「……なあ械遊君。フレアタウンとアクアタウン。どっちの方が悪いと思う?」
「なんだ急に」
監獄最寄りのサービスエリアのフードコート。
械遊と紅嵐は、通常はここで集まることにしたのか、食べ物を持ち込んで話している。
ただし、械遊はえりなをはじめとした料理人たちが作ったもので、紅嵐は店で買った物である。
「いやー。まあ、アリの巣は『こういう場所』だから、基本的には悪い事しか起こらない。だけどさ、それにも程度の差はあるわけ。で、どっちの方が救いようがないのかって、思ったわけさ」
「……全体の話にしようとしているが、実際はそうではないな。フレアタウンとアクアタウンがぶつかる際の代表戦。おそらく選ばれるであろう『獄夜叉』と『九重殿』のどっちが悪いかって話だろ?」
「械遊君の勘の良さにはあきれてものも言えねえな」
紅嵐は溜息をついた。
「そうだよ。この二つが……いや、九重殿のトップである九重亮真が調子に乗るまで、苦痛を伴う拷問がここまで盛況になることはなかった」
「みたいだな。俺も調べてみたが、強姦やらレイプやら、そういう意味で尊厳を無視している場合は多いが、『苦痛』とまではいかないものだ」
「九重亮真は清水教の諜報部の中でも上位だ。コイツがあちこちに拷問を広めた。で、そして沸き上がった拷問を聞きつけては、正義を振りかして全てを奪う」
「ふむ、悪の程度はともかく、元凶は九重亮真なのか」
「ああ」
紅嵐は頷いた。
「おそらく、代表戦に出てくるのは、アクアタウンからは九重亮真だ。そのための戦力を揃えてるところだろうな」
「俺にも接触してきたな。従業員と愛智を保護するとか言ってたが……アレは、厳選された従業員を使って、さらにスタビスを集めるためか」
「だろうな。六大私有地なら、スレイブヒロインすら買えるし、モールの方に出回らない強力なカードも揃ってる。それらを買うための『事業』に使うのがわかりやすい」
「……で、獄夜叉からは誰が出るんだ?」
「まだ決まってないな。まあ、誰も責任は取りたくねえさ」
「……」
械遊は一度目を閉じて考える。
が、ある程度答えは決まっていたのか、すぐに目を開いた。
「どちらが悪いか。というより、九重亮真と、拷問事業に関わる獄夜叉の一部をまとめて潰すことができれば最善か」
「……最善ではあるな」
反応するのに少し時間があった紅嵐。
どうやら、今回の問題の根本に関して、彼もつかみ切れていない情報があったようだ。
しかし、械遊が言った『九重亮真』と『獄夜叉の一部』を排除する。ということに強く納得した様子。
「少なくとも、それで拷問事業はなくなるはずだ。というより……白石朋夏。アイツが書いた企画書が九重殿に保管されてる」
「白石朋夏……か。アイツの遺産もなかなか強烈だな」
械遊は溜息をつく。
そして、弁当を食べ終わり、蓋を閉じて袋に入れた。
「やはりここにいたのか」
「「!」」
二人に話しかけたのは、四十代半ばの男性。
黒髪をオールバックにした男性で……見覚えのある二人を連れている。
「雰囲気が全然違うな。上杉と下崎」
「え、あの二人、アレか!」
男性の後ろについてきている二人組。
爽やかな髪形にセットした上杉と下崎は、以前あった時とはまるで違う。
「部下が世話になったな。私は綴昭道……獄夜叉のモール管轄部長を務めている」
「!」
紅嵐の警戒レベルが最大まで上がったようだ。
だが、械遊の表情は変わらない。
「……場所を変えよう。監獄の出入り口に応接室がある。そこならプロテクトも十分だ」
「助かる。そこには私だけで入ろう。上杉。下崎。お前たちは周囲の警戒をしておけ」
「「はいっ!」」
★
プロパティ・プリズンは、械遊が全権を握る中規模私有地であり、械遊が許可を出さなければ誰も入ることはできない。
ちなみに、アリの巣にはまだまだ拷問や実験の被害にあっている従業員はたくさんいるが、何らかの要因で監獄に侵入できる場合であっても不可である。
『体の中に何を仕込まれているかわからない人間』を入れるような無謀を晒すことに百害あって一利なしであり、それは監獄の外で活動する関係者である愛智と由香にも強く命令している。
ただし、全エリアが本当には入れないとなると不便であることも事実。
そのため、出入り口から近い少しだけのスペースに、械遊が求める隔離処置が施された応接室がある。
その応接室で、械遊、紅嵐、昭道の三人がソファに座った。
なお、監視カメラがあり、愛智と由香……そして一部の興味がある面々は見ていることだろう。
「……さて、六車械遊君。君に頼みたいことがある」
「フレアタウンに入って、獄夜叉の一部を潰してほしい。そこまでの直通ルートは用意する。そんなところか?」
「……なるほど、直感が優れているという調査は間違っていないらしい」
監獄側が用意したコーヒーに口をつけつつ、昭道は苦笑した。
「君たちはまだつかめていないだろうが、九重亮真が持っている権力は相当なレベルだ。そんな人間が、フレアタウン七大ギルド筆頭、『炭の世界』のナンバーツー。荻野天山と組んでいる」
「荻野天山……荻野宝吾の父親か。ちなみに、七大ギルド筆頭っていうのは、そのトップはブラックランクか?」
「いや、アレはもはや一つの『政府』といって過言ではなく、我々とは違う枠組みになる」
「なるほど……」
「荻野宝吾は先日、獄夜叉を追放された。その影響で、荻野天山が獄夜叉にきてアレコレ口を出すことだろう」
「……もしかして、俺にその荻野天山を潰してほ――いや、ちょっと情報を整理するか」
械遊はこめかみをグリグリと弄る。
紅嵐がため息をついた。
「『拷問派』と呼ぼうぜ。この派閥のトップは九重亮真で、ナンバーツーが荻野天山。正義を振りかざす正当性を得るためにあちこちで悪のタネを蒔きたい九重亮真に、何かの取引で荻野天山が協力している。で、九重殿は炭の世界とほぼ同等だ」
要するに、と続ける。
「アクアタウンとフレアタウン。双方の『最上級ギルド筆頭の幹部』が組んで、拷問派を結成。白石朋夏っていう嬉しい誤算がありつつも、勢力を拡大してきたってことだ。フレアタウン側で抱えてるスタビスやスレイブヒロインの数は相当なものだろう」
「ふーむ……」
「で、代表戦の話が出てくるってことは、『これ以上は抱えきれないから、一気に刈り取れる部分を刈り取るつもり』ってことだ」
「抱えきれない?」
「まあ、どんな組織であっても、抱えられる人数は決まってるってことだ。アイツらなりに何か基準があって、そろそろそれを超えそうだから、代表戦という形で九重亮真が勝つことで、一気にフレアタウンの財産を九重亮真のものにしようってことなんだろう」
「それで……なんだ? 『
「大体そんな感じだろ」
おそらく、拷問派そのものは代表戦で亮真があらかじめ勝つことが決まっているので解散される。
ただし、そこでフレアタウンから得た財産を使い、更なる拷問ショーでも開くのだろう。
「若いながらも賢い。ここまで弾むように話が進むなど、獄夜叉では考えられん……フフッ」
昭道は微笑んだ。
「で、獄夜叉がその代表戦にでるオーナーを選ぶから、誰にするのかを荻野天山が命令しに来る。そこで倒して勢力が揺らいだところを、九重殿に踏み込んで潰せってことか」
「そうだ」
「俺のデュエルセンスをどう思ってるのかはともかく、作戦の懸念点が二つ」
「聞こう」
「俺が獄夜叉に乗り込んできた荻野天山に勝ったとして、それで倒せたことになるのか? その時に持ってる物を奪った程度で、七大ギルド筆頭のナンバーツーを崩せるとは思えないけど」
「その疑問は当然か。もちろん……君が使うリクエストディスクを、私が用意する」
「……そうか」
「リクエストディスクを用意って……マジで言ってんのか?」
頬が引きつる紅嵐。
どうやら、リクエストディスクを用意することは、彼としても『相当なレベル』らしい。
「もう一つは?」
「九重殿に踏み込んでリクエストディスクを使って九重亮真を倒すってことだと思うけど、そこまでの直通ルートは用意できないだろ。道中で誰かがデュエルを挑んできて、遅延行為されてる間に逃げられて終わりだ」
「なかなか見えている。が、その心配はない。荻野天山の財産を君が手に入れたとき、九重亮真の方が、君を逃がすことができなくなる。他の誰かが君に勝ってしまう可能性を考えれば、居ても立っても居られないはず」
「なるほど、向こうから寄ってくると」
「そう。そこでリクエストディスクを使えばいい。それで……拷問派の全権を握る九重亮真からすべてを奪えば、拷問派は壊滅だ。その際に手に入った女は、君が持てばいい」
「……はぁ」
械遊は溜息をついた。
「どうした械遊」
「いや……なんだろうな。俺、アリの巣に入ってから、やってることが変わらない気がする」
特に引っかかったのは、昭道が言った『全権を握る九重亮真からすべてを奪う』という点。
今、械遊たちが使っている監獄も、ホワイトシティの『全権を握る荻野宝吾から奪う』という経緯で手に入れたものだ。
使う道具やらルートやら、いろいろな差異はあるが、基本的にすることは変わらない。
「君のような、ギルドに属さない強者というのはそういうものだ。遊撃で動いて、ぽっと現れては全てを奪う。アリの巣は、そういうものなのだよ」
「終わってるな……」
「だからこそ、どこかで流れを絶つ必要がある。それが今だと思わないかね?」
「……」
「もちろん、報酬も用意しよう」
まっすぐに械遊を見る昭道の眼をまっすぐに見返す。
「ま、とりあえず乗ってやるさ」
「そうか、ならば、最終試験と行こうか」
昭道はデュエルディスクを取り出す。
「デュエルディスクは初期設定ではお互いに使ったコアカードが奪われるが、同意を得ればアンティなしのデュエルも可能だ」
「……オールインが同意なしでも可能。アンティなしに同意が必要か。ふざけたルールだと思うよ」
★
一応は、『手を組む』と言って差し支えない。
しかし、別に械遊は昭道に背中を見せるわけではない。
応接室の隣に設けられたスペースで、械遊と昭道はデュエルディスクを構えている。
その部屋の隅では、紅嵐と……モニタールームから出てきた愛智と由香が観戦している。
「……フレアタウン七大ギルドの最高幹部の一人。どの程度の実力なのかしら」
「私も想定できませんね」
由香の呟きに返す愛智だが、正直、そもそもフレアタウンそのものが彼女たちに踏み込める場所ではない。
「……まっ、凄いっていうか、わけのわからんデュエルが見られるだろうさ」
プラチナランクにして情報収集家である紅嵐は、そうつぶやいた。
「さて、始めようか。作戦を提示しておいてなんだが……私くらいは超えてもらわないと、話にならないのでね」
「好きに言ってろ」
お互いにデュエルディスクからカードを5枚ドロー。
「「デュエル!」」
械遊 LP4000
昭道 LP4000
「先攻は……俺か」
械遊のデュエルディスクにターンランプがついている。
「ランクが上のオーナーが先攻かどうかを決められるが、ランダムも可能でね」
「なるほど、なら、始めさせてもらうか」
「その前に」
「ん?」
「私はエクストラデッキから、『デストーイ・ルナティック・バーンベア』を墓地に送り、効果発動。相手のライフを0にする」
「チェーンブロックは……作らないみたいだな。俺のライフがカード効果で変動する際、エクストラデッキから『SH・錦木千束』を墓地に送り効果発動。その効果を無効にする」
「ふむ……続けたまえ」
一瞬の攻防。
デュエル開始とともに、地面から姿を現した熊は、千束が放った銃弾で急所を砕かれ、バラバラになった。
「い、いきなり、ライフを0にするカード!?」
「それに対応できる械遊様も流石ですね」
「……」
驚く由香。頷く愛智。無言の紅嵐。
三者三様だが、デュエルは続く。
「さらに、エクストラデッキから『ホワイト・ワールド・ルーラー』を墓地に送り、無効効果から守る。さて……出てこい。『ゴールド・ガジェット』を召喚、『シルバー・ガジェット』と『グリーン・ガジェット』を特殊召喚だ。レッドを手札に」
ゴールド・ガジェット ATK1700 ☆4
シルバー・ガジェット ATK1500 ☆4
グリーン・ガジェット ATK1400 ☆4
「現れろ、全てが集うサーキット! 召喚条件は、ガジェット2体以上、俺はフィールドのグリーンと、手札にレッドとイエローを、リンクマーカーにセット。リンク召喚。『シグナル・ガジェット』!」
シグナル・ガジェット ATK2300 LINK3
「ふむ……」
「こいつは三色ガジェットを手札からでも素材にできる。そして、リンク召喚に成功したことで効果発動。リンク素材に使った三色ガジェット1体につき1枚ドローだ。俺は3枚ドロー」
カードを引く。
「次に、ゴールドとシルバーでオーバーレイ! エクシーズ召喚、ランク4『SH・薙切えりな』」
SH・薙切えりな ATK2000 ★4
フィールドに、弧月を構えたえりなが出現。
「ふむ、スレイブヒロインが二体目」
「えりなの特殊召喚成功時、エクシーズ素材を1つ使って効果発動。デッキからカードを2枚ドローだ」
カードを2枚ドローし、これで、械遊の手札は6枚。
「もう初期手札を超えますか」
「これくらい、やろうと思えば普通だろ」
「ええ、そうですね」
「続けるぞ。俺は手札から速攻魔法、『RUM-フェニックス・フォース』を発動。自分フィールドのエクシーズモンスターを素材に、ランクが1つ高い、テキストにパイロ・フェニックスが記されたモンスターをエクシーズ召喚する!」
「パイロ・フェニックス……なるほど」
「俺はえりなで、オーバーレイネットワークを再構築! フェニックス・エクシーズ・チェンジ! ランク5『SH・
SH・
出現したのは、赤いコックコートを身に纏うえりな。
通常、厨房服は白だが、これは汚れが目立ちやすい色のため、清潔感を表しやすいためである。
ただし、この厨房服はそもそも汚れが付かないので、ならば赤色でも問題なかろうということだ。少なくともえりなは千手丸からそう言われた様子。
ちなみに、弧月を握るのはこちらでも変わらない。
「……ふむ」
「『SH・薙切えりな』を素材にエクシーズ召喚成功時、デッキからテキストにパイロ・フェニックスと記されたカードを手札に加える、俺は速攻魔法『
残る手札は2枚。
しかし、場にはセットカードが4枚で、彼にとって都合のいい布陣でモンスターが存在する。
彼に先攻の動きとして、ひとまず隙はない。
「……私のターン。ドロー」
昭道はカードをドロー。
「私も『ホワイト・ワールド・ルーラー』を使い、無効効果から守ろう。そして魔法カード『魔玩具補綴』を発動。デッキから『融合』と『エッジインプ・シザー』を手札に」
「……」
「さらに、手札の『ファーニマル・ベア』を墓地に送り、デッキから『トイポット』をセット。そして発動する」
フィールドにガチャポンが出現。
「魔法カード、『融合』を発動。手札のエッジインプ・シザーと、『ファーニマル・ドルフィン』で融合。召喚条件は任意のモンスター2体。『SH・大星林檎』を融合召喚」
SH・大星林檎 DEF3000 ☆6
出現したのは、バックパックを背負い、万能手袋をつけている大星林檎だ。
「ドルフィンの効果で融合をデッキに戻す。さらに大星林檎が存在するとき、『手札一枚をデッキの一番上に戻す』コストは、『デッキの任意のカードを一番上に置く』に変更される」
「なぬ……」
「私はデッキの『ファーニマル・ライオン』をデッキトップに置き、墓地の『エッジインプ・シザー』を特殊召喚」
エッジインプ・シザー ATK1200 ☆3
「さらに、トイポットの効果。手札を1枚捨ててドロー。ファーニマル・ライオンで確定。手札からモンスター1体を特殊召喚できる。私が特殊召喚するのは……『デストーイ・チャリオット』です」
デストーイ・チャリオット ATK3000 ☆8
「!」
「続けて、ファーニマル・ライオンの効果。ドローでこのカードが手札に加わった場合、このカードを含め、手札とフィールドから素材を墓地に送り、融合召喚を行える。この際、デッキから2体まで選ぶことが可能」
「このタイミングでデッキ融合か」
「私はファーニマル・ライオン、そしてデッキの『エッジインプ・サーベル』と『エッジインプ・アックス』を墓地に送り、融合召喚」
三体のモンスターが混ざり合う。
「現れろ。レベル9『デストーイ・ミキサー・ライオン』」
デストーイ・ミキサー・ライオン ATK3500 ☆9
出現したのは、ライオンのぬいぐるみから刃物が飛び出したようなモンスター。
特に口の中には鋭い刃物が密集しており、殺傷力の高さが見える。
「デストーイ・ミキサー・ライオンの効果。1ターンに1度、自分フィールドのエッジインプを装備できる。私はエッジインプ・シザーを装備させる」
「……」
「さらに、デストーイ・チャリオットの効果、自分の墓地からエッジインプを2体まで、自分フィールドのデストーイ融合モンスターに装備できる。私は『デストーイ・サーベル』と『デストーイ・アックス』を装備」
次々とカードを使う昭道。
ただ、械遊には、まだ何を狙っているのかがわからない。
「そして、デストーイ・チャリオットの効果、自分フィールドの、このターン効果を発動したトイポットを墓地に送り、デッキから『融合』を可能な限り手札に加える」
3枚の『融合』が手札に加わった。
「ここから連続融合ってわけか」
「その通り、墓地に送ったトイポットの効果で、デッキから『ファーニマル・マテリアル』を手札に……このカードは、融合素材として墓地に送られた場合、何度でも手札に加えられるモンスターです。さらに、融合素材にする場合、好きなファーニマルとして扱える」
「『パッチワーク・ファーニマル』が草葉の陰で泣いてるぞ」
「まあそう言わずに……手札から『融合』を発動。手札のファーニマル・マテリアルを墓地に送り、さらにデストーイ・アックスを素材指定し、融合召喚。『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK2200 ☆8
出現したイカ。
ただし……デストーイ・ミキサー・ライオンに装備されたエッジインプ・アックスは、装備されたままだ。
「何が起こってる?」
「エッジインプ・アックスとエッジインプ・サーベルが、デストーイ融合モンスターの素材になる場合、素材に使うことができ……そして、墓地に送る必要はない」
昭道の説明に由香は表情を変える。
「ゆ、融合召喚なのに、素材を墓地に送る必要がない!? 一体どういう理屈よ」
「まあ、この程度なら可愛いものです。さらに融合を二枚使い……さらに、デストーイ・ハーケン・クラーケンを2体。融合召喚」
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK2200 ☆8
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK2200 ☆8
次々と出現するハーケン・クラーケン。
まだ見ぬデストーイがいくらでもいるはずだが、昭道なりの何か狙いがあるのだろう。
「あんなにハーケン・クラーケンを……どういうデッキなのかしら」
「……まっ、試験って言ってたし、ハーケン・クラーケンの連続展開を凌ぐような種類の実力が必要ってことなんでしょ」
「それって……」
「荻野天山が使うカードは俺も知らんよ? ただ、昭道まで知らないとは思えないし、おそらく一番近いカードがハーケン・クラーケンなのさ」
何はともあれ、昭道の場には六体のモンスターがいる。
ここからどうするかだ。
「ハーケン・クラーケン1体目の効果を発動。対象は薙切えりなです。墓地に送りましょう」
「速攻魔法、『転生炎獣の炎鎖』を、テキストにパイロ・フェニックスが記されたモンスターであるえりなを対象に発動。このカードは発動後装備カードになり、えりなは相手のカード効果を受け付けない」
あちこちから鎖が出現し、赤いコックコートを着たえりなに巻き付いた。
足や腕を左右に引っ張るように開かせて拘束していく。
……それを見た愛智と由香がブルっと体を震わせたが、紅嵐は指摘しなかった。
「なるほど、では2体目のハーケン・クラーケンで……」
「残念だが、今はえりなしかアンタは対象に取れない」
「……それは仕方がない。ならば、デストーイ・ミキサー・ライオンの効果発動。このカードがエッジインプを3枚以上装備している場合、相手モンスターを破壊し、そのモンスターの攻撃力の倍のダメージを与える。これは対象に取りません」
狙いはシグナル・ガジェットだろう。
「罠カード『マグネット・フォース』だ。これで、シグナル・ガジェットは相手モンスターの効果を受けない」
「これだから機械族は……私はデストーイ・チャリオットの効果を発動。自分フィールドのデストーイかエッジインプを1枚墓地に送り、相手フィールドの魔法、罠を全て破壊し、破壊した数一枚につき1500ポイントのダメージを与える」
ハーケン・クラーケンが一体消えた。
「永続罠『
「さすがに硬い……ならば、バトルフェイズ。デストーイ・ミキサー・ライオンの永続効果により、バトルフェイズ中、自身以外の自分フィールドのモンスターの元々の攻撃力分、攻撃力が上昇する」
デストーイ・ミキサー・ライオン ATK3500→12900
「攻撃力12900……大星林檎の攻撃力は2000か」
「デストーイ・ミキサー・ライオンの永続効果により、バトルフェイズ中。相手は効果を発動できない」
「……なるほど」
「マズい。このままだと、リンク召喚で逃げられない」
愛智が気が付いた。
えりなもまた、パイロ・フェニックスにつながるリンク召喚をフリーチェーンで行えることだろう。
だが、もうバトルフェイズに入っており、逃げられない。
「デストーイ・ミキサー・ライオンで、薙切えりなを攻撃。これを防げますか?」
「もちろんだ。速攻魔法『
「何故発動できる」
「予想してみ?」
「……『発動できないを無視する』といったところか」
「その通りだ。このカードと、このカードの効果で特殊召喚されたモンスターは、相手のカードによる『発動できない』を無視できる」
上空にサーキットが出現。
「召喚条件は、炎属性2体以上、俺はえりなとシグナル・ガジェットを、リンクマーカーにセット。転生リンク召喚! リンク4『転生炎獣パイロ・フェニックス』!」
転生炎獣パイロ・フェニックス ATK2800 LINK4
出現するパイロ・フェニックス。
それを見た昭道は顔をしかめた。
「転生リンク召喚。ですか」
「そうだ。そして転生効果発動。相手フィールドのカードを、全て破壊する!」
「残念だが、デストーイ・チャリオットの効果により、エッジインプを3体以上装備しているデストーイが存在する場合、自分フィールドのカードは破壊されない」
「残念だが、えりなによって付与された効果により、『破壊されない』は適用されない!」
「な、なんだと! なんと傲慢な……」
発動できない。
破壊されない。
どちらも適用されていれば、やりたいことを通せない。
しかし、アリの巣という環境を学び、そして遠慮する必要がないと理解した械遊に、もうこれまでの常識は通用しない。
「やれ、パイロ・フェニックス!」
パイロ・フェニックスが全身に炎を纏い、昭道のフィールドに突撃する。
「ぐっ……くそっ!」
「まあ本来なら、装備状態だった『転生炎獣の炎鎖』が墓地に送られた時に、炎鎖と獄鎖は効果があるんだが、そっちは使えないからな……というわけで、どうする?」
「……」
昭道は自身の手札を見る。
そして、ふっと微笑んだ。
「合格です」
昭道 LP4000→0(Surrender)
昭道の降参によってデュエルが終了。
アンティなしなのでカードの移動もなく、パイロ・フェニックスがフィールドから消えていった。
「プラチナランク。しかも七大ギルドの最高幹部を相手に勝利」
「いや、多分、本来の実力はこんなもんじゃないね」
感激している様子の愛智に対して、紅嵐は冷静だ。
「試験。このデュエルは何処までも試験だ。多分、荻野天山に勝つだけなら、昭道さん。アンタも可能でしょ? ただ、アンタにできるのはそこまでだ。アンタには、械遊君ほどの『直感』がない。理屈も論理も必要とせず、ただ『正解を選ぶ』なんてことはできない。だから械遊君を巻き込みたいわけだ。違う?」
「その通り」
紅嵐の指摘に、昭道は頷いた。
「正確に言えば、本当に勝てるかどうかは別だが、少なくとも負けると思いながらデュエルするつもりはない。といったレベルだがね」
「ま、そんなもんだよね」
紅嵐は溜息をついた。
とはいえ、こんなところで、最高幹部の全力が見られるとは思っていない。
紅嵐だって出さないだろうし、械遊に関してもそう。
三人とも、これから少しの間、協力関係であることは間違いない。
しかし……それは背中を見せる理由にはならない。
絶対に。
次話は閑話で機械姦かなぁ。と思ってます。