書きたくなったから書いてみたシリーズ第三弾!
後編です!
いやー、今回は長かった……!
前編を書いている時点では、まさかここまで長くなるとは思っていませんでした( ;´Д`)
今回は特に、シーン同士を繋げたり、キャラクターの心情を描いたりするのに苦労しました。書いては直し、直してはまた悩み……気づけばこんな長さに。
まだまだ至らないところもあると思いますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
あれから、さらに月日は流れた。
あの未来が、すぐそこまで迫っている。そう確信したのは、辺境の砦への派遣命令が下った時だった。
魔物は、局所的に発生する『魔力溜まり』から生み出される。魔力溜まりを浄化するのは神殿の仕事であり、浄化には膨大な神聖力が必要となる。そのため、聖女や聖者などの聖印保持者が赴くことになっていた。
辺境の砦に到着したのは、それから三日後のこと。王都から馬車を揺られて丸一日、そこから街道を外れ獣道のような山道をさらに一日。そして鬱蒼と生い茂る森の中をもう一日。
辿り着いた砦は、前世で見たゲームの画面そのままの姿をしていた。灰色の石壁に囲まれた古びた要塞。壁面には魔物の爪痕や焦げ跡が生々しく残り、門を守る衛兵たちの表情も一様に暗い。
「セレネ様、お疲れではありませんか?」
馬車を降りるセレネに、手を差し伸べる。長旅で疲れているはずなのに彼女は僕の手を取ると、いつもと変わらない柔らかな笑みを浮かべた。
「平気です。それよりも、リディアこそ大丈夫ですか?馬車の中でずっと警戒していて、あまり休めていなかったでしょう?」
「私は騎士ですから。それに、この程度で疲れるほど柔じゃありません」
「もう、そうやってすぐ強がるんですから」
セレネが僕の腕に自分の腕を絡めてくる。修道服越しに伝わる体温が心地いい。だけど、その温もりに安堵する自分を、心のどこか冷めた目で見ている僕もいた。
——もうすぐだ。
この砦が、原作におけるリディアの死地。正確には、この砦からさらに北へ進んだ先にある魔力溜まり。そこでリディアは命を燃やし尽くし、セレネは聖女として覚醒する。
魔力溜まりの対処には聖印保持者が基本、戦闘に参加できないために普通は大人数で当たる。しかし、今回は辺境の地であること、迅速な対応が必要であること、魔族の出現も確認されてないこと。この三点から、聖女セレネと護衛である僕、約五十名の精鋭騎士が派遣された。
「リディア、どうかしましたか?ぼうっとしていましたよ」
「いえ、何でもありません。少しここの空気に慣れようと」
「そうですね。私も、なんだか胸騒ぎがするんです。この先に、魔力の塊があるからでしょうか?」
セレネの表情が少しだけ曇る。たぶん聖女としての勘が働いているのだろう。報告とは少し違う、違和感のある魔力溜まりの存在を、肌で感じ取っているのかもしれない。
実際、彼女の勘は正しい。今回の派遣人数は、決して少なくはない。精鋭揃いの聖騎士たちであれば、通常の魔物の群れを数十匹相手にしても十分に対処できるはずだった。
しかし、この先で待ち受けているのは、魔物だけではない。魔力溜まりの浄化に向かった聖女一行を、魔族が待ち伏せしているのだ。
魔族単体ではそこまで危険はない、ただ彼らの使う闇の魔力が厄介で。闇の魔力によって魔力溜まりは異常な活性化を起こし、周囲には大量の魔物が溢れ返る。不意を突かれた聖騎士団は壊滅。セレネを守るために戦ったリディアもまた、命を落とすことになる。
「ええ。ですが、セレネ様が心配することはありません。私が必ず、お守りします」
「……その言葉、最近とても重く感じるんです」
セレネがぽつりと呟く。その声音には、これまでにない不安が滲んでいた。
「リディア、何か隠していませんか?」
どきり、とした。胸の奥が冷たくなるような感覚。でも、僕は表情を変えずに首を傾げて見せた。
「隠し事、ですか?」
「ええ。なんだか、時々すごく遠くを見ていることがあるじゃないですか?まるで、私の知らない未来を見ているような目で」
鋭い。さすがはメインヒロイン、さすがは推し……なんて、場違いな感心をしてしまう。けど、僕はその事実を認めるわけにはいかなかった。
「私はただ、セレネ様の安全を第一に考えているだけです。それ以上のことはありません」
「本当に?」
「はい、本当です」
セレネはしばらく僕の目をじっと見つめていたが、やがて小さく息を吐いて僕の腕に頭を預けてきた。
「……信じます。他ならぬリディアの言葉ですから」
その仕草があまりにも愛らしくて、思わず頬が緩む。でも同時に、罪悪感がじくじくと胸を叩く。彼女は僕を信じてくれている。その信頼を裏切り、絶望の淵へ突き落とすのが僕の役割なのに。
——ごめんなさい、セレネ様。
心の中でそう呟く。決して口には出さない。今はまだ、その時じゃないから。
その夜、砦の一室で作戦会議が開かれた。
集まったのは、今回の騎士部隊の隊長格数名、そして僕とセレネ。机の上に広げられた地図には、北の山脈に点在する魔力溜まりの位置が記されている。その中でも最も大きいものが、砦から北へ半日ほど行った先にある魔力溜まりだった。
「これが、今回の目標です」
第一隊の隊長が指で地図を指す。その場所は、周囲の森ごと瘴気に蝕まれ、近づくものすべてを寄せ付けないという。
「これまで何度か偵察を試みたようですが、全て失敗に終わってるようです。最初の報告とは違い、魔族の可能性も捨て切れません」
重苦しい沈黙が落ちる。セレネは真剣な表情で地図を見つめ、僕は静かに話を聞いていた。魔族の関与は可能性ではなく確定だ。僕たちはその道中で魔族の待ち伏せに遭い、騎士団は壊滅。セレネを守るために戦ったリディアは、命と引き換えに彼女を救うことになる。そしてその後の結末を、僕は知っている。
会議は一時間ほどで終わった。結論から言えば、明日の払暁に決行。セレネが魔力溜まりの浄化にあたり、僕を含む騎士団がその護衛として周囲を固める。魔族の可能性も視野に入れ、万全の警戒態勢を敷くということになった。
「リディア、少し散歩に付き合ってくれませんか?」
会議を終え、自室へ戻ろうとしたところでセレネに呼び止められた。
砦の廊下は薄暗く、壁に掛けられた松明が揺らめく影を落としている。セレネの表情は穏やかだったが、その瞳の奥には、どこか落ち着かない様子が滲んでいた。
「こんな夜更けにですか?」
「眠れそうにないんです。胸騒ぎが取れなくて……明日のことを考えると、どうしても」
そう言って困ったように笑う彼女に、僕は黙って頷いた。
二人で砦の屋上へ続く階段を上がる。扉を開けた途端、冷たい夜風が頬を撫でた。
見上げれば、満天の星空が広がっていた。前世では見たこともないような、夢みたいな景色。無数の星々が夜空を埋め尽くし、月明かりが山脈の稜線を淡く照らす。
その光景に目を奪われたのも束の間、僕は視線を遠くへ向けた。山脈の向こうには、明日向かうことになる森が広がっている。
セレネも石の手すりに寄りかかり、そちらをじっと見つめていた。金色の髪が夜風にさらわれ、月明かりを受けて淡く輝く。その横顔があまりにも綺麗で、僕はしばらく言葉を失った。
「リディア、明日もしも」
セレネが口を開いた。けれど、そこで言葉が途切れる。
「もしも、何ですか?」
「いいえ。やっぱりやめます。縁起でもないですから」
「セレネ様……」
僕は彼女の方を向いた。月明かりの下で、翡翠の瞳がかすかに潤んでいるのが見えた。彼女が何を言おうとしたのか、僕にはわかってしまう。
もしも、あなたが傷ついたら。
もしも、あなたがいなくなってしまったら。
セレネは、きっと僕を失うことを恐れている。自分自身に降りかかる危険じゃなくて……それほどまでに僕を大切に思ってくれていることを、僕は知っている。その気持ちを知りながら、僕は気づかない振りをする。セレネが自身の死を恐れてるかのように、騎士として彼女を安心させる言葉を口にする。
「大丈夫です。明日は必ず、セレネ様を守ります」
「その言葉、何度も聞きました」
「なら、何度でも言います。私はセレネ様の騎士ですから」
セレネが両方の手で、僕の手を握った。ひんやりとした指先に、彼女の体温がゆっくりと伝わってくる。彼女はしばらく、繋いだ手を見つめていた。やがて、何かを決意したように顔を上げる。
「リディア。ひとつだけ、約束してください」
「はい、何なりと」
「明日も、必ず帰りましょう。絶対、私を置いて、どこかに行かないでください」
あまりにも真っ直ぐな願いだった。その言葉が、胸の奥深くに突き刺さる。
生きて帰る——その約束を、僕は守れない。
原作どおりに、明日の戦いで僕は命を落とす。それがセレネを聖女として覚醒させるために……この世界の、彼女のハッピーエンドに必要な犠牲だから。
「……返事、できませんか?」
「いいえ。そんなことはありません」
僕は彼女の手を握り返した。冷たかった指先に、少しずつ温もりが戻っていく。
「約束します。必ず、生きて帰ります」
「本当ですか?」
「はい。聖騎士が、主を置いていくわけがありませんから」
セレネはしばらく僕の目をじっと見つめていたが、やがて小さく息を吐き、僕の腕に頭を預けた。
「信じます。あなたの言葉なら」
そう言って身を委ねる彼女が、たまらなく愛おしかった。だからこそ余計に、僕は彼女を裏切るのだと思い知らされる。セレネは僕を信じている……明日、僕が死ぬなどとは疑いもせず、その言葉を信じてくれている。その信頼を裏切り、彼女を絶望の淵へ突き落とすことになるのに。
それでも、今は彼女の望む言葉を返したかった。たとえそれが嘘だったとしても……せめてこの瞬間だけは、彼女を安心させてあげたかった。
「寒くなってきました。部屋に戻りましょう」
セレネは何事もなかったかのようにそう言って、僕の手を引いた。その背中を追いながら、僕は明日のことを考えていた。彼女の幸せのために、僕は死ぬ。それが決められた筋書きだった。
それなのに、繋いだ手から伝わる温もりを、いつまでも手放したくなくて。
「リディア、そんなに強く握ったら、離れられないですよ」
セレネが振り返って笑う。
僕はその手を、思わず強く握り返していた。彼女の笑顔を見ていると、胸の奥が鈍く痛んだ。この人を泣かせるために、僕はここにいる。この人の幸せのために、僕は死ぬ。わかっている。わかっているのに。
♡ ♡ ♡
——生きて帰る、か。
その約束が、思った以上に重くのしかかる。セレネと別れて自室に戻った僕は一人、暗い天井を見つめながら明日のことを考えていた。
原作のリディアは、死ぬ瞬間に何を思ったのだろう。ゲームでは「セレネ様がご無事で良かった」というセリフしか描かれていなかった。けれど、その裏にはきっと、もっとたくさんの想いがあったはずだ。
今の僕には、あのセリフの意味が少しだけわかる気がした。セレネが無事ならそれでいい、自分がどうなっても構わない。そんな気持ちが、胸の奥に確かにある。でも、それだけじゃなくて。
——必ず、帰りましょう。
その言葉が、頭から離れなかった。生きて帰る……その約束を、僕は守りたいのだろうか。でも、答えはわかっていた。原作どおりなら、セレネを守るために死ぬことこそが、彼女を幸せな結末へ導く唯一の道なのだから。
それでも、その言葉を思い出すたび、胸の奥が痛んだ。
……いつの間にか、眠っていたらしい。窓の外が白み始めた頃、僕は目を覚ました。砦の鐘が鳴り、出撃の時刻を知らせる。支度を整え、廊下に出るとすでにセレネが待っていた。修道服ではなく、聖女としての正装。白と金の法衣に身を包み、その姿はまさに聖女の名にふさわしい。
「おはようございます、セレネ様」
「おはよう、リディア」
互いに昨夜の言葉には触れない。ただ、セレネが僕の手を握ってすぐに離した。それだけで、十分だった。
「行きましょう」
「はい」
砦の門をくぐり、北の森へと歩き出す。騎士団五十名が整然と列をなし、その中央をセレネが進む。僕は彼女のすぐ隣、いつでも彼女を守れる位置にいた。
森に入ると、空気が一変した。木々の葉は黒く変色し、地面からは瘴気のようなものが立ち上っている。魔力溜まりが近い証拠だ。
「セレネ様、神聖力の準備を」
「ええ、わかっています」
セレネの手が淡く光る。その光は、周囲の瘴気をじわりと押し返すように広がっていく。だけど、まだ浄化し切れない。浄化は魔力溜まりの中心で行わなければ意味はないに等しい。
森を進むこと半刻。先頭を進んでいた斥候が、拳を上げて止まれの合図を送った。僕はすかさずセレネの前に立ち、剣の柄に手をかける。前方の木々の隙間——そこに、蠢く影があった。
「魔物です」
「数は?」
隊長の問いに、斥候が息を呑んで答える。
「二十……いや、三十は確認。まだいます。奥からも、次々と」
ざわり、と騎士団に緊張が走る。魔力溜まりが活性化し始めたらしい。
僕は剣を抜き、セレネを背に庇った。魔物たちが、瘴気を纏いながらゆっくりと近づいてくる。その目はどれも虚ろで、けど確かな殺意を宿していた。
「セレネ様、私から離れないでください」
「ええ。リディアも無理をしないで」
「善処します」
そう答えて、僕は地面を蹴った。最初の一匹に斬りかかる。剣が魔物の腕を捉え、断ち切る。悲鳴のような音を上げて魔物が崩れ落ちた。次から次へと押し寄せてくる魔物を、一閃、また一閃。僕は休む間もなく剣を振るい続けた。
「リディア、右ですっ!」
セレネの声が飛ぶ。振り向きざまに剣を横薙ぎにし、迫っていた魔物を払い除ける。彼女もまた、神聖力で周囲の魔物を退けつつ、騎士の回復を行っている。ただ神聖力の消費量は多く、その呼吸も少しずつ乱れ始めていた。
「セレネ様、無理をしすぎです。回復を」
「まだ、大丈夫です。それより数が」
セレネの言う通り魔物の数は減るどころか増えていた。森の奥から次々と新たな魔物が現れる。これではキリがない。魔力溜まりを浄化しなければ、魔物は無限に湧き出てて原作通りに全滅するだけだ。
「隊長!本隊はここで食い止めてください。私とセレネ様で、魔力溜まりへ向かいます」
「しかし、それではお二人だけでは」
「このままではジリ貧です。浄化が先決です」
隊長は一瞬迷った表情を見せたが、やがて頷いた。
「わかりました。道を開けます。お二人ともご無事で」
「ええ。必ず戻ります」
その言葉が、自分でも驚くほど自然に出た。戻るつもりなんてないくせに。セレネの前で嘘をつくのはもう慣れていた。
僕はセレネの手を取り、魔物の群れの隙間を縫うように走り出す。騎士団が道を開け、僕たちを先へ通す。背後で剣戟の音が響き、魔物の咆哮が森に木霊した。
「リディア、この先です」
セレネが指差す先——木々が不自然に開けた場所に、それはあった。
何もないはずの宙に、無数の亀裂が走ったような痕。目に見えないガラスが砕け散ったかのように、透明な破片が空中に浮かび、そこから黒い瘴気が噴き出し、周囲の空間を歪ませている。
活性化した、魔力溜まり。あのシーンで見たものと同じものが、今,目の前にある。
「……あれは、本当に魔力溜まりなんですか……?」
「セレネ様、急ぎ浄化を。私周囲を警戒します」
「わ、わかりました」
セレネが魔力溜まりの前に立ち、両手をかざす。淡い金色の光が彼女の全身から溢れ出し、瘴気とぶつかり合うと。
「——っ!」
セレネの身体がぐらついた。瘴気の抵抗が強く、浄化が思うように進まない。
「セレネ様!」
「大丈夫……です。まだ、いけます」
気丈に彼女は振る舞うけど、その声には明らかに無理が滲んでいた。このままでは、浄化する前にセレネの体力が底を尽く。僕は剣を握り直し、周囲を見渡した。
魔族は必ず近くにいる。セレネの浄化を妨げている元凶を見つけ出さなければ——。
「ご苦労なことだ、聖女」
その声は、頭上から降ってきた。見上げれば、木の枝に黒い影が立っている。人の形をしていながら、人とは明らかに異なる気配。闇色の外套を纏い、顔の半分を仮面で覆った魔族が、こちらを見下ろしていた。
「魔族……!」
「そんな……魔族が、本当に……!」
「おや、ご存知でしたか。ま、ここで死ぬ貴方にはあまり意味のないことなのですが」
魔族は優雅に枝から飛び降りると、僕たちの前に着地した。その身に纏う闇の魔力は、周囲の瘴気と共鳴しさらに濃密になっていく。
「聖女を殺すのは簡単ですが、生かして捕らえるのは骨が折れます。ですので、そこの騎士、あなたには死んでもらいます」
「リディア、下がってください!」
「大丈夫です。セレネ様はそのまま浄化を続けてください。魔族の相手は私がします」
強がりだった。魔族の強さは、ゲームの知識として知っている。けれど、リディア自身……今の僕がどこまで戦えるのかは分からない。それでも、セレネを守るために退くわけにはいかなかった。
僕は静かに息を吸い、体内の神聖力を解き放った。白銀の光が全身を包み込み、腕から指先へ、脚からつま先へと巡っていく。身体の奥底から力が湧き上がり、握り締めた剣が淡い輝きを帯びた。
「なるほど、なかなかの腕前ですね。魔物たちでは力不足だったようです。では、私が直々に相手をして差し上げましょう」
魔族が動いた。その速度は、目で追うのがやっとだった。僕は咄嗟に剣を立て、その爪を受け止める。
重い——衝撃に腕が痺れ、足元の地面が軋んだ。押し込まれる剣を両腕で支え、僕は歯を食いしばる。なんとか受け止めたものの、力では明らかに向こうが上だった。
「リディア!」
「——っ、平気です!」
踏ん張って体勢を立て直す。けれど、魔族はすでに次の攻撃を仕掛けていた。
連撃。剣で受け流し、身をかわし、隙を見ては反撃を繰り出す。銀と黒、二つの刃が衝突するたび、轟音とともに衝撃波が周囲の空気を震わせ、大地を揺るがした。弾け飛んだ火花が木々を焦がし、地面には深い亀裂が刻まれていく。
剣戟が幾度となく交差する。魔族の爪を受け止めるたびに腕が痺れ、凄まじい衝撃に足元の土が抉れた。かわしきれなかった一撃が肌を裂き、血が滴る。それでも、セレネを連れ去らせるわけにはいかない。僕は歯を食いしばり、再び剣を構えた。
白銀の光が閃く。神聖力を纏った刃が魔族を捉えた。だが、浅い。確かな手応えはあったものの、致命傷には程遠い。魔族は傷口を一瞥しただけで、薄く笑った。
その間にも、周囲の木々は次々と薙ぎ倒され、地面には無数の亀裂が走っていた。緑に覆われていた森は、二人の激突によって見る影もなく荒れ果てていく。
「ほう。やはり只者ではありませんね。その歳で、そこまで神聖力を練り上げるとは」
魔族の声には賞賛と嘲笑が入り混じっていた。
僕は答えず、呼吸を整える。肩の傷は浅い。だが、目の前の魔族の速度は、これまで戦ってきたどんな魔物とも桁違いだった。一瞬でも気を抜けば、殺される。そして僕が倒れれば、セレネを守る者はいなくなる。
「リディア、無理しないで!浄化はもう少しで……!」
「っ……セレネ様は、浄化に集中してください。こちらは……問題ありません」
言い切ると同時に、僕は地面を蹴った。脚に神聖力を巡らせ、一気に加速する。魔族の側面を抜け、その背後へ。振り上げた剣を叩き込む。
だが、魔族はまるで最初から見切っていたかのように振り返り、その爪で剣を受け止めた。金属と爪がぶつかり合う甲高い音が、森に響く。
「速いですね。ですが、その程度の神聖力では私を倒すことはできませんよ」
魔族の爪が剣を弾いた。体勢が崩れた瞬間、腹部に蹴りがめり込む。
「がっ……!」
鎧越しの衝撃に、身体が数歩後退した。肺から空気が押し出され、口の中に血の味が広がる。
「リディア!」
セレネの叫びが聞こえた。けれど、振り返る余裕はない。魔族はすでに次の攻撃に移っていた。闇の魔力が凝縮され、無数の黒い槍となって僕へと降り注ぐ。
——避けきれない……!
直感が警鐘を鳴らした瞬間、僕は神聖力を防御へと転じた。白銀の光が身体を覆い、瞬時に障壁を形作る。光の障壁に触れた黒い槍が、次々と弾けて消えていく。だが、衝撃までは殺しきれなかった。身体の奥で何かが軋み、膝が揺れる。
神聖力の使いすぎだ。このままでは、セレネの浄化が終わる前に力尽きる。
「ふむ。なかなかしぶといですね」
魔族が感心したように呟いた。
僕は歯を食いしばり、剣を構え直す。握り締めた柄が汗で滑り、指先が微かに震えていた。
このままでは、いずれ押し切られる。一か八か、賭けるしかない。僕は剣を握り直し、一歩前に出た。魔族もまた、闇の魔力を纏って突進してくる。互いの距離が瞬く間に縮まった。
交錯する、その刹那。迫り来る爪を避けることはできた。だが、完全には躱さない。肩を裂く鋭い痛みを無視して、僕はさらに踏み込んだ。
「なに……?」
魔族の動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、体内に残る神聖力を、剣の一点へと集中させる。白銀の光が刃の先端に収束し、急速に輝きを増していく。
——これで決める。
自らの傷を顧みず、僕は渾身の一撃を魔族へと叩き込んだ。
「はああああっ!」
奔流となった神聖力が、魔族の胸を貫いた。
「……これは、予想以上ですね」
魔族の身体に亀裂が走る。黒い外套がほどけるように崩れ、その肉体は足元から黒い霧へと変わっていった。
「見事な一撃です。ですが、覚えておいてください。肉体を失った程度で、私たち魔族が滅びるわけではありません……まあ、あなたが生きて帰れればの話ですが」
消えゆく魔族の声が耳に残る。直後、全身を激痛が駆け抜けた。
「ぐっ……!」
膝が崩れかけ、僕は剣を地面に突き立てて身体を支えた。先ほどの一撃に、残された神聖力のほとんどを注ぎ込んだ。その反動が身体の奥から押し寄せ、呼吸が乱れる。視界が明滅し、立っていることさえ難しくなっていた。
魔族の肉体は消滅した。けれど、まだ終わっていない。魔力溜まりは浄化しきれておらず、森の奥からは新たな魔物の気配が近づいている。何より、僕の身体はもう限界に近かった。
「リディア!しっかりして!」
セレネが駆け寄ろうとする気配がした。
「来ないでください!」
思わず声を張り上げる。今、彼女にこちらへ来られたら、浄化が中断されてしまう。
「セレネ様……浄化は?」
「あと少し……!でも、リディアの方が……!」
泣きそうに震える声が、胸に突き刺さった。
僕はふらつく足で立ち上がり、剣を握り直す。森の奥から、魔物の群れが押し寄せてくる。その数は、もはや数え切れない。
正面から迎え撃てば、すぐに力尽きるだろう。逃げることもできない。背後には、浄化を続けるセレネがいる。
ならば、残された手段はひとつしかなかった。これなら、全部まとめて……僕は静かに目を閉じた。
体内に残る神聖力を、すべて解き放つ。それは、命そのものを燃やす行為。原作でリディアが行った、自らと引き換えに驚異的な神聖力を生み出す諸刃の剣。恐怖はない、迷いもない——僕が守りたいのは、ただ一人だけなのだから。
「リディア、やめて!そんなことをしたら……!」
セレネの叫びが背後から響いた。
僕は振り返らなかった。ただ、ほんの少しだけ微笑んだ。
「セレネ様。私、約束を破ることになりそうです」
ごめんなさい。声には出さず、心の中で呟いた。
次の瞬間、僕の身体から白銀の光が溢れ出した。
光は背中から広がり、巨大な翼を形作っていく。幾千もの光の刃が生まれ、夜の森を白銀に染め上げた。
そして、魔物の群れへと降り注ぐ。
刃が魔物の肉体を次々と切り裂き、その慟哭を夜の闇へと溶かしていく。瘴気に覆われた森も、荒れ果てた大地も、瞬く間に白銀の輝きへと塗り替えられていった。
その光景は、まるで戦場に降り立った女神のようだった。けれど、光が広がるにつれて、僕の意識もまた遠のいていった。
「リディアっ!」
僕の名前を呼ぶ声だけが、やけに鮮明に耳に残っていた。
いつもの穏やかな響きではない。喉が裂けるのではないかと思うほど切羽詰まった、悲痛な叫びだった。
ああ、泣かせてしまったな。
約束を破ってごめんなさい。そう伝えたかったけれど、もう口を動かす力も残っていなかった。
身体の感覚が薄れていく。光の翼が崩れ、僕の身体が地面へと傾いた。その瞬間、ふわりと温かな何かが全身を包み込んだ。
セレネの神聖力だった。それが、僕の覚えている最後の感覚だった。
♡ ♡ ♡
「……あれ?」
目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。いや、正確には違くてむしろ見慣れた天蓋付きのベッドに、白を基調とした清潔な室内。おそらく砦の、セレネに与えられた部屋だ。
(僕は……生きているのか?)
最後に覚えているのは、白銀の光と、僕の名前を呼ぶセレネの悲痛な声。そして、全身を包み込んだ温かな感覚だった。
ゆっくりと身を起こそうとして、身体がひどく重いに気づいた。先ほどの戦いで、神聖力を使い果たしたせいだろうか。どこかが痛むわけではない……ただ、全身から力が抜け落ちてしまったかのように、少し動くだけでも億劫だった。
「……起きましたか」
声はすぐ隣から聞こえた。首を巡らせると、ベッド脇の椅子にセレネが座っていた。寝間着姿の彼女は、翡翠の瞳を赤く腫らしていて。もしかして、ずっと泣いていたのだろうか。
「セレネ、様……」
かすれた声で名前を呼ぶ。彼女は何も言わず、ただじっと僕を見つめていた。その瞳に浮かぶ感情を、僕は上手く読み取ることができない。安堵、だろうか。怒りだろうか。それとも、もっと別の何か。
何か言わなければ。そう思うのに、言葉が出てこない。聞きたいことはあった。あの時、セレネはどうなったのか。僕が命を懸けたことで、彼女は覚醒できたのか。
それだけが気がかりだった。でも、目の前の彼女を見ていると、とても聞けそうになかった。赤く腫れた瞳も、疲れ切った顔も、きっと僕のせいだ。セレネを悲しませることは分かってたはずなのに、なんで僕はこんなに……。
「リディア」
ようやく彼女が口を開いた。その声は驚くほど静かで、ひやりとするような冷たさが潜んでいた。セレネが本気で怒ってる時の声。今、その怒りを向けられているのは、他でもない僕だった。
「体調は、どうですか」
「あ……はい。少し、重いですけど……大丈夫、です」
「そう」
セレネは短く答え、立ち上がった。椅子が床を擦る音が、やけに大きく響く。
彼女はベッドの縁に腰を下ろし、そっと僕の頬に触れた。指先はひんやりと冷たかった。けど、触れたところから、じんわりと温もりが伝わってきた。
「リディア。私、ずっと考えていました」
「……何を、ですか」
「あなたがなぜ、あんなことをしたのかを」
その言葉に、僕は口をつぐんだ。
あんなこと……自分の命を犠牲にして、魔物を殲滅しようとしたこと。セレネを守るためだった、そう答えることはできる。でも、それだけではないことを、僕自身が一番よく分かっていた。
「あなたは私を守ろうとしたんじゃない。自分を殺そうとした……違いますか?」
図星だった。反論しようとしても、言葉が出てこない。セレネの指が、僕の頬をゆっくりと撫でる。その手つきは優しい。けれど、逃げ場を塞ぐような確かさがあった。
「……あの時、リディアが光になって……どうしても受け入れられなかったんです。私の中に今まで感じたことのない力が溢れてきて……」
その言葉に、心臓が跳ねた。成功したという安堵が胸に広がる。ただ、次の言葉がその感情を凍りつかせた。
「リディアは、自分が死ぬことで私が幸せになれると、本気で思っていたんですか?」
その問いに、僕は何も言えなかった。肯定も否定もできなかった。ただ見透かすような翡翠の瞳から逸らすことしかできないくて。でも逃さないとでもいうように、セレネの指が僕の顎に触れて、無理やり視線を合わせさせられた。
「……どうして、そんなことを考えるんですか」
「それは……」
「私が、あなたを大切にしていないように見えましたか?」
「違っ……そんなことは」
「では、なぜ」
セレネの声が、わずかに震えた。その震えが、僕の胸を締め付ける。彼女は怒っているのではなかった、ただ悲しんでた。僕が自分を軽んじることを、僕が彼女の気持ちを踏みにじることを。
「リディア。私は、あなたがいない世界なんて欲しくありません」
セレネはベッドに上がり、僕の身体を覆うように身を乗り出した。両手をついた彼女の顔が、すぐ目の前にある。もうほとんど距離はなくて、彼女の髪が僕の頬に触れ、花のような優しい香りが、ふわりと鼻先をくすぐった。
「あなたは私の半身です。あなたがいなくなったら、私は私でいられなくなる……わかりますか?リディア。あなたが思っている以上に、私はあなたを必要としているんです」
その言葉に、僕は息を呑んだ。セレネの目が、潤んでいる。泣くのを必死に堪えている。その姿が、胸に突き刺さった。
……分かっていたはずだった。僕が死ねば、セレネが悲しむことくらい。それでも、彼女の幸せのためなら仕方がないと、自分に言い聞かせていた。なのに、目の前で泣くのを堪える彼女を見ていると、そんな自分の選択が、ひどく残酷なものに思えた。
「ごめん、なさい」
ようやく、それだけ言えた。セレネは、ふるりと首を振る。
「謝らないでください……でも、わかってほしいんです。あなたがどれだけ私にとって大切な存在なのか、ちゃんとわからせてあげます」
その言葉と同時に、彼女の唇が僕の唇に重なった。
その口づけは、これまでのどんなキスとも違くて。啄むような優しさも、甘えるような柔らかさもない。ただ、僕の唇を確かめるように、そして決して離さないという意志を込めるように、呼吸さえ忘れそうなほど深く。
やがて、彼女の舌が僕の唇を割る。戸惑うように逃げ場を探す僕の舌を捕らえ、絡め取りとジュプッ♡唾液を啜る音が静かな部屋に響いた。
「ん……っ♡む……ぅっ……♡」
くちゅ♡くちゅ♡ジュプッ♡ジュルッ♡
息ができなくて苦しいのに、それ以上に口づけが心地よくて。
セレネの指が後頭部に回り、僕を逃がさないようにそっと支える。もう片方の手は、シーツの上で震える僕の手を包み込んでいた。その手の温かさが、なぜだか嬉しかった。
「は……っ♡」
ようやく唇が離れて、僕とセレネの口元に銀の糸が架かった。セレネはそれを指で拭い、その指をじっと見つめて。とろり、と糸を引くそれを口に含んだ。
「……んっ、リディアの味がします♡」
なんでもないことのように、彼女はそう言った。その顔があまりにも扇情的で、心臓がばくばくとうるさい。身体の芯が、じんわりと熱を帯び始めているのがわかった。まだ怠いはずなのに、僕の身体はもうセレネに応えようとしていた。
「リディア。今夜は、寝かせませんから」
セレネの瞳が、すっと細められた。その奥で、翡翠が妖しく煌めく。彼女を包む雰囲気が、より濃密で、甘く、どこか危険なものへと変わっていった。
セレネの手が、僕の寝間着の紐に触れる。ゆっくりと有無を言わさぬ手つきで、紐が解かれていく。僕は抵抗なんてできないまま、ただ雰囲気に呑まれて。
「まだ身体が……」
「動けなくてもいいです。私が、全部しますから」
夜気が肌に触れて、微かに震えた。その震えは寒さのせいだけじゃなくて。彼女の視線が、僕の身体の上をゆっくりと滑っていく。じっと見つめられるのが恥ずかしくて、僕は目を逸らした。
「……目を逸らさないでください」
セレネの指が僕の胸元に触れる。鎖骨のラインをなぞり、胸の膨らみへと降りていく。茹でった身体は、ほんの少しの刺激にも過敏に反応して。彼女の指先が胸の頂に触れただけで、僕は小さく息を呑んだ。
ちゅ♡ちゅっ♡ちゅぷ♡スリ♡スリ♡
「んっ……♡あ……っ♡」
「敏感ですね♡……でも、今日は焦らしません。リディアに、たくさん感じてほしいから」
そう言って、セレネは僕の胸の先にそっと唇を寄せた。ぢゅぱ♡れろっ♡って吸われて舌で転がされる。もう片方がセレネの細い指でクリ♡クリ♡と柔らかく捏ねられて、僕の口からは抑えきれない声が漏れた。
ぢゅっ♡ぢゃぱ♡れろっ♡れる♡クリュ♡クリュ♡
「あ……っ♡あっ♡っあ♡んあぁ…♡」
「リディアの声、好きです♡もっと聞かせてください。今は、私に全部委ねて?」
胸の先を左右交互に愛撫され、身体の奥が熱を持っていく。セレネは丁寧に時間をかけて、僕の身体に触れていった。一つ一つの反応を確かめるように、そのたびに新しい発見を得るように。
「はぁっ♡はぁ……っ♡セレネ……っ♡」
「気持ちいいですか?」
すっかり固くなった先をきゅっと抓られ、僕はこくこくと頷くしかできなくて。そんな僕を見て、セレネは嬉しそうに微笑む。今度はゆっくりと下へと口づけを落として……へその周り、下腹部そして——。
「っひゃ♡」
太ももの内側に彼女の唇が触れた。思わず身体がびくんと跳ねる。けれど、セレネは構わずそこに何度も口づけを落とした。ちゅ♡ちゅ♡と音を立てて。そのたびに僕の脚が小刻みに震える。
「閉じちゃダメですよ。脚、開いてください」
「……う」
その言葉に、僕は一瞬ためらった。けれどセレネの目が、じっと僕を見つめている。逃げることを許さない、優しくてけれど有無を言わせない瞳。僕は抗えなくて、ゆっくりと脚を開いた。
「いい子です♡」
セレネの指が、下着の上からすでに濡れ始めているそこに触れる。くちゅ♡と水音がして自分の反応に顔が熱くなる。
「もう、こんなに……リディアは、本当に可愛いですね♡」
「だって……っ♡セレネが、触るから……あっ♡はぁっ♡」
「ふふ、嬉しいです……ねえ、リディア。あなたがどれだけ私に愛されているか、身体で覚えてくださいね」
下着をゆっくりと下ろされて、もうすっかり濡れてしまっている秘所に、セレネの指が直接触れた。ぬるり、と蜜を纏った指が割れ目をなぞる、それだけで身体の奥がきゅうっと疼く。
「あぁ……っ♡」
「ここ、ヒクヒクしてます……私の指を、待ってるみたい」
「い、言わないで……っ♡」
「言いますよ。だって、本当のことですから」
セレネの指が、ゆっくりと中へと入ってくる。神聖力を全て使ったせいか、いつもよりずっと繊細にその感覚が伝わってきて。異物感と、それ以上の甘い痺れ。彼女の指が、膣壁を優しく押し広げるように動く。ゆっくりと、確実に。内壁を擦り上げられ、僕は喉を反らせた。セレネの指は丁寧に執拗に、バレバレの弱点を重点的に攻めてきて。
グプッ♡クチュ♡グチュ♡グチュ♡
「だ、め♡あんっ♡そこ、だめ……っ♡」
「だめじゃないですよ♡ほら、すごく締め付けてる」
ぐちゅ♡ぐちょ♡と粘つく音が響く。セレネの指の動きに合わせて、僕の腰が勝手に揺れて……彼女の指を、もっと奥へと迎え入れるように。そんな自分の身体の反応が、恥ずかしくてでも抗えなくて。
「んん゙ッ♡ あッ、クッ♡ イッ♡♡」
「リディアが感じてくれるの、嬉しいです」
セレネの親指が最も敏感な、陰核に触れた。くに♡くに♡と押し潰すように刺激され僕の身体が大きく跳ねた。
「ひあっ♡!」
「ここも、弱かったですよね」
「や……っ♡そこ、一緒に、だめ……っ♡」
「だめって言いながら、私の指を離してくれないじゃないですか♡」
そう言って、セレネはさらに指の動きを速めた。中の指と外の親指、二つの刺激が同時に襲いかかって。もう、何も考えられなくて……彼女の指の与える快楽だけが、真っ白な思考の中で繰り返されて。
「あっ♡あっ♡♡セレネ……っ♡♡私、もう……っ♡」
「いいですよ。いっぱい感じてください……私に、リディアのイクとこを見せてください」
その言葉に背中を押されるように、僕は高みへと登り詰めていった。身体の奥からせり上がってくる熱い波。それが弾けた瞬間、身体が壊れそうなほど激しく痙攣して、潮まで噴き出して。
「あッ♡あッ♡♡あああ゙——ッッ♡♡♡」
ビクビクビクッ♡ブシュッ♡ブシュッ♡
びくびくと身体が痙攣し視界が白く飛ぶ。セレネの指が、そんな僕を優しく包み込むように、ゆっくりと中を撫で続けていた。
やがて波が引いて、セレネの指がゆっくりと引き抜かれていく。惜しむように膣壁が絡みつき、くちゅり♡と淫音がして。僕は荒い息のまま、シーツに沈んだ身体を起こすこともできずにいた。全身の力が抜けて、手足の先までじんわりと痺れている。
視界の端で、セレネが立ち上がる気配がした。修道服の紐に手をかける音、布擦れの音。ゆっくりと呼吸を整えながら、僕はぼんやりと彼女の方を向いた。
「セレネ……?」
「少し、待っていてくださいね」
月明かりだけが灯る部屋の中で、セレネは静かに脱いでいく。白い法衣が肩から滑り落ち、絹の下着が露わになる。透き通るような白い肌、華奢な肩と豊かな胸の膨らみ。思わず目を逸らそうとした僕だけど、その先の光景に視線は縫い止められた。
下着を下ろした彼女の下腹部——そこに、見慣れたものがあった。
「え……?」
思わず声が漏れた。セレネの脚の間、本来なら彼女にあるはずのないもの。前世でよく目にしたものが、そこにあった。明らかなほど立派に反りかえったモノ。
「驚きましたか?」
セレネは少し照れたように微笑んだ。頬がほんのり赤いのは、羞恥からだろうか。
「あの……これ、は……」
「神聖力で、作ってみました。権能の一部で、身体の一部をこうして一時的に変えることもできるみたいで」
「作った……んですか」
セレネがベッドに上がり、僕の上に覆いかぶさるように身を乗り出した。両手が僕の顔の横に置かれて、すぐ近くに彼女のそれが見える。脈打つたびに、ほんの少しだけ先端が揺れる。そのあまりの近さに、心臓が痛いくらいに高鳴った。
「リディアと、本当の意味で一つになりたいんです……リディアのことを、私の全部で愛したい。リディアの全部を私のものにしたい」
その声は、少しだけ震えていた。恥ずかしさを、隠しきれていない声音。その瞳はまっすぐに僕を見つめて。
「……だめ、ですか?」
だめ、とは言えなかった。セレネが僕を求めている、そのことが、僕を温かく満たしていく。
「……だめじゃ、ないです」
その言葉に、セレネの表情がぱっと明るくなった。まるで昔の子どもの時に戻ったみたいに、嬉しそうに笑う。その笑顔が愛おしくて、僕も自然と笑みが溢れてた。
「よかった……リディアにそう言ってもらえて、嬉しいです……私、優しくしますから」
セレネはそっと僕の脚に手を添えて……ゆっくりと開かせて、その間に自分の身体を収める。さっきまで彼女の指を受け入れていた秘所は、まだ熱を持ったままで。彼女のモノが近づくだけで、粘り気の強い蜜がどぷりとあふれて。
「……ふふっ、そんなに欲しいんですね♡」
「見ないで……っ♡」
「見ます。だって……これから、私たちが一つになるところですから」
セレネは嬉しそうにそう言って、肉棒の先端が蜜穴に当てられる。僕のそこは、ぺちっ♡ぬちゃ♡と剛直に中を搔きまわされるのを勝手に想像して、また蜜をこぼして。
「ゆっくり、しますね。痛かったら言ってください」
セレネの腰がゆっくりと沈み込んでくる。先端がぬぷり♡と秘裂を押し広げて、指とは比べ物にならないほどの質量が僕の中を満たしていく。
ミ゙ヂ♡ミ゙ヂッ♡ギュン♡ギュン♡ぎゅううー…♡
「あ……っ♡ お、おおき……っ♡」
「んっ……リディアの中、すごく……温かい……♡」
セレネの声も少しだけ崩れてきて、それだけで彼女も感じてるのが伝わってきて、それがどうしようもなく嬉しくて。彼女は僕の反応を確かめるように、少しずつ少しずつ腰を進めてく。その丁寧さが、いっそもどかしい。
「……もっと、深く……来て、ください……っ♡」
「……本当に、いいんですか?」
「セレネなら……いい、です……っ♡」
その言葉に、セレネの目がふっと細くなった。次の瞬間、彼女の腰がぐっ、と進んで根元まで一気に埋め込まれて。
「ッかはぁッ♡」
ずちゅんッ♡
ビクビクビクッ♡キュン♡キュキュン♡
奥まで届いた肉棒がずん♡と子宮の入り口を押し上げてきて。身体の内側から圧迫される感覚に、背中が浮き上がってシーツを握る指に力がこもる。
セレネはしばらく動かずに、僕の身体が慣れるのを待ってくれているようだった。その間にも彼女のものが脈打つたびに、僕の膣壁がきゅうきゅうと反応して。
ビクッ♡ビクッ♡♡ギュンッ♡ギュンッ♡
「リディア……すごく、締め付けてきますね……♡」
「だって……セレネが、いっぱい……っ♡」
「ふふ……嬉しいです」
セレネがゆっくりと腰を引き始める。ぬぷっ♡と引き抜かれる感覚、そしてまた奥まで沈められる。その繰り返しが、少しずつ速度を増していった。
ぱんっぱんっぱんっ♡じゅぽッじゅぽッ♡
「あっ♡あっ♡あっあ゛ーっ♡おっ、ぐぅぅっ♡」
「リディア……気持ちいいですか?」
「…ふっ♡あっ♡はいっ♡ すごく……っ♡」
ぱちゅん♡ぱちゅん♡と肌がぶつかる音が、静かな部屋に響いていく。セレネの動きは優しくて、でも確実に僕の弱いところを突いてくる。散々開発されたせいで、もう僕の身体は彼女の動きに完全に合わせてて。突かれるたびに、甘い声が勝手に漏れる。
「あんっ♡ そこ、だめ……っ♡」
「ここがいいんですね……♡わかりました」
ぐぢゅ♡ぐぢゅっ♡ぐぷっ♡
セレネはそこばかりを狙って、ゆっくりと、けれど確実に突いてくる。何度も何度も同じ場所を擦られて、僕の腰がびくびくと跳ねた。
「…ふっ♡あっ♡そ、こ…やめッ♡そこばっかり……っ♡あっ♡あっ♡ん゙んーッ♡」
「リディアが気持ちよさそうで……私も、嬉しいです……っ♡」
セレネの呼吸も、少しずつ荒くなってきていた。白い頬が上気して、額にうっすらと汗が滲んでいる。彼女も気持ちいいんだと思うと、それがまた嬉しくて。僕は震える手を伸ばして、彼女の背中に回した。
「セレネ……もっと……っ♡」
「……はい。もっと、しましょうね」
セレネの動きが、一段と激しさを増した。ぱちゅんぱちゅんと激しく腰が打ち付けられて、ベッドがぎしぎしと軋む。奥を突かれるたびに、視界がちかちかと明滅して何も考えられなくて。
「あっ♡あっ♡セレネっ♡僕、もう……っ♡」
「私も……っ♡リディア、一緒に……っ♡」
セレネの声が切羽詰まったものに変わった。彼女の腰の動きがさらに速くなって、僕の身体の奥がきゅうっと締め付けられる。もう、限界だった。
「セレネっ♡い、く……っ♡いっちゃ……っ♡」
「リディア……っ♡私も……っ♡」
ギシッギシッ♡ぱんぱんッ♡ビクビクッ♡ビクッン♡
どくんっ♡と、彼女のものが僕の中で脈打った。その瞬間、僕の身体の奥からも熱いものが弾けて。
「イクッ♡イっちゃう♡イッ…ぁああ゙——ッ♡」
「リディア……っ♡♡」
どびゅッ♡どびゅるッ♡プシャ♡プシャアッ♡
びくびくと身体が大きく痙攣して、視界が真っ白に染まった。セレネも同じタイミングで、僕の中で果ててくれたようだった。勢いよく迸ってくる精液の濁流が、一滴残らず膣内へと出されて。膣肉を通して熱いものが、奥に注ぎ込まれる感覚、それがたまらなく愛おしかった。
彼女の腕が僕をぎゅっと抱きしめて、僕も抱きしめ返して。しばらく僕たちは荒い息のまま動けずにいた、
やがて、先に復活したセレネが、まだ息も整わない僕を見下ろしてそっと囁いた。
「……じゃあ、もう一度しましょうか」
「えっ……?ま、待って、セレネ……僕、もう……」
ようやく息が整い始めたところなのに。これ以上なんて、とても考えられない。でも、セレネは困ったように笑うだけで。
「ふふっ、夜は長いんですから♡まだ始まったばかりですよ、リディア」
「そ、そんな……♡」
「覚悟してくださいね、リディア♡」
そう言って彼女はまたゆっくりと腰を動かし始めた。まだ僕の中で大きくなったままの彼女のモノが、再び奥を突き上げてきて。
何回も——もっともっと。
セレネの宣言通り、眠る暇なんかなくて。
僕たちは何時間も互いの身体を夢中で貪った。
♡ ♡ ♡
「……んっ」
まぶたに朝の光を感じて僕はゆっくりと目を開けた。天蓋の白い布越しに、柔らかな日差しが差し込んでくる。窓の外では小鳥がさえずっていて、どこか遠くで鐘の音も聞こえてくる。どうやらもうすっかり朝らしい。
(……身体が、痛い)
起き上がろうとして全身の節々が悲鳴をあげた。腰が重いし、脚がうまく動かない。何より下半身がひどく熱っぽくて、まだ昨夜の余韻が残っているのが自分でもわかった。シーツはぐしゃぐしゃに乱れていて、あちこちに情事の痕跡が残っている。
「あ、起きましたか」
すぐ隣から声がした。振り向くと、セレネが枕に頬を預けたまま僕を見つめていた。髪が少し乱れて、頬にうっすらと赤みが残っている。彼女もまた、昨夜の名残を纏っているようだった。
「おはようございます、リディア」
「おはよう、ございます……セレネ」
挨拶を返すと自分でも驚くほど、声がかすれていた。無理もない、昨夜あれだけ啼かされたのだから。そのことに気づいたセレネが、くすりと笑う。
「声、枯れてますね」
「……誰のせいだと」
「ふふっ、ごめんなさい。でも嬉しいです」
全然悪びれる様子もないセレネが、身を起こして僕の額にそっと口づけた。昨夜の激しさが嘘のような、穏やかな温もりが、なんだかくすぐったかった。
「身体、大丈夫ですか?」
「正直、あんまり動きたくないです……」
「そうでしょうね。私もです」
セレネもまた少しだけぎこちない動きで身体を起こした。どうやら彼女も相当堪えているらしい。その様子がおかしくて、僕は小さく笑ってしまった。
「笑うことないじゃないですか」
「ごめんなさい。でも、なんだか嬉しくて」
「……僕もです」
セレネが僕の手を握る。昨夜と同じ温かさ、でも静かな朝の光の中で、交わす手の温もりは違う意味で僕を満たしてくれる。
「そういえば、リディア。ひとつ、気づいたことがあるんです」
「……ん? 何ですか?」
「一人称です。さっきから、ずっと『僕』になっていますよ」
言われて、僕は思わず目を瞬かせた。
「……え?」
「ふふっ。昔と同じですね」
セレネは懐かしそうに目を細めた。
「小さい頃も、ずっとそうでしたよね。私の後ろをついてきてくれたときも、一緒に遊んでいたときも。いつだって、自分のことを『僕』って呼んでいて」
「そ、そうでしたっけ……?」
「そうですよ。私、ちゃんと覚えています」
セレネは少しだけ身を寄せ、僕の顔を覗き込んだ。
「だから……なんだか、嬉しくなってしまいました。あの頃のリディアが、ここにいるみたいで」
そう言って微笑む彼女の表情は、いつもの聖女らしい落ち着いたものとは少し違っていた。懐かしい宝物を見つけた子どものように、どこか無邪気で、嬉しそうで。
「……セレネ」
「はい?」
「そんなに嬉しいんですか?」
「ええ。とっても」
セレネは、少しも迷わずに答えた。
「今のリディアも大好きです。でも、昔のあなたも、私にとっては大切な思い出ですから。こうしてふとした瞬間に戻ってくると……なんだか、あの頃に戻れたみたいで、すごく嬉しいです」
その声は、いつもより少し弾んでいた。
僕は照れくさくなって、彼女の手を握り返す。
「……セレネの前だと、つい気が緩むんです」
「ふふっ、それなら、これからもたくさん気を緩めてくださいね?」
セレネは嬉しそうに笑って、僕の手をきゅっと握った。その笑顔が朝日を受けて、きらきらと輝いている。
僕は彼女の手を握ったまま、そっと呟いた。
「……愛してます、セレネ」
「はい。私も愛してます、リディア」
まるで幼い頃の朝に戻ったような、優しい時間だった。
それから、月日は流れた。
あの後どうなったかっていえば、原作通りに魔王が現れて、世界が危機に陥った。そして、ゲームプレイヤーの分身である勇者が異世界から呼ばれて、その仲間として神殿側から覚醒したセレネと僕も一緒に戦った。ラストは覚醒したセレネの神聖力が魔王を封印して終わり。
その後、主人公は他のヒロインと結ばれて、僕はセレネの正式な伴侶として、神殿で暮らすことになった。聖女と聖騎士の関係を超えた、特別な絆。多少の問題はあったけれど、セレネが「神託だ」と言い張ったので、誰も止められなかった。
そして今——僕は、神殿の庭園でセレネと共に穏やかな午後を過ごしている。
「リディア、お茶が冷めますよ」
「あ、はい。すみません」
セレネが、微笑みながらティーカップを差し出してくる。その手つきは、以前と変わらず優雅で。けれど、その瞳には——あの日の激情が、今も静かに燃えている。
「お腹の子も、そろそろ動く頃ですね」
セレネが、僕の膨らんだお腹に手を当てる。あの日以降毎日のように愛された結果。僕は、彼女の子を身ごもった。神の力さまさまというか神聖力の力で、女性の身体でも子供を宿すことができるらしい
「そうですね。最近、よく動くんです」
「ふふっ。元気な子みたい」
セレネが、僕のお腹に顔を寄せる。その姿は、聖女としての威厳とはかけ離れていたけど、僕はその姿が一番好きだった。
「リディア」
「はい?」
「幸せ?」
セレネが、上目遣いに僕を見る。その瞳は、あの日と同じ翡翠の色。そこにあるのは——深い愛と、確かな幸福。
「はい。とても」
僕は、心からそう答えた。あの日、僕はセレネを曇らせようとした。彼女の絶望が、世界を救う鍵だと思っていたから。でも本当のハッピーエンドは、そんなものじゃなかった。
僕は、セレネの手を握る。温かい。この温もりを、僕は何度も失おうとした。でももう、離さない。
「リディア」
セレネが、僕の名前を呼ぶ。その声は限りなく優しくて、愛おしい。
「私の幸せは、あなたよ。あなたが生きて笑って、私のそばにいてくれること。それだけが、私の幸せ」
「セレネ……」
「だから。もう、どこにも行かないで」
「はい。約束します」
僕は、セレネを抱きしめた。お腹の子供が、二人の間に挟まれて小さく動く。その感覚が、愛おしくてたまらない。
——ああ、これが、ハッピーエンドなんだ。
僕は、心からそう思った。推しを曇らせたかった——けれど、その結果僕は推しに分からせられた。そして、最高の幸せを手に入れた。
「リディア、愛してる」
「僕も、愛しています。セレネ」
神殿の庭園に、穏やかな風が吹き抜ける。僕たちは、しばらくそのまま、互いの温もりを確かめ合っていた。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
今回は前後編という形になりましたが、なんとか最後まで書き切ることができました!
書いている途中は、なかなか思うように文章が繋がらなかったり、表現に悩んだりと苦労することも多かったですが、無事に完成させられてよかったです!
そして、感想・評価・UA、どれも大歓迎です!
UAが増えていると、ついつい何度も確認してしまうんですよね(=´∀`)
さて、次回作があるかどうかは……皆様の反応と、私の気分次第ということで!( ´꒳` )
それでは、またどこかでお会いできたら嬉しいです!