女自身もわかっているんだろう。
「っ、じゃあ……電気、消してください」
こくりと頷く山野辺さん。わかった、と返事をして、机上のリモコンに手を伸ばす。
ぴ、と軽い電子音とともに、部屋が暗闇に落ちる。しかし、少しは彼女を見たいという気持ちから、暖色の常夜灯は残した。
「じゃ……脱がすよ」
ごくりと唾をのんで口にする。山野辺さんは消え入りそうなほどの声で「……はい」と答えた。
俯いていた彼女だが、俺の手がシャツの裾にかかると俺を見上げた。細められた目は羞恥心で睫毛が震えていた。
しかしどうだろうか。潤んだ唇は甘く開いていて、まるで何かを待ち望んでいるようだ。
「っは……ぁ……は――」
雨音に混じる山野辺さんの呼吸。
俺がそっとシャツをめくりあげると、それが吸いこまれるように止まる。彼女の肌が外気に晒されていくにつれ、また再開して乱れる。
膨らみのふもとで僅かに引っかかる。力を強めて上に引っ張ると、一気に上まで脱がされた。
だぷん、と開放された二つの乳房が、重力で大きく揺れる。
「でっか……」
感嘆の声を漏らしてしまうほどの凶器だった。細くて白い胴体に実った果実は、グラビアアイドルと遜色ない大きさだ。
それでいて美しいラインを描くそれは、男の欲望を具現化したようだ。
「おにい、さん……あの、触って、くれませんか」
見られるのが恥ずかしかったのか、山野辺さんが口にする。
「あ……ごめん。なんていうか……エロくて」
「えっ……あっ――えっ? うう……えっち」
半脱ぎで恥じらう彼女が可愛らしい。
「お兄さん。……あの、お兄さんも脱いで、ほしいです」
そう言いながら俺の股間のふくらみを手のひらで撫でてくる。無自覚な淫らさに、勝手に首を縦に振っていた。
スウェットと一緒に下着もまとめて脱ぎ、床に無造作に落とす。びん、と勢いよく天を向く俺の剛直は、これ以上ないほど勃起していた。
「……触るよ」
「はい……わたしも」
沸騰しそうな頭のまま、必要最低限の言葉を交わす。あとはただ、お互いのカラダに触れ合うだけだった。
「んっ……」
彼女の乳房を鷲掴みにすることに躊躇はなかった。五指をいっぱいに広げて、乳肌を限界まで感じとる。
シルクのような肌は引っかかりが一切なく、指になじむような感覚だ。少し力を入れるだけでふにゅん、と沈み込み、溺れてしまいそうになる。
技巧なんてなくただ揉みこむだけで、頭の中がぼーっとして熱くなる。張りと柔らかさが同時に掌に伝わってきて、一瞬で虜になってしまった。
「は……ぁっ、お兄さんの……カタい。すっご……えろい、です」
頭が沸騰しているのは彼女も同じのようで、自らの手に包まれた男性器を呆然と見つめている。つい先刻の恥じらいはどこかへ消えて、興味深そうに俺のものを触っていた。
手淫とはほど遠い接触。しかしそれだけでも、細くて滑らかな山野辺さんの手指に触れられるだけで気持ちがいい。
「山野辺さんって……男の見たこと、あるの?」
「っえ? あ、の……ない、です。……おにいさんは、あるんですか」
「俺もないよ」
お互いの身体をまさぐりながら、乱れた呼吸で言葉を交わす。
山野辺さんの瞳には、この薄暗さでも隠せないほどの性欲が見えていた。そしてそれは俺も同じなのだろう。
「はじめて、なんですね。……うれしい、です」
時折見せる山野辺さんの無垢な笑顔は、男なら誰だって好きになってしまいそうだ。特にそんな言葉と一緒の場合は。
「俺みたいな大人が最初でいいの? 山野辺さんは」
「いい、です。おにいさんなら」
ほとんど告白のような言葉を交わし、俺たちは自然と口づけた。二度、三度と触れなおし、その次はもっと深かった。
「んっ、ぇ……っむ、ん……っ、は……」
舌を突き出して、絡ませあう。ぬるりと唾液にまみれた粘液が溶け合った。
そのまま、俺の指はおあずけになっていた乳首をかりっと引っ搔いた。
「んあっ!」
まるで電撃に打たれたように身体をのけぞらせて感じる山野辺さん。ちゅぽん、と舌が引き抜かれる。
構わずにかりかりと人差し指で刺激を与えると、びくびくと身体を跳ねさせる。力が入らないのか、俺の腕の中に寄りかかってその震えを伝えてくる。
「あっ、ンっ……ぅ、あっ、は……はっ、はー……っ! や、っばい、です……っ、ぁ、おっぱい……っ、ンっ、あぅぅ……っ、おっ、ん……」
荒い呼吸を繰り返しながら、色香が多分に含まれた息を吐く。荒らげまいと声を抑えているその様が、余計に淫猥さを煽っている。
「っおにーさん、ぁ、んっ……ち――これ、どうするのが……っ、きもちいです、か」
拙い手つきで俺のものを包み、山野辺さんの小さな手がゆっくりと上下に扱いている。健気なその姿にいとおしさすら覚える。そんな彼女と淫らな行為に及んでいるという罪悪感と共に。
「もう気持ちいいけど……えっと、裏側のほう強く握ってもらえると」
「っん……こう、ですか?」
きゅ、と軽く締め付けられる。力は僅かだったが、裏筋をピンポイントで刺激され、一気に快楽の度合いが上がった。
「っ……! そう。そのまま。……あっ、あー……やば、気持ちいい」
「え、へへ……んっ、ぁ、あっ……気持ちよく、なってください」
狭いワンルームに男女の甘い声が響いている。外からは雨音しか聞こえない。
世界から隔離されたようなその部屋。ベッドの上でお互いの身体を愛撫しあう。
俺は山野辺さんのカタくなった乳首を擦りあげ、それに感じながらも、彼女は俺の勃起したペニスをしこしこと扱き上げる。
「っん、ぁ、あっ……ちくび、あっ……もっと、あっ、かりかりっ、して……っ」
「ん、こう? これ好き?」
「っあっ、ア、あっ……! は、いっ……は、あっ……きもちい、あっ、すき、ですっ……んンっ……!」
かすれそうな声で喘ぐ山野辺さんに、一つの欲望が湧き上がる。男と女が裸で絡み合ってすることなどたった一つしかない。
しかし、その欲望を口にしたのは俺ではなかった。
「っ、おにーさん……っ、あの……」
「ん……どうしたの」
「え、っと……あの、わた、し」
雰囲気の違いを感じて手を止めた。山野辺さんはしばし呼吸を落ち着けてから口を開いた。
「私、お兄さんが話し相手になってくれたの、嬉しかったんです。……すごく。ずっと、一人だったので」
俺の腕に体を預けたまま、彼女は続ける。
「だから、その……わたしの全部、あげたいな――って」
そう言って、俺の胸に体重を任せてきた。とす、と軽い身体が少し俺の体を揺らす。
身体が勝手に彼女を抱きしめていた。
「うれしいよ。俺みたいなのにそんなこと言ってくれるの」
「……そう、ですか。ふふ」
くすりと笑う山野辺さん。顔を上げた彼女は、いつもと違う雰囲気があった。
少女というより、女。
「お兄さんのものに、してください」
あとはもう、歯止めなど何もなかった。
彼女の華奢な体を持ち上げて、ベッドにぽすりと寝かせる。頭の中は興奮でいっぱいで冷静さなんてない。だけど、身体だけはそうすべきように動いた。
「ヤだったらとめてね」
山野辺さんの上にまたがって見下ろす。
「……しません。そんなこと」
山野辺咲という女は、どこまで俺のブレーキを壊してしまうのか。
俺は邪魔なシャツを脱ぎ捨て、彼女のズボンに手をかけた。ずるりと緩いスウェットをおろすと、その下の肌が丸裸となった。
「えっ……? あっ、の、山野辺さん。下着は」
「あ……えっと、ブラと同じでびしょびしょ、だったので」
驚くべきことに、パンツすら穿いていなかった。彼女に貸したスウェットはしばらく洗いたくないな、なんて邪な考えが一瞬頭をよぎった。
「ぅ……あの、毛とかあるので……あんまりじっと見られる、と」
彼女の言う通り、暗闇になじむように薄い陰毛が生えている。
細身のお腹から白い肌が恥丘まで継ぎ目なく続き、へその穴とその陰毛がアクセントになっている。むしろ、この淡い毛がかえって美しさといやらしさを演出していた。
「あっ、ごめん。綺麗だったから、つい」
「えっあっ? あの、あんまりお世辞言われると、恥ずかしくて……」
お世辞ではないんだが。卑下してしまうところも彼女らしさか。
「……じゃあ、山野辺さん。コレ……その、いれる、から」
彼女の脚を掴んで軽く開き、その間にはちきれんばかりの肉棒を這わせる。裏筋に陰毛の感触が当たってこそばゆい。
未体験の感覚が性器に与えられ、これから始まることにどくどくと胸が鳴る。
「は、い……っは、どう、ぞ……」
荒い吐息のまま頷く彼女をちらりと見る。肘を立てて軽く身体を起こした山野辺さんの顔が、まっすぐに股を見つめている。
昂る気持ちを抑えるように軽くこすりつけると、期待するような声が彼女の口から洩れた。それでさらに気持ちが盛り上がってしまう本末転倒。
「……ん、あっ……お、っき……」
ほんの少し腰をずらすだけで、彼女の割れ目を亀頭が捉える。くちゅりと濡れた感触が敏感なソレに伝わって、思わず身震いしてしまった。
「すご……山野辺さんの、ぐちょぐちょ」
「や……あぅ、言わないで、ください」
女性の性器はこんなに濡れるものなのかと唾を飲み込む。ぬるぬるした愛液のぬめりに導かれるように、入り口にたどり着く。
まるで処女を破ってくれと誘っているか、ひくつく動きが生殖器を誘惑している。山野辺咲という少女を一匹のメスにしてくれと乞うように。
「ぅ、あ……っ!!」
腰に力を入れると、驚くほどたやすく狭い穴が俺を受け入れた。つぽん、とカリ首まで先端が飲み込まれる。
そこは外とはまるで違う世界だった。熱く柔らかい膣内は亀頭をどこにも逃がさず吸いついてくる。とろりとした粘液も合わさり、びくん、と肉棒が跳ねるだけで根元まで快感が響く。
「っ、あ……お兄さん、の――っ、はいっ、て」
山野辺さんはシーツをぎゅっと握り、ふー、ふー、と荒い吐息を抑えつけていた。
「っ……山野辺さん、痛い?」
「ん、ん……へい、き、です。……おく、まで」
きてください、と震えた声で彼女は言った。
痛みを我慢しているように思ったが、少し違った。山野辺さんは腰に力を入れて、なんと俺のほうに押し付けてきたのだ。
暗闇の中で橙を反射する山野辺さんの瞳。繋がりかけたお互いの性器を見つめるそれは、飢えすら帯びた炎が宿っていた。
興奮が痛みを超えてしまっているのか。
「わかった。……全部、入れるよ」
興奮という油にまみれた二人が絡み合っているのだから、その炎はたやすく燃え移る。
俺は彼女の腰を掴み、ひと思いに奥まで突き入れた。
「っあ――!?」
ずぷん、と最奥に亀頭がたどり着く。小さな彼女の体が大きく跳ねる。腰を反らせたまま、何度かかくかくと痙攣していた。
「ぅ、あっ……あっ……ちんぽ、す、っご……っ、はっ、はあっ、あ……っ」
彼女の腰の動きで小刻みに愛液まみれの肉棒が擦られる。それだけでため息がでるほど気持ちよかった。
だが初めてにしては強すぎる刺激にぐい、と白い欲望が早くも昇ってきてしまう。山野辺さんの動きを止めるため、反射的に肉棒で彼女の奥を押し付けた。
だが子宮口がソレにキスをして、否応なく先走りをとぷん、と流し込んでしまった。たったそれだけでも涎が出るほどの快楽。
「山野辺、さん……平気?」
俺も平気じゃないが、呼吸を整えながら声をかける。
「っ、あ……だい、じょぶ、大丈夫、です。……は、すご……なか、あったかい」
ふわふわとした心地で、彼女は自らの下腹部を指でさすった。愛おしさすら感じるその仕草に、劣情と愛情がぐちゃぐちゃになる。
「俺、結構やばいかも……山野辺さんのナカ、よすぎる」
「え……ぁ、ほんと、ですか」
「うん。その……正直、めちゃくちゃ腰振りたい」
「……っ、あ」
かばりと山野辺さんの体に覆いかぶさる。耳元で喋ってしまい、彼女がくすぐったそうに声を漏らした。
「いい、ですよ」
「え――」
細い腕をそっと俺の背中に回して、耳元で彼女が囁く。
「きもちよくなって、ほしいです。……から、腰、振ってください」
するすると滑らかな手が背中を伝い、ぞくぞくする。そして俺の腰に手を回すと、くい、と自らの体に押し付けてきた。
こんなに不慣れなのに、彼女の誘惑はこれでもかと下半身を疼かせる。それももう限界だった。
「あっ――! んっ、あっ、あっ、ア……!」
気づいたら自分の腰が彼女の股に打ち付けていた。ぬぷ、ぬぷ、と粘っこい水音を漏らしながら、肉棒が蜜壺に抜き差しされる。
「やっ、ば……っ、気持ちいい」
思わず漏れる。それほど山野辺さんの膣内は極上の快楽壺だった。
空気を抜いたように柔らかいヒダが隙間なく肉棒を抱きしめ、出るときも入るときも縋りついてくる。引きずるように擦り上げられ、どくどくと根元が快感で破裂しそうだ。
「んっ、あっ……はーっ……おっ、ぁ、おにい、さんっ……! おなかっ、あ、ナカっ、ぁんっ……いっぱい、でっ……あぅ、すごい、ですっ……」
甘い吐息を俺の耳元に流し込みながら喘ぐ山野辺さん。その声はすっかり雌の鳴き声だった。
脳髄にしみ込むそれを聞きながらのまぐあいは、贅沢すぎて眩暈がする。おまけに胸板に彼女の乳房が当たり、それが腰振りでゆさゆさと揺れている。乳首の硬さもアクセントになり、興奮が乗算されていく。
「あっ、ぁんっ、おにい、さんっ……きすっ、はっ、あっ……キスして、ください……っ!」
ぎゅ、と首に手を回して懇願される。それに応えない理由などない。
「んうっ……!」
すぐさま彼女の唇を奪った。唇だけのキスなんて足りるわけもなく、ディープキスから始まりだ。
舌を突っ込んで彼女の口内を好き勝手に貪る。彼女もそれに応えるように俺の舌に絡めてきていやらしいことこの上ない。
それなのに下品さを感じないのは、時折口の端から洩れる可愛らしい息遣いのおかげだろう。
「んっ、む……はっ……おにい、さ――は、むっ……れ、ぇ……っ!」
唾液が口の端から漏れるのも構わず、唇と舌で貪りあいながらセックスをする。
いつの間にか、俺たちの結合部からはぱん、ぱんと肌がぶつかり合う音が聞こえていた。その音は、より性行為をしていると意識させてきて、余計に欲望に火が付く。
「んはっ……! あっ、ぁンっ……は、ぁ……はげ、しっ……おっ、ん、ぁ、オっ! ちん、ぽ……っ、もっと、ついて、くださいっ……!」
本能をさらけ出して乱れる山野辺さんは、いつもの姿とはかけ離れている。おどおどとした猫背の彼女が、髪を振り乱し、大きな乳房を揺らしながらいやらしい声を上げている。
自分しか知らないその姿をもっと見たい。独占したい。
「っ……! こう? ほら、山野辺さんっ……!」
彼女の細い腰を掴んで膝立ちになる。大きな乳房が重力で逆向きにぶらさがっていやらしい。
そうして浮かせた彼女の体に遠慮なく腰をたたきつける。
「んあっ! は、いっ……あっ、んっ……あっ、それ、あっ……やば、いです……っ! おにいさんっ、イっちゃうっ、あっ……! もっと、シて――オっ、んぁ、はっ……!」
きつい姿勢なのにもかかわらず、それを喜ぶように声を上げている。彼女の腰はがくがくと痙攣し、それでも俺を求めてくる。
俺の肉棒を愛撫する膣肉もぴくぴくと震えて、快楽の高まりを伝えている。こらえきれない欲望を表すように、子宮口がちゅぽ、と吸いついて種を求めている。
「山野辺さんっ! ほら、いけっ、イけっ!」
動物的な本能のままどちゅどちゅと女体を犯す。嬉々として受け入れる山野辺さんの声はどんどん高まっていく。
「あっ、はいっ、あっ……イくっ、あっ、イキますっ……! ん、ぁ、ア、ぁあっ……イっくぅ!!」
びくんっ、と腰を跳ね上げ、激しく痙攣する山野辺さんの腰。肉棒が精液を絞られるようにぎゅっと膣内が収縮する。
耐えきれない先走りが、とろとろと流れ出た。
「あっ、あっ、おっ! ぁ、ん、あー……っ、あ、イって、る……っ! あっ、す、っご……いっ、あっ、オ……っ、やばいっ、ですっ……」
彼女の腰は跳ねあがったまま地に帰ってこない。まるで、快楽の頂点からおりたくないように。それとも、挿入された生殖器を引き抜かれたくないのか。
「山野辺さん、えろすぎ」
かくかくとはしたなく腰を震わせる彼女に、劣情を抱くのは至極当然だろう。何より俺の陰茎はまだ欲望を放出していない。
「ぁ、え……? ――あ、お兄さん……こわい顔、してます」
浮かんだままの腰を掴みなおした俺を見上げた山野辺さんが呟く。しかしその言葉とは裏腹に、期待するように半開きの口が笑っていた。
肉棒を包む彼女の腰が引かない余韻に震えている。いま腰を振ったらどうなってしまうだろう。
「んオっ! あっ、ぅあっ、んっ、あっ、おにいっさん……まっ、だ――おっ、イって、ます……っ! ぁ、ァあっ、はっ、やっ……!!」
しなった弓矢を撃ちだすように、ピストンを再開させた。より激しさを増して。
ぱんっ、ぱんっ、と甲高い音を立てながら、二人分の液が結合部からシーツに飛び散る。
「山野辺さん――っく、本当はこうしてほしかったんでしょ――!」
「っあ、んっ、や……っ、おっ、はいっ……! おにいさんっ、とっ……ンぁ、あっ……せっくす、したかった……っ、ぉ、はぁっ、からっ……もっと、ぐちゃぐちゃにっ……ぁ、あっ、ンっ、犯して、くださいっ……!!」
媚びるような喘ぎ声に理性を壊す誘惑を混ぜて、彼女は乱れている。長い前髪は汗で額に張り付き、快楽に潤んだ瞳が丸見えだ。とろけた顔は種付けを誘っているよう。
打ち付けるたびに下腹部を揺らす柔らかな腰と尻肉。それが陰嚢に刺激を与え、肉棒からの快感と合わさって逃れようのない射精感を昇らせてくる。
「んっあ、うあ、あぅ……っ、おっ……! おに、いさんっ、おにーさんっ、すきっ……!! すきっ、あっ……だからっ、わたし、にっ……!!」
漏れ出るような言葉に、ベタ踏みだったアクセルを踏みぬく。脳内のブレーキはぶち壊れていて、山野辺咲という雌を自分のものにすることだけが命令されている。白濁にまみれた種を注いで、自分の女にしろと。
「出るっ、山野辺さんっ! だす、山野辺さんのナカに出すよ!」
「あっ、アっ、はいっ……あっ、だしてっ、くださいっ! んっ、そそいでっ、ください……っ!」
物欲しそうに求めてくる山野辺さんを押し倒し、体重をかけて押しつぶすように腰を振り下ろす。ぱぶっ、ぱぶっ、と空気が漏れる下品な音が漏れ、射精へのカウントダウンが始まる。
「やっばいっ……! 出るっ、でるでるっ……山野辺さん、イクっ!!」
「あっ、んっ、おっ、オっ……ほっ、あっ、イグっ、あっイキますっ! っく、いくっ、イっっグ――!!」
喉からふり絞るような声を出して彼女が俺を抱きしめる。それと全く同時に腰を振り下ろし、動きが止まった。
「っあ――!!」
どくん、と地響きのような衝撃が下腹部に走り、塊のような精液が放出される。どぷっ、どぷっ、と重苦しいほどの粘液が、快楽を引きずりながら膣内に射精されていく。
「っあ、あー……で、る……っ」
自分の意思など関係なしに残酷なまでに与えられる肉棒からの快楽に頭の中がびりびりとする。
「おっ……っオ、あっ……はっ……イっく、あっ……イって、る……ぅ、あっ、ぉ――っ、ほ……でて、る……っ」
目の前にある山野辺さんの顔。俺のほうを向いている視線は、呆然と虚空を彷徨っている。淫蕩にとろけた顔で、俺の中出しを受け入れている。
俺の肉棒を優しく受け止める膣は痙攣しっぱなしで、射精を甘く促しているかのようだ。それに導かれるまま、どくどくと白濁した精液を垂れ流す。
「っは……あっ、ん……おにー、さん――すき、キス……っ、し、て」
「ああ、うん……っん」
唇を交わしながら、尚も緩い絶頂が続く。キスという愛情表現が重なって、沸騰していた脳内を甘い汁が満たしていくようだ。
「っん……むっ、お兄さん……っは……ぉ、せーし、あったかい、……ん」
とくっ、とくっ、と弱まった勢いでも吐精は止まらない。舌を絡めう多幸感が尿道から精液を絞り出していく。
今は何も考えられず、甘くとろける快楽にただただ身をゆだねた。
「……は、ぁ……はあ、は……」
絶頂の波もようやく引いた後。
唾液の糸を数本引きながら唇を離す。湯気が出そうなほどの熱気があふれだしむせそうになった。
「……抜くよ」
「は、い」
言葉を交わすのが恥ずかしくて、気怠い腰に鞭を打つ。
力を入れると密着した膣肉が名残惜しそうに擦れるが、誘惑を振り切ってゆっくりと肉棒を引き抜く。
「わ……っ、すご……」
唇とは比較にならないほど、数多の白濁した糸が引いていた。それに息を呑みながらも、最後まで抜いて腰を下ろした。
「……あ」
寝転んでだらしなく脚を開いたままの山野辺さん。さっきまで俺の肉棒が入っていた穴からも、ごぽりと淫液が垂れていた。
それを見て、冷えた頭が先ほどまでの濃密な行為を冷静に振り返ってしまう。
「あっ……ごご、ごめん! 山野辺さん、中に出しちゃって……! 掻き出して――あっ、いやなんだっけあの、緊急なんとか薬!」
性行為中とは別の意味で頭の中が沸騰する。女子高生にゴムなしで、しかも中に思い切り出してしまった。
「えっ? あっ、あの、お兄さん落ち着いてください」
意外と山野辺さんは冷静だった。彼女の手が慌てている俺の腕を掴んだ。
「あ、の……わたし、いいですから」
「えっ……? いや、でも」
「おっ、お兄さん、なら――いいですから」
俺の腕を握る力が強まる。
山野辺さんが体を起こして俺を見つめている。だが、俺が目を合わせると途端に反らしてしまった。
「……お兄さんなら、いいんです。なに、されても。……好き、ですから」
「……山野辺、さん」
俯いたまま、たどたどしい言葉が続く。
なんてことを言うんだろうか。彼女は自分が言っている意味がわかっているのか。そんなことを言われてしまったら。
「じゃあ、もっとしたい。……って言ったら?」
彼女の肩に手をかける。汗ばんだ彼女の体は熱を持っている。まるでまだ欲望の炎が消えていないかのように。
俺の問いかけに、山野辺さんは口を開かず、ただ頷いた。
「ん……っ、はぁ……すっごいにおい……すぅ――っ、は……ぁ……めちゃえろい、です」
粘液が滴る肉棒に顔をこすりつけるように匂いを嗅ぐ山野辺さん。顔立ちは可愛らしい少女の癖をして、表情は娼婦のようですらある。
「そういう山野辺さんが一番えろいよ」
膝立ちで陰茎に顔を埋めている山野辺さんを立ったまま見下ろしている。奴隷扱いするような状況に、特別な刺激などなくてもソレは勃起してしまう。
「そんなこと、ないです……んっ、すぅ……っ、あ……やっばい……ん、むらむら、する」
自分の言葉を行動で否定してしまう淫らな山野辺さんに俺もムラっとくる。
思わず漏れ出た先走りが彼女の鼻筋を伝っていく。その様にすぐに我慢できなくなった。
「舐めて。山野辺さん」
荒い吐息と暴れる鼓動を悟られないように言葉を放つ。無機質なその命令に、山野辺さんは抵抗の意思を髪の毛一本ほども見せなかった。
「はい……れ、ぇ……」
それどころか、満足そうに一瞬目を細めて、素直に舌をソレに這わせた。
先端をぺろぺろと氷菓子を食べるように舐め始める。温かくぬめっているという点では同じだが、膣内と異なる感触にびくんと陰茎が跳ねる。
「ん……ふふ、お兄さんのおちんぽ、かっこいい」
根元に優しく手を添えて、先端を甘く撫でまわす。敏感な亀頭はその弱い刺激でも十分に気持ちがいい。だけど、本当に欲しい快楽はもっと先だ。
それを感じ取ったのか、彼女は根本に顔をずらした。そして舌を裏側に触れさせ、先端へ向かってゆっくりと伝わせた。
「っあ……気持ちいい」
「ぇへ……ん、ぇ……れぉ……」
頬を赤く染めて、裏筋を舌で舐め上げる。前戯で少しだけした手コキで裏側が弱いことを覚えていたんだろうか。
にしても薄々気づいていたが、山野辺さんは結構――。
「山野辺さん」
「ん……っ、ぁ、はい。なんですか?」
「山野辺さんって結構スケベでしょ」
「ぅえっ!?」
目を丸くした山野辺さんが思わず舌をひっこめた。
「えっ、と……なんでですか」
「色々知識はあるっぽいし、それになんか言葉遣いとか所々スケベな感じする」
図星なのか、わかりやすく目をそらした。
「……あの、はい。ちょっと、だけ」
それが精一杯の彼女の強がりなのだろう。つい先ほどまで官能的な舌使いを見せていたというのに、恥ずかしがる表情のギャップが可愛らしい。
「なら、もっと気持ちよくしてよ。……やり方、知ってるんでしょ」
彼女はぴく、と体を震わせて俺を見上げた。ぺたんとベッドに座り込んでいる彼女は、服従するように白い裸体を晒している。
俺の言葉に彼女の目の色が変わった。驚きと、それを待ち望んでいたような期待感。
とどめに、彼女の片手がそっと自らの股へ隠れていったのが見えた。
「は、い……」
震えた声に吐息を漏らして、山野辺さんは頷いた。
勃起したままの肉棒が、彼女の唇に向けられる。それがゆっくりと開き、ぱくりと亀頭を飲み込んだ。
「ぁむ……」
濡れた唇と、それ以上に湿った口内が先端を包む。
固くいきりたった陰茎の先端に小さい無垢な少女の顔がしゃぶりついている光景に、支配的な背徳感がこみあげてくる。
山野辺さんの瞳は咥えこんだ生殖器の根元を呆けた目で見つめている。完全にスイッチの入った目だった。
「んっ……ぶっ、んぐ……っ」
何も言わずとも、彼女は俺の欲望に従った。
咥えたままの顔が根元に向かってゆっくりと進む。唇の滑る感触と共に、湿潤した熱気が肉棒を飲み込んでいく。
のけ反ってしまいそうなほどの快感だった。激しい動きとは正反対なのに、しかしだからこそ、口内の感触を肉棒でじっくりと味わえる。
「ん……っぐ、ンむ……」
彼女の唇が根元に到達する。俺の陰毛が彼女の鼻先に当たっている光景がこの上なく淫靡だ。
「……っ、フェラ、やば」
膣内に続いて口内の感触も知ってしまい、頭の中の興奮は爆発寸前だ。
びくっ、と咥えられたままの剛直が跳ねた。山野辺さんは一瞬目を丸くした後、俺を見上げて微笑んだ。
山野辺さんの笑顔は可愛い。だが、男の性器をしゃぶりながらのそれは、艶めかしい雌の魅力を垂れ流していた。
「もっとしゃぶって。山野辺さん」
彼女への気遣いより性欲が先行する。だが山野辺さんはその言葉を待っていたかのように、行動で応えた。
「っぶ……ん、ン、ふ……っ」
ずるる、と先端ギリギリまで引き抜かれる。ほんの少しだけ挿入されていただけだというのに、俺の陰茎は彼女の唾液でてらついていた。
「んっ、ぶっ……んむっ、ンっ、ぉ……っ、ぶっ……ん、ぽ……っ!」
濃密な口淫が始まる。水音を立てながら、山野辺さんの顔が前後に突き動かされる。
じゅぶ、じゅぶ、と唾液が泡立つ下品な音が響く。だがその音すらかき消してしまいそうなほどの快感が肉棒から下半身全体に伝わって、腰が抜けてしまいそうだ。
「あっ、あー……気持ち、いい――やっばい」
口を半開きにして唾液を垂らしてしまいそうなほどの快感。
唇が擦れるだけでも自慰より気持ちがいいのに、滑った口腔が唾液とともに愛撫してくるのだ。
それを下品な音とペニスにしゃぶりつく山野辺さんの顔がこれでもかと煽ってくる。
つい先ほどまで処女だったのが嘘に思えるほど、山野辺さんは濃厚なフェラチオで奉仕している。
「山野辺さん、もうちょっと唇すぼめてみて」
「んは……ん、こう、ですか?」
俺に言われるまま、咥えなおした口をきゅっと窄める山野辺さん。さっきまではギリギリ不慣れな雰囲気も見えていたが、そのひょっとこ顔でそれすら吹き飛ぶ下品な顔になった。
白くて幼い顔なのに、口元から先は雌の表情。そのギャップにぞくぞくする。
「っ……そう。そのまま、続けて」
「えへ……はい。――んぶっ」
素直な笑顔を一瞬見せ、すぐさまフェラ顔に戻る。その変わりようですら官能的だ。
「んっ、じゅ……っぼ、んぐっ、ぶっ……! っは、む……っぽ、んぶ、ぶ、ぶっ……んむっ……!」
先ほどよりも一段激しく抜き差しを繰り返す山野辺さんの小さな口。窄めたことで密着感が高まり、搾り取られるような感覚が陰茎の根元に鈍く響く。
唇と肉棒の摩擦に、空気が抜ける音や唾液の水音が重なっていやらしいことこの上ない。ただ精液を搾り取るためだけの音が彼女の唇から鳴っている。
じゅぽ、じゅぽ、と一往復する度に快感が蓄積されていき、たっぷりと射精したはずの精液がずしりと陰嚢に溜まっていくのを感じる。
「気持ちいい……山野辺さん、めちゃくちゃ上手いよ」
「んっ、は……え、へへ……もっと、んっ、わたしの口いくらでも使っていいですから、っは、ぁ……いっぱい、気持ちよくなってください……んっ、ぁ」
乱れた呼吸で山野辺さんは嬉々として口にする。息が上がっているのはフェラのせいだけではない。
口淫の音にかき消されていたが、もう一つの水音が彼女の股からこぼれている。今も自らの秘所を慰めるためにせわしなく山野辺さんの片手が動いているのが見え見えだ。
「山野辺さん、フェラしながらオナニーしてるんだ。随分変態だね」
「っ、あ……だって、こんなにえろいことしてたら、シたくなります。……ん、あ……あ、無理、です。またしゃぶります。――んむ、ぶっ、んむっ……く、ぷ……っ」
どうやら彼女は相当変態らしい。くちゅくちゅと自らの生殖器を蜜でかき混ぜながら、それ以上の激しさで俺のモノを咥えこむ。
見ると、彼女の腰は物欲しそうにへこへこと動いていた。雌の本能むき出しの彼女に、射精感がこみ上げてくる。
「あっ、あー……やばい、あっ、でる――山野辺さん、出るっ……そのまま、続けて」
「ふぁい……っ、ぶっ、んむっ……! んっ、ンぶっ、んっ……ぼ、んぶっ……ぶっ……ぽ、んっ……!」
尿道を精液が這い上がってきて止めることなどできない。
それを一番気持ちのいい状態で味わえるように、山野辺さんの口がじゅぽじゅぽと肉棒を擦り上げる。お留守だった舌も裏筋に添えられていて、この上ない快感だった。
「っ……! でる、出るっ、イっく、イクっ!!」
「んんっ!!」
根元まで咥えこまれた瞬間、溜まった白濁液をどぽんと一気に放出した。その波は絶えず次々に快楽の塊を送り出していく。
「んっ、ん……むっ、くっ……ぉ、ごっ……んン……っ」
荒い鼻息が陰茎の根元に吹きかけられる。しかし彼女の唇は、奥まで突き入れられた肉棒を離しはしなかった。
喉奥に挿入された亀頭の先から容赦なく注がれる精液を、喉を鳴らして飲み込んでいく。どぽどぽと、彼女の胃の中にぼちゃぼちゃと直接流し入れているような感覚。
「はっ……あっ、あー、でるっ、山野辺さんっ――まだ、出るっ」
「んっ、ぁむ……っ、ぐっ、ん……っ」
あろうことか、さらに深く咥えこむ山野辺さん。根元から先端まで全部が熱く濡れている。その状態での射精は、魂が抜けてしまいそうなほど気持ちが良かった。
「……ん、ふ……っあ――」
一分弱ほど咥えられたまま果てて、ようやく止まった。
山野辺さんは最後にじゅるる、と残ったものを吸いだしてから口を離した。
「っ、はぁ、んっ……はー、はーっ……おにー、さん……すごかった、です」
射精して少し落ち着いた俺とは反対に、恍惚とした表情で俺を見上げている。まだ足りない。細められた彼女の瞳がそう訴えていた。
「全部飲んでくれたの?」
「ぁ、はい。……というか、奥で出されたのでそうするしか」
「あっ……ごめん。苦しかったよね」
「えっと、まあそれはそうです、けど。……でも、頭ばちばちして――その、イっちゃい、ました」
この子はどこまで誘惑してくるのか。赤らめた頬でそんなセリフを言われてしまったら。
「……あ、おにいさんの、ちんぽ」
一時萎えていた俺の生殖器が、彼女の言葉でむくりと起き上がってしまう。
「えへ……またおっきくなりましたね。……ん」
何のためらいもなく先端へ彼女の柔らかい唇がキスを落とす。二度三度とそれを繰り返すと、山野辺さんは口を離して後ろを向いた。
そして四つん這いになって、尻をこちらに突き出してきた。肉付きのいいむっちりとした臀部。割れ目からは尻穴と膣穴という、山野辺さんの一番いやらしい部分が丸見えになっている。
「山野辺さん、なにして――」
「犯して、ください。お兄さん。……わたし、おかしくなって、て。全部お兄さんのものにしてほしくて――だから、犯してください」
いかがわしい本でしか目にしないような、とんでもない台詞を口走る。
でもゴムもないのにこれ以上やるのはまずいと理性が警鐘を鳴らす。そんな俺の躊躇いを射貫いたのか、山野辺さんは追撃してきた。
「一回中出ししたんですから、その、何回シても変わらないです。……なんて」
さすがに恥ずかしいのか、照れ隠しのようにくすりと笑った。
だがその言葉はとどめになってしまった。同人誌なんかで死ぬほど見る台詞の癖して、実際に言われてみると本当にその気になってしまう。
「どうなっても知らないよ」
自分の声が低いことに驚いた。
気が付くと彼女の尻を両手でつかみ、その間に腰を突き出していた。ぺち、と今までで一番固くなったいびつな肉棒が割れ目に当たる。
「っあ……」
期待に満ちた声を聞きながら、数度尻穴に肉棒をこすりつける。すぐに我慢できなくなり、一度種付けを決めた穴に先端を這わせた。
「入れるよ」
事務的に最低限の言葉を吐き、山野辺さんの返答を待つ間もなく一気に挿入した。
「おっ――!」
大きな痙攣とともに、白くて真っすぐな背中が反りかえる。汗ばんだそれを片手でなぞって、うなじをぐい、と押した。
「あっ、う……」
ぺたん、と山野辺さんの頭が俺の枕に伏せられる。頭は地に伏せたまま、尻は持ち上げた状態。まさに犯されるためだけの体勢だ。
それが興奮するのか、俺の肉棒を包んでいる膣壁が収縮を繰り返している。物欲しそうに誘うそれに抗うことなんてしない。
「んぁっ! あっ、おっ……おにいさんっ、あっ、ぉほっ……おかされ、てっ……る、おっ、んぁ、は、っは、あっ……!!」
前のめりになって覆いかぶさり、激しく腰振りを始めた。ぱんっ、ぱんっ、と乾いた音を響かせ、下腹部を彼女の大ぶりな桃尻に叩きつける。
奥に当たるたびに山野辺さんの背中が軽く痙攣する。ナカに至っては常に痙攣しっぱなしで締め付けも激しくてかなわない。
「っは、はぁっ……! こんなっ――動物の交尾みたいなのがいいのっ?」
「おっ、んぁ、あっ……はっ、はいっ……! あっ、どーぶつこうびっ、いいですっ……んっ、オっ、ほ……っ、おにいさんとっ、あっ、交尾っ、んぉっ……! はぁっ、はっ……こうび、すきですっ……!!」
完全に雌に落ちた山野辺さんを、彼女の欲望通りに犯し尽くす。枕に押し付けた顔は、きっと酷くいやらしく緩んでいるのだろう。後ろから突いているこの体勢ではそれが見れないのが惜しい。
でもだからこそ躊躇なく彼女の蜜壺に抜き差しを繰り返せる。後背位とはそのための体位なのだと理解した。雄と雌が動物の本能をむき出しにして種付けをする為の行為なのだと。
「んっ、あっ、あっ……おにい、さんっ、あっ、せーしっ! あっ、オっ、たね――種付けっ……ん、はっ、おっ……ほ、たね、注いでっ……ぅあっ、んぉっ!!」
長い黒髪を揺らしながら、レイプのようですらある交尾によがる彼女。そんな山野辺さんに求められるまま、陰茎がずきずきと種付けのために疼き始める。
「っあ、っ山野辺さんっ、やまのべさんっ――咲っ! いっぐ、イクっ、出るっ……咲に種付けてやるっ!」
「あっ、うっ、んぁ……おにいさんっ、なま、えっ……んぁ、すきっ……! あっ、オっ、もっと、呼んでくだ、さいっ……んおっ、あっ、はぁんっ、あっ……おにい、さぁんっ!」
気持ちも快楽も限界まで高まりきって、周囲の音も視界も目に入らない。目の前で甘く下品な喘ぎ声を上げる山野辺咲という女と、下半身からの焼けるような快感だけが全てだ。
「出るっ、イクイクっ……咲っ、さき――出る、咲の中に……っ、ぜんぶ出るっ!!」
「んっあっ、あっ……おっ、わたしもっ、あっ、おっ、ほぉっ……イグっ、イキますっ……いくイくイくっ――いッッっぐ!!」
びくんっ、と尻を跳ね上げると同時に、甲高い声を上げる山野辺さん。それと同時に子宮口が意思を持っているかのように亀頭をぱくりと咥えこんだ。
飢えるように求めるその穴へ、望み通り種を注ぎ込んだ。
どっくん、どっくん、と体の中身まで絞り出しているんじゃないかと錯覚するほどの大きな射精感。尻がつぶれるほど腰を押し付けて、それに耐えることしかできない。
「っオ、ほっ……んぉっ……ぉおっ……っぐ、いく、あっ……たね、まかれて――オっ、ぁ、ぅあ、おにーさんっ、オっ、きもち、ぃ……あっイクっ……お……」
獣の喘ぎ声を漏らしながら、山野辺さんが絶頂している。その姿が興奮材料に変わり、生殖器から精液がどぽどぽと吐き出されていく。
俺も今まで体験したことのない絶頂感に、小刻みに呼吸しながらただ射精を繰り返す。全身が熱く、下半身は山野辺さんと溶け合っているよう。
「さき、咲……は、っはーっ、あー……出る……っ、咲に種付け……、やば、たまんない……」
「ぅ、あ……ぉ、ん……っ、おにいさん……っ、ずっと、イってる……っ、なかだし……あーっ、ぉ、あー……きもち、いぃ……ぅ、んっ、あ……もっと、だして……っ」
互いに舌足らずなまま、本能の言葉を垂れ流す。傍から見ればだらしのなく酷く下品な様だろう。
でもそれが気持ちよくて、幸せなのだ。何も考えず、俺と山野辺さんは雄と雌になって種付けを続けた。
「っ、あ……っ、あー……出る、さき……っ、まだ、でるっ……」
「ぁ、ん……っ、おにぃ、さんっ……ん、ォ……ぁ、ナカ……きもち、いいです……っ」
少し弱くなってきた射精を最後まで絞り出そうと、体を起こしてのけ反らせた。反対に彼女の尻肉はぐい、と陰茎の根元に押し付ける。意志ではない、本能の動きだった。
どぷっ、どぷっ、とゆっくりと、しかし重い精液が亀頭の先端から注がれていく。頭が真っ白になる快楽だ。
「あっ……ぅ、はっ……せーし、とまっちゃい、ましたか……?」
どれほどそうしていたのか、気が付くと射精は終わっていた。余韻と気怠さで現実味がない。
快楽を放出し終えた俺の頭が求めたのは、温もりだった。山野辺さんの体温に触れたかった。
「咲」
後ろから抱きついて、小さい体を包む。
「ん……お兄さん。だいすき」
「俺も大好きだよ」
そのまま甘く口づけ合う。そうして、俺と山野辺さんの濃密な交尾は甘い雰囲気で締めくくられた。
「……あの、山野辺さん。こっちに来てはくれませんか」
「や……むりっ、無理ですっ!」
部屋の隅っこに縮こまって山野辺さんが動かなくなってしまった。つい先ほどとは違って、ちゃんと俺が貸した服を着なおしている。
ただ、顔を真っ赤にして体育座りで俯いてしまっている。まるで迷子の子供のようだ。
「っていうかお兄さんはなんでそんなに普通にしてるんですか……」
「俺はまあ一応大人だから」
非難するような目線をベッドに座っている俺に向けてくるが、それすら可愛らしい。ちなみに俺ももちろん服は着ている。
「あー……コーヒーでも淹れてくるよ。それまで漫画でも呼んで待ってて」
「えっ、あっ、いや、行かないでください」
ではどうしろと。
俺が腰を上げようとすると泣きそうな顔で止めてきた。
自分の乱れようを冷静になって思い返してしまってから、ずっと山野辺さんはこの様子だ。ただ俺も彼女が取り乱しまくっているおかげで、反対に冷静になれているところはある。
正直、つい三十分ほど前の刺激的な時間が頭の中で多重にリピート再生されている。
「……」
どうすればいいかわからず、しばし無言の時間が流れる。かちかちと無機質な時計の音が痛く感じる。
「……そういえば、写真だけど。フィルムも全部無くなっちゃったの?」
とりあえず何か話題をと思い、頭によぎったのがそれだった。
「あっ、いや……それはあります。そういえば現像したんでした」
「見せてもらっても?」
「じゃあ、リュックの中にあるので、どうぞ」
あくまで俺に近づくのは恥ずかしくて無理なのか、リュックを指さす彼女。ちなみに距離的には彼女のほうが近い。
俺がリュックを漁ると、ビニール袋に包まれた写真が出てきた。取り出してぺらぺらと数枚めくってみる。
「色んなところ行ってきたんだね」
何気ない街の風景や、ちょっと遠くの湖まで、色々な写真があった。俺と山野辺さんが出会った自販機の写真なんかも。閉められた門越しに撮られてたので思わず笑ってしまった。
「……あ、これ」
最後の一枚に目が留まった。
コンビニや通りがかりの車といった日常の風景に、美しい日の出が差している。これが彼女が言っていた一枚か。
「それ、どうですか?」
いつの間にか山野辺さんが隣に来ていた。写真を覗き込んで、不安げな声で問いかけてくる。
「すごく綺麗だよ。これから一日が始まるって感じで」
「そう、ですか? ……えへへ、よかった、です」
ようやくいつもの笑みがぎこちないながらも漏れた。ほっと胸をなでおろす。
「これからは一緒に写真撮りに行こう、山野辺さん」
「あ、はい――ぁ、でもカメラがないので……」
「スマホでもいいさ。俺は山野辺さんが撮った写真がみたいよ」
「えっ? あっ、あの……はっ、はい」
にやけた口元を手で隠している山野辺さんを見てくすりと笑ってしまう。
「……でも、やっぱりカメラほしいです。だから、その……バイトとか、やってみようかなって、思います」
両手の指を所在なさげに絡ませながら、山野辺さんは言う。その言葉には今一つ自信が宿っていない。
「――うん。いいと思う」
それでも、俺はうれしいと思った。怖くてバイトも出来ないと、いつか彼女は言っていた。そこから一歩前進したのだ。
そこでひとつ思い立つ。彼女は夜に居場所がない。だから俺と自販機やらで会っていたわけで。
彼女なら少しずつ居場所を自分で作っていくことはできるだろう。でも、それまでの安心できる場所を一つ作ってあげたいと思った。
……まあ、俺のエゴが九割以上なのだが。
「山野辺さん。これ、渡しておくよ」
「……え?」
「お先でーす」
挨拶を一つ投げて、かび臭い職場の一室を後にする。ロッカーで作業着を脱いて、代わりに私物のバッグを取り出す。
エレベーターを降りてビル棟から外に出ると真っ暗だ。深夜二時過ぎなのだから当然。
少しの涼しさを感じた。残暑もそろそろ弱くなってきたのだろう。
俺は自販機で缶を二本買って、駐車場へ向かった。駐車場への道も、車に乗り込んでからも、ただ一人だ。
そして車を走らせ、アパートに直行する。階段を上り、自分の部屋の前で鞄を漁って鍵を取り出す。
差し込むと、鍵はすでに開いていた。ふっ、とため息とともに笑みを漏らしてドアを開けた。
「あっ、お兄さん」
部屋の奥からとてとてと軽い足音を立てて、少女が小走りでやってくる。
いつかより短くなった前髪が揺れている。半袖から見える白い肌が眩しかった。
玄関先で足を止めた彼女は、俺を見上げて柔らかく笑った。
「――おかえりなさい、お兄さん」
「うん、ただいま。山野辺さん」