アナル開発が8割、精飲絶頂が1割、残りが純愛らしき話です。
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凛世があのお方に不浄の穴を捧げたのは、本意と言えば本意でしたし、不本意といえば不本意でした。
……信じがたいでしょうか?
そうやって昔のことを思い出していると、わたくしの心持ちまでが、夢想や、期待や、それらに少し足りないぐらいの焦燥を抱えていたあの頃に還っていくようです。今となっては、自分のことを指して「凛世」とはなかなか呼べません。まるで童謡ではありませんか。もう、あのお方に促されたときに、そう呼ぶぐらいでしょうか。
しかし昔語りですから、あの頃のように凛世と自称させていただきます。あの頃の心持ちを、もっと鮮明に蘇らせる寄処(よすが)ともなりましょう。
あのお方と初めて相まみえたとき、凛世の年の頃は十六でした。自分のことを指して「凛世」と称していたことからも察せられるでしょうが、いささか……いえ、だいぶ浮世離れしていた小娘でありました。浮世離れ具合は、凛世自身も当時から薄々感づいてはおりましたが、あえて改めませんでした。
凛世は、鳥取の呉服屋を営む杜野家の次女として生まれ育ちました。古きを良しとする家柄で、先祖は伯耆の倭文部(しとりべ)と言い伝えていました。幼少より、出歩いて外を見聞する機会は少なく、家を出る時も多くは日本舞踊や、華道や、茶道などのお稽古ごとでした。芸道は、家に江戸時代からご愛顧いただいておりますお得意様の縁があり、親身に面倒を見ていただいておりました。凛世の見ていた世間は、そのようなものと、小説や漫画で読んだものが主でした。それゆえ流行りの話題に疎く、学校でも友人は少ないほうであったと思います。
当時の凛世は、少女にありがちなことですが、いかに自分を大人びて見せるかに心血を注いでおりました。凛世は生まれてこの方どこへ行っても年少者でした。まずお稽古ごとの場面では、ほぼ常に凛世が最年少で、みなみなさまから娘のように可愛がっていただきました。その上、凛世は年齢に対して童顔で体躯も小さく、おまけに世間知らずでしたから、学校では同年のはずの級友からもどこか妹のように見られ扱われていました。それに反撥する気持ちもあって、年配者の真似をして紬や御召などの和服を……それもあえて古風な意匠を選んで普段着にしていました。頭の中も年配にしようと、図書館の閉架書庫で、日焼けしてかすかに甘い匂いを漂わせているような古い本や雑誌を借りて読み耽りました。懐古趣味にさらに磨きをかけ、浮世離れもどんどん進んでいきました。後年、当時の凛世について両親は「さすがに『古きを良し』と教え込みすぎたかもしれないと思った」と申しておりました。
そんな十六の頃の凛世は、偶然に、ある殿方から大恩をこうむることとなりました。それがあのお方との出会いでございます。また語る機会もございましょうから、くだくだしく述べません。
少なくとも凛世は、その時からすでに一生を懸けてあのお方に恩に報いる心づもりでありました。そう思った理由は、もちろんあのお方の御徳の深さが第一でありますが、そこまで思いつめたのは、凛世の偏った情操にも在ったのではないかと存じます。
凛世が愛読していた旧(ふる)い風俗を描く本では、概して人々は義理堅く、恩を余りあるほど返すものでした。甚だしき例では、大阪夏の陣で真田家の陣中にいた原郷左衛門という武士が、会敵直前に若殿の真田信吉から煙草を一服わけてもらったのを意気に感じて、奮戦の末に落命し、「討死する手本」とまで記されておりました。
今思えば、そういった特別な方々が現在まで語り継がれているだけで、別に古人がみなそういった心根を持っていたわけではない……とわかるのですが、あの頃の凛世は背伸びが昂じ、懐古趣味の深みにはまっておりました。古いものこそ不朽だとみなしていました。犬の三日飼えば三年恩を忘れず……とあれば、そうあれかし、と心に決めておりました。
当時のあのお方は、勤めを始めてから間もなく、凛世の実家から電車で2つ離れた駅の近くで部屋を借りて独居しておりました。凛世はあのお方を説き伏せてその部屋を教えていただき、その次の日から、学校が終わると、いそいそとその部屋へ赴いて、料理や掃除や繕い物をするなど、押しかけ女房か通い妻の真似を始めました。
それはとても新鮮な体験でした。凛世は、家でもかねてより義理は重んじるよう教えられていましたが、あまり大切に育てられていたせいか、いつも何かをやってもらってばかりで、自分が奉仕できる場面は乏しかったのです。あのお方は一人暮らしに不慣れでありましたので、凛世ごときの家事の手前でも、あのお方のお役に立つこと、またお役に立てているのを実感することができました。あのお方が勤め人で凛世が高校生でしたから、世間並みの逢瀬がしにくかったので、そのぶんの思いの丈が家事に向いていた、という気もします。
そうして、偶然に出会い、出会った時分のあのお方と凛世の境遇がうまく噛み合って、凛世はあのお方と親しくさせていただくようになりました。凛世はそれを運命の出会いだと確信して、恋をしておりました。あのお方もまんざらでもない様子でした。凛世へ向けてくださる目や物腰は、恋するというより慈しむという色合いでしたが……。
※
あのお方は、その折の凛世からは大人に見えましたが、今のわたくしよりも年下な若い殿方でした。若気の至りがあってもおかしくありません。いくら恩人とはいえ、男性が一人暮らしをしている部屋に、凛世はよくも平然と通い詰めていたものです。あのお方であったからこそ、身を持ち崩さずに済んだものを……。
とはいえあのお方も木石ではございません。やわ肌のあつき血汐に触れたい……という心を起こしたのでしょう。ある日曜日の夕方、凛世が台所にたって煮物の灰汁を掬っているとき、あの方は後ろから凛世の肩を抱いて挑みかかってきました。
凛世はひどく動揺しました。あのお方に一生ついていく、と心に決めてはいたものの、思慮が浅はかで、実際にどう行動していくかまで考えが至っていなかったのです。あのお方が凛世に何を望んでいるか、知識はあっても覚悟はありませんでした。また杜野の家も、凛世があのお方に懸想しているのをよく思っておりませんでした。
そんな凛世の心許なさが肌から伝わったのか、あのお方は凛世の服をはだけさせもせずに――後にあのお方は「着物の脱がせ方がわからなかった」と凛世におっしゃいましたが、わたくしには方便に聞こえます――抱いたまま、凛世の震えが収まって、口が聞けるようになるまで待ってくださいました。
凛世はそれに甘えて「結婚するまでは、凛世が純潔を捧げるのを待って欲しい」と申し述べました。家でそう教えられていたとおりでした。本心でその家訓に従うべきと信じていた……というより、凛世の覚悟のなさを取り繕うのに都合の良い名分だったので、凛世はそう口にしました。卑怯、滑稽でございます。凛世自身でさえそういった疚しさを覚えました。
あのお方は、凛世の言い分を反芻するように深く息を吸ったり吐いたりして、それが凛世のうなじをくすぐっていました。そのくすぐったさは、頭から背筋を通って足腰まで凛世を占領し、くすぐったさでこの身体が埋め尽くされ崩れ去ってしまうのでは……と慄いたこと、そんな凛世をつなぎとめてくださっているあのお方の抱擁がたいそう頼もしかったことを、よく覚えています。
あのお方が深呼吸していたのは、心の準備であったのでしょうか。やがて、凛世の耳に、穏やかに重々しくささやきかけます。処女の代わりに、お尻の穴であれば受け入れてもらえるだろうか?――といった言葉でした。凛世は度肝を抜かれました。
その日の空が、茜からスミレに塗り替わるころ、凛世は雲を踏むような足取りで家まで帰り着きました。あのお方は凛世の答えを急かしませんでした。それどころか、凛世を家の近くまで送ってくださいました。不思議な心持ちでした。あのお方から交合を求められたとき、凛世は激しく動揺していたはずなのですが、その動揺も度肝とともにどこかへ失せていて、変わりに浮ついた熱が満たして、それはできの悪い給仕が運ぶ飲み物のように、歩くたび肌や髪から溢れてしまっていました。
けっきょく、凛世は改めてあのお方の部屋の戸を叩き、不浄の穴を捧げることに同意します。お尻を淫らな行為に供する……あのお方が口にするまで、凛世は毛ほども考えていませんでした。聞いた瞬間、穢らわしく忌まわしいことだと思いました。その意味では、不浄の穴を捧げたのは不本意でした。一方、まったく逆に、絶対にあのお方に応えたいと願うところもありました。その願いの根本は『凛世は、あのお方の望みを叶えて恩に報いるのが幸せ』という真心一つだけだった……と言えれば格好がつくのですが、凛世はそこまで純粋ではありませんでした。
先に申し上げたとおり、凛世は自分を大人びて見せたいと切望しておりました。そこに、大人の殿方であるあのお方から、凛世は情欲を向けるに値する女だ……と行動で示していただいた事実が、凛世を昂ぶらせてたまらなかったのです。あのお方のそばにいるときだけでなく、学校や夜の閨で、ふとあのお方のことを思い浮かべるたびに、凛世はじわじわと湧き上がる昂奮に酔い痴れました。世の夫婦は交合がうまくいかなくて離縁してしまうこともある……と聞いて、それ以前の凛世はいまいち腑に落ちなかったのですが、この昂奮を一度味わってから失ったとなれば、祝言の契りといえど揺らいでしまう……と納得したぐらいです。
あとは、単に……あのお方が先に譲歩されたので、さらに凛世が突っぱねてしまうのは……と胸が痛んだのも確かです。あのお方は、凛世にそう後ろめたがらせることを知っていて、あえてあの日曜日の夕方に凛世の返事を急かさなかったのでしょう。いかにも年の功です。
年の功といえば、凛世が不浄の……あのお方からは「尻穴」と呼ぶよう躾けられておりますので、ここからはそう呼びますが……凛世が尻穴を捧げると誓ってからも、性急に尻穴をむさぼる素振りさえ見せませんでした。無理せずに、少しずつ、丁寧に。そうなんべんも言い聞かされました。
尻穴の躾けは、むしろ躾けを受ける凛世のほうが急いていました。江木欣々の『女閨訓』では、女が尻穴で男根を受け入れる際、肛門を直接男が舐めて唾液で充分に濡らしつつ、人差し指を挿入して馴らすように……のようなことが書かれていました。しかし大正三美人と称された江木の指南も、あのお方に言わせれば「もう少し慎重でも良い」という風でした。
あのお方は床に凛世を四つん這いにさせると、凛世が肘と膝を突いている点に敷物を、敷物の間に丸めた布団を挟み込んで凛世の支えとしてくださいました。凛世はそれらに身をもたせ掛けながら、学校の制服のスカートをたくしあげ、下着を引き下ろし、あのお方にお尻のふくらみと尻穴を向けました。直前にお手洗いのウォシュレットで水洗いしていたのに、しっかり水気をとっていなかったので――紙のかすが残っていたら困る、というほうに意識がそれていました――肛門のシワのあたりが冷や冷やしていました。すぐ「きれいだ」とあのお方は褒めてくださいましたが、それがお世辞か本心かすら凛世には推測できません。羞恥が烈火のごとく凛世を苛み、油断すると叫びながらのたうち回ってしまいそうで、ただそこにいるだけで必死でした。それに、凛世の尻穴の具合を評した人など、あのお方以外に後にも先にもおられませんので……。
あのお方は、まず人差し指に甘ったるい匂いがかすかに凛世まで届くほどベビーオイルをたっぷりと塗ると、その指先で凛世の尻穴入り口を一周り二周りさせます。凛世は思わず力んで尻穴をすぼめてしまい、たまらず顔を床に突っ伏します。しかし、あのお方がイチジク浣腸を一つ凛世にもたせると、首をもたげ顔を上げなければなりません。自分で入れなさい、とのことです。
イチジク浣腸は、凛世が食したことのあるイチジクと形こそ似ていましたが、凛世の指で楽に包み込めるほど小さく、ほのかに温かい……という違いがありました。温かいのは、あのお方が凛世を気遣い、あらかじめ湯煎で温めてくださっていたからでしたが。グリセリンとベンザルコニウムと精製水。便秘に悩む方が薬局で買い求める種類の、ありふれた浣腸でしたが、凛世はあのお方の手からいただいたものが初体験でした。浣腸の容器を指で押しつぶし、ぶちゅうっ……という濁った響きとともに、熱いのと冷たいのがまざった奇妙な感覚が直腸を染めていきます。しかし凛世が妄想していたよりずっと浣腸液の量が少なかったので、健気なところをあのお方に見せたくて、凛世はもう一つ浣腸のノズルをねだって尻穴に差し込み、注ぎ入れます。冷熱入り交じる肛感はどんどん広がっていきますが、排便をうながすほどではない気がしました。さらに3つ目をねだろうとした凛世の手を、あのお方は「性急、無理はよくないよ」と諭すように、浣腸に変わりに自分の手を握らせてくださいました。その指を絡めた瞬間、凛世はこのお方のためなら何でもして差し上げたい、というほど舞い上がっていました。あのお方と親しく交わるようになってから、凛世は舞い上がりやすいたちが昂進してしまっているようです。
……このときの調子の良さは、すぐにへし折れてしまうのですが。
「……あ、あなた、さま……凛世は……お手洗いに、行きとう、ございます……」
便秘でもない凛世が、一気に2つのイチジク浣腸を服用してしまったのです。薬効が現れてすぐ、凛世は耐え難い便意に苦悶し、「手加減して1つでやめておけば」と後悔にむせびました。あのお方は凛世の頬や額の脂汗をぬぐってくださったあと、お手洗いへ向かう許可をくださいます。しかしどうにかこうにか便座にたどりついても、さらなる試練が待ち構えていました。
「あ……っ、扉、が……み、みないで、ください……おねがい、です……っ」
あのお方はお手洗いの扉を閉めさせず、凛世はあのお方の目前で排泄に及ばねばならない、と宣告されました。あのお方は苦悶する凛世のすぐそばに控えています。音は隠せません。匂いも届いてしまうでしょう。
「あ、ぁ、も……だめ……――ぇ……っ!」
それでいて、あのお方は凛世の片手を握ってくださったままでしたので、表情までもつぶさに観察されながら、凛世は恋しく思うあのお方のすぐそばで、女性としてもっとも大きな恥辱の底に堕ちていきました。本当に死んでしまいたいと思い、あのお方に地獄への手を引かれている錯覚を抱きました。
「ぁ……あ、ア……っ……」
白痴のようにうめく凛世に、あのお方は「気持ちよかったかい?」と問いました。実際、あの瞬間の凛世は真っ白でした。首を縦に一度だけコクリと肯かせるのがせいいっぱいで、それを見て取ったあのお方は、凛世の結髪と背中を泣きたくなるほど優しげに撫でてくださった後、ウォシュレットとウエットティッシュ(あとであのお方から「水気で破れにくいので、拭う時はなるべくこちらを使うように」とご助言をたまわりました)を用いて凛世を清めてくださいました。
イチジク浣腸を入れ終えてから、あのお方にすっかり残滓を拭われるまで、小半刻もなかったはずです。その短い時間で、凛世は尻穴の悦びを心の底へ植え付けていただきました……もっとも、凛世はしばらくこの御慈悲に気づきませんでしたが。
後に調べたことですが、殿方の場合は、肛門からある程度の深さにものを挿入すると、直腸の粘膜ごしに前立腺が刺激されて、射精と似た絶頂感を経験できると聞きます。ゆえに古来、男色で肛交は広く行われてきました。しかし婦女子に前立腺はございません。先の江木欣々女史は肛交について「次第に慣るるに従ひ、呼吸を呑み込めば痛くなくなり、のみならず我が身を却つて快く覚ゆる様になり、之を欲するに至るものなり」などと記しておりますが、尻穴で快楽を得られるのは、ある種の「才女」に限られているようです。凛世はその意味では「非才の身」ではないかと愚考します。
「お――おやめくださいっ……! 凛世は、汚うございます……っ!」
初めてあのお方の前で凛世は汚物を抜かれ、尻穴を清めていただく間ずっと放心していたのですが、あのお方は凛世を抱えあげて寝台に乗せ、凛世の制止を笑って流し、尻穴へくちづけされたのです。
「あ、ぉ」
実はそのとき、本来のくちびる同士での接吻を交わして間もない頃でしたので、一瞬だけそれと尻穴接吻を比べてしまいました。凛世の神経をつんざいた衝撃は、尻穴のそれが圧倒的でした。初めての経験でしたが、あのお方に菊座のシワを舌先でねぶられたり、尻の溝を臀部の膨らみが始まってから終るまで残らずくちびるで吸い付かれたり……といった愛撫を克明に感じてしまっていました。それを感じるたびに異様な緊張がやってきて、凛世はお尻だけでなく太腿やふくらはぎまでじたばた痙攣させてしまいます。するとあのお方は、凛世をなだめ安心させるように、手で腰や背中の下や臍下丹田のあたりを手のひらで包み込むように擦って、それで凛世は脱力します。その時もあのお方は凛世の女陰に触れないよう注意深く避けておられました。
また尻穴を刺激されると両脚を突っ張って、それであのお方の手で慰撫されて、その繰り返しで……脱力するたびに、自分の魂までも抜かれて、その空隙をあのお方の優しさや喜悦で満たされていく……凛世はそのようにして、それが凛世の幸せだと、少しずつ教えられていくのでした。
「あなたさま……凛世は……きたなく、ありませんか……?」
そう凛世が問うと、あのお方は「もう少し触らせて欲しい」と、凛世を蕩かせる指や舌の動きを重ねるのが常でした。目の前でわざと失禁を晒すなど、尋常の間柄なら、二度と口を聞いてもらえなくなるほど幻滅されるでしょう。そういった凛世の醜態でさえ、あのお方は喜んで受け入れてくださいます。そういう経験を繰り返し味わうと、凛世は……あのお方が喜んでくれるなら凛世は何があってもひとりではない、恋しい人のおそばで生きていける……と、心と身体に刷り込まれていきます。今からわたくしが冷静に考えると、さすがに「何があっても」は過言でしょうが……前に申し述べた通り、凛世の情操は偏っておりましたし、凛世の思い浮かべられる「何があっても」は限りがありましたので、凛世にとってこの時点ですでにそれは真実でございました。
そうはいっても臭いものを嗅がれるのは耐え難かったので、できる限り腸内環境に注意を払うようになりました。食物繊維は不溶性も水溶性もバランス良く……こんにゃくや海藻やキャベツを使った料理をやたらに勉強し、甘味をいただく場面で必ず寒天ものを頼むようになって家族に奇異の目で見られたのも、今は笑い話です。
あのお方は心を尽くして凛世の尻穴を愛でて馴らしてくださいましたが、その開発は非常に慎重で緩やかでした。凛世のほうが「一日でも早くあのお方の男根を受け入れて差し上げたい」と焦るほどでした。省みるに、これは凛世の短慮でした。あくまで凛世は「非才の身」であり、あのお方はそれを充分に慮ってくださっていたのです。
後年、こっそりと別の肛門性癖の方の手記などを調べてみましたところ、その「才子」「才女」のお歴々は初心者のうちから括約筋も裂けよとばかりの異物をねじ込んでいて、凛世は目眩がしたものです。
もっと尻穴の開花を早めようと、凛世はあのお方に、
「凛世自身でも……尻穴を、開くことができるでしょうか……?」
と申し出たことがありました。
1週間ほど経って、あのお方からとある器具を贈られました。器具、といっても凛世の指より細くて短いもので、知らない人は「ちょっと太い綿棒かしら」ぐらいにしか思わないものの束でした。それと刷毛つきの小瓶に入った透明な薬品も……容器のせいで、凛世は除光液を連想しました。
使い方はいたって単純で、太い綿棒もどきに薬品を芯まで浸して、凛世の尻穴に挿入します。すると時間差で薬品が滲み出して凛世の直腸に染み込みます。薬効は尻穴の性感を高めること、とのことでした。
凛世は張り切って、朝晩それを尻穴に収めて過ごしていました。綿棒もどきなので、圧迫感がない……どころか、体育の授業などでうっかりすると尻穴から脱落してしまいそうな微妙な心細さがあります。綿棒もどきは使い捨てで、もちろん小用ごとに取り替えます。その作業のたびに、凛世はあのお方のために尽くせる法悦と、不浄の穴の戯れに溺れる背徳感に浸って恍惚としていました。
背徳感といえば、それを尻穴に収めながらあちこち外出する行為も、後ろ暗い欲望を満たしてくれました。凛世やあのお方が住んでいた町は、大阪や東京ほどたくさん人々が行き交う都市ではありませんので、あのお方と連れ立ってデートのように歩くと、学校や家に妙な噂を広めてしまうおそれがありました。凛世はあのお方と腕を組んで歩く代わりに、尻穴にあのお方の贈り物を収めて、時折それをぎゅう……と抱擁しつつ、逢引の気分に浸って、地元の道を塗りつぶすように歩きました。外で親しげな男女――特に、どちらかが、あのお方や凛世の年に近い連れ――を見るたびに、凛世は嫉妬にかられていました。それを自覚すると、みじめさが凛世を捕らえる前に、その醜い感情を尻穴快楽で打ち消さんとして、綿棒もどきを直腸でこすっていました。
その行為は、今のわたくしからすれば呆れるほどねじくれていましたが、あの頃の凛世を慰めるには効果てきめんでした。
――あなたがたはたいへん親しげですが、お互いのもっとも汚穢なる部分まで受け入れ合うことができますか?
視界の端でたたずむ和服の少女が、まさかそんなことを心中で問いかけているとは、みなさま夢想だにしなかったでしょう。
それはそれとして、綿棒もどきを通して尻穴であのお方にすがるとき、凛世は確かに尻穴快楽を味わっていました。あのお方の薬品を粘膜に塗り重ねたおかげか、凛世の尻穴や直腸は、徐々に興奮と愉悦を汲み取れるよう変化していきました。日一日あのお方の望みに近づけていると思えたおかげで、あのお方のお顔が見られない日を含めて、凛世はおおむね毎日うきうきと過ごしていました。
でも……わたくしは、あの薬品は偽薬だったのではないかとも思います。ある日、凛世の友人のそそっかしい一人が、凛世の持ち歩いていた薬品を除光液と間違えて爪に塗ってしまったことがありました。凛世は血の気が引きましたが、友人は「ごめん借りちゃった! でも、マニキュアがぜんぜん落ちないよ~。そういえば匂いもしないね?」と嘆いたきりでした。
あの薬品はとうの昔に使い切ってしまったので、確かめるすべはございません。
※
凛世は神戸の大学へ進学しました。両親は、凛世が鳥取の実家を出ることを快く思いませんでしたが、凛世が大阪の親類宅の一室を間借りする、との手はずになると安心し「厚意に甘えるのだから、親戚と言えども、こまごまとしたことなど自分から手伝うこと」と言って、凛世を送り出しました。
学部は法学部を選びました。第一の理由は、両親を説得しやすかったことがありました。両親は自営業のご多分に漏れず、税務や法務で苦労しており、両親にその面で凛世が将来の助けになることを期待させました。
次に、凛世が古めかしい文章に親しんでいて、法令・判例文の読解を苦としなかったことがありました。前世紀の初めに、穂積陳重が法について『殊更に文章の荘重典雅を衒(てら)わんがために、好んで難文を草し奇語を用うる者』は暴君も同然、と喝破していたはずなのですが、現代も法令では難文奇語が幅を利かせております。
最後に、あのお方がお勤めでどこへ移られても、凛世が法務の士業でもとっておけば、全国どこでも多少の仕事はあるだろう……との打算がありました。お察しでしょうが、これが最大の都合です。
神戸という場所も……大阪から通えて、地元の目から離れてあのお方と逢瀬でき……といった下心でした。これは凛世の思い違いでした。凛世は居を大阪に移したいっぽう、あのお方が住まうのは凛世の実家から駅2つ……つまり鳥取でした。会って身を寄せ合える時間も頻度も減ってしまいました。大学時代は、あのお方との忍び逢いを心の支えとしつつ、それ以外の寂しさは勉学に打ち込んで紛らわせていました。大阪や神戸でお世話になった方々には心苦しいのですが、凛世は付き合っていてつまらぬ女子大生であったでしょう。
会える時間が減った代償のように、あのお方が凛世へ与えてくださる尻穴への躾けは、濃厚になっていきました。
「かっ……は、ぁあ゛ぁ……あなた、さま……凛世は、ぁ……ぐっ、くるしゅう……ございます……っ」
いろいろな施しをいただきましたが、凛世のお気に入りは、白玉を尻穴に飲み込むことでした。白玉といっても白玉粉は無関係の、あのお方と凛世だけの符牒です。固形石鹸か、すき焼きに使うケンネ(牛脂)か、白い脂らしきものを球状に固めたものです。あのお方は例によって浣腸や尻穴接吻を終えると、白玉を凛世の尻穴に指で押し込み、凛世はその白玉をいきんで一つ一つ直腸の中に収めます。
「ぐっ……う゛ぅうぅ……し、しりあながっ、凛世の、しりあなが……ぁ……っ」
大きさは、ビー玉やピンポン玉や……日によってまちまちでした。凛世の尻穴が拡がっていくにつれて、あのお方も大きめの白玉を用意してくださるようになります。最終的には、野球ボールほどあったか……凛世は野球をたしなみませんので、わかりかねます。
「あなたさま……そばに、いて……凛世を……褒めて、くださいますか……?」
白玉は、入れたばかりは冷やりとしていて、腸内の圧迫感と重なり、凛世に寒気を起こさせます。震える凛世を、あのお方は抱きしめたり肌を擦ったりして温めてくださいます。時間が経つと、馬や豚の脂が口中で溶けていくように、凛世の直腸で白玉は溶け出して、粗相したように脂が垂れ落ちます。
あのお方が凛世へご教示くださったところによると、尻穴は詰め込むより放(ひ)り出すほうが難しく、ぎりぎりまで詰め込むと取り出せなくなる危険がある……が、人肌で溶ける固形物であればその危険を避けられる、とのこと。あのお方を早くこの身体で受け入れたくて、ともすると無理をしがちな凛世にはお似合いでございます。
「う、うう゛ぁ……しり、あな、な、ぁあっ……ほぁ、あ゛あ゛ぉお……♥」
凛世へ、圧迫と快楽とが同時に襲ってきます。ことわざで禍福は糾える縄の如しといいますが、凛世は苦しみと悦びでぐるぐる巻きにされて捻り潰されている身の上です。お腹が破裂して死んでしまいそうです。でもあのお方が頭をなでてくださったり、凛世の辛抱を労ってくださったりしていると、そのまま死ぬのも果報かなという妄念が行ったり来たりします。
「ふぁ、あ゛ぁあ……っう、く、ぅあ、んあぁ……あふゅっ……♥」
そうするうちにだんだん楽になっていきます。脂を尻穴から漏らすとともに、声が甘くなってしまいます。あのお方は、この白玉にも肛門の性感を高める特殊な薬品を混ぜている、とおっしゃっていました。おそらく、凛世が肛悦に浸る言い訳を与えてくださったのでしょう。
実際は、あの方が豚脂かなにか……人肌で溶けてしまう脂を冷やして固めて手作りしていたのだと思います。それらしき痕跡を、凛世はあのお方の部屋で垣間見たことがあります。手作りであったなら、いつも測ったように凛世の尻穴ぎりぎりに収まる大きさが用意されているのも納得できます。
あのお方の手作りの、淫らな凛世のためだけの贈り物。それら白玉が溶けていくにつれて、尻穴で悶え狂っている凛世の裏側に、胸をぽかぽかさせて感じ入っている凛世が立ち上ってきます。あのお方のお心遣いに思いを馳せる余裕が戻ってきます。こんなに幸せでよいのかと思うほどです。
凛世が、あのお方に奉仕する手戯や口取りの法を試み始めたのも、そのあたりの時期でございます。凛世が享楽へ導かれるばかりでは不釣り合いだ、と説いて男根へ触れさせていただいたのが端緒です。あのお方が凛世の肌で滾ってくださっていることを確認したい……という他意もございました。
「あなたさまの……いつか、凛世の尻穴と……ほ、女陰(ほと)に……っ♥」
あのお方の下腹部から、肉の槍か矛のように堂々と上向きに突き出されている男根は、熱く大きいものです。凛世の口を、あごが苦しくなるほど開ければくわえ込むこともできますが、この逸物を尻穴や秘所で受け入れられる日が来るのでしょうか。
「……手が……よろしい、でしょうか……? ふ、ふふっ、承知、いたしました……♥」
凛世が奉仕するのは、凛世に白玉を詰め込みきった直後からが常でした。あのお方が凛世の尻穴を玩弄すると、興奮して男根に猛々しさを帯びます。それを目前にして、凛世が尻穴が蕩かされていくのに任せるだけでは時間がもったいないと思われたからです。あのお方は凛世の苦しげな呼吸を見て取ってか、いつも手と指から始めるよう告げられます。
「根は……固くて、熱く……ぁあ……っ♥ 凛世の……張り詰めた尻穴も……すっぱりと、刺し穿ってくださりそうです……♥」
凛世は、あのお方以外の男根は、女ともだちの話でしか存じません。大学は、中学・高校ほど異性交友にうるさく言われないせいか、自分の性交渉について明け透けに口にする女性とも折々に出会い、凛世はそういったお話を積極的に聞いておりました。少しのことにも、先達はあらまほしき事なり……まして閨房のこととあれば。
凛世が後学のために聞き集めたところ、男根は怒硬直かふにゃふにゃの2つに大別されるようです。あのお方は、竹刀の柄のように表面だけ柔らかく、指で握るとすぐ内に骨のように硬い芯が感じ取れます。それでいて滾りが最高潮になっても、雁首より先の先端――鈴口という呼び名を教えてくださったのもあのお方でした――だけは、柔らかいままです。
「では……ごあいさつを……指輪で、たてまつります……」
鈴口を、凛世は指で輪をつくってさすったり、手のひらで包み込んだりして愛撫します。優しく、赤子を撫でるように、あのお方が凛世を取り扱ってくれたのと同じくらい。敏感なのか、それだけで吐息や声を漏らしたり、粘膜や筋をびくりとさせたりして反応してくださいます。根本は女体を奥まで貫くためにどっしりと固く、先端は女体を傷つけないよう柔らかく敏感に……よくできているものだと感心します。尻穴と女陰が代わる代わる切ない声をあげてきます。凛世は、早くこの逸物に認められる器となりとうございます。
「ふ……すぅ、はぁ……♥ は、ぁあ……♥ あなたさまの……匂い、感じ、させて……♥」
あのお方が興奮の度合いを深めていくと、鈴口が喫茶店のシロップのような体液で濡れてまいります。最初から濡れているときもあります。凛世に会う前にあらかじめ湯で清めてきたらしく、鼻をふくらませても、男根の生臭さは薄くしか味わえませんでした。あのお方の気遣いを感じたり、寂しい風が胸郭に去来したりします。凛世は浣腸された直後の尻穴にくちづけされて恍惚となる女なせいか、あのお方の生臭さにくちづけたくてたまらなくなる時がございます……。
生臭さといえば、あのお方の陰嚢やその周りを凛世が堪能させていただくこともままありました。あのお方は、自らの尻穴については興味が薄く、男根や陰嚢のほうをより喜ばれます。陰嚢や股の付け根あたりを前後左右に揉みまわし手で温めながら、くちびるや舌を触れさせると、鼻腔にべっとりこびりつき、舌先をしびれさせる汗などが味わえます。あのお方も心地よく思し召されるのか、感に堪えないという風情の嘆息を漏らし、触れていない男根がますますいきりたちます。
「く、ください……凛世に、あなたさまの、子種、を……♥」
しかし凛世は貪欲にて、その生臭さだけでは満足できません。その先を欲してしまいます。陰嚢や太腿の付け根を愛撫しているだけで凛世を陶酔させるというのに、その愛撫に応じて男根が反応して、雄々しさを増していく……凛世の頬や髪などに、その雄々しさの気配が塗りつけられるようで、またくちびるからだらしなく涎を垂らしてしまいます。
「あぁ……あなたさま……♥ 凛世は、くちで、致したく……」
凛世がねだると、あのお方は凛世の頭を撫でてお許しをくださいます。子供を褒めるような穏やかな手付きだったり、凛世を急かすように髪をくしゃらせたり、撫で方はいろいろです。それを合図に鈴口へ接吻いたします。
「ん、ぷっ、ちゅ……ふぁ、ぅうっん……♥」
先走りは汗を濃縮したように塩辛く、凛世の涎をますます溢れさせます。そうすると摩擦がなめらかになって好都合です。自分の口がこの男根を愛撫するために形成された器官のような錯覚がします。口腔の粘膜全体が、それを恋しがってじくじく沁みるほどです。
「じゅっ、ずる、りゅ……んぶ、ぶぷっ、ふぉぁあ、あ……はぁ、はぁあ……♥」
息が苦しくなるほど吸い付いて、中断して、それから息を整えて再開します。生暖かい呼吸が男根を浴びせると、さらに匂いが強く立ち上ります。
凛世は不器用でございます。他の女性がしたり、あるいはあのお方が凛世の尻穴を舌でねぶり続けるように、絶え間なく愛撫を重ねることは、練習してもなかなか叶いません。それを心苦しく感じることもございましたが、あのお方は「凛世はとても熱を入れてくれるから、息継ぎが必要なんだよ」とおっしゃってくださいました。
「んごぉ、おお、う――もっと、おく、まで……あなた、さま、に――ぇえ……うっ、うう゛う゛ぉ……っ!」
息継ぎ、という言葉が妙に心に残った凛世は、呼吸ができなくなるほど喉奥まで男根を押し込むようになりました。人間は、喉奥にものを突っ込まれると、身体は反射的にえずこうとし、目から涙がこぼれたり胸の奥から虫唾がこみ上げるようにできています。凛世も例外ではありません。
その辛い生理現象を、凛世はむしろ喜びます。
「んぶっ、お、あお゛おぉっ……り、りんぜの、おく、まで、ぇ……あお゛おぉっ、お゛、お゛っ……!」
生理的な苦しみを圧殺して、あのお方のために奉仕していると、不思議な安堵感に包まれます。凛世はここまで、あのお方から甘い快楽で尻穴や心を浸され蕩かされてきました。快楽があまりに甘美で、夢のようで、ある朝にふと目覚めたら霧散してしまっているかもしれない不安にかられるほどです。あのお方が、尻穴や秘所をきずものにしてくださっていたら、また違っていたかも知れませんが。
「ん、んふっ……ぷふっ、はぁぅう――う、うう゛っく、ぁ、お゛ぁお゛ぉっ……」
そうした不安を、喉や心肺の苦しみは相当に和らげてくださいます。あのお方の手で白玉を挿入され、尻穴を拡張され、下腹部がひどく重たいのとあいまって良い塩梅です。喉奥に男根をねじ入れると、ぎゅうっと激しく締め付けることができます。浅くくわえていると、舌のザラつきや、歯の細かいギザギザでやんわりと刺激できます。凛世が快楽と苦痛の両方を欲し享受できているように、あのお方にも緩急のある奉仕ができているでしょうか。
「ぐっ……ぶほっ、ごぼっ! えうぅうっ――う゛……! げほ――あぁ、あ゛ぅ……っ!」
そうしているうちに、感じ入ってくださったあのお方が、射精の気配を漏らします。凛世がもっとも欲する生臭さは、あのお方の子種です。精液の匂いはものの本ですと、イカ臭いとよくたとえられます。イカはイカでも、時間が経って傷みはじめているイカな気がします。
射精の瞬間は、凛世が口にくわえたまま口中に出していただいたり、くちびるを寄せるだけにとどめて溢れた精液を手皿で受けたり、亀頭が射精にあわせてびくびくと膨らんだり戻ったりするのを見ながら噴出を顔や胸にかけていただいたりします。
どれも捨てがたいものです。口中に出すともっとも生臭さ、息苦しさが味わえるのですが、いっぺんに頬張ってしまうので味わえる時間は短いですし、凛世の気道に入り込んで噎せてへんな咳を繰り返してしまうと、あのお方に心配されてしまいます。げほげほと苦しむ凛世は、あのお方から背中をさすっていただいて、肉欲とは別のお気遣いをいただいているのに興奮してしまって、それを後ろめたく思ったこともありました。
くちびるを寄せながら射精していただくと、射精の瞬間をもっとも真に迫って感じられます。精液も手皿で受けられるので、舌で舐めてぴちゃぴちゃと長く味わうことができます。あのお方がそんな凛世をじっと見ていて、ふと目をあげた時に「子犬か子猫のようだ」とおっしゃられことがあります。子犬や子猫がミルクでも舐めているのであれば可愛らしい絵でしょうが、凛世はおそらく相当に浅ましく見えていたでしょう。
射精を顔や胸に受けるのは、生臭さという点では前出2つに及びませんが、あのお方の射精の瞬間を目に焼き付けられるのはこちらだけです。中でも苦しげで泣き出しそうなお顔は見るだけで凛世の胸の内も締め付けられます。あのお方は温厚篤実を絵に描いた方で、ふだんはそのような表情を見せてくださいませんから……。
凛世があのお方の男根へ奉仕しながら、同時にあのお方が凛世の尻穴を舌や指で可愛がってくださることもございます。英語で言えばシックスナイン、日本語で言うところの椋鳥でしょうか。これに関しては恥ずかしい思い出があります。男根奉仕に浸って恍惚としながら、尻穴愛撫を無防備に受けたものですから、腸内の白玉が熱くなって溶けたり崩れたりして、あのお方のまさに目前で尻穴をぶぴゅ、ぶぴゅっと鳴らして、脂のかけらや溶けたものを漏らしてしまったことがあります。あのお方の目の前で浣腸されて浣腸液や大便を排泄したことはありますが、出してしまう瞬間の尻穴を見られたのははじめてでした。
あまりに恥ずかしく、それから椋鳥をご勘弁いただいたのですが、別の日に男根の奉仕をしているとき、尻穴がその時を思い出してもじもじするのが止められず、今度は愛撫されてもいないのに一人でに尻穴がうずうずと落ち着かずうごめいて、太腿へ脂を垂らしてしまう始末でした。未だ女陰は指も受け入れていない純潔のまま、凛世はとうとうあのお方以外にはお嫁にいけない身体になったようです。もう恥ずかしさより嬉しさが上回りました。
※
そうして尻穴の躾けを続け、凛世が大学の卒業式に出た次の日、凛世は尻穴処女をあのお方へ捧げました。尻穴に最初の接吻をいただいてから、足掛け6年でございます。4回生になった頃から、卒業の折には絶対にあのお方に奪っていただきたいとお願いしており、卒業式は式典や手続きが終わってすぐ電車に飛び乗ろうとしてしまったぐらいです。あのお方は凛世の軽挙を予測していて「せっかくご実家が、娘の晴れ姿のため腕によりをかけて小振袖を仕立ててくれたんでしょう。お友達や先生方にめいっぱい見せびらかしなさい」とおっしゃいました。それで最初の尻穴交合は卒業式の翌日となったのです。
「ん、んーん、っぅ、あぁ……っ♥」
いつものイチジク浣腸なのに、なにやら特別な味がします。凛世の身体も、きれいなところを見せたいというつもりなのか、腸内はまるで空っぽのようでした。前日の卒業式の時点で、すでにあのお方と結ばれることで胸がいっぱいで、食欲が湧かなかったせいでしょうが。
「あ、ぁ、ぅうぁ……っ、あなた、さま……り、りんぜ、は……♥」
くちゃ、くちゃ……と、あのお方がベビーオイルと指で凛世の尻穴をほぐしてくださいます。もっとも最初はほぐすというより撫でるといった程度です。あのお方の指で菊座のシワを外から内へ撫でられると、それだけで手足までぐにゃぐにゃになってしまいそうです。道具や、自分の指ではそんなことになりません。
くちゅ、くちゅっと、指が尻穴の入り口から浅いところを抉(くじ)ってきます。いつまでも続いて欲しい快さと、もっと激しくして欲しいというもどかしさ。その間で、あのお方の爪の滑らかさや、指の肌の圧迫、第一関節の突き出た感触が入れ代わり立ち代わりして、凛世はかき混ぜられます。指先一つでどろどろにされていきます。
しかし凛世は、だらしなく脱力する手足に鞭打たねばなりません。あのお方に寝台へ座っていただきます。凛世はあのお方の揃えられた両膝をまたいで、背を向けて、和式便器で用を足すように腰を落としていきます。凛世が「捧げる」のですから。あのお方は手で支えたり誘導してくださったりします。できれば見つめ合いながら交わりたかったのですが、そうすると凛世から尻穴を捧げるのが難しくなるので……。
「んん……っ!! あ、ああああぁ……」
別格の圧迫感と熱さ。あのお方が後ろから、凛世の入り口が男根の切っ先を迎え入れた、と知らせてくださいます。尻穴はぎゅうぎゅうと熱烈に男根を抱擁したがるのですが、そのおかげで腰を沈め挿入を深くするのに脂汗を垂らしてしまうほど苦労しました。
「り……凛世の、おしりっ……い、いかが、でしょうか……?」
あのお方は、後ろから凛世の肩を抱いて、声を……言葉がわかりませんでしたが、声音だけで凛世は直感できました。やっと、凛世は……わたくしは、求められ、認められて……。
「ぁ……は、ぁ……っ♥ あ、あなた……ぁ、ぉ、ほぉ……っ♥」
叫びたいほどの激しい悦びに貫かれていますが、声が出ません。気道さえも幸福感に占領されたようです。息ができなくて、酸欠に陥るのをはっきりと感じます。そうやってあのお方のそばで苦しくなるのも馴染み深く慕わしいです。あのお方の陶冶を授かった証ですから……。
「……っ♥ あっ……ぅく、あぁあ………ッ♥」
お尻と腰を、ずるずる、ずん、ずんっと上下させて、男根を擦り上げます。凛世は自分の吐息さえ熱くてたまりません。言葉がでない代わりのように、凛世の喉奥から舌やくちびるをただれさせます。しかし、あのお方が凛世の首や背中に注ぐ息遣いは、凛世のものよりなお熱いのです。
「あっ、あっ……♥ な、なか、が……あ、あっあっ……っうあああああっ……!」
抜き差しの感触と音が、水浸しになっていきます。お小水を漏らしてしまったようです。奥に、どんどん、串刺しにされて、凛世自身では及びもつかない奥深くに、あのお方を迎え入れます。粘膜の締付け、きつさはいよいよ拷問じみてきましたが、奥の奥まで貫かれる期待感の前ではちょうどいいぐらいでした。続けていくと、脳髄がぐらぐらと沸騰して、凛世はのぼせるどころか茹で上がってしまう心地です。
「ああ、あ、あ………あなた……た、たすけて……ぇ……♥」
これ以上は、これまでの凛世が完全に壊れて、生まれ変わってしまいます。そう確信していました。凛世は助けを求めました……自分をそこまで導いたあのお方に。
そうしてあのお方の腕と腿のあたりに、急激に力がこもってがっちりと固くなるのを、肌が察しました。
ごちゅ、ごちっ、ぐち――ぐりっ♥
「お……お、ぁおっ、おおお――あおおおお、くあああぅああああおっ!」
肩か、腰か、とにかくあのお方の力で固定されて、凛世は尻穴を穿たれ続けます。ただ男根を刺激して射精をうながす玩具のように。理屈で考えると、情人からそのような扱いを受ければ悲しくて涙をこぼすところですが、凛世は感極まって泣いていました。今までがひたすら丁寧で着実な取り扱いでしたので、それで満たされなかったところを、やっと埋めてくださったという心地です。
「……はぁ、はあ……♥ あはぁ……ぅ、くうううっ……♥ はぁっ、はぁーっ、はぁっ……あ、あ……ああ……っ!」
出ないはずの声から、媚びが溢れてきます。もっと、もっとください……あのお方にねだる声が止まりません。凛世は、こんな意識朦朧の中でも尻穴快楽をねだれるほど自分が貪欲だと、初めて知りました。凛世が凛世でなくなってしまったようでした。それでいて、真逆に、凛世がやっと本来の凛世になれた気もしました。
尻穴だけでなく、女陰のあたりまで泣き叫ぶように体液を垂らしていました。もしかすると、あのお方の男根の先が、粘膜越しに子宮裏を小突いていたのかもしれません。それを実感してから、うっ、とか、おっ、とか、凛世の地声よりも低い喘ぎが出てしまいます。自分で聞いてても苦しそうです。あのお方は止まらず、耳元でなにか囁いてくれます。かろうじて「気持ちいい、興奮する」などと言ってくださったのがわかりました。それから、名前を。
凛世、りんぜ。
「ぁあ、あっ、あ、あなた……りんぜ、はぁ……ぉ、ほぉ……お、ぁおっ、おおおっ♥」
抜き差しはいつの間にか止まっていました。ぐりぐりと、奥深くをとらえられながら、腰を前後左右に動かされています。そうやって凛世の尻穴があのお方の男根の形に、奥から手前までくまなく整えられていきます。尻穴や下腹部だけでなく、心臓や後頭部までじりじりと焼けて、肉と神経がよじれていきます。
「ぁあ、あ、ぉおっ……♥ ……ぉっ……♥ お、ほぉおお゛っ――っお゛お……お゛お゛お゛……っ!」
大学で『先達』からうかがったイクという感覚は、これのことかもしれません。凛世の身体は宙に浮いていて、あのお方に貫かれている腸内と、腕や太腿や腹がぶつかって抜き差しで擦り合ってるところだけ、かろうじて現実感があります。男根が進むときと退くとき、頭の沸騰が激しくなって、口や鼻から凛世の意識が吹きこぼれてしまっています。ときおりあのお方がくちづけし、その吹きこぼれさえあのお方に供されます。凛世の思いを味わってくださっているのでしょうか。接吻で腹や腰をねじった無理な体勢になり、腸内をえぐられる感触が鋭く危うくなります。
「あはぁっ、はっ……♥ はぉ……ぉおっ♥ はおォおっ、ォお゛、ほッ……お、お゛……!」
凛世の四肢は病的な痙攣をおこしていました。これ以上あのお方に尻穴を明け渡してしまえば、凛世は壊れてしまう……もし凛世の身体に言葉を紡ぐ力があったら、そう哀願していたでしょう。そしてこれまであのお方は、凛世がそう愁訴したとき、必ず愛撫の手を止めて優しい声をかけてくださいました。
「……ぉおっ……お、ほぉおお゛っ……!」
あのお方は止まるどころか、凛世が逃げられないよう寝台に押し倒して四つん這いにし、尻穴に男根を突き立てたまま全体重をかけてのしかかってきます。凛世より二まわり以上おおきな体躯の質量で、ずしずし、ぎしぎし、潰されます。こんなに身も世もなく求められたのも初めてでした。
このままあのお方に潰されて、ちょうど凛世の尻穴で溶けて砕けていった白玉のように、凛世もどろどろに溶けて、舐め尽くされて、一つになれれば……被虐的な考えをした瞬間、凛世の意識は壊れました。
あのお方の男根が深いところからずるずる引き抜かれ、それに合わせて体液が垂れ落ちて女陰か太腿の付け根を伝っていきました。それがその日の凛世の最後の知覚でした。
そうして凛世はあのお方の伴侶となる誓いを新たにしたのですが、杜野の家はあのお方と凛世の関係を相変わらず快く思っていないようでした。凛世が『生娘』から『あのお方の女』にされている……と、凛世のふとした立ち居振る舞いから察していたようです。しかしこちらとしては、処女は守っている清い交際なのです。おそらくそんな食い違いのせいで、交渉はこじれていました。
そんな中、気晴らしのためにあのお方と二人で大阪へ旅行にでかけました。あのお方は大阪にほとんど馴染みがなく、凛世が案内することとなりました。どこか訪れたいところは……? と尋ねると、生國魂神社とのご返事。
「……『曽根崎心中』の、でしょうか……?」
生國魂神社は大阪でも指折りの古い神社で、難波大社とも呼ばれています。凛世は身震いが止まりませんでした。『曽根崎心中』に出てくる醤油屋の徳兵衛と遊女のお初は将来を誓い合った仲でしたが、徳兵衛がお金を騙し取られたことがもとで契りを引き裂かれ、徳兵衛とお初はそれを拒絶して曽根崎の森で心中します。この世の名残り、夜も名残り、死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ……徳兵衛とお初が作中冒頭で顔を合わせるのが、生國魂神社なのです。
旅行の出発から境内に入るまで、凛世は、霜を踏みしめて喉を掻き切られに行くお初の心持ちで、あのお方と歩みを進めておりました。あのお方の顔は、無念に憤る徳兵衛とは似ても似つかぬ、優しい顔のままでした。
生國魂神社はたいへん歴史と由緒のある神社ですが、境内は拝殿とすべての摂社・末社に参拝しても小一時間で済むほどの広さです。「意外と小さいんだな」とつぶやきが聞こえました。あのお方もそう思ったのでしょうか……と、足を止めているあのお方の目線の先を見てみると、凛世の背丈とさほど変わりがないほどの青銅像が台座付きで立っておりました。像は山高帽にとんびコートという出で立ちで、おそらく男性なのでしょうが。
「織田作之助、ですか……?」
台座には碑文がついていました。織田は、太宰治や坂口安吾といっしょの無頼派にくくられる小説家です。凛世も、高校時代に旧い小説を濫読していた折に読んだことがあります。彼はどうやら生國魂神社の近所で生まれて、執筆活動も行い、この神社の風景を記した文章を残していることが由来で、建立された像のようです。どうもあのお方は、織田の出世作『夫婦善哉』を読んで感じ入り、彼のゆかりの地に興味が湧いたとのこと。
凛世は、心中前の最期の思い出のつもりであったのですが、どうやら早とちりだったようです。凛世は、自分のそそっかしさを棚に上げて、初めてあのお方に怒りという感情を覚えました。
「あなたさまは……『蝶子にさんざん迷惑をかけた柳吉が、自分と重なって見える』? そう、ですか」
その『夫婦善哉』は、妻子持ちの優柔不断な醤油屋・柳吉と、北新地の芸者・蝶子が駆け落ちしていろいろ失敗しながらもたくましく生きていく、という小説です。柳吉は、蝶子が稼いだお金を、酒や浄瑠璃の稽古代に使い込みます。
どうやらあのお方は、尻穴嗜好を凛世へ押し付け迷惑をかけていた……と負い目に感じていたようです。
つぶやきや佇まいからそれを察した時、凛世はあのお方に2度目の怒りを覚えました。
「左様ですか。凛世は確かに今、あなたさまへ立腹しております」
あのお方は小さな声で謝罪し、許しを請うてきました。
「……法善寺まで行きましょうか。行き掛けの駄賃です」
境内を出て近鉄に乗りました。場所を調べると、最寄り駅は日本橋です。電車内の沈黙は筆舌に尽くしがたいものでした。岩つつじ、言わねばこそあれ……凛世は、あのお方を許して差し上げたくて仕方がありませんでした。しかしなにぶん慣れぬことで、どうしたら許して差し上げられるか、自分の心がわかりませんでした。
駅を出て千日前通を少し歩き、石畳の法善寺横丁へ。そこから甘味処であのお方と畳に並んで座りぜんざいをすすりました。『夫婦善哉』と同じで、入り口ではおたふく人形がお出迎えしてきて、ぜんざいは一人二杯ずつやってきました。甘味処の女将さんから「ご夫婦ですか?」と尋ねられました。
あのお方と凛世の返事は寸分たがわず重なっていました。怒りは、どこかへ失くしました。
店を出て、ぜんざいでふくれた腹をさすりながら、あのお方は「神社の神様は御百度参りすると願いを叶えてくれると聞くが、杜野家もそのぐらいかかるかな」とおっしゃいました。
あのお方が、焦らず着実に事を進めるところは、どうも凛世以外に相対するときも同じようです。三顧の礼ぐらいならまだしも、百回やってくる覚悟となると、さすがに両親も根負けし、あのお方と凛世は祝言のお墨付きを得ました。
やっと、旦那さまと申し上げることができます。凛世が、あのお方のもっとも慕うところを認められて、感無量でございます。
ところで、旦那さまと迎えた初夜、わたくしはついに処女を捧げられる……というつもりになって、期待と緊張で胸を弾ませていたのですが、旦那さまはわたくしの女陰のまわりをするすると撫でさすって「凛世はこちらも、同じくらい丁寧にかわいがってあげたいと思う」とのおっしゃりようです。
「あ……だ、んな、さま……っ♥」
わたくしは、そのさきの想像だけで、はしたなくもその手を濡らしてしまうのです。ずっと、尻穴が愛されているのをすぐとなりで羨んでいて、嫉妬で狂いかけていたところを、これから尻穴と同じように……あのお方そのものと言っていい、一歩いっぽ丹念な手管で愛していただけると教えられて、感極まって嬉し涙でもこぼしたようです。
両親が孫の顔を見たがっているので、尻穴のように足掛け6年もかけはしませんでしたが。
(了)